転がり軸受装置の揺動特性評価方法
【課題】フレッチング摩耗の進行状況に応じたトルク変動を評価する。
【解決手段】玉軸受および玉軸受ユニットをモータによって揺動駆動し、モータの駆動電流を計測することによって、玉軸受および玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価する。
【解決手段】玉軸受および玉軸受ユニットをモータによって揺動駆動し、モータの駆動電流を計測することによって、玉軸受および玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気ディスク装置用スイングアーム用軸受のように、高速で微小揺動する部位に使用される転がり軸受装置の評価方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、従来のスイングアーム用軸受装置のトルク評価は、図11および図12に示すようなトルク測定装置を用い、低速回転数における軸受の回転トルク評価を行っている。
また、図13に示すような軸受外輪揺動試験機を用いて、フレッチング摩耗を測定することにより、軸受の耐フレッチング性能評価を行っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近、磁気ディスク装置はますます高密度化が要求されている。このため、ディスクに信号を記録するトラックの幅はますます狭くなってきており、信号を記録再生するヘッドを搭載するスイングアームには、目標トラックへのアクセスの高速化と位置決め性能の高精度化が要求されている。従って、スイングアームを支持する玉軸受には、制御の高速化と高精度化を満たすために、トルクスパイクのようなトルク変動がないことや低トルク等が求められている。
【0004】
従来、スイングアーム用の軸受では、図11及び図12に示すようなトルク測定装置を用いている。この装置では、玉軸受40の内輪を低速回転駆動させ、外輪からハウジング41およびバー42に伝わる力をロードセル(歪みゲージ)43によって計測およびトルク換算し、玉軸受2個のトルクおよびトルク変動を評価している。しかしながら、ここで使用するロードセル43は一方向の歪みしか測れないため、揺動時における行きと戻りのトルクの差、いわゆるトルクヒステリシスを評価することができなかった。また、行きから戻りに反転する時に生ずる大きなトルク変化の現象など、実機で生ずるトルク変動を正確に再現することができなかった。
【0005】
また、図13に示すような軸受外輪揺動試験機では、ACサーボモータ44によってハウジング45を介して試験用の玉軸受46の外輪を揺動駆動し、数百万回から数億回の揺動試験後のフレッチング摩耗量を測定し、耐フレッチング性能の評価を行っている。ここで、ハウジング45は、予圧バネ46及びサポート軸受47により装置に支持されている。この装置では、試験機を分解すると玉が移動してフレッチングの摩耗状態が変化してしまうため、試験終了まで分解することができない。したがって、トルクの測定はフレッチング性能評価試験中には行うことができず、この試験前後において、図11及び図12の装置を用いたトルク測定で評価するしかなかった。すなわち、フレッチング摩耗の進行状況に応じたトルク変動を直接測定することはできなかった。
【0006】
そこで本発明は、玉軸受および玉軸受ユニットをモータによって駆動し、モータの駆動電流を計測することによって、玉軸受および玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価する転がり軸受の揺動特性評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の揺動特性評価方法は、玉軸受および玉軸受ユニットをモータによって揺動駆動し、モータの駆動電流を計測することによって、玉軸受および玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価することを特徴とする。
【0008】
[作用]
この発明によると、玉軸受ユニットを実機と同じモータによって駆動し、モータの駆動電流を計測することによって、玉軸受および玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価するため、実機と同じようなトルクの現象、たとえばトルクヒステリシス、トルクスパイクなどのトルク変動を評価することができる。また、フレッチング試験においては、試験過程におけるトルクを測定することができるので、フレッチング摩耗の進行状況に応じたトルク変動を評価することができる。
