説明

転動ロボット

【課題】構造の複雑化を抑制しつつ、常に全ての方向に転動させることができる転動ロボットを提供する。
【解決手段】立方体状の筐体2と、筐体2内に設けられたメインモータ10と、メインモータ10の回転軸の一端に固定されたフライホイール12と、回転軸に対して鋭角に交差する方向に沿って延在し、かつ筐体2に対してメインモータ10を旋回可能に支持する支持軸14,15と、メインモータ10を支持軸14,15周りに旋回駆動させるサブモータ13とを備え、支持軸14,15は、互いに隣接する任意の二面に投影させた形状がこの二面に平行な直線に対して傾斜した状態となるように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転動ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、立方体状の筐体内に収容されたモータを回転させて、モータのトルクの反力により筐体を転動させる、所謂転動ロボットが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この転動ロボットは、筐体内に、この筐体の任意の一面に沿うように延在するモータ支持軸が回転自在に設けられていると共に、このモータ支持軸にモータが取り付けられている。また、モータの回転軸は、モータ支持軸に略直交した状態になっており、一端側にフライホイールが設けられている。
【0003】
そして、モータを急加速して回転させることで、この時生じるモータのトルクの反力を利用して着地面の一辺を中心にしてモータの回転の加速方向とは逆方向に向かって転動ロボットを転動させる。また、モータ支持軸を中心にしてモータを旋回させた後、モータを回転させることにより、着地面の他の一辺を中心にして転動ロボットを転動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−312416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術にあっては、モータの回転軸が必ず筐体の一面に対して平行となるので、少ない転動エネルギーで転動ロボットを転動させることができるという点では優れているが、回転軸がモータ支持軸の延在方向に向くことができないので、モータ支持軸周りに転動ロボットを転動させることができない。すなわち、モータ支持軸が筐体の着地面に対して平行となる方向に向いているとき、転動方向が着地面の四辺のうち、二辺に限られてしまうという課題がある。
ここで、モータ支持軸をさらに一軸追加し、転動ロボットを常に全ての方向に転動可能に構成することも考えられるが、モータ支持軸を一軸追加する分、筐体内の構造が複雑化し、これに伴って転動ロボットが大型化してしまう。
【0006】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、構造の複雑化を抑制しつつ、常に全ての方向に転動させることができる転動ロボットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、立方体状の筐体と、前記筐体内に設けられたメインモータと、前記メインモータの回転軸の一端に固定されたフライホイールと、前記回転軸に対して鋭角に交差する方向に沿って延在し、かつ前記筐体に対して前記メインモータを旋回可能に支持するモータ支持軸と、前記メインモータを前記モータ支持軸周りに旋回駆動させるサブモータとを備え、前記モータ支持軸は、互いに隣接する任意の二面に投影させた形状がこの二面に平行な直線に対して傾斜した状態となるように設けられていることを特徴とする。
【0008】
このように構成することで、所定角度だけ傾斜したフライホイールを筐体の角部近傍を中心にして旋回させることができる。このため、モータ支持軸の向きに関わらず、モータのトルクの反力を筐体の着地面の四辺のうち任意の一辺を中心にして転動可能に作用させることができる。よって、モータ支持軸を一軸追加することなく、転動ロボットを常に全ての方向に転動させることが可能になる。
【0009】
請求項2に記載した発明は、前記モータ支持軸を前記二面のうちの一方の面に投影させた形状と前記直線との間の角度をθ1とし、前記モータ支持軸を前記二面のうちの他方の面に投影させた形状と前記直線との間の角度をθ2とし、前記回転軸と前記モータ支持軸との間の角度をθ3としたとき、これら角度θ1、角度θ2、および角度θ3は、
40°≦θ1≦50°
17.7°≦θ2≦27.7°
53°≦θ3≦63°
を満たすように設定されていることを特徴とする。
【0010】
