説明

転がり軸受装置およびその製造方法、並びにハードディスク装置

【課題】接着剤から発生するガスによる不具合を防止するとともに、転がり軸受装置の生産性を向上させる。
【解決手段】第1転がり軸受および第2転がり軸受を第1部材にそれぞれ圧入状態で嵌合させ、第1転がり軸受と第2転がり軸受の外輪間に第2部材を挟んだ状態で内輪どうしを軸方向に近接させる方向に押圧し、レーザ光を照射して、押圧された第2転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、第1部材の外面とを溶接する転がり軸受装置の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置およびその製造方法、並びにハードディスク装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の転がり軸受と、該転がり軸受の内輪に嵌合する回転軸と、転がり軸受の外輪を嵌合させるハウジングとを備える転がり軸受装置の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1に記載された製造方法では、転がり軸受の内輪を回転軸に対して圧入し、圧入された内輪に所定の予圧を付与した状態で内輪と回転軸の外周面とを接着剤を用いた接着力によって固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−182543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接着剤は一般に硬化時間が長くかかるため、転がり軸受に予圧をかけた状態で固定するには、接着剤が完全に硬化するまでの間、予圧をかける装置あるいは予圧をかけた状態に維持する治具に取り付けたままの状態に維持する必要があり、生産性が悪いという不都合がある。また、特に、嫌気性の接着剤の場合には、接着剤から発生するガス(アウトガス)により転がり軸受装置を備える装置(例えば、ハードディスク装置)に不具合が生じる可能性があるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、接着剤から発生するガスによる不具合を防止するとともに、生産性を向上させることができる転がり軸受装置およびその製造方法、並びにハードディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の第1の態様は、第1転がり軸受の内輪内面を軸状の第1部材の外面に圧入状態で嵌合させ、前記内輪の端面が前記第1部材に設けられた鍔部に突き当たるまで圧入する第1圧入工程と、前記第1転がり軸受から軸方向に間隔をあけた位置において、前記第2転がり軸受の内輪内面を前記第1部材の外面に圧入状態で嵌合させる第2圧入工程と、前記第1転がり軸受と前記第2転がり軸受の外輪間に第2部材を挟んだ状態で前記第1転がり軸受および前記第2転がり軸受の内輪どうしを、軸方向に近接させる方向に押圧する予圧工程と、レーザ光を照射して、前記予圧工程により押圧された前記第2転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第1部材の外面とを溶接する第1溶接工程とを備える転がり軸受装置の製造方法を提供する。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、第1圧入工程および第2圧入工程において第1転がり軸受および第2転がり軸受を第1部材にそれぞれ圧入状態で嵌合させ、予圧工程において外輪間に第2部材を挟んだ状態で第1転がり軸受および第2転がり軸受の内輪どうしを軸方向に近接させる方向に押圧し、レーザ光を照射して押圧された第2転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と第1部材の外面とを溶接することにより、適正な予圧がかけられた状態に維持された転がり軸受装置が製造される。
この場合において、予圧工程では、第1部材に圧入状態に嵌合された内輪どうしを押圧して近接させるので、押圧力を解除した後も圧入状態の内輪と第1部材とによって予圧がかけられた状態が維持される。したがって、予圧工程直後に溶接工程を行うことができる。すなわち接着剤を用いる場合と比較して、接着剤から発生するガスによる不具合を防止することができるとともに、接着剤が硬化するまで待つ必要がないので、生産性を向上させることができる。
【0008】
