説明

転写型インクジェット記録方法

【課題】 印字Dutyが高い場合であっても、転写性が良好で、最終画像のWet擦過性が良好な転写型インクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】 凝集液を用いた転写型インクジェット記録方法であって、該凝集液は、アミノ基を有するポリウレタン樹脂を含有し、該アミノ基を有するポリウレタン樹脂は、数平均分子量が10,000以上1,000,000以下であり、アミン価が0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下であることを特徴とする転写型インクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写型インクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷方式の1つとして、中間転写体上にインクジェット記録方法にて中間画像を形成し、中間画像を記録媒体に転写して最終画像を形成する記録方法(転写型インクジェット記録方法)がある。転写型インクジェット記録方法において、画像性能及び耐水性を向上させるために、中間転写体にインクを凝集させる凝集液を付与する方法が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法は、ジシアンジアミド樹脂やポリアリルアミン等のカチオン性高分子を含有した凝集液によって中間転写体上のインクを凝集させ、ブリーディング(インク間の混色)を抑制し、画像性能を高めるものである。さらに、カチオン性物質の分子量を高くすることで、画像の皮膜強度を向上させ、耐水性を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−246135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の記録方法は、以下のような課題がある。まず、中間転写体上の中間画像を記録媒体へ転写する際の転写性が良好でなく、記録媒体上に形成する最終画像が乱れるという課題である。これは、印字Dutyが高い場合に中間画像を形成するインクの凝集性が不足し、転写の際に必要な中間画像の内部凝集力が不十分となるためと考えられる。このような転写性の低下は、記録媒体として表面粗さが比較的大きい上質紙等を用いた場合、特に顕著である。
【0005】
さらに、商業用印刷物等に要求されるような、印刷物に水分が付与された際の擦過性が不十分であるという課題がある。商業用印刷物は、印刷物上に水が付着してそのまま放置された後、その水分を拭きとって使用されることがある。このような水分を付与された状態での擦過を「Wet擦過」という。特許文献1に記載の記録方法により得られる印刷物に対してこのWet擦過を行った際、画像に擦過痕が発生して著しく乱れる場合があった。これは、画像を形成した印刷物上に水が放置されると、印刷面内に水が浸透して印刷面が膨潤劣化してしまい、その状態で水の擦り拭取り作業を行うと、膨潤劣化した印刷面が剥離してしまうことによると考えられる。
【0006】
また、インクがカラーインクの場合、印字Dutyが高い高濃度の画像を形成すると、ブリーディングが発生することがあった。これは、インクを凝集させる成分がカチオン性高分子(凝集剤)だけだと凝集力が十分でなく、単位面積あたりの凝集液の量に対してインク量が多い場合には、中間画像を形成するインクを十分に凝集させることが困難になるためと考えられる。
【0007】
従って、本発明の目的は、印字Dutyが高い場合であっても、転写性が良好で、最終画像のWet擦過性が良好な転写型インクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。