説明

転がり軸受及びその製造方法

【課題】セラミックス製転動体における焼結粒子が微細で、かつ焼結粒子が偏析するのを抑え、耐久性に優れる転がり軸受を提供する。
【解決手段】φ1mm以下のジルコニア系ビーズとともにビーズミル混合機に、平均粒度が1〜0.5μmのジルコニア粒子または安定化ジルコニア原料粉末と、平均粒度が1〜0.5μmのアルミナ原料粉末とを、アルミナ原料粉末が原料混合粉末全量の5〜50質量%の割合となるように投入して粉砕混合し、粒度累積分布曲線においてd90が0.30μm以下、出現比率の最も大きい粒子径が0.15μm以下、かつ、粒度頻度分布幅が0.06μm以下である混合粉末を得る混合工程と、前記混合工程で得られた混合粉体を転動体の形状に成形する成形工程と、前記成形工程で得られた成形体を焼結する焼結工程とを経て転動体を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、特に転動体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンファンモータや冷蔵庫のコンプレッサ等のモータは、省エネ化のためにインバータ制御されていることが多い。しかし、インバータ回路から高周波の電流が発生してモータ内の軸受の内外輪や転動体にも流れ込むことがあり、それにより転動面(レース面)に電食が発生することがある。
【0003】
電食を防止するために様々な提案がなされており、セラミックス製の転動体を用いた転がり軸受が用いられており、セラミックスとしてジルコニアも使用されている。ジルコニアは線膨張係数が軸受を構成する鋼に近く、転がり軸受に予圧抜けが生じにくい利点がある。更に、ジルコニアの高強度、高靭性を活かし、安価にするためアルミナを添加したジルコニア−アルミナ系セラミックスを使用することも行われている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−213455号公報
【特許文献2】米国特許第6702473号明細書
【特許文献3】欧州特許第1217235号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミックス製の転動体を製造するには、アルミナ原料粉末と、ジルコニア原料粉末とを混合し、転動体形成に成形し、焼結するのが一般的である。しかしながら、従来の製造方法では得られる転動体において焼結粒子が偏析し、転がり疲労寿命が低下することが懸念されており、特に100μmを超える焼結粒子が存在すると顕著になる。
【0006】
そこで本発明は、セラミックス製転動体における焼結粒子が微細で、かつ焼結粒子が偏析するのを抑え、耐久性に優れる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、下記の転がり軸受及びその製造方法を提供する。
(1)少なくとも内輪、外輪、転動体及び保持器を備える転がり軸受の製造方法において、
前記転動体の製造に際し、
φ1mm以下のジルコニア系ビーズとともにビーズミル混合機に、平均粒度が1〜0.5μmのジルコニア原料粉末または平均粒度が1〜0.5μmで、イットリア、カルシア、マグネシア及びセリアから選ばれる何れか1つの安定化剤を含有する安定化ジルコニア原料粉末と、平均粒度が1〜0.5μmのアルミナ原料粉末とを、アルミナ原料粉末が原料混合粉末全量の5〜50質量%の割合となるように投入して粉砕混合し、粒度累積分布曲線においてd90が0.30μm以下、出現比率の最も大きい粒子径が0.15μm以下、かつ、粒度頻度分布幅が0.06μm以下である混合粉末を得る混合工程と、
前記混合工程で得られた混合粉体を転動体の形状に成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を焼結する焼結工程と、
を有することを特徴とする転がり軸受の製造方法。
(2)前記混合工程において、メディアン径d50を0.15μm以下にすることを特徴とする上記(1)記載の転がり軸受の製造方法。
(3)安定化ジルコニア原料粉末が、安定化剤を1.5〜5モル%の割合で含有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の転がり軸受の製造方法。
(4)安定化剤がイットリアであることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の転がり軸受の製造方法。
(5)少なくとも内輪、外輪、転動体及び保持器を備える転がり軸受において、
