説明

転がり軸受

【課題】泥、水等の異物の軸受空間内部への侵入を抑制すると共に、密封部材の摺接部の張り付きによるトルク増大を防止する。
【解決手段】内周に軌道溝を有する外輪部材2と、外周に軌道溝を有する内輪部材3と、前記外輪部材と前記内輪部材の間に転動可能に配置された複数の転動体4と、前記外輪部材と前記内輪部材とで囲まれた空間を密封する密封部材6、7と、を備える転がり軸受において、前記外輪部材2及び前記内輪部材3とで囲まれた軸受空間S11、S12に、不揮発性の半固体または不揮発性の固体のうち、少なくとも一方を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受には、内周に軌道溝を有する外輪部材と、外周に軌道溝を有する内輪部材と、前記外輪部材と前記内輪部材の間に転動可能に配置された複数の転動体と、前記外輪部材と前記内輪部材との間の空間(以下、軸受空間という)を密封する密封部材と、を備えたものがある。この密封部材は、固定輪である外輪部材の内周面に取り付けられ、回転輪である内輪部材の外周面に摺接している場合が多い。
【0003】
このような構造を持つ転がり軸受において、転がり軸受の動作(内輪部材の回転、転動体の転動等)に起因した前記軸受空間の温度変動により、前記軸受空間内部の気圧が軸受空間外部と比較して低くなる場合がある。すなわち、転がり軸受の動作により前記軸受空間の温度が上昇し、前記軸受空間の空気が膨張して前記密封部材から空気が漏出する。その後、転がり軸受の動作が停止すると、前記軸受空間の温度が低下するため、軸受空間内部の気圧が軸受空間外部と比較して低くなる。
【0004】
その結果、密封部材の内輪部材との摺接部が内輪部材に張り付いてしまい、内輪部材が回転を再開した際に、トルクの増大を引き起こす虞があった。また、軸受空間内外の圧力差を解消するべく、密封部材と外輪部材との嵌合部や内輪部材との摺接部の僅かな隙間を通って、転がり軸受の外部空間から前記軸受空間内部に空気が侵入しようとする傾向がある。特に、水滴や粉塵等の異物が存在する環境下で使用される場合には、異物の吸い込み現象が発生する虞がある。
【0005】
また、上記のような転がり軸受を、例えば自動車の車輪支持用の軸受装置のように周囲に泥水等が存在し易い場所に使用する場合、転がり軸受が定常状態で運転されていても、自動車が水溜りの中等を走行した際に車輪が水や泥水を巻き上げると、転がり軸受も水や泥水に曝されることとなる。この場合は、温度が上昇している転がり軸受が水により急激に冷却されるため、前記軸受空間内部の気圧が外部と比較して低下する。この状態のまま車両が走行していると、前述したように、密封部材の隙間から泥水等の吸い込み現象が発生する虞がある。
【0006】
この問題を解決するために、特許文献1及び特許文献2には、軸受空間内部を軸受空間外部と通気させる通気孔を転がり軸受に設け、軸受空間内部の気圧低下を防止する転がり軸受が記載されている。また、特許文献3、4では、軸受空間を密封する密封部材の変形により、軸受空間内部の気圧変動を抑制する転がり軸受が記載されている。しかし、特許文献1乃至4に記載された転がり軸受では、構造が複雑となるために、加工コストが上昇するという問題があった。
【0007】
さらに、引用文献5、6には、軸受空間内部に低活性ガスや不活性ガスを充填した転がり軸受が記載されている。しかし、引用文献5に記載の転がり軸受は、タイヤ内に充填された前記低活性ガスや不活性ガスを転がり軸受の軸受空間内に充填するため、タイヤ内と軸受空間内部とを繋ぐガス供給経路が必要となり、加工コストが上昇するという問題がある。また引用文献6に記載の転がり軸受は、製造工程において前記低活性ガスや不活性ガスを転がり軸受の軸受空間内に充填するため、そのための設備が新規に必要となるため、製造コストが大幅に上昇する、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−76751号公報
【特許文献2】特開2005−121164号公報
【特許文献3】特開2005−226826号公報
【特許文献4】特開2007−321917号公報
【特許文献5】特開2008−13085号公報
【特許文献6】特開2008−14430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上述のようにコストを上昇させることなく、密封される軸受空間内部と軸受空間外部との間に気圧差が生じることを防止し、それにより泥、水等の異物の軸受空間内部への侵入、及び密封部材の摺接部の張り付きによるトルク増大を抑制した転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内周に軌道溝を有する外輪部材と、外周に軌道溝を有する内輪部材と、前記外輪部材と前記内輪部材の間に転動可能に配置された複数の転動体と、前記外輪部材と前記内輪部材との間の軸受空間を密封する密封部材と、を備える転がり軸受において、