即ち本発明は、アニオン性成分を含有するインクを、該インク中のアニオン性成分を凝集させる凝集剤を含有する凝集液が付与された中間転写体の画像形成面にインクジェット記録方法で付与することにより中間画像を形成する中間画像形成工程と、該中間画像が形成された該画像形成面に記録媒体を圧着して該中間画像を該画像形成面から該記録媒体へ転写する転写工程とを有する転写型インクジェット記録方法であって、該凝集液は、アミノ基を有するポリウレタン樹脂を更に含有し、該アミノ基を有するポリウレタン樹脂は、数平均分子量が10,000以上1,000,000以下であり、アミン価が0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下であることを特徴とする転写型インクジェット記録方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、印字Dutyが高い場合であっても、転写性が良好で、最終画像のWet擦過性が良好な転写型インクジェット記録方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のインクジェット記録方法を行う画像記録装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
<インク>
本発明の転写型インクジェット記録方法で用いるインクは、アニオン性成分を含有する。
【0013】
アニオン性成分としては、マイナスの電荷を示すものが挙げられる。好ましいアニオン性成分としては、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、及びこれらが金属塩や有機アミンにより中和されたアニオン性基を有する化合物等が挙げられる。アニオン性成分は高分子量体であることが好ましい。これは、凝集液中のカチオン性成分とイオン結合を形成する成分が高分子量体である場合、皮膜強度が高くなり、Wet擦過性が良好となるためである。本発明においては、アニオン性成分として用いる高分子量体は、色材を分散させる分散剤であることが好ましい。高分子量体が色材を分散させる分散剤の場合、重量平均分子量は1,000以上50,000以下であることが好ましい。また、高分子量体がエマルション粒子の場合、重量平均分子量は1,000以上10,000,000以下であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、アニオン性成分はアニオン性の官能基を有する顔料であってもよいし、或いはアニオン性の染料であってもよい。
【0015】
本発明のインクは、最終画像の堅牢性をより向上させるため、機能性添加剤を含有していてもよい。機能性添加剤としては、従来公知の水溶性樹脂、水不溶性樹脂微粒子等が挙げられる。用いられる材料としては他のインク成分と共存できるものであれば制限は無い。水不溶性樹脂微粒子とは、自身が有する官能基(特に、酸性基またはその塩)によって、水性媒体中で分散状態となりうる水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの微粒子を意味する。水不溶性ポリマーとしては、例えば特開2009−096175号公報に記載の水不溶性ポリマー等が挙げられる。
【0016】
本発明のインクは、色材を含有しないクリアインクであっても、色材を含有するカラーインクであってもよい。含有する色材としては、特開2008−018719号公報に記載されているような従来公知の染料及び顔料を用いることができる。また、色材を分散させるために、特開2008−018719号公報に記載されているような分散剤を用いることができる。
【0017】
本発明のインクは、水及び有機溶剤を含有することが好ましい。有機溶剤としては、下記に示すような、高沸点で蒸気圧の低い水溶性の材料であることが好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン等である。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、粘度、表面張力等を調整する成分として、エチルアルコールやイソプロピルアルコール等のアルコール類や界面活性剤をインク中に添加してもよい。
【0018】
インクを構成する成分の配合比は、特に限定されるものではなく、選択したインクジェットヘッドの吐出力、ノズル径等から吐出可能な範囲で、適宜に調製することが可能である。好ましくは、インク全量を100質量%としたときに、色材は0.1質量%以上10質量%以下である。有機溶剤は5質量%以上40質量%以下である。界面活性剤は0.01質量%以上5質量%以下である。そして、残りを水で調整する。本発明のインクは、水を40質量%以上含有するような水性インクであることが好ましい。
【0019】
<凝集液>
本発明の転写型インクジェット記録方法で用いる凝集液は、凝集剤と、アミノ基を有するポリウレタン樹脂とを含有する。
【0020】
