説明

転動ロボット

【課題】多面体からなる外殻を有する転動ロボットにおいて、簡易な構成により転動のためのトルクを向上させる。
【解決手段】多面体からなるロボット本体ケース2内に、回転軸4にフライホイール5を取り付けたメインモータ3と、その回転軸に直交する方向に延在し、メインモータを回動自在に支持するモータ支持軸6,7と、そのモータ支持軸周りにメインモータを回動駆動するサブモータ8と、それらモータ3,8を制御する制御装置10とを備えた構成とし、制御装置により、フライホイールの回転中にメインモータを回動させて転動に必要なトルクを発生させるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体を転動させて移動する転動ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、本体が転動して移動する転動ロボットにおいて、本体を構成する球状の外殻の内面に沿ってレールを設け、そのレール上で重りとなる移動体を移動させるようにしたものが存在する(特許文献1参照)。この転動ロボットは、レール上の移動体を移動させて本体の重心を移動させることにより、その移動方向に本体を転動させることができる。その一方で、そのような転動動作は、転動方向がレールの配置によって規定されてしまうために意外性がなく面白みに欠けるという課題があった。また、そのような転動のための構成は、動作原理上、直方体や三角錐をなす外殻を用いる場合のように、平面視において移動体を外殻の接地面(反力が発生する位置)の外側に位置させることができないものには適用することができなかった。
【0003】
そこで、意外性を持たせた転動動作を実現し、また、外形からは転動できないと思われるものを転動させることを可能とするために、多面体の外殻を有する本体内にアウターロータを回転支持し、本体に固設されたステータと協働してモータを構成するようにした転動ロボットが開発されている(特願2005−243108(図1及び図2))。この転動ロボットは、立方体等の多面体からなる外殻を有し、その内部で回転部材を急加速して回転させることにより生じるトルクの反力により本体を転動させることができる。
【特許文献1】実開平06−41791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の転動ロボットでは、回転部材の加速のみにより転動に必要なトルクを生じさせるので、回転部材の慣性モーメントやモータのトルクを大きくしないと十分な転動能力を得られない場合があった。また、ロボットを転動させる際に、重力によるモーメントに対抗する反作用モーメントを回転部材の加速により発生させる必要があるが、回転部材の回転数(即ち、モータの回転数)を増大させてその上限付近に達すると、転動を実現するのに必要なトルクを発生することができない場合があった。さらに、回転部材を回転させるための制御装置やバッテリが、回転部材に固定されてその回転とともに高速回転する構成を有するので、制御装置と外殻内に固定されるセンサとの間で通信を行うための構成(例えば、無線通信)が複雑になるという課題があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みて案出されたものであり、簡易な構成により発生させたジャイロモーメントを利用して転動のためのトルクを向上させることを可能とした転動ロボットを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた第1の発明は、多面体からなる外殻を有する転動ロボットであって、回転軸を有するモータと、前記回転軸に取り付けられた回転部材と、前記回転軸に直交する方向に延在し、前記モータの本体を回動自在に支持するモータ支持軸と、前記モータ支持軸周りに前記モータの本体を回動駆動する駆動手段と、前記モータおよび前記駆動手段の動作を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ジャイロモーメントを発生させて転動に必要なトルクを得るように前記モータおよび前記駆動手段の制御を実行することを特徴とする。
【0007】
これによると、回転部材の回転中にモータ本体をその支持軸周りに回動させることで、回転軸とモータ支持軸の双方に直交する軸線回りにジャイロモーメントを発生させることができ、この簡易な構成により発生させたジャイロモーメントを利用して転動のためのトルクを向上させることができる。
【0008】
