説明

転がり軸受

【課題】グリース潤滑される内輪回転の密封装置付き転がり軸受において、密封装置付着グリースの基油を有効活用し、軸受の長寿命化を図った転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受は、内外輪1,2と、これら内外輪1,2間に介在する複数の転動体3と、外輪2に設けられ内外輪1,2間の軸受空間を塞ぐ密封装置5とを備えた転がり軸受である。密封装置5の内壁面に、毛細管現象を生じる材料から成りグリースの基油を移動させる円環状の基油移動媒体6を設け、この基油移動媒体6の内周縁部を内輪1の外径面1aに接触させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、グリース潤滑される密封装置付きの転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の潤滑方法として、グリース潤滑、エアオイル潤滑等がある。エアオイル潤滑は、強制的に軸受外部から軌道輪および転動体に潤滑油を供給するため、高速性に優れる。しかし、付帯設備としてエアオイル供給装置を要し、大量のエアを消費することから、コスト、騒音、省エネルギー、省資源の観点から問題がある。また、オイルの飛散によって環境を悪化させる問題もある。
【0003】
これに対し、グリース潤滑は、エアオイル潤滑に比べ高速性で劣るものの、付帯設備が不要でありメンテナンスフリーであることから広く用いられている。このグリース潤滑で使用される軸受に密封装置を設ければ、軸受外部へのグリースの飛散を防止でき、周囲環境への影響も少ないという利点もある。
しかし、グリース潤滑は、軸受組立時に封入されたグリースのみで潤滑するため、高速運転すると、軸受発熱によるグリースの劣化や、軌道面、特に内輪での油膜切れのため、早期に軸受寿命に至ってしまう場合がある。
【0004】
グリース潤滑される軸受を高速化する試みとして、保持器内径面や内輪外径面を、端面から中心側に近づく程大径となる斜面構造として、ポンプ作用によりオイルミストを転動体側へ誘導する提案がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−161943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記提案の技術を含め、一般にグリース潤滑される軸受は、軸受組立時に封入されたグリースが軌道輪の軌道面に存在するため、慣らし運転を行ってから使用される。このとき、軌道面に存在していたグリースは転動体に踏まれ、グリースの一部は軌道面の端に掻き分けられ、一部は飛散し、軸受両端に設けられた密封装置の内壁面に付着する。軌道輪に残存したグリースから分離した基油の大半は軌道面に供給され潤滑に寄与するが、密封装置の内壁面に付着したグリース(以下、このグリースを「密封装置付着グリース」と記す。)の潤滑への寄与率は小さい。グリース潤滑される軸受の寿命は、使用条件が適切であれば、多くの場合グリースの寿命で決まるため、前記密封装置付着グリースをより有効活用できれば、従来と同量のグリース封入量で軸受の寿命を延ばすことが可能となる。
【0007】
この発明の目的は、グリース潤滑される内輪回転の密封装置付き転がり軸受において、密封装置付着グリースの基油を有効活用し、軸受の長寿命化を図った転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の転がり軸受は、内外輪と、これら内外輪間に介在する複数の転動体と、前記外輪に設けられ内外輪間の軸受空間を塞ぐ密封装置とを備えた転がり軸受において、前記密封装置の内壁面に、毛細管現象を生じる材料から成りグリースの基油を移動させる円環状の基油移動媒体を設け、この基油移動媒体の内周縁部を内輪の外径面に接触させたことを特徴とする。
【0009】
内外輪間の軸受空間にグリースが封入されている。軸受の運転により軌道面に存在していたグリースは転動体に踏まれ、グリースの一部が軌道面の端に掻き分けられ、一部は飛散し、軸受両端に設けられた密封装置の内壁面に付着する。
この構成によると、グリースの基油を移動させる基油移動媒体を密封装置の内壁面に設け、前記基油移動媒体の内周縁部を内輪の外径面に接触させたため、前記密封装置の内壁面に付着した密封装置付着グリースのうち潤滑に必要な基油のみを、毛細管現象によって、基油移動媒体を介して内輪外径面に付着させる。内輪が回転すると、前記内輪外径面に付着した基油を遠心力、表面張力により潤滑に寄与させ得る。これにより、同量のグリースを封入した従来の密封装置付き転がり軸受より、長寿命化を図ることが可能となる。
【0010】
前記内輪の外径面に、端面側から軌道面側に近づく程大径となり、前記基油移動媒体の内周縁部が接触する斜面を設けても良い。この場合、内輪が回転すると、内輪外径面に付着した基油は、遠心力と表面張力とによって前記斜面に付着しつつ大径側つまり内輪の軌道面側に移動する。以下、前記遠心力と表面張力とによる基油の流れを「付着流れ」と記す。