本発明の凝集剤は、インク中のアニオン性成分を凝集させる機能を有し、かつ凝集液中のアミノ基を有するポリウレタン樹脂と共存可能であることが重要となる。このような凝集剤としては、金属イオンを生成する金属塩や、水素イオン濃度(pH)を変化させる酸性化合物が好ましい。中でも、アミノ基を有するポリウレタン樹脂との共存安定性の観点から、酸性化合物がより好ましい。
【0021】
金属塩としては、例えば次のような多価の金属イオンを生成するものが用いられる。即ち、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+及びZn2+等の二価の金属イオンや、Fe3+及びAl3+等の三価の金属イオン等が挙げられる。そして、これらの金属塩を含有する液体を塗布する場合には、金属塩水溶液として塗布することが好ましい。金属塩の陰イオンとしては、Cl、NO、SO2−、I、Br、ClO、RCOO(Rは1価の有機基)等が挙げられる。
【0022】
酸性化合物としては、インクの凝集性能の観点から、pH緩衝能を有することが好ましく、酸解離定数(pKa)が4.5以下であることが好ましい。酸解離定数が4.5を超える場合には、凝集性能が下がり、インク中のアニオン性成分と凝集液中の凝集剤及び高分子化合物による複合的な凝集物が十分に形成されにくい。酸性化合物の例としては、有機カルボン酸、有機スルホン酸等が挙げられる。より具体的には、ポリアクリル酸、酢酸、メタンスルホン酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、レブリン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、またはこれらの塩等が挙げられる。
【0023】
上記の金属塩や酸性化合物は、1種類で使用しても、2種類以上を併用してもよい。凝集液の凝集剤の含有量は、凝集液の全質量に対して0.01質量%以上90質量%以下であることが好ましい。1質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。0.01質量%未満の場合は、アニオン性成分を十分に凝集できないことがある。90質量%を超える場合は、凝集剤の種類によっては、凝集液中で凝集剤が不溶物として不均一に存在する場合があり、これにより、凝集液の塗布や中間画像の形成が困難となる場合がある。
【0024】
本発明の凝集液は、アミノ基を有するポリウレタン樹脂を含有する。本発明で用いるアミノ基を有するポリウレタン樹脂(以下、本発明のポリウレタン樹脂とする)は、数平均分子量及びアミン価が高いことが特徴である。具体的には、数平均分子量が10,000以上1,000,000以下である。アミン価が0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下である。尚、ポリウレタンとは、ウレタン結合(−NHCOO−)を有する高分子化合物である。例えば、イソシアネート成分(イソシアネート基を有する化合物)とポリオール成分(複数の水酸基を有する化合物)とを反応させて得られる。
【0025】
本発明のポリウレタン樹脂の数平均分子量は10,000以上1,000,000以下である。数平均分子量は30,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることが特に好ましい。また、数平均分子量は900,000以下であることが好ましく、800,000以下であることがより好ましい。数平均分子量が10,000以上であることにより、得られる中間画像の被膜性が向上し、転写性や最終画像の擦過性及びWet擦過性が向上する。また、カラーインクの場合にはブリーディングの発生を抑制できる。数平均分子量が1,000,000以下であることにより、凝集液の長期保存安定性を確保できる。
【0026】
本発明のポリウレタン樹脂のアミン価は0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下である。アミン価は0.6mmol/g以上であることが好ましい。また、アミン価は2.5mmol/g以下であることがより好ましく、2.0mmol/g以下であることがさらに好ましい。本発明のポリウレタン樹脂のアミン価が0.5mmol/gよりも低い場合には、インク中の多数のアニオン性成分を十分にイオン結合させて凝集体を形成することが困難となり、中間画像の被膜性が低下することによって転写性が低くなる。また、カラーインクの場合にはブリーディングが発生する。さらに、記録媒体に形成される最終画像において、インク由来の親水性のアニオン性成分が過剰に残存し、Wet擦過性が低くなる。アミン価が3.0mmol/gよりも高い場合には、特に低Dutyで形成した最終画像において、ポリウレタン樹脂の親水性のアミノ基がアニオン性成分に対して過剰に残存し、Wet擦過性が低くなる。本発明のポリウレタン樹脂のアミン価は、転写性及びWet擦過性の点から、インク中のアニオン性成分の総酸価に対して0.1倍以上4.5倍以下であることが好ましい。