このように構成することで、隣接する3面に直交する方向(X−Y−Zの3軸座標におけるX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向、以下、単にX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向という)と、筐体中心から所定の角に向かう方向とに沿うようにモータの回転軸を変位させることができる。このため、転動ロボットを常に全ての方向に転動させることができると共に、所定の角を中心にして転動ロボットを転動させることが可能になる。
【0011】
請求項3に記載した発明は、前記モータ支持軸にウォーム減速機構を介して前記サブモータを連結したことを特徴とする。
【0012】
ここで、フライホイールが回転して転動ロボットが転動した際、モータの回転軸の方向を復元させようとしてジャイロモーメントが発生する。このジャイロモーメントにより、サブモータに逆転方向の力が作用する。しかしながら、ウォーム減速機構を介してモータ支持軸とサブモータとを連結しているので、ウォーム減速機構のセルフロック機能によって、サブモータの逆転を阻止することができる。
【0013】
請求項4に記載した発明は、前記モータ支持軸の中央の大部分にベースフレームを設け、このベースフレームに前記メインモータ、前記サブモータ、および前記ウォーム減速機構を取り付けると共に、前記メインモータ、および前記サブモータを駆動させるためのバッテリを搭載し、これらメインモータ、サブモータ、ウォーム減速機構、およびバッテリが前記モータ支持軸周りに一体となって旋回するように構成したことを特徴とする。
【0014】
このように構成することで、筐体に固定する部品を減少させることができ、筐体の重量バランスを向上させることができると共に、美観性を向上させることができる。また、モータ等に電力を供給したり、信号を入出力させたりするための配線のレイアウト性を高めることができる。
【0015】
請求項5に記載した発明は、前記メインモータと前記バッテリとの間に、前記ベースフレームを介在させたことを特徴とする。
【0016】
このように構成することで、モータの放熱性能を高め、モータから発熱する熱がバッテリに伝達されるのを抑制することができる。このため、バッテリの熱による損傷を防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所定角度だけ傾斜したフライホイールを筐体の角部近傍を中心にして旋回させることができる。このため、モータ支持軸の向きに関わらず、モータのトルクの反力を筐体の着地面の四辺のうち任意の一辺を中心にして転動可能に作用させることができる。よって、モータ支持軸を一軸追加することなく、転動ロボットを常に全ての方向に転動させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態における転動ロボットの斜視図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】図1のB矢視図である。
【図4】本発明の実施形態における駆動部の平面図である。
【図5】本発明の実施形態における減速機構を一方から見た斜視図である。
【図6】本発明の実施形態における減速機構を他方から見た斜視図である。
【図7】本発明の実施形態における回転軸をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に向かせるためのモデル図である。
【図8】本発明の実施形態におけるメインモータ10の旋回軌跡を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態における回転軸をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向と所定の角部に向かせるためのモデル図である。
【図10】本発明の実施形態における本発明の実施形態における回転軸をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向と所定の角部に向かせるためのモデル図である。
【図11】本発明の実施形態におけるメインモータの旋回軌跡を示す説明図である。
【図12】本発明の実施形態におけるメインモータの状態図であり、(a)は回転軸がX軸方向に向いている場合を示し、(b)は回転軸がY軸方向に向いている場合を示し、(c)は回転軸がZ軸方向に向いている場合を示す。