【0009】
[実施の形態]
第1の実施形態では、転がり軸受と転がり軸受の外輪に固定されたスイングアームと、ボイスコイルモータとからなる転がり軸受装置の揺動特性評価方法において、転がり軸受の内輪を固定軸に固定する工程と、非接触変位計をシーク動作させる工程と、非接触変位計とスイングアームとの間の距離を所定距離に保つようにボイスコイルモータを制御する工程と、ボイスコイルモータの駆動電流を測定する工程と、駆動電流に基づいて転がり軸受装置の揺動特性を評価する工程とを設けてある。
【0010】
第2の実施形態では、転がり軸受と転がり軸受の外輪に固定されたスイングアームと、ボイスコイルモータとからなる転がり軸受装置の揺動特性評価方法において、非接触変位計を固定する工程と、転がり軸受の内輪をシーク動作させる工程と、非接触変位計とスイングアームとの間の距離を所定距離に保つようにボイスコイルモータを制御する工程と、ボイスコイルモータの駆動電流を測定する工程と、駆動電流に基づいて転がり軸受装置の揺動特性を評価する工程とを設けてある。
スイングアームにトラッキング動作をさせるための駆動電流をボイスコイルモータに印加してもよい。
【0011】
第3の実施形態では、転がり軸受と、ボイスコイルモータとからなる転がり軸受装置の揺動特性評価方法において、ボイスコイルモータにより転がり軸受の外輪を所定角度範囲内で揺動させる工程と、ボイスコイルモータの駆動電流を測定する工程と、駆動電流に基づいて転がり軸受装置の揺動特性を評価する工程とを設けてある。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の駆動モータ、例えばボイスコイルモータを用いたトルク測定装置の、第1の実施例の説明図を示す。試験用の玉軸受1が2個組み込まれたハウジング2に実機と同じモータ3およびスイングアーム4が取り付けられている。スイングアーム4の先端は非接触変位計5のターゲット6となっている(実機ではこの位置に磁気ヘッドが取り付けられる)。回転ステージ7上に取り付けられた非接触変位計5は、回転ステージ7を回転ステージドライバ8により駆動制御することによって、HDD(ハードディスクドライブ)のシーク動作に相当する動作9をすることができる。非接触変位計5がシーク相当動作9(たとえばヘッド位置での数μmのステップ送り)を行う場合、スイングアーム4先端に取り付けられたターゲット6と非接触変位計5とのギャップを一定に保つように、モータ3はドライバ10により制御されながら駆動され、スイングアーム4もシーク相当動作9を行うことになる。このモータ3の駆動電流11のデータがパソコン12に取り込まれ、トルクに換算されてHDDのヘッド相当位置とトルクとの関係を求めることができる。次に、HDDのトラッキングに相当する動作13を行わせる場合、ターゲット6がトラック幅の数分の1の振幅で、正弦波の一定周波数(たとえば数十Hz)で微小振動するように駆動電流11を制御する。このトラッキング相当動作13の駆動電流は、シーク相当動作9の時の電流に微小な電流変動が加わった状態であり、前述したようにパソコンに取り込まれ、トルクに換算されてHDDのヘッド相当位置とトルクとの関係を求めることができる(図2)。すなわち、実機と同じようにトラッキングとシークとの両方の動きをシミュレートされた駆動電流すなわち軸受トルクを計測・評価することができる。なお、トラッキング相当動作の駆動は、正弦波にかぎらず、いろいろな波形で駆動してもよい。その駆動周波数も数Hzから数百Hzであってもよい。
【0013】
また、試験軸受は実機と同じ玉軸受ユニットの形が好ましいが、たんに玉軸受2個を予圧を治具でかけた形の評価を行ってもよい。
なお、回転ステージの駆動制御はパソコンを用いるのが好ましいが、発振器を用いてもよい。また、駆動電流のデータはパソコンに取り込むのが望ましいが、直接、XYプロッタなどに出力してもよい。
【0014】
なお、揺動用の駆動モータにはボイスコイルモータが好ましい。また、回転ステージには、ヘッド位置で高分解の回転位置決め(ミクロンオーダ)のできるモータ、たとえばメガトルクモータ(商品名)が好ましい。
