説明

軸方向の調整が可能な磁気ベアリングとこのベアリングの取り付け方法

【課題】磁気ベアリングは、取り付けの間に、多大な注意を要し、特に、磁気ベアリングの種々の構成部品を、構造体に対して非常に精度良く配置することが、しばしば必要である。
【解決手段】環状の本体20は、クランプ手段に関連して設けられている少なくとも1つの径方向のスロットを有し、且つステータ構造体10に面している面にセットバック部分21を有する。前記ステータ構造体10に面している前記環状の本体20の面は、シース13の表面部分14と共動する摺動面23を有しており、前記環状の本体20の前記セットバック部分21は、前記本体20に面している前記シース13の面に形成されている環状の溝15に係合される調整リング30のねじ部分32と共動するねじ部分22を形成している。前記調整リング20は、前記環状の溝15に軸方向に移動しないように防がれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体に取着される環状の本体と、この本体に対して同軸に配置される電磁巻線を支持するための環状のシースを有する磁気ベアリングのステータ構造体と、このステータ構造体に対してエアーギャップを有してこれと同軸に配置されている環状のロータ電機子と、を有する軸方向の調整が可能な磁気ベアリングに関わる。
【0002】
また、本発明は、このような磁気ベアリングを取り付ける方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
活性(active)の磁気ベアリングは、多くの利点を有するので、産業で広く使用されている。これら利点は、特に、不利な環境でも、磨耗と潤滑油と汚染とがないことと、回転が高速であることと、振動のレベルが低いことと、優れた信頼性を有することとである。
【0004】
しかしながら、磁気ベアリングは、取り付けの間に、多大な注意を要し、特に、磁気ベアリングの種々の構成部品を、構造体に対して非常に精度良く配置することが、しばしば必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、このような問題を解決することと、磁気ベアリングを形成する機械的な集合体が、支持体と保護体との中で、軸方向で精度良く配置され得るようにすることとを、目指す。
【0006】
このような課題は、支持体に取着される環状の本体と、この本体に対して同軸に配置される電磁巻線を支持するための環状のシースを有する磁気ベアリング用ステータ構造体と、このステータ構造体に対してエアーギャップを有して同軸上に配置される環状のロータ電機子と、を有する軸方向の調整が可能な磁気ベアリングにおいて、前記環状の本体は、クランプ手段に関連して設けられている少なくとも1つの径方向のスロットを有し、且つ前記ステータ構造体に面している面にセットバック部分を有し、前記ステータ構造体に面している前記環状の本体の面は、前記シースの表面部分と共動する摺動面を有しており、前記環状の本体の前記セットバック部分は、前記本体に面している前記シースの面に形成されている環状の溝中に係合される調整リングのねじ部分と共動するねじ部分を形成しており、前記調整リングは、前記環状の溝中での軸方向の移動が防止されることを特徴とする磁気ベアリングによって、果たされる。
【0007】
所定の特徴に従えば、調整リングは、前記環状の本体と前記環状のシースとに対する前記調整リングの回転の動作を制御するための把持手段を有している。
【0008】
前記把持手段は、前記調整リングの前面に突出した部分によって構成されている。
【0009】
種々の所定の実施形態では、前記調整リングは、径方向のスロットを有しているか有していない単一の部品として、形成され得、もしくは、2つの径方向のスロットを有している2つの部品として形成され得る。
【0010】
所定の特徴に従えば、前記クランプ手段は、前記環状の本体に、前記径方向のスロットの両側で、接線方向の力を与えるねじによって構成されている。
【0011】
所定の実施形態では、前記ステータ構造体は、内側の環状のロータ電機子と外側の環状の本体との間に、配置されている。
【0012】
また、本発明は、支持体に取着される環状の本体と同軸に配置され電磁巻線を支持する環状のシースを有している磁気ベアリング用ステータ構造体と、このステータ構造体に対してエアーギャップを有して同軸に配置される環状のロータ電機子と、を有する軸方向の調整が可能な磁気ベアリングを取り付ける方法であって、
a)前記環状の本体に、クランプ手段に関連して設けられる少なくとも1つの径方向のスロットを形成する工程と、
b)前記ステータ構造体に面している前記環状の本体の面に、摺動面を形成する工程と、
c)前記環状の本体の、前記ステータ構造体に面している面に、セットバック部分を形成し、前記セットバック部分にねじを与える設ける工程と、
d)前記本体に面している前記シースの面に、環状の溝を形成する工程と、
e)前記環状の溝中で軸方向に移動することを防止するディメンションに設定されている調整リングを前記環状の溝中に挿入し、前記セットバック部分のねじと共動するねじを設ける工程と、
f)前記クランプ手段がクランプされていない間に、前記シースを前記環状の本体に対して軸方向で精度良く配置するために、前記シースと前記環状の本体とに対して前記調整リングを回転させる工程と、
g)所望の軸方向の配置が、前記環状の本体に対して前記ステータ構造体に為された後、前記ステータ構造体が前記環状の本体中で軸方向もしくは径方向に移動するのを防ぐために、前記環状の本体の内径を前記シースの外径に対応させるように、前記クランプ手段をクランプする工程と、
を含む方法を、提供する。
【0013】