上記態様においては、前記第2部材が、前記軸方向において前記第1転がり軸受の外輪と前記第2転がり軸受の外輪との間に挟まれる段部と、前記第1転がり軸受の外輪外面および前記第2転がり軸受の外輪外面が嵌合される嵌合部とを備える構成であってもよい。
【0009】
上記構成においては、レーザ光を照射して、前記第2転がり軸受の外輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第2部材の前記嵌合部内面とを溶接する第2溶接工程を備えるものであってもよい。
このようにすることで、第2転がり軸受を第2部材に対して確実に固定し、第2転がり軸受の位置ずれを防止することができる。
【0010】
また、上記態様においては、前記第1転がり軸受の外輪外面、前記第2転がり軸受の外輪外面および前記第2部材の外面を、第3部材に接合する接合工程を備える構成であってもよい。
【0011】
また、上記態様においては、レーザ光を照射して、前記第1転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第1部材の外面とを溶接する第3溶接工程を備える構成であってもよい。
このようにすることで、第1転がり軸受を第1部材に対して確実に固定し、第1転がり軸受の位置ずれを防止することができる。
【0012】
また、上記態様においては、前記第2圧入工程が、前記第2転がり軸受の内輪内面を、前記第1部材の外面に設けられた凸嵌合部に嵌合させ、前記第2転がり軸受の内輪内面と前記凸嵌合部との嵌合位置が、前記周縁部に近接した位置である構成であってもよい。
このようにすることで、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮により発生する力(第2転がり軸受の内輪内面が第1部材側に引き付けられる力)を凸嵌合部により受け止めて、第2転がり軸受の変形を防止することができる。
【0013】
また、上記態様においては、前記第2圧入工程が、前記第2転がり軸受の内輪内面を、前記第1部材の外面に設けられた凸嵌合部に嵌合させ、前記第2転がり軸受の内輪内面と前記凸嵌合部との嵌合位置が、前記周縁部から離間した位置である構成であってもよい。
このようにすることで、第1部材に設けられた鍔部から凸嵌合部までの距離が短くなり、第2転がり軸受を第1部材に圧入状態で嵌合させる際に、第2転がり軸受を第1部材に挿入し易くなる。従って、転がり軸受装置の組み立て作業が容易になる。
【0014】
また、上記態様においては、前記第2圧入工程が、前記第2転がり軸受の内輪内面の全域を、前記第1部材の外面と嵌合させる構成であってもよい。
このようにすることで、第2転がり軸受を第1部材に対して確実に圧入状態で嵌合し、圧入状態を十分に維持することができる。
【0015】
また、本発明の第2の態様は、鍔部が設けられた軸状の第1部材と、前記鍔部に突き当てられ、内輪内面が前記第1部材の外面に圧入状態で嵌合した第1転がり軸受と、該第1転がり軸受から軸方向に間隔をあけて、内輪内面が前記第1部材の外面に圧入状態で嵌合した第2転がり軸受と、前記第1転がり軸受および前記第2転がり軸受の外輪間に挟まれる第2部材とを備え、前記第2転がり軸受の内輪の軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第1の部材の外面とが、レーザ光の照射により溶接されている転がり軸受装置を提供する。
【0016】
本発明の第2の態様によれば、第1転がり軸受と第2転がり軸受がそれぞれ第1部材に圧入状態で嵌合しており、更に、第1転がり軸受および第2転がり軸受の外輪間に第2部材が挟まれているので、第1転がり軸受と第2転がり軸受の内輪に予圧がかけられた状態となる。また、第2転がり軸受の内輪の軸方向の周縁部の少なくとも一部と第1部材の外面とがレーザ光の照射により溶接されているので、接着剤を用いずに、第1転がり軸受と第2転がり軸受の内輪に予圧がかけられた状態を維持することができる。すなわち接着剤を用いる場合と比較して、接着剤から発生するガスによる不具合を防止することができるとともに、接着剤が硬化するまで待つ必要がないので、生産性が向上する。
【0017】
上記態様においては、前記第2部材が、前記軸方向において前記第1転がり軸受の外輪と前記第2転がり軸受の外輪との間に挟まれる段部と、前記第1転がり軸受の外輪外面および前記第2転がり軸受の外輪外面が嵌合される嵌合部とを備える構成であってもよい。
【0018】
上記構成においては、前記第2転がり軸受の外輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第2部材の前記嵌合部内面とが、レーザ光の照射により溶接されていてもよい。
