説明

転写媒体製造方法、転写媒体

【課題】基材に対して噴射されて付着した非記録材を所望の領域に留めることができる転写媒体製造方法及び転写媒体を提供する。
【解決手段】ターゲットに対して転写可能なインクをフィルム13に付着させた転写媒体58を製造するための転写媒体製造方法において、フィルム13に対してインクを付着させる段階と、フィルム13におけるインクが付着した転写領域A内であって、該転写領域Aの縁部に沿って環状に接着液を付着させる段階と、接着液が付着した周縁領域Bの内側の内側領域Cに接着液を噴射により付着させる段階とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に形成されたパターンをターゲットに対して転写可能な転写媒体、転写媒体を製造するための転写媒体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インク(記録材)をシート(基材)上に付着させて形成した文字や画像などのパターンをターゲットに転写する転写媒体が知られている。すなわち、ターゲットに転写媒体からパターンを転写する場合には、シート上に転写可能に形成されたパターンを該パターン上に塗布された接着剤(非記録材)によってターゲットに接着することにより、パターンがシートから剥離してターゲットに転写される。
【0003】
ところで、こうした転写媒体のシート上におけるパターン以外の場所にも接着剤が塗布されていると、シート側からターゲットにパターンを転写した際に、ターゲット上における転写されたパターン以外の場所にも接着剤が付着することになり、ターゲットがべたついてしまうといった不具合があった。
【0004】
そこで、こうした不具合の発生を抑制するために、例えば特許文献1に記載の転写媒体のように、シート上におけるパターン上にのみ接着剤を塗布するものがある。すなわち、特許文献1の転写媒体は、印刷版を用いてインクをシート上に付着させてパターンを形成すると共に、同じく印刷版を用いて接着剤をパターン上にのみ塗布するようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−314879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、印刷版を用いて接着剤をパターン上に塗布する方式の場合には、製造する転写媒体が少量だと、製造コストが割高になってしまう。そこで、こうした少量の転写媒体を製造する場合の製造コストを低減させる方式として、シート上に形成されたパターン上にのみ液体状の接着剤をノズルから噴射して付着させる方式が考えられる。
【0007】
しかしながら、液体状の接着剤は高い流動性を有しているため、ノズルからパターン上に噴射された接着剤は、パターン上を流動してシート上のパターン以外の領域にまで溢れ出てしまう虞があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、基材に対して噴射されて付着した非記録材を所望の領域に留めることができる転写媒体製造方法及び転写媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の転写媒体製造方法は、ターゲットに対して転写可能な記録材を基材に付着させた転写媒体を製造するための転写媒体製造方法において、前記基材に対して前記記録材を付着させる記録材付着段階と、前記基材における前記記録材が付着した記録材付着領域内であって、該記録材付着領域の縁部に沿って環状に非記録材を付着させる第1非記録材付着段階と、該第1非記録材付着段階において前記非記録材が付着した領域の内側の領域に前記非記録材を噴射により付着させる第2非記録材付着段階とを備える。
【0010】
この構成によれば、記録材付着領域内であって該記録材付着領域の縁部に沿って非記録材を環状に付着させておくことにより、第2非記録材付着段階において噴射された非記録材を第1非記録材付着段階で付着した非記録材によって堰き止めることができる。したがって、基材に対して噴射されて付着した非記録材を所望の領域に留めて転写媒体を製造することができる。
【0011】
本発明の転写媒体製造方法において、前記非記録材は、前記記録材が前記記録材付着領域に付着することにより形成した記録材層上に付着して該記録材層と前記ターゲットとを接着するための接着層を形成する。
【0012】
この構成によれば、第1非記録材付着段階と第2非記録材付着段階の2段階に分けて非記録材を付着させることにより、記録材層の形状に合わせて該記録材層と接着層とを積層状に形成することができる。したがって、記録材層をターゲットに転写する場合には、記録材層の形状に合わせて形成された接着層がターゲットに接着するため、記録材層において接着力が及ばない領域を減少させて記録材層の剥がれを抑制すると共に、記録材層から接着層がはみだしてべたつく虞を低減することができる。