従って、従来技術と比較して、発生トルクがより小さなモータ及び慣性モーメントがより小さな回転部材を用いて転動に必要なトルクを実現することができ、また、回転部材の回転数がその上限付近にあっても、転動を実現するのに必要なトルクを容易に発生することができるという利点がある。
【0009】
上記課題を解決するためになされた第2の発明は、前記制御手段が、前記モータの本体に対し、前記回転軸が延出する一端側とは反対の他端側に取り付けられたことを特徴とする。
【0010】
これによると、モータ本体に対し、回転部材(フライホイール等)を取り付ける一端側とは反対の他端側に制御手段を取り付けることにより、回転部材と制御手段との重量をバランスさせてモータの円滑な回動動作を実現することが可能となる。加えて、転動ロボットの重心を外殻の中心付近に位置させて円滑な転動動作を実現することが可能となる。
【0011】
上記課題を解決するためになされた第3の発明は、転動ロボット本体の姿勢を検出するセンサを更に備え、前記制御手段が前記モータの本体に、前記センサが前記転動ロボット本体に取り付けられたことを特徴とする
これによると、制御手段とモータまたは駆動手段との間の制御信号の送受及び電力供給、並びに制御手段とセンサとの間の通信を簡易な構成で実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
このように本発明によれば簡易な構成により発生させたジャイロモーメントを利用して転動のためのトルクを向上させることができるという優れた効果を奏する。従って、従来技術と比較して、発生トルクがより小さなモータ及び慣性モーメントがより小さな回転部材を用いて転動に必要なトルクを実現することができ、また、回転部材の回転数がその上限付近にあっても、転動を実現するのに必要なトルクを容易に発生することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る転動ロボットの概略構成を示す縦断面図であり、図2は、その内部構造を示す一部破断斜視図である。
【0015】
この転動ロボット1は、その外殻をなすロボット本体ケース2を有しており、この本体ケース2の内部には、メインモータ3と、そのモータ3の回転軸4に回転可能に支持されるフライホイール(回転部材)5と、その回転軸4に略直交する方向に延在し、メインモータ3を回動自在に支持するモータ支持軸6,7と、メインモータ3をモータ支持軸6,7回りに回動駆動するサブモータ(駆動手段)8と、転動ロボット1の姿勢を検出するセンサ9と、メインモータ3及びサブモータ8の動作を制御する制御装置10とを主として備える。
【0016】
ロボット本体ケース2は、略立方体状をなし、各面の連結部位に形成される角部を円弧状に面取りした構成を有している。この本体ケース2の形状は、ここに示すものに限らず、例えば、直方体や、4面体その他の多面体として形成することもできる。
【0017】
メインモータ3は、その回転軸4に回転力を発生する周知の電動機であり、フライホイール5を高速回転させる一方で、それ自身がモータ支持軸6,7周りに回動可能となっている。
【0018】
モータ支持軸6は、その上端側がロボット本体ケース2に設けられた軸孔21に挿入されて回転自在に支持されるとともに、下端側がモータ3の本体を覆うカバー22の上部に連結されている。また、モータ支持軸7は、支持軸6と略同軸上に配置され、その下端側がロボット本体ケース2に設けられた支持部材23によって本体ケース2に固定されるとともに、上端側にはギア24が取り付けられている。
【0019】
サブモータ8は、モータ3のカバー22の下部に連結されたギアボックス25に固定されている。このサブモータ8の回転軸に取り付けられたピニオンギア26は、モータ支持軸7のギア24と噛合された状態にあり、サブモータ8は、その回転軸が回転する際にモータ支持軸6,7周りを旋回するように移動する。これにともない、サブモータ8が固定されたモータ3がモータ支持軸6,7周りを回動することになる。このように、サブモータ8をメインモータ3に連結して一体的に回動させる構成とすることで、制御装置10からのメインモータ3及びサブモータ8の双方に対する制御信号の送受や電力供給等が容易となるという利点がある。サブモータ8としては、支持軸7の回動動作の角度を高精度に制御可能なサーボモータ等を用いることができる。
【0020】
なお、別法として、サブモータ8をモータ3ではなくロボット本体ケース2の内面に固定する一方、モータ支持軸7の下端側を本体ケース2に回転可能に支持するとともに、その上端側をモータ3に連結するような構成も可能である。
【0021】