【図13】本発明の実施形態におけるメインモータの状態図であり、回転軸が角部方向に向いている場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(転動ロボット)
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、転動ロボット1の斜視図、図2は、図1のA矢視図、図3は、図1のB矢視図である。
図1〜図3に示すように、転動ロボット1は、略立方体状の筐体2と、この筐体2内に設けられ、筐体2を転動させるための駆動部3を備えている。筐体2は、格子状のケースフレーム4を有しており、このケースフレーム4の上から不図示のカバーを取り付けるようになっている。
【0020】
ケースフレーム4は、筐体2の6つの面を形成する平面部5と、各平面部5間に形成された稜線部6と、稜線部6間に形成され筐体2の角を形成する角部7とで構成されている。稜線部6、および角部7を構成する部位のケースフレーム4は、平面視円弧状に湾曲形成されており、これによって転動ロボット1の転動動作を行い易くしている。
【0021】
また、ケースフレーム4の内側には、転動ロボット1の姿勢状態を検出するための姿勢検出装置8が取り付けられている。姿勢検出装置8としては、例えば、加速度センサや角速度センサを用いることが可能である。姿勢検出装置8によって筐体2のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の3方向の傾斜角度を検出することで、転動ロボット1の姿勢を制御可能としている。
なお、以下の説明において、図1におけるB矢視方向をX軸方向、A矢視方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向として説明する場合がある。
【0022】
(駆動部)
図4は、駆動部3の平面図である。
図2〜図4に示すように、駆動部3は、筐体2に対して回転可能に設けられているモータ支持フレーム9と、モータ支持フレーム9に固定されているメインモータ10と、メインモータ10の回転軸11の一端に固定されたフライホイール12と、モータ支持フレーム9に固定されモータ支持フレーム9を回転駆動させるサブモータ13とを有している。
モータ支持フレーム9は、軸方向両端に設けられた支持軸14,15と、これら支持軸14,15に跨るように形成されたフレーム本体16とで構成されている。
【0023】
支持軸14,15は、同軸上に配置されており、筐体2の中心を挟んで対向する2つの角部7,7に固定されている。そして、2つの支持軸14,15に、フレーム本体16の両端が回転自在に支持されている。すなわち、モータ支持フレーム9は、支持軸14,15の軸線C1周りに回転するように構成されている。
ここで、筐体2の隣接する任意の二面に平行であって、かつ筐体2の中心を通る中心線をL1としたとき、各支持軸14,15は、軸線C1が中心線L1に対して所定角度だけ傾斜するように設けられている(詳細は後述する)。
【0024】
フレーム本体16は、メインモータ10を固定するためのベースフレーム17を有している。ベースフレーム17は中空状に形成されており、周壁17aの一部に平坦に形成された台座面23にメインモータ10を固定するようになっている。
また、ベースフレーム17の中空部20には、メインモータ10やサブモータ13に電力を供給するためのバッテリ21が設けられている。すなわち、メインモータ10とバッテリ21との間には、台座面23が介装した状態になっている。
【0025】
さらに、ベースフレーム17の周壁17aには、2つの支持軸14,15のうちの一方の支持軸15側の一側に、サブモータ13と減速機構18とが固定されている。そして、減速機構18を介してベースフレーム17の一側と一方の支持軸15とが連結されている。
【0026】
また、ベースフレーム17の周壁17aには、他方の支持軸14側の他側に、ステー19の一端が固定されている。ステー19は、ベースフレーム17の台座面23が軸線C1に対して所定角度だけ傾斜した状態となるように、ベースフレーム17と他方の支持軸14とを連結するためのものである。ステー19の他端には、支持軸14を回転自在に支持するための軸受け22が設けられている。
【0027】
メインモータ10は、スタッドボルト24を介してベースフレーム17の台座面23に固定されている。台座面23が軸線C1に対して所定角度だけ傾斜しているので、メインモータ10の回転軸11の軸線C2は、軸線C1に対して所定角度だけ傾斜した状態になっている。また、メインモータ10は、回転軸11の軸線C2と軸線C1との交点が筐体2のほぼ中央に位置するように固定されている。
【0028】
