説明

転がり軸受

【課題】外輪と内輪との間に浸入した水等を適切に除去し、軌道面や転動体への錆の発生をより適切に防止することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】転動体が収容された収容空間における一方側の開口部KLの近傍(内輪部材の外周面または外輪部材の内周面)、または他方側の開口部KRの近傍(内輪部材の外周面または外輪部材の内周面)、の少なくとも1つには環状の錆止め部材が設けられ、錆止め部材が設けられている内輪部材20の外周面または外輪部材40の内周面は導電体で形成され、錆止め部材は、内輪部材の外周面または外輪部材の内周面の円周方向に沿って層状に設けられた環状の絶縁部材81a〜84aと、絶縁部材の上層に設けられて環状の導電体で形成された電極部材81b〜84bと、錆止め部材が設けられた内輪部材の外周面または外輪部材の内周面と電極部材との間に接続された電源手段81c〜84cと、で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に回転する内輪と外輪との間に転動体を有している転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、相対的に回転する内輪と外輪との間に転動体を有している転がり軸受は、種々の用途で種々の装置に利用されている。
内輪、外輪、転動体は主に金属で形成されているため、水等が浸入すると錆が発生する可能性があり、錆が発生すると転がり軸受の動作に影響が出る。一般的には、転動体の周囲には潤滑用のグリースが充填されているが、グリースが充填されていない個所が存在したり、グリースと転動体との間隙やグリースと軌道面との間隙に水が浸入したりする可能性がある。
そこで、水等の浸入による錆の発生を防止する種々の転がり軸受が開示されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載された従来技術には、外輪及び内輪の軌道面以外の表面に、錆の発生を防止するクロメート皮膜で覆うめっき処理を施した耐食性転がり軸受が開示されている。
また例えば特許文献2に記載された従来技術には、外輪及び内輪の側端面に防錆用の亜鉛めっき層と黄色クロメート層を積層し、黄色クロメート層が摩滅しないように軌道輪の製造工程を改良した転がり軸受の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−88974号公報
【特許文献2】特開2002−285355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載された従来技術では、クロメート皮膜が水を除去することはないので、クロメート皮膜に付着した水がクロメート皮膜の表面を伝って軌道面や転動体に到達して錆を発生させる可能性がある。
また特許文献2に記載された従来技術には、ゴム材によるシール構造とグリースについても記載されているが、ゴム材のシール構造を設けても、被水条件下で使用される場合や、ゴム材の経年劣化や摩耗等により、水が浸入して軌道面や転動体に到達して錆を発生させる可能性がある。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、外輪と内輪との間に浸入した水等を適切に除去し、軌道面や転動体への錆の発生をより適切に防止することができる転がり軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る転がり軸受は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、環状に配置される複数の転動体と、複数の前記転動体の外周側の軌道となる外周軌道面を有する外輪部材と、複数の前記転動体の内周側の軌道となる内周軌道面を有する内輪部材と、を有し、前記内輪部材に対して外周側に前記外輪部材が配置されて前記内輪部材の外周面と前記外輪部材の内周面との間に形成された収容空間に複数の前記転動体が転動可能に収容されている転がり軸受である。
前記収容空間における転がり軸受の回転軸方向の一方側と他方側には開口部が形成されており、一方側の前記開口部の近傍における前記内輪部材の外周面、または一方側の前記開口部の近傍における前記外輪部材の内周面、または他方側の前記開口部の近傍における前記内輪部材の外周面、または他方側の前記開口部の近傍における前記外輪部材の内周面、の少なくとも1つには、環状の錆止め部材が設けられており、少なくとも前記錆止め部材が設けられている前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面は導電体で形成されている。