前記転動体が、上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の方法で作製され、かつ、アルミナ成分と、ジルコニア成分または安定化ジルコニア成分とを、アルミナ成分5〜50質量%の割合で含み、アルミナ焼結粒子、ジルコニア焼結粒子または安定化ジルコニア焼結粒子が、何れも焼結後の平均粒径が2μm以下であることを特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、焼結粒子が微細で、かつ焼結粒子の偏析が少ない転動体が得られる。
また、このような転動体を備える転がり軸受は、耐久性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ビーズミル混合機の一例を示す模式図である。
【図2】転がり軸受の一例である玉軸受を示す断面図である。
【図3】(A)混合時間60分での粒度分布曲線、(B)断面写真である。
【図4】(A)混合時間120分での粒度分布曲線、(B)断面写真である。
【図5】(A)混合時間240分での粒度分布曲線、(B)断面写真である。
【図6】(A)混合時間360分での粒度分布曲線、(B)断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
本発明は、転がり軸受の転動体の作製に際し、ビーズミル混合機に、φ1mm以下のジルコニア系ビーズとともに、イットリア、カルシア、マグネシア及びセリアから選ばれる何れか1つの安定化剤を含有する安定化ジルコニア原料粉末と、アルミナ原料粉末とを投入して粉砕混合し、得られた混合粉体を成形し、焼結することを特徴とする。
【0012】
図1はビーズミル混合機の一例を示す模式図であるが、中央に撹拌羽根を配した容器に、アルミナ原料粉末と、ジルコニア原料粉末または安定化ジルコニア原料粉末と、水またはアルコールとをジルコニア系ビーズとともに投入し、撹拌羽根を回転させることにより、粉砕・混合させる。尚、回転速度は最大で3000rpmまで可能であり、混合中は容器内に冷却用水を流通させる。これに対しボ−ルミル混合機では、粉砕メディアがφ10mm以上であり、また構造上、回転速度は400〜1000rpm程度であり、粉砕効率はビ−ズミル混合機の方が遥かに高い。このようなビーズミル混合機の例として、アイメックス社製品を挙げることができる。
【0013】
そして、ビーズミル混合機を用いて混合しながら、粒度分布計を用いて粒度累積分布曲線を求める。粒度分布計としては、例えば日機装社製「マイクロトラック(型番MT3000II)」を挙げることができる。本発明では、粒度累積分布曲線において、d90が0.30μm以下、出現比率の最も大きい粒子径が0.15μm以下、かつ、粒度頻度分布幅が0.06μm以下である混合粉末を得る。尚、d90とは累積90%での粒径であり、その値が小さいほど、微細な粉末が数多く存在することを示している。また、粒度頻度分布幅は、下記式で求められ、その値が小さいほど、粉体の粒径が揃っていることを示す。
粒度頻度分布幅=〔d84(累積84%の粒径)−d16(累積16%の粒径)〕/2
【0014】
即ち、本発明は、アルミナ原料粉末と、ジルコニア原料粉末または安定化ジルコニア原料粉末とからなり、より微細で、かつ粒径の揃った混合粉末を用いることに特徴がある。好ましくは、d90が0.2μm以下、出現比率の最も大きい粒子径が0.12μm以下、粒度頻度分布幅が0.04μm以下である。
【0015】
アルミナ原料粉末と、ジルコニア原料粉末または安定化ジルコニア原料粉末とが均一に混合しないと、得られる転動体においてそれぞれの焼結粒子が偏析し、転がり疲労寿命が低下するようになる。特に、100μmを超える焼結粒子が存在すると顕著になる。そのため、本発明では、混合とともに強く粉砕する機能を持ったビーズミル混合機を用いて均一に混合する。
【0016】
以降は、通常のセラミック製転動体の製造方法に従うことができる。即ち、ビーズミル混合機を用いて得られた微細で粒径の揃った混合粉末を転動体の形状に成形し、焼結することにより、本発明で用いる転動体が得られる。
【0017】