【0027】
本発明のポリウレタン樹脂が有するアミノ基は、1級、2級、3級アミン、もしくはこれらが4級化された構造のいずれでもよい。中でも、3級アミン、もしくは3級アミンが4級化された構造が好ましい。1、2級アミンもしくはこれらが4級化された構造の場合、アミノ基が求核性を有するため、凝集液に含まれる他の添加剤に求核付加反応を起こし、凝集液の保存安定性が低下する場合がある。
【0028】
凝集液の、本発明のポリウレタン樹脂の含有量は、凝集液の全質量に対して1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。1質量%よりも低い場合には、本発明の効果が十分に発現しない場合ある。90質量%を超える場合には、凝集剤の添加量が少なくなりすぎてインクの凝集性が不十分になり、中間画像の転写性や最終画像の画像性能が低下する場合がある。
【0029】
本発明のポリウレタン樹脂は、凝集液中において溶解状態であっても分散状態であってもよいが、ポリウレタン樹脂の含有量が多い場合には、溶解状態だと粘度が著しく増加してしまう。このため、ハンドリング性の観点からは分散状態であることが好ましい。分散状態の場合、ポリウレタン樹脂の平均粒子径(メジアン径)は、0.01μm以上1.00μm以下であることが好ましい。平均粒子径が1.00μmよりも大きい場合、インクの着弾位置の精度が低下したり、転写時の中間画像の表面粗さが大きくなることにより転写性が低下したりといったことがある。平均粒子径が0.01μmよりも小さい場合は、安定的に均一な粒子径を得ることが困難となり、粒度分布が大きくなって画像にムラが生じる場合がある。
【0030】
ポリウレタン樹脂が分散状態である場合、最終画像中では粒子が皮膜化した状態であることが好ましい。最終画像中で皮膜化していないと、特に粒子径が大きい場合に粒子の存在によって光散乱が発生して最終画像の光沢性が低下したり、或いは耐水性が低下したりすることがある。よって、画像の定着工程で粒子の最低造膜温度以上の温度で加熱し、粒子を十分に皮膜化させることが好ましい。
【0031】
本発明において、凝集液はポリウレタン樹脂を1種類だけ含有していてもよいし、2種類以上含有していてもよい。
【0032】
本発明の凝集液は、水、有機溶媒、添加剤等を含有することが好ましい。有機溶媒としては、下記に示すような、水溶性の有機溶媒であることが好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン等である。
【0033】
本発明の凝集液のpHは、インクの凝集性能の観点から1.0以上5.0以下であることが好ましい。より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは3.5以下である。pHが5.0を超える場合には、インクの凝集性能が下がり、インク中のアニオン性成分と、凝集剤及び本発明のポリウレタン樹脂による複合的な凝集物が十分に形成されず、本発明の効果が十分に発現しない場合がある。
【0034】
本発明のポリウレタン樹脂を含有する凝集液を用いることで、印字Dutyが高い場合であっても、転写性及びWet擦過性が良好な最終画像を形成することができる。また、カラーインクの場合にはブリーディングの発生を抑制できる。この理由を、本発明者らは、以下のように推測している。中間転写体上で中間画像を形成した際に、インクのアニオン性成分と、凝集液中の凝集剤と本発明のポリウレタン樹脂との3つの成分が相乗的に作用することで、複合的な凝集反応が起こる。これにより、インクの量に依存せずに、ブリーディング等の発生を抑制する十分な凝集性能を発現することができる。また、この複合的な凝集反応によって得られる中間画像は、分子量が特異的に高い凝集体になり、転写性が非常に良好となる。さらに、記録媒体に転写された画像は、本発明のポリウレタン樹脂のウレタン骨格によって発現する分子間水素結合と、上記3つの成分からなるイオン結合によって形成される特異的な3次元架橋構造を有し、Wet擦過性が良好となる。上記の特異的な3次元架橋構造を有する膜によって、膜中への水の浸透性を劇的に抑制し、最終画像の水による膨潤劣化を抑制することで、Wet擦過性が良好になるものと考えられる。