【0013】
本発明の転写媒体製造方法において、前記第1非記録材付着段階において付着された前記非記録材に、前記第2非記録材付着段階よりも前段階において乾燥処理を施す乾燥段階をさらに備える。
【0014】
この構成によれば、第1非記録材付着段階において付着された非記録材は、乾燥段階において乾燥処理が施されることにより、溶媒の蒸発が促進される。そして、第2非記録材付着段階において非記録材が付着されると、該非記録材中の溶媒が第1非記録材付着段階で付着して乾燥した非記録材に吸収される。すなわち、溶媒が吸収された非記録材は流動性が低下するため、第2非記録材付着段階において付着した非記録材が、記録材付着領域外へ溢れ出る虞をより低減することができる。
【0015】
本発明の転写媒体は、ターゲットに対して転写可能な記録材を基材に付着させた転写媒体において、前記記録材による記録材層と、非記録材による第1非記録材層及び第2非記録材層が前記基材上に形成されており、前記第1非記録材層は、前記記録材層上であって該記録材層の縁部に沿って環状に形成され、前記第2非記録材層は、前記記録材層上であって前記第1非記録材層よりも内側に形成され、前記第1非記録材層と前記第2非記録材層の境界には、環状に窪みが形成されている。
【0016】
この構成によれば、第1非記録材層と第2非記録材層とを別工程で形成することにより、記録材層の形状に合わせて非記録材層を形成することができる。すなわち、第1非記録材層を先に形成する場合には、環状に形成された第1非記録材層によって非記録材が堰き止められた状態で第2非記録材層が形成される。また、第2非記録材層を先に形成する場合には、記録材層の縁部よりも内側に第2非記録材層を形成することにより、非記録材が記録材層外へ溢れ出る虞が低減され、さらに記録材層の縁部に沿って第1非記録材層を形成することにより、記録材層の形状に合わせて非記録材層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態の転写媒体製造装置の正面模式図。
【図2】記録ヘッドのノズル形成面を示す模式図。
【図3】制御構成のブロック図。
【図4】転写媒体の平面模式図。
【図5】(a)〜(e)は図4における5−5矢視断面であって、転写媒体の製造過程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をフィルム上にインクを噴射して転写媒体を製造する転写媒体製造装置に具体化した一実施形態を図1〜図5に従って説明する。なお、以下における明細書中の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は、図1等の図面に矢印で示した方向を基準として示すものとする。
【0019】
図1に示すように、転写媒体製造装置11は、直方体状の本体ケース12を備えている。本体ケース12内には、長尺状の基材としてのフィルム13を繰り出す繰り出し部14と、そのフィルム13に記録材としてのインクの噴射により印刷が施される印刷室15と、その印刷によりインクが付着したフィルム13に乾燥処理を施す乾燥装置16と、そのように乾燥処理が施されたフィルム13を巻き取る巻き取り部17が設けられている。
【0020】
すなわち、本体ケース12内における上下方向の中央部よりもやや上寄りの位置には、本体ケース12内を上下に区画する平板状の基台18が設けられており、この基台18よりも上側の領域が矩形板状のプラテン19を基台18上に支持してなる印刷室15となっている。そして、基台18よりも下側の領域において、フィルム13の搬送方向で上流側となる左側寄りの位置に、繰り出し部14が配設されると共に、下流側となる右側寄りの位置に、乾燥装置16及び巻き取り部17が配設されている。
【0021】
図1に示すように、繰り出し部14には、前後方向に延びる巻き軸20が回転自在に設けられ、その巻き軸20に対してフィルム13が予めロール状に巻かれた状態で巻き軸20と一体回転可能に支持されている。すなわち、フィルム13は、巻き軸20が搬送モーター55(図3参照)の駆動力に基づき回転することにより、繰り出し部14から繰り出されて搬送方向の下流側に搬送されるようになっている。そして、巻き軸20から繰り出されたフィルム13は、第1ローラー21、第2ローラー22、第3ローラー23、及び第4ローラー24に順次巻き掛けられて搬送方向を変換された後、巻き取り部17に設けられて搬送モーター55(図3参照)の駆動力に基づき回転する巻き取り軸25により巻き取られるようになっている。