上記において、アルミナ原料粉末と、ジルコニア原料粉末または安定化ジルコニア原料粉末との比率は、アルミナ原料粉末が5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%である。焼結から室温まで冷却される際の体積収縮の差からアルミナ焼結粒子は圧縮し、ジルコニア焼結粒子や安定化ジルコニア焼結粒子は引張応力が付与され、残留応力の分布の違いから亀裂が迂回して進展する。更に、亀裂は強度の弱いアルミナ焼結粒子を進展するが、ジルコニア焼結粒子や安定化ジルコニア焼結粒子の相転移(正方晶→単斜晶)によるアルミナ焼結粒子への圧縮応力が負荷され、亀裂進展が防止される。特に、ジルコニア原料粉末または安定化ジルコニア原料粉末が50質量%未満では、相転移によるアルミナ焼結粒子への圧縮応力の負荷の効果が発現され難く、強度が低下する。また、ジルコニア原料粉末または安定化ジルコニア原料粉末が95質量%を超えると、粒子成長・凝集が起きやすくなり、異常成長したジルコニア焼結粒子や安定化ジルコニア焼結粒子により強度が低下する。
【0018】
また、安定化ジルコニア原料粉末において、安定化剤を1.5〜5モル%の割合で含むことが好ましく、安定化剤の含有量は3モル%であることがより好ましい。安定化剤としてはイットリアが一般的であるが、ジルコニアにイットリアを添加し固溶させると、構造中に酸素空孔が形成され、立方晶及び正方晶が室温でも安定、または準安定となり強度が向上する。そのときのジルコニア中のイットリア含有量の適正量が1.5〜5モル%である。イットリア含有量が1.5モル%未満では正方晶からなる焼結体が得られず、5モル%以上では正方晶が減少して立方晶が主体となるため、転移による高強度化が得られない。
【0019】
成形に際して、成形物を脱脂して焼結し、HIP処理(熱間静水圧プレス)することが好ましい。その際、より緻密にするために、各原料粉末に含まれる不純物は少ない方が好ましく、特にSiO、Fe、NaOを極力減少させることにより、焼結性を向上させて緻密化に有効となる。更に、不純物に起因する早期剥離も抑えることができる。具体的には、SiO、Fe、NaOの含有量はそれぞれ0.3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下である。含有量が0.3質量%を超えると運転時に転動体表面から粒子の微小な脱落が起こり易くなり、転動体表面の粗さの低下、脱落した粒子による軌道面の微細な損傷が発生し、振動が大きくなり音響寿命を短くするおそれがある。また、転動体の疲労寿命も不純物が起点となり早期剥離を引き起こす原因にもなる。
【0020】
また、成形方法は圧縮成形が一般的であり、焼結後に素材(素球)を研削、研磨して所定の形状に調整する。HIP処理は通常の条件で行うことができる。
【0021】
得られる転動体において、アルミナの焼結粒子(以下、アルミナ焼結粒子)、ジルコニアの焼結粒子(以下、ジルコニア焼結粒子)または安定化ジルコニアの焼結粒子(以下、安定化ジルコニア焼結粒子)は、何れも平均粒径2μm以下であることが好ましく、1μm以下がより好ましい。通常、粒子の焼結を行うとある程度成長し、特許第3910310号公報に記載されているように10μm以上の粒子が存在すると寿命に悪影響が及ぶようになるが、複合化させることで粒子成長・凝集が抑制される効果が発現して粒径は単体のものより小さくなる。
【0022】
また、転動体の表面において、ジルコニア塊または安定化ジルコニア塊が少ないことが好ましく、10〜30μmのジルコニア塊または安定化ジルコニア塊が5個/300mm以下であることがより好ましく、3個/300mm以下であることが更に好ましい。ジルコニア塊または安定化ジルコニア塊が起点となって剥離し、転がり寿命を低下させる。特に、100μmレベルの塊が存在すると転がり寿命の低下が顕著になる。尚、塊は断面が円形ではないため、塊の大きさは長径部の長さとする。
【0023】
本発明はまた、上記の転動体を備える転がり軸受を提供する。図2は転がり軸受の一例である玉軸受を示す断面図であるが、図示される玉軸受は内輪1の外周面に形成された内輪軌道面1aと、外輪2の内周面に形成された外輪軌道面2aの間に、複数個の転動体である玉3を保持器4で保持し、シール5により、内輪1と外輪2と玉3とで形成される軸受空間6に充填した潤滑剤Gを封止して概略構成されている。尚、符号2bは、外輪2に設けたシール嵌合溝である。本発明では、内輪1と外輪2とをSUJ2鋼、SUS鋼、13Cr鋼等の金属製とし、玉3をアルミナ成分と、ジルコニア成分または安定化ジルコニア成分とを含むアルミナ−ジルコニア系複合材料で形成する。このように内輪1や外輪2と玉3とを異種材料の組み合わせにすることにより、低トルク化のために潤滑剤Gの量を減らしたり、低粘度の潤滑剤Gを用いた場合でも内輪1と玉3、外輪2と玉3との凝着を防止することができる。また、玉3が、電気絶縁性のアルミナ−ジルコニア系複合材料であるため、電食を防止することもできる。