このようにすることで、第2転がり軸受を第2部材に対して確実に固定し、第2転がり軸受の位置ずれを防止することができる。
【0019】
また、上記態様においては、前記第1転がり軸受の外輪外面、前記第2転がり軸受の外輪外面および前記第2部材の外面が、第3部材に嵌合される形状を有する構成であってもよい。
【0020】
また、上記態様においては、前記第1転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第1の部材の外面とが、レーザ光の照射により溶接されている構成であってもよい。
このようにすることで、第1転がり軸受を第1部材に対して確実に固定し、第1転がり軸受の位置ずれを防止することができる。
【0021】
また、上記態様においては、前記第2転がり軸受の内輪内面が、前記第1部材の外面に設けられた凸嵌合部と圧入状態に嵌合し、前記第2転がり軸受の内輪内面と前記凸嵌合部との嵌合位置が、前記周縁部に近接した位置である構成であってもよい。
このようにすることで、レーザ光の照射により溶融した金属の硬化収縮により発生する力(第2転がり軸受の内輪内面が第1部材側に引き付けられる力)を凸嵌合部により受け止めて、第2転がり軸受の変形を防止することができる。
【0022】
また、上記態様においては、前記第2転がり軸受の内輪内面が、前記第1部材の外面に設けられた凸嵌合部と圧入状態に嵌合し、前記第2転がり軸受の内輪内面と前記凸嵌合部との嵌合位置が、前記周縁部から離間した位置である構成であってもよい。
このようにすることで、第1部材に設けられた鍔部から凸嵌合部までの距離が短くなり、第2転がり軸受を第1部材に圧入状態で嵌合させる際に、第2転がり軸受を第1部材に挿入し易くなる。従って、転がり軸受装置の組み立て作業が容易になる。
【0023】
また、上記態様においては、前記第2転がり軸受の内輪内面の全域が、前記第1部材の外面と嵌合している構成であってもよい。
このようにすることで、第2転がり軸受を第1部材に対して確実に圧入状態で嵌合し、圧入状態を十分に維持することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、接着剤から発生するガスによる不具合を防止するとともに、転がり軸受装置の生産性を向上させることができる転がり軸受装置およびその製造方法、並びにハードディスク装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置を示す縦断面図である。
【図2】図1の転がり軸受装置を示す分解縦断面図である。
【図3】図1の転がり軸受装置の一方の転がり軸受の内輪とシャフトとの溶接箇所を示す平面図である。
【図4】図1の転がり軸受装置の一方の転がり軸受のシャフトへの圧入工程を説明する(a)圧入前、(b)圧入後の縦断面図である。
【図5】図1の転がり軸受装置の他方の転がり軸受のスリーブへの圧入工程を説明する(a)圧入前、(b)圧入後の縦断面図である。
【図6】図1の転がり軸受装置の他方の転がり軸受のシャフトへの圧入工程を説明する縦断面図である。
【図7】図1の転がり軸受装置の変形例を示す縦断面図である。
【図8】図1の転がり軸受装置の変形例を示す縦断面図である。
【図9】図1の転がり軸受装置の変形例を示す縦断面図である。
【図10】図1の転がり軸受装置の変形例を示す縦断面図である。
【図11】図1の転がり軸受装置の変形例を示す縦断面図である。
【図12】図1の転がり軸受装置の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置1およびその製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る転がり軸受装置1は、図1および図2に示されるように、円環状の内輪2と外輪3との間に複数個のボール4を配置した2つの転がり軸受5A,5Bと、これら2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2内面2aに嵌合させるシャフト(第1部材)6と、2つの転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる嵌合孔7を有するスリーブ(第2部材)8とを備えている。
【0027】
シャフト6は、図2に示されるように、そのほぼ全長にわたって、転がり軸受5A,5Bの内輪2の内径より若干小さい第1の外径寸法d1の外周面を有する略円柱状の部材である。シャフト6には、2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2内面2aを嵌合させる2箇所の嵌合部9,10と、一方の転がり軸受5Aの内輪2aの端面が突き当てられる鍔部11とが設けられている。
