説明

転移可能基と受容基のカップリングを含む炭素−炭素結合の生成方法

本発明は、架橋可能基と受容基とをカップリングさせることを含む炭素−炭素結合の生成方法に関する。本発明の方法は、次の工程:(a)架橋可能基を有する珪素含有化合物を活性化剤によって活性化させ、(b)受容基を有する誘導体を、同時に又は任意の連続する順序で添加し、(c)炭素−炭素結合の生成による該架橋可能基と受容基とのカップリング反応の触媒として作用するパラダサイクル型化合物を添加することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラダサイクル型の触媒の存在下で炭素−炭素結合を生成させることよる転移可能基と受容基との間のカップリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル、パラジウム又は白金をベースとする触媒の存在下での有機金属求核試薬と有機ハロゲン化物又はスルホネートとのカップリングは、今のところ、炭素−炭素結合を生じさせるために最も有効な手段である。
【0003】
このようなクロスカップリング反応は、化学市場、農薬市場、医薬市場又はエレクトロニクス市場に役立つ非常に多くの製品、及び、例えば、液晶の製造などに使用される高性能製品に近づくことができる。
【0004】
グリニャール試薬がこのタイプの反応において首尾よく使用された最初の有機金属であり、そしてその後、リチウム、亜鉛、錫、チタンなどから誘導された多くの他の求核試薬が試験された。
【0005】
Suzuki外(J.Organomet.Chem.,1999,675,147)は、ボロン酸をカップリング反応に導入することによって大きな前進をなし、次いで、Hiyama外(J.Organomet.Chem.,2002,653(1−2),303)は、広範な官能基とも相容性のあるオルガノシリル化合物が、ある種の条件下で、パラジウム触媒及び陰イオン性活性剤の存在下でカップリングできることを示した。
【0006】
また、Najera外による研究(J.Org.Chem.,2002,67,5588−5594)も、パラダサイクル型の触媒及びアリールボロン酸を使用するSuzukiのタイプのカップリング反応を説明している。
【0007】
オルガノシリル誘導体の利点は、これらのものをクロルシランから製造するのが容易であるという点にある。これらのものはコストが低く、且つ、重合する傾向のある有機ボロン酸よりも容易に精製される。さらに、オルガノシリル化合物を有する反応廃液は、環境及び現在の規制に関して、有機ボロン酸を有する反応排出物よりも問題が少ない。
【0008】
国際公開WO01/94355号には、塩基性求核性陰イオン活性剤及び第10族金属である触媒の存在下にシリル誘導体及び有機求電子剤から開始する炭素−炭素カップリングのための方法が開示されている。しかしながら、この国際公開パンフレットに記載された方法は、望ましくないホモカップリング副生成物を生じさせるが、これは、上に定義された用途のために非常に高純度の化合物を提供するのに有害である。
【0009】
しかしながら、ホモカップリング副生成物の形成は、ホスフィン誘導体を反応媒体に添加することによって低減できることが示されている。しかし、それらの除去は、高純度の生成物を生成させる際の困難さ及び環境への排出前の廃液処理の両方に関する問題を提起し得る。
【0010】
さらに、これらのホスフィンは、合成するのが比較的困難であり、一般に不安定であり、しかも高価である。
【特許文献1】国際公開第01/94355号パンフレット
【非特許文献1】Suzuki外(J.Organomet.Chem.,1999,675,147)
【非特許文献2】Hiyama外(J.Organomet.Chem.,2002,653(1−2),303)
【非特許文献3】Najera外による研究(J.Org.Chem.,2002,67,5588−5594)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、転移可能基と受容基との間の炭素−炭素結合の生成を可能にし、従来技術の方法に関連する不利益を除去する新規な合成方法に対する要望が存在している。
【0012】
従って、本発明の第1の目的は、硼素型の化合物を使用することなく炭素−炭素結合を生成させることによって転移可能基を受容基にカップリングさせるための方法を提供することからなる。
【0013】
本発明の別の目的は、ホスフィン型の化合物を使用することなく炭素−炭素結合を生成させることによって転移可能基を受容基にカップリングさせるための方法を提供することである。
【0014】
第3の目的は、転移可能基の受容基へのカップリングを対象とする方法における炭素−炭素結合の生成中にホモカップリング副生成物が形成するのを防止し、又は少なくとも減少させることからなる。
【0015】
本発明の第4の目的は、転移可能基を受容基にカップリングさせるためのプロセス中に、炭素−炭素結合の生成のために必要な触媒の量を減少させることである。
【0016】
本発明の第5の目的は、従来技術において利用できる類似のカップリング反応で観察されるよりも実質的に速い反応速度で炭素−炭素結合を生成させることによって転移可能基と受容基とのカップリングを得ることである。
【0017】
また、良好な収率で、特に従来技術において利用できる類似のカップリング反応で観察されるよりも大きな収率で炭素−炭素結合を生成させることによる転移可能基と受容基とのカップリングから生成物を製造することも本発明の目的の一つを表す。
【0018】
さらに別の目的は、次の発明の説明で明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上に示した目的は、全て又は部分的に、炭素−炭素結合の生成によって転移可能基を受容基にカップリングさせるための方法によって達成できることが分かったが、これは、以下に詳しく示される本発明の主題の一つを表す。
【0020】
従って、本発明は、まず第一に、次の工程:
(a)転移可能な基を有する珪酸含有化合物を活性化剤によって活性化させ、
(b)受容基を有する誘導体を、同時に又は連続的に、任意の順序で添加し、
(c)炭素−炭素結合の生成によって該転移可能基を該受容基にカップリングさせる反応の触媒として作用するパラダサイクル型の化合物を添加すること
を含む、転移可能基を受容基にカップリングさせることによって炭素−炭素結合を生じさせるための方法に関する。
【0021】
また、この方法は、その後、このようにして得られたカップリング生成物の分離、単離及び精製の工程(d)を行うこともできる。
【0022】
珪酸含有化合物の活性化の工程(a)は、溶媒、好ましくは極性溶媒、特にエーテルを含む媒体中で実施される。これらのエーテルの例としては、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、ジブチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル又はジイソプロピルエーテルが挙げられるが、これらに限定されず、またこれらの好ましい溶媒のなかではジオキサン及びアニソールが好ましい。勿論、これらの溶媒の混合物をあらゆる割合で使用できる。
【0023】
しかしながら、活性化工程の溶媒は、極性溶媒に限定されず、また、例えば、芳香族溶媒のような他の溶媒も使用することも可能であり、これらの溶媒の混合物を使用することも可能である。トルエンがこの溶媒のカテゴリーの見込まれる代表例である。
【0024】
また、極性溶媒から選択される1種以上の溶媒と、例えば、前段落で定義されたような1種以上の他の溶媒との混合物が使用できるということも理解されたい。
【0025】
珪素含有化合物の活性化の工程(a)において、一般的に使用される活性化剤、特に陰イオン性求核化合物が使用される。一般に、この陰イオン性求核化合物は、陰イオン、例えば、水酸化物(OH-)イオン、アルコキシド型のイオンなどを反応媒体に放出することができる。
【0026】
また、有機又は無機弗化物も活性化剤として好適であり得る。この場合には、弗化アルカリ土類金属、特に、弗化カリウム及び弗化テトラアルキルアンモニウム、例えば、弗化テトラブチルアンモニウムが挙げられる。
【0027】
好ましくは、活性化剤は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アルコキシド、カーボネート、アミド並びにそれらの誘導体から選択される。例えば、活性化剤は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、酸化バリウム、ヘキサメチルジシラザン(KHMDS)のカリウム塩などから選択できる。
【0028】
好ましくは、使用される活性化剤は、固体状、例えば細かく摩砕されたペレット状、又は水溶液状の水酸化アルカリ金属、特に、水酸化ナトリウムである。
【0029】
反応溶媒の場合と同様に、活性化剤の混合物が使用できる。
【0030】
活性化剤の使用量は、活性化剤/珪素含有化合物のモル比が一般に1〜8、好ましくは2〜6、一般に3〜5、例えば、およそ4であるようなものである。
【0031】
本発明の有利な具体例によれば、活性化されなければならない珪素含有化合物は、40℃〜120℃、好ましくは60℃〜110℃、より好ましくは80℃〜110℃の反応温度を維持するように溶媒/活性化剤混合物に流し込まれる。
【0032】
反応媒体は、場合によっては珪素含有化合物が流し込まれつつあるときに加熱又は冷却できるため、該反応媒体の温度が依然として上に示される値の範囲内にあることとは自明である。この反応媒体は、有機合成の専門家である当業者に知られている任意の慣用法に従って冷却又は加熱できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の一態様によれば、転移可能基を有する珪素含有化合物は、任意のタイプのものであることができ、特に、次式(I):
【化1】