【0015】
図3は、本発明の実機と同じモータを用いたトルク測定装置の、第2の実施例の説明図を示す。この実施例の場合、非接触変位計5は固定された支持棒20に取り付けられて固定されている。第1の実施例と異なるのはシーク相当動作21であり、回転位置決めモータ22に取り付けた軸の回転駆動により試験用の玉軸受1の内輪を回転させ、スイングアーム4に対して相対的にシーク相当動作21を行わせる。回転位置決めモータ22は、モータドライバ23により、駆動制御される。トラッキング相当動作13およびモータの駆動電流11のデータ取込みは第1の実施例と同じである。
【0016】
なお、第1の実施例と同様、揺動用の駆動モータとしてはボイスコイルモータが好ましく、回転位置決めモータとしてはDCサーボモータが好ましい。
【0017】
図4〜図6は第3の実施例の構造図を示す。図4は正面図、図5は断面図、図6は平面図である。本実施例は、第1および第2の実施例と異なり、従来の軸受外輪揺動試験機の改良に相当するものであって、耐フレッチング性能を評価することができる。数個の試験用の玉軸受30(図示は4個)が組み込まれたハウジング31に実機と同じモータ32が取り付けられている。モータ32は、ドライバ33により駆動制御される。玉軸受30は予圧ばね34によって予圧がかけられ、軸受外輪はハウジング31を介して、実機と同じモータ32によって揺動される。試験軸受30は、玉軸受ユニットの形で評価するのが好ましいが、ユニットでなくてもよい。フレッチング耐久試験は、数度の揺動角を数十Hzの振動で、軸受外輪を数百万回から数億回揺動させる(一定エリアシーク)。フレッチング試験の揺動角は、玉軸受の玉が移動しない範囲の角度にするのが望ましい。また、第1および第2の実施例のような回転ステージおよびDCサーボモータの代わりに、揺動角はハウジング上部に取り付けられたエンコーダ35から出力されるパルスをカウントすることによって測定して、モータにシーク動作させる。フレッチングの前後および試験途中において、試験機を分解せずに最大ストロークに相当する揺動角でシークさせ、その時のボイスコイルモータの駆動電流をパソコン内部に取り込み、トルクに換算してHDDのヘッド相当位置とトルクとの関係を求めることができる。
【0018】
フレッチング試験の条件は、一定エリアシークだけでなく、最大ストロークの間をランダムで揺動するいわゆるランダムシークで行ってもよい。
【0019】
なお、第1の実施例と同様、揺動用の駆動モータにはボイスコイルモータが好ましい。
【0020】
図7及び図8は、本発明の第1の実施例のトルク測定装置を用いたトルクの測定例を示す。横軸はヘッド位置(ターゲット)の角度を、縦軸はトルクを示す。測定は、トラッキングしながら最大ストロークを3往復(シーク)させた場合のデータをプロットしている。図7はグリース潤滑の場合を示しており、図8は潤滑剤として油を用い、あらかじめ軌道面に油をうすく塗布しておく潤滑法であって、いわゆるオイルプレーティングがほどこされている場合を示している。この測定結果から、グリース潤滑の場合、折り返しのトルク変動が急激に大きくなることがわかる。また、油潤滑の場合、グリース潤滑に比べて、トルク変動およびトルクヒステリシスが小さいこと、また折り返しの急激なトルク変動がないことがわかる。以上のように、この評価方法によれば、潤滑の違いによるトルク変動およびトルクヒステリシスを、実機と同じ状態で評価することができる。
【0021】
図9及び図10は、本発明の第3の実施例のフレッチング試験機を用いたトルクの測定例を示す。横軸はヘッド位置(ターゲット)の角度を、縦軸はトルクを示す。測定は、試験前、200万回および1000万回揺動させた後にシーク動作を最大ストロークで行った場合のデータをプロットしている。図9はグリース潤滑の場合を、図10は油潤滑(オイルプレーティング)の場合である。測定結果から、揺動範囲の両端でフレッチング摩耗が生じ、進行している状況がわかる。また、試験前後のトルク変化は、グリース潤滑と油潤滑とでほとんど同じである。以上のように、この評価方法によれば、試験機を分解せずにフレッチング摩耗の進行状況を知ることができる。
【0022】
[発明の効果]