【0028】
嵌合部9と嵌合部10は、シャフト6の軸方向に間隔を空けて配置されている。嵌合部9には、シャフト6の外周面の一部を全周にわたって半径方向外方に突出させた突条(凸嵌合部)9aが設けられている。また、嵌合部10には、シャフト6の外周面の一部を全周にわたって半径方向外方に突出させた突条(凸嵌合部)10aが設けられている。
【0029】
突条9aの最外径寸法は、転がり軸受5Aの内輪2の内径寸法より若干大きい第2の外径寸法d2に設定されている。これにより、突条9aを転がり軸受5Aの内輪2内面2aに嵌合させる際には、両者が圧入状態に嵌合するようになっている。また、突条10aの最外径寸法は、転がり軸受5Bの内輪2の内径寸法より若干大きい第2の外径寸法d2に設定されている。これにより、突条10aを転がり軸受5Bの内輪2内面2aに嵌合させる際には、両者が圧入状態に嵌合するようになっている。
【0030】
シャフト6の端部から挿入された一方の転がり軸受5Aの内輪2は、図1に示されるように、鍔部11に突き当たる位置まで挿入され、その位置で、一方の嵌合部9に嵌合する。嵌合部9には突条9aが設けられているので、軸受5Aの内輪2は突条9aに圧入状態に嵌合される。また、シャフト6の端部から挿入された他方の転がり軸受5Bの内輪2は、図1に示されるように、突条10aに圧入状態に嵌合する。
【0031】
スリーブ8は、内面に転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる嵌合孔7を有する略円筒状の部材である。嵌合孔7の内面には、スリーブ8の軸方向の略中央位置に配置された転がり軸受5A,5Bの外輪3外径3aより十分に小さい内径寸法を有する段部13と、該段部13を挟んで軸方向の両側に配置され、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aを嵌合させる2箇所の嵌合部14,15とが設けられている。
【0032】
段部13の軸方向の両端面は、両嵌合部14,15に嵌合された2つの転がり軸受5A,5Bの外輪3の端面をそれぞれ突き当てる突き当て面13aを構成している。各嵌合部14,15は、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干大きな第1の内径寸法の底面を有する凹部(凹嵌合部)14a,15aと、該凹部14a,15aを挟んで軸方向の両側に配置され、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干小さい第2の内径寸法を有する突条(凸嵌合部)14b,15bとをそれぞれ備えている。
【0033】
突条14bの内径寸法が転がり軸受5Aの外輪3外面3aの外径寸法より若干小さいので、突条14bと転がり軸受5Aの外輪3外面3aは、圧入状態に嵌合するようになっている。同様に、突条15bの内径寸法が転がり軸受5Bの外輪3外面3aの外径寸法より若干小さいので、突条15bと転がり軸受5Bの外輪3外面3aは、圧入状態に嵌合するようになっている。
【0034】
転がり軸受5Bの内輪2内面2aは、溶接箇所Wにて、シャフト6の突条10aに溶接されている。この場合において、転がり軸受5Bの内輪2内面2aはシャフト6の突条10aに圧入状態に嵌合しており、転がり軸受5Bの外輪3外面3aはスリーブ8の突条15bに圧入状態に嵌合している。レーザ光照射ユニット16から複数の溶接箇所Wに対してレーザ光を照射することにより、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部と、シャフト6の外面である突条10aとが溶接される。溶接箇所Wは、図3に示されるように、1周を45°間隔で等分割した角度間隔の箇所に設けられる。
【0035】
すなわち、本実施形態に係る転がり軸受装置1は、鍔部11が設けられたシャフト6と、鍔部11に突き当てられ内輪2内面2aがシャフト6の外面に圧入状態で嵌合した転がり軸受5Aと、転がり軸受5Aから軸方向に間隔をあけて内輪内面がシャフト6の外面に圧入状態で嵌合した転がり軸受5Bと、転がり軸受5A,5Bの外輪3に挟まれるスリーブ8とを備え、転がり軸受5Bの内輪の軸方向の周縁部の8箇所とシャフト6の外面とがレーザ光の照射により溶接されている。
【0036】