上記2つの作用すなわち毛細管現象の作用および付着流れの作用により、密封装置付着グリースが軸受の潤滑に寄与する。軸受の慣らし運転を行うと、密封装置付着グリースの基油は、毛細管現象の作用により基油移動媒体を介して内輪外径面に供給される。この内輪外径面に供給された基油は、付着流れにより軸受の中心に移動して潤滑に寄与する。
【0011】
前記内輪における外径面の斜面の斜面角度を、軸受の許容回転速度または使用回転速度で回転させた場合に、基油が遠心力で前記斜面を軌道面側へ流れる角度としても良い。前記「許容回転速度」は、転がり軸受のカタログに記載された値であり、軸受寸法に応じて定められる。回転速度によってグリースに働く遠心力が異なる。具体的には、回転速度が高くなればなる程、斜面に付着したグリースに働く遠心力が大きくなり、内輪外径面に供給された基油が、軸受の中心に移動し易くなり潤滑に大きく寄与する。
【0012】
前記基油移動媒体および内輪の外径面の斜面を、軸受の片側のみまたは両側に設けても良い。
前記内輪の外径面の斜面角度をαとし、軸受のピッチ円直径をdm(mm)とし、回転速度をn(min-1)としたとき、斜面角度αが次式で与えられるものであっても良い。
α≧0.056・dm・n・10−4−2
この式は、斜面を持つ内径70mmと100mm軸受の擬似内輪を用いて実施した実験結果を基にしている。内輪の斜面(角度変更実施)にエアオイルを利用して油を付着させ,付着流れの有無を目視にて観察する方法で実施した。
斜面での付着流れの考え方として、斜面に油が付着すればエアオイルの油,グリースの基油の差はないと考える。
【0013】
前記密封装置は、弾性体を芯金で補強して形成されるシール、または鋼板から成るシールドであっても良い。
前記基油移動媒体における内周縁部の全周を、内輪の外径面に接触させたものであっても良い。この場合、密封装置付着グリースから内輪外径面に移動する単位時間あたりの基油移動量を大きくすることができる。これにより、転がり軸受を高速かつ中・高荷重で使用することが可能となる。
【0014】
前記基油移動媒体における内周縁部の一部を、内輪の外径面に接触させたものであっても良い。このように基油移動媒体における、内輪外径面との接触部を限定することで、密封装置付着グリースから内輪外径面に移動する単位時間あたりの基油移動量が減少する。これにより、基油をより長時間利用することができる。この様に接触部の長さを変えることで斜面への付着油量を調整でき、運転条件に応じた長寿命化が図れる。
【0015】
前記基油移動媒体の材料を毛細管現象が生じる和紙、織布(不織布を含む)、および皮革の少なくともいずれか1つとしても良い。
前記内輪の外径面に対し密封装置を非接触としても良い。例えば、低発熱・省エネルギーの観点から低トルクが望まれる工作機械用軸受、一般産業機械モータ用軸受等では、前記密封装置を非接触とすると良い。
前記内輪の外径面に対し密封装置を接触するものとしても良い。例えば、防塵・防水性を重視する鉄道車両用軸受、自動車用軸受、風車用軸受等では、前記密封装置を接触とすると良い。
【0016】
前記内外輪間の軸受空間に封入するグリースの一部を、前記密封装置の内壁面に付着させても良い。軸受の運転により、軌道面の端等から外輪内径面に飛散し付着したグリースの基油が、密封装置の内壁面に付着させたグリースの基油と繋がる。これにより、密封装置付着グリース中の基油を内輪外径面に円滑に供給することが可能となる。このように従来、潤滑に殆んど寄与しない密封装置の内壁面に存するグリースの一部の基油が、基油移動媒体を介して内輪外径面に付着した後、軸受の潤滑に寄与する。これにより、従来と同量のグリース封入量で軸受の寿命を延ばすことが可能となる。また、軌道面近傍に封入するグリース量を削減することができるため、初期慣らし運転時間の短縮が図れる。
前記転がり軸受が工作機械に用いられるものであっても良い。
前記転がり軸受がモータロータを支持するものであっても良い。
前記転がり軸受が自動車に用いられるものであっても良い。
前記転がり軸受が風車に用いられるものであっても良い。
【発明の効果】
【0017】
この発明の転がり軸受は、内外輪と、これら内外輪間に介在する複数の転動体と、前記外輪に設けられ内外輪間の軸受空間を塞ぐ密封装置とを備えた転がり軸受において、前記密封装置の内壁面に、毛細管現象を生じる材料から成りグリースの基油を移動させる円環状の基油移動媒体を設け、この基油移動媒体の内周縁部を内輪の外径面に接触させたため、グリース潤滑される内輪回転の密封装置付き転がり軸受において、密封装置付着グリースの基油を有効活用し、軸受の長寿命化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図2】同転がり軸受の要部の拡大断面図である。