メインモータ10のモータケース25には、軸方向端面に複数の開口部26が周方向に等間隔で形成されている。開口部26は、モータケース25内に空気を流通させるためのものであって、これにより不図示のステータに巻装されているコイル27を冷却することができるようになっている。
【0029】
メインモータ10の回転軸11の一端に固定されたフライホイール12は、リング部材28と、このリング部材28と回転軸11とを連結する三つ又状のハブ29とで構成されている。ハブ29の根元には、フィン30が取り付けられている。フィン30は、フライホイール12の回転を利用してモータケース25内に空気を流通させるためのものである。これにより、メインモータ10のコイル27の冷却が促進される。
【0030】
メインモータ10とベースフレーム17の台座面23との間には、制御基板31が設けられている。制御基板31は略円板状に形成されたものであって、メインモータ10やサブモータ13を駆動させるためのスイッチング素子(不図示)やこのスイッチング素子の駆動制御を行う制御回路などが実装されている。制御基板31には、メインモータ10のコイル27の端末部62が接続されている。
【0031】
また、制御基板31とケースフレーム4の内側に固定されている姿勢検出装置8とを電気的に接続するハーネス32の長さは、メインモータ10が軸線C1周りにほぼ一回転可能な長さに設定されている。このハーネス32は、他方の支持軸14にα巻きされた状態で配索されており、メインモータ10の旋回時にハーネス32が局部的に曲折されるのを防止するようになっている。なお、図3においては、駆動部3の構造を分かり易くするために制御基板31を半分だけ図示し、残り半分の図示を省略している。
【0032】
また、ベースフレーム17の台座面23とは中空部20を挟んで反対側の面に、通信用基板61が設けられている。この通信用基板61に実装されている電子部品(不図示)により、不図示のコントローラから送信された信号に基づいて転動ロボット1を操作することができるようになっている。
【0033】
(減速機構)
図5は、減速機構18を一方から見た斜視図、図6は、減速機構18を他方から見た斜視図である。
図4〜図6に示すように、ベースフレーム17の一側と一方の支持軸15とを連結する減速機構18は、ベースフレーム17に固定されたギヤハウジング33を有している。ギヤハウジング33は、ベースプレート34を挟んでベースフレーム17側に配置されている第一ハウジング35と、支持軸15側に配置された第二ハウジング36とで構成されており、これらベースプレート34、第一ハウジング35、および第二ハウジング36がボルト40によって一体化されている。
【0034】
第一ハウジング35には、ウォームギヤ37が取り付けられている。ウォームギヤ37は、第一ハウジング35に支持されている回転軸38に回転自在に軸支されたウォームホイール37aと、このウォームホイール37aに噛合うウォーム軸37bとで構成されている。ウォーム軸37bには、サブモータ13の回転軸(不図示)が連結されている。
ウォームホイール37aを軸支する回転軸38は、第二ハウジング36側に向かって突出しており、この突出した部位にピニオンギヤ39が外嵌固定されている。このピニオンギヤ39は、ウォームホイール37aと一体となって回転するようになっている。
【0035】
ピニオンギヤ39には、段付平歯車41が噛合されている。段付平歯車41は、第二ハウジング36に支持されている回転軸42に回転自在に軸支されたものであって、大径歯車41aと小径歯車41bとで構成されている。そして、大径歯車41aがピニオンギヤ39に噛合された状態になっている。
一方、小径歯車41bには、固定歯車43が噛合されている。固定歯車43は、支持軸15と一体化されている。支持軸15は、第二ハウジング36からケースフレーム4側(図4、図5、図6における下側)に突出した状態になっており、固定ブロック44にボルト45によって締結固定されている。
【0036】
固定ブロック44は、ケースフレーム4に支持軸15を固定するためのものであって、軸固定部46とフレーム固定部47とが一体成形されたものである。軸固定部46には、支持軸15を圧入するための圧入孔63が形成されている。また、軸固定部46、フレーム固定部47には、圧入孔63に向かって両者を貫通形成されたボルト孔48が設けられている。このボルト孔48にボルト45を挿入して支持軸15に形成されている雌ネジ部(不図示)にボルト45を螺入するようになっている。
【0037】
