説明

軸受構造

【課題】簡単な構造で潤滑油の供給が安定して行われる軸受構造を提供する。
【解決手段】エンジン内を潤滑する潤滑油57が溜められたクランクケースの側方に、エンジンの出力を減速機構53を介して減速する減速装置50が配置され、減速機構53を構成する第2ギヤ本体62aの前軸部62fを支持する軸受構造において、クランクケース内に設けられたクランク室29の側壁28に、前軸部62fを支持する前上部穴部28dと、この前上部穴部28dをクランク室29に連通させて前上部穴部28dに潤滑油57を供給する潤滑油供給孔28gとが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の軸受構造として、クランクケースのクランク室の側方にギヤ室が設けられ、このギヤ室内に設けられた歯車の軸を支持するための軸受構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開昭58−106511号公報
【0003】
特許文献1の第5図によれば、クランクケース2の側方に中間蓋31を介してサイドカバー38が取付けられることで、中間蓋31とサイドカバー38との間にギヤ室Aが形成され、中間蓋31とサイドカバー38とを貫通するようにクランク軸16が配置され、中間蓋31を貫通するようにカム軸17が配置され、クランク軸16が、中間蓋31に設けられた軸受8,21と、サイドカバー38に設けられた軸受22とで支持され、カム軸17が、中間蓋31に設けられた軸受10に支持され、クランク軸16に大歯車20、カム軸17に大歯車20に噛み合う小歯車40がそれぞれ取付けられ、これらの大歯車20及び小歯車40がギヤ室A内に配置されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クランク軸16及びカム軸17は、例えば、中間蓋31には軸受8,21及び軸受10を介して支持されているが、半径方向に作用するラジアル荷重が小さい軸であれば、高価な軸受を使用せずに、中間蓋31に設けられた穴で直接に軸を支持する簡単な軸受構造を採用することも可能である。
【0005】
しかし、穴で直接に軸を支持する軸受構造では、潤滑油の供給が不可欠であり、例えば、エンジンが運転中に傾くような場合には、潤滑油の油面位置が変化して、ギヤ室A内、クランク室B内に溜められた潤滑油を上記の軸受構造に供給するのが困難になることがあり、耐久性の低下を招く。
本発明の目的は、簡単な構造で潤滑油の供給が安定して行われる軸受構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、エンジン内を潤滑する潤滑油が溜められたクランクケースの側方に、エンジンの出力を減速機構を介して減速する減速装置が配置され、減速機構を構成する減速ギヤの減速ギヤ軸を支持する軸受構造において、クランクケース内に設けられたクランク室の側壁に、減速ギヤ軸を支持する支持穴と、この支持穴をクランク室に連通させて支持穴に潤滑油を供給する潤滑油供給孔とが設けられることを特徴とする。
【0007】
クランクケース内に溜められた潤滑油は、クランク室の側壁に設けられた潤滑油供給孔から側壁の支持穴に供給され、支持穴が潤滑される。
従って、エンジンが傾いた場合でも、エンジン運転中にクランク室内で掻き上げられた潤滑油が常に支持穴に供給され、潤滑油供給が安定する。
減速ギヤ軸は支持穴で支持され、特別に軸受を必要としないから、構造が簡単になり、部品数の増加が抑えられる。
【0008】
請求項2に係る発明は、潤滑油供給孔の下方に潤滑油が溜められる潤滑油溜りが設けられていることを特徴とする。
エンジン運転中にクランク室内で掻き上げられた潤滑油は、潤滑油溜りに溜まり、この潤滑油溜りから支持穴に継続的に供給されて支持穴を潤滑する。
【0009】
請求項3に係る発明は、支持穴が、減速ギヤ軸を臨む位置に潤滑油溜りと連通する潤滑油供給溝を備えることを特徴とする。