本発明によると、玉軸受ユニットを実機と同じモータによって駆動し、モータの駆動電流を計測することによって、玉軸受および玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価するため、実機と同じようなトルクの現象、たとえばトルクヒステリシス、トルクスパイクなどのトルク変動を評価することができる。また、フレッチング試験においては、試験過程におけるトルクを測定することができるので、フレッチング摩耗の進行状況に応じたトルク変動を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施例のトルク測定装置を示す図である。
【図2】第1実施例のヘッド相当位置とトルクとの関係を示す図である。
【図3】第2実施例のトルク測定装置を示す図である。
【図4】第3実施例の構造を示す正面図である。
【図5】第3実施例の構造を示す断面図である。
【図6】第3実施例の構造を示す平面図である。
【図7】第1実施例のトルクヒステリシス測定例を示す図である。
【図8】第1実施例のトルクヒステリシス測定例を示す図である。
【図9】第3実施例のフレッチング試験時のトルク測定例である。
【図10】第3実施例のフレッチング試験時のトルク測定例である。
【図11】従来のトルク測定装置を示す図である。
【図12】従来のトルク測定装置を示す図である。
【図13】従来の軸受外輪揺動試験機を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 玉軸受
2 ハウジング
3 モータ
4 スイングアーム
5 非接触変位計
6 ターゲット
7 回転ステージ
8 回転ステージ用ドライバ
9 シーク相当動作
10 ドライバ
11 駆動電流
12 パソコン
13 トラッキング相当動作
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁気ディスク装置用スイングアーム用軸受のように、高速で微小揺動する部位に使用される転がり軸受装置の評価方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、従来のスイングアーム用軸受装置のトルク評価は、図11および図12に示すようなトルク測定装置を用い、低速回転数における軸受の回転トルク評価を行っている。
また、図13に示すような軸受外輪揺動試験機を用いて、フレッチング摩耗を測定することにより、軸受の耐フレッチング性能評価を行っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近、磁気ディスク装置はますます高密度化が要求されている。このため、ディスクに信号を記録するトラックの幅はますます狭くなってきており、信号を記録再生するヘッドを搭載するスイングアームには、目標トラックへのアクセスの高速化と位置決め性能の高精度化が要求されている。従って、スイングアームを支持する玉軸受には、制御の高速化と高精度化を満たすために、トルクスパイクのようなトルク変動がないことや低トルク等が求められている。
【0004】
従来、スイングアーム用の軸受では、図11及び図12に示すようなトルク測定装置を用いている。この装置では、玉軸受40の内輪を低速回転駆動させ、外輪からハウジング41およびバー42に伝わる力をロードセル(歪みゲージ)43によって計測およびトルク換算し、玉軸受2個のトルクおよびトルク変動を評価している。しかしながら、ここで使用するロードセル43は一方向の歪みしか測れないため、揺動時における行きと戻りのトルクの差、いわゆるトルクヒステリシスを評価することができなかった。また、行きから戻りに反転する時に生ずる大きなトルク変化の現象など、実機で生ずるトルク変動を正確に再現することができなかった。
【0005】
また、図13に示すような軸受外輪揺動試験機では、ACサーボモータ44によってハウジング45を介して試験用の玉軸受46の外輪を揺動駆動し、数百万回から数億回の揺動試験後のフレッチング摩耗量を測定し、耐フレッチング性能の評価を行っている。ここで、ハウジング45は、予圧バネ46及びサポート軸受47により装置に支持されている。この装置では、試験機を分解すると玉が移動してフレッチングの摩耗状態が変化してしまうため、試験終了まで分解することができない。したがって、トルクの測定はフレッチング性能評価試験中には行うことができず、この試験前後において、図11及び図12の装置を用いたトルク測定で評価するしかなかった。すなわち、フレッチング摩耗の進行状況に応じたトルク変動を直接測定することはできなかった。
