説明

転がり軸受及びその製造方法

【課題】シール板及び外輪形状を変更することなく、シール板を外輪の係合溝に容易且つ確実に係合させることができる転がり軸受及びその製造方法を提供する。
【解決手段】転がり軸受10は、内周面に外輪軌道11aと外輪軌道11aの両側に形成された係合溝11bとを有する外輪11と、外周面に内輪軌道12aを有する内輪12と、内輪軌道12aと外輪軌道11aとの間に転動自在に設けられる複数の転動体18と、心金23と弾性部材24とからなり、外輪11の係合溝11bに係合される円輪状のシール板13と、を備える。シール板13は、外輪11の温度がシール板13の温度よりも高い状態で係合溝11bに係合されることで外輪11に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受及びその製造方法に関し、特に軸受内部を密封するシール板を備えた転がり軸受及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、軸受内部を密封するために外輪の両側にシール板を固定した転がり軸受が知られている。外輪の両側にシール板を固定するためには、外輪の内周面両側の係合溝に外輪の外側からシール板を挿入する必要がある。このシール板を挿入する際、外輪端部の口元部の内径寸法とシール板の外径寸法との干渉量が少ないとシール板が外れてしまうという問題があった。一方、外輪端部の口元部の内径寸法とシール板の外径寸法との干渉量が大きいとシール板の挿入性が悪化するという問題があった。
【0003】
この問題を解決するため、特許文献1に記載の転がり軸受によれば、外輪の内周面両端に内側へ向けて縮径した傾斜状の案内面を設けると共に案内面の内側の内周面に所定形状の環状の係合溝を形成し、当該係合溝内に、左右対称の傾斜状若しくは円弧状の挿入案内面を形成したプラスチック製の環状のシール板を嵌着することで、シール板の外周面と係合溝の底面との間に間隙を形成しつつシール板を係合溝に固定することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2に記載の転がり軸受によれば、芯金の軸方向部とこの軸方向部を被う弾性部材の耳部からなるヘッド部において、芯金の軸方向部の端と耳部の軸方向の一端面との間の軸方向距離を、ヘッド部の軸方向寸法の約30%だけ確保することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第2537210号公報
【特許文献2】特開2002−5182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の転がり軸受では、外輪の案内面の径方向寸法の管理及びシール板の挿入案内面の寸法の管理が難しくなるという問題があった。また、特許文献2に記載の転がり軸受では、弾性部材の体積を増やすこととなるが、弾性部材の体積を増やした場合、シール板の剛性が低下するため完全に封止することが難しいという問題があった。
【0007】
また、外輪やシール板はこれまで使用してきたものを設計変更せずに使用できることが望ましい。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、シール板及び外輪形状を変更することなく、シール板を外輪の係合溝に容易且つ確実に係合させることができる転がり軸受及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内周面に外輪軌道と該外輪軌道の両側に形成された係合溝とを有する外輪と、
外周面に内輪軌道を有する内輪と、
前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の転動体と、
心金と弾性部材とからなり、前記外輪の係合溝に係合される円輪状のシール板と、を備える転がり軸受であって、
前記シール板は、前記外輪の温度が前記シール板の温度よりも高い状態で前記係合溝に係合されることで前記外輪に固定されることを特徴とする転がり軸受。
(2)内周面に外輪軌道と該外輪軌道の両側に形成された係合溝とを有する外輪と、
外周面に内輪軌道を有する内輪と、
前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の転動体と、
心金と弾性部材とからなり、前記外輪の係合溝に係合される円輪状のシール板と、を備える転がり軸受の製造方法であって、
前記外輪の温度が前記シール板の温度よりも高くなるように前記外輪を加熱し、
前記シール板を、前記外輪の温度が前記シール板の温度よりも高い状態で前記係合溝に係合させることを特徴とする転がり軸受の製造方法。