前記軸受空間に、不揮発性の半固体と不揮発性の固体のうち、少なくとも一方を充填することを特徴とする転がり軸受。
(2)前記不揮発性の固体は、前記外輪部材、前記内輪部材、保持器、及び前記密封部材とは別体の環状部材であることを特徴とする(1)に記載の転がり軸受。
(3)前記不揮発性の固体は、前記外輪部材、前記内輪部材、保持器、及び前記密封部材のうち少なくとも一方と一体となっていることを特徴とする(1)の転がり軸受。
(4)前記不揮発性の固体は、前記固体の内部と軸受空間とが通気していない中空体または多孔質体であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の転がり軸受。
(5)前記不揮発性の固体は、内部に不揮発性の液体または半固体を含む中空体または前記多孔質体であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の転がり軸受。
(6)前記不揮発性の半固体は、グリースであることを特徴とする(1)乃至(5)に記載の転がり軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明の転がり軸受によれば、軸受空間内部の気圧変動の原因となる空気等の気体を軸受空間から排除することができるため、密封される軸受空間内部と軸受空間外部との間で気圧差が生じることが防止される。その結果、軸受空間の内外の気圧差に起因する、泥、水等の異物の軸受空間内部への侵入、および前記密封部材の内輪部材との摺接部の張り付きによるトルク増大を、コストの上昇を最小限に抑えた上で、抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。
【図10】本発明の第4実施形態に係る車輪支持用転がり軸受の部分断面図である。
【図11】本発明の第5実施形態に係る車輪支持用転がり軸受の部分断面図である。
【図12】本発明の第5実施形態に係る車輪支持用転がり軸受の要部拡大図である。
【図13】本発明の第5実施形態に係る車輪支持用転がり軸受の部分断面図である。
【図14】本発明の第5実施形態に係る車輪支持用転がり軸受の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態の説明において、「一体」とは単一部材で形成されたものを示し、「別体」とは、接着、圧入、嵌合等により固定されたものであっても、複数部材から構成されたものを示す。
(第1実施形態)
【0014】
図1は本発明の第1実施形態に係る転がり軸受の部分断面図である。本実施形態に係る転がり軸受10は、内周に軌道溝を有する外輪2と、外周に前記外輪軌道溝と対向する軌道溝を有する内輪3と、外輪2と内輪3との間に転動自在に配置された複数の転動体4と、前記転動体4を転動自在に保持する保持器5と、外輪2と内輪3との間の軸受空間S11、S12を軸方向にそれぞれ一方向ずつから密封するための一対のシール部材6、7と、を備える。この転がり軸受10は、内輪回転で使用され、このシール部材6、7は、固定輪である外輪2の内周面に取り付けられ、回転輪である内輪3の外周面に摺接している。
【0015】
前記軸受空間S11、S12、すなわち、転動体4とシール部材6、7との間の空間S11、S12には、不図示の不揮発性の半固体が充填してある。このような構成により、軸受空間S11、S12に存在していた、気圧変動の原因となる空気等の気体を軸受空間S11、S12から排除することができるため、密封される軸受空間S11、S12内部と外部との間で気圧差が生じることが防止される。その結果、軸受空間S11、S12内外の気圧差に起因する、泥、水等の異物の軸受空間S11、S12内部への侵入、および前記シール部材の内輪3との摺接部の張り付きによるトルク増大を抑制することが可能となる。
【0016】
また、従来構造の転がり軸受を用いることが可能なので、設計変更等の手間が必要なく、コストの増加も最小限に抑えることが可能となる。この軸受空間S11、S12内部に充填する前記不揮発性の半固体は、転がり軸受10の潤滑に寄与するグリースであることが好ましい。
(第2実施形態)
【0017】
次に、図2を参照して、本発明に係る転がり軸受の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一または同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0018】
本実施形態に係る転がり軸受20は、軸受空間S11、S12に不揮発性の固体が充填されている。すなわち、図2に示すように、転動体4とシール部材6、7との間の空間S11、S12には、前記空間S11、S12に沿い、かつ転がり軸受20の動作を妨げない形状を有する、不揮発性の固体からなる環状部材28a、28bが、シール部材6、7に取り付けられている。