【0035】
<転写型インクジェット記録方法及び画像記録装置>
次に、本発明の転写型インクジェット記録方法及び画像記録装置の構成を説明する。
【0036】
図1は、本発明の画像記録装置の一例の概略構成を示した模式図である。画像記録装置1は、中間転写体2、インク吐出部3、凝集液付与部4、溶媒除去部5及び転写部6を主たる構成とし、更に、クリーニング部7、画像定着部8を備えている。中間転写体2は所定幅を有する無端状のベルトで構成され、複数のローラ10、11、12に巻き掛けられた構造となっている。複数のローラ10、11、12のうち少なくとも1つの主ローラにはモータ(不図示)の動力が伝達され、このモータの駆動により中間転写体2が各ローラ10、11、12の外側を図1の矢印A方向(以下転写体回転方向)に回転するように構成されている。その回転と同期して、周辺に配置された凝集液付与部4、インク吐出部3、溶媒除去部5、転写部6、クリーニング部7、及び画像定着部8の各ユニットが作動するようになっている。本実施形態においては、転写時の加圧に耐え得る強度や寸法精度から、ポリウレタンベルトを中間転写体2の支持部材として用いている。中間転写体2の支持部材としては、中間転写体2の表層が記録媒体13と少なくとも線接触可能となるものであればいずれでもよく、適用する画像記録装置の形態ないしは記録媒体13への転写の形態に合わせる。例えば、ローラ状、ドラム状の支持部材も好適に使用することができる。
【0037】
中間転写体2は、インクを付与されることで中間画像を形成し、さらに形成した中間画像を記録媒体へ転写して良好な最終画像を形成する特性が重要である。また、転写性が高ければ使用するインクの利用効率が良く、廃棄されるインクの量を減らすと同時に、クリーニング手段の負荷が低減される。そのための中間転写体2の表面はインク非吸収面であることが好ましく、インク非接着面であることがより好ましい。さらに、紙等の記録媒体の表面に追従し、十分に接触させるための弾性を有することが好ましい。これらの特性を満たす材料としては、たとえば、各種プラスチックやゴム等が挙げられる。特に、非接着性の面からシリコーンゴムやフロロシリコーンゴム、フッ素ゴム等が好適に用いられる。これらのゴムは表面エネルギーが低く、インク受領性が良くない場合があるので、使用するインクに応じて表面処理を施すとよい。表面処理の例としては、薬品を用いた化学的処理や表面形状を変える物理的処理、紫外線やプラズマを照射するエネルギー照射処理等が挙げられる。本発明においては、使用する凝集液との接触角が10°以上100°以下である中間転写体と凝集液の組み合わせが極めて好適に用いられる。
【0038】
凝集液付与部4には、凝集液を中間転写体2上に付与するユニットとして、凝集液塗布ロール14、凝集液供給ロール15、凝集液量規制ブレード16、対向ロール17を用いたロールコーターが配置されている。これにより、インク中のアニオン性成分と接触して凝集体を形成する凝集液が中間転写体2の表面(画像形成面)に付与される構成となっている。凝集液の付与は、スプレーコーター、スキージ、インクジェット記録方法等、いずれの手段であってもよい。
【0039】
凝集液付与部4で凝集液が塗布された後、インクジェット記録方法により、インク吐出部3からインクが中間転写体2の画像形成面に付与される。これにより、中間転写体2の画像形成面に中間画像(ミラー画像)が形成される中間画像形成工程を行う。インク吐出部3は、凝集液付与部4の転写体回転方向下流側に配置される。インク吐出部3には、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色インクに対応する記録ヘッド18K、18C、18M、18Yが設けられている。各記録ヘッド18K、18C、18M、18Yは、中間転写体2に対向する吐出面から外部の画像信号に応じて、それぞれ対応する各色インクを吐出する。これにより、中間転写体2の画像形成面に各色インクが付与される。尚、インク吐出部3は、コンティニュアス方式のほか、電気熱変換素子(発熱素子)や電気機械変換素子(ピエゾ素子)等を用いるオンデマンド方式にてインク吐出を行うものを用いることもできる。インク吐出部3の形態としては、例えば図1の構成に関して言えば、図面に直交する方向にインク吐出口を配列してなるラインヘッド形態の記録ヘッドを用いることができる。また、中間転写体2の接線または周方向の所定範囲に吐出口が配列された記録ヘッドを用い、これを軸方向に走査しながら記録を行うものでもよい。さらに、画像形成に使用するインクの色に応じた数だけ記録ヘッドを用いることもできる。