【0024】
軸受材料として一般的なセラミック材料である窒化珪素は、針状結晶が絡み合った微細結晶であり、その粒径は最大径で30〜50μmで、アスペクト比2程度である。これに対しアルミナ−ジルコニア系複合材料では、アルミナ成分と、ジルコニア成分またはイットリア−ジルコニア成分とを下記の比率で含み、下記の方法で作製したアルミナ焼結粒子、ジルコニア焼結粒子または安定化ジルコニア焼結粒子は、何れも平均粒径が2μm以下の微細な略球物である。そのため、長時間軸受を稼動すると玉3の表面の結晶粒が摩耗・脱落するが、粒径の小さいアルミナ−ジルコニア系複合材料では、粒径の大きい窒化珪素よりも表面の凹凸を小さくでき、軌道面1a,2aの損傷を抑えることができる。
【0025】
潤滑剤Gは、潤滑油でもよいし、潤滑油を基油とするグリースでもよい。また、潤滑油または基油も、鉱油や炭化水素油のように極性基を持たない無極性油でもよく、エステル油のように極性基を有する極性油であってもよい。例えば、無極性油のポリα−オレフィン油は酸化安定性に優れ、耐フレッチング性を有し、更にシール5の腐食を抑える作用がある。一方、極性油のエステル油は、潤滑性能や耐熱性に優れるため、高速回転用の転がり軸受に適している。例えば、モータ用に使用されるグリース組成物では、エステル油を基油にした場合には増ちょう剤には金属石けんを用い、ポリα−オレフィン油を基油にした場合んはウレア化合物を増ちょう剤に用いるのが一般的であるが、音響性能からは金属石けんがウレア化合物よりも優れており、音響性能を重視する場合には基油にエステル油が用いられる。
【0026】
また、低トルクを実現するために、潤滑油または基油は低粘度であることが好ましく、40℃における動粘度が80mm/s以下のものを用いることができる。玉3の表面は、材料に由来して極性物質の吸着力が大きい。そのため、潤滑油または基油に極性油を用いることにより、より低粘度のものを使用できる。
【0027】
但し、アルミナ−ジルコニア系複合材料は、高温安定相の正方晶(t−ZrO)を室温で準安定化させたものであり、高靱性や高強度を有することが知られている。これは、亀裂先端でのt−ZrOから低温安定相の単斜晶(m−ZrO)への応力誘起マルテンサイト型相転移の際の体積膨張により、クラックの進展が妨げられるためであると考えられている。しかしながら、アルミナ−ジルコニア系複合材料は、空気中で200℃付近の高温に長時間晒されると、強度の劣化が生じるという問題が知られている。これは、ジルコニアと水との化学反応によりZr−O−Zr結合が切断され、t−ZrOの応力腐食反応によって相転移が促され、それに伴う体積膨張により微小なクラックが生成されるためであると考えられている。また、この現象は、水だけではなく、アンモニア等の極性を有する溶媒により加速されることが分かっている(非特許文献1を参照)。そのため、局所的に高温、高圧となる摩擦環境下では、極性を有する油分子の表面への吸着は相転移を促進させて表面強度を低下させ、玉3の表面を容易に摩耗する。
【0028】
このように、アルミナ−ジルコニア系複合材料からなる玉3では、極性分子の表面への吸着は、潤滑効果と摩耗促進効果の二面性を有しており、高温・高圧下で使用される場合には、無極性油を用いることが好ましい。
【0029】
尚、低トルク化のためには潤滑剤Gの充填量も少ないことが好ましく、軸受空間6の20体積%以下であっても十分な潤滑を確保できる。
【0030】
また、玉3を形成するアルミナ−ジルコニア系複合材料のヤング率は215〜280GPaであり、内輪1及び外輪2を形成する金属材料、一般的には軸受鋼のヤング率(208GPa)やSUJ2のヤング率(207GPa)よりも小さいことから、耐圧痕性も向上する。これに対し窒化珪素のヤング率は250〜330GPaであり、軸受鋼やSUJ2のヤング率よりも大きいことから、耐圧痕性に劣る。
【0031】
更に、アルミナ−ジルコニア系複合材料は、密度が4.5g/cm(アルミナ成分:ジルコニア成分または安定化ジルコニア成分=50:50)〜6g/cm(アルミナ成分:ジルコニア成分または安定化ジルコニア成分=5:95)であり、軸受鋼の密度(7.8g/cm)よりも小さい。そのため、軸受回転時の玉3の慣性力が小さく保持器4との衝突音が小さくなる。また、保持器4として鉄製保持器を用いた場合には、保持器4の摩耗が少なく、鉄粉による音響劣化も少なくなる。これに対し窒化珪素の密度は3.22g/cmであることから、窒化珪素製の玉では保持器4との衝突音及び鉄製保持器を使用したときの摩耗がアルミナ−ジルコニア系複合材料製の玉よりも少なくなるが、軸受組立時の転動体補給の際に飛び出してしまう不具合がある。