センサ9は、ロボット本体ケース2の内面に取り付けられ、図示しない通信線を介して制御装置10と通信可能に接続されている。このセンサ9としては、例えば、前後、左右、上下方向の加速度ベクトルを検出できる3軸加速度センサや、角速度ベクトルを検出できる3軸角速度センサを用いることができる。センサ9の検出結果(重力ベクトルや転動時の加速度や角速度ベクトルの情報)は制御装置10に送られ、制御装置10が制御を行う際の転動ロボット1の姿勢や転動時の回転角度や角速度の情報として利用される。
【0022】
制御装置10は、モータ3に対し、その回転軸4が延出する一端側とは反対の他端側に取り付けられている。この制御装置10は、フライホイール5の回転中にメインモータ3をモータ支持軸6,7周りに回動させ、転動に必要なトルクとしてのジャイロモーメントを発生させるように制御を実行することができる。
【0023】
この場合、制御装置10は、メインモータ3のケーシングに取り付けられており、モータ3と一体的に回動するが、フライホイール5のように高速回転することはないので、センサ9との間の通信を簡易な構成で実現することができる。例えば、制御装置10とセンサ9との通信を、制御装置10の回動範囲を考慮して長さ及び配置を決定した通信線(有線)により実現することも可能である。
【0024】
なお、別法として転動ロボット1の姿勢を検出するセンサを、制御装置10内に設ける構成(図1のセンサ9’参照)も可能である。このように、センサ9’を制御装置10とともにメインモータ3に取り付けることで、制御装置10とメインモータ3またはサブモータ8との間の制御信号の送受及び電力供給、並びに制御装置10とセンサ9’との間の通信を簡易な構成で実現することができる。
【0025】
図3は、転動ロボットの制御装置の概略構成を示すブロック図である。この制御装置10は、転動ロボットの転動動作を総括的に制御する主コントローラ31と、メインモータ3を駆動するためのメインモータ用ドライバ32と、サブモータ8を駆動するためのサブモータ用ドライバ33とから主として構成される。モータドライバ32,33としては、モータ3,8における速度、トルク、位置決め等の制御が可能な周知のドライバを用いることができる。
【0026】
主コントローラ31は、オペレータ用の操作キー等を有する外部コントローラ41からの指令信号Sを受信するためのアンテナを有しており、この指令信号Sにより指示された転動動作を実行するために、各モータドライバ32,33に対する制御信号を生成する。このとき、主コントローラ31は、センサ9の検出結果を取得することで、転動ロボット1の姿勢や転動時の回転角度や角速度を把握することができる。モータドライバ32,33は、主コントローラ31から受信する制御信号に従ってそれぞれのモータ3,8を駆動し、速度、トルク、位置決め等の制御を行う。
【0027】
なお、主コントローラ31が、外部コントローラ41からの指令信号Sによらずに、予め転動ロボット1内に設けたメモリ等に記憶された制御プログラムに従って各モータドライバ32,33に対する制御信号を生成する構成も可能である。また、図示していないが、制御装置10は、メインモータ3及びサブモータ8に対して電力を供給するためのバッテリを備えている。
【0028】
図4は、転動ロボットの転動原理の概略を説明するための説明図である。上述のように、転動ロボット1は、フライホイール5の回転中にメインモータ3をモータ支持軸6,7周りに回動させることで、ジャイロモーメントを発生させることが可能である。このジャイロモーメントは、図4に示すように、転動ロボット1のフライホイール5の回転軸の方向をx軸方向とし、メインモータ3の回動軸であるモータ支持軸6,7の方向をy軸方向とすると、それらと略直交するz軸方向周りに発生する。ここで、回転部材の回動軸周りの角速度をμ、角運動量をHとすると、発生するジャイロモーメントTは、T=H×μで表される。
【0029】
図1及び図2に示した転動ロボット1においては、例えば、回転軸と一体をなすロータと、当該ロータを囲むステータとを有するインナーロータ型のモータをメインモータ3として用いる場合、そのインナーロータとフライホイール5が、ジャイロモーメントを発生させるための回転部材となり得る。また、例えば、回転軸と一体をなすカップ状のロータと、当該ロータの内部に配置されたステータとを有するアウターロータ型のモータをメインモータ3として用いる場合、そのアウターロータ(場合によっては、アウターロータに連結された制御装置も含む)とフライホイール5が、ジャイロモーメントを発生させるための回転部材となり得る。
【0030】