【0006】
そこで本発明は、玉軸受および玉軸受ユニットをモータによって駆動し、モータの駆動電流を計測することによって、玉軸受および玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価する転がり軸受の揺動特性評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の揺動特性評価方法は、玉軸受および玉軸受ユニットをモータによって揺動駆動し、モータの駆動電流を計測することによって、玉軸受および玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価することを特徴とする。
【0008】
[作用]
この発明によると、玉軸受ユニットを実機と同じモータによって駆動し、モータの駆動電流を計測することによって、玉軸受および玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価するため、実機と同じようなトルクの現象、たとえばトルクヒステリシス、トルクスパイクなどのトルク変動を評価することができる。また、フレッチング試験においては、試験過程におけるトルクを測定することができるので、フレッチング摩耗の進行状況に応じたトルク変動を評価することができる。
【0009】
[実施の形態]
第1の実施形態では、転がり軸受と転がり軸受の外輪に固定されたスイングアームと、ボイスコイルモータとからなる転がり軸受装置の揺動特性評価方法において、転がり軸受の内輪を固定軸に固定する工程と、非接触変位計をシーク動作させる工程と、非接触変位計とスイングアームとの間の距離を所定距離に保つようにボイスコイルモータを制御する工程と、ボイスコイルモータの駆動電流を測定する工程と、駆動電流に基づいて転がり軸受装置の揺動特性を評価する工程とを設けてある。
【0010】
第2の実施形態では、転がり軸受と転がり軸受の外輪に固定されたスイングアームと、ボイスコイルモータとからなる転がり軸受装置の揺動特性評価方法において、非接触変位計を固定する工程と、転がり軸受の内輪をシーク動作させる工程と、非接触変位計とスイングアームとの間の距離を所定距離に保つようにボイスコイルモータを制御する工程と、ボイスコイルモータの駆動電流を測定する工程と、駆動電流に基づいて転がり軸受装置の揺動特性を評価する工程とを設けてある。
スイングアームにトラッキング動作をさせるための駆動電流をボイスコイルモータに印加してもよい。
【0011】
第3の実施形態では、転がり軸受と、ボイスコイルモータとからなる転がり軸受装置の揺動特性評価方法において、ボイスコイルモータにより転がり軸受の外輪を所定角度範囲内で揺動させる工程と、ボイスコイルモータの駆動電流を測定する工程と、駆動電流に基づいて転がり軸受装置の揺動特性を評価する工程とを設けてある。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の駆動モータ、例えばボイスコイルモータを用いたトルク測定装置の、第1の実施例の説明図を示す。試験用の玉軸受1が2個組み込まれたハウジング2に実機と同じモータ3およびスイングアーム4が取り付けられている。スイングアーム4の先端は非接触変位計5のターゲット6となっている(実機ではこの位置に磁気ヘッドが取り付けられる)。回転ステージ7上に取り付けられた非接触変位計5は、回転ステージ7を回転ステージドライバ8により駆動制御することによって、HDD(ハードディスクドライブ)のシーク動作に相当する動作9をすることができる。非接触変位計5がシーク相当動作9(たとえばヘッド位置での数μmのステップ送り)を行う場合、スイングアーム4先端に取り付けられたターゲット6と非接触変位計5とのギャップを一定に保つように、モータ3はドライバ10により制御されながら駆動され、スイングアーム4もシーク相当動作9を行うことになる。このモータ3の駆動電流11のデータがパソコン12に取り込まれ、トルクに換算されてHDDのヘッド相当位置とトルクとの関係を求めることができる。次に、HDDのトラッキングに相当する動作13を行わせる場合、ターゲット6がトラック幅の数分の1の振幅で、正弦波の一定周波数(たとえば数十Hz)で微小振動するように駆動電流11を制御する。このトラッキング相当動作13の駆動電流は、シーク相当動作9の時の電流に微小な電流変動が加わった状態であり、前述したようにパソコンに取り込まれ、トルクに換算されてHDDのヘッド相当位置とトルクとの関係を求めることができる(図2)。すなわち、実機と同じようにトラッキングとシークとの両方の動きをシミュレートされた駆動電流すなわち軸受トルクを計測・評価することができる。なお、トラッキング相当動作の駆動は、正弦波にかぎらず、いろいろな波形で駆動してもよい。その駆動周波数も数Hzから数百Hzであってもよい。