さらに、フレーム固定部47には、ケースフレーム4に対応する部位にスリット49が形成されていると共に、スリット49に交差する方向に沿ってボルト孔50が形成されている。スリット49にケースフレーム4を挿入し、ボルト孔50を介してケースフレーム4に不図示のボルトを螺入することにより、ケースフレーム4に固定ブロック44が締結固定される。これにより、ケースフレーム4に固定ブロック44を介して支持軸15が固定される。支持軸15が固定されることにより、固定歯車43も固定される。
【0038】
一方、支持軸15、および固定歯車43は、第二ハウジング36に対して回転自在に支持されている。この状態でサブモータ13を駆動させると、ウォームギヤ37を介してピニオンギヤ39、および段付平歯車41が回転する。
ここで、段付平歯車41の小径歯車41bに噛合されている固定歯車43が支持軸15と共に固定されているので、固定歯車43の周囲を段付平歯車41が旋回することになる。すなわち、ギヤハウジング33が支持軸15周りに旋回することになり、このギヤハウジング33に固定されているサブモータ13やベースフレーム17などが支持軸15周りに旋回することになる。
【0039】
また、固定歯車43には、ポテンショメータ51の一方を構成する摺動子52が取り付けられている。ポテンショメータ51は、固定歯車43の回転位置を検出するための回転位置検出装置である。摺動子52は、固定歯車43からこれと同軸上に第一ハウジング35側に向かって突出するシャフト55と、シャフト55の固定歯車43とは反対側端に一体成形された摺動子本体56とで構成されている。
【0040】
第一ハウジング35の摺動子本体56に対応する位置には、ポテンショメータ51の他方を構成する抵抗体(不図示)が貼付されたプレート54がボルト53によって締結固定されている。そして、ギヤハウジング33の回転に伴って、プレート54の抵抗体(不図示)上を摺動子本体56が摺動することによって、摺動子本体56と抵抗体とが接触している範囲の抵抗値が変化するようになっている。
【0041】
この抵抗値の変化は、プレート54に設けられている端子57に電力を供給することにより検出される。この検出された抵抗値は信号としてプレート54上に設けられている制御基板58に出力される。この制御基板58に設けられた制御回路により、固定歯車43の回転位置、つまり、ベースフレーム17の回転位置が検出される。この検出結果に基づいてサブモータ13の駆動制御が行われる。
【0042】
このような構成のもと、転動ロボット1を転動させるにあたって、まず、サブモータ13を駆動させてメインモータ10を支持軸14,15の軸線C1周りに所定角度旋回させる。その後、メインモータ10を駆動させてフライホイール12を回転させると、この回転により得られるトルクの反力によってメインモータ10の回転方向とは逆方向のモーメントが筐体2に生じる。
この反作用のモーメントを転動ロボット1の重心と回転中心の位置関係、および転動ロボット1の重力によって発生するモーメントよりも大きく発生することにより、筐体2の着地面における回転軸11と略平行な一辺(稜線部6)を回転中心として、メインモータ10の回転の加速方向とは逆方向に向かって筐体2が転動する。
【0043】
ここで、支持軸14,15、およびメインモータ10の回転軸11の傾斜角度は、サブモータ13を駆動させてメインモータ10を支持軸14,15の軸線C1周りに旋回させたとき、回転軸11がX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に沿うように、かつ筐体2の中心から所定の角部7に向かう方向に沿うように設定されている。これにより、転動ロボット1の姿勢に関わらず、全方向(X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向)に転動ロボット1を転動させることができるようになっている。
【0044】
すなわち、図2〜図4に示すように、軸線C1を任意の二面のうちの一方の面に投影させた形状と中心線L1との間の角度をθ1とし(図2参照)、軸線C1を任意の二面のうちの他方の面に投影させた形状と中心線L1との間の角度をθ2とし(図3参照)、軸線C1とメインモータ10の回転軸11の軸線C2との間の角度をθ3としたとき(図4参照)、角度θ1、角度θ2、および角度θ3は、以下の数式(1)、数式(2)、および数式(3)を満たすように設定されている。
【0045】
【数1】

【0046】
【数2】

【0047】
【数3】

【0048】
さらに、角度θ1、角度θ2、および角度θ3は、以下の数式(4)、数式(5)、および数式(6)を満たすように設定することが望ましい。
【0049】
【数4】

【0050】