【0040】
溶媒除去部5には、中間転写体2の画像形成面上に形成された中間画像から良好な転写を可能な状態にまで液体成分を除去するために、加熱送風機(不図示)を設けた乾燥炉19が配置されている。液体成分の減少が不十分だと次工程である転写工程において余剰液体がはみ出して画像を乱したり、転写性が低下したりすることがある。液体成分の減少手段としては従来用いられている各種手段がいずれも好適に適用できる。具体的には、加熱による蒸発を用いる手段や乾燥空気を送風する手段、吸収体による液体吸水手段、またこれらを組み合わせる手段等が好適に用いられる。
【0041】
次に、中間画像が形成された画像形成面に記録媒体13を圧着させ、中間画像を画像形成面から記録媒体13へと転写する転写工程を行う。図1に例示した装置においては、ローラ11と加圧ローラ20で中間転写体2と記録媒体13を挟み込むように加圧し、効率のよい画像転写を実現している。本形態によれば、この段階で既に中間転写体2上でインク中の液体成分は減少し、インクは高粘度化されているので、コート紙等のインク吸収性の低い記録媒体を用いても良好な最終画像を形成することができる。
【0042】
搬送部8では、給紙トレイ21から排紙トレイ22へ転写部6を記録媒体13が通過して搬送される。カット紙の搬送機構は、例えばローラとガイドを用いたものを使用する。記録媒体13の重送等の発生を抑制し、搬送を安定に行うために、トレイに積載された記録媒体の側面からエアーを送風し、記録媒体13の搬送を容易にする機構を用いてもよい。また、記録媒体13の湿度変化の伸縮を防止するため温度調節機構を用いてもよい。記録媒体13の形状としては本実施形態においてはカットシートを用いたが、ロール形状の連続シートでもよい。
【0043】
画像定着部8は、転写部6の記録媒体排出側(図1の右側)に配置される。画像定着部8には、記録媒体13の表裏面に2つの定着ローラ35、36が設けられており、これら定着ローラ35、36で記録媒体13上に転写形成された画像を加圧、加熱することで、記録媒体13上の記録画像の定着性を向上させることができる。尚、定着ローラ35、36としては、1個の加圧ローラと1個の加熱ローラからなる一対のローラであることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下の記載で「部」とあるのは、いずれも質量基準である。
【0045】
<インク>
色材として、下記表1に示す顔料を使用した。尚、色材5は、カーボンブラックMCF88を公知の次亜塩素酸による酸化反応処理を行うことで酸化体としたもので、アニオン性成分である。
【0046】
【表1】

【0047】
水溶性樹脂(分散剤)として、スチレン−メタクリル酸−ベンジルアクリレートの共重合体の水酸化カリウムによる中和塩(重量平均分子量8700、酸価3.9mmol/g、アニオン性成分)を用いた。この水溶性樹脂は、特開2009−096175号公報に記載の方法で重合を行って得た。
【0048】
バッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に各色材及び分散剤を仕込み、1mm径のガラスビーズをメディアとして充填して水冷し、3時間分散処理を行った。得られた分散液を遠心分離機にかけ粗大粒子を除去し、下記表2に示す組成で重量平均粒子径100〜200nmの色材を有するインクを作成した。総酸価は、電位差自動滴定装置(AT−510、京都電子工業製)を用いて測定した。
【0049】
【表2】

【0050】
<凝集液>
まず、下記表3に示す高分子化合物を合成した。高分子化合物1〜3、比較高分子化合物1、2は、表3に示すモノマー種を特開2003−80826号公報と同様の手法で合成して得た。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(RID−10A、島津製作所製)を用いて測定した。アミン価は、モノマー種の構造より算出した。平均粒子径は、粒度分布測定装置(ナノトラックUPA−EX150、日機装製)を用いて測定した。
