説明

転写用マスク、及び半導体デバイスの製造方法

【課題】遷移金属及びケイ素を含む光半透過膜や遮光膜における波長200nm以下の露光光に対する耐光性を向上させた転写用マスクを提供する。
【解決手段】透光性基板上に設けられたパターン形成用薄膜に転写パターンが形成されてなる転写用マスクにおいて、
前記転写用マスクは、透光性基板上に、クロムを除く遷移金属およびケイ素を含有する材料からなるパターン形成用薄膜と、クロムを含有する材料からなるクロム系薄膜が順に積層したマスクブランクを用いて作製され、
前記パターン形成用薄膜は、膜中のクロム含有量が、1.0×1018atoms/cm未満であることを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐光性を向上させた転写用マスク及び転写用マスクの製造方法等に関する。
特に、波長200nm以下の短波長の露光光を露光光源とする露光装置に好適に用いられ
る転写用マスク及びその製造方法、並びに半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの
形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスク(フ
ォトマスク)が使用される。この転写マスクは、一般に透光性基板上に、金属薄膜等から
なる微細パターンを設けたものであり、この転写マスクの製造においてもフォトリソグラ
フィー法が用いられている。
【0003】
フォトリソグラフィー法による転写マスクの製造には、ガラス基板等の透光性基板上に
転写パターン(マスクパターン)を形成するための薄膜(例えば遮光膜など)を有するマ
スクブランクが用いられる。
このマスクブランクを用いた転写マスクの製造は、マスクブランク上に形成されたレジ
スト膜に対し、所望のパターン描画を施す露光工程と、所望のパターン描画に従って前記
レジスト膜を現像してレジストパターンを形成する現像工程と、レジストパターンに従っ
て前記薄膜をエッチングするエッチング工程と、残存したレジストパターンを剥離除去す
る工程とを有して行われている。
上記現像工程では、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し所望のパターン描
画(露光)を施した後に現像液を供給して、現像液に可溶なレジスト膜の部位を溶解し、
レジストパターンを形成する。また、上記エッチング工程では、このレジストパターンを
マスクとして、ドライエッチング又はウェットエッチングによって、レジストパターンが
形成されておらず薄膜が露出した部位を溶解し、これにより所望の転写パターンを透光性
基板上に形成する。こうして、転写用マスクが作製される。
【0004】
半導体装置のパターンを微細化するに当たっては、転写用マスクに形成される転写パタ
ーンの微細化に加え、フォトリソグラフィーで使用される露光光源波長の短波長化が必要
となる。半導体装置製造の際の露光光源としては、近年ではKrFエキシマレーザー(波
長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んで
いる。
【0005】
また、転写用マスクの種類としては、従来の透光性基板上にクロム系材料からなる遮光
膜パターンを有するバイナリ型マスクのほかに、ハーフトーン型位相シフトマスクが知ら
れている。このハーフトーン型位相シフトマスクは、透光性基板上に光半透過膜(ハーフ
トーン型位相シフト膜)を有する構造のもので、この光半透過膜は、実質的に露光に寄与
しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜20%)を透過させ、この透過光に所
定の位相差を付与するものであり、例えばモリブデンシリサイド化合物を含む材料等が用
いられる。このハーフトーン型位相シフトマスクは、光半透過膜をパターニングした光半
透過部と、光半透過膜が形成されておらず露光光を透過させる光透過部とによって、光半
透過部を透過した光の位相が、光透過部を透過した光の位相に対して、実質的に反転した
関係になるようにする(即ち位相をシフトさせる)ことによって、光半透過部と光透過部
との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回りこんだ光が互いに打ち
消しあうようにし、境界部における光強度をほぼゼロとし境界部のコントラスト即ち解像
度を向上させるものである。
【0006】
さらに、ArFエキシマレーザ(波長193nm)を露光光とする露光技術においては
、転写パターンの微細化が進み、露光光の波長よりも小さいパターン線幅に対応すること
が求められ、斜入射照明法、位相シフト法等の超解像技術、さらにNA=1以上の超高N
A技術(液浸露光等)が開発されてきている。
転写パターンの微細化が進むに従い、レジストパターンの幅は狭くなってきている。こ
のため、従来のレジスト膜の膜厚ではアスペクト比が高くなってしまい、レジストパター
ンをマスクとして遮光膜をドライエッチングして転写パターンを形成することが難しくな
ってきている。
【0007】
この問題の解決手段の1つとして、フッ素系ガスでドライエッチング可能な遮光膜を遷
移金属とケイ素を含有する膜で形成し、その遮光膜の上にクロム系材料からなるエッチン
グマスク膜を形成した構成のバイナリ型のマスクブランクが開発されている(特許文献1
)。このマスクブランクから転写用マスクを作製する方法は、まず、エッチングマスク膜
の上にレジストパターンを形成し、レジストパターンをマスクとして、塩素と酸素の混合
ガスをエッチングガスとしたドライエッチングを行い、エッチングマスク膜に転写パター
ンを形成する。次に、エッチングマスク膜の転写パターンをマスクとして、フッ素系ガス
をエッチングガスとしたドライエッチングを行い、遮光膜に転写パターンを形成する。そ
して、エッチングマスク膜を除去し、所定の洗浄工程を経て、バイナリ型の転写用マスク
が作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−241060号公報
【特許文献2】特開2002−156742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年のパターンの微細化に伴い、バイナリ型マスクやハーフトーン型位相シ
フトマスク等の転写用マスクの製造コストが著しく上昇してきていることから、転写マス
クの長寿命化のニーズが高まってきている。
【0010】
転写用マスクの寿命を決定する要因としては、転写用マスクの繰返し洗浄による繰返し
使用による転写用マスク劣化の問題がある。従来においては、例えばヘイズ(硫化アンモ
ニウムを主体とし転写マスク上に発生する異物)が発生するとヘイズを除去するための洗
浄を行っていた。しかし、洗浄による膜減り(膜の溶出)は避けられず、いわば洗浄回数
が転写マスクの寿命を決定していた。
近年、ヘイズ対策技術の向上によって転写用マスクの洗浄回数が低減しており、転写用
マスクの繰返し使用期間が延びてきている。しかし、その分露光時間も延びたことから、
特にArFエキシマレーザーなどの短波長光に対する耐光性の問題が新たに顕在化してき
た。
【0011】
本発明者は、遷移金属とケイ素を含有するバイナリ型マスクの場合、露光光源のArF
エキシマレーザー(波長193nm)が、従前の転写用マスクの繰り返し使用期間を超え
て累積的に照射されることにより、遮光膜の転写パターンの幅が変化する(太る)という
現象が発生していることを解明した。このような線幅変化は、転写用マスクのCD精度、
最終的には転写されるウェハのCD精度を悪化させることになり、転写用マスクの寿命の
更なる長寿命化の障害になることを突き止めた。
また、本発明者は、ハーフトーン型位相シフトマスクの場合、露光光源のArFエキシ
マレーザー(波長193nm)照射により、ハーフトーン型位相シフト膜の転写パターン
の幅が変化する(太る)という現象が発生し、さらに透過率や位相シフト量の変化が起る
ことを解明した。ハーフトーン型位相シフトマスクの場合、このような透過率、位相シフ
ト量の変化は転写マスク性能に影響を与える重要な問題である。透過率の変化が大きくな
ると転写精度が悪化するとともに、位相シフト量の変化が大きくなると、パターン境界部
における位相シフト効果が得られにくくなる。その結果、パターン境界部のコントラスト
が低下し、解像度が大きく低下してしまう。
【0012】
従来、光半透過膜(ハーフトーン型位相シフト膜)の耐光性を向上させるために、例え
ば、遷移金属及びケイ素を主成分とする光半透過膜を大気中又は酸素雰囲気中で250〜
350℃、90〜150分加熱処理する技術(特許文献3)が既に存在する。しかし、こ
の技術だけでは不十分であることも本発明者の研究の結果、明らかとなった。
本発明は、上記背景の下になされた発明であり、ArFエキシマレーザー等の波長20