次に、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法について説明する。本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法は、シャフト6に転がり軸受5Aを圧入状態で嵌合させる第1圧入工程と、シャフト6に転がり軸受5Bを圧入状態で嵌合させる第2圧工程と、転がり軸受5A,5Bの外輪3の間にスリーブ8を挟んだ状態で転がり軸受5A,5Bの内輪どうしを軸方向に近接させる方向に押圧する予圧工程と、レーザ光を照射して転がり軸受5Bの内輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部とシャフト6の外面とを溶接する第1溶接工程とを備える。
【0037】
第1圧入工程は、図4(a)に示されるように、転がり軸受5Aの内輪2をシャフト6の先端側から嵌合させていく。転がり軸受5Aが先端側の嵌合部10を通過し、内輪2の端面が鍔部11に突き当たるまで挿入すると、図4(b)に示されるように、嵌合部9において内輪2内面2aがシャフト6の外面に設けられた突条9aに圧入状態で嵌合される。
【0038】
次に、図5(a)に示されるように、凹部15aが配されている嵌合部15側の端部から他方の転がり軸受5Bの外輪3をスリーブ8の嵌合孔7に嵌合させていく。転がり軸受5Bの外輪3の外径は、嵌合部15の突条15bの内径より大きいので、外輪3は突条15bによって半径方向内方に圧縮されながら挿入されて、図5(b)に示される状態となる。
【0039】
この後に、第2の圧入工程において、図4(b)のサブ組立体と、図5(b)のサブ組立体とを組み付ける。図6に示されるように、矢印の位置に治具により押圧力を作用させて転がり軸受5Bの内輪2内面2aとシャフト6の嵌合部10との嵌合および転がり軸受5Aの外輪3外面3aとスリーブ8の嵌合孔7の嵌合部14との嵌合を同時に行う。
【0040】
これにより、転がり軸受5Bの内輪2内面2aがシャフト6の嵌合部10に設けられた突条10aに圧入状態に嵌合される。同時に、転がり軸受5Aの外輪3外面3aがスリーブ8の嵌合孔7内面に設けられた突条14bに圧入状態に嵌合される。
【0041】
この後に、予圧工程において、図示しない治具により2つの転がり軸受5A,5Bの内輪2どうしを近接させる方向に押圧して、転がり軸受5A,5Bに予圧をかける。2つの転がり軸受5A,5Bは、シャフト6に圧入状態に嵌合されているので、予圧工程により付与された押圧力は、転がり軸受装置1から治具を外した後であっても、しばらくの間、圧入状態の内輪とシャフト6とによって予圧がかけられた状態が維持される。そして、圧入状態の内輪とシャフト6とによって予圧がかけられた状態が維持されたまま、溶接工程において、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部の少なくとも一部とシャフト6の外面とが溶接される。
【0042】
第1溶接工程は、予圧工程によって予圧がかけられた状態が維持された転がり軸受装置1の溶接箇所Wに対して、図1に示されるレーザ光照射ユニット16からレーザ光を照射する。溶接箇所Wは、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面に対応する箇所である。第1溶接工程は、転がり軸受装置1を回転台(不図示)の上に設置してシャフト6の軸を中心に一定の回転速度にて回転させながら、固定して配置されたレーザ光照射ユニット16から各々一定の照射時間(例えば、0.5msec)でレーザ光を順次照射する。図3に示されるように、角度間隔を等しくした8箇所を溶接箇所Wとする場合、シャフト6の回転により角度が45°進むたびに、レーザ光を順次照射する。
【0043】
これにより、予圧工程によって予圧がかけられた状態が維持された転がり軸受装置1の溶接箇所Wが溶接されるので、予圧がかけられた状態が維持された転がり軸受装置1が製造される。
【0044】
このようにして製造された本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法によれば、第1圧入工程および第2圧入工程において転がり軸受5A,5Bをシャフト6にそれぞれ圧入状態で嵌合させ、予圧工程において外輪間にスリーブ8を挟んだ状態で転がり軸受5A,5Bの内輪どうしを軸方向に近接させる方向に押圧し、レーザ光を照射して押圧された転がり軸受5Bの内輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部とシャフト6の外面とを溶接するので、以下の効果を奏する。
【0045】