潤滑油溜りに溜まった潤滑油は、潤滑油溜りから減速ギヤ軸を臨む位置に備える潤滑油供給溝に流れ、支持穴の潤滑を促進する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、クランクケース内に設けられたクランク室の側壁に、減速ギヤ軸を支持する支持穴と、この支持穴をクランク室に連通させて支持穴に潤滑油を供給する潤滑油供給孔とが設けられるので、エンジン運転中にエンジンが傾いた状態でも、クランク室から潤滑油供給孔を通じて、減速ギヤ軸の支持穴に常に安定して潤滑油を供給することができる。
また、特別に高価な軸受を設ける必要がなく、軸受構造を簡単にすることができ、部品数の増加を抑えてコストを低減することができる。
【0011】
請求項2に係る発明では、潤滑油供給孔の下方に潤滑油が溜められる潤滑油溜りが設けられているので、潤滑油溜りを設けることで、潤滑油溜りから支持穴へ潤滑油を継続的に供給することができ、エンジンの傾斜状態に関係なく潤滑油を支持穴に確実に供給することができる。
また、エンジン始動時にも、エンジン停止時に潤滑油溜りに溜まっていた潤滑油を支持穴に供給することができ、潤滑油構造の信頼性を向上させることができる。
【0012】
請求項3に係る発明では、支持穴が、減速ギヤ軸を臨む位置に潤滑油溜りと連通する潤滑油供給溝を備えるので、潤滑油溜りから潤滑油供給溝に流れた潤滑油を支持穴へ確実に供給することができ、軸受構造の信頼性をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る軸受構造を備えたパワーユニットの断面図であり、パワーユニットの一部を構成するエンジン10は、クランクケース11と、このクランクケース11の上部に取付けられたシリンダブロック12と、このシリンダブロック12に形成されたシリンダ穴12aに移動自在に挿入されたピストン13と、このピストン13にピストンピン14を介して連結されたコネクティングロッド16と、このコネクティングロッド16に連結されるとともにクランクケース11とシリンダブロック12との合わせ部にベアリング17,18を介して回転自在に取付けられたクランクシャフト21と、シリンダブロック12にヘッドガスケットを介して取付けられたシリンダヘッド23と、このシリンダヘッド23の上部開口部を塞ぐヘッドカバー24とからなり、クランクケース11の側方に一体的に減速装置50が設けられている。
【0014】
上記エンジン10及び減速装置50は、パワーユニット70を構成するものであり、このパワーユニット70は、例えば、河川、湖、沼、海上等を移動するボードに搭載される。図中の矢印(FRONT)はパワーユニット70の前方(即ち、ボートの前方)を示している(以下同じ。)。
【0015】
クランクケース11は、クランクケース本体26と、このクランクケース本体26の側部に複数のボルト27で取付けられた側壁28とからなり、これらのクランクケース本体26、側壁28、シリンダブロック12、ピストン13で囲まれた密閉されたクランク室29が形成され、側壁28にベアリング18が取付けられ、クランクケース本体26と側壁28とにカムシャフト31が回転自在に支持されている。
【0016】
カムシャフト31は、カムギヤ31a、吸気用カム31b及び排気用カム31cが設けられる。
カムギヤ31aは、クランクシャフト21に設けられたカムシャフト駆動ギヤ33に噛み合うことで、カムシャフト31がクランクシャフト21に駆動され、吸気用カム31b及び排気用カム31cの回転が図示せぬプッシュロッドの往復動に変換され、シリンダヘッド23に設けられた動弁機構34を構成する吸気バルブ36及び排気バルブ37が開閉される。
【0017】
減速装置50は、エンジン10の側壁28に取付けられたサイドカバー51と、このサイドカバー51及び側壁28で囲まれたギヤ室52内に配置された減速機構53と、ベアリング54と、オイルシール56とからなる。
クランク室29及びギヤ室52内には、パワーユニット70の各部を潤滑する潤滑油57が溜められている。なお、57aは潤滑油57の油面である
【0018】
潤滑油57内には、上記したカムギヤ31aが浸されているため、カムギヤ31aが回転すれば、溜められている潤滑油57はクランク室29内に掻き上げられ、各部を潤滑する。
【0019】
