説明

転がり軸受装置

【課題】 ポンプを使用することなく、潤滑剤タンク15から潤滑剤14をタイムラグなしに転がり軸受に供給することができ、しかもエネルギー効率も良好な給油ユニット10を備える転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】 加圧された潤滑剤14を貯留し、潤滑剤14の吐出口を有する潤滑剤タンク15と、潤滑剤タンク15の吐出口を開閉する開閉弁16と、この開閉弁16を駆動する駆動部21と、この駆動部21を駆動させる電気エネルギーを発電する発電部22とからなる給油ユニット10を、転がり軸受の固定輪側に設置したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械や産業機械等に用いられる給油ユニットを備えた転がり軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸などを支持する転がり軸受の潤滑方法として、転がり軸受の固定輪や回転輪に対して潤滑剤を必要に応じて供給する給油ユニットを転がり軸受に付設したものがある(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
これらの特許文献に開示された転がり軸受装置は、潤滑剤を貯留する潤滑剤タンクと、潤滑剤タンクの潤滑剤を吸引して吐出するポンプと、このポンプを駆動する駆動部とを備え、ユニット化されて転がり軸受の固定輪と回転輪の間の空間に設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−108388号公報
【特許文献2】特開2004−316707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来の給油ユニットを備える転がり軸受装置は、潤滑剤タンクから潤滑剤をポンプによって吸引して吐出するため、ポンプを起動させて吐出可能な圧力に達するまでに時間が掛かる。
【0006】
また、電気エネルギーを機械的な回転エネルギーに変換させてポンプを駆動するので、エネルギー効率が良くないという問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、ポンプを使用することなく、潤滑剤タンクから潤滑剤をタイムラグなしに転がり軸受に供給することができ、しかもエネルギー効率も良好な給油ユニットを備える転がり軸受装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、この発明に係る転がり軸受装置は、加圧された潤滑剤を貯留し、潤滑剤の吐出口を有する潤滑剤タンクと、潤滑剤タンクの吐出口を開閉する開閉弁と、この開閉弁を駆動する駆動部と、この駆動部を駆動させる電気エネルギーを発電する発電部とからなる給油ユニットを、転がり軸受の固定輪側に設置したものである。
【0009】
前記給油ユニットは、転がり軸受の固定輪と回転輪の間の空間、又は転がり軸受に隣接して設けられた間座の内輪と外輪の間の空間に設置される。
【0010】
前記給油ユニットは、転がり軸受又は間座に対して脱着可能に設置されるハウジングに収容することができる。
【0011】
前記潤滑剤タンクの潤滑剤を加圧する加圧装置は、潤滑剤タンク内に充填された潤滑剤を押圧する加圧ばねによって構成することができる。
【0012】
前記吐出口は、潤滑剤を霧状に噴霧するノズル形状に形成することができる。
【0013】
前記駆動部を駆動させる電気エネルギーを発電する発電部としては、ゼーベック効果による起電力を利用するもの、電磁誘導による起電力を利用するもの、静電誘導による起電力を利用するもの、誘電分極による起電力を利用するもの等、転がり軸受の環境により使い分けることできる。
【0014】
前記発電部により発電した電気エネルギーは、コンデンサに蓄えることが望ましい。
【0015】
前記給油ユニットは、温度センサや回転センサを内蔵することにより、転がり軸受の温度や回転状況を監視し、給油ユニットからの潤滑剤の吐出量を自動制御することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、加圧された潤滑剤を貯留する潤滑剤タンクの吐出口を、開閉弁によって開閉することにより、潤滑剤タンクからの潤滑剤の供給が行えるので、ポンプを使用して潤滑剤を供給するもののように、潤滑剤の供給までにタイムラグがない。
【0017】
また、開閉弁の開閉により、潤滑剤の供給が行えるので、ポンプ駆動式のものよりもエネルギー効率がよい。
【0018】
発電部によって発電した電気エネルギーをコンデンサに蓄えることにより、蓄電装置の劣化がないので、保守作業が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係る転がり軸受装置を工作機械に用いた実施形態を示す断面図である。
【図2】この発明に係る転がり軸受装置の給油ユニットを軸方向から見た断面図である。
【図3】図2のb−o線の断面図である。
【図4】図2のc−c’線の断面図である。
【図5】図2のa−o線の断面図である。
【図6】ゼーベック効果による起電力を利用した発電部の概略図である。
【図7】電磁誘導による起電力を利用した発電部の概略図である。
【図8】静電誘導による起電力を利用した発電部の概略図である。
【図9】誘電分極による起電力を利用した発電部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、この発明の給油ユニットを備える転がり軸受装置が組込まれた工作機械を示している。