すなわち、本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法によれば、転がり軸受5A,5Bがそれぞれシャフト6に圧入状態で嵌合しており、更に、転がり軸受5A,5Bの外輪間にスリーブ8が挟まれているので、転がり軸受5A,5Bの内輪に予圧がかけられた状態となる。また、転がり軸受5Bの内輪の軸方向の周縁部の少なくとも一部とシャフト6の外面とがレーザ光の照射により溶接されているので、接着剤を用いずに、転がり軸受5A,5Bの内輪に予圧がかけられた状態を維持することができる。すなわち、接着剤を用いる場合と比較して、接着剤から発生するガスによる不具合を防止することができるとともに、接着剤が硬化するまで待つ必要がないので、生産性が向上する。
【0046】
また、本実施形態に係る転がり軸受装置1の製造方法では、転がり軸受5Bの内輪2内面2aが、シャフト6の外面に設けられた突条10aと圧入状態に嵌合し、転がり軸受5Bの内輪2内面2aと突条10aとの嵌合位置が、転がり軸受5Bの内輪における軸方向の周縁部に近接した位置である。このようにすることで、溶接により溶融した金属の硬化収縮により発生する力(転がり軸受5Bの内輪内面がシャフト6側に引き付けられる力)を突条10aにより受け止めて、転がり軸受5Bの変形を防止することができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、2つの転がり軸受5A,5Bと、シャフト6と、スリーブ8とを有する転がり軸受装置1を例示したが、これに代えて、図7に示されるように、シャフト6によって2つの転がり軸受5A,5Bを支持した転がり軸受装置1を採用してもよい。図7に示される例では、2つの転がり軸受5A,5Bの外輪3どうしの間に円筒状の間隔部材21を挟むことにより、内輪2側に予圧をかけることを可能にしている。この場合において、第1溶接工程の後に、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aおよび間隔部材21の外面を、他の部材(第3部材)に接合する接合工程を更に備える製造方法としてもよい。例えば、転がり軸受装置1がハードディスク装置のスイングアームの支持装置として用いられる場合、接合工程は、転がり軸受5A,5Bの外輪3外面3aおよび間隔部材21の外面またはスイングアームに設けられた嵌合孔の内面に接着剤を塗布し、転がり軸受装置1とスイングアームを接合する。
【0048】
また、本実施形態においては、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面を溶接する転がり軸受装置1の製造方法を例示したが、更に、転がり軸受5Bの外輪3における軸方向の周縁部とスリーブ8の内面を溶接する製造方法を採用してもよい。この場合、図8に示されるように、第2溶接工程は、第1溶接工程と同時またはその後に、溶接箇所W´に対してレーザ光照射ユニット17からレーザ光を照射する。なお、第2溶接工程は、第1溶接工程とレーザ光を照射するユニットと溶接箇所が異なる点を除いては同様の工程であるものとする。第2溶接工程を備える製造方法によれば、転がり軸受5Bをスリーブ8に対して確実に固定し、転がり軸受5Bの位置ずれを防止することができる。
【0049】
また、本実施形態においては、転がり軸受5Bの内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面を溶接する転がり軸受装置1の製造方法を例示したが、更に、転がり軸受5Aの内輪2における軸方向の周縁部とシャフト6の外面を溶接する製造方法を採用してもよい。この場合、図9に示されるように、前述した第1圧入工程の後に、第3溶接工程は、溶接箇所W´´に対してレーザ光照射ユニット16からレーザ光を照射する。なお、第3溶接工程は、第1溶接工程と溶接箇所が異なる点を除いては同様の工程であるものとする。第3溶接工程を備える製造方法によれば、転がり軸受5Aをシャフト6に対して確実に固定し、転がり軸受5Aの位置ずれを防止することができる。
【0050】
また、本実施形態においては、転がり軸受5Bの内輪2内面2aと突条10aとの嵌合位置を、転がり軸受5Bの内輪における軸方向の周縁部に近接した位置としたが、周縁部から離間した位置としてもよい。図10に示される例は、転がり軸受5Bの内輪2内面2aと突条10aとの嵌合位置を、転がり軸受5Bの内輪2内面2aの軸方向中心位置よりやや上方とした例である。また、図11に示される例は、転がり軸受5Bの内輪2内面2aと突条10aとの嵌合位置を、転がり軸受5Bの内輪2内面2aの軸方向下端とした例である。
【0051】