【数5】

【0051】
【数6】

【0052】
数式(4)〜数式(6)を満たすように角度θ1〜θ3を設定することにより、回転軸11をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向とほぼ平行な方向に向かせることができる共に、筐体2の中心から所定の角部7に向かう直線とほぼ平行な方向に向かせることができる。
【0053】
図7〜図11に基づいて、角度θ1〜θ3の設定方法について詳述する。
まず、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向のみに回転軸11を向かせる場合について説明する。
図7は、回転軸11をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に向かせるためのモデル図、図8は、図7に基づいて軸線C1、および軸線C2の傾斜角度を設定した場合のメインモータ10の旋回軌跡を示す説明図である。
【0054】
図7、図8に示すように、転動ロボット1が全方向に転動するためには、メインモータ10の回転軸11が、X軸、Y軸、およびZ軸とほぼ平行になる必要がある。
ここで、メインモータ10の旋回軸である軸線C1を、筐体2(立方体)の頂点(角部7)H−Bを結ぶ線と一致すれば、回転軸11の軸線C2の軌跡(円)Sは、立方体A−B−C−D−E−F−G−Hの3点の角A,C,Fを頂点とする正三角形ACFに内接する円になる。
【0055】
このときの軸線C1と、軸線C2(O−X)、軸線C2(O−Y)、または軸線C2(O−Z)との間の角度θ’(∠BOX、∠BOY、または∠BOZ)は以下の数式(7)により求められる。
【0056】
【数7】

【0057】
この場合、回転軸11は立方体が転動可能な方向であるX軸、Y軸、およびZ軸と同軸になり、最も少ない転動エネルギーで筐体2を転動させることができる。
【0058】
続いて、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向と、所定の角部7に回転軸11を向かせる場合について説明する。
図9、図10は、回転軸11をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向と所定の角部7に向かせるためのモデル図、図11は、図9に基づいて軸線C1、および軸線C2の傾斜角度を設定した場合のメインモータ10の旋回軌跡を示す説明図である。
【0059】
図9〜図11に示すように、転動ロボット1を全方向に転動させることに加え、所定の角部7を中心にして転動させるためには、回転軸11の軸線C2を筐体2の中心を挟んで対向する角部7,7同士(図9におけるA−G、B−H、C−E、またはD−F)を結ぶ直線に一致させることが望ましい。
しかしながら、前述の図7、図8に示すX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向のみに回転軸11を向かせる構造の場合、回転軸11の軸線C2を角部7,7同士を結ぶ直線に一致させることができない。
【0060】
ここで、全ての角部7,7同士を結ぶ直線と軸線C2とを一致させることはできないので、所定の角部7,7同士を結ぶ直線と軸線C2とを一致させつつ、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に沿う向きに軸線C2を移動させることができれば転動ロボット1を全方向に転動させることに加え、所定の角部7を中心にして転動させることが可能になる。転動ロボット1は、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に軸線C2が完全に向かない場合であっても、転動ロボット1の自重が作用し、着地面の一辺を中心にして転動する。
【0061】
これらの条件を満たすためには、図9、図10に示すように、まず、以下の数式(8)を満たす円を得る必要がある。
【0062】
【数8】

【0063】
そして、数式(8)を満たす円を得ることで、角Fに回転軸11を向かせると共に、転動させるためのX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に生じるずれ(図9におけるmx、my、mz参照)を最小限にする軸線C2の軌跡(円)Sの条件を求める必要があり、以下の数式(9)、および数式(10)により求めることができる。
【0064】
【数9】

【0065】
【数10】

【0066】
線分OL上の任意の点の座標(a,b,c)は、
a=b=c
から求められる。