(式中、
・X1及びX2は同一又は異なるものであり、そして互いに独立して、弗素、塩素、臭素及び沃素、好ましくは塩素及び臭素から選択されるハロゲン原子であり、より好ましくは、X1及びX2は同一であり、そしてそれぞれ臭素原子又は塩素原子、有利には塩素原子であり、
・Rは、水素原子、1〜6個の炭素原子を含む線状又は分岐アルキル基及び上に定義されるRT基から選択され、
・RTは転移可能基であり、そしてアリール、ビニル及びアリル基から選択され、これらのものそれぞれは置換されていてよく、RTは、好ましくは、置換されていてよいアリール基、例えば、置換されていてよいフェニル基を表す。)
に相当するジハロシランであることができる。
【0034】
転移可能基RTは、例えば、次式R'T
【化2】

(式中、RT1、RT2及びRT3は同一又は異なるものであり、そして互いに独立して、水素原子、及び、1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基であって、飽和又は不飽和及び線状又は分岐の脂肪族基、飽和、不飽和又は芳香族単環式又は多環式の炭素環式又は複素環式基或いは上に述べたような脂肪族及び/又は炭素環式及び/又は複素環式基の配列であることができるものから選択される。
【0035】
本発明は、炭化水素鎖上に1個以上の他の不飽和、例えば、共役していても共役していなくてもよい1個以上の他の二重結合及び/又は1個以上の三重結合の存在を除外しない。
【0036】
炭化水素鎖は、随意として、ヘテロ原子(例えば、酸素若しくは硫黄)又は官能基によって中断され得(後者のものが反応しない限りにおいて)、特に、具体的には−CO−のような基が挙げられる。
【0037】
炭化水素鎖は、随意として、反応条件下で反応しない限りにおいて、1個以上の置換基を有することができ、そして特に、可能な置換基としては、ハロゲン原子、ニトリル基又はトリフルオルメチル基が挙げられる。
【0038】
飽和又は不飽和及び線状又は分岐の非環式脂肪族基は、随意として、環状置換基を保持することができる。用語「環状」とは、飽和、不飽和又は芳香族炭素環式又は複素環式環を意味するものとする。
【0039】
非環式脂肪族基は、原子価結合、ヘテロ原子又はオキシ、カルボニル、カルボキシル、スルホニルなどのような官能基を介して環に結合し得る。
【0040】
環状置換基の例としては、脂環式、芳香族又は複素環式置換基、特に、環に6個の炭素原子を含む脂環式置換基又はベンゼン置換基を想定することができ、ここで、これらの環状置換基は、それ自体、随意として、本発明の方法に関わる反応を妨げない限りにおいて任意の置換基を保持するものとする。特に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル又はアルコキシ基が挙げられる。
【0041】
環状置換基を保持する対象の脂肪族基としては、より具体的には、7〜12個の炭素原子を有するアラルキル基、特に、ベンジル又はフェニルエチルが挙げられる。
【0042】
R'T基において、RT1は、好ましくは環に5又は6個の炭素原子を含む飽和又は不飽和炭素環式基、好ましくはシクロヘキシルであることもでき、特に環に窒素、硫黄又酸素原子のような1又は2個のヘテロ原子を含めて5又は6個の原子を含む飽和又は不飽和複素環式基であることもでき、単環式芳香族炭素環式基、好ましくはフェニル、又は縮合若しくは非縮合多環式芳香族炭素環式基、好ましくはナフチルであることもできる。
【0043】
T2及びRT3について、これらのものは、好ましくは、水素原子又は1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、フェニル基若しくは7〜12個の炭素原子を有するアラルキル基、好ましくはベンジル基である。
【0044】
R'T基において、RT1、RT2及びRT3は、より具体的には、水素原子であり、或いは、RT1はフェニル基であり、そしてRT2及びRT3は水素原子である。
【0045】
また、転移可能基RTは、次式R"T
【化3】

(式中、
Aは、単環式又は多環式、芳香族、炭素環式及び/又は複素環式系の全て又は一部分を形成する環の残基であり、
T4は同一又は異なるものであり、そして該環上の置換基であり、
tは該環上の置換基の数である。)
であることもできる。
【0046】
特に、Aは、好ましくは、環に少なくとも4個の原子、好ましくは5又は6個の原子を有し、随意として置換されており、しかも次の環:
・単環式芳香族炭素環又は多環式芳香族炭素環、即ち、少なくとも2個の芳香族炭素環であってそれらの間にオルト若しくはオルト及びペリ縮合系を形成したものからなる化合物、又は少なくとも2個の炭素環であってそれらのうち1個のみが芳香族であり、そしてそれらの間にオルト若しくはオルト及びペリ縮合系を形成したものからなる化合物、
・酸素、窒素及び硫黄から選択されるヘテロ原子の少なくとも1個を含む単環式芳香族複素環又は多環式芳香族複素環、即ち、それぞれの環に少なくとも1個のヘテロ原子を含む少なくとも2個の複素環であって、その2個の環のうち少なくとも1個が芳香族であり、そしてそれらの間にオルト若しくはオルト及びペリ縮合系を形成したものからなる化合物、又は少なくとも1個の炭素環及び少なくとも1個の複素環であって、それらの環の少なくとも1個が芳香族であり、そしてそれらの間にオルト若しくはオルト及びペリ縮合系を形成したものからなる化合物
のうちの少なくとも一つを表す環状化合物の残基である。
【0047】
より具体的には、随意として置換された残基Aは、好ましくは、ベンゼンのような芳香族炭素環の残基、ナフタリンのような2個の芳香族炭素環を含む芳香族二環の残基又は、1,2,3,4−テトラヒドロナフタリンのような、2個の炭素環を含む部分芳香族二環であってその2個のうちの1個が芳香族であるものの残基である。
【0048】
また、本発明は、Aが複素環の残基であることができるという事実をも想定している。より具体的には、随意として置換された残基Aは、次の環:
・次式:
【化4】