【0022】
工作機械の主軸1は、ハウジング2に対して左右一対の転がり軸受3によって回転可能に支持されている。
【0023】
転がり軸受3としては、アンギュラ玉軸受が使用されている。転がり軸受3は、固定輪側である外輪4と、回転輪側である内輪5と、保持器6に保持された玉7とからなる。
【0024】
左右の転がり軸受の間には、中央間座8が配置され、ハウジング2の両端と転がり軸受3の間にも間座9が嵌められ、中央間座8と左右の間座9によって転がり軸受4に所定の予圧が与えられている。
【0025】
図1の実施形態では、左右の間座9の外輪11と内輪12間の周方向の空間部に、左右の転がり軸受3に、潤滑剤14を供給する給油ユニット10を設置している。
【0026】
給油ユニット10を備える間座9は、左右対称であり、図2は、図1の右側の間座9を軸方向から見た図であり、間座Bの外輪11と内輪12間を封止する蓋板13を一部取り除いた状態で示している。
【0027】
間座9の固定側の外輪11の内周面に沿って、潤滑剤14を充填する潤滑剤タンク15が設置されている。
【0028】
潤滑剤タンク15には、開閉弁16を介して吐出ノズル17が設けられている。潤滑タンク15には、潤滑剤14を加圧する加圧装置18が設置され、開閉弁16を開くと、加圧装置18の加圧力により、潤滑剤タンク15内の潤滑剤14が吐出ノズル17から吐出され、開閉弁16を閉じることにより、潤滑剤14の吐出が停止するようになっている。
【0029】
加圧装置18は、例えば、図3に示すように、潤滑剤タンク15内に充填された潤滑剤14を、加圧シール板19を介して加圧ばね20によって押圧する形式のものを使用することができる。
【0030】
潤滑剤タンク15から吐出される潤滑剤14の吐出圧は、吐出ノズル17の口径が一定とすれば、加圧装置18によって潤滑剤タンク15に加えられる圧力によって決定される。したがって、加圧装置18の圧力を潤滑剤14の種類に応じて調整することにより、潤滑剤タンク15から潤滑剤14を一定圧力により圧送することができる。
【0031】
潤滑剤14としては、潤滑油もしくはグリースのいずれでも使用することができる。
【0032】
吐出ノズル17は、転がり軸受3の固定輪側の外輪4の内周面に挿入され、吐出ノズル17から吐出される潤滑剤14を、玉7の表面、あるいは軌道面に供給している。
【0033】
吐出ノズル17を、潤滑剤14を霧状に噴霧するノズル形状にすると、潤滑剤14による撹拌抵抗を低減することができるので、転がり軸受3の発熱を抑制することができる。
【0034】
また、吐出ノズル17からの潤滑剤14の吐出量は、開閉弁16の開度を変えることによっても調整可能である。
【0035】
開閉弁16を開閉する駆動部21、駆動部21を駆動させる発電部22も、潤滑剤タンク15と同様に、間座9の外輪11と内輪12の間に設置されている。
【0036】
この実施形態の給油ユニット10は、上記のように、潤滑剤タンク15、開閉弁16、吐出ノズル17、加圧装置18、駆動部21、発電部22によって構成され、これらの全ての部材をハウジング23内に収容してユニット化し、間座9に対して脱着可能に設けるようにしてもよい。
【0037】
ハウジング23には、吐出ノズル17が一体に形成され、このハウジング23によって転がり軸受3との位置決めを図っている。ハウジング23は、樹脂や金属によって形成され、全面に蓋板13が取り付けられている。
【0038】
駆動部21を駆動させる発電部22は、駆動部21に電気エネルギーを供給する装置であり、使用環境に応じて、例えば、ゼーベック効果による起電力、電磁誘導による起電力、静電誘導による起電力、誘電分極による起電力を利用するものを使用することができる。発電部22を利用する環境により使い分けることにより効率的な発電が可能になる。また、他種類の発電部22を併用することでバックアップ機能も果たすことが可能となる。
【0039】
例えば、転がり軸受3は、使用により、玉7、外輪4、内輪5との間で摩擦熱が発生し、外輪4、内輪5の温度が上昇する。一般的に、外輪4側は、機器等に組み込まれるため、熱伝導にて放熱され、外輪4、内輪5との間で温度差が生じる。この温度差を利用し、ゼーベック効果によって起電力を発生させる発電部22は、図6に示すように、熱伝導体24a、24bを通じてゼーベック素子25に温度差を与えて構成している。
【0040】
また、転がり軸受装置内に交番磁界が存在する場合、例えば、工作機械等のビルトインスピンドル内部や大電力を扱う高周波機器の近傍では、漏れ磁束や高周波の照射により交番磁界が発生する。この交番磁界を利用し電磁誘導によって発電部22を構成することができる。この電磁誘導による発電部22は、図7に示すように、片側を開口した鉄心26にコイル27を組み合わせることで効率よく交番磁界を捉え、電磁誘導による発電を行うものである。また、交番磁界の周波数が既知である場合、鉄心26を除いて交番磁界の周波数に共振するコイルを用いるようにしてもよい。
【0041】
また、転がり軸受装置内に振動が発生環境では、図8に示すような、静電誘導による発電部22、あるいは、図9に示すような、誘電分極による発電部22を利用することができる。
【0042】
図8に示すような、静電誘導による発電部22は、可動側及び固定側の絶縁基板28a、28b上に電極29、及び固定側のみにエレクトレット30を積層したものを、空隙を設けてそれぞれ対向するように配置して構成する。可動部側の絶縁基板28bは、摺動装置31により、図8の矢印の方向のみに可動可能となる。その発電原理は、振動発生時には、摺動装置31により、図8の矢印の方向に可動部側絶縁基板28bが振動する。この時、固定側及び可動側の絶縁基板28a、28bの相対運動とエレクトレット30により電極29に電荷が生じる。この発生した電荷を外部に取り出すことにより発電部22が構成される。