(3)前記シール板を、前記外輪の温度が前記シール板の温度よりも20℃〜50℃高く、且つ80℃以下の状態で前記係合溝に係合させることを特徴とする(2)に記載の転がり軸受の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の転がり軸受及びその製造方法によれば、シール板を外輪の係合溝に係合させるに際し、外輪の温度をシール板の温度よりも高い状態にして外輪を膨張させることで、シール板を係合溝に容易に係合させることができる。また、シール板が外輪の口元部を通過するときの締め代が減少することで圧入力を低下させることができるとともに、外輪を冷却した後にはシール板が係合溝から外れることを確実に防止することができる。さらに外輪及びシール板の形状を変更することなくこれまで使用してきたもの使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る一実施形態の転がり軸受の断面図である。
【図2】図1の転がり軸受において、シール板を係合溝に係合させる工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る転がり軸受の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の転がり軸受10は、外輪11、内輪12、一対のシール板13、保持器14及び転動体18とからなる深溝玉軸受である。
【0013】
外輪11はその内周面に外輪軌道11aを有し、内輪12はその外周面に内輪軌道12aを有する。また、外輪軌道11aと内輪軌道12aとの間には、保持器14に転動自在に保持された複数の転動体18を備えている。そして、転動体18の転動によって外輪11と内輪12とは相対回転が自在になっている。
【0014】
また、外輪11の内周面両端、即ち外輪軌道11aの両側には係合溝11bが全周に亘って形成され、係合溝11bの軸方向外側には係合溝11bよりも径方向寸法の小さい口元部11cが形成される。また、内輪12の外周面両端、即ち内輪軌道12aの両側には凹溝12bが全周に亘って形成される。
【0015】
シール板13は心金23と心金23の少なくとも一部を覆う弾性部材24とから、全体で円輪状に形成される。この弾性部材24の外周縁24aを係合溝11bに係合することで、シール板13は外輪11に固定されている。そして、弾性部材24の内周縁がシールリップ24bをなし、シールリップ24bの先端縁を内輪12の外周面両端に形成した凹溝12b内に進入させると共に、凹溝12bの一部表面に全周に亘って摺接させている。
【0016】
そして、転がり軸受10を使用するときは、シール板13、外輪11の内周面及び内輪12の外周面に囲まれ、保持器14と転動体18が存在する軸受空間内に潤滑剤を充填し、外輪軌道11a、内輪軌道12a及び転動体18の転動面の間の潤滑を図っている。また、シール板13が軸受空間を外部から遮断し、外部から軸受空間内へ異物等が進入することを防止している。
【0017】
ここで、本実施形態の転がり軸受10の製造方法、特に、本発明の特徴であるシール板13を外輪11の係合溝11bに係合させる方法について図2を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本実施形態に係る転がり軸受の製造方法では、まず、同一平面上で内輪12を外輪11側に、あるいは外輪11を内輪12側に寄せて、内輪12と外輪11とを相対的に偏心させ、内輪12と外輪11との間に三日月状の隙間を構成し、この隙間Sから、複数の転動体18を外輪軌道11aと内輪軌道12aとの間に挿入する。続いて、内輪12と外輪11を同一平面上で同心化させ、複数の転動体18を所定位置(等間隔)に位置付けて保持器14を組み込むことでシール板13を有していない転がり軸受10が組みつけられる(図2(a))。このときの口元部11cの内径寸法はR1である。
【0019】
次に、この状態で、外輪11を室温に対し20℃〜50℃高くなるように加熱し、外輪11を膨張させることで、口元部11cの内径寸法を広げる加熱工程を実施する(図2(b))。このとき、外輪11の温度は80℃以下とする。これは、外輪11の温度が80℃を超えると、シール板13の挿入時に弾性部材24の熱劣化が発生するおそれがあるからである。なお、本実施形態において、加熱工程は、高周波誘導加熱装置等の加熱装置(図示しない)を用いて外輪11のみを加熱してもよく、外輪11を固定する治具や固定部材を加熱することで外輪11を加熱してもよい。
【0020】
加熱工程を実施することにより、加熱された外輪11は、その温度が所定の温度に達すると熱膨張する。これに対し、シール板13は室温に維持される。そのため、外輪11はシール板13に対して相対的に膨張する。これにより、口元部11cの内径寸法がR1からR2へと広がる(R2>R1)。これにより、外輪11の口元部11cの内径寸法とシール板13の外径寸法の差である締め代が小さくなる。