【0067】
数式8、および数式9に基づいて、軸線C1の傾斜角度θ1,θ2、および軸線C2の軸線C1に対する傾斜角度θ3が数式1、数式2、および数式3に設定され、さらに数式4、数式5、数式6を満たすように角度θ1,θ2,θ3を設定することにより、所定の角部7に回転軸11を向かせると共に、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に生じるずれを最小限にすることができる。
【0068】
なお、図7、図9に示す各頂点A〜H、および筐体2の中心Oの座標は、以下の通りとする。
A=(1,−1,−1)、B=(1,−1,1)、C=(−1,−1,1)、D=(−1,−1,−1)、E=(1,1,−1)、F=(1,1,1)、G=(−1,1,1)、H=(1,−1,1)、O=(1,−1,−1)
【0069】
図12は、図1のB矢視におけるメインモータ10の状態図であり、(a)は回転軸11がX軸方向に向いている場合を示し、(b)は回転軸11がY軸方向に向いている場合を示し、(c)は回転軸11がZ軸方向に向いている場合を示す。図13はB矢視におけるメインモータ10の状態図であり、回転軸11が角部7方向に向いている場合を示す。
図12(a)〜図12(c)に示すように、転動ロボット1は、回転軸11が全軸方向に沿うように移動するので、筐体2の着地面に関わらず全方向に転動する。
また、図13に示すように、転動ロボット1は、回転軸11が角部7に向かって移動するので、所定の角部7(図13における一点鎖線部参照)を着地点として筐体2を立たせることができる。
【0070】
ここで、転動ロボット1は、転動動作だけでなく筐体2の稜線部6、および所定の角部7を着地させた状態でバランスを採ることも可能である。すなわち、筐体2の転動動作の途中でメインモータ10を駆動させ、フライホイール12の正/逆回転を繰り返し行う。このとき、筐体2に設けられている姿勢検出装置8により検出された筐体2の傾斜角度に基づいて、制御基板31がフライホイール12の正/逆回転を制御する。このように、メインモータ10に生じるトルクの反力を利用し、筐体2の稜線部6、および所定の角部7を着地させた状態でバランスを採ることができる。
【0071】
したがって、上述の実施形態によれば、筐体2に、メインモータ10を旋回させる支持軸14,15の軸線C1が数式1、および数式2を満たすような角度θ1,θ2だけ傾斜した状態で回転自在に支持されていると共に、メインモータ10の軸線C2が軸線C1に対して数式3を満たすように角度θ3だけ傾斜しているので、筐体2の所定の角部7近傍を中心にしてフライホイール12をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に向くように旋回させることができる。
このため、支持軸14,15の向きに関わらず、メインモータ10のトルクの反力を筐体2の着地面の四辺のうち任意の一辺を中心にして転動させるように作用させたり、所定の角部7を中心にして転動させるように作用させたりすることができる。よって、メインモータ10を旋回させるための軸を支持軸14,15以外に別途設けることなく、筐体2自体を常に全ての方向に転動させることが可能になる。
【0072】
また、メインモータ10を軸線C1周りに旋回駆動させるサブモータ13を減速機構18を介して支持軸15に連結させている。そして、減速機構18には、セルフロック機能を有するウォームギヤ37が設けられている。このため、フライホイール12が回転して転動ロボット1が転動した際、メインモータ10の回転軸11の方向を復元させようとして生じるジャイロモーメントによるサブモータ13の逆転を阻止することができる。
【0073】
さらに、支持軸14,15の間にフレーム本体16を設け、このフレーム本体16にメインモータ10、サブモータ13、減速機構18、バッテリ21などを取り付けている。そして、フレーム本体16と一体となってメインモータ10を軸線C1周りに旋回駆動させるように構成している。このため、筐体2のケースフレーム4に固定する部品を姿勢検出装置8など最小限に抑えることができる。よって、筐体2の重量バランスを向上させることができると共に、美観性を向上させることができる。
【0074】
また、ベースフレーム17を介して各モータ10,13とバッテリ21とを一体化することにより、各モータ10,13に電力を供給するための配線を省略、または最小限に抑えることができる。さらに、配線として、姿勢検出装置8と制御基板31とを電気的に接続するためのハーネス32のみにすることができるので、ハーネス32のレイアウトの自由度が高まる。