【図3】(A)は、この発明の他の実施形態に係る転がり軸受の断面図、(B)は同転がり軸受の基油移動媒体の内周縁部のみを軸方向から示す側面図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の基油移動媒体の内周縁部のみを軸方向から示す側面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。
この実施形態に係る転がり軸受は、図1に示すように、内輪1、外輪2、複数の転動体3、保持器4、密封装置5、および基油移動媒体6とを備えている。この例の転がり軸受はアンギュラ玉軸受が適用され、内輪回転形とされる。但し、転がり軸受はアンギュラ玉軸受に限定されるものではない。転がり軸受として、例えば、深溝玉軸受、円筒ころ軸受、または円錐ころ軸受を適用することも可能である。転動体3はボールから成る。複数の転動体3は内外輪1,2間に介在され、前記保持器4により回転可能に保持されている。内外輪1,2間の軸受空間の両端は密封装置5,5で塞がれ、軸受内部にグリースが封入されている。
保持器4は外輪内周面に案内される外輪案内形式でありリング状に形成される。この保持器4には、円周方向一定間隔おきに転動体3を保持するポケットPtが形成されている。各ポケットPtは、保持器4を径方向内外に貫通する円筒孔形状に形成される。
【0020】
密封装置等について説明する。
図1、図2に示すように、外輪2には、密封装置5として鋼板から成るシールドを両側に取付け、この軸受を密封形の転がり軸受としている。外輪2の内径面の両端部には、この外輪内径よりも半径方向外方に凹む密封装置固定溝2aが形成されている。内輪1の両側の外径面1aに、端面側から軌道面1b側に近づく程大径となり、基油移動媒体6の内周縁部6aが接触する斜面(後述する)が設けられている。
図2に示すように、密封装置5の半径方向外方の基端部8は前記密封装置固定溝2aに固定される。この密封装置5の半径方向内方の先端部9は、先端に向かうに従って軸受内側に向かう断面略L字形状に形成されると共に、内輪1の外径面1aに接触しないように所定小距離隙間δが形成されている。この隙間δはシール効果が得られる程度の大きさに定められている。このように本例では、内輪1の外径面1aに対し密封装置5を非接触としている。
【0021】
密封装置5のうち前記基端部8に繋がる中間部10は、傾斜部10aと立板部10bとを含む。つまり密封装置5において、基端部8の内周縁部に、半径方向内方に向かうに従って軸受外側に傾斜する傾斜部10aが繋がり、この傾斜部10aの内周縁部に立板部10bが繋がる。立板部10bは軸受軸方向に垂直な平面に沿って設けられ、この立板部10bの内周縁部に前記先端部9が繋がっている。
【0022】
密封装置5の内壁面に、毛細管現象を生じる材料から成る円環状の基油移動媒体6を設けている。密封装置5の内壁面のうち、基端部8の内周部分、傾斜部10a、および立板部10bにわたって基油移動媒体6が固着されている。この基油移動媒体6の内周縁部6aの全周を、内輪1の外径面1aに接触させている。具体的に基油移動媒体6の内周縁部6aは、先端に向かうに従って軸受内側に傾斜し、且つ、断面略L字形状の前記先端部9に保持されている。基油移動媒体6の材料として、例えば、和紙、織布(不織布を含む)、および皮革の少なくともいずれか1つが適用される。
また、内外輪1,2間の軸受空間に封入するグリースの一部を、密封装置5の内壁面に付着させている。この内壁面に付着させたグリースを「密封装置付着グリースGr」と称す。この例では、密封装置付着グリースGrを軸受の運転により密封装置5の内壁面に付着させているが、後述するように、軸受組立時において密封装置付着グリースGrを密封装置5の内壁面に付着させても良い。
【0023】
内輪1の外径面1aに前記斜面が設けられている。この例では、外径面1a全体を斜面としているが、内輪1の外径面1aの一部を斜面としても良い。
回転速度によってグリースに働く遠心力が異なるため、内輪1の外径面1aの軸方向L1に対する傾斜角度は、軸受の許容回転数または使用回転数に対応して設定することが好ましい。その際、内輪1の外径面1aの傾斜角度をαとし、軸受のピッチ円直径をdm(mm)(図1)とし、回転速度をn(min-1)としたとき、次式を用いて傾斜角度αを与えると、内輪1の斜面に付着した基油が軌道面1bに移動し潤滑に寄与するため、より好適である。
【0024】
α≧0.056・dm・n・10−4−2
ここで、ピッチ円直径dm(mm)に回転速度n(min-1)を乗じた値は、dmn値と称される。
【0025】