0nm以下の露光光が適用される転写用マスクであって、長時間の露光光照射を受けるこ
とに起因するパターン形成用薄膜の転写パターンの幅の変化、透過率変化、位相シフト量
の変化が抑制された、すなわち、ArF露光耐性が高い転写用マスクの製造方法の提供を
目的とする。また、この転写用マスクを用いた半導体デバイスの製造方法の提供を目的と
する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板上に設けられたパターン形成用薄膜に転写パターンが形成されてなる転写用
マスクにおいて、
前記転写用マスクは、波長200nm以下の露光光が適用されるものであり、
前記パターン形成用薄膜は、クロムを除く遷移金属およびケイ素を含有する材料からな
り、
前記パターン形成用薄膜は、膜中のクロム含有量が、1.0×1018atoms/c
未満であることを特徴とする転写用マスク。
(構成2)
前記パターン形成用薄膜中の遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする構成1記
載の転写用マスク。
(構成3)
前記パターン形成用薄膜は、光学濃度2.5以上を有する遮光膜であることを特徴とす
る構成1または2のいずれかに記載の転写用マスク。
(構成4)
前記パターン形成用薄膜は、透光性基板側から遮光層および表面反射防止層の少なくと
も2層以上の積層構造からなる遮光膜であることを特徴とする構成3に記載の転写用マス
ク。
(構成5)
前記パターン形成用薄膜は、DRAM hp45nm世代以降の転写パターンを有する
ことを特徴とする構成1から4のいずれかに記載の転写用マスク。
(構成6)
前記パターン形成用薄膜は、ハーフトーン型位相シフト膜であることを特徴とする構成
1または2のいずれかに記載の転写用マスク。
(構成7)
透光性基板上に、クロムを除く遷移金属およびケイ素を含有する材料からなるパターン
形成用薄膜と、クロムを含有する材料からなるクロム系薄膜が順に積層したマスクブラン
クを用いた転写用マスクの製造方法において、
前記転写用マスクは、波長200nm以下の露光光が適用されるものであり、
クロム系薄膜上に、転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
転写パターンを有するレジスト膜をマスクとして、クロム系薄膜に転写パターンを形成
する工程と、
転写パターンを有するクロム系薄膜をマスクとして、パターン形成用薄膜に転写パター
ンを形成する工程と、
前記クロム系薄膜をエッチングによって除去する工程と、
をこの順に行って転写用マスクを作製し、
作製した転写用マスクに対し、前記パターン形成用薄膜からなる転写パターンのクロム
含有量が1.0×1018atoms/cm未満になるまで、アルカリ溶液洗浄、温水
洗浄、オゾン含有水洗浄のうち1以上の洗浄を行う洗浄工程を有することを特徴とする転
写用マスクの製造方法。
(構成8)
前記洗浄工程は、アルカリ溶液洗浄、温水洗浄、およびオゾン含有水洗浄をこの順に行
うことを特徴とする構成7記載の転写用マスクの製造方法。
(構成9)
前記アルカリ溶液は、アンモニアと過酸化水素を含有する水溶液であることを特徴とす
る構成7または8のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
(構成10)
前記パターン形成用薄膜中の遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする構成7か
ら9のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
(構成11)
前記パターン形成用薄膜は、光学濃度2.5以上を有する遮光膜であり、
前記クロム系薄膜は、エッチングによって除去する工程で全て除去されることを特徴と
する構成7から9のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
(構成12)
前記パターン形成用薄膜は、透光性基板側から遮光層および表面反射防止層の少なくと
も2層以上の積層構造からなる遮光膜であることを特徴とする構成11に記載の転写用マ
スクの製造方法。
(構成13)
前記パターン形成用薄膜は、DRAM hp45nm世代以降の転写パターンを有する
ことを特徴とする構成7から12のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
(構成14)
前記パターン形成用薄膜は、ハーフトーン型位相シフト膜であり、
前記クロム系薄膜とパターン形成用薄膜との積層構造で光学濃度2.5以上を有し、
前記クロム系薄膜をエッチングによって除去する工程で、転写パターン領域外周の遮光
帯領域以外の領域の前記クロム系薄膜は除去されて遮光帯が形成されることを特徴とする
構成7から10のいずれかに記載の転写用マスクの製造方法。
(構成15)
構成5記載の転写用マスクを用い、半導体ウェハ上に回路パターンを形成することを特
徴する半導体デバイスの製造方法。
(構成16)
構成13記載の転写用マスクの製造方法で作製された転写用マスクを用い、半導体ウェ
ハ上に回路パターンを形成することを特徴する半導体デバイスの製造方法。
(構成17)
半導体ウェハ上に形成される回路パターンは、DRAM hp45nm世代以降の回路
パターンが含まれていることを特徴する構成15また16のいずれかに記載の半導体デバ
イスの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パターン形成用薄膜の膜中(特に、膜表面、転写パターンの側壁部分
)のクロム含有量を1.0×1018atoms/cm未満とすることによって、波長
200nm以下の光であるArFエキシマレーザーを総照射量40kJ/cmとなるま
で照射しても、パターン形成用薄膜の転写パターン幅のCD変動量を大幅に低減(1/4
以下、更には1/2以下に低減)できる。
本発明によれば、クロムを除く遷移金属およびケイ素を含有する材料からなるパターン
形成用薄膜に関し、波長200nm以下の露光光が、従前の転写用マスクの繰り返し使用
期間を超えて累積的に照射された場合の耐光性を向上させ、転写用マスクの寿命を改善で
きる転写用マスク及びその製造方法、を提供できる。また、この転写用マスクを用いた半
導体デバイスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Cr残留濃度(atoms/cm)と、ArFエキシマレーザー照射によるCD変動量(nm)との関係を示す図である。
【図2】D−SIMSによりクロム濃度の分析を行った結果を示す図である。
【図3】D−SIMSにより塩素濃度の分析を行った結果を示す図である。
【図4】変質層による転写パターンの幅のCD変動を説明するための模式図である。
【図5】本発明の一実施例に係る転写用マスクの製造工程を説明するための模式的断面である。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明者は、露光光源波長の短波長化に伴い、転写用マスクの繰返し使用による劣化が
顕著になってきた要因を以下のように推測した。
本発明者は、繰返し使用によって転写パターン幅の変化(CD変動)が生じた転写マス
クにおける遷移金属とケイ素を含有するパターン形成用薄膜のパターンを調べた。その結
果、図4に示すように、遷移金属とケイ素を含有する薄膜2(遷移金属シリサイド系膜、
例えばMoSi系膜)の表層側にSiとO、若干の金属(例えばMo)を含む変質層2a
が出来ていた。そして、これが転写パターン幅の変化(太り)Δdや、透過率及び位相シ
フト量の変化、の主な原因のひとつであることを解明した。
このような変質層が生じる理由(メカニズム)は次のように考えられる。すなわち、従
来のスパッタ成膜された遷移金属シリサイド系薄膜2は構造的には隙間があり、成膜後に
アニールしたとしても遷移金属シリサイド系薄膜2の構造の変化が小さい。このため、転
写用マスクの使用過程においてこの隙間にたとえば大気中の酸素(O)や水(HO)
等が入り込む。さらに、大気中の酸素(O)がArFエキシマレーザーと反応すること
によって発生するオゾン(O)等も前記隙間に入り込んで、遷移金属シリサイド系薄膜
2を構成するSiや遷移金属M(例えばMo)と反応する。
【0017】
つまり、このような環境で遷移金属シリサイド系薄膜2を構成するSiと遷移金属Mは
、露光光(特にArFなどの短波長光)の照射を受けると励起され遷移状態となる。そし
て、Siが酸化し膨張する(SiよりもSiOの体積が大きいため)と共に、遷移金属
Mも酸化して遷移金属シリサイド系薄膜2の表層側に変質層2aが生成される。このとき
、大気中の水分量(湿度)に応じて、生成されるSi酸化膜の品質は大きく異なり、湿度