【0075】
さらに、メインモータ10とバッテリ21との間に、台座面23が介装した状態になっていることに加え、台座面23にスタッドボルト24を介してメインモータ10が取り付けられている。このため、メインモータ10の周囲に放熱空間を確保することができ、メインモータ10の放熱性能を高めることができる。これに加え、メインモータ10から発熱する熱がバッテリ21に伝達されるのを抑制することができるので、バッテリ21の熱による損傷を防止できる。
【0076】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、支持軸14,15の軸線C1の傾斜角度θ1,θ2を数式(1)、数式(2)を満たすように、望ましくは数式(4)、数式(5)を満たすように設定する場合について説明した。また、メインモータ10の回転軸11の傾斜角度θ3を数式(3)を満たすように、望ましくは数式(6)を満たすように設定した場合について説明した。
しかしながら、これに限られるものではなく、軸線C1、および軸線C2が所定角度傾斜した状態で、筐体2の所定の角部7近傍を中心にしてフライホイール12がX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に向くように旋回するように構成されていればよい。このように構成されていれば、転動ロボット1を常に全方向に転動可能に構成することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 転動ロボット
2 筐体
3 駆動部
4 ケースフレーム
9 モータ支持フレーム
10 メインモータ
11 回転軸
12 フライホイール
13 サブモータ
14,15 支持軸(モータ支持軸)
16 フレーム本体
17 ベースフレーム
18 減速機構
21 バッテリ
23 台座面
37 ウォームギヤ(ウォーム減速機構)
C1,C2 軸線
L1 直線
θ1〜θ3 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方体状の筐体と、
前記筐体内に設けられたメインモータと、
前記メインモータの回転軸の一端に固定されたフライホイールと、
前記回転軸に対して鋭角に交差する方向に沿って延在し、かつ前記筐体に対して前記メインモータを旋回可能に支持するモータ支持軸と、
前記メインモータを前記モータ支持軸周りに旋回駆動させるサブモータとを備え、
前記モータ支持軸は、互いに隣接する任意の二面に投影させた形状がこの二面に平行な直線に対して傾斜した状態となるように設けられていることを特徴とする転動ロボット。
【請求項2】
前記モータ支持軸を前記二面のうちの一方の面に投影させた形状と前記直線との間の角度をθ1とし、
前記モータ支持軸を前記二面のうちの他方の面に投影させた形状と前記直線との間の角度をθ2とし、
前記回転軸と前記モータ支持軸との間の角度をθ3としたとき、
これら角度θ1、角度θ2、および角度θ3は、
40°≦θ1≦50°
17.7°≦θ2≦27.7°
53°≦θ3≦63°
を満たすように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の転動ロボット。
【請求項3】
前記モータ支持軸にウォーム減速機構を介して前記サブモータを連結したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の転動ロボット。
【請求項4】
前記モータ支持軸の中央の大部分にベースフレームを設け、
このベースフレームに前記メインモータ、前記サブモータ、および前記ウォーム減速機構を取り付けると共に、前記メインモータ、および前記サブモータを駆動させるためのバッテリを搭載し、
これらメインモータ、サブモータ、ウォーム減速機構、およびバッテリが前記モータ支持軸周りに一体となって旋回するように構成したことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の転動ロボット。
【請求項5】
前記メインモータと前記バッテリとの間に、前記ベースフレームを介在させたことを特徴とする請求項4に記載の転動ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−83541(P2011−83541A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240530(P2009−240530)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】