【0013】
また、試験軸受は実機と同じ玉軸受ユニットの形が好ましいが、たんに玉軸受2個を予圧を治具でかけた形の評価を行ってもよい。
なお、回転ステージの駆動制御はパソコンを用いるのが好ましいが、発振器を用いてもよい。また、駆動電流のデータはパソコンに取り込むのが望ましいが、直接、XYプロッタなどに出力してもよい。
【0014】
なお、揺動用の駆動モータにはボイスコイルモータが好ましい。また、回転ステージには、ヘッド位置で高分解の回転位置決め(ミクロンオーダ)のできるモータ、たとえばメガトルクモータ(商品名)が好ましい。
【0015】
図3は、本発明の実機と同じモータを用いたトルク測定装置の、第2の実施例の説明図を示す。この実施例の場合、非接触変位計5は固定された支持棒20に取り付けられて固定されている。第1の実施例と異なるのはシーク相当動作21であり、回転位置決めモータ22に取り付けた軸の回転駆動により試験用の玉軸受1の内輪を回転させ、スイングアーム4に対して相対的にシーク相当動作21を行わせる。回転位置決めモータ22は、モータドライバ23により、駆動制御される。トラッキング相当動作13およびモータの駆動電流11のデータ取込みは第1の実施例と同じである。
【0016】
なお、第1の実施例と同様、揺動用の駆動モータとしてはボイスコイルモータが好ましく、回転位置決めモータとしてはDCサーボモータが好ましい。
【0017】
図4〜図6は第3の実施例の構造図を示す。図4は正面図、図5は断面図、図6は平面図である。本実施例は、第1および第2の実施例と異なり、従来の軸受外輪揺動試験機の改良に相当するものであって、耐フレッチング性能を評価することができる。数個の試験用の玉軸受30(図示は4個)が組み込まれたハウジング31に実機と同じモータ32が取り付けられている。モータ32は、ドライバ33により駆動制御される。玉軸受30は予圧ばね34によって予圧がかけられ、軸受外輪はハウジング31を介して、実機と同じモータ32によって揺動される。試験軸受30は、玉軸受ユニットの形で評価するのが好ましいが、ユニットでなくてもよい。フレッチング耐久試験は、数度の揺動角を数十Hzの振動で、軸受外輪を数百万回から数億回揺動させる(一定エリアシーク)。フレッチング試験の揺動角は、玉軸受の玉が移動しない範囲の角度にするのが望ましい。また、第1および第2の実施例のような回転ステージおよびDCサーボモータの代わりに、揺動角はハウジング上部に取り付けられたエンコーダ35から出力されるパルスをカウントすることによって測定して、モータにシーク動作させる。フレッチングの前後および試験途中において、試験機を分解せずに最大ストロークに相当する揺動角でシークさせ、その時のボイスコイルモータの駆動電流をパソコン内部に取り込み、トルクに換算してHDDのヘッド相当位置とトルクとの関係を求めることができる。
【0018】
フレッチング試験の条件は、一定エリアシークだけでなく、最大ストロークの間をランダムで揺動するいわゆるランダムシークで行ってもよい。
【0019】
なお、第1の実施例と同様、揺動用の駆動モータにはボイスコイルモータが好ましい。
【0020】
図7及び図8は、本発明の第1の実施例のトルク測定装置を用いたトルクの測定例を示す。横軸はヘッド位置(ターゲット)の角度を、縦軸はトルクを示す。測定は、トラッキングしながら最大ストロークを3往復(シーク)させた場合のデータをプロットしている。図7はグリース潤滑の場合を示しており、図8は潤滑剤として油を用い、あらかじめ軌道面に油をうすく塗布しておく潤滑法であって、いわゆるオイルプレーティングがほどこされている場合を示している。この測定結果から、グリース潤滑の場合、折り返しのトルク変動が急激に大きくなることがわかる。また、油潤滑の場合、グリース潤滑に比べて、トルク変動およびトルクヒステリシスが小さいこと、また折り返しの急激なトルク変動がないことがわかる。以上のように、この評価方法によれば、潤滑の違いによるトルク変動およびトルクヒステリシスを、実機と同じ状態で評価することができる。