そして前記錆止め部材は、前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面の円周方向に沿って層状に設けられた環状の絶縁部材と、当該絶縁部材の上層に設けられて前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面に対して前記絶縁部材にて絶縁された環状の導電体で形成された電極部材と、当該錆止め部材が設けられている前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面と前記電極部材との間に接続された電源手段と、で構成されている。
【0007】
この第1の発明によれば、図2(C)に示すように、浸入してきた水W2が電極部材82bと内輪部材(または外輪部材(この場合、内輪部材であるハブホイール20))との双方に接すると、電源手段82cによる電流経路Kiが形成されて水W2に電流が流れ、水W2が電気分解されて液体のH2Oから気体のH2とO2に還元され、水W2を除去する(消滅させる)。
このように、外輪と内輪との間に浸入した水等を適切に除去し、軌道面や転動体への錆の発生をより適切に防止することができる。
【0008】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る転がり軸受であって、前記外輪部材における一方側と他方側の前記開口部の近傍には、当該開口部を塞ぐように環状の密封部材が固定されており、前記内輪部材における一方側と他方側の前記開口部の近傍であって前記密封部材と対向している個所に隣接する外周面に、前記錆止め部材が設けられている。
【0009】
この第2の発明によれば、外輪部材の開口部の近傍に密封部材を固定し、密封部材に対向している内輪部材の外周面に隣接する個所に錆止め部材を設ける。
これにより、水等の浸入が予測されるより適切な位置に、無駄なく錆止め部材を配置することができる。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明に係る転がり軸受であって、前記内輪部材における一方側と他方側の前記開口部の近傍には、当該開口部を塞ぐように環状の密封部材が固定されており、前記外輪部材における一方側と他方側の前記開口部の近傍であって前記密封部材と対向している個所に隣接する内周面に、前記錆止め部材が設けられている。
【0011】
この第3の発明によれば、内輪部材の開口部の近傍に密封部材を固定し、密封部材に対向している外輪部材の内周面に隣接する個所に錆止め部材を設ける。
これにより、水等の浸入が予測されるより適切な位置に、無駄なく錆止め部材を配置することができる。
【0012】
次に、本発明の第4の発明は、上記第1の発明〜第3の発明に係る転がり軸受であって、前記電極部材は、当該電極部材が設けられた導電体である前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面の材質よりもイオン化傾向の高い材質の導電体で形成されており、前記電極部材には前記電源手段の正極が接続され、当該電極部材が設けられている前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面には前記電源手段の陰極が接続されている。
【0013】
この第4の発明によれば、浸入してきた水等を電気分解して除去することに加えて、当該電気分解中に、電極部材の材質にて内輪部材または外輪部材の表面をめっきコーティングすることができるので、より適切に錆の発生を防止することができる。
【0014】
次に、本発明の第5の発明は、上記第1の発明〜第4の発明に係る転がり軸受であって、前記電極部材は、前記絶縁部材に対して、前記回転軸方向の一方側または他方側の少なくともいずれかの方向に突出するように設けられている。
【0015】
この第5の発明によれば、図2(D)に示すように、内輪部材または外輪部材(この場合、内輪部材であるハブホイール20)と、電極部材82bとの間に微細な間隔ΔDを形成することができる。そして浸入してきた水等を、毛細管現象を利用してこの間隔ΔDの隙間に積極的に浸透させることができる。