【0019】
このような構成により、軸受空間S11、S12に存在していた、気圧変動の原因となる空気等の気体を軸受空間S11、S12から排除することができるため、密封された軸受空間S11、S12内部と外部との間で気圧差が生じることが防止される。その結果、軸受空間S11、S12内外の気圧差に起因する、泥、水等の異物の軸受空間S11、S12内部への侵入、および前記シール部材の内輪3との摺接部の張り付きによるトルク増大を抑制することが可能となる。
【0020】
この軸受空間S11、S12内部に充填する前記不揮発性の固体は、金属、セラミック、プラスチック等、揮発性の固体でなければ何でも良い。また、前記固体を、前記固体の内部と軸受空間とが通気していない中空体としても良い。もしくは、前記固体を、ポリエステルやポリアミド等の合成樹脂や、ステンレス鋼やニッケル等の金属、合金等でできた多孔質体を、前記固体の内部と軸受空間とが通気しないようにコーティングをした形態としても良い。この場合、転がり軸受20の重量の増加が低く抑えられる。また、軸受空間S11、S12内部に充填する前記不揮発性の固体を、内部に不揮発性の液体または半固体を含ませた中空体または多孔質体、より詳細には潤滑剤含有ポリマ等の固体潤滑剤としても良く、この場合、不揮発性の固体が転動体や軌道溝と接触しても、転動体や軌道溝を傷付けない上に、潤滑性の向上も可能となる。
【0021】
さらには、図3に示すように、不揮発性の固体をシール部材36、37と一体としても良く、外輪(内輪回転の場合は内輪)と一体としても良い。このような構成とした場合、転がり軸受30の組立性を向上することが可能となる。さらに、軸受空間S11、S12から不揮発性の固体を除いた空間に不揮発性の半固体を充填しても良く、この場合、軸受空間S11、S12内の気体の量が最小限に抑えられるため、本発明の効果が一層顕著となる。その他の構成および作用効果は、第1実施形態と同様である。
(第3実施形態)
【0022】
図4〜9は、本発明の第3実施形態を示す要部断面図である。第2実施形態におけるシール部材28a、28b(図2参照)と同様に、保持器にも不揮発性固体からなる部材を取付けている。図4、7は、図2における保持器25に、不揮発性固体を取付けた保持器25A、保持器25Bを、半径方向(図2のA矢印方向)から見て平面上に展開した図である。図4〜6は、この保持器25が従来より用いられている波型保持器25Aである場合を示す図である。図4に示すように、この保持器25Aの、転動体4、4を保持するポケット部25a、25aの外側面25b、25b間に存在する空隙を埋めるために、不揮発性固体から成る円筒部材29a、29b、29cが保持器25に取付けられている。
【0023】
図5は図4をB矢印方向から、図6は図4をC矢印方向から見た断面拡大図である。前記円筒部材29a、29b、29cは、保持器25Aと外輪2及び内輪3との間に形成される空間や、外輪2の軌道面2aおよび内輪3の軌道面3a上の、転動体4、4の間に形成される空間を埋め、かつ転がり軸受20の動作を妨げない形状を有している。
【0024】
次に、図7は、図2における保持器25が冠型保持器25Bである場合を示す図である。この保持器25Bでは、保持器25Bの、転動体4、4を保持するポケット部25c、25cとの間に存在する空間を埋めるために、不揮発性固体から成る円筒部材29d、29e、29fが保持器25Bに取付けられている。図8は図7をD矢印方向から、図9は図7をE矢印方向から見た断面拡大図である。前記円筒部材29d、29e、29fは、保持器25Bと外輪2及び内輪3との間に形成される空間や、外輪2の軌道面2aおよび内輪3の軌道面3a上の、転動体4、4の間に形成される空間を埋め、かつ転がり軸受20の動作を妨げない形状を有している。
【0025】
この円筒部材29a〜29fは、図4〜9のように別部材ではなく、連続した一部材としても良く、保持器25と一体としても良い。また円筒部材29a〜29fを転がり軸受20の円周方向に分割し、組み付け性の良い形状としてもよい。さらに、この円筒部材29a〜29fは上記の波型保持器25A及び冠型保持器25Bに限定されず、もみ抜き保持器等、どのような形状でも、適応できる。この際、図8のように、保持器25の形状に合わせ、シール部材6、7に取り付ける環状部材28c、28dの形状を適宜変更することが好ましい。その他の構成および作用効果は、第1及び第2実施形態と同様である。
(第4実施形態)
【0026】