【0021】
図9及び図10は、本発明の第3の実施例のフレッチング試験機を用いたトルクの測定例を示す。横軸はヘッド位置(ターゲット)の角度を、縦軸はトルクを示す。測定は、試験前、200万回および1000万回揺動させた後にシーク動作を最大ストロークで行った場合のデータをプロットしている。図9はグリース潤滑の場合を、図10は油潤滑(オイルプレーティング)の場合である。測定結果から、揺動範囲の両端でフレッチング摩耗が生じ、進行している状況がわかる。また、試験前後のトルク変化は、グリース潤滑と油潤滑とでほとんど同じである。以上のように、この評価方法によれば、試験機を分解せずにフレッチング摩耗の進行状況を知ることができる。
【0022】
[発明の効果]
本発明によると、玉軸受ユニットを実機と同じモータによって駆動し、モータの駆動電流を計測することによって、玉軸受および玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価するため、実機と同じようなトルクの現象、たとえばトルクヒステリシス、トルクスパイクなどのトルク変動を評価することができる。また、フレッチング試験においては、試験過程におけるトルクを測定することができるので、フレッチング摩耗の進行状況に応じたトルク変動を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施例のトルク測定装置を示す図である。
【図2】第1実施例のヘッド相当位置とトルクとの関係を示す図である。
【図3】第2実施例のトルク測定装置を示す図である。
【図4】第3実施例の構造を示す正面図である。
【図5】第3実施例の構造を示す断面図である。
【図6】第3実施例の構造を示す平面図である。
【図7】第1実施例のトルクヒステリシス測定例を示す図である。
【図8】第1実施例のトルクヒステリシス測定例を示す図である。
【図9】第3実施例のフレッチング試験時のトルク測定例である。
【図10】第3実施例のフレッチング試験時のトルク測定例である。
【図11】従来のトルク測定装置を示す図である。
【図12】従来のトルク測定装置を示す図である。
【図13】従来の軸受外輪揺動試験機を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 玉軸受
2 ハウジング
3 モータ
4 スイングアーム
5 非接触変位計
6 ターゲット
7 回転ステージ
8 回転ステージ用ドライバ
9 シーク相当動作
10 ドライバ
11 駆動電流
12 パソコン
13 トラッキング相当動作
【特許請求の範囲】
【請求項1】
玉軸受および玉軸受ユニットをモータによって揺動駆動し、該モータの駆動電流を計測することによって、該玉軸受および該玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価することを特徴とする転がり軸受の揺動特性評価方法。
【請求項1】
玉軸受および玉軸受ユニットをモータによって揺動駆動し、該モータの駆動電流を計測することによって、該玉軸受および該玉軸受ユニットのトルク、トルク変動等の軸受特性を評価することを特徴とする転がり軸受の揺動特性評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−32736(P2008−32736A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223715(P2007−223715)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【分割の表示】特願平9−235826の分割
【原出願日】平成9年9月1日(1997.9.1)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【分割の表示】特願平9−235826の分割
【原出願日】平成9年9月1日(1997.9.1)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]