【0022】
なお、印刷室15内においてプラテン19を挟んで左右方向で対向する第2ローラー22及び第3ローラー23は各々の周面の頂部がプラテン19の上面と同一高さとなるように各々の設置される位置が調整されている。そのため、印刷室15内において第2ローラー22と第3ローラー23との間を下流側に搬送されるフィルム13は、その裏面がプラテン19の上面に摺接するようになっている。そして、プラテン19には、プラテンヒーター(図示略)が埋設されており、加熱装置56(図3参照)から電流が供給されることにより発熱してプラテン19に支持されたフィルム13を加熱するようになっている。
【0023】
また、図1に示すように、印刷室15内におけるプラテン19の前後両側には、左右方向に延びるガイドレール26(図1では2点鎖線で示す)が対をなすように設けられている。ガイドレール26の上面はプラテン19の上面よりも高くなっており、両ガイドレール26の上面には、矩形状のキャリッジ27が図示しない駆動機構の駆動に基づき両ガイドレール26に沿って左右方向への往復移動可能な状態で支持されている。そして、このキャリッジ27の下面側には支持板28を介して記録ヘッド29が支持されている。
【0024】
この記録ヘッド29は、プラテン19に支持されたフィルム13に対してインクを噴射することにより印刷(記録)を施すと共に、非記録材としての接着液と保護液を噴射する記録材付着手段、非記録材付着手段として機能する。また、印刷室15内において、第3ローラー23よりも右側となる領域には、非印刷時に記録ヘッド29のメンテナンスを行うためのメンテナンス機構30が設けられている。
【0025】
図2に示すように、キャリッジ27の下面側に支持された支持板28には複数個(本実施形態では6個)の記録ヘッド29がフィルム13の搬送方向(図2において白抜き矢印で示す方向)と直交する幅方向(前後方向)に亘って千鳥状の配置態様となるように支持されている。そして、各記録ヘッド29の下面となるノズル形成面39には、多数のノズル40により前後方向に沿う複数列(本実施形態では8列)の第1〜第8ノズル列41〜48が左右方向に所定間隔をおいて規則的に形成されている。そして、このように構成された第1〜第8ノズル列41〜48には、各ノズル列41〜48に対応するカートリッジ(図示略)から複数種類の液体がそれぞれ供給されると共に、各ノズル40に対応するように設けられた圧電素子49(図3参照)の振動に伴ってノズル40ごとに噴射されるようになっている。
【0026】
すなわち、第1〜第5ノズル列41〜45には、搬送方向において最も上流側(左側)に位置する第1ノズル列41から順に、シアン,マゼンタ,イエロー,ブラック,ホワイトの各色のインクが供給されるようになっている。さらに、左側から6番目に位置する第6ノズル列46には、メタルインクが供給されるようになっている。そして、第1〜第6ノズル列41〜46から噴射されたインクがフィルム13に付着することにより、記録材層(パターン)としての着色層51(図5参照)が形成されるようになっている。なお、メタルインクとは、金属性顔料を液体中に分散させたインクであって、フィルム13に付着させることにより金属箔状の着色層51を形成可能なインクである。
【0027】
また、左側から7番目に位置する第7ノズル列47には、接着液が供給されるようになっている。なお、本実施形態における接着液は、接着剤成分を内包したマイクロカプセルを液体中に分散させたものであり、加熱処理や加圧処理などの付加処理を施してマイクロカプセルを破壊することによって接着性が向上する液体である。そして、フィルム13の搬送方向において最も下流側(右側)に位置する第8ノズル列48には、保護液が供給されるようになっている。
【0028】
図3に示すように、転写媒体製造装置11には、該転写媒体製造装置11の駆動を統括制御するマイクロコンピューター等からなる制御部53が設けられている。この制御部53は、ユーザーにより操作される操作部54からの入力に基づき、圧電素子49、搬送モーター55、加熱装置56の駆動を制御する。
【0029】
そこで次に、以上のような転写媒体製造装置11を用いて転写媒体58を製造する場合の製造方法について図4,図5に基づき以下説明する。
なお、図5(a)に示すように、本実施形態におけるフィルム13は、上面13aと下面13bとがそれぞれシリコン等の離型剤でコーティングされ、それらのコーティング層により上側離型層59と下側離型層60とが形成されている。そして、フィルム13は、転写媒体58の製造開始時点において搬送方向の下流側端が巻き取り軸25に巻きつけられた状態で搬送経路にセットされているものとする。