これにより、仮に電気分解に時間がかかっても、電極部材の円周方向の全体の間隔ΔDの隙間に水等を浸透させることができるので、水等の浸入を適切に抑制し、軌道面や転動体への錆の発生をより適切に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の転がり軸受1の一実施の形態を説明する断面図、及び開口部KL、KRの拡大図である。
【図2】錆止め部材の構造と動作を説明する図である。
【図3】電源手段を磁石とコイルで構成して電池を省略する例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の転がり軸受を適用した車輪用転がり軸受装置1の、回転軸ZSを通る平面で切断した断面図を示している。
なお、本発明の転がり軸受は、種々の用途に利用可能であるが、特に被水条件下で使用される転がり軸受に適用することが好ましく、本実施の形態の説明では、車輪用転がり軸受装置1(車輪用ハブユニット等)に適用した例にて説明する。
【0018】
●[車輪用転がり軸受装置1の全体構成(図1)]
図1に示すように、車輪用転がり軸受装置1は、転がり軸受の内輪部材であるハブホイール20と、転がり軸受の外輪部材である外輪40と、複数の転動体51、52とを一体状に有してユニット化されている。転動体51は複数が環状に配置され、転動体52も複数が環状に配置され、外輪40とともに複列のアンギュラ玉軸受31を構成している。
なお、本実施の形態の説明では、車輪用転がり軸受装置の詳細な形状については図示省略している。
【0019】
ハブホイール20は、筒軸状をなすハブ軸21と、ハブ軸21の一方端側の外周面に形成されたフランジ22とを一体に有している。
ハブ軸21の外周には、複列のアンギュラ玉軸受31が組み付けられている。図1に示す例では、ハブ軸21は、フランジ22の側に形成された大径軸部21aと、大径軸部21aよりも小径で大径軸部21aと段差面をもって連続する小径軸部21bとを備えている。
そしてハブ軸21の大径軸部21aの外周面に一方の内周軌道面33が形成され、小径軸部21bには、外周面に他方の内周軌道面34が形成された内輪32(この内輪32とハブホイール20が内輪部材に相当する)が圧入され、小径軸部21bの先端のかしめ部27によって内輪32が固定されている。
複列のアンギュラ玉軸受31における外輪40の内周面には、ハブ軸21の内周軌道面33に対応する外周軌道面41、ハブ軸21に固定された内輪32の内周軌道面34に対応する外周軌道面42、がそれぞれ形成されている。
そしてハブホイール20及び内輪32の外周面と外輪40の内周面との間に形成された収容空間に、複数の転動体51、52のそれぞれが環状に且つ転動可能に配置され、保持器55、56のそれぞれによって各転動体51、52のそれぞれの円周方向の間隔が保持されている。
なお、転動体51、52の周囲にはグリースが充填されている。
【0020】
また、収容空間(内輪部材であるハブホイール20及び内輪32と外輪部材である外輪40との間の空間)における回転軸ZSの一方側と他方側には開口部KL、KRが形成され、外部空間と連通している。
そして開口部KLの近傍には、外部空間からの水等の浸入を防止するために金属環61と弾性部材にて形成された環状シール部材62と、ハブホイール20の表面と、で構成された密封装置(密封部材に相当)が設けられている。
また開口部KRの近傍には、外部空間からの水等の浸入を防止するために金属環71と弾性部材にて形成された環状シール部材72と、スリンガ73と、で構成された密封装置が設けられている。
図1に示す例では、開口部KLにおいて、環状シール部材62と一体化された金属環61が外輪40の内周面に圧入されており、環状シール部材62のリップ部62a、62b、62cがハブホイール20の外周面(「外周面」はフランジ面も含むものとする)と当接し、開口部KLを密封している。また、開口部KRにおいて、環状シール部材72と一体化された金属環71が外輪40の内周面に圧入され、スリンガ73が内輪32の外周面に圧入されており、環状シール部材72のリップ部72a、72b、72cがスリンガ73(すなわち、一体化している内輪32)の外周面(「外周面」はフランジ面も含むものとする)と当接し、開口部KRを密封している。
【0021】
なお、上記に説明したように開口部KL、KRには水等の浸入を防止する密封装置を設けているが、被水量が多大な場合や、環状シール部材62、72の経年劣化や摩耗等により、外部空間から収容空間に水等が浸入する可能性がある。