の一つに相当する芳香族複素環、
・次式:
【化5】

の一つによって表される芳香族炭素環と芳香族複素環とを含む芳香族二環、
・次式:
【化6】

の一つによって表される芳香族炭素環と複素環とを含む部分芳香族二環、
・次式:
【化7】

の2個の芳香族複素環を含む芳香族二環、
・次式:
【化8】

に相当する炭素環と芳香族複素環とを含む部分芳香族二環、
・次式:
【化9】

の芳香族である少なくとも1個の炭素環又は少なくとも1個の複素環を含む三環
のうちの一つである。
【0049】
本発明の方法において、好ましくは、上に定義されるような転移可能基R"Tを有する式(I)の化合物であってAが芳香族核、好ましくはベンゼン又はナフタリン核であるものを使用する。
【0050】
転移可能基R"Tは、1個以上の置換基を保持し得る。環上に存在する置換基の数は、環の炭素縮合及び環中に不飽和が存在すること又は存在しないことに依存する。環が保持し得る置換基の最大数は、当業者によって容易に決定される。
【0051】
本明細書において、用語「いくつかの(数個の)」とは、一般に、芳香族核上の4個以下のRT4置換基を意味するものとする。
【0052】
置換基の例を以下に与えているが、このリストは、限定的な性質を示すものではない。
【0053】
T4基は、同一又は異なるものであり、好ましくは、次の基:
・1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル又はt−ブチル、
・2〜6個の炭素原子、好ましくは2〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルケニル又はアルキニル基、例えば、ビニル又はアリル、
・1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルコキシ又はチオエーテル基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ又はブトキシ基、アルケニルオキシ基、好ましくはアリルオキシ基又はフェノキシ基、
・シクロヘキシル、フェニル又はベンジル基、
・2〜6個の炭素原子を有するアシル基、
・次式:
−R1OH、−R1−SH、−R1−COOR2、−R1−CO−R2、−R1−CHO、−R1−CN、−R1−N(R22、−R1CO−N(R22、−R1−SO3Z、−R1−Y又は−R1−CF3(式中、R1は原子価結合、又は、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン若しくはイソプロピリデンのような、飽和若しくは不飽和線状若しくは分岐の2価の炭化水素基であって1〜6個の炭素原子を有するものであり、R2基は同一又は異なるものであり、そして水素原子、1〜6個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基又はフェニル基を表し、Zは水素原子、アルカリ金属、好ましくはナトリウム、又はR2基を表し、Yは、ハロゲン原子、好ましくは、塩素、臭素又は弗素原子を表す。)
のうちの一つである。
【0054】
式(I)のジハロシラン中に存在し且つ先ほど説明したような様々な置換基は、これらのものが反応媒体(特に活性化剤)を活性化条件下で妨害しないように、特に、これらのものが該反応媒体と反応しないように選択される。
【0055】
上に定義される式(I)の好ましい化合物は、次の特性を単独で又は組合せで有するものである:
・X1及びX2は同一であり、そしてそれぞれ臭素原子又は塩素原子であり、有利には塩素原子であり、
・Rは、水素原子、以下に定義されるRT基及び1〜6個の炭素原子を含む線状又は分岐アルキル基、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、s−ブチル、イソブチル、ペンチル、ネオペンチル及びn−ヘキシル基、より好ましくはメチル又はエチル基から選択され、
・RTは、随意として置換されたアリール基、例えば、随意として置換されたフェニル基である。
【0056】
本発明の方法にとって特に好ましい式(I)の化合物は、
・X1及びX2がそれぞれ塩素原子であり、
・Rがメチル基又は随意として置換されたフェニル基であり、
・RTが随意として置換されたフェニル基である
ものである。
【0057】
式(I)の化合物は、直接商業的に入手でき、又は当業者に知られている手順に従い様々な珪素源から得られ、又は科学文献、特許文献、電子化されたデータベース、化学情報検索及びインターネットで入手できる。
【0058】
例として、上に定義される式(I)の化合物は、クロルシランから選択でき、そして特に、式(I)の化合物は、ジフェニルジクロルシラン、メチルフェニルジクロルシラン又はメチルトリルジクロルシランであることができる。
【0059】
別の態様によれば、転移可能基を保持する珪素含有化合物は、ポリシロキサンと総称されるシリコーンオイルから有利に選択できる。本発明の方法にとって好適なポリシロキサンの例は、次式(I'):
【化10】

(式中、
Tは上に定義されるような転移可能基を表し、
a、Rb、Rc、Rd及びReは同一又は異なるものであり、そして互いに独立して、水素原子、1〜6個の炭素原子を含む線状又は分岐アルキル基及び上に定義されるRT基から選択され、
rは1〜10の整数であり(限界値を含む)、
qは、0又は1〜9の整数であり(限界値を含む)、
sは0又は1〜9の整数であり(限界値を含む)、
q+r+sの合計は4〜10である(限界値を含む)。)
に相当する。
【0060】
また、式(I')のポリシロキサンは、環状形態、即ち、環の形態であってその環内原子が交互に珪素及び酸素であるもので存在することもできる。このような環状ポリシロキサンは、次式:
【化11】

(式中、RT、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、q、r及びsは、上に定義される通りである。)
によって図式的に表され得る。
【0061】
シリコーンオイル、特に、式(I')の環状又は非環状ポリシロキサンは、特にシリコーン産業から入手できる既知の化合物である。さらに、式(I')の化合物は、上に定義される式(I)の化合物の緩衝化水性媒体中での加水分解によって容易に製造することもできる。
【0062】
式(I)のジハロシランと同じように、該シリコーンオイル、特に式(I')の化合物中に存在する様々な置換基は、反応媒体、特に活性化剤を活性化条件下で妨害しない、特にこれらのものと反応しないようなものでなければならないことを理解すべきである。
【0063】
線状であるか環状であるかを問わず、式(I')の化合物については、
・Ra、Rb、Rc、Rd及びReが同一又は異なるものであり、そして互いに独立して、水素原子、以下に定義されるRT基及び1〜6個の炭素原子を含む線状又は分岐アルキル基、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、s−ブチル、イソブチル、ペンチル、ネオペンチル及びn−ヘキシル基、より好ましくはメチル又はエチル基から選択され、
・RTが、随意として置換されたアリール基、例えば、随意として置換されたフェニル基である
ものが好ましい。
【0064】
本発明の方法にとって好適なシリコーンオイルのなかでは、上に定義されるような式(I)のジハロシランの加水分解によって得られるもの、アルキルアリールポリシロキサン、特にメチルアリールポリシロキサン、及び、例えば、商品名Rhodorsil H550(商標)の下にロディア社によって販売されているメチルフェニルポリシロキサンが挙げられる。
【0065】
上で述べたように、本発明の方法で使用される転移可能基を保持する珪素含有化合物は、適切なカップリング反応を実施する前に活性化されなければならない。
【0066】
活性化時間は、転移可能基を保持する化合物(例えば、式(I)又は式(I')の化合物)の性質及び量、使用される溶媒並びに使用される活性化剤に依存する。この時間は、一般に、数分から数日まで変化する。この時間は、一般に、数時間以内、有利には3時間以内であることができる。
【0067】
転移可能基を保持する化合物が活性化されるときに、このものは、次の工程(b)及び/又は(c)において直接使用できる。即ち、このものに、C−C結合の生成を可能にする−C=C−X型の受容基を保持する化合物、及び、同時に又は連続的に、任意の順序で、パラダサイクル型の触媒が添加される。
【0068】
より具体的には、受容基を保持する化合物は、次式(II):
A−X (II)
(式中、
Aは、2〜20個の炭素原子を含む炭化水素基(受容基)であり、且つ、脱離基Xに対してα位に位置する二重結合を有し或いは単環式又は多環式の芳香族、炭素環式及び/又は複素環式基を有し、
Xは脱離基である。)
に相当する。
【0069】
好ましくは、RAは、脱離基Xに対するα位に二重結合を含む脂肪族炭化水素基又は脱離基Xを保持する不飽和を含む環状炭化水素基であり、或いは単環式又は多環式芳香族、炭素環式及び/又は複素環式基である。
【0070】
好ましくは、Xは、ハロゲン原子、トリフルオルメチルのようなペルハロアルキル基又は式:−OSO2−R'(式中、R'は炭化水素基である。)のスルホン酸エステル基である。該スルホン酸エステル基の式において、R'は、任意の性質の炭化水素基である。しかしながら、Xが脱離基であるならば、経済的観点から、R'は、性質の点で単純であること、従って有利には1〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基、好ましくは、メチル又はエチル基であることが有利である。しかしながら、R'は、例えば、フェニル若しくはトリル基又はトリフルオルメチル基であることもできる。例えば、脱離基Xがトリフレート基であるときに、このものは、−OSO2−R'基(式中、R'はトリフルオルメチル基を表す。)に相当する。
【0071】
好ましい脱離基として、好ましくは、ハロゲン原子、特に臭素又は塩素原子、より好ましくは塩素原子が選択される。
【0072】
本発明の方法に従って特に対象とされる式(II)の化合物は、次の2つの群:
(1)二重結合を保持し、しかも次式(IIa):
【化12】

(式(IIa)において、
A1、RA2及びRA3は同一又は異なるものであり、そして互いに独立して、水素原子並びに1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基であって飽和若しくは不飽和で線状若しくは分岐の脂肪族基であることができるもの、飽和、不飽和若しくは芳香族、単環式若しくは多環式、炭素環式若しくは複素環式基、又は上に述べたような脂肪族及び/又は炭素環式及び/又は複素環式基の配列から選択され、
Xは、上に定義されるような脱離基を表す。)
によって表され得る脂肪族型のもの、
(2)以下、「ハロ芳香族化合物」で示され、しかも、次式(IIb):
【化13】