が高いほど密度の低いSi酸化膜が形成される。低密度Si酸化膜が形成される環境にお
いて、転写用マスクを繰返し使用する場合、露光光の照射を累積して受けると、Siの酸
化及び膨張がさらに進行する。遷移金属シリサイド系薄膜2内の非変質層と変質層2aと
の界面で酸化された遷移金属Mは、変質層中を拡散し、表面に析出して、例えば遷移金属
Mの酸化物(例えばMoO)となって昇華する。変質層2aの密度は更に低くなり、酸
化しやすい状態になる。その結果、変質層2aの厚みが次第に大きくなる(遷移金属シリ
サイド系薄膜2中での変質層2aの占める割合が大きくなる)ものと考えられる。
【0018】
このような変質層2aが発生し、さらに拡大していく現象は、遷移金属シリサイド系薄
膜2を構成するSiや遷移金属Mの酸化反応のきっかけとなるこれらの構成原子が励起さ
れ遷移状態となるのに必要なエネルギーを有するArFエキシマレーザー等の波長200
nm以下の露光光が長時間照射された場合に顕著に確認される。
以上のようなメカニズムによって、遷移金属シリサイド系のパターン形成用薄膜は、膜
中のシリコン(Si)の酸化が原因と考えられる転写パターン幅の変化(CD太り)が発
生する。
【0019】
本発明者は、遷移金属シリサイド系のパターン形成用薄膜の変質層が発生する要因につ
いて、さらに鋭意検討した。その結果、パターン形成用薄膜の上に積層されるクロム系材
料からなる薄膜(エッチングマスク膜、遮光帯等の形成用の遮光膜等)の存在が変質層の
発生に大きく影響していることが判明した。具体的には、まず、同じ膜構成の遷移金属シ
リサイド系のパターン形成用薄膜を有するが、クロム系薄膜がパターン形成用薄膜の上に
積層されているマスクブランクと、積層されていないマスクブランクをそれぞれ準備した
。次に、クロム系薄膜を備えたマスクブランクは、クロム系薄膜の転写パターンをマスク
として、パターン形成用薄膜をフッ素系ガスによるドライエッチングを行って転写パター
ンを形成した。その後、クロム系薄膜を塩素と酸素の混合ガスによるドライエッチングで
除去し、従来の洗浄工程を行って、転写用マスクを作製した。一方、クロム系薄膜を備え
ていないマスクブランクは、レジストパターンをマスクとして、パターン形成用薄膜をフ
ッ素系ガスによるドライエッチングを行って転写パターンを形成した。その後、レジスト
パターンを除去し、従来の洗浄工程を行って、転写用マスクを作製した。この2つの転写
用マスクに対し、同一条件でArF露光光を長時間照射(積算照射量:40kJ/cm
,パルス周波数:300Hz)して検証を行った。その結果、クロム系薄膜を備えないマ
スクブランクから作製した転写用マスクの転写パターン幅の変化量(CD変動量)は、1
nm程度で継続使用に問題のない変化量であった。これに対し、クロム系薄膜を備えたマ
スクブランクから作製した転写用マスクの転写パターン幅の変化量(CD変動量)は、1
5.9nmで継続使用にはかなり問題のある変化量であった。
【0020】
パターン幅の変化量の大きかった転写用マスクを同条件で再度作製し、ArF露光光の
照射は行わずに、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を
用い、試料を削りながら測定するダイナミックモード(D-SIMS)で、パターン形成用薄膜中
のパターン形成用薄膜の成膜時の組成には含まれない物質、すなわち、転写用マスクの作
製過程で付着(残留)した残留物質を調べた。その結果、パターン形成用薄膜のクロムと
塩素の残留濃度が高いことが判明した。更に、残留物質がどの部位にどのように存在して
いるか調べるため、非パターンの領域(いわゆる「べた」の領域。転写パターンの側壁部
分が存在しない領域)と、ラインアンドスペースを含む領域(転写パターンの側壁部分が
存在する領域)について、ダイナミックモード(D-SIMS)で残留物質濃度を調べた。その結
果、非パターンの領域(いわゆる「べた」の領域)では、表層で残留物質濃度が高く、深
さ方向に向かって残留物質濃度が急激に減少していた。このことから、表層に残留物質(
Cr)があることが判った(図2参照)。また、ラインアンドスペースを含む領域では、
表層で残留物質濃度が高いことは同じであった。しかし、表層が削られた後も深さ方向に
向かって残留物質濃度があまり減少しないことから、パターンの側壁部分にも残留物質(
Cr)が高い濃度で存在することが判った(図2参照)。なお、図2のD-SIMSでは一次イ
オンはOとした。
【0021】
また、クロムの場合と同様に、塩素の残留濃度についてD-SIMSで測定したものを図3に
示す。図3のD-SIMSでは一次イオンはCsとした。塩素の残留濃度による変質層への影響
を確認するため、クロム系薄膜除去時のドライエッチング時間を長くして、意図的に転写
パターン側壁の塩素残留濃度を増やし、同条件のArF露光光の照射を行ったところ、変
質層の幅(CD変動量)との相関性は特にみられなかった。
【0022】
これらのD-SIMSの結果等により、マスクブランクの製造時には付着し得ない転写パター
ンの側壁部分、パターン形成用薄膜のクロム系薄膜と接する表層以外の部分のCrの残留
物質濃度が高い濃度で存在することが判明した。これは、クロム系薄膜の転写パターンを
マスクとし、パターン形成用薄膜をドライエッチングして転写パターンを形成後に行われ
るクロム系薄膜の除去時に、塩素と酸素の混合ガスによるドライエッチングで昇華したク
ロムがパターン形成用薄膜の転写パターン側壁に再付着し、遷移金属とケイ素の構造の隙
間に入り込んだ、あるいはケイ素と結合したため、従来の洗浄工程では除去できなかった
ものと考えられる。
【0023】
この作製された転写用マスクにArF露光光が照射された場合、パターン形成用薄膜の
材料の遷移金属と同様、残留しているクロムもArF露光光によって励起されて遷移状態
となり、残留している塩素、大気中の酸素やArF露光光との反応で発生したオゾンと反
応して昇華する。パターン側壁部分から膜材料の遷移金属だけでなくクロムも昇華して抜
けていくため、変質層中の隙間はより多くなり、パターン形成用薄膜内の非変質層と変質
層との界面から遷移金属が昇華しやすい状態となる。このようなメカニズムにより、パタ
ーン側壁部分にクロムが多く残留していると変質層の成長が大きくなってしまうと本発明
者らは解明した。そして、本発明者らは、これらの解明事実、考察に基づき、変質層の発
生、拡大を抑える方策として上記のようにして生じたパターン形成用薄膜の転写パターン
側壁部分のクロム残留物に着目し、さらに鋭意研究を続けた結果、本発明を完成したもの
である。
【0024】
本発明の転写用マスクは、
透光性基板上に設けられたパターン形成用薄膜に転写パターンが形成されてなる転写用
マスクにおいて、
前記転写用マスクは、波長200nm以下の露光光が適用されるものであり、
前記パターン形成用薄膜は、クロムを除く遷移金属およびケイ素を含有する材料からな
り、
前記パターン形成用薄膜の膜中のクロム含有量が、1.0×1018atom/cm
未満であることを特徴とする(構成1)。
本発明において、前記パターン形成用薄膜は、DRAM hp45nm世代以降の転写
パターンを有することを特徴とする(構成5)。
【0025】
本発明者は、前記のとおり、転写パターン用薄膜の転写パターン側壁部分のクロム残留
物が変質層の成長に大きな影響を与えているという新たな知見を得た。クロムを除く遷移
金属とケイ素を含有する転写パターン用薄膜の転写パターン側壁部分にクロム残留物を付
着させない(クロム残留濃度を低減させる)という観点だけならば、クロム系薄膜をマス
ク(エッチングマスク)として転写パターン用薄膜に転写パターンを形成するマスクブラ
ンクの構成としないことが最も近道である。しかし、前記のとおり、転写パターンの微細
化が進んでいる現状では、特に、DRAM hp45nm世代以降、特にhp32nm世
代以降のバイナリ型の転写用マスクの場合、レジストパターンをマスクとしてパターン形
成用薄膜に転写パターンを高い精度で形成することは困難である。
【0026】
DRAM hp45nm世代のバイナリ型転写用マスクの場合、微細補助パターン(SR
AF:Sub-Resolution Assist Feature)の幅は60nm程度と狭い幅であり、レジストパター
ンの倒壊・脱離がないようにするにはレジスト膜の膜厚は150nm以下とすることが必要で
ある。この膜厚では、エッチングマスク膜なしに転写パターン用薄膜に転写パターンを形
成することは難しい。さらに、DRAM hp32nm世代のバイナリ型転写用マスクの
場合、SRAFの幅は40nm前後と非常に狭い幅であり、レジスト膜の膜厚は100nm以下とする
ことが必要である。もはやこの膜厚ではエッチングマスク膜なしに転写パターン用薄膜に
転写パターンを形成することは困難である。
【0027】
一方、位相シフトマスクの場合、クロムを除く遷移金属とケイ素を含有するパターン形
