説明

転がり軸受

【課題】漏れ電流に晒される環境で使用される転がり軸受の異物混入潤滑下での寿命を向上させる。
【解決手段】炭素含有率0.10〜1.2質量%、珪素含有率0.10〜1.0質量%、マンガン含有率0.40〜1.4質量%、クロム含有率0.5〜2.0質量%、モリブデン含有率0.50〜2.0質量%、バナジウム含有率2.0質量%以下の合金鋼を用い、窒化または浸炭窒化処理、焼入れ処理、および焼戻し処理をして内輪および外輪を得る。表層部の炭素含有率0.80〜1.2質量%、表層部の窒素含有率0.01〜1.00質量%、表層部の残留オーステナイト量20〜45体積%とする。内輪の外周面の軌道面以外の面を、セラミックス皮膜で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、自動車、農業機械、建設機械、鉄鋼機械などのトランスミッションやエンジンのように、潤滑油中に金属の切粉や削り屑、摩耗粉等が混入している環境(異物混入潤滑環境)下で使用される転がり軸受の寿命を向上させるために、軌道輪および転動体をなす合金鋼の炭素含有率、クロム含有率、およびモリブデン含有率と、浸炭または浸炭窒化された表層部の残留オーステナイト量と、この残留オーステナイト量と表面硬さとの関係を特定することが記載されている。
【0003】
具体的には、クロム添加量に対するモリブデン添加量を適量とすることで、析出炭化物の粒子が微細化されて、クラックの起点になりやすい巨大炭化物の発生が抑制されると記載されている。また、表層部の残留オーステナイト量を20〜45体積%とすることで、異物により生じる圧痕の縁部の応力集中が緩和され、クラックの発生が抑制されると記載されている。
【0004】
一方、例えば、鉄道車両用の電動モータや発電機およびCTスキャナの回転軸で使用される転がり軸受は、漏れ電流に晒される環境にあり、軌道輪および転動体が金属製であると、漏れ電流が転動体と軌道輪との間に流れて、軌道輪の軌道面および転動体の転動面に電食(電気化学的腐食)が生じる恐れがある。この電食が生じると、軌道輪の軌道面および転動体の転動面の精度が低下し、振動が上昇して、軸受の寿命が短くなる。具体的には、電食によって軌道輪の軌道面および転動体の転動面に凹凸が生じ、この凹凸が応力集中部となって疲労剥離が発生する。
【0005】
この電食を防止するために、下記の特許文献2には、転がり軸受の軌道輪の軌道面以外の面を、アルミナ含有率の高いセラミックス製の絶縁皮膜で被覆することが記載されている。前記絶縁皮膜の具体例として、アルミナの含有率が99重量%以上で酸化チタンを0.01〜0.20重量%含有するセラミックス溶射層、97重量%以上のアルミナと0.5〜2.5重量%のジルコニアとを含有するセラミックス溶射層が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−25609号公報
【特許文献2】国際公開WO07/049727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載された転がり軸受には、異物混入潤滑下での寿命について改善の余地がある。
本発明の課題は、漏れ電流に晒される環境で使用される転がり軸受の異物混入潤滑下での寿命を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、内輪および外輪の少なくともいずれかは、炭素(C)含有率が0.10質量%以上1.2質量%以下、珪素(Si)含有率が0.10質量%以上1.0質量%以下、マンガン(Mn)含有率が0.40質量%以上1.4質量%以下、クロム(Cr)含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下、モリブデン(Mo)含有率が0.50質量%以上2.0質量%以下、バナジウム(V)含有率が2.0質量%以下であり、残部が鉄および不可避不純物である合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後、窒化または浸炭窒化処理、焼入れ処理、および焼戻し処理をして得られ、表層部の炭素含有率が0.80質量%以上1.2質量%以下、表層部の窒素含有率が0.01質量%以上1.00質量%以下、表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上45体積%以下であることを特徴とする転がり軸受を提供する。