(式中、
Dは、単環式又は多環式、芳香族、炭素環式及び/又は複素環式系の全て又は一部分を形成する環の残基を表し、
Xは、上に定義されるような脱離基であり、
A4は同一又は異なるものであり、そして環上の置換基であり、
nは環上の置換基数である。)
によって表され得る芳香族型のもの
に分類できる。
【0073】
本発明は、式(IIa)に相当する不飽和化合物であって、式中、好ましくは、RA1が好ましくは1〜12個の炭素原子を有する飽和、線状又は分岐の非環状脂肪族基を表すものに適する。
【0074】
本発明は、炭化水素鎖上に1個以上の他の不飽和、例えば、共役であっても共役でなくてもよい1個以上の他の二重結合及び/又は1個以上の三重結合が存在することを除外しない。
【0075】
炭化水素鎖は、随意として、ヘテロ原子(例えば、酸素若しくは硫黄)又は官能基で中断され得るが、ただし、後者のものが反応しない場合に限る。特に、−CO−のような基が挙げられる。
【0076】
炭化水素鎖は、随意として、反応条件下で反応しない限りにおいて、1個以上の置換基を保持することができ、そして特に可能な置換基としては、ハロゲン原子、ニトリル基又はトリフルオルメチル基が挙げられる。
【0077】
飽和又は不飽和及び線状又は分岐の非環状脂肪族基は、随意として、環状置換基を保持することができる。用語「環状」とは、飽和、不飽和又は芳香族炭素環式又は複素環式環を意味するものとする。
【0078】
非環状脂肪族基は、原子価結合、ヘテロ原子又はオキシ、カルボニル、スルホニルなどの官能基を介して環に結合できる。
【0079】
環状置換基の例としては、脂環式、芳香族又は複素環式置換基、特に環中に6個の炭素原子を含む脂環式置換基又はベンゼン置換基を想定することが可能であるが、ここで、これらの環状置換基それ自体は、随意として、本発明の方法に関わる反応を妨げない限りにおいて、任意の置換基を保持するものとする。特に、1〜4個の炭素原子を有するアルキル又はアルコキシ基が挙げられる。
【0080】
環状置換基を保持する対象脂肪族基としては、より具体的には、7〜12個の炭素原子を有するアラルキル基、特に、ベンジル又はフェニルエチルが挙げられる。
【0081】
式(IIa)において、RA1は、RT1について上に与えたのと同一の定義を有すると理解すべきであり、しかして、このものは、環中に好ましくは5若しくは6個の炭素原子を含む飽和若しくは不飽和炭素環式基、好ましくはシクロヘキシルであることもでき、環中に5若しくは6個の原子(窒素、硫黄及び酸素原子のような1若しくは2個のヘテロ原子を含む。)を含む飽和若しくは不飽和複素環式基であることもでき、単環式芳香族炭素環式基、好ましくはフェニルであることもでき、又は縮合若しくは非縮合多環式芳香族炭素環式基、好ましくはナフチルであることもできる。
【0082】
上に定義されたRT2及びRT3について与えたのと同一の定義を有するRA2及びRA3について、これらのものは、好ましくは、水素原子又は1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、フェニル基若しくは7〜12個の炭素原子を有するアラルキル基、好ましくはベンジル基である。
【0083】
式(IIa)において、RA1、RA2及びRA3は、より具体的には、水素原子であり、或いはRA1はフェニル基であり、そしてRA2及びRA3は水素原子である。
【0084】
特に、式(IIa)に相当する化合物の例としては、塩化ビニル、臭化ビニル、β−ブロムスチレン又はβ−クロルスチレンが挙げられる。
【0085】
本発明は、特に、式(IIb)に相当するハロ芳香族化合物であって、式中、Dが、上に定義されるR"T基の環状化合物Aの残基について与えたのと同一の定義を有する環状化合物の残基を表すもの、即ち、好ましくは、環中に少なくとも4個の原子、好ましくは5又は6個の原子を有し、随意として置換され、そしてAについて上記した環の少なくとも一つ、即ち、酸素、窒素及び硫黄から選択されるヘテロ原子の少なくとも1個を含む単環式又は多環式芳香族炭素環又は単環式芳香族複素環又は多環式芳香族複素環であるものに適する。
【0086】
より具体的には、随意として置換された残基Dは、好ましくは、ベンゼンのような芳香族炭素環の残基、ナフタリンのような2個の芳香族炭素環を含む芳香族二環の残基又は、1,2,3,4−テトラヒドロナフタリンのような、2個の炭素環を含む部分芳香族二環であってその2個のうち1個が芳香族であるものの残基である。
【0087】
また、本発明は、Dが複素環の残基であることができるという事実をも想定している。より具体的には、随意として置換された残基Dは、R"T基のAについてすでに上に列挙した環のうちの一つである。
【0088】
本発明の方法においては、好ましくは、Dが芳香核、好ましくはベンゼン又はナフタリン核である式(IIb)のハロ芳香族化合物が使用される。
【0089】
式(IIb)の芳香族化合物は、1個以上の置換基を保有し得る。環上に存在する置換基の数は、該環の炭素縮合並びに該環中に不飽和が存在すること及び存在しないことに依存する。環が保有し得る置換基の最大数は、当業者によって容易に決定される。
【0090】
本明細書において、用語「いくつかの」とは、一般に、芳香核上の4個以下のRA4置換基を意味するものとする。
【0091】
A4置換基の例は、特に、本明細書においてRT4の例として上に与えたものである。しかしながら、置換基のこのリストは、限定的な性質を示すものではない。
【0092】
本発明は、式(IIb)に相当する化合物であって、式中、RA4基が、
・1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル又はt−ブチル、
・2〜6個の炭素原子、好ましくは2〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルケニル基、例えば、ビニル又はアリル、
・1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ又はブトキシ基、アルケニルオキシ基、好ましくは、アリルオキシ基又はフェノキシ基、
・−R1OH、−R1−N(R22又は−R1−SO3Z(式中、R1は原子価結合、又は、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン若しくはイソプロピリデンのような飽和若しくは不飽和線状若しくは分岐の2価の炭化水素基であって1〜6個の炭素原子を有するものであり、R2基は同一又は異なるものであり、そして水素原子、1〜6個の炭素原子を有する線状若しくは分岐アルキル基又はフェニル基を表し、Zは水素原子又はナトリウム原子を表す。)の基
であるものに特に適する。
【0093】
式(IIb)において、nは4以下の整数であり、好ましくは1又は2に等しい。
【0094】
式(IIb)に相当する化合物の例としては、特に、p−クロルトルエン、p−ブロムアニソール又はp−ブロムトリフルオルメチルベンゼンが挙げられる。
【0095】
式(II)、好ましくは式(IIa)又は(IIb)の脱離基を保有する化合物の使用量は、一般に、転移可能基を保有する珪素含有化合物の量に対して表される。従って、転移可能基を保有する珪素含有化合物のモル数対受容基を保有する化合物のモル数の比は、一般に、1〜3、好ましくは1〜2の間で変化する。
【0096】
適切なカップリング反応を開始させる前に、その反応媒体に相間移動剤を添加することが有利であることを示すことができる。勿論、相間移動剤の好適な量は、反応媒体の様々な構成成分の性質に依存するが、これは、一般に、受容基(II)を保有する化合物1モル当たり0.01モル〜1モルの相間移動剤である。この量は、好ましくは、受容基(II)を保有する化合物1モル当たり0.01〜0.1モル、有利にはおよそ0.05モルの相間移動剤である。
【0097】
相間移動剤は、当業者に知られている任意のタイプのものである。本発明の方法において有利に使用できる相間移動剤は、次式:
+-
(式中、A+は陽イオン、そしてW-は対イオンであり、当業者に一般的に知られているものから選択される。)
の化合物によって表される。
【0098】
対イオンW-としては、特に、ハロゲン化物、例えば、弗化物、塩化物若しくは沃化物又はヒドロキシド陰イオンなどが挙げられる。
【0099】
陽イオンA+は、一般に、具体的にはアンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム、カルベニウム、オキソニウム、ピコリニウム、ピリジニウム、アルソニウム、トリアゾリウム及びヨードニウム陽イオンから選択される、特にオニウム型の有機陽イオンである。
【0100】
特に、これらのうち、次の一般式(III−1)及び(III−2):
【化14】