この場合、制御装置10は、例えば、回転部材の角運動量Hが一定のとき、y軸方向周りに回転する回転部材の角速度μの大きさを変更することによって、発生するジャイロモーメントTの大きさを制御することができる。なお、より大きなジャイロモーメントを発生させるためには、回転部材をより高速で回転させ、また、その半径及び質量を増大させるとよい。
【0031】
図5は、転動ロボットの転動動作の一例を示す模式図である。図5(A)に示すように、フライホイール5を回転軸(x軸)4回りに矢印51の向きに所定の速度で回転させた際に、メインモータ3をモータ支持軸(y軸)6,7回りに矢印52の向きに回動させると、z軸回りに矢印53の向きにジャイロモーメントTが発生する。
【0032】
ここで、転動ロボット1の回転中心を点Pとし、静止状態における転動ロボット1の重心Gと点Pを結んだ直線と接地面のなす角度を45°とし、転動ロボット1の重心Gから接地面54までの距離をR、質量をm、転動する場合の回転角度をθ、重力加速度をgとすると、ジャイロモーメントTが次式を満たす場合に転動を開始することになる。
T>mgsin(45°−θ)・√2・R
これにより、転動ロボット1が矢印55の方向に転動すると、図5(B)で示す状態となる。ただし、転動中、常に上式の条件を満たさなくても図5(B)で示す状態となる場合もある。
【0033】
なお、転動ロボット1は、ここに示した転動動作に限らず、上述の転動原理に従って種々の姿勢から転動動作を実行することが可能である。
【0034】
本発明を特定の実施形態に基づいて詳細に説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。例えば、転動ロボット1において、上述のようなジャイロモーメントを発生させる方式とともに、或いはジャイロモーメントを発生させずに、制御装置10により回転部材(フライホイール5等)をトルク制御して、回転部材を急加速して回転させることにより生じるトルクの反力により転動させる方式を用いることができる。この場合、回転部材に付与する加速度としては、回転部材を停止状態から増速する場合であっても、所定の回転速度で回転している状態から制動により減速する場合であってもよい。また、サブモータ8によってメインモータ3の向き(即ち、回転部材の向き)を変えることで、転動方向を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る転動ロボットは、簡易な構成により発生させたジャイロモーメントを利用して転動のためのトルクを向上させることを可能とするので、走行する玩具や走行する装置等の本体を転動させて移動する転動ロボットとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る転動ロボットの概略構成を示す縦断面図
【図2】転動ロボットの内部構造を示す一部破断斜視図
【図3】制御装置の概略構成を示すブロック図
【図4】転動ロボットの転動原理の概略を説明するための説明図
【図5】転動ロボットの転動動作の一例を示す模式図
【符号の説明】
【0037】
1 転動ロボット
2 本体ケース
3 メインモータ
5 フライホイール
6,7 モータ支持軸
8 サブモータ
9 センサ
10 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多面体からなる外殻を有する転動ロボットであって、
回転軸を有するモータと、
前記回転軸に取り付けられた回転部材と、
前記回転軸に直交する方向に延在し、前記モータの本体を回動自在に支持するモータ支持軸と、
前記モータ支持軸周りに前記モータの本体を回動駆動する駆動手段と、
前記モータおよび前記駆動手段の動作を制御する制御手段と
を備え、
前記制御手段は、ジャイロモーメントを発生させて転動に必要なトルクを得るように前記モータおよび前記駆動手段の制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の転動ロボット。
【請求項2】
前記制御手段が、前記モータの本体に対し、前記回転軸が延出する一端側とは反対の他端側に取り付けられたことを特徴とする請求項1に記載の転動ロボット。
【請求項3】
転動ロボット本体の姿勢を検出するセンサを更に備え、前記制御手段が前記モータの本体に、前記センサが前記転動ロボット本体に取り付けられたことを特徴とする請求項1に記載の転動ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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