成用薄膜の上に遮光帯等を形成するために遮光膜を積層させる必要がある。エッチングマ
スク膜や遮光膜にクロム以外の材料を用いる方法も考えられる。しかし、クロムを除く遷
移金属とケイ素を含有するパターン形成用薄膜に対して高いエッチング選択性を有するこ
と、エッチングによる除去時にパターン形成用薄膜への影響が小さいこと等、これらの条
件を確実に満たす信頼性の高い材料は、クロム系材料以外にはなかなか見当たらない状況
である。
【0028】
本発明者は、クロムを除く遷移金属とケイ素を含有するパターン形成用薄膜の上に、ク
ロム系薄膜を備えた構成のマスクブランクから転写用マスクを作製する場合、作製プロセ
ス中にパターン形成用薄膜に付着してしまうクロムの含有量を洗浄工程等でどの程度まで
減少させれば、ArF露光光を長時間照射(総照射量 40kJ/cm)されても問題
ないCD変動量に抑制されるか検討した。DRAM hp32nm世代では、ウェハ上で
CD制御を2.6nm以下とする必要があり、この点を考慮すると、転写用マスクに求め
られるCD変動量は5nm以下とすることが望ましい。各種検証の結果、図1に示すよう
に転写パターン用薄膜中のクロム含有量(Cr残留濃度)が1.0×1018atoms
/cm未満であれば、CD変動量を求められている5nm以下に抑制することができる
ことを突き止めた。さらには、転写パターン用薄膜中のクロム含有量を5.0×1017
atoms/cm以下とすると、より確実にArF露光光照射によるCD変動量を抑制
できることを突き止めた。
【0029】
本発明において、パターン形成用薄膜は、転写パターン(マスクパターン)を形成する
ための薄膜である。
本発明において、パターン形成用薄膜は、遷移金属(クロムを除く)およびケイ素を含
有する材料からなる膜を意図して形成した膜であり、実質的にクロムは含まれないことを
意図して作製された膜である。例えば、スパッタリング法でパターン形成用薄膜を透光性
基板上に形成する場合、クロムを含有しないスパッタターゲットを用い、成膜ガスにもク
ロムは含まれないものを使用したものである。
このため、パターン形成用薄膜からなる転写パターンの表層(クロム系薄膜に接する表
面及び側壁部分)を除く膜中のクロム含有量は、1.0×1016atom/cm以下
のレベル(実質的にクロムは含まれないとされるレベル)である。
【0030】
パターン形成用薄膜からなる転写パターンは、その表層のクロム含有量は、1.0×1
18atom/cm未満とする必要がある。特に、側壁部分は、転写用マスクの作製
時のCr系薄膜の剥離時に露出している部分であり、ArF露光光の照射を直接受け、か
つ大気に接しているという変質層が形成される条件が最も揃っている。この側壁部分につ
いては、クロム含有量は、1.0×1018atom/cm未満とすることによる効果
は顕著にあらわれる。
【0031】
なお、本発明でいうパターン形成用薄膜の転写パターン幅のCD変動量は、図4に示す
ように、転写パターン2の表層に生じる変質層2aの厚さをΔdとすると、2Δdで定義
される。
図4(1)は孤立スペースやホールのようなスペース形状の場合で、CD変化量=a1
−a2=2Δdである。
図4(2)は孤立ラインやドットのようなパターン形状の場合で、CD変化量=a4−
a3=2Δdである。
なお、ラインアンドスペースパターンの場合は、どちらで定義されてもよい。
【0032】
本発明において、クロムを除く遷移金属およびケイ素を含有する材料からなるパターン
形成用薄膜における遷移金属(M)としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、
タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオ
ブ(Nb)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pb)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(
Rh)、ハフニウム(Hf)の何れか一つ又は合金、などが挙げられる。
本発明において、パターン形成用薄膜は、遷移金属とケイ素の他に、窒素、酸素、炭素
、水素、不活性ガス(ヘリウム,アルゴン,キセノン等)等を含有する材料が含まれる。
【0033】
本発明において、パターン形成用薄膜は、バイナリ型マスクにおける遮光膜、又は、ハ
ーフトーン型位相シフト膜とすることができる。また、パターン形成用薄膜は、パターン
転写を行う転写対象物のレジスト膜が感光されない程度の所定の透過率で露光光を透過さ
せる薄膜であるが、薄膜を透過した露光光に、薄膜のない部分を透過した露光光との間で
位相差を生じないように調整されている光半透過膜とすることもできる。このタイプの光
半透過膜が適用されたマスクブランクは、エンハンサマスクを作製する際に使用されるこ
とが多い。この光半透過膜の場合においても、露光光に対して所定の透過率を有している
ため、露光装置での転写対象物のレジスト膜への露光時に重ね露光を行うと、レジスト膜
が感光してしまう場合がある。このため、光半透過膜の上に遮光帯を形成するための遮光
膜を積層させた膜構成とする場合が多い。
【0034】
本発明において、前記パターン形成用薄膜中の遷移金属は、モリブデンである態様が含
まれる(構成2)。
前記の通り、モリブデンは酸素やオゾンと結合(MoO)となりやすく、MoO
気化物質であるため、パターン側壁部分の変質層を抑制する本願発明が特に有効に機能す
るからである。
【0035】
本発明において、前記パターン形成用薄膜は、光学濃度2.5以上を有する遮光膜であ
る態様が含まれる(構成3)。
バイナリ型マスクの場合、シングル露光に対応するためには、パターン転写領域におけ
る遮光膜の光学濃度は最低でも2.5以上とする必要があるからである。露光装置の構造
や転写パターンを転写するウェハ上のレジスト膜等の感度特性等にもよっては、遮光膜に
より高い遮光性能が求められるため、光学濃度2.8以上であるとより好ましく、3.0
以上であると種々のマスク使用環境に対応可能である。
【0036】
本発明において、
前記パターン形成用薄膜は、透光性基板側から遮光層および表面反射防止層の少なくと
も2層以上の積層構造からなる遮光膜である態様が含まれる(構成4)。
遮光膜が、遮光層と表面反射防止層の2層積層構造からなる場合、遮光層に裏面反射(
透光性基板と遮光層との界面における露光光の反射)の防止機能を持たせる必要がある。
さらに、遮光膜は、遮光層の透光性基板側に裏面反射防止層も設けた3層積層構造とし
てもよい。この場合、裏面反射防止層が裏面反射防止機能を有するため、遮光層は光学濃
度を確保することを重視した膜設計をすることができる。なお、遮光膜は、単層の組成傾
斜膜としてもよく、表面反射防止膜、遮光層、裏面反射防止膜についても組成傾斜膜とし
てもよい。
【0037】
本発明において、前記パターン形成用薄膜は、ハーフトーン型位相シフト膜である態様
が含まれる(構成6)。
【0038】
本発明において、ハーフトーン型位相シフト膜(光半透過膜)は、単層構造、低透過率
層と高透過率層とからなる2層構造、多層構造を含む。
ハーフトーン型位相シフト膜は、高透過率タイプを含む。高透過率タイプは、例えば、
通常の透過率1〜10%未満に対し、相対的に高い透過率10〜30%を有するものをい
う。
【0039】
本発明の転写用マスクの製造方法は、
透光性基板上に、クロムを除く遷移金属およびケイ素を含有する材料からなるパターン
形成用薄膜と、クロムを含有する材料からなるクロム系薄膜が順に積層したマスクブラン
クを用いた転写用マスクの製造方法において、
前記転写用マスクは、波長200nm以下の露光光が適用されるものであり、
クロム系薄膜上に、転写パターンを有するレジスト膜を形成する工程と、
転写パターンを有するレジスト膜をマスクとして、クロム系薄膜に転写パターンを形成
する工程と、
転写パターンを有するクロム系薄膜をマスクとして、パターン形成用薄膜に転写パター
ンを形成する工程と、
前記クロム系薄膜をエッチングによって除去する工程と、
をこの順に行って転写用マスクを作製し、
作製した転写用マスクに対し、前記パターン形成用薄膜からなる転写パターンのクロム
含有量が1.0×1018atoms/cm未満になるまで、アルカリ溶液洗浄、温水
洗浄、オゾン含有水洗浄のうち1以上の洗浄を行う洗浄工程を有することを特徴とする(
構成7)。
本発明において、前記パターン形成用薄膜は、DRAM hp45nm世代以降の転写
パターンを有することを特徴とする(構成13)。
【0040】
本発明者は、従来行われているような洗浄工程では、パターン側壁部分のクロム残留濃
度を低減させることは容易ではないことを考慮した結果、特定の洗浄工程でクロム残留濃
度の高いパターン側壁部分自体を溶解除去することで変質層の成長を抑制できるという結