【0043】
また、図9に示すような、誘電分極による発電部22は、固定側絶縁基板32と重り33の間に弾性のあるシート状の圧電体(ピエゾ素子)34を配置して構成される。その発電原理は、振動発生時には重り33と圧電体34により、図9の矢印の方向に重り33が振動する。この時、圧電体34にひずみが生じ、誘電分極による起電力が発生する。この起電力を外部に取り出すことにより発電部22が構成される。
【0044】
次に、給油ユニット10に、温度センサや回転センサを内蔵することにより、転がり軸受4の温度や回転状況を監視し、給油ユニット10からの潤滑剤14の吐出量を自動的に制御するようにしてもよい。
【0045】
また、駆動エネルギーを一時的に蓄える蓄電装置として蓄電池の代わりにコンデンサを利用することができる。これにより、蓄電池を充電させる回路が不要となり省スペース化が図れる。
【0046】
また、発電部22は、長期間に渡って頻繁に充放電を繰り返すことになるため、劣化・寿命特性からも蓄電池よりもコンデンサが優れている。このため電池交換の保守作業が不要となる。
【符号の説明】
【0047】
1 主軸
2 ハウジング
3 転がり軸受
4 外輪
5 内輪
6 保持器
7 玉
8 中央間座
9 間座
10 給油ユニット
11 外輪
12 内輪
13 蓋板
14 潤滑剤
15 潤滑剤タンク
16 開閉弁
17 吐出ノズル
18 加圧装置
19 加圧シール板
20 加圧ばね
21 駆動部
22 発電部
23 ハウジング
24a、24b 熱伝導体
25 ゼーベック素子
26 鉄心
27 コイル
28a、28b 絶縁基板
29 電極
30 エレクトレット
31 摺動装置
32 固定側絶縁基板
33 重り
34 圧電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧された潤滑剤を貯留し、潤滑剤の吐出口を有する潤滑剤タンクと、潤滑剤タンクの吐出口を開閉する開閉弁と、この開閉弁を駆動する駆動部と、この駆動部を駆動させる電気エネルギーを発電する発電部とからなる給油ユニットを、転がり軸受の固定輪側に設置したことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記給油ユニットが、転がり軸受の固定輪と回転輪の間の空間に設置されている請求項1記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記給油ユニットが、転がり軸受に隣接して設けられた間座の内輪と外輪の間の空間に設置されている請求項1記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
前記給油ユニットが、ハウジングに収容され、転がり軸受又は間座に対して脱着可能に設置されている請求項2又は請求項3に記載の転がり軸受装置。
【請求項5】
前記潤滑剤タンクに、潤滑剤タンク内に充填された潤滑剤を押圧する加圧ばねによって構成される加圧装置を設けた請求項1〜4のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項6】
前記吐出口が、潤滑剤を霧状に噴霧するノズル形状に形成されている請求項1〜5のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項7】
前記駆動部を駆動させる電気エネルギーを発電する発電部が、ゼーベック効果による起電力を利用するものである請求項1〜6のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項8】
前記駆動部を駆動させる電気エネルギーを発電する発電部が、電磁誘導による起電力を利用するものである請求項1〜6のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項9】
前記駆動部を駆動させる電気エネルギーを発電する発電部が、静電誘導による起電力を利用するものである請求項1〜6のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項10】
前記駆動部を駆動させる電気エネルギーを発電する発電部が、誘電分極による起電力を利用するものである請求項1〜6のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項11】
前記発電部を発電した電気エネルギーをコンデンサに蓄えることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項12】
前記給油ユニットに、温度センサや回転センサを内蔵することにより、転がり軸受の温度や回転状況を監視し、給油ユニットからの潤滑剤の吐出量を自動制御することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【請求項13】
工作機械、風車又は鉄道に使用される請求項1〜12のいずれかに記載の転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−60999(P2013−60999A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199021(P2011−199021)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】