図2は本発明に係る軸受構造を示す断面図であり、減速装置50の減速機構53は、クランクシャフト21の端部21aにボルト59で取付けられた第1ギヤ61と、この第1ギヤ61に噛み合うように側壁28及びサイドカバー51のそれぞれに回転自在に支持された第2ギヤ62と、この第2ギヤ62に噛み合うように側壁28及びサイドカバー51のそれぞれに回転自在に支持された第3ギヤ63とからなる。なお、65はワッシャ、66はシムである。
【0020】
第2ギヤ62は、第2ギヤ本体62aと、この第2ギヤ本体62aに一体に形成された第2ギヤ軸62bとからなり、第2ギヤ軸62bは、側壁28に設けられた前上部軸受部28aに支持される前軸部62fと、サイドカバー51に設けられた後上部軸受部51aに支持される後軸部62rとからなる。
【0021】
第3ギヤ63は、第3ギヤ本体63aと、この第3ギヤ本体63aに一体に形成された第3ギヤ軸63bとからなり、第3ギヤ軸63bは、側壁28に設けられた前下部軸受部28bに支持される前軸部63fと、サイドカバー51に設けられたベアリング54に支持される後軸部63rとからなる。
後軸部63rは、ボートを推進させるプロペラが中間軸を介して連結される部分である。
【0022】
前上部軸受部28aは、前軸部62fが挿入される前上部穴部28dと、この前上部穴部28dの内周面下部に、前軸部62fの軸方向に延びるように且つ前軸部62fを臨む位置に形成された潤滑油供給溝28eと、この潤滑油供給溝28eに連通するように前上部穴部28dの軸方向前側に設けられてクランク室29内に掻き上げられた潤滑油57を溜める潤滑油溜り28fと、この潤滑油溜り28f及びクランク室29のそれぞれを連通するように側壁28に開けられた潤滑油供給孔28gとからなる。
【0023】
後上部軸受部51aは、後軸部62rが挿入される後上部穴部51dと、この後上部穴部51dの内周面下部に後軸部62rの軸方向に延びるように且つ後軸部62rを臨む位置に形成された潤滑油供給溝51eと、この潤滑油供給溝51eに連通するように後上部穴部51dの軸方向後側に設けられてギヤ室52内に掻き上げられた潤滑油57を溜める潤滑油溜り51fとからなる。
【0024】
前下部軸受部28bは、前軸部63fが挿入される前下部穴部28jと、この前下部穴部28jの内周面上部に前軸部63fの軸方向に延びるように形成された潤滑油供給溝28kと、前下部穴部28j及びクランク室29のそれぞれを連通するように側壁28に開けられた潤滑油供給孔28nとからなる。
【0025】
以上に述べた前上部軸受部28a、前下部軸受部28b及び後上部軸受部51aの軸受構造の作用を次に説明する。
図3は本発明に係る軸受構造の作用を示す作用図である。
例えば、ボートが前進するときには、船体が前上がりの姿勢になるため、これに伴ってパワーユニット10、詳しくは減速装置50は図に示すように鉛直線80に対して白抜き矢印で示すように傾く。
【0026】
このとき、パワーユニット10内の潤滑油57の油面57aは、図2に示されたエンジン停止中の油面57aに対して傾くとともに下がった位置になり、前上部軸受部28aからはより離れた位置となる。
【0027】
この状態で、前上部軸受部28aにおいては、クランク室29内に掻き上げられた潤滑油57が、矢印で示すように潤滑油供給孔28gから潤滑油溜り28fに入り込んで溜まる。これにより、潤滑油57は、潤滑油溜り28fから潤滑油供給溝28eを通って前上部穴部28dと前軸部62fとの隙間に供給され、潤滑する。
【0028】
また、前下部軸受部28bにおいては、潤滑油供給孔28mがクランク室29に溜まっている潤滑油57に浸っているため、潤滑油57は、潤滑油供給孔28nから前下部穴部28jと前軸部63fとの隙間にスムーズに供給される。
【0029】
更に、後上部軸受部51aにおいては、潤滑油溜り51f及び潤滑油供給溝51eに潤滑油57が溜まりやすくなり、その潤滑油57で、後上部穴部51dと後軸部62rとの隙間が潤滑される。
【0030】