軸受の運転により軌道面に存在していたグリースは転動体3に踏まれ、グリースの一部が軌道面の端に掻き分けられ、一部は飛散し、軸受両端に設けられた密封装置5の内壁面に付着する。以上説明した転がり軸受によると、基油移動媒体6を密封装置6の内壁面に設け、この基油移動媒体6の内周縁部6aを内輪1の外径面1aに接触させたため、密封装置6の内壁面に付着した密封装置付着グリースGrのうち潤滑に必要な基油のみを、毛細管現象によって、基油移動媒体6を介して内輪1の外径面1aに付着させる。内輪1が回転すると、前記内輪1の外径面1aに付着した基油は、遠心力と表面張力とにより前記斜面に付着しつつ内輪1の軌道面1b側に移動する。
このように2つの作用すなわち毛細管現象の作用および前記付着流れの作用により、密着装置付着グリースGrが軸受の潤滑に寄与する。
【0026】
前記軸受空間に封入するグリースの一部を、軸受組立時に密封装置5の内壁面に付着させた場合、軸受の運転により、軌道面の端等から外輪2の内径面に飛散して付着したグリースの基油が、密封装置5の内壁面に付着させたグリースの基油と繋がる。これにより、密封装置付着グリース中の基油を内輪外径面1aに円滑に供給することが可能となる。このように従来、潤滑に殆んど寄与しないグリースの一部の基油が、基油移動媒体6を介して内輪1の外径面1aに付着した後、軸受の潤滑に寄与する。これにより、従来と同量のグリース封入量で軸受の寿命を延ばすことが可能となる。また、軌道面近傍に封入するグリース量を削減することができるため、初期の慣らし運転時間の短縮を図ることができる。
【0027】
基油移動媒体6における内周縁部6aの全周を、内輪1の外径面1aに接触させたため、密封装置付着グリースGrから内輪1の外径面1aに移動する単位時間あたりの基油移動量を大きくすることができる。これにより、転がり軸受を高速かつ中・高荷重で使用することが可能となる。
密封装置5の内壁面のうち、基端部8の内周部分、傾斜部10a、および立板部10bにわたって基油移動媒体6が固着されている。さらに基油移動媒体6の内周縁部6aは、先端に向かうに従って軸受内側に傾斜し、且つ、断面略L字形状の先端部9に保持されているため、密封装置付着グリースGrを、傾斜部10a、立板部10b、および先端部9で断面略凹形状に囲まれた環状凹溝内に安定して付着させることができる。複雑な構造を設けることなく、前記環状凹溝内に安定して付着させた密封装置付着グリースGrから基油のみを徐々に供給することが可能となる。
内輪1の外径面1aに対し密封装置5を非接触としたため、この転がり軸受を、例えば、低発熱・省エネルギーの観点から低トルクが望まれる工作機械用軸受、一般産業機械モータ用軸受等として好適に用いることができる。
【0028】
この発明の他の実施形態を説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0029】
図3(A)および(B)に示すように、基油移動媒体6における内周縁部6aの一部を、内輪1の外径面1aに接触させたものであっても良い。図3(B)は、図3(A)の転がり軸受の基油移動媒体6の内周縁部6aのみを軸方向から示す側面図である。
基油移動媒体6における内周縁部6aには、円周方向一定間隔おきに半径方向外方に凹む凹形状部6aaが設けられている。内周縁部6aは凹形状部6aaと凸形状部6abとが円周方向に隣接して設けられ、これらのうち複数(この例では8つ)の凸形状部6abを、内輪1の外径面1aに接触させている。このように基油移動媒体6における、内輪外径面1aとの接触部を限定することで、密封装置付着グリースGrから内輪外径面1aに移動する単位時間あたりの基油移動量が減少する。これにより、基油をより長時間利用することができる。
【0030】
図4は、さらに他の実施形態に係る転がり軸受の基油移動媒体の内周縁部のみを軸方向から示す側面図である。同図に示すように、基油移動媒体6における内周縁部6aにおいて、円周方向180度の範囲の中間部分を凹形状部6aaとし、残りの中間部分を凸形状部6abとしても良い。この場合にも図3と同様に、密封装置付着グリースGrから内輪外径面1aに移動する単位時間あたりの基油移動量が減少するため、基油をより長時間利用することができる。
【0031】
内輪1の外径面1aを斜面とする構成に代えて、図5に示すように、内輪1の両側の外径面1aを、軸方向に平行な平坦面としても良い。この場合、毛細管現象によって密封装置付着グリースGr中の潤滑に必要な基油のみを基油移動媒体6を介して内輪1の外径面1aに付着させ、潤滑に寄与させ得る。
図6に示すように、密封装置5として、弾性体5aを芯金5bで補強して形成されるシールを適用しても良い。図6の例では、内輪1の外径面1aに、シールリップ5cが接触する環状のシール溝1cが形成され、シールとして接触シールが用いられている。また、転がり軸受として深溝玉軸受が適用され、保持器4として鉄板波形保持器が適用されている。
図7に示すように、密封装置5としてシールを適用し、内輪1の外径面1aを図5と同様に軸方向に平行な平坦面としても良い。
例えば、防塵・防水性を重視する鉄道車両用軸受、自動車用軸受、風車用軸受等では、図6、図7に示すように密封装置5を接触式とすると良い。