【0009】
本発明の転がり軸受によれば、前記特定の組成の合金鋼を用い、表層部(表面から50μmの深さまでの範囲)の状態を前述のように特定することで、異物混入潤滑下で軌道面に異物による大きな圧痕が生じ難くなるとともに、圧痕縁に応力が集中し難くなるため、寿命低下の主な原因となる表面起点型剥離が生じ難くなる。その結果、転がり軸受の異物混入潤滑下での寿命が向上する。
【0010】
本発明の転がり軸受は、内輪の外周面の軌道面以外の面が、アルミナ(Al2 3 )の含有率が99.80質量%以上99.99質量%以下で酸化チタンの含有率が0.01質量%以上0.20質量%以下であるセラミックス皮膜で被覆されていれば、漏れ電流に晒される環境で使用された場合に、漏れ電流が転動体と軌道輪との間に流れないため、電食が防止される。
【0011】
以下に、本発明で使用する合金鋼に含まれる各成分の作用と含有率の範囲について説明する。
〔炭素(C)含有率が0.10質量%以上1.2質量%以下〕
炭素(C)は、基地(マトリックス)に固溶して焼入れ、焼戻し後の強度を向上させるとともに、鉄、クロム、モリブデン、バナジウム等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成し、耐摩耗性を高める作用を有する元素である。素材をなす合金鋼中の炭素含有率が0.10質量%未満であると、軸受として必要な強度が得られない。
【0012】
また、浸炭窒化処理を行って表面に炭素を導入して、表層部の炭素含有率を0.80質量%以上1.2質量%以下にする場合には、素材をなす合金鋼中の炭素含有率が少なすぎると、この処理に係る時間が長くなり、熱処理コストが上昇する。
これらの点から、素材をなす合金鋼中の炭素含有率を0.10質量%以上とし、好ましくは0.60質量%以上とする。
【0013】
一方、炭素含有率が多すぎると、製鋼時に巨大な炭化物が生成されやすくなり、その後の焼入れ特性や転動疲労寿命に悪影響を及ぼす場合がある。よって、浸炭窒化処理を行って表面に炭素(または炭素と窒素)を導入する場合には、炭素含有率を1.4質量%以下とする。また、浸炭窒化ではなく窒化を行う場合には、合金鋼の炭素含有率がそのまま表層部の炭素含有率となるため、合金鋼の炭素含有率を0.80質量%以上1.2質量%以下にする。
【0014】
〔珪素(Si)含有率が0.10質量%以上1.0質量%以下〕
珪素(Si)は、製鋼時に脱酸剤として作用するとともに、焼戻し軟化抵抗性を高める作用も有し、基地(マトリックス)のマルテンサイト化や残留オーステナイトの安定化を促進し、軸受寿命の向上に有効な元素である。また、浸炭窒化後の表層部の窒素含有率や残留オーステナイト量を本発明の範囲とするために必須の成分である。そのため、0.10質量%以上添加する必要がある。好ましくは0.20質量%以上添加する。
【0015】
ただし、多量に添加すると、鍛造性、冷間加工性、被削性、及び浸炭処理性が低下する場合がある。また、窒化または浸炭窒化による十分な硬化層深さおよび窒素拡散深さが確保できなくなる場合がある。よって、1.0質量%以下とする。
【0016】
〔マンガン(Mn)含有率が0.40質量%以上1.4質量%以下〕
マンガン(Mn)は、珪素と同様に、製鋼時に脱酸剤として作用し、焼入れ性を高める作用を有する元素であり、0.40質量%以上含有する必要がある。
ただし、マンガンの含有率が多すぎると、冷間加工性、被削性が低下するだけでなく、Ms点(マルテンサイト変態開始温度)が低下し過ぎて、熱処理(窒化または浸炭窒化、焼入れ、および焼戻し)後に多量の残留オーステナイトが残存し、十分な硬さが得られず耐摩耗性が低下する場合があるため、1.4質量%以下とする。
【0017】
〔クロム(Cr)含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下〕
クロム(Cr)は、基地に固溶して、焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性等を高める作用を有する元素である。また、高硬度で微細な炭化物および炭窒化物が形成されることで、硬さを付与するとともに結晶粒の粗大化を防止し、耐摩耗性を高め、寿命を長くする作用を有する。
【0018】