本発明の他の特徴及び効果は、例によって与えられる特定の実施形態の以下の説明と、添付の図の参照とによって、明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の軸方向の調整が可能な磁気ベアリングの正面図である。
【図2】図2は、図1のII−II面で切断された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、軸XX’を有しており、軸方向で配置する手段に取着される、本発明に係る径方向の活性の磁気ベアリングの例を示している。
【0016】
ステータ構造体10が、環状のロータ電機子40の周りに、前記軸XX’を中心として同軸に、前記環状の電機子40と前記ステータ構造体10との間にエアーギャップ11を有して、配置されている。
【0017】
前記ステータ構造体10は、電磁巻線12を支持し、且つ前記電磁巻線12のための強磁性材のヨークを形成する環状のシース13を有している。
【0018】
前記シース13は、支持体51に取着される環状の本体20中に係合されている。前記シース13の外側の面が、摺動面14であり、この摺動面には、この中に円形の調整リング30が収容される環状溝15がある。前記調整リング30には、特定の実施形態では、このリングが前記溝15中に挿入され得るようにこのリングに所定量の弾力性を与える少なくとも1つの径方向のスロット31が、設けられ得る。前記調整リング30は、前記溝15のディメンションに一致されるディメンションに設定されており、軸に沿ってどちらの方向にも移動しないようにロックされる。前述の特定の実施形態では、前記調整リング30は、径方向のスロット31によって、前記ステータ構造体10を中心として摺動することを可能にしている。
【0019】
前記調整リング30は、2つ以上の径方向のスロット31を有していても良く、例として、2つの径方向のスロットによって分けられる2つの半分のリングによって形成されても良い。それでも、他の可能な実施形態では、前記調整リング30は、径方向のスロットを有する必要がない。
【0020】
前記調整リング30、もしくはリング30を形成している複数のセグメントは、好ましくは、ユーザが、前記ステータの構造体10を中心として調整リング30を回転させることを可能にする把持手段33を有する。把持手段33は、機械加工によって形成されるか、もしくは、前記調整リング30の前面に設けられユーザによってアクセス可能な部品によって形成され得る。前記把持手段33は、かくして、場合によっては例えば円形もしくは多角形の部分を与えるように、孔のような中空の部分によって、もしくは、スタッドのような突出した部分によって、構成され得る。
【0021】
前記支持体51に取着された前記調整リング30には、前記本体20のセットバック部分21の軸XX’を中心として同軸の内周の垂直面に設けられているねじ22と共動する、軸XX’を中心として同軸の外周の垂直面に設けられているねじ32が、設けられている。
【0022】
前記環状の本体20は、ねじのようなクランプ手段25に関連して設けられている径方向のスロット24を含み、このクランプ手段25は、前記環状の本体に、前記径方向のスロット24の両側で接線方向の力を与える。
【0023】
前記環状の本体20は、前記ステータ構造体10に面している面に、前記セットバック部分21を含み、このセットバック部分21には、上述のねじ22が設けられている。
【0024】
前記ステータ構造体10に面しており前記セットバック部分21に近接している前記環状の本体20の面が、前記シース13の外側の面に規定されている摺動面14と共動する摺動面23を有している。
【0025】
前記本体20内の電磁ベアリングの前記ステータ構造体10を構成している機械的な集合体を、軸方向で精度良く配置することは、以下のようにして、果たされる。
【0026】
径方向のスロット24を有する前記本体が径方向にわずかなクリアランスを設けることができるようにねじ25が緩められた状態で、前記外側のねじ32を前記本体20の前記セットバック部分21の内側のねじ22に係合させながら、前記溝15に調整リングを挿入することが可能である。
【0027】
前記調整リング30が、前記溝15中に係合され、両者の軸方向の移動が防がれると、前記クリアランスが、保たれ得る。かくして、前記ねじ25が、完全にではなく、わずかに締められていることによって、前記調整リング30のねじ32が前記本体20のねじ22に係合された状態で、前記軸XX’を中心として前記調整リング30を回転させることを可能にする。
【0028】
前記ステータ構造体10の軸方向の位置を精度良く調整するために、ユーザは、前記把持手段33を使用して、前記調整リング30を、軸XX’を中心として回転させる。この調整の間に、前記ねじ22とねじ32との共動によって、並びに、前記摺動面14と摺動面23との共動によって、前記ステータ構造体10は、前記本体20に対して、前記軸方向XX'に沿って、移動する。
【0029】
精度良く位置づけが果たされると、前記接線方向のねじ25は、締められて、前記本体20の径方向のスロット24を閉じる。前記ねじ25が締められている間に、前記本体20の内径が、前記摺動面14と摺動面23との間にクリアランスが設けられないように、前記シース13の外形に達するまで小さくなる。かくして、前記ステータ構造体10は、前記本体内で、軸方向にも、径方向にも移動しない。
【0030】
この調整システムは、当然可逆的であり、従って、所定の時間だけ動作された後に、そしてメンテナンス作業の間に、前記ステータ構造体10の軸方向の位置が変更する必要があることが明らかな場合には、前記ねじ25を緩めて、前述の動作を、新しい所望の軸方向の配置が果たされるまで繰り返すことによって、変更が果たされる。この後に、前記ねじ25は、新しく選択された軸方向の配置をロックするように、再度締められなければならない。