(式中、
Eは、窒素、燐又は砒素原子から選択され、
Gは、硫黄、酸素、セレニウム及び炭素原子から選択され、
1、Y2、Y3及びY4は同一又は異なるものであり、そして
・1〜16個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基であって1個以上のフェニル、ヒドロキシル、ハロゲン、ニトロ、アルコキシ若しくはアルコキシカルボニル基又は原子(該アルコキシ基は1〜4個の炭素原子を有する。)で置換されていてよいもの、
・2〜12個の炭素原子を有する線状又は分岐アルケニル基、
・6〜10個の炭素原子を有するアリール基であって1〜4個の炭素原子を有する1個以上のアルキル基、アルコキシ(該アルコキシ基は1〜4個の炭素原子を有する)若しくはアルコキシカルボニル基又はハロゲン原子で置換されていてよいもの
から選択され、
該Y1〜Y4基のうちの2つは、共に、3〜6個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキレン、アルケニレン又はアルカジエニレン基を形成することが可能である。)
の化合物が好ましい。
【0101】
第四アンモニウム誘導体、特に、テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルベンジルアンモニウム、ジアルキルジフェニルアンモニウム及びアルキルトリフェニルアンモニウムが特に有利である。
【0102】
式A+-の化合物のうち、次の化合物:沃化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、Bu4NSCN、Bu4NOCN、Bu4NCN、Et4NCN、KCN、Bu4NOSO2NH2、Bu4NONO2、Bu4NONO、Bu4NSPh、Et4NSH、MeSNa、Bu4NSEt、NaSO2Me、Bu4NOAc、Bu4NOMe、Bu4NHSO4、Bu4NN3、CF3SCu及び(Me2N)3SOCFが挙げられる。
【0103】
本発明の方法にとって特に好ましい相間移動剤のうち、特に、沃化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム及び臭化セチルトリメチルアンモニウムが挙げられる。
【0104】
勿論、相間移動剤の存在は、本発明の方法に必須なわけではない。
【0105】
従って、随意として定義したような相間移動剤の存在下でのカップリング反応は、一般に周囲温度〜150℃、好ましくは50℃〜110℃の温度で、通常数分〜4時間、一般には15分〜1時間30分の範囲で実施される。
【0106】
式(II)の化合物の性質に応じて、該カップリング反応は、実質的に瞬間的であり、さらには瞬間的であり、或いは、1時間30分以上、さらには4時間以上にわたって続き得る。
【0107】
適切なカップリング反応(工程(b))の溶媒は、一般に、ハロシリル化合物の活性化工程(工程(a))で使用したものと同一である。これは、一般に、工程(a)からの反応生成物が分離されず且つ工程(b)に直接装入される場合である。
【0108】
しかしながら、工程(a)からの反応生成物を工程(b)に装入する前に(このものが単離されたどうかを問わず)、溶媒を添加することが有用であることが分かり得る。工程(b)の溶媒は、有利には、工程(a)のために定義され且つ上記したような見込まれる溶媒から選択されるであろう。
【0109】
一般に、カップリング工程で使用される溶媒の量は、式(II)の受容基を含む化合物の濃度が0.01M〜2M、好ましくは0.1M〜1Mであるようなものである。
【0110】
カップリング工程(b)は、さらに、上に定義されるような式(II)の受容基を保有する化合物の添加前、添加中又はさらに添加後に、パラダサイクル型の触媒を添加すること(工程(c))を特徴とする。
【0111】
用語「パラダサイクル型の触媒」(本明細書において、以下、単に「パラダサイクル」という。)とは、環中に炭素−パラジウム結合を含む環状化合物を意味するものとする。この炭素−パラジウム結合は、一般に、カルボパラジウム化反応、特に、sp2混成の炭素原子、例えば芳香族炭素原子、又はsp3混成の炭素原子が保有する水素原子のパラジウム原子による置換から生じる。
【0112】
このようなパラダサイクルは従来技術において周知であり、そして、例えば、K.Hiraki外(Inorg.Synth.,1989,26,208−210)、M.Pfeffer(Inorg.Synth.,1989,26,211−214)、C.Najera外(J.Org.Chem.,2002,67,5588−5594)、R.B.Bedford外(Angew.Chem.Int.Ed.,2002,41(21),4120−4122)及びJ.Dupont外(Eur.J.Inorg.Chem.,2001,1917−1927)に記載されている。
【0113】
例として、特に本発明の方法で使用できるパラダサイクルは、次式(IV):
【化15】

(式中、
Qは次式(Q−1)の基又は次式(Q−2)の基:
【化16】

(これらの基において、
・Eは、窒素、燐又は砒素原子から選択され、
・Gは、硫黄、酸素、セレン及び炭素原子から選択され、
・Y3及びY4は同一又は異なるものであり、そして
・1〜16個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基であって1個以上のフェニル、ヒドロキシル、ハロゲン、ニトロ、アルコキシ若しくはアルコキシカルボニル基又は原子(該アルコキシ基は1〜4個の炭素原子を有する。)で置換されていてよいもの、
・2〜12個の炭素原子を有する線状又は分岐アルケニル基、
・6〜10個の炭素原子を有するアリール基であって1〜4個の炭素原子を有する1個以上のアルキル基、アルコキシ若しくはアルコキシカルボニル基(該アルコキシ基は1〜4個の炭素原子を有する。)又はハロゲン原子で置換されていてよいもの
から選択され、
・Y3〜Y4は、共に、3〜6個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキレン、アルケニレン又はアルカジエニレン基を形成することが可能であり、
・Y3又はY4は、R4又はR4'及びこれらのものが結合する原子と共に、不飽和又は完全に若しくは部分的に不飽和の5又は6員環を形成することが可能であり、
・さらに、Y3又はY4のうちの一つは水素であることが可能であり、その他のものは上に定義する通りであり、
・さらに、Y3は、Eが窒素原子であるときにはR3(又はR3')と結合を形成することが可能であり、そしてこの場合には、Y4はヒドロキシル基であることもできる。)
であり、
Tは、それ自体当業者によって一般に理解されている対イオンであり、そして一般には、次の群:−F、−Cl、−Br、−I、−CN、−OCN、−SCN、−CF3、−OCF3、−ONO、−ONO2、−OSO2N(R6)(R7)、−SO28、−OSO28、−O(O)CR8、−SR8、−N3及び−OR8の陰イオンから選択され、
3、R4、R3'及びR4'は同一又は異なるものであり、そして水素原子及び1〜6個の炭素原子を含む線状又は分岐アルキル基から選択され、好ましくは、R3、R4、R3'及びR4'は同一又は異なるものであり、そして水素原子又はメチル基、より好ましくは水素原子であり、さらに、R3、R4、R3'又はR4'は、Y3及び/又はY4及び/又はR5と共に、これらのものが結合する原子と一緒になって、不飽和の又は完全に若しくは部分的に飽和の5又は6員環を形成することが可能であり、
5は同一又は異なるものであり、そして環上の置換基であり、好ましくは、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル又はt−ブチル、2〜6個の炭素原子、好ましくは2〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルケニル又はアルキニル基、例えば、ビニル又はアリル、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルコキシ又はチオエーテル基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ若しくはブトキシ基、アルケニルオキシ基、好ましくはアリルオキシ基又はフェノキシ基、シクロヘキシル、フェニル又はベンジル基、2〜6個の炭素原子を有するアシル基、式−R1−OH、−R1−SH、−R1−COOR2、−R1−CO−R2、−R1−CHO、−R1−CN、−R1−N(R22、−R1−CO−N(R22、−R1−SO3Z、−R1−SO2Z、−R1−Y又は−R1−CF3(これらの式において、R1は原子価結合又は、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン又はイソプロピリデンのような1〜6個の炭素原子を有する飽和又は不飽和線状又は分岐の2価の炭素原子基であり、R2基は同一又は異なるものであり、そして水素原子又は1〜6個の炭素原子を有する線状若しくは分岐アルキル基又はフェニル基であり、Zは水素原子、アルカリ金属、好ましくはナトリウム、又はR2基であり、Yは、ハロゲン原子、好ましくは、塩素、臭素、沃素又は弗素原子を表す)の基から選択される基のうちの一つであり、R5は、さらに、R3、R4、R3'若しくはR4'、Y3、Y4又は別のR5置換基と共に、これらのものが結合する原子と一緒になって、不飽和又は完全に若しくは部分的に飽和の5又は6員環を形成することができ、
6及びR7は同一又は異なるものであり、そして水素原子又は線状若しくは分岐C1〜C16アルキル基であり、
8は線状又は分岐C1〜C16アルキル基であり、
pは環上の置換基数、即ち、0、1、2、3又は4であり、
mは0又は1である。)
に相当する。
【0114】
また、式(IV)のパラダサイクルは、二量体の形でも存在し得る。
【0115】
上に定義した式(IV)のパラダサイクルのうち、次の特性のうちの一つ以上を単独で又は組合せで有するものが好ましい:
Qは、式(Q−1):
【化17】