クロムの含有率が0.5質量%未満であると前述の作用が不足し、2.0質量%を超えると、製鋼過程で巨大炭化物が生成して、その後の焼入れ特性に悪影響を及ぼしたり、被削性が低下する恐れがある。クロム含有率の好ましい範囲は1.3質量%以上1.6質量%以下である。
【0019】
〔モリブデン(Mo)含有率が0.50質量%以上2.0質量%以下〕
モリブデン(Mo)は、炭化物形成促進元素であり、炭素と結合して形成されるモリブデン炭化物は微細で硬度が高いため、耐摩耗性を高める作用を有している。モリブデン含有率が0.50質量%未満であると、前述の作用が不足する。好ましくは0.8質量%以上とする。
【0020】
モリブデン炭化物(窒炭化物を含む)は、組成がM236 の合金系炭化物であり、この合金系炭化物の硬さはHv1300〜1800である。これに対して、組成がM3 Cのセメンタイト系炭化物の硬さはHv1000〜1500であり、組成がM236 の合金系炭化物の方が硬い。このように微細で硬いモリブデン炭化物の存在により、耐摩耗性が向上する。
ただし、モリブデンが多すぎると製鋼の溶解時にMoC等の未溶解巨大炭化物が出現して耐摩耗性が低下する恐れがある。よって、モリブデン含有率は2.0質量%以下とする。
【0021】
〔バナジウム(V)含有率が2.0質量%以下〕
バナジウム(V)は必須成分ではないが、炭化物形成促進元素であり、クロムと同様の作用が得られるため、2.0質量%以下の含有率で添加しても良い。バナジウムの含有率が2.0質量%を超えると、素材が高価になり、加工性も低下するため、生産コストが増大する。バナジウム以外の必須成分ではない炭化物形成促進元素としては、タングステン(W)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)が挙げられ、これらについても同様の理由で2.0質量%以下の含有率で添加しても良い。
【0022】
〔表層部の炭素含有率が0.80質量%以上1.2質量%以下〕
表層部の炭素含有率が0.80質量%未満であると、硬さや、転がり疲労寿命に必要な材料強度が得られない。表層部の炭素含有率が1.2質量%を超えると、熱処理以後に、巨大な炭化物組織が形成されるなどして、局部的に材料強度が不足した状態となり、軸受に必要な強度が得られなくなる。
【0023】
〔表層部の窒素含有率が0.01質量%以上1.00質量%以下〕
窒素は、炭素と同様に、マルテンサイトの固溶強化作用と残留オーステナイトの安定確保作用を有する。また、窒化物および炭窒化物を形成して表層部に存在させ、耐摩耗性を高くする作用もある。これらの作用を得るためには、表層部の窒素含有率を0.01質量%以上とする必要がある。好ましくは0.20質量%以上とする。
【0024】
ただし、表層部に存在する窒化物および炭窒化物が多すぎると、必要な残留オーステナイト量が確保できなくなったり、焼入れ性が低下することで、硬さが不充分になるため、表層部の窒素含有率を1.00質量%以下とした。
【0025】
〔表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上45体積%以下〕
オーステナイトは柔らかく粘りのある組織であるが、焼入れ焼戻し後に軌道面の表層部に残留させることで、繰り返し応力を受けた軌道面に加わるエネルギーによりマルテンサイト変態して硬化する作用を有する。表層部の残留オーステナイト量が20質量%以上であると、この作用が発揮されて、異物混入潤滑下で軌道面に異物による大きな圧痕が生じ難くなるとともに、圧痕縁に応力が集中し難くなるため、寿命低下の主な原因となる表面起点型剥離が生じ難くなる。
【0026】
表層部の残留オーステナイト量が45体積%を超えると、上述の作用が飽和するだけでなく、転がり軸受として必要な硬さが得られなくなる。
【発明の効果】
【0027】
請求項1の転がり軸受は異物混入潤滑下での寿命が長いものとなる。また、請求項2の転がり軸受によれば、漏れ電流に晒される環境で使用されても電食が防止され、異物混入潤滑下での寿命が長いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に相当する転がり軸受を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に相当する転がり軸受を示す図である。