図10は、本発明を車輪支持用転がり軸受に適用したものである。本例に係る転がり軸受100は、内周面に2列の軌道溝を有する外輪部材120と、外周面に前記外輪120の軌道溝に対向する2列の軌道溝を有する内輪部材130と、外輪部材120と内輪部材130の2列の軌道溝間に転動自在に配置された複数の転動体141、142と、転動体141、142を転動自在に保持する保持器151、152と、外輪部材120と内輪部材130との間の軸受空間S101、S102、S103を軸方向にそれぞれ一方向ずつから密封するためのシール部材160、170と、を備える。
【0027】
図10に示すように、外輪部材120は、不図示の車両の車体側に取付固定するための複数の固定フランジ121を周方向に所定の間隔で有している。また、内輪部材130は、外輪部材120内に同軸線上に配置されるハブ本体131と、ハブ本体131と別体に形成され、ハブ本体131の外周面の軸方向車両中心側端部に外嵌固定される内輪132と、から構成される。ハブ本体131は、不図示の車両の車輪側に接続するための、径方向外方に向かって延びる複数の取付フランジ133を、周方向に所定の間隔で、軸方向車両外側端部に有している。さらに、この転がり軸受100は、内輪回転で使用され、シール部材160、170は、固定輪である外輪部材120の内周面に取り付けられ、回転輪である内輪部材130の外周面に摺接している。
【0028】
本実施形態に係る転がり軸受100において、前記軸受空間S101、S102、S103、すなわち、転動体141、142とシール部材160、170との間の空間S101、S102、および転動体141と転動体142との間の空間S103には、不図示の不揮発性の半固体が充填してある。これにより、軸受空間S101、S102、S103に存在していた、気圧変動の原因となる空気等の気体を、軸受空間S101、S102、S103から排除することができるため、密封される軸受空間S101、S102、S103内部と外部との間に気圧差が生じることが防止される。その結果、軸受空間S101、S102、S103内外の気圧差に起因する、泥、水等の異物の軸受空間S101、S102、S103内部への侵入、および前記シール部材160、170の内輪部材130との摺接部の張り付きによるトルク増大を抑制することが可能となる。
【0029】
また、従来構造の転がり軸受を用いることが可能なので、設計変更等の手間が必要なく、コストの上昇も最小限に抑えることが可能となる。この軸受空間S101、S102、S103内部に充填する前記不揮発性の半固体は、転がり軸受100の潤滑に寄与するグリースであることが好ましい。
(第5実施形態)
【0030】
次に、図11、12を参照して、本発明に係る転がり軸受の第5実施形態について説明する。なお、第4実施形態と同一または同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0031】
本実施形態に係る転がり軸受200には、軸受空間S103に不揮発性の固体が充填されている。すなわち、図11に示すように、2列の転動体141、142の間に、不揮発性の固体からなる環状部材280を備える。この環状部材280は、固定輪である外輪部材120の内周面に近接しており、回転輪である内輪部材130の外周面とは隙間を有して対向している。
【0032】
上記のように転動体141と転動体142との間の軸受空間S103に環状部材280を設けたことで、軸受空間S101、S102、S103のうち最も空間容積の大きい空間S103内に存在していた、気圧変動の原因となる空気等の気体を軸受空間S103から排除することができるため、密封された軸受空間S103内部と外部との間で気圧差が生じることが防止される。その結果、軸受空間S101、S102、S103内外の気圧差に起因する、泥、水等の異物の軸受空間S101、S102、S103内部への侵入、および前記シール部材160、170の内輪部材130との摺接部の張り付きによるトルク増大を抑制することが可能となる。
【0033】
図12は、図11における軸受空間S101近傍の拡大図である。本発明に係る転がり軸受200は、従来の転がり軸受同様のシール部材を備える。すなわち、図12に示すように、シール部材160は、補強部材に相当する芯金161と、スリンガ162と、弾性部材163と、で構成されている。本実施形態に係る転がり軸受200において、軸受空間S101に沿い、かつ転がり軸受200の動作を妨げない形状を有する、不揮発性の固体からなる環状部材281を、このシール部材160の芯金161に取付けることが好ましい。さらに軸受空間S102側のシール部材170にも、同様の不揮発性の固体からなる環状部材を取付けることが好ましい。このような構成により、軸受空間S101、S102、S103内に存在していた、気圧変動の原因となる空気等の気体を、より少なくすることが可能となる。
【0034】