(式中、
・Eは窒素原子であり、
・Y3及びY4は同一又は異なるものであり、そして1〜16個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基、より好ましくはメチル基であり、さらに、Y3又はY4のうちの一方は水素であることが可能であり、他方は上に定義された通りであり、
・さらに、Y3は、Eが窒素原子であるときにR3(又はR3')と結合を形成し、そしてこの場合には、Y4はヒドロキシル基であることもできる。)
の基であり、
Tは、ハロゲン、好ましくは−F、−Cl、−Br又は−Iであり、より好ましくは−Clであり、或いはトリフレート基又はアセテート基であり、
3、R4、R3'及びR4'は同一又は異なるものであり、そして水素原子又はメチル基、好ましくは水素原子であり、
5は同一又は異なるものであり、そして1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する線状若しくは分岐アルキル基であって、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル若しくはt−ブチルのようなものから選択される基のうちの一つ又はハロゲン原子、好ましくは塩素、臭素若しくは弗素原子であり、
pは0、1又は2であり、
mは0である。
【0116】
式(IV)のパラダサイクルの全体的に好ましい例は、次式(IV−1):
【化18】

(式中、R5は上に定義した通りである。)
の、二量体の形態のパラダサイクルである。
【0117】
さらに、上記式(IV−1)の化合物のなかでは、R5が水素又はハロゲン原子、例えば弗素若しくは塩素であるものが好ましい。
【0118】
特に好ましい二量体形態のパラダサイクルは、次のパラダサイクルP1及びP2:
【化19】

である。
【0119】
勿論、従来技術、例えば上に引用した論文の開示において与えられているような、任意の他のパラダサイクルも本発明の方法に好適である。
【0120】
単なる例示であるが、本発明の方法で使用できるこのような従来技術のパラダサイクルのいくつかの例は、たとえそれらが上に定義された式(IV)に相当しなくても、次の通りである:
【化20】

(ここで、R4、R5、Y3、Y4及びpは、例えば、上記式(IV)について定義された意味を有し得る。)。
【0121】
本発明の方法で使用されるパラダサイクル型の触媒は、液状又は固体状である。後者の場合には、該触媒は、反応体に直接又は好適な溶媒、例えば、工程(a)又は(b)で使用され且つ上に定義されるような溶媒で希釈した後に導入できる。
【0122】
パラダサイクル型の触媒にシリル誘導体を関係させる本発明の方法は、ホスフィンの添加に頼る必要なく、反応生成物が実質的にホモカップリング生成物を有しないことを示す。さらに、観察される収量は、今日まで従来技術に記載されたカップリング方法で得られたものよりも実質的に良好であり、しかもその反応時間は、一般に、斯界において知られているものよりも短い。
【0123】
本発明の方法の別の非常に有利な特徴は、質的及び量的に非常に良好な結果を与えるのに必要な触媒の量が非常に少ないことである。具体的には、本発明の方法で使用される触媒の量は、一般に、式(II)の受容基を保有する化合物に対して、0.0005モル%〜2モル%、好ましくは0.01モル%〜1モル%である。特に、本発明の方法は、式(II)の受容基を保有する化合物に対して、もっぱら0.1モル%(1000ppm)以下の触媒量で好適且つ有効であることが示された。
【0124】
上記した本発明に従う方法の説明において、式(I)(I')、(II)、(III)及び(IV)の化合物は、直接的に商品として購入でき、又は当業者に知られている慣用の手順、例えば、科学文献、特許及び特許出願、化学情報検索の要約において及びインターネットを介して入手できる手順に従って容易に製造できる。
【0125】
カップリング反応の終了時に、反応生成物は、当業者に知られている技術に従って又は特に上記の情報源から容易に入手できる既知の手順に従って、反応媒体から分離され、単離され、そして精製される。
【0126】
本発明に従う方法からの反応生成物は、上に定義されるような転移可能基を保有する化合物と受容基を保有する化合物とのカップリングによって得られるときに、次式(V):
T−RA (V)
(式中、化合物RT及びRAは上に定義される通りである。)
によって図式的に表され得る化合物である。
【0127】
これらの化合物(V)は、例えば、農薬、医薬、エレクトロニクス及び、例えば、液晶などの製造に使用される高性能製品のような非常に多くの分野においてもっぱら有利な用途を有する。
【0128】
次の実施例の目的は、本発明の方法を例示することであり、それを限定するものではない。
【実施例】
【0129】

触媒P1の合成
塩化パラジウム(PdCl2、1.26g)、塩化リチウム(LiCl、0.6g)及び30mLの水を反応器に装入する。この撹拌混合物を1時間30分にわたって沸点にまでもたらす。水を減圧下で蒸発させ、そして得られた固形物を10mLのメタノールに溶解させる。溶媒を減圧下で蒸発させ、そして褐色の固形物を35gのメタノールに溶解させ、次いでN,N−ジメチルベンジルアミン(1.06g)を添加する。
【0130】
この混合物を5分間撹拌し、次いでトリエチルアミン(0.7g)を1時間にわたって滴下で添加する。添加の終了時に、撹拌を8時間維持する。得られた黄色の沈殿物を濾過し、メタノールで3回洗浄し、そしてエーテルで2回洗浄する。この黄色の固形物を減圧下で乾燥させる。1.78gのパラダサイクルP1が得られた(収率:91.2%)。
【0131】
また、明細書において上に定義されたパラダサイクルP2の合成も同様の手順に従って実施する。
【0132】
ジフェニルジクロルシランPh2SiCl2から開始するカップリング操作の例
20mLのジオキサンと、粉末にされた80ミリモルの水酸化ナトリウムとを反応器に導入し、その後20ミリモルのジフェニルジクロルシラン(Ph2SiCl2)を導入する。撹拌混合物を30分にわたって100℃で加熱する。次いで、臭化テトラブチルアンモニウム(0.5ミリモル)、4−トリフルオルメチル−1−ブロムベンゼン(10ミリモル)及びパラダサイクルP2(0.005ミリモル)を70℃で装入する。
【0133】
混合物を100℃で30分間撹拌し、次いで40℃まで冷却し、そして20mLの水で加水分解させる。この反応素材を2×20mLのトルエンで抽出する。該溶媒を混合有機相から蒸発させた後に、9.5ミリモルの抽出生成物[4'−(トリフルオルメチル)フェニル]ベンゼンが得られた(収率95%)。
【0134】
メチルフェニルジクロルシラン(PhMeSiCl2)から開始するカップリング操作の例
20mLのアニソールと粉末にされた80ミリモルの水酸化ナトリウムとを反応器に導入する。その後、20ミリモルのメチルフェニルジクロルシランを、30分にわたって、85℃に加熱された撹拌混合物上に流し込む。85℃で1時間にわたって撹拌した状態を保持した後に、臭化テトラブチルアンモニウム(0.5ミリモル)、臭化アリール(10ミリモル)及びP1触媒(0.005ミリモル)を導入する。
【0135】
この混合物を1時間30分にわたって110℃で撹拌し、次いで40℃にまで冷却してから20mLの水で加水分解させる。有機相を反応媒体から分離し、そして内部較正付きGC(ガスクロマトグラフィー)によって定量的に決定する。得られた出発臭化アリール(II)に相当するビフェニル(V)の収率(RR)を以下の表に与える。
【表1】

【0136】
メチルフェニルポリシロキサンから開始するカップリング操作の例
20mLのアニソールと、微粉末にされた40ミリモルの水酸化ナトリウムとを反応器に導入する。その後、20ミリモル(Si単位として表される)のメチルフェニルポリシロキサンシリコーンオイル(商品名Rhodorsil H550(商標)の下にロディア社によって販売されている)を、10分間にわたって、85℃に加熱された撹拌混合物上に流し込む。85℃で1時間にわたって撹拌状態を保持した後に、P1触媒(0.005ミリモル)及び臭化アリール(10ミリモル)を導入する。
【0137】
この混合物を撹拌し、そして1時間30分にわたって110℃で加熱し、次いで40℃にまで冷却してから20mLの水で加水分解させる。有機相を沈降によって分離させ、そして水性相を20mLのアニソールで抽出する。この有機抽出物を混合し、そして内部較正付きのGC(ガスクロマトグラフィー)によって定量的に決定する。完全な転化が得られ、そして得られた収率(RR%)は次の通りであった。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
(a)転移可能な基を有する珪素含有化合物を活性化剤によって活性化させ、
(b)受容基を有する誘導体を、同時に又は連続的に、任意の順序で添加し、
(c)炭素−炭素結合の生成によって該転移可能基を該受容基にカップリングさせる反応の触媒として作用するパラダサイクル型の化合物を添加すること
を含む、転移可能基を受容基にカップリングさせることによって炭素−炭素結合を生じさせるための方法。
【請求項2】
活性化剤が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アルコキシド、カーボネート、アミド並びにそれらの誘導体から選択される陰イオン性の求核化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活性化剤が、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、酸化バリウム及びヘキサメチルジシラザンのカリウム塩から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
転移可能基を有する珪素含有化合物が、次式(I):
【化1】