この転がり軸受は、呼び番号6316(内径80mm、外径170mm、幅39mm)の単列深みぞ玉軸受であり、内輪1、外輪2、玉(転動体)3と、SPCC製の波形の保持器4とから構成されている。
【0030】
内輪1の外周面には軌道溝(軌道面)1aが、外輪の内周面には軌道溝(軌道面)2aがそれぞれ形成されている。これらの軌道溝1a,2aが対向配置され、その間に保持器4を介して玉3が転動自在に配設されている。
内輪1および外輪2を作製するための素材として、表1に示す12種類の鋼からなる棒鋼を用意した。No. 6の鋼はSUJ2(高炭素クロム軸受鋼2種)である。
【0031】
内輪1については、先ず、これらの棒鋼を切削加工により所定形状とした後に、以下に示す何れかの条件(熱処理A〜C)で熱処理を行った。次に、以下に示す方法で、外周面の軌道溝1a以外の部分にセラミック皮膜を形成した後封孔処理を行った。次に、所定の寸法および精度になるように研削を行った。このようにして、No. 1〜12の内輪1を10個ずつ作製した。
【0032】
外輪2については、先ず、これらの棒鋼を切削加工により所定形状とした後に、以下に示す何れかの条件(熱処理A〜C)で熱処理を行った。次に、所定の寸法および精度になるように研削を行った。このようにして、No. 1〜12の外輪2を10個ずつ作製した。
玉3は、SUJ2からなる線材を冷間鍛造により所定形状とした後、以下の条件(熱処理C)でずぶ焼入れと焼戻しを行った。次に、所定の寸法および精度になるように研削を行った。
【0033】
<熱処理A:窒化処理、焼入れ処理、および焼戻し処理>
「RX ガス+アンモニアガス」雰囲気で820〜920℃に1.0〜24.0時間保持した後、放冷し、次いで、RX ガス雰囲気で820〜850℃に0.5〜1.0時間保持した後、60〜80℃で油焼入れ。これに連続して、160〜280℃に2.0時間保持した後、放冷。
【0034】
<熱処理B:浸炭窒化処理、焼入れ処理、および焼戻し処理>
「RX ガス+エンリッチガス+アンモニアガス」雰囲気で820〜920℃に1.0〜24.0時間保持した後、放冷し、次いで、RX ガス雰囲気で820〜850℃に0.5〜1.0時間保持した後、60〜80℃で油焼入れ。これに連続して、160〜280℃に2.0時間保持した後、放冷。
【0035】
<熱処理C:ずぶ焼入れ、焼戻し処理>
X ガス雰囲気で820〜850℃に0.5〜1.0時間保持した後、60〜80℃で油焼入れ。これに連続して、160〜280℃に2.0時間保持した後、放冷。
【0036】
<セラミックス皮膜>
アルミナ(Al2 3 )99.80質量%と酸化チタン0.20質量%からなる混合粉末原料を、プラズマ加熱することで溶融させて液状微粒子とし、プラズマジェットとともに内輪1の外周面の軌道溝1a以外の部分に高速で衝突させて付着させた。これにより、内輪1の外周面の軌道溝1a以外の部分に、アルミナ(Al2 3 )の含有率が99.80質量%で酸化チタンの含有率が0.20質量%からなるセラミックス溶射層を形成した。
【0037】
<封孔処理>
内輪1のセラミックス皮膜が形成された部分にエポキシ樹脂系の封止材を塗布した後、150℃に保持された恒温槽に入れて硬化させた。これにより、セラミックス皮膜(溶射層)の孔を封止した。
【0038】
このようにして得られたNo. 1〜12の内輪1および外輪2を用い、玉3と保持器4は全てのサンプルで同じものを使用して、No. 1〜12の転がり軸受を10体ずつ組み立てた。そして、各転がり軸受の内部空間に、70〜150μmのセメンタイト系の鉄粉を0.1mg含有するリチウム石けん系グリース50gを封入して、下記の方法で電食試験を行った後に異物混入潤滑下での寿命試験を行った。
【0039】
<電食試験>
転がり軸受の内輪1に鋼製の軸を取り付け、外輪2に鋼製の軸箱に取り付けて、漏れ電流を想定し、軸と軸箱との間に直流電圧(1000V)を1分間負荷した。その後、軸と軸箱を外して転がり軸受を分解し、内輪1、外輪2、玉3の外観を観察して、電食の発生とセラミックス皮膜へのクラック発生の有無を調べることで、絶縁性能を評価した。
【0040】
<異物混入潤滑下での寿命試験>
回転試験装置に転がり軸受を取り付けて、荷重(P/C):0.40、回転速度:2000min-1の条件で、振動値が初期値の2倍となるまで回転させた後、回転試験装置から転がり軸受を外し、軌道面に摩耗や剥離などの損傷が生じているかどうかを金属顕微鏡で観察し、損傷が生じていた場合に寿命と判断した。損傷が生じていなかった場合は、再度回転試験装置に取り付けて同じ条件で、振動値が初期値の2倍となるまで回転させる。これを損傷が生じるまで繰り返し、累積回転時間を寿命として測定した。