このように、転がり軸受5Bの内輪2内面2aと突条10aとの嵌合位置を、転がり軸受5Bの内輪における軸方向の周縁部から離間した位置とすることで、シャフト6の鍔部11から突条10aまでの距離が短くなる。すなわち、シャフト6の上端面から突条10aまでのシャフト6の軸方向の距離が長くなる。従って、転がり軸受5Bをシャフト6に圧入状態で嵌合させる際に、転がり軸受5Bをシャフト6に挿入し易くなる。従って、転がり軸受装置1の組み立て作業が容易になる。
【0052】
また、本実施形態においては、突条10aが転がり軸受5Bの内輪2内面2aの一部の領域に嵌合する形状を例示したが、突条10aが転がり軸受5Bの内輪2内面2aの全域に嵌合する形状を採用してもよい。図12に示される例は、突条10aが転がり軸受5Bの内輪2内面2aの全域に嵌合する形状とされている。このようにすることで、転がり軸受5Bをシャフト6に対して確実に圧入状態で嵌合し、圧入状態を十分に維持することができる。
【0053】
また、本実施形態においては、突条9aが転がり軸受5Aの内輪2内面2aの一部の領域に嵌合する形状を例示したが、突条9aが転がり軸受5Bの内輪2内面2aの全域に嵌合する形状を採用してもよい。図12に示される例は、突条9aが転がり軸受5Aの内輪2内面2aの全域に嵌合する形状とされている。このようにすることで、転がり軸受5Aをシャフト6に対して確実に圧入状態で嵌合し、圧入状態を十分に維持することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る転がり軸受装置1は、ハードディスク装置(図示略)のスイングアームを揺動可能に支持するために使用することが好ましい。なお、スイングアームの先端にはハードディスク装置が備える磁気ディスク(記憶媒体)に対してデータを読み書きするためのピックアップが設けられている。前述したように、接着剤を用いずに転がり軸受5Bの内輪2内面2aをシャフト6の外面に接合するので、接着剤から発生するガスによる磁気ディスクの劣化を防止することができる
【0055】
また、本実施形態においては、溶接箇所Wを、図3に示されるように1周を45°間隔で等分割した角度間隔の箇所に設けることとしたが、30°や60°等、任意の角度で等分割した角度間隔の箇所に設けることとしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 転がり軸受装置
2 内輪
2a 内面
3 外輪
3a 外面
5A,5B 転がり軸受
6 シャフト(第1部材)
7 嵌合孔
8 スリーブ(第2部材)
11 鍔部
16,17 レーザ光照射ユニット
W,W´,W´´ 溶接箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1転がり軸受の内輪内面を軸状の第1部材の外面に圧入状態で嵌合させ、前記内輪の端面が前記第1部材に設けられた鍔部に突き当たるまで圧入する第1圧入工程と、
前記第1転がり軸受から軸方向に間隔をあけた位置において、前記第2転がり軸受の内輪内面を前記第1部材の外面に圧入状態で嵌合させる第2圧入工程と、
前記第1転がり軸受と前記第2転がり軸受の外輪間に第2部材を挟んだ状態で前記第1転がり軸受および前記第2転がり軸受の内輪どうしを、軸方向に近接させる方向に押圧する予圧工程と、
レーザ光を照射して、前記予圧工程により押圧された前記第2転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第1部材の外面とを溶接する第1溶接工程とを備える転がり軸受装置の製造方法。
【請求項2】
前記第2部材が、前記軸方向において前記第1転がり軸受の外輪と前記第2転がり軸受の外輪との間に挟まれる段部と、前記第1転がり軸受の外輪外面および前記第2転がり軸受の外輪外面が嵌合される嵌合部とを備える請求項1に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項3】
レーザ光を照射して、前記第2転がり軸受の外輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第2部材の前記嵌合部内面とを溶接する第2溶接工程を備える請求項2に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項4】
前記第1転がり軸受の外輪外面、前記第2転がり軸受の外輪外面および前記第2部材の外面を、第3部材に接合する接合工程を備える請求項1に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項5】