論に至った。
【0041】
本発明者らは、Cr系膜のパターンをマスクとして使用し、パターン形成用薄膜(例え
ばMoSi系バイナリ膜)をSFとHeの混合ガスによるドライエッチングによってパ
ターニングした後、エッチングマスクとして使用したCr系膜のパターンをドライエッチ
ング(塩素と酸素のプラズマ)によって剥離除去した後の最初の洗浄が、ArF照射耐性
に大きな影響を与えており、重要であることを解明した。
本発明者は、最初の洗浄が適切でないと、以後の工程で種々の洗浄を施しても改善しな
い傾向にあることを突き止めた。例えば、最初の洗浄が、硫酸過水、熱濃硫酸などの酸洗
浄であると、以後の工程で種々の洗浄を施しても改善しない傾向にある。
本発明者は、前記最初の洗浄として、アルカリ溶液洗浄、温水洗浄、オゾン含有水洗浄
のうち1以上の洗浄を行う洗浄工程が適していることを突き止めた。これらの洗浄工程は
、上述したクロム残留濃度の高いパターン側壁部分を溶解し、かつ溶解したクロムが再度
転写パターンの内部に侵入することなく除去でき、パターン形成用薄膜のクロム残留濃度
を1.0×1018atoms/cm未満とすることができることを突き止めた。さら
に、これらの洗浄工程は、上記酸洗浄工程の如く、以後の工程で種々の洗浄を施しても改
善しない傾向を示すことがない。
本発明者は、前記最初の洗浄として、アルカリ溶液洗浄、温水洗浄、オゾン含有水洗浄
のうち1以上の洗浄を行う洗浄工程を適用することによって、上述したパターン形成用薄
膜のクロム残留濃度(クロム含有量)を1.0×1018atoms/cm未満まで低
減することが可能であることを見い出した。また、アルカリ溶液洗浄、温水洗浄、オゾン
含有水洗浄の洗浄順序や、洗浄時間を調整することで、転写パターン用薄膜中のクロム含
有量を5.0×1017atoms/cm以下とすることも可能であり、より確実にA
rF露光光照射によるCD変動量を抑制できる。
【0042】
なお、本発明者は、各種検証の結果、転写パターン用薄膜の転写パターンの幅が4nm
減少するまで、あるいは、転写パターンのスペース幅が4nm増加するまで、洗浄工程を
行うことで、パターン形成用薄膜のクロム残留濃度(クロム含有量)を1.0×1018
atoms/cm未満に低減できることを突き止めている。
【0043】
アルカリ溶液で洗浄する工程は、アンモニアと過酸化水素を含有する水溶液などのアル
カリ溶液を用いることが好ましい。
アルカリ溶液の温度は、15〜80℃程度が好ましい。
アルカリ溶液による処理時間は、10〜20分程度が好ましい。
温水で洗浄する工程は、イオン交換水(DI water:deionized water)などの純水や超
純水を用いることが好ましい。
温水の温度は、70〜90℃程度が好ましい。
温水による処理時間は、10〜20分程度が好ましい。
オゾン含有水で洗浄する工程は、40〜60ppmのオゾン含有水を用いることが好ま
しい。
オゾン含有水の温度は、15〜30℃程度が好ましい。
オゾン含有水による処理時間は、10〜20分程度が好ましい。
【0044】
本発明において、前記洗浄工程は、アルカリ溶液洗浄、温水洗浄、およびオゾン含有水
洗浄をこの順に行うことが好ましい(構成8)。
本発明者は、前記洗浄工程は、アルカリ溶液洗浄、温水洗浄、およびオゾン含有水洗浄
をこの順に行うことによって、パターン形成用薄膜のクロム含有量を1.0×1018
toms/cm未満、さらには5.0×1017atoms/cm以下にまで、効率
よく低減することができることを見い出した。
【0045】
本発明において、前記アルカリ溶液は、アンモニアと過酸化水素を含有する水溶液であ
ることが好ましい(構成9)。
本発明者は、前記アルカリ溶液は、アンモニアと過酸化水素を含有する水溶液であるこ
とによって、上述したCr残渣を、非常に効率よくかつ確実に低減することができること
を見い出した。
アンモニアと過酸化水素を含有する水溶液は、例えば、水酸化アンモニウム(NH
H 濃度 25wt%):過酸化水素(H 濃度 30wt%):水(HO)=
2:1:4(体積比)の溶液を用いることが好ましい。
【0046】
本発明の製造方法において、前記パターン形成用薄膜中の遷移金属は、モリブデンであ
る態様が含まれる(構成10)。
前記の通り、モリブデンは酸素やオゾンと結合(MoO)となりやすく、MoO
気化物質であるため、パターン側壁部分の変質層を抑制する本願発明が特に有効に機能す
るからである。
【0047】
本発明の製造方法において、前記パターン形成用薄膜は、光学濃度2.5以上を有する
遮光膜であり、
前記クロム系薄膜は、エッチングによって除去する工程で全て除去される態様が含まれ
る(構成11)。
この場合、クロム系薄膜は、エッチングマスクとして使用され、使用後は全て除去され
、この転写用マスクはバイナリ型マスクとして使用される。
バイナリ型マスクの場合、ダブル露光に対応するためには、パターン転写領域における
遮光膜の光学濃度は最低でも2.5以上とする必要があるが、上記構成11によるとこの
要件を満たすことができる。露光装置の構造や転写パターンを転写するウェハ上のレジス
ト膜等の感度特性等によっては、遮光膜により高い遮光性能が求められるため、光学濃度
2.8以上であるとより好ましく、3.0以上であると種々のマスク使用環境に対応可能
である。
【0048】
転写用マスクを露光装置のマスクステージに設置し、ウェハ上のレジスト膜等にArF
露光光で転写パターンを露光する際、ArF露光光は、透光性基板側から照射されて転写
パターンが形成される領域のパターン形成用薄膜のないスペース部から透過して縮小光学
系に出射される。このため、遮光パッチ等を設ける必要のないバイナリ型マスクの場合、
少なくとも転写パターンが形成される領域は、クロム系薄膜が除去されていることが好ま
しく、パターン形成用薄膜の表面全体からクロム系薄膜が除去されていることが最も望ま
しい。
【0049】
本発明において、
前記パターン形成用薄膜は、透光性基板側から遮光層および表面反射防止層の少なくと
も2層以上の積層構造からなる遮光膜である態様が含まれる(構成12)。
【0050】
本発明の製造方法において、前記パターン形成用薄膜は、ハーフトーン型位相シフト膜
であり、
前記クロム系薄膜とパターン形成用薄膜との積層構造で光学濃度2.5以上を有し、
前記クロム系薄膜をエッチングによって除去する工程で、転写パターン領域外周の遮光
帯領域以外の領域の前記クロム系薄膜は除去されて遮光帯が形成される態様が含まれる(
構成14)。
この場合、クロム系薄膜は、エッチングマスクとしての機能に加え、遮光帯領域におけ
る遮光性(光学濃度)を付与する機能を有する。
ハーフトーン型位相シフトマスクの場合、遮光帯領域の光学濃度は最低でも2.5以上
とする必要があるが、上記構成14によるとこの要件を満たすことができる。なお、転写
パターン領域内のハーフトーン型位相シフト膜に、大きな膜パターンであって遮光パッチ
が必要な部分については、クロム系薄膜を残してもよい。
【0051】
本発明において、遮光膜における遮光層は、遮光性が非常に高い材料が好ましく、クロ
ムに比べ遮光性が高い材料で構成することが好ましい。遷移金属とケイ素を含有する材料
は、クロムに比べて遮光性が高い。
遷移金属のモリブデンとケイ素を含有する材料の光学濃度は、モリブデンの含有量[原
子%]をモリブデンとケイ素の合計含有量[原子%]で除して百分率で表した比率(以下
、(Mo/Mo+Si)比率という。)が、所定比率で頭打ちとなる傾向がある。材料中
の他の元素(窒素等)の含有量によって、頭打ちとなる(Mo/Mo+Si)比率は多少
変わるが40%より大きくはならない。モリブデンとケイ素を含有する材料は、モリブデ
ンの含有量が高いと、耐薬性や耐洗浄性(特に、アルカリ洗浄や温水洗浄)が低下すると
いう問題がある。これらのことを考慮すると、転写用マスクとして使用する際の必要最低
限の耐薬性、耐洗浄性を確保できる(Mo/Mo+Si)比率である40%をモリブデン
とケイ素を含有する遮光層として適用可能な上限とすることが好ましい。
【0052】
一方、(Mo/Mo+Si)比率の下限については、遮光層中の他の元素の含有量によ
って光学濃度が変わるため、2層積層構造と3層積層構造の遮光膜では異なる。
裏面反射防止層、遮光層、表面反射防止層の3層積層構造の遮光膜の場合、遮光層に裏
面および表面の反射防止機能を持たせる必要がないため、酸素や窒素を実質的に含有させ
なくてもよくなる。この場合においては、(Mo/Mo+Si)比率の下限が9%であっ
ても薄い膜厚(60nm以下)でも遮光膜としての光学濃度2.5以上を十分に確保する
ことができる。
他方、遮光層、表面反射防止層の2層積層構造の遮光膜の場合、遮光層に裏面反射防止
機能を持たせる必要があるため、膜中の窒素含有量を30原子%以下の範囲で含有させる