【0032】
玉精度は、真球度0.08で、表面粗さ0.012μm以下(G3レベルともいう)〜真球度0.13で、表面粗さ0.02μm以下(G5レベルともいう)にすることが好ましい。これは、G5レベルを超えると、音響特性に影響を及ぼすからである。
【0033】
また、アルミナ−ジルコニア系複合材料は白色に近いため、玉3の表面に発生した傷を容易に視認できるという利点もある。
【0034】
一方、内輪1及び外輪2はSUJ2鋼、SUS鋼、13Cr鋼等の金属製であるため安価であり、しかも音響寿命においても有利である。また、少なくとも軌道面1a,2a、好ましくは全表面に浸炭窒化処理等の硬化処理を施すことにより、耐摩耗性が向上して好ましい。
【0035】
また、保持器4は金属製でもよいが、軸受全体の軽量化や、玉3との衝突音を低減するために、ポリアミドやポリアセタール、PPS等の耐熱性の樹脂に、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状補強材を配合してなる樹脂組成物を成形したものが好ましい。
【0036】
このように構成される本発明の転がり軸受は、例えば、エアコンファンモータやコンプレッサ等のインバータ制御されるモータ用、HDDのスイングアーム支持用ピボットアーム、サーボモータやステッピングモータ等の揺動運動するモータに好適である。
【0037】
上記した本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受を挙げて説明したが、それ以外にもアンギュラ玉軸受、自動調心玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受、スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受にも適用でき、それぞれの転動体を上記のアルミナ−ジルコニア系複合材料で形成する。
【実施例】
【0038】
以下に試験例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものはない。
【0039】
(試験1)
平均粒径が1.2μmで、イットリアを3モル%含有するイットリア−ジルコニア原料粉末と、平均粒径が1.0μmのアルミナ原料粉末とを、イットリア−ジルコニア原料粉末が80質量%で、アルミナ原料粉末が20質量%となるようにアイメックス社製ビーズミル混合機(図1参照)を用いて混合した。尚、ビーズは直径0.5mmのジルコニア製とし、混合時間を60分、120分、240分及び360分の4通りとした。そして、得られた混合粉末について、日機装社製「マイクロトラック」を用いて粒度累積分布曲線を作成した。
【0040】
また、混合粉末を100MPaの成形圧でCIP成形を施してφ10mm×5mmの成形体を作製した。次いで、大気中にて成形体を1500℃で60分間焼結し、試験片を作製した。そして、試験片の断面を撮影し、焼結粒子を観測した。
【0041】
図3の(A)に混合時間60分での粒度分布曲線、(B)に断面写真を示す。図4の(A)に混合時間120分での粒度分布曲線、(B)に断面写真を示す。図5の(A)に混合時間240分での粒度分布曲線、(B)に断面写真を示す。図6の(A)に混合時間360分での粒度分布曲線、(B)に断面写真を示す。
【0042】
図3(A)に示す粒度分布曲線において、d90が1.539μm、d50が0.536μm、出現比率の最も大きい粒子径が0.375μm、粒度頻度分布幅が0.490μmであり、本発明の範囲を満足していない。そのため、図3(B)に示す断面写真には、粗大な偏析が見られる。
【0043】
また、図4(A)に示す粒度分布曲線において、d90が0.348μm、d50が0.149μm、出現比率の最も大きい粒子径が0.187μm、粒度頻度分布幅が0.111μmであり、本発明の範囲を満足していない。そのため、図4(B)に示す断面写真には、粗大な偏析が見られる。
【0044】
また、図5(A)に示す粒度分布曲線では、d90が0.334μm、d50が0.171μm、出現比率の最も大きい粒子径が0.172μm、粒度頻度分布幅が0.078μmであり、本発明の範囲を満足していない。但し、本発明の範囲に近く、図5(B)に示す断面写真では、焼結粒子の粒径が小さく、偏析も少なくなっている。
【0045】