レーザ光を照射して、前記第1転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第1部材の外面とを溶接する第3溶接工程を備える請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項6】
前記第2圧入工程が、前記第2転がり軸受の内輪内面を、前記第1部材の外面に設けられた凸嵌合部に嵌合させ、
前記第2転がり軸受の内輪内面と前記凸嵌合部との嵌合位置が、前記周縁部に近接した位置である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項7】
前記第2圧入工程が、前記第2転がり軸受の内輪内面を、前記第1部材の外面に設けられた凸嵌合部に嵌合させ、
前記第2転がり軸受の内輪内面と前記凸嵌合部との嵌合位置が、前記周縁部から離間した位置である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項8】
前記第2圧入工程が、前記第2転がり軸受の内輪内面の全域を、前記第1部材の外面と嵌合させる請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受装置の製造方法。
【請求項9】
鍔部が設けられた軸状の第1部材と、
前記鍔部に突き当てられ、内輪内面が前記第1部材の外面に圧入状態で嵌合した第1転がり軸受と、
該第1転がり軸受から軸方向に間隔をあけて、内輪内面が前記第1部材の外面に圧入状態で嵌合した第2転がり軸受と、
前記第1転がり軸受および前記第2転がり軸受の外輪間に挟まれる第2部材とを備え、
前記第2転がり軸受の内輪の軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第1の部材の外面とが、レーザ光の照射により溶接されている転がり軸受装置。
【請求項10】
前記第2部材が、前記軸方向において前記第1転がり軸受の外輪と前記第2転がり軸受の外輪との間に挟まれる段部と、前記第1転がり軸受の外輪外面および前記第2転がり軸受の外輪外面が嵌合される嵌合部とを備える請求項9に記載の転がり軸受装置。
【請求項11】
前記第2転がり軸受の外輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第2部材の前記嵌合部内面とが、レーザ光の照射により溶接されている請求項10に記載の転がり軸受装置。
【請求項12】
前記第1転がり軸受の外輪外面、前記第2転がり軸受の外輪外面および前記第2部材の外面が、第3部材に嵌合される形状を有する請求項9に記載の転がり軸受装置。
【請求項13】
前記第1転がり軸受の内輪における軸方向の周縁部の少なくとも一部と、前記第1の部材の外面とが、レーザ光の照射により溶接されている請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の転がり軸受装置。
【請求項14】
前記第2転がり軸受の内輪内面が、前記第1部材の外面に設けられた凸嵌合部と圧入状態に嵌合し、
前記第2転がり軸受の内輪内面と前記凸嵌合部との嵌合位置が、前記周縁部に近接した位置である請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の転がり軸受装置。
【請求項15】
前記第2転がり軸受の内輪内面が、前記第1部材の外面に設けられた凸嵌合部と圧入状態に嵌合し、
前記第2転がり軸受の内輪内面と前記凸嵌合部との嵌合位置が、前記周縁部から離間した位置である請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の転がり軸受装置。
【請求項16】
前記第2転がり軸受の内輪内面の全域が、前記第1部材の外面と嵌合している請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の転がり軸受装置。
【請求項17】
請求項9から請求項16のいずれか1項に記載の転がり軸受装置によって揺動可能に支持されたスイングアームを備え、該スイングアームの先端に、記憶媒体に対してデータを読み書きするためのピックアップを備えるハードディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−72514(P2013−72514A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213014(P2011−213014)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】