そこで、本発明の転がり軸受は、密封装置を通過して浸入してくる水等が、転動体や内周軌道面や外周軌道面に到達しないように阻止するものであり、環状の絶縁部材81a(82a、83a、84a)と、環状の電極部材81b(82b、83b、84b)と、電源手段81c(82c、83c、84c)とで構成された錆止め部材を備え、浸入してきた水等に電流を流して電気分解し、液体のH2Oを気体のH2とO2に分解(還元)して除去する(消滅させる)。
【0022】
●[錆止め部材の配置位置(図1)と、錆止め部材の構造及び動作(図2)]
次に、図1における開口部KLの拡大図、及び開口部KRの拡大図を用いて、錆止め部材の配置位置について説明する。
なお、絶縁部材と電極部材と電源手段にて構成された錆止め部材が配置された部分における内輪部材(この場合、ハブホイール20及び内輪32)または外輪部材(この場合、外輪40)の部分は、導電体で形成されている。
また、図2(A)〜(D)に示す例では、電源手段82cに電池を用いている。
【0023】
まず、開口部KLの側の錆止め部材の位置について説明する。
開口部KL側の錆止め部材は、開口部KL(一方側の開口部)の近傍において、ハブホイール20の外周面(開口部KLから内周軌道面33までにおける内輪部材の外周面)、あるいは外輪40の内周面(開口部KLから外周軌道面41までにおける外輪部材の内周面)の少なくとも一方に設けられている。
なお、図1に示す開口部KLの例では、外輪40に対して金属環61が圧入固定されているので、外輪40の面を伝って浸入する水等はほとんど無いと考えられる。従って、ハブホイール20の外周面に、第1の錆止め部材(絶縁部材81a、電極部材81b、電源手段81c)または第2の錆止め部材(絶縁部材82a、電極部材82b、電源手段82c)の少なくとも一方が設けられている。なお、第1の錆止め部材はハブホイール20のフランジ面に設けられているが、「外周面」はフランジ面も含むものとする。
また、密封装置を通過してきた水等を除去する(消滅させる)ものであるので、第1の錆止め部材は、開口部KLに最も近い側のリップ部62a(密封部)に対して内周軌道面33の側に配置されており、第2の錆止め部材は、開口部KLから最も遠い側のリップ部62c(密封部)に対して内周軌道面33の側に配置されている。また、電源手段81c、82cのそれぞれは、絶縁部材81a、82aのそれぞれに対して水等が浸入してくる側の反対側に配置されている。そして電源手段81c(82c)は、ハブホイール20と電極部材81b(82b)との間に接続されている。
【0024】
次に、開口部KRの側の錆止め部材の位置について説明する。
開口部KR側の錆止め部材は、開口部KR(他方側の開口部)の近傍において、内輪32の外周面(開口部KRから内周軌道面34までにおける内輪部材の外周面)、あるいは外輪40の内周面(開口部KRから外周軌道面42までにおける外輪部材の内周面)の少なくとも一方に設けられている。
なお、図1に示す開口部KRの例では、外輪40に対して金属環71が圧入固定されているので、外輪40の面を伝って浸入する水等はほとんど無いと考えられる。従って、内輪32の外周面、または内輪32に圧入されたスリンガ73(すなわち、一体化している内輪32)の外周面(「外周面」はフランジ面も含むものとする)に、第3の錆止め部材(絶縁部材83a、電極部材83b、電源手段83c)または第4の錆止め部材(絶縁部材84a、電極部材84b、電源手段84c)の少なくとも一方が設けられている。
また、密封装置を通過してきた水等を除去する(消滅させる)ものであるので、第3の錆止め部材は、開口部KRに最も近い側のリップ部72a(密封部)に対して内周軌道面34の側に配置されており、第4の錆止め部材は、開口部KRから最も遠い側のリップ部72c(密封部)に対して内周軌道面34の側に配置されている。また、電源手段83c、84cのそれぞれは、絶縁部材83a、84aのそれぞれに対して水等が浸入してくる側の反対側に配置されている。そして電源手段83c(84c)は、内輪32と電極部材83b(84b)との間に接続されている。
【0025】
次に図2を用いて第2の錆止め部材を例として、錆止め部材の構造及び動作について説明する。