以上の図2、図3に示されるように、エンジン10(図1参照)内を潤滑する潤滑油57が溜められたクランクケース11(図1参照)の側方に、エンジン10の出力を減速機構53を介して減速する減速装置50が配置され、減速機構53を構成する減速ギヤとしての第2ギヤ本体62aの減速ギヤ軸としての第2ギヤ軸62bを支持する軸受構造において、クランクケース11内に設けられたクランク室29の側壁28に、第2ギヤ軸62b、詳しくは、前軸部62fを支持する支持穴としての前上部穴部28dと、この前上部穴部28dをクランク室29に連通させて前上部穴部28dに潤滑油57を供給する潤滑油供給孔28gとが設けられるので、エンジン運転中にエンジン10が傾いた状態でも、クランク室29から潤滑油供給孔28gを通じて、前軸部62fの支持穴である前上部穴部28dに常に安定して潤滑油を供給することができる。
また、特別に高価な軸受を設ける必要がなく、軸受構造を簡単にすることができ、部品数の増加を抑えてコストを低減することができる。
【0031】
また、潤滑油供給孔28gの下方に潤滑油57が溜められる潤滑油溜り28fが設けられているので、潤滑油溜り28fを設けることで、潤滑油溜り28fから前上部穴部28dへ潤滑油57を継続的に供給することができ、エンジン10の傾斜状態に関係なく潤滑油57を前上部穴部28dに確実に供給することができる。
【0032】
また、エンジン始動時にも、エンジン停止時に潤滑油溜り28fに溜まっていた潤滑油57を前上部穴部28dに供給することができ、潤滑油構造の信頼性を向上させることができる。
【0033】
更に、前上部穴部28dが、前軸部62fを臨む位置に潤滑油溜り28fと連通する潤滑油供給溝28eを備えるので、潤滑油溜り28fから潤滑油供給溝28eに流れた潤滑油57を前上部穴部28dへ確実に供給することができ、軸受構造の信頼性をより一層向上させることができる。
【0034】
尚、図2に示された本実施形態において、後上部軸受部51aの後上部穴部51dとギヤ室52と連通させてギヤ室52内で掻き上げられた潤滑油57を後上部穴部51dに供給する潤滑油供給孔をサイドカバー51に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の軸受構造は、ボート用パワーユニットに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る軸受構造を備えたパワーユニットの断面図である。
【図2】本発明に係る軸受構造を示す断面図である。
【図3】本発明に係る軸受構造の作用を示す作用図である。
【符号の説明】
【0037】
10…エンジン、11…クランクケース、21a,62b,63b…減速ギヤ軸(クランクシャフトの端部、第2ギヤ軸、第3ギヤ軸)、28…側壁、28d…支持部(前上部穴部)、28e…潤滑油供給溝、28f…潤滑油溜り、28g…潤滑油供給孔、29…クランク室、50…減速装置、53…減速機構、57…潤滑油、62a…減速ギヤ(第2ギヤ本体)、62b…減速ギヤ軸(第3ギヤ軸)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン内を潤滑する潤滑油が溜められたクランクケースの側方に、前記エンジンの出力を減速機構を介して減速する減速装置が配置され、前記減速機構を構成する減速ギヤの減速ギヤ軸を支持する軸受構造において、
前記クランクケース内に設けられたクランク室の側壁に、前記減速ギヤ軸を支持する支持穴と、この支持穴を前記クランク室に連通させて支持穴に潤滑油を供給する潤滑油供給孔とが設けられることを特徴とする軸受構造。
【請求項2】
前記潤滑油供給孔の下方に前記潤滑油が溜められる潤滑油溜りが設けられていることを特徴とする請求項1記載の軸受構造。
【請求項3】
前記支持穴は、前記減速ギヤ軸を臨む位置に前記潤滑油溜りと連通する潤滑油供給溝を備えることを特徴とする請求項2記載の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−275647(P2009−275647A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129224(P2008−129224)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】