【0030】
図4及び図5(a)に示すように、転写パターンを形成する文字や画像などの印刷データとして、例えばアルファベットのRという印刷データが入力されると、まず制御部53は、インクを付着させる記録材付着領域としての転写領域Aを設定する。なお、本実施形態において製造する転写媒体58は、該転写媒体58に形成された転写画像をターゲット(図示略)に左右反転して転写する。そのため、制御部53は、転写された転写画像に対して左右反転した転写領域Aを設定する。
【0031】
また、制御部53は、転写領域A内であって、該転写領域Aの縁部に沿った周縁領域Bと該周縁領域Bに囲まれた内側領域Cとを、周縁領域Bの面積が内側領域Cの面積よりも小さくなるように設定する。なお、制御部53は、周縁領域Bにおいて転写領域Aの外周縁に沿った該外周縁の近傍領域を外周縁領域B1として設定すると共に、転写領域Aが環状に設定された場合には、さらに内周縁に沿った該内周縁の近傍領域を内周縁領域B2として設定する。
【0032】
さて、ユーザーによって操作部54が操作されて転写媒体58の製造が開始されると、制御部53は、まず加熱装置56を駆動してプラテンヒーターに電流を供給する。すると、プラテンヒーターが発熱してプラテン19を加熱する。また、制御部53は、フィルム13に対して保護液、インク、接着液をそれぞれ付着させる。
【0033】
具体的には、まず制御部53は、キャリッジ27の移動に合わせて第8ノズル列48に対応する圧電素子49を振動させ、図5(b)に示すように、転写領域Aに保護液を付着させる。なお、保護液が付着するフィルム13は、プラテンヒーター(図示略)によって加熱されたプラテン19に支持されている。そのため、プラテン19上では、保護液中の溶媒の蒸発が促進され、流動性が低下した保護層61が形成される。
【0034】
続いて制御部53は、キャリッジ27の移動に合わせて第1〜第6ノズル列41〜46に対応する圧電素子49を振動させ、図5(c)に示すように、保護層61が形成された転写領域Aにインクを噴射して着色層51を形成する(記録材付着段階)。すなわち、例えば箔転写のための転写媒体58を製造する場合には、メタルインクを用いて着色層51を形成する。具体的には、まずメタルインクを転写領域Aに付着させ、その後ホワイトインクを転写領域Aに付着させることで、銀色の着色層51を形成する。
【0035】
そして次に、制御部53は、キャリッジ27の移動に合わせて第7ノズル列47に対応する圧電素子49を振動させ、図5(d)に示すように、保護層61及び着色層51が形成された転写領域A内のうち周縁領域Bに接着液を付着させる(第1非記録材付着段階)。
【0036】
ところで、周縁領域Bに付着した接着液が乾燥する際にプラテン19から奪う熱量は、周縁領域Bよりも広い転写領域Aの全域に接着液が付着した場合に比べて少ない。すなわち、周縁領域Bに接着液を付着させたときのプラテン19の温度低下は、転写領域Aの全域に接着液を付着させた場合に比べて抑制される。したがって、周縁領域Bに付着した接着液は、高い温度が維持されたプラテン19によって乾燥処理が施されて急速に流動性が低下し、周縁領域B外への溢れ出しが抑制された状態で第1非記録材層としての第1接着層62を形成する(乾燥段階)。
【0037】
さらに、制御部53は、キャリッジ27の移動に合わせて第7ノズル列47に対応する圧電素子49を振動させ、図5(e)に示すように、外周縁領域B1及び内周縁領域B2に囲まれた内側領域Cに接着液を付着させる(第2非記録材付着段階)。
【0038】
ここで、内側領域Cの面積は周縁領域Bの面積も大きいため、内側領域Cに付着させる接着液の量は、周縁領域Bに付着した接着液の量よりも多い。したがって、プラテン19の温度が低下し、内側領域Cに付着した接着液は流動性を維持した状態となる。すると、内側領域Cに付着した接着液は、該接着液同士が結合してさらに流動性が増し、その後、徐々に溶媒が蒸発して流動性が低下する。
【0039】
ところで、内側領域Cは、該内側領域Cに接着液を付着させる前段階において周縁領域Bに形成された第1接着層62に囲まれている。そのため、内側領域Cに付着した接着液は、溶媒の蒸発が促進されて流動性が低下した第1接着層62に接触することによって、該接着液中の溶媒が第1接着層62に吸収されて流動性が低下する。したがって、内側領域Cに付着した接着液は、第1接着層62に堰き止められて転写領域A外への溢れ出しが抑制された状態で内側領域Cにおいて第2非記録材層としての第2接着層63を形成する。
【0040】