【0032】
使用条件によっては、密封装置および基油移動媒体を、軸受の片側のみに設けても良い。この場合に基油移動媒体が設けられた片側の内輪外径面のみに斜面を、設けても良い。
図6、図7では接触シールを用いているが、非接触シールを適用することも可能である。
各実施形態の転がり軸受において、保持器なしの構成にすることも可能である。
【符号の説明】
【0033】
1…内輪
1a…外径面
2…外輪
3…転動体
5…密封装置
6…基油移動媒体
6a…内周縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪と、これら内外輪間に介在する複数の転動体と、前記外輪に設けられ内外輪間の軸受空間を塞ぐ密封装置とを備えた転がり軸受において、
前記密封装置の内壁面に、毛細管現象を生じる材料から成りグリースの基油を移動させる円環状の基油移動媒体を設け、この基油移動媒体の内周縁部を内輪の外径面に接触させたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記内輪の外径面に、端面側から軌道面側に近づく程大径となり、前記基油移動媒体の内周縁部が接触する斜面を設けた転がり軸受。
【請求項3】
請求項2において、前記内輪における外径面の斜面の斜面角度を、軸受の許容回転速度または使用回転速度で回転させた場合に、基油が遠心力で前記斜面を軌道面側へ流れる角度とした転がり軸受。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、前記基油移動媒体および内輪の外径面の斜面を、軸受の片側のみまたは両側に設けた転がり軸受。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4のいずれか1項において、前記内輪の外径面の斜面角度をαとし、軸受のピッチ円直径をdm(mm)とし、回転速度をn(min-1)としたとき、斜面角度αが次式で与えられる転がり軸受。
α≧0.056・dm・n・10−4−2
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記密封装置は、弾性体を芯金で補強して形成されるシール、または鋼板から成るシールドである転がり軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記基油移動媒体における内周縁部の全周を、内輪の外径面に接触させたものである転がり軸受。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記基油移動媒体における内周縁部の一部を、内輪の外径面に接触させたものである転がり軸受。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記基油移動媒体の材料を毛細管現象が生じる和紙、不織布を含む織布、および皮革の少なくともいずれか1つとした転がり軸受。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記内輪の外径面に対し密封装置を非接触とした転がり軸受。
【請求項11】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記内輪の外径面に対し密封装置を接触するものとした転がり軸受。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記内外輪間の軸受空間に封入するグリースの一部を、前記密封装置の内壁面に付着させた転がり軸受。
【請求項13】
請求項1ないし請求項10、請求項12のいずれか1項において、前記転がり軸受が工作機械に用いられるものである転がり軸受。
【請求項14】
請求項1ないし請求項10、請求項12のいずれか1項において、前記転がり軸受がモータロータを支持するものである転がり軸受。
【請求項15】
請求項1ないし請求項9、請求項11、請求項12のいずれか1項において、前記転がり軸受が鉄道車両に用いられるものである転がり軸受。
【請求項16】
請求項1ないし請求項9、請求項11、請求項12のいずれか1項において、前記転がり軸受が自動車に用いられるものである転がり軸受。
【請求項17】
請求項1ないし請求項9、請求項11、請求項12のいずれか1項において、前記転がり軸受が風車に用いられるものである転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−208662(P2011−208662A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74325(P2010−74325)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】