(式中、
・X1及びX2は同一又は異なるものであり、そして互いに独立して、弗素、塩素、臭素及び沃素から選択されるハロゲン原子、好ましくは塩素及び臭素から選択されるハロゲン原子であり、より好ましくは、X1及びX2は同一であり、そしてそれぞれ臭素原子又は塩素原子、有利には塩素原子であり、
・Rは、水素原子、以下に定義されるRT基及び1〜6個の炭素原子を含む線状又は分岐アルキル基から選択され、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、s−ブチル、イソブチル、ペンチル、ネオペンチル及びn−ヘキシルから選択され、好ましくは、メチル及びエチルから選択され、有利には、Rは、水素原子、フェニル基又はエチル基を表す、
・RTは転移可能基であり、そしてアリール、ビニル及びアリル基から選択され、これらのもののそれぞれは置換されていてよく、RTは、好ましくは、置換されていてよいアリール基、例えば、置換されていてよいフェニル基を表す)
に相当するジハロシランである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
式(I)の転移可能基を有するジハロシランが、次の特性を単独で又は組合せで有する、請求項4に記載の方法:
・X1及びX2は、同一であり、そしてそれぞれ臭素原子又は塩素原子、有利には塩素原子であり、
・Rは、水素原子、以下に定義されるRT基及び1〜6個の炭素原子を含む線状又は分岐アルキル基、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、s−ブチル、イソブチル、ペンチル、ネオペンチル及びn−ヘキシル基、より好ましくはメチル又はエチル基から選択され、
・RTは、置換されていてよいアリール基、例えば、置換されていてよいフェニル基であること。
【請求項6】
式(I)のジハロシランがクロルシランから選択される、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
式(I)のジハロシランがジフェニルジクロルシラン、メチルフェニルジクロルシラン又はメチルトリルジクロルシランである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
転移可能基を有する珪素含有化合物がシリコーンオイルである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
シリコーンオイルが、次式(I'):
【化2】

(式中、
Tは請求項4又は5に記載の転移可能基であり、
a、Rb、Rc、Rd及びReは同一又は異なるものであり、そして互いに独立して、水素原子、1〜6個の炭素原子を含む線状又は分岐アルキル基及び前記RT基から選択され、
rは1〜10の整数であり、
qは、0又は1〜9の整数であり、
sは0又は1〜9の整数であり、
q+r+sの合計は4〜10である)
のポリシロキサンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ポリシロキサンが次の環状形態:
【化3】

である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
受容基を有する化合物が、次式(II):
A−X (II)
(式中、
Aは、2〜20個の炭素原子を含む炭化水素基(受容基)であり、且つ、脱離基Xに対してα位に位置する二重結合を有し或いは単環式若しくは多環式の芳香族、炭素環式及び/又は複素環式基を有し、
Xは脱離基、好ましくはハロゲン原子又は式−OSO2−R'(ここで、R'は炭化水素基である)のスルホン酸エステル基である)
に相当する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
受容基を有する化合物が、次式(IIa):
【化4】

(式中、
A1、RA2及びRA3は同一又は異なるものであり、そして互いに独立して、水素原子並びに1〜20個の炭素原子を有する炭化水素基であって飽和又は不飽和及び線状又は分岐の脂肪族基であることができるもの、飽和、不飽和又は芳香族、単環式又は多環式、炭素環式又は複素環式基、或いは脂肪族及び/又は炭素環式及び/又は複素環式基の配列から選択され、
Xは、請求項11に記載の脱離基を表す)
に相当する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
受容基を有する化合物が、塩化ビニル、臭化ビニル、β−ブロムスチレン及びβ−クロルスチレンから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
受容基を有する化合物が、次式(IIb):
【化5】

(式中、
Dは、単環式又は多環式、芳香族、炭素環式及び/又は複素環式系の全て又は一部分を形成する環の残基を表し、
Xは、請求項5に記載の脱離基であり、
A4は同一又は異なるものであり、そして環上の置換基であり、
nは環上の置換基数である)
に相当する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
受容基を有する化合物が、前記式(IIb)であって、式中、Dが好ましくは環中に少なくとも4個の原子、好ましくは5又は6個の原子を有し、随意として置換され、そして次の環:
・単環式芳香族炭素環又は多環式芳香族炭素環、即ち、少なくとも2個の芳香族炭素環であってそれらの間にオルト若しくはオルト及びペリ縮合系を形成したものからなる化合物、又は少なくとも2個の炭素環であって、それらのうちの1個のみが芳香族であり、そしてそれらの間にオルト若しくはオルト及びペリ縮合系を形成したものからなる化合物、
・酸素、窒素及び硫黄から選択されるヘテロ原子の少なくとも1個を含む単環式芳香族複素環又は多環式芳香族複素環、即ち、それぞれの環中に少なくとも1個のヘテロ原子を含む少なくとも2個の複素環であって、それら2個の環のうち少なくとも1個が芳香族であり、そしてそれらの間にオルト若しくはオルト及びペリ縮合系を形成したものからなる化合物、又は少なくとも1個の炭素環及び少なくとも1個の複素環であって、それらの環のうち少なくとも1個が芳香族であり、そしてそれらの間にオルト若しくはオルト及びペリ縮合系を形成したものからなる化合物
のうちの少なくとも一つを表す環状化合物の残基であるものに相当する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
受容基を有する化合物が、前記式(IIb)であって、式中、Dが、ベンゼンのような置換されていてよい芳香族炭素環、ナフタリンのような2個の芳香族炭素環を含む芳香族二環、又は、1,2,3,4−テトラヒドロナフタリンのような、2個の炭素環であってその2個のうち1個が芳香族であるものを含む部分芳香族二環の残基であるものに相当する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
受容基を有する化合物が、前記式(IIb)であって、式中、Dが
・芳香族複素環:
【化6】

・芳香族炭素環及び芳香族複素環を含む芳香族二環:
【化7】

・芳香族炭素環及び複素環を含む部分芳香族二環:
【化8】

・2個の芳香族複素環を含む芳香族二環:
【化9】

・炭素環及び芳香族複素環を含む部分芳香族二環:
【化10】

・及び、芳香族である少なくとも1個の炭素環又は少なくとも1個の複素環を含む三環:
【化11】

から選択される複素環の残基であるものに相当する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
受容基を有する化合物がp−クロルトルエン、p−ブロムアニソール及びp−ブロムトリフルオルメチルベンゼンから選択される、請求項1〜17に記載の方法。
【請求項19】
パラダサイクル化合物が、次式(IV):
【化12】