【0051】
【表3】

【0052】
H−NMRスペクトル法(使用装置;Avance 500(商品名)、Bruker製)、13C−NMRスペクトル法(使用装置;Avance 500(商品名)、Bruker製)及び赤外分光法(使用装置;Spectrum One(商品名)、PerkinElmer製)を用いて、各高分子化合物の同定を行った。その結果、高分子化合物1〜3、比較高分子化合物1、2は、アミノ基を有するポリウレタン樹脂であることが確認された。一方、比較高分子化合物3、4は、ポリウレタン樹脂ではないことが確認された。
【0053】
上記高分子化合物を用い、下記表4に示す凝集液を作成した。尚、表中グルタル酸のpKaは4.13、レブリン酸のpKaは4.44である。
【0054】
【表4】

【0055】
<記録方法>
上記のインク及び凝集液を用いて、以下の転写型インクジェット記録方法で最終画像を形成した印字物を得た。
【0056】
(A)凝集液付与工程
0.4mmのPETフィルム表面に、ゴム硬度40度のシリコーンゴム(商品名;KE12、信越化学製)を0.3mmの厚さでコーティングした材料を用意した。この材料に対して、平行平板型大気圧プラズマ処理装置(APT−203、積水化学製)を用いて表面親水化を行い、本実施例で用いる中間転写体とした。凝集液の中間転写体への付与は、ロールコーターを用いて液体状態で5.0g/mの塗工量で行った。
【0057】
(B)中間画像形成工程
凝集液が付与された中間転写体の画像形成面に、上記インクをインクジェットデバイス(ノズル配列密度1200dpi、吐出量4pl)により付与し、中間画像を形成した。
【0058】
(C)転写工程
中間転写体の画像形成面に、加圧ローラにて記録媒体(上質紙、商品名;OKプリンス上質EH、王子製紙製)を圧着し、記録媒体に中間画像を転写した。
【0059】
(D)定着工程
中間画像が転写された記録媒体を、100℃の熱風にて2分間加熱し、画像を定着させた。これにより、最終画像を形成した記録媒体を得た。
【0060】
各実施例に用いたインクと凝集液を下記表5に示す。表5中の「アミン価/酸価」とは、インク中のアニオン性成分の総酸価に対する、凝集液が含有するポリウレタン樹脂のアミン価の割合である。
【0061】
【表5】

【0062】
<評価>
上記記録方法における中間画像形成工程において、中間転写体上に、2cm×2cmの中間画像を、10%Duty、100%Duty、350%Dutyの記録濃度で形成した。得られた中間画像の記録媒体への転写性、Wet擦過性及びブリーディングを、下記の基準で評価した。
【0063】
<転写性>
転写工程後の中間転写体を光学顕微鏡にて観察し、各中間画像のインク残存面積率を下記の基準で評価した。残存面積率は、光学顕微鏡により得られた画像データを画像処理することで算出した。全てのインクが記録媒体に転写し、中間画像が残っていない場合が、残存面積率0%である。
A:中間転写体上のインクの残存面積率が0%以上5%未満。
B:中間転写体上のインクの残存面積率が5%以上10%未満。
C:中間転写体上のインクの残存面積率が10%以上20%未満。
D:中間転写体上のインクの残存面積率が20%以上30%未満。
E:中間転写体上のインクの残存面積率が30%以上。
【0064】
<Wet擦過性>
2cm×2cmの中間画像を記録媒体に転写して得られた最終画像(2cm×2cm)に対し、Wet擦過性の評価を行った。まず、形成した最終画像のO.D.(光学濃度)を測定した。次に、最終画像上に0.2mlの水滴を1滴滴下し、3分間放置した。その後、シルボン紙により擦過ふき取り(Wet擦過)を行い、水滴を滴下した箇所の中心位置のO.D.を測定した。これらの測定結果から、O.D.維持率を下記の基準で評価した。尚、「O.D.維持率=100×(Wet擦過後のO.D.)/(Wet擦過前のO.D.)」である。「O.D.」は分光光度計(商品名;スペクトロリノ、グレタグマクベス製)を使用して測定した。
A:O.D.維持率が99%以上。
B:O.D.維持率が95%以上99%未満。
C:O.D.維持率が90%以上95%未満。
D:O.D.維持率が80%以上90%未満。
E:O.D.維持率が60%以上80%未満。
【0065】
<ブリーディング>