必要がある。この場合においては、(Mo/Mo+Si)比率の下限を15%とすること
で、遮光膜としての光学濃度2.5以上を十分に確保することができる。
【0053】
なお、遮光膜の材料にモリブデン以外の遷移金属を適用した場合についても概ね同様の
傾向を示す。また、酸素は、遮光層中の含有量に対する遮光性能の低下度合が窒素に比べ
て著しく大きく、酸素の含有率に比例して遮光層に必要な膜厚がより厚くなってしまう。
窒素だけでも露光光に対する裏面反射率を低減させることは可能であることから、遮光層
の酸素の含有量は、10原子%未満であることが好ましく、さらに好ましくは、酸素を実
質的に含有しない(コンタミ等によって含有されることを許容する程度)ことが好ましい

【0054】
本発明において、遮光膜における表面反射防止層は、遷移金属とケイ素に、さらに酸素
および窒素から選ばれる少なくとも1つ以上の元素を含む材料を主成分とすることが好ま
しい。
具体的には、表面反射防止層は、遷移金属(M)とケイ素を主成分とする材料(MSi
O,MSiN,MSiON,MSiOC,MSiCN,MSiOCN等)が好ましい。こ
れらのうちでも、耐薬品性、耐熱性の観点からはMSiO、MSiONが好ましく、マス
クブランクの欠陥品質の観点からMSiONが好ましい。
【0055】
本発明において、表面反射防止層にMoSiON、MoSiO、MoSiN、MoSi
OC、MoSiOCNを適用する場合、Moを多くすると耐洗浄性、特にアルカリ(アン
モニア水等)や温水に対する耐性が小さくなる。この観点からは、表面反射防止層である
MoSiON、MoSiO、MoSiN、MoSiOC、MoSiOCN等では、Mo極
力減らすことが好ましい。
また、応力制御を目的として高温で加熱処理(アニール)する際、Moの含有率が高い
と膜の表面が白く曇る(白濁する)現象が生じることがわかった。これは、MoOが表面
に析出するためであると考えられる。このような現象を避ける観点からは、表面反射防止
層であるMoSiON、MoSiO、MoSiN、MoSiOC、MoSiOCN等では
、表面反射防止層中のMoの含有率は10原子%未満であることが好ましい。しかし、M
o含有率が少なすぎる場合、DCスパッタリングの際の異常放電が顕著になり、欠陥発生
頻度が高まる。よって、Moは正常にスパッタできる範囲で含有していることが望ましい
。他の成膜技術によってはMoを含有せずに成膜可能な場合がある。
【0056】
遮光膜のArF露光光に対する表面反射率としては、30%以下を確保する必要性が高
く、25%以下であると好ましく、遮光膜全体の膜厚が許容範囲内であれば20%以下が
確保できると最も好ましい。
また、表面反射率を所定値以下に抑制するためには、表面反射防止層12の膜厚は5n
mよりも大きいことが望ましい。また、より低反射率とするには、膜厚を7nm以上とす
ることが望ましい。さらに、生産安定性の観点や、転写用マスクを作製した後のマスク洗
浄の繰り返しによる表面反射防止層の膜減りを考慮すると、表面反射防止層の膜厚は10
nm以上あると好ましい。遮光膜全体での薄膜化を考慮すると、遮光膜の光学濃度への寄
与度の低い表面反射防止層の膜厚は、20nm以下であることが望ましく、15nm以下
であるとより望ましい。
【0057】
遮光膜のArF露光光に対する裏面反射率としては、40%以下を確保する必要性が高
く、35%以下であると好ましく、遮光膜全体の膜厚が許容範囲内であれば30%以下が
確保できると最も好ましい。
裏面反射防止層を備える3層積層構造の遮光膜の場合、裏面反射率を所定値以下に抑制
するためには、裏面反射防止層の膜厚は5nmよりも大きいことが望ましい。また、より
低反射率とするには、膜厚を7nm以上とすることが望ましい。遮光膜全体での薄膜化を
考慮すると、遮光膜の光学濃度への寄与度の低い裏面反射防止層の膜厚は、15nm以下
であることが望ましく、12nm以下であるとより望ましい。
【0058】
本発明において、クロム系薄膜としては、クロム単体や、クロムに酸素、窒素、炭素、
水素からなる元素を少なくとも1種を含むもの(クロムを主成分とする膜、又はCrを含
む材料)、などの材料が挙げられる。
これらのなかでも、窒化クロム、酸化クロム、窒化酸化クロム、酸化炭化窒化クロムの
いずれかを主成分とする材料で形成されている態様が好ましい。前記クロム系薄膜の膜構
造としては、上記膜材料からなる単層、複数層構造とすることができる。複数層構造では
、異なる組成で段階的に形成した複数層構造や、連続的に組成が変化した膜構造とするこ
とができる。
【0059】
本発明において、クロム系薄膜は、膜中のクロムの含有量が45原子%以下である態様
が含まれる。
膜中のクロムの含有量が45原子%以下とすることにより、クロム系薄膜のエッチング
レートを高めてレジスト膜厚の低減を図ることができる。
【0060】
Cr系材料は、酸化を進行させるほど塩素系ガスに対するエッチングレートが向上する
。また、酸化させたときほどではないが、窒化を進行させても塩素系ガスに対するエッチ
ングレートが向上する。よって、高酸化、高窒化させることが好ましい。
なお、膜の欠陥品質に優れる観点からは、酸化炭化窒化クロム、酸化炭化クロムが好ま
しい。また、応力の制御性(低応力膜を形成可能)の観点からは、酸化炭化窒化クロム(
CrOCN)が好ましい。
【0061】
本発明の半導体デバイスの製造方法は、構成5の転写用マスクを用い、半導体ウェハ上
に回路パターンを形成することを特徴する(構成15)。
本発明の半導体デバイスの製造方法は、構成13の転写用マスクの製造方法で作製され
た転写用マスクを用い、半導体ウェハ上に回路パターンを形成することを特徴する(構成
16)。
本発明の半導体デバイスの製造方法は、半導体ウェハ上に形成される回路パターンは、
DRAM hp45nm世代以降の回路パターンが含まれている態様を含む(構成17)

本発明の転写用マスク、あるいは本発明の転写用マスクの製造方法で作製された転写用
マスクを用いることで、高い精度の回路パターンを有する半導体デバイスを同じ転写用マ
スクで継続的に製造することができる。
【0062】
本発明において、遷移金属とケイ素を含む薄膜のドライエッチングには、例えば、SF
、CF、C、CHF等の弗素系ガス、これらとHe、H、N、Ar、C
、O等の混合ガスを用いることができる。
【0063】
本発明において、クロム系薄膜のドライエッチングには、塩素系ガスと酸素ガスとを含
む混合ガスからなるドライエッチングガスを用いることが好ましい。この理由は、クロム
と酸素、窒素等の元素とを含む材料からなるクロム系薄膜に対しては、上記のドライエッ
チングガスを用いてドライエッチングを行うことにより、ドライエッチング速度を高める
ことができ、ドライエッチング時間の短縮化を図ることができ、断面形状の良好な遮光性
膜パターンを形成することができるからである。ドライエッチングガスに用いる塩素系ガ
スとしては、例えば、Cl2、SiCl4、HCl、CCl、CHCl等が挙げられ
る。
【0064】
本発明において、レジストは化学増幅型レジストであること好ましい。高精度の加工に
適するためである。
本発明において、レジストは電子線描画用のレジストであること好ましい。高精度の加
工に適するためである。
本発明は、電子線描画によりレジストパターンを形成する電子線描画用のマスクブラン
クに適用する。
【0065】
本発明において、基板としては、合成石英基板、CaF基板、ソーダライムガラス基
板、無アルカリガラス基板、アルミノシリケートガラス基板などが挙げられる。
【0066】
本発明において、転写用マスクには、位相シフト効果を使用しないバイナリ型マスク、
位相シフトマスクが含まれる。転写用マスクには、レチクルが含まれる。
位相シフトマスクには、ハーフトーン型(トライトーン型)、レベンソン型、補助パタ
ーン型、自己整合型(エッジ強調型)等の位相シフトマスクが含まれる。
【0067】
(実施例1、比較例1)
(マスクブランクの作製)
図5(1)は、実施例1のバイナリ型マスクブランクの断面図である。
透光性基板1としてサイズ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を用
い、透光性基板1上に、パターン形成用薄膜である遮光膜10として、MoSiN膜(遮
光層)、MoSiON膜(表面反射防止層)、をそれぞれ形成した。
具体的には、透光性基板1上に、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)の混合ターゲッ
ト(Mo:Si=21原子%:79原子%)を用い、アルゴン(Ar)と窒素(N)の
混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光層(Mo
SiN膜,Mo:Si:N=14.7原子%:56.2原子%:29.1原子%)を50
nmの膜厚で形成した。