【0041】
各サンプル10体についての寿命の測定結果からワイブルプロットを作成し、L10寿命を求めた。そして、各サンプルのL10寿命をNo. 6のL10寿命で除算することにより、No. 6のL10寿命を1とした相対値を「寿命比」を求めた。
その結果も、下記の表1に併せて示す。本発明の範囲から外れる構成には下線部を施した。
【0042】
【表1】

【0043】
この結果から分かるように、本発明の実施例に相当するNo. 1〜5の転がり軸受は、No. 6の1.8〜3.2倍の寿命が得られた。これに対して、比較例に相当するNo. 6〜12のうち、No. 6〜11については、寿命比が0.1〜1.2であった。
【0044】
サンプルNo. 6では、使用した合金鋼のマンガン含有率とモリブデン含有率、熱処理、表層部の窒素含有率と残留オーステナイト量が本発明の範囲から外れており、内輪軌道面に早期に剥離が発生した。
サンプルNo. 7では、焼戻し温度を280℃として残留オーステナイト量を本発明の範囲外にしたため、内輪軌道面に早期に剥離が発生した。
【0045】
サンプルNo. 8では、使用した合金鋼の炭素含有率が少なく、浸炭窒化でなく窒化処理を行って、表層部の炭素含有率と残留オーステナイト量を本発明の範囲外にしてある。その結果、剛性が不足して転がり軸受が変形し、早期に焼き付きが発生した。
サンプルNo. 9では、使用した合金鋼のクロム含有率が少なく、表層部に高硬度の微細な炭化物および炭窒化物がほとんど形成されず、軌道面に比較的大きな圧痕が生じ、早期に剥離が発生した。
【0046】
サンプルNo. 10では、使用した合金鋼のモリブデン含有率が少なく、表層部に高硬度の微細な窒化物がほとんど形成されず、早期に剥離が発生した。
サンプルNo. 11では、熱処理が「ずぶ焼入れ→焼戻し」であるため、表層部に高硬度の微細な窒化物がほとんど形成されず、軌道面に比較的大きな圧痕が生じ、早期に剥離が発生した。
【0047】
サンプルNo. 12は、内輪にセラミック皮膜が形成されていないことから電食試験で腐食が発生したため、寿命試験を行うことができなかった。
【符号の説明】
【0048】
1 内輪
1a 軌道溝(軌道面)
2 外輪
2a 軌道溝(軌道面)
3 玉(転動体)
4 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪の少なくともいずれかは、
炭素(C)含有率が0.10質量%以上1.2質量%以下、珪素(Si)含有率が0.10質量%以上1.0質量%以下、マンガン(Mn)含有率が0.40質量%以上1.4質量%以下、クロム(Cr)含有率が0.5質量%以上2.0質量%以下、モリブデン(Mo)含有率が0.50質量%以上2.0質量%以下、バナジウム(V)含有率が2.0質量%以下であり、残部が鉄および不可避不純物である合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後、
窒化または浸炭窒化処理、焼入れ処理、および焼戻し処理をして得られ、表層部の炭素含有率が0.80質量%以上1.2質量%以下、表層部の窒素含有率が0.01質量%以上1.00質量%以下、表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上45体積%以下であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
内輪の外周面の軌道面以外の面は、アルミナ(Al2 3 )の含有率が99.80質量%以上99.99質量%以下で酸化チタンの含有率が0.01質量%以上0.20質量%以下であるセラミックス皮膜で被覆されている請求項1記載の転がり軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2010−180468(P2010−180468A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27100(P2009−27100)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】