上記記録方法にて、凝集液を中間転写体上に全面に付与した後に、ブラックインク1にて、一辺2cm×2cmの正方形(100%Duty)を形成した。形成直後に、この正方形の3辺に隣接するように、シアンインク1、イエローインク1、マゼンタインク1により、一辺2cm×2cmの正方形(100%Duty)を形成した。これと同様に、4つの正方形を10%Duty、また4つの正方形を350%Dutyとしたパターンも形成した。次に、中間転写体上における、中間画像の境界部分を光学顕微鏡で観察した。境界部分とは、ブラックインク1にて形成した正方形とシアンインク1にて形成した正方形の境界部分、ブラックインク1にて形成した正方形とイエローインク1にて形成した正方形の境界部分、ブラックインク1にて形成した正方形とマゼンタインク1にて形成した正方形の境界部分である。そして、各境界部分にて発生したブリーディングのうち、最も滲んでいた箇所について、1つの正方形の面積に対して滲み部分の面積率がどの程度であるかを画像処理により算出し、以下の基準で評価した。
A:滲み面積率が0.1%未満。
B:滲み面積率が0.1%以上1.0%未満。
C:滲み面積率が1.0%以上10.0%未満。
D:滲み面積率が10.0%以上。
【0066】
以上の評価結果を、下記表6に示す。
【0067】
【表6】

【0068】
実施例1〜6の転写型インクジェット記録方法は、転写性、Wet擦過性、ブリーディングのいずれも良好である。
【0069】
これに対し、ポリウレタン樹脂の数平均分子量が10,000よりも低い比較例1の転写型インクジェット記録方法では、転写性、Wet擦過性、ブリーディングのいずれも良好ではなかった。ポリウレタン樹脂のアミン価が0.5mmol/gよりも低い比較例2の転写型インクジェット記録方法では、転写性、Wet擦過性、ブリーディングのいずれも良好ではなかった。凝集液がポリウレタン樹脂を含有していない比較例3、4、5の転写型インクジェット記録方法では、転写性、Wet擦過性、ブリーディングのいずれも良好ではなかった。凝集液を用いていない比較例6の転写型インクジェット記録方法では、転写性、Wet擦過性、ブリーディングのいずれも良好ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性成分を含有するインクを、該インク中のアニオン性成分を凝集させる凝集剤を含有する凝集液が付与された中間転写体の画像形成面にインクジェット記録方法で付与することにより中間画像を形成する中間画像形成工程と、該中間画像が形成された該画像形成面に記録媒体を圧着して該中間画像を該画像形成面から該記録媒体へ転写する転写工程とを有する転写型インクジェット記録方法であって、
該凝集液は、アミノ基を有するポリウレタン樹脂を更に含有し、
該アミノ基を有するポリウレタン樹脂は、数平均分子量が10,000以上1,000,000以下であり、アミン価が0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下である
ことを特徴とする転写型インクジェット記録方法。
【請求項2】
前記アミノ基を有するポリウレタン樹脂のアミン価は、前記アニオン性成分の総酸価に対して0.1倍以上4.5倍以下である請求項1に記載の転写型インクジェット記録方法。
【請求項3】
前記インクが分散剤を含む請求項1または2に記載の転写型インクジェット記録方法。
【請求項4】
前記凝集剤が、金属塩または酸性化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の転写型インクジェット記録方法。
【請求項5】
前記凝集剤が、酸性化合物である請求項4に記載の転写型インクジェット記録方法。
【請求項6】
前記アミノ基を有するポリウレタン樹脂の数平均分子量が、100,000以上800,000以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の転写型インクジェット記録方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−126123(P2012−126123A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224032(P2011−224032)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】