次に、遮光層上に、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)の混合ターゲット(Mo:S
i=4原子%:96原子%)を用い、アルゴン(Ar)と酸素(O)と窒素(N)と
ヘリウム(He)の混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)に
より、表面反射防止層(MoSiON膜,Mo:Si:O:N=2.6原子%:57.1
原子%:15.9原子%:24.4原子%)を10nmの膜厚で形成した。
なお、各層(遮光膜)の元素分析は、ラザフォード後方散乱分析法を用いた。
遮光膜10の合計膜厚は60nmとした。遮光膜10の光学濃度(OD)はArFエキ
シマレーザー露光光の波長193nmにおいて3.0であった。
次に、上記基板を450℃で30分間加熱処理(アニール処理)した。
【0068】
次に、遮光膜10上に、クロム系薄膜であるエッチングマスク膜20を形成した(図5
(1))。
具体的には、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、クロムターゲットを使用し、アル
ゴン(Ar)と二酸化炭素(CO)と窒素(N)とヘリウム(He)の混合ガス雰囲
気で成膜を行い、エッチングマスク膜(CrOCN膜,Cr:O:C:N=33.0原子
%:38.9原子%:11.1原子%:17.0原子%)を15nmの膜厚で形成した。
なお、CrOCN膜(エッチングマスク膜)の元素分析は、ラザフォード後方散乱分析
法を用いた。
上記により、ArFエキシマレーザー露光用の遮光膜を形成したバイナリ型マスクブラ
ンクを得た。また、同様の手順により必要枚数製造した。
【0069】
(転写用マスクの作製)
マスクブランクのエッチングマスク膜20の上に、電子線描画(露光)用化学増幅型ポ
ジレジスト100(PRL009:富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)を
スピンコート法により膜厚が100nmとなるように塗布した(図5(1))。
次に、レジスト膜100に対し、電子線描画装置を用いて所望のパターンの描画を行っ
た後、所定の現像液で現像してレジストパターン100aを形成した(図5(2))。
次に、レジストパターン100aをマスクとして、エッチングマスク膜20のドライエ
ッチングを行い、エッチングマスク膜のパターン20aを形成した(図5(3))。ドラ
イエッチングガスとして、ClとOの混合ガス(Cl:O=4:1)を用いた。
次いで、残留したレジストパターン100aを除去した(図5(4))。
次いで、エッチングマスク膜のパターン20aをマスクにして、遮光膜10を、SF
とHeの混合ガスを用い、ドライエッチングを行い、遮光膜パターン10aを形成した(
図5(5))。
次いで、エッチングマスク膜のパターン20aを、ClとOの混合ガス(Cl
=4:1)を用い、ドライエッチングを行い、剥離除去した(図5(6))。Cr剥
離の時間は25秒とした。また、前記の製造したバイナリ型マスクブランクすべてに対し
、同様の手順で同じ転写パターンを有する転写用マスク(バイナリ型マスク)を作製した

【0070】
次に、上記の手順で作製した複数枚の転写用マスクを、アルカリ溶液で洗浄する工程、
温水で洗浄する工程、およびオゾン含有水で洗浄する工程をこの順に行った。
アルカリ溶液で洗浄する工程は、水酸化アンモニウム(NHOH 濃度 25wt%
):過酸化水素(H 濃度 30wt%):水(HO)=2:1:4(体積比)
の溶液を室温で使用した。処理時間は、比較例1−1で0分(即ち処理せず)、比較例1
−2で5分、実施例1−1で15分、実施例1−2で30分、とした。
温水で洗浄する工程は、温度90℃のイオン交換水(DI water:deionized water)を
用いた。処理時間は、比較例1−1で0分(即ち処理せず)、比較例1−2で5分、実施
例1−1で15分、実施例1−2で30分、とした。
オゾン含有水で洗浄する工程は、50ppmのオゾン含有水を室温で用いた。処理時間
は、比較例1−1で0分(即ち処理せず)、比較例1−2で5分、実施例1−1で15分
、実施例1−2で30分、とした。
以上のようにして、マスクブランクから、実施例1−1、実施例1−2、比較例1−1
、比較例1−2についての転写用マスクをそれぞれ作製した。
【0071】
(参考例1)
実施例1において、MoSi系の遮光膜10上に、Cr系のエッチングマスク膜20を
形成せず、レジストパターン100aをマスクとして、MoSi系の遮光膜10をパター
ニングしたこと以外は、実施例1と同様とした。
【0072】
(D−SIMSによる分析)
上記で得られた転写用マスクについて、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion
Mass Spectrometry)を用い、試料を削りながら測定するダイナミックモード(D-SIMS)(
一次イオンはO)で、残留物質を調べた。測定領域は、ラインアンドスペースを含む領
域とした。
その結果、Cr残留濃度(atoms/cm)は、比較例1−1(即ち洗浄処理せず
)で1.00×1019、比較例1−1(洗浄時間各5分)で1.09×1018、実施
例1−1(洗浄時間各15分)で4.90×1017、実施例1−2(洗浄時間各30分
)で1.69×1016、参考例1(Cr系のエッチングマスク層20を形成せず)で5
.00×1015、であった。
【0073】
(ArFエキシマレーザー照射によるCD変化)
上記で得られた転写用マスクについて、ArFエキシマレーザー(波長193nm)照
射によるCD変化量を調べた。
照射条件は、繰り返し周波数300Hz、パルスエネルギー16mJ/cm/pul
se、積算照射量40kJ/cm、とした。
なお、積算照射量40kJ/cmは、転写マスクを用いて、ウェハ150,000枚
のレジスト膜に対して転写パターンを露光転写したことに相当する。
CDの測定は、180nm幅のラインであって、面内に均等に配した6箇所にある各ラ
インについて、CD変動量(照射後のCD−照射前のCD)を測定し、平均値を求めた。
その結果、CD変動量(平均値)は、比較例1−1(即ち洗浄処理せず)で19.5n
m、比較例1−2(洗浄時間各5分)で15.9nm、実施例1−1(洗浄時間各15分
)で4.7nm、実施例1−2(洗浄時間各30)で3.9nm、参考例1(Cr系のエ
ッチングマスク膜20を形成せず)で1.0nm、であった。
【0074】
遮光膜10のCr残留濃度(atoms/cm)と、ArFエキシマレーザー照射に
よるCD変動量(nm)との関係を図1に示す。
MoSi系材料からなる遮光膜からなる転写パターンの表層(表面及び側壁部分)のク
ロム含有量を1.09×1018 atoms/cm未満とすることによって、比較例
1−1(即ち洗浄処理せず)に比べ、Cr残留濃度を1桁低減でき、CD変動(CDの太
り)を19.5nmから約10nmへ半減でき、効果が大きい。
MoSi系遮光膜からなる転写パターンの表層(表面及び側壁部分)のクロム含有量を
5.00×1017 atoms/cm以下(1.00×1018 atoms/cm
未満)とすることによって、比較例1(即ち洗浄処理せず)に比べ、Cr残留濃度を約
1/50に低減でき、CD変動(CDの太り)を19.5nmから7.5nm以下へ約1
/3に低減でき、効果が極めて大きい。
MoSi系遮光膜からなるパターン表層(上面及び側壁)のクロム含有量を3.40×
1017 atoms/cm以下とすることによって、比較例1(即ち洗浄処理せず)
に比べ、Cr残留濃度を2桁近く低減でき、CD変動(CDの太り)を19.5nmから
4.7nmへ約1/4に低減でき、更に効果が大きい。
【0075】
参考例1では、ArFエキシマレーザーの照射に対するCD変動については、最も良好
な結果とはなったが、パターン欠陥検査において、MoSi系遮光膜に形成された転写パ
ターンにパターン欠陥が多数発見され、転写用マスクとしては不適であった。マスク作製
プロセス中にレジストパターンの倒壊や脱離が発生したことが原因と思われる。
【0076】
なお、ラインアンドスペースを含む領域におけるCl残留濃度と、比較例1−1(即ち
洗浄処理せず)、比較例1−2、実施例1−1、実施例1−2の各洗浄工程実施との関係
を調べたが、洗浄工程の違いによるCl残留濃度の差異はない(長時間洗浄してもCl残
留濃度は減らず、図3に変化がない)ことがわかった。このことから、Cl残留濃度は、
ArFエキシマレーザー照射によるCD変化に影響を与える可能性が小さいと考えられる
。なお、図3のD-SIMSでは一次イオンはCsとした。
【0077】
(比較例2)
実施例1において、アルカリ溶液で洗浄する工程の前に、酸洗浄工程を追加する(すな
わち、クロム系材料からなるエッチングマスク膜のパターン20aをエッチング除去後は