なお、内側領域Cに付着して結合した接着液は、表面張力に基づいて第1接着層62との境界部分よりも中央部に厚みを有している。したがって、第2接着層63は、中央部に比べて第1接着層62の境界となる縁部の厚みが薄く、第1接着層62と第2接着層63の境界部分には第1接着層62に沿って環状に窪んだ凹部64が形成される。
【0041】
さて、フィルム13に対する印刷が終了すると、制御部53は搬送モーター55を駆動してフィルム13を搬送方向の下流側へ搬送し、乾燥装置16においてさらに乾燥処理を施す。すると、溶媒が蒸発して保護層61、着色層51、第1接着層62、第2接着層63がフィルム13上に定着する。その後、フィルム13は、第1接着層62及び第2接着層63が下側離型層60に接触するように巻き取り軸25に巻き取られるようになっている。
【0042】
なお、乾燥装置16の温度は、第1接着層62及び第2接着層63中のマイクロカプセルを破壊しない程度の温度に設定されている。そのため、下側離型層60と各接着層62,63との密着力は、流動性を有した状態で接触して積層状に形成された着色層51と各接着層62,63との密着力よりも小さい。したがって、巻き取られたフィルム13を解いた場合には、下側離型層60と接着層62,63とが剥離し、フィルム13の上面13aに該フィルム13側から順に保護層61、着色層51、接着層62,63が積層状に形成された状態となる。
【0043】
また、第1接着層62及び第2接着層63と着色層51との密着力、着色層51と保護層61との密着力は、保護層61と上側離型層59との密着力よりも大きい。そのため、ターゲットに着色層51を転写する場合には、まず第1接着層62と第2接着層63とに付加処理を施してマイクロカプセルを破壊する。そして、接着性が発現した第1接着層62及び第2接着層63をターゲットに接着させてフィルム13を剥離することにより、上側離型層59と保護層61とが剥離され、着色層51は該着色層51の表面が保護層61に保護された状態でターゲットに転写される。
【0044】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)転写領域A内であって該転写領域Aの縁部に沿って接着液を付着させておくことにより、内側領域Cに噴射された接着液を周縁領域Bに付着した接着液によって堰き止めることができる。したがって、フィルム13に対して噴射されて付着した接着液を所望の領域に留めて転写媒体を製造することができる。
【0045】
(2)周縁領域Bと内側領域Cに2段階に分けて接着液を付着させることにより、着色層51の形状に合わせて着色層51と接着層62,63とを積層状に形成することができる。したがって、着色層51をターゲットに転写する場合には、着色層51の形状に合わせて形成された接着層62,63がターゲットに接着するため、着色層51において接着力が及ばない領域を減少させて着色層51の剥がれを抑制すると共に、着色層51から接着層62,63がはみだしてべたつく虞を低減することができる。
【0046】
(3)周縁領域Bに付着した接着液は、プラテン19によって乾燥処理が施されることにより、溶媒の蒸発が促進される。そして、内側領域Cに接着液が付着されると、接着液中の溶媒が周縁領域Bに付着して乾燥した第1接着層62に吸収される。すなわち、溶媒が吸収された接着液は流動性が低下するため、内側領域Cに付着した接着液が、転写領域A外へ溢れ出る虞をより低減することができる。
【0047】
(4)第1接着層62と第2接着層63とを別工程で形成することにより、着色層51の形状に合わせて接着層62,63を形成することができる。すなわち、第1接着層62を先に形成する場合には、環状に形成された第1接着層62によって接着液が堰き止められた状態で第2接着層63が形成される。また、第2接着層63を先に形成する場合には、着色層51の縁部よりも内側に第2接着層63を形成することにより、接着液が着色層51外へ溢れ出る虞が低減され、さらに着色層51の縁部に沿って第1接着層62を形成することにより、着色層51の形状に合わせて接着層62,63を形成することができる。
【0048】
(5)フィルム13と着色層51との間に保護層61を形成することにより、フィルム13とインクの相性に関わらず着色層51を形成することができる。すなわち、例えば、撥水性を有する樹脂製のフィルム13上に染料や顔料といった色材によって着色された液体(インク)で印刷を行う場合でも、シリカなどの無機微粒子や膨潤性樹脂を含む透明なコート剤を用いて保護層61を形成することにより、インクの定着性を高めることができる。
【0049】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・内側領域Cに接着液を付着させて第2接着層63を形成し、その後、周縁領域Bに接着液を付着させて第1接着層62を形成するようにしてもよい。