図2(A)は、図1に示す第2の錆止め部材(絶縁部材82a、電極部材82b、電源手段82c)の概略形状を示しており、図面の左側が開口部KLの側であり、図面の右側が内周軌道面33の側である。そして、開口部KLの側から浸入してきて電極部材82bに到達していない状態の水W1と、電極部材82bに到達した水W2の例を示している。
なお、図2(A)〜(D)において、ハブホイール20(内輪部材)は、導電体である。
絶縁部材82aは、ハブホイール20の外周面の円周方向に沿って層状に設けられた環状の絶縁体であり、当該絶縁部材82aの上層に、導電体である電極部材82bが環状に設けられている。すなわち、導電体であるハブホイール20と電極部材82bとの間に絶縁部材82aの絶縁層が形成されている。また、絶縁部材82aと電極部材82bは、ハブホイール20の外周面に凸状に設けられ、この凸状形状で防波堤の機能をも果たす。そして、電源手段82cがハブホイール20と電極部材82bとの間に接続されており、電極部材82bとハブホイール20との双方に接触している水等に電流を流して電気分解する。
【0026】
図2(B)は、電極部材82bに到達していない状態の水W1に対する錆止め部材の動作を示しているが、この状態では、錆止め部材は水W1に対して特に何もしない。
図2(C)は、電極部材82bに到達した状態の水W2に対する錆止め部材の動作を示している。まず、ハブホイール20から凸状に突出している絶縁部材82aと電極部材82bにて、水W2をせき止める。そして水W2が絶縁部材82aと電極部材82bを乗り越えようとして電極部材82bとハブホイール20との双方に接触すると、電流経路Kiが形成され、水W2内に電流が流れる。ハブホイール20を伝ってきた水W2には様々な不純物が溶けているため、比較的電流が流れやすい。
水W2内に電流が流れると、水W2が電気分解され、気体の水素と酸素に変換(還元)されて除去される(消滅する)。なお電極部材82bを、ハブホイール20の材質よりもイオン化傾向の高い材質にて形成し、電極部材82bに電源手段82cの正極(+端子)を接続し、ハブホイール20に電源手段82cの陰極(−端子)を接続すると、電極部材82bの材質のイオンがハブホイール20の表面に析出して、水W2が接しているハブホイール20上の浸水面MSにめっきコーティング処理が施され、錆の発生をより抑制することができるので、より好ましい。
【0027】
なお、図2(D)に示すように、電極部材82bを、絶縁部材82aに対して、回転軸ZS(図1参照)の一方側または他方側の少なくともいずれかの方向に、所定距離ΔL、ΔRにて突出するように形成すると、より好ましい。
この場合、絶縁部材82aの層の厚さである間隔ΔDを有する隙間が、所定距離ΔL、ΔRの幅にて、円周方向に形成され、毛細管現象を利用して、任意の個所に浸入してきた水W2を、円周方向全体の隙間に浸透させる(広範囲に浸透させる)ことができるので、水W2が錆止め部材を乗り越えていくことを適切に抑制し、より短時間に水W2を除去することができる。
【0028】
●[電源手段の、その他の例(図3)]
次に図3を用いて、電池以外の電源手段の例を説明する。
例えば図3に示すように、外輪40の内周面の円周方向に沿って、S極とN極が適宜に形成された環状の弾性体磁石GMを貼り付ける。なお、ハブホイール20の外周面には、前述した絶縁部材82a及び電極部材82bが設けられている。
そしてハブホイール20の外周面における弾性体磁石GMと対向する位置にコイルCを取り付け、コイルCの一端をハブホイール20の外周面に接続し、コイルCの他端を電極部材82bに接続する。
外輪40とハブホイール20とが相対的に回転すると、弾性体磁石GMによる磁束とコイルCの移動により電流が発生し、電池に代わる電源手段として利用することができる。この場合、電池の消耗を心配する必要がないので便利である。
なお、内輪部材に弾性体磁石GMを取り付け、外輪部材に絶縁部材82aと電極部材82bとコイルCを取り付けても良い。
【0029】
本発明の転がり軸受は、本実施の形態で説明した外観、形状、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また本発明の転がり軸受は、本実施の形態にて説明した車輪用ハブユニットに限定されるものではなく、種々の装置に適用することが可能である。
また、本実施の形態の説明では、外輪部材の開口部の近傍に密封装置を固定して内輪部材に錆止め部材を設けた例を説明したが、内輪部材の開口部の近傍に密封装置を固定して外輪部材に錆止め部材を設けても良い。
【符号の説明】
【0030】
1 車輪用転がり軸受装置