これに対し、図6(A)に示す粒度分布曲線において、d90が0.194μm、d50が0.122μm、出現比率の最も大きい粒子径が0.122μm、粒度頻度分布幅が0.045μmであり、本発明の範囲を満足している。しかも、図5(A)に比べてより小径側にシフトしており、正規分布により近づいている。そのため、図6(B)に示す断面写真では、焼結粒子の粒径がより小さく、偏析もほとんど見られない。
【0046】
(試験2)
上記の図3(A)、図4(A)、図5(A)、図6(A)の粒度分布曲線を示す各原料混合粉末を使用し、5/32in.サイズの転動体に成形し、焼結して転動体を作製した。先ず、原料混合粉末にパラフィンを1質量%の割合で添加し、乾燥造粒し、所定の形状になるように成形圧100MPaでCIP成形を行った。得られた成形体に対し、大気炉(酸素気流中)を使用し、常圧700℃で1時間の脱脂後、1500℃で1時間焼結した。最終的にアルゴン気流中にて1400℃で1時間、1500気圧のHIP処理を行い素球とした。そして、素球をダイヤモンド砥石にて規定の形状に研磨して完成球とした。
【0047】
そして、各転動体を用いて51305軸受(内輪及び外輪はSUJ2)を作製し、下記条件にてスラスト試験を行った。
・面圧:1GPa
・回転数:1000rpm
・潤滑油:VG68
【0048】
結果を下記表1に示すが、本発明に従う図6(A)の粒度分布を示す原料混合粉末を使用して作製した転動体を用いることにより、目標とされる寿命(計算寿命L10)の2倍であり、優れた耐久性を示すことがわかる。
【0049】
【表1】

【符号の説明】
【0050】
1 内輪
2 外輪
3 玉
4 保持器
5 シール
6 軸受空間
G 潤滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内輪、外輪、転動体及び保持器を備える転がり軸受の製造方法において、
前記転動体の製造に際し、
φ1mm以下のジルコニア系ビーズとともにビーズミル混合機に、平均粒度が1〜0.5μmのジルコニア原料粉末または平均粒度が1〜0.5μmで、イットリア(Y)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)及びセリア(CeO)から選ばれる何れか1つの安定化剤を含有する安定化ジルコニア原料粉末と、平均粒度が1〜0.5μmのアルミナ原料粉末とを、アルミナ原料粉末が原料混合粉末全量の5〜50質量%の割合となるように投入して粉砕混合し、粒度累積分布曲線においてd90が0.30μm以下、出現比率の最も大きい粒子径が0.15μm以下、かつ、粒度頻度分布幅が0.06μm以下である混合粉末を得る混合工程と、
前記混合工程で得られた混合粉体を転動体の形状に成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を焼結する焼結工程と、
を有することを特徴とする転がり軸受の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程において、メディアン径d50を0.15μm以下にすることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項3】
安定化ジルコニア原料粉末が、安定化剤を1.5〜5モル%の割合で含有することを特徴とする請求項1または2記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項4】
安定化剤がイットリアであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の転がり軸受の製造方法。
【請求項5】
少なくとも内輪、外輪、転動体及び保持器を備える転がり軸受において、
前記転動体が、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法で作製され、かつ、アルミナ成分と、ジルコニア成分または安定化ジルコニア成分とを、アルミナ成分5〜50質量%の割合で含み、アルミナ焼結粒子、ジルコニア焼結粒子または安定化ジルコニア焼結粒子が、何れも焼結後の平均粒径が2μm以下であることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−101952(P2012−101952A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249507(P2010−249507)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】