この軸受空間S101、S102、S103内部に充填する前記不揮発性の固体は、金属、セラミック、プラスチック等、揮発性の固体でなければ何でも良い。また、前記固体を、前記固体の内部と軸受空間とが通気していない中空体としても良い。もしくは、前記固体を、ポリエステルやポリアミド等の合成樹脂や、ステンレス鋼やニッケル等の金属、合金等でできた多孔質体を、前記固体の内部と軸受空間とが通気しないようにコーティングをした形態としても良い。この場合、転がり軸受20の重量の増加が低く抑えられる。また、軸受空間S101、S102、S103内部に充填する前記不揮発性の固体を、内部に不揮発性の液体または半固体を含ませた中空体または多孔質体、より詳細には潤滑剤含有ポリマ等の固体潤滑剤としても良く、この場合、不揮発性の固体が転動体や軌道溝と接触しても、転動体や軌道溝を傷付けない上に、潤滑性の向上も可能となる。
【0035】
さらには、図13、14に示すように、前記不揮発性の固体からなる環状部材を外輪部材320(内輪回転の場合は内輪部材)やシール部材360、370と一体としても良く、第3実施形態のように保持器と一体としても良い。このような構成とした場合、転がり軸受300の組立性を向上することが可能となる。さらに、軸受空間S101、S102、S103から不揮発性の固体を除いた空間に、不揮発性の半固体を充填しても良く、この場合、軸受空間S101、S102、S103内の気体の量が最小限に抑えられるため、本発明の効果が一層顕著となる。その他の構成および作用効果は、第4実施形態と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の実施形態では、内輪回転の玉軸受、および車輪支持用転がり軸受について説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、密封部材を備えるものであれば、どのような転がり軸受及び転がり軸受にも、更にはリニアガイドやボールねじ等にも適用が可能である。また、上記実施形態のように、密封部材がシール部材でなくカバー部材(例えば特許文献3の図17のような形状)といった場合でも、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
10、20、30 転がり軸受
2 外輪
2a 外輪軌道面
3、132 内輪
3a 内輪軌道面
4、141、142 転動体
5、25、25A、25B、151、152、 保持器
25a、25c 保持器ポケット部
25b 保持器ポケット部外側面
6、7、36、37、160、170、360、370 シール部材
28a、28b、28c、28d、280、281 環状部材
29a、29b、29c、29d、29e、29f 円筒部材
100、200、300 車輪支持用転がり軸受
120、320 外輪部材
121 固定フランジ
130 内輪部材
131 ハブ本体
133 取付フランジ
161、381 芯金
162 スリンガ
163 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に軌道溝を有する外輪部材と、外周に軌道溝を有する内輪部材と、前記外輪部材と前記内輪部材の間に転動可能に配置された複数の転動体と、前記外輪部材と前記内輪部材とで囲まれた空間を密封する密封部材と、を備える転がり軸受において、
前記外輪部材及び前記内輪部材とで囲まれた軸受空間に、不揮発性の半固体または不揮発性の固体のうち、少なくとも一方を充填することを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記不揮発性の固体は、前記外輪部材、前記内輪部材、保持器、及び前記密封部材とは別体である環状部材であることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記不揮発性の固体は、前記外輪部材、前記内輪部材、保持器、及び前記密封部材のうち少なくとも一方と一体となっていることを特徴とする請求項1の転がり軸受。
【請求項4】
前記不揮発性の固体は、固体内部空間と軸受空間とが通気していない中空体または多孔質体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記不揮発性の固体は、内部に不揮発性の液体または半固体を含む中空体または前記多孔質体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記不揮発性の半固体は、グリースであることを特徴とする請求項1乃至5に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−133057(P2011−133057A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293831(P2009−293831)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】