20 ハブホイール(内輪部材)
21 ハブ軸
32 内輪(内輪部材)
33、34 内周軌道面
40 外輪(外輪部材)
41、42 外周軌道面
51、52 転動体
61、71 金属環
62、72 環状シール部材
73 スリンガ
81a、82a、83a、84a 絶縁部材
81b、82b、83b、84b 電極部材
81c、82c、83c、84c 電源手段
KL、KR 開口部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に配置される複数の転動体と、
複数の前記転動体の外周側の軌道となる外周軌道面を有する外輪部材と、
複数の前記転動体の内周側の軌道となる内周軌道面を有する内輪部材と、を有し、
前記内輪部材に対して外周側に前記外輪部材が配置されて前記内輪部材の外周面と前記外輪部材の内周面との間に形成された収容空間に複数の前記転動体が転動可能に収容されている転がり軸受において、
前記収容空間における転がり軸受の回転軸方向の一方側と他方側には開口部が形成されており、
一方側の前記開口部の近傍における前記内輪部材の外周面、または一方側の前記開口部の近傍における前記外輪部材の内周面、または他方側の前記開口部の近傍における前記内輪部材の外周面、または他方側の前記開口部の近傍における前記外輪部材の内周面、の少なくとも1つには、環状の錆止め部材が設けられており、
少なくとも前記錆止め部材が設けられている前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面は導電体で形成されており、
前記錆止め部材は、
前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面の円周方向に沿って層状に設けられた環状の絶縁部材と、
当該絶縁部材の上層に設けられて前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面に対して前記絶縁部材にて絶縁された環状の導電体で形成された電極部材と、
当該錆止め部材が設けられている前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面と前記電極部材との間に接続された電源手段と、で構成されている、
転がり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受であって、
前記外輪部材における一方側と他方側の前記開口部の近傍には、当該開口部を塞ぐように環状の密封部材が固定されており、
前記内輪部材における一方側と他方側の前記開口部の近傍であって前記密封部材と対向している個所に隣接する外周面に、前記錆止め部材が設けられている、
転がり軸受。
【請求項3】
請求項1に記載の転がり軸受であって、
前記内輪部材における一方側と他方側の前記開口部の近傍には、当該開口部を塞ぐように環状の密封部材が固定されており、
前記外輪部材における一方側と他方側の前記開口部の近傍であって前記密封部材と対向している個所に隣接する内周面に、前記錆止め部材が設けられている、
転がり軸受。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の転がり軸受であって、
前記電極部材は、当該電極部材が設けられた導電体である前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面の材質よりもイオン化傾向の高い材質の導電体で形成されており、
前記電極部材には前記電源手段の正極が接続され、当該電極部材が設けられている前記内輪部材の外周面または前記外輪部材の内周面には前記電源手段の陰極が接続されている、
転がり軸受。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の転がり軸受であって、
前記電極部材は、前記絶縁部材に対して、前記回転軸方向の一方側または他方側の少なくともいずれかの方向に突出するように設けられている、
転がり軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−7705(P2012−7705A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145960(P2010−145960)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】