【符号の説明】
【0031】
10…ステータ構造体、11…エアーギャップ、12…電磁巻線、13…環状のシース、14…摺動面、15…環状の溝、20…環状の本体、21…セットバック部分、22…ねじ部分、23…摺動面、30…調整リング、32…ねじ部分、40…環状のロータ電機子、51…支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体(51)に取着される環状の本体(20)と、
この本体(20)に対して同軸に配置される電磁巻線(12)を支持するための環状のシース(13)を有する磁気ベアリング用ステータ構造体(10)と、
このステータ構造体(10)に対してエアーギャップを有して同軸に配置される環状のロータ電機子(40)と、を具備する軸方向の調整が可能な磁気ベアリングにおいて、
前記環状の本体(20)は、クランプ手段(25)に関連して設けられている少なくとも1つの径方向のスロット(24)を有し、且つ前記ステータ構造体に面している面にセットバック部分(21)を有し、前記ステータ構造体(10)に面している前記環状の本体(20)の面は、前記シース(13)の表面部分(14)と共動する摺動面(23)を有しており、前記環状の本体(20)の前記セットバック部分(21)は、前記本体(20)に面している前記シース(13)の面に形成されている環状の溝(15)中に係合される調整リング(30)のねじ部分(32)と共動するねじ部分(22)を形成しており、前記調整リング(30)は、前記環状の溝(15)中で軸方向の移動が防止されることを特徴とする、ベアリング。
【請求項2】
前記調整リング(30)は、前記環状の本体(20)と前記環状のシース(13)とに対する前記調整リング(30)の回転の動作を制御するための把持手段(33)を有することを特徴とする、請求項1に記載のベアリング。
【請求項3】
前記把持手段(33)は、前記調整リング(30)の前面に突出した部分によって、構成されていることを特徴とする、請求項2に記載のベアリング。
【請求項4】
前記把持手段(33)は、前記調整リング(30)の前面に形成された中空の部分によって構成されていることを特徴とする、請求項2に記載のベアリング。
【請求項5】
前記調整リング(30)は、少なくとも1つの径方向のスロット(31)を有していることを特徴とする、請求項1に記載のベアリング。
【請求項6】
前記調整リング(30)は、2つの径方向のスロット(30)を有しており、2つの部品として形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のベアリング。
【請求項7】
前記クランプ手段(25)は、前記環状の本体(20)に、前記径方向のスロット(24)の両側で、接線方向の力を与えるねじを有していることを特徴とする、請求項1に記載のベアリング。
【請求項8】
前記ステータ構造体(10)は、内側の環状のロータ電機子(40)と外側の環状の本体(20)との間に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のベアリング。
【請求項9】
支持体(51)に取着される環状の本体(20)に対して同軸に配置され、電磁巻線(12)を支持する環状のシース(13)を有している磁気ベアリング用ステータ構造体(10)と、
前記ステータ構造体(10)に対してエアーギャップを有して同軸に配置される環状のロータ電機子と(40)と、を有する軸方向の調整が可能な磁気ベアリングを取り付ける方法において、
a)前記環状の本体(20)に、クランプ手段(25)に関連して設けられる少なくとも1つの径方向のスロット(24)を形成する工程と、
b)前記ステータ構造体(10)に面している前記環状の本体(20)の面に、摺動面(23)を形成する工程と、
c)前記環状の本体(20)の、前記ステータ構造体(10)に面している面に、セットバック部分(21)を形成し、前記セットバック部分(21)にねじ(22)を設ける工程と、
d)前記本体(20)に面している前記シース(13)の面に、環状の溝(15)を形成する工程と、
e)前記環状の溝(15)中で軸方向に移動することを防止するディメンションに設定されている調整リング(30)を前記環状の溝(15)中に挿入し、前記セットバック部分(21)のねじ(22)と共動するねじ(32)を設ける工程と、
f)前記クランプ手段(25)がクランプされていない間に、前記シース(13)を前記環状の本体(20)に対して軸方向で精度良く配置するために、前記シース(13)と前記環状の本体(20)に対して前記調整リング(30)を回転させる工程と、
g)所望の軸方向の配置が、前記環状の本体(20)に対して前記ステータ構造体(10)に為された後、前記ステータ構造体(10)が前記環状の本体(20)中で軸方向もしくは径方向に移動するのを防ぐために、前記環状の本体(20)の内径を前記シース(13)の外径に対応させるように、前記クランプ手段(25)をクランプする工程と、
を具備することを特徴とする、方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−17849(P2012−17849A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−152014(P2011−152014)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(503180188)ソシエテ・ドゥ・メカニーク・マグネティーク (13)
【Fターム(参考)】