(式中、
Qは次式(Q−1)の基又は次式(Q−2)の基:
【化13】

(これらの基において、
Eは、窒素、燐又は砒素原子から選択され、
Gは、硫黄、酸素、セレン及び炭素原子から選択され、
3及びY4は同一又は異なるものであり、そして
・1〜16個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基であって1個以上のフェニル、ヒドロキシル、ハロゲン、ニトロ、アルコキシ若しくはアルコキシカルボニル基又は原子(該アルコキシ基は1〜4個の炭素原子を有する)で置換されていてよいもの、
・2〜12個の炭素原子を有する線状又は分岐アルケニル基、
・6〜10個の炭素原子を有するアリール基であって1〜4個の炭素原子を有する1個以上のアルキル基、アルコキシ若しくはアルコキシカルボニル基(該アルコキシ基は1〜4個の炭素原子を有する)又はハロゲン原子で置換されていてよいもの
から選択され、
3〜Y4は、共に、3〜6個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキレン、アルケニレン又はアルカジエニレン基を形成することができ、
3又はY4は、R4又はR4'及びこれらのものが結合する原子と共に、不飽和又は完全に若しくは部分的に不飽和の5又は6員環を形成することができ、
さらに、Y3又はY4のうちの一つは水素であることができ、その他のものは前記の通りであり、
さらに、Y3は、Eが窒素原子であるときにR3(又はR3')と結合を形成することができ、そしてこの場合には、Y4はヒドロキシル基であることもできる)
であり、
Tは、それ自体当業者によって一般に理解されている対イオンであり、そして一般には、次の群:−F、−Cl、−Br、−I、−CN、−OCN、−SCN、−CF3、−OCF3、−SCF3、−ONO、−ONO2、−OSO2N(R6)(R7)、−SO28、−OSO28、−O(O)CR8、−SR8、−N3及び−OR8の陰イオンから選択され、
3、R4、R3'及びR4'は同一又は異なるものであり、そして水素原子及び1〜6個の炭素原子を含む線状又は分岐アルキル基から選択され、好ましくは、R3、R4、R3'及びR4'は同一又は異なるものであり、そして水素原子又はメチル基、より好ましくは水素原子であり、さらに、R3、R4、R3'又はR4'は、Y3及び/又はY4及び/又はR5と共に、これらのものが結合する原子と一緒になって、不飽和の又は完全に若しくは部分的に飽和の5又は6員環を形成することができ、
5は同一又は異なるものであり、そして環上の置換基であり、好ましくは、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル又はt−ブチル、2〜6個の炭素原子、好ましくは2〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルケニル又はアルキニル基、例えば、ビニル又はアリル、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する線状又は分岐アルコキシ又はアルキルチオ基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ若しくはブトキシ基、アルケニルオキシ基、好ましくはアリルオキシ基又はフェノキシ基、シクロヘキシル、フェニル又はベンジル基、2〜6個の炭素原子を有するアシル基、式−R1−OH、−R1−SH、−R1−COOR2、−R1−CO−R2、−R1−CHO、−R1−CN、−R1−N(R22、−R1−CO−N(R22、−R1−SO3Z、−R1−SO2Z、−R1−Y又は−R1−CF3(これらの式において、R1は原子価結合又は、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン若しくはイソプロピリデンのような1〜6個の炭素原子を有する飽和若しくは不飽和線状若しくは分岐の2価の炭素原子基であり、R2基は同一又は異なるものであり、そして水素原子又は1〜6個の炭素原子を有する線状若しくは分岐アルキル基又はフェニル基であり、Zは水素原子、アルカリ金属、好ましくはナトリウム、又はR2基であり、Yは、ハロゲン原子、好ましくは、塩素、臭素、沃素又は弗素原子を表す)の基から選択される基のうちの一つであり、R5は、さらに、R3、R4、R3'若しくはR4'、Y3、Y4又は別のR5置換基と共に、これらのものが結合する原子と一緒になって、不飽和又は完全に若しくは部分的に飽和の5又は6員環を形成することができ、
6及びR7は同一又は異なるものであり、そして水素原子又は線状若しくは分岐C1〜C16アルキル基であり、
8は線状又は分岐C1〜C16アルキル基であり、
pは環上の置換基数、即ち、0、1、2、3又は4であり、
mは0又は1である)
に相当し、ここで、該式(IV)のパラダサイクルは、二量体の形態で存在することもできる、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
式(IV)のパラダサイクルが、次の特性の一つ以上を単独で又は組合せで有する、請求項19に記載の方法:
Qは、式(Q−1):
【化14】

(式中、
Eは窒素原子であり、
3及びY4は同一又は異なるものであり、そして1〜16個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する線状又は分岐アルキル基、より好ましくはメチル基であり、さらに、Y3又はY4のうちの一方は水素であることができ、他方は前記の通りであり、
さらに、Y3は、Eが窒素原子であるときにR3(又はR3')と結合を形成することができ、そしてこの場合には、Y4はヒドロキシル基であることもできる)
の基であり、
Tは、ハロゲン、好ましくは−F、−Cl、−Br又は−Iであり、好ましくは−Clであり、
3、R4、R3'及びR4'は同一又は異なるものであり、そして水素原子又はメチル基、より好ましくは水素原子であり、
5は同一又は異なるものであり、そして1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を有する線状若しくは分岐アルキル基であって、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル若しくはt−ブチルのようなものから選択される基のうちの一つ又はハロゲン原子、好ましくは塩素、臭素若しくは弗素原子であり、
pは0、1又は2であり、
mは0であること。
【請求項21】
パラダサイクルが次式(IV−1):
【化15】

(式中、R5は請求項16に記載された通りであり、好ましくは、水素又はハロゲン原子である)
に相当する、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
パラダサイクルが、パラダサイクルP1又はパラダサイクルP2:
【化16】

から選択される、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
触媒の使用量が、一般に、受容基を有する化合物に対して、0.0005モル%〜2モル%、好ましくは0.01モル%〜1モル%、特に0.1モル%(1000ppm)以下である、請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
工程(a)の溶媒がジオキサン又はアニソールである、請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
工程(b)と工程(c)の間で相間移動剤を添加することをさらに含む、請求項1〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
相間移動剤が沃化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム及び臭化セチルトリメチルアンモニウムから選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
次の工程:
(a)ジクロルシランを水酸化アルカリ金属又は水酸化アルカリ土類金属によって活性化させ、
(b)随意として相間移動剤の存在下で、ハロゲン化アリール及びパラダサイクル触媒を添加し、
(c)カップリング反応の生成物を分離及び単離すること
を含む、請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
次の工程:
(a)ジフェニルジクロルシランを水酸化ナトリウムによって活性化させ、
(b)相間移動剤としての臭化テトラブチルアンモニウムの存在下で4−トリフルオルメチル−1−ブロムベンゼン及びパラダサイクル触媒P2を添加し、
(c)カップリング反応の生成物である[4'−(トリフルオルメチル)フェニル]ベンゼンを分離及び単離すること
を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
次の工程:
(a)メチルフェニルジクロルシランを水酸化ナトリウムによって活性化させ、
(b)相間移動剤としての臭化テトラブチルアンモニウムの存在下で4−トリフルオルメチル−1−ブロムベンゼン及びパラダサイクル触媒P1を添加し、
(c)カップリング反応の生成物である[4'−(トリフルオルメチル)フェニル]ベンゼンを分離及び単離すること
を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
次の工程:
(a)メチルフェニルジクロルシランを水酸化ナトリウムによって活性化させ、
(b)相間移動剤としての臭化テトラブチルアンモニウムの存在下で2−メチル−1−ブロムベンゼン及びパラダサイクル触媒P1を添加し、
(c)カップリング反応の生成物である(2'−メチルフェニル)ベンゼンを分離及び単離すること
を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
次の工程:
(a)メチルフェニルジクロルシランを水酸化ナトリウムによって活性化させ、
(b)相間移動剤としての臭化テトラブチルアンモニウムの存在下で4−メトキシ−1−ブロムベンゼン及びパラダサイクル触媒P1を添加し、
(c)カップリング反応の生成物である(4'−メトキシフェニル)ベンゼンを分離及び単離すること
を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
次の工程:
(a)シリコーンオイルを水酸化アルカリ金属又は水酸化アルカリ土類金属によって活性化させ、
(b)随意として相間移動剤の存在下で、ハロゲン化アリール及びパラダサイクル触媒を添加し、
(c)カップリング反応の生成物を分離及び単離すること
を含む、請求項1〜26のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
次の工程:
(a)メチルフェニルポリシロキサンを水酸化ナトリウムによって活性化させ、
(b)4−トリフルオルメチル−1−ブロムベンゼン及びパラダサイクル触媒P1を添加し、
(c)カップリング反応の生成物である[4'−(トリフルオルメチル)フェニル]ベンゼンを分離及び単離すること
を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
次の工程:
(a)メチルフェニルポリシロキサンを水酸化ナトリウムによって活性化させ、
(b)4−メトキシ−1−ブロムベンゼン及びパラダサイクル触媒P1を添加し、
(c)カップリング反応の生成物である(4'−メトキシフェニル)ベンゼンを分離及び単離すること
を含む、請求項32に記載の方法。


【公表番号】特表2007−504118(P2007−504118A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524393(P2006−524393)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002186
【国際公開番号】WO2005/023735
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(390023135)ロディア・シミ (146)
【氏名又は名称原語表記】RHONE−POULENC CHIMIE
【Fターム(参考)】