、アルカリ溶液の洗浄工程ではなく、酸洗浄工程を行う。)と共に、オゾン含有水で洗浄
する工程を省略したこと以外は、実施例1と同様とした。
酸洗浄工程は、硫酸(HSO 濃度 98wt%):過酸化水素(H 濃度
30wt%)=4:1(体積比)の溶液を90℃に加熱して使用し、処理時間は10分
とした。
実施例1と同じ条件でArFエキシマレーザー照射によるCD変化量を調べた結果、各
ライン(面内均等6箇所)のCD変化量(平均値)は、11〜19nmであった。
【0078】
(実施例2)
実施例1において、オゾン含有水で洗浄する工程の後に、ClとOの混合ガス(C
:O=4:1)を用いたドライエッチングによる工程(処理時間150秒)を追加
したこと以外は、実施例1と同様とした。
実施例2で得られた転写用マスクについて、同じ条件でArFエキシマレーザー照射に
よるCD変化量を調べた結果、各ライン(面内均等6箇所)のCD変化量は、いずれも2
nm以下であった。
【0079】
(実施例3)
実施例1において、アルカリ溶液で洗浄する工程、温水で洗浄する工程、およびオゾン
含有水で洗浄する一連の工程を2回行った(各工程の条件はいずれも実施例1と同様)こ
と以外は、実施例1と同様とした。
実施例3で得られた転写用マスクについて、同じ条件でArFエキシマレーザー照射に
よるCD変化量を調べた結果、各ライン(面内均等6箇所)のCD変化量は、いずれも2
nm以下であった。
【0080】
(比較例3)
実施例2において、アルカリ溶液で洗浄する工程、温水で洗浄する工程、およびオゾン
含有水で洗浄する一連の工程に替えて、ClとOの混合ガス(Cl:O=4:1
)を用いたドライエッチングによる剥離(洗浄)工程(処理時間150秒)を実施したこ
と以外は、実施例1と同様とした。
比較例3で得られた転写用マスクについて、同じ条件でArFエキシマレーザー照射に
よるCD変化量を調べた結果、各ライン(面内均等6箇所)のCD変化量は、2.7〜2
2nmと非常にばらつきの大きい結果であった。
【0081】
(実施例4)
比較例3において、ClとOの混合ガス(Cl:O=4:1)を用いたドライ
エッチングによる剥離(洗浄)工程(処理時間150秒)の後に、アルカリ溶液で洗浄す
る工程、温水で洗浄する工程を実施した(各工程の条件はいずれも実施例1と同様)こと
以外は、実施例1と同様とした。
実施例4で得られた転写用マスクについて、同じ条件でArFエキシマレーザー照射に
よるCD変化量を調べた結果、各ライン(面内均等6箇所)のCD変化量は、2〜5nm
であった。
【0082】
(半導体デバイスの製造)
次に、実施例1〜3、比較例1〜3と同様の手順で、DRAM hp45nm世代の転
写パターンがパターン形成用薄膜に形成された転写用マスクを作製した。出来上がった各
転写用マスクのパターン形成用薄膜に対し、ArFエキシマレーザー(波長193nm)
の照射を実施例1と同じ条件で行った。これにより、半導体ウェハ150,000枚のレ
ジスト膜に対して転写パターンを露光転写したときと同等の状態の転写用マスクをそれぞ
れ準備した。この準備した各転写用マスクを用い、半導体ウェハ上のレジスト膜に対して
、転写パターンを露光転写する工程を行った。露光装置には、ArFエキシマレーザーを
光源とする液浸方式のものが用いられた。具体的には、露光装置のマスクステージに、準
備した各転写用マスクをセットし、半導体ウェハ上のArF液浸露光用のレジスト膜に対
して、露光転写を行った。露光後のレジスト膜に対して、所定の現像処理を行い、レジス
トパターンを形成した。さらに、レジストパターンを用いて、半導体ウェハ上にDRAM
ハーフピッチ(hp)45nmの回路パターンを形成した。
【0083】
得られた各半導体ウェハ上の回路パターンを電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、
実施例1〜3の条件で作製した転写用マスクを用いて製造した回路パターンは、DRAM
ハーフピッチ(hp)45nmの回路パターンに求められる仕様を十分に満たしていた。
すなわち、実施例1〜3の転写用マスクは、半導体ウェハ150,000枚分の露光転写
を行った後であっても、半導体ウェハ上にDRAMハーフピッチ(hp)45nmの回路
パターンを精度よく転写することが十分に可能であることが確認できた。
【0084】
これに対し、比較例1〜3の条件で作製した転写用マスクを用いて製造した回路パター
ンは、設計値からのCD変化量が大きく、DRAMハーフピッチ(hp)45nmの回路
パターンに求められる仕様を満たせていなかった。すなわち、比較例1〜3の転写用マス
クは、半導体ウェハ150,000枚分の露光転写を行った後では、半導体ウェハ上にD
RAMハーフピッチ(hp)45nmの回路パターンを精度よく転写することができない
ことが確認できた。
【符号の説明】
【0085】
1 透光性基板
2 パターン形成用薄膜
2a 変質層
10 遮光膜
20 エッチングマスク膜
100 レジスト膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に設けられたパターン形成用薄膜に転写パターンが形成されてなる転写用マスクにおいて
前記転写用マスクは、透光性基板上に、クロムを除く遷移金属およびケイ素を含有する材料からなるパターン形成用薄膜と、クロムを含有する材料からなるクロム系薄膜が順に積層したマスクブランクを用いて作製され、
前記パターン形成用薄膜は、膜中のクロム含有量が、1.0×1018atoms/cm未満であることを特徴とする転写用マスク。
【請求項2】
前記パターン形成用薄膜中の遷移金属は、モリブデンであることを特徴とする請求項1記載の転写用マスク。
【請求項3】
波長200nm以下の露光光が適用されることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の転写用マスク
【請求項4】
前記パターン形成用薄膜は、露光光に対する光学濃度2.5以上遮光膜であることを特徴とする請求項3に記載の転写用マスク。
【請求項5】
前記パターン形成用薄膜は、透光性基板側から遮光層および表面反射防止層の少なくとも2層以上の積層構造からなる遮光膜であることを特徴とする請求項に記載の転写用マスク。
【請求項6】
前記パターン形成用薄膜の上面には、前記クロム系薄膜が残存していないことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の転写用マスク
【請求項7】
前記パターン形成用薄膜は、DRAM hp32nm世代以降の転写パターンを有することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の転写用マスク。
【請求項8】
前記パターン形成用薄膜は、ハーフトーン型位相シフト膜であり、
転写パターン領域の外周の遮光帯領域に前記クロム系薄膜によって遮光帯が形成されており、
前記転写パターン領域における前記パターン形成用薄膜の上面には、クロム系薄膜が残存していないことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の転写用マスク
【請求項9】
前記クロム系薄膜とパターン形成用薄膜との積層構造で、露光光に対する光学濃度2.5以上を有することを特徴とする請求項8に記載の転写用マスク
【請求項10】
透光性基板上に設けられたパターン形成用薄膜に転写パターンが形成されてなる転写用マスクにおいて、
前記パターン形成用薄膜は、クロムを除く遷移金属およびケイ素を含有する材料からなり、かつ、膜中のクロム含有量が、1.0×1018atoms/cm未満であるハーフトーン型位相シフト膜であり、
転写パターン領域の外周の遮光帯領域における前記パターン形成用薄膜の上面にクロムを含有する材料からなるクロム系薄膜によって遮光帯が形成されていることを特徴とする転写用マスク
【請求項11】
波長200nm以下の露光光が適用されることを特徴とする請求項10に記載の転写用マスク
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の転写用マスクを用い、半導体ウェハ上に回路パターンを形成することを特徴する半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−209762(P2011−209762A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161968(P2011−161968)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【分割の表示】特願2010−226226(P2010−226226)の分割
【原出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】