【0050】
・プラテン19上に電磁波を放射して加熱する放射式のヒーターや、風(温風)を吹き付ける送風装置などの乾燥手段を設け、該乾燥手段によって周縁領域Bに付着した接着液に乾燥処理を施してもよい。
【0051】
・プラテン19にはプラテンヒーターを設けず、プラテン19に支持されたフィルム13に付着したインクは、自然乾燥させてもよい。
・インクや保護液を接着液と同様に、周縁領域Bと内側領域Cとに段階的に付着させてもよい。
【0052】
・着色層51はインクを噴射して印刷を施すインクジェット式のプリンターに限らず、トナーを付着させるレーザー式のプリンターなどを用いて形成してもよい。また、接着液を噴射するヘッドを個別に備えてもよい。
【0053】
・周縁領域Bに粘性の高い接着液を塗布して第1接着層を形成し、内側領域Cに対して接着液を噴射して第2接着層を形成するようにしてもよい。
・熱硬化性の樹脂や、熱を加えると軟化し、冷えると硬化する熱可逆性の樹脂などを接着液として用いてもよい。また、接着液として紫外線硬化接着剤を用い、付加処理として紫外線を照射してもよい。
【0054】
・保護液を付着させず、保護層61を形成しなくてもよい。また、保護層が形成されたフィルムを用いてもよい。
・記録ヘッド29に離型材を噴射する機構をさらに備え、フィルム13に対して離型材を噴射して上側離型層59を形成してもよい。なお、この場合、転写領域Aに対して離型材を噴射し、着色層51の形状に合わせて上側離型層59を形成してもよい。
【0055】
・複数の転写領域Aを有する転写媒体を製造する場合には、少なくとも1つの転写領域Aにおいて、第1接着層62,第2接着層63を形成すればよい。すなわち、面積の小さな転写領域Aに対して接着液を付着させる場合には、付着させる量が少ないためプラテン19の温度の低下が起こりにくい。したがって、面積の大きな転写領域に対しては周縁領域に接着液を付着させると共に、面積の小さな転写領域に対しては、全面に接着液を付着させてもよい。
【符号の説明】
【0056】
13…フィルム(基材)、51…着色層(記録材層)、58…転写媒体、62…第1接着層(第1非記録材層)、63…第2接着層(第2非記録材層)、64…凹部(窪み)、A…転写領域(記録材付着領域)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに対して転写可能な記録材を基材に付着させた転写媒体を製造するための転写媒体製造方法において、
前記基材に対して前記記録材を付着させる記録材付着段階と、
前記基材における前記記録材が付着した記録材付着領域内であって、該記録材付着領域の縁部に沿って環状に非記録材を付着させる第1非記録材付着段階と、
該第1非記録材付着段階において前記非記録材が付着した領域の内側の領域に前記非記録材を噴射により付着させる第2非記録材付着段階と
を備えることを特徴とする転写媒体製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の転写媒体製造方法において、
前記非記録材は、前記記録材が前記記録材付着領域に付着することにより形成した記録材層上に付着して該記録材層と前記ターゲットとを接着するための接着層を形成することを特徴とする転写媒体製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の転写媒体製造方法において、
前記第1非記録材付着段階において付着された前記非記録材に、前記第2非記録材付着段階よりも前段階において乾燥処理を施す乾燥段階をさらに備えることを特徴とする転写媒体製造方法。
【請求項4】
ターゲットに対して転写可能な記録材を基材に付着させた転写媒体において、
前記記録材による記録材層と、
非記録材による第1非記録材層及び第2非記録材層が前記基材上に形成されており、
前記第1非記録材層は、前記記録材層上であって該記録材層の縁部に沿って環状に形成され、
前記第2非記録材層は、前記記録材層上であって前記第1非記録材層よりも内側に形成され、
前記第1非記録材層と前記第2非記録材層の境界には、環状に窪みが形成されていることを特徴とする転写媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−37112(P2011−37112A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185928(P2009−185928)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】