【0021】
この状態で、シール板13を転がり軸受10の軸方向外側から不図示の挿入治具を用いて、外輪11の軸方向と平行にシール板13を外輪11の口元部11cから挿入することで、シール板13が係合溝11bに係合し、シール板13が外輪11に固定される(図2(c))。このとき、外輪11の口元部11cの内径寸法とシール板13の外径寸法の差である締め代が小さくなっているので、シール板13の圧入力を低下させることができ、外輪11を過熱しない場合と比べて、シール板13の挿入性が向上する。
【0022】
そして、シール板13を外輪11に固定した後、熱膨張した外輪11の温度を所定温度まで低下させることで、膨張していた外輪11が収縮する。外輪11の収縮に伴って、口元部11cの内径寸法が元に戻る(小さくなる)ことで、係合溝11bに係合するシール板13と口元部11cとの干渉量が増えて、シール板13が外輪11から外れることが確実に防止される(図2(d))。熱膨張した外輪11の温度を所定温度まで低下させる方法としては、例えば、外輪11を各種の冷却装置(例えば、ドライアイスや窒素ガス発生装置など)を用いて冷却する方法や、転がり軸受10を空冷する方法(室温環境で放置する方法)などを採ることができる。
【0023】
以上説明したように、本実施形態によれば、外輪11の温度がシール板13の温度よりも高くなるように外輪11を加熱し、シール板13bを、外輪11の温度がシール板13の温度よりも高い状態で係合溝11bに係合させるので、シール板13及び外輪11の形状を変更することなく、シール板13を外輪11の係合溝11bに容易且つ確実に係合させることができる。
【0024】
また、シール板13を、外輪11の温度がシール板13の温度よりも20℃〜50℃高く、且つ80℃以下の状態で係合溝11bに係合させるので、シール板13を外輪11の係合溝11bに容易に係合させることができるとともに、シール板13の挿入時に弾性部材24の熱劣化の発生を防止できる。
【0025】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
上記実施形態では、転がり軸受として深溝玉軸受を例示したが、これに限らず、シール板を備える限り、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受等の転がり軸受に用いることができる。
また、本発明は、軸受内径IDと径方向幅ΔdとがΔd/ID<0.187の関係式を満たす薄肉の転がり軸受(薄肉軸受)に特に有効である。
【符号の説明】
【0026】
10 転がり軸受
11 外輪
11a 外輪軌道
11b 係合溝
12 内輪
12a 内輪軌道
13 シール板
18 転動体
23 心金
24 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道と該外輪軌道の両側に形成された係合溝とを有する外輪と、
外周面に内輪軌道を有する内輪と、
前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の転動体と、
心金と弾性部材とからなり、前記外輪の係合溝に係合される円輪状のシール板と、を備える転がり軸受であって、
前記シール板は、前記外輪の温度が前記シール板の温度よりも高い状態で前記係合溝に係合されることで前記外輪に固定されることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
内周面に外輪軌道と該外輪軌道の両側に形成された係合溝とを有する外輪と、
外周面に内輪軌道を有する内輪と、
前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に設けられる複数の転動体と、
心金と弾性部材とからなり、前記外輪の係合溝に係合される円輪状のシール板と、を備える転がり軸受の製造方法であって、
前記外輪の温度が前記シール板の温度よりも高くなるように前記外輪を加熱し、
前記シール板を、前記外輪の温度が前記シール板の温度よりも高い状態で前記係合溝に係合させることを特徴とする転がり軸受の製造方法。
【請求項3】
前記シール板を、前記外輪の温度が前記シール板の温度よりも20℃〜50℃高く、且つ80℃以下の状態で前記係合溝に係合させることを特徴とする請求項2に記載の転がり軸受の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−225357(P2012−225357A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90987(P2011−90987)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】