説明

軸流式圧縮機の可変静翼機構

【課題】部品コストが上昇することなく、しかも特段の製造工程やメンテナンスを必要とせずに、翼部に生じる圧力損失を低減する。
【解決手段】環状流路10の外周面2aおよび内周面33aに揺動可能に支持される翼軸32a、32bと、翼軸の軸心を揺動中心として環状流路内で角度を可変させる翼部31と、を備える。翼部は、翼軸が一体化され、環状流路の外周面または内周面に対面配置されるとともに、翼軸よりも環状流路の上流側および下流側に延在する側面31c、31dと、側面に連続するとともに、側面の厚さ方向に互いに表裏関係を維持して配置される圧力面31aおよび負圧面31bと、を備える。圧力面における環状流路の外周面側および内周面側の側縁には、圧力面から隆起する隆起部40が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットエンジンなどの軸流式圧縮機に関し、特には、エンジンの回転速度などに応じて翼部の角度を可変することができる軸流式圧縮機の可変静翼機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸流式圧縮機の静翼列に揺動機構が設けられ、エンジンの回転速度や出力などに応じて、静翼列を構成する翼部の角度を可変させる可変静翼機構(VSV=Variable Static Vane)が知られている。この可変静翼機構は、例えば、特許文献1に示されるように、翼部に一体化された翼軸がケーシングに揺動自在に支持されている。また、この翼軸にはピニオンが設けられており、このピニオンに噛合するラックを有するアクチュエータリングが、周方向に回動可能に設けられている。そして、アクチュエータリングを周方向に回動させると、翼軸が軸周り方向に揺動し、これによって翼部の角度が可変することとなる。
【0003】
なお、上記の可変静翼機構においては、ケーシングやロータに対して翼部を揺動させる関係上、ケーシング側に位置する環状流路の外周面やロータ側に位置する環状流路の内周面との間にクリアランスが形成される。そのため、環状流路に吸入された空気が、上記のクリアランスを介して、相対的に高圧となる翼部の圧力面側から、相対的に低圧となる翼部の負圧面側へと漏れてしまい圧力損失が生じる。
【0004】
そこで、特許文献2に示される可変静翼機構においては、静翼列を構成する翼部と、環状流路の外周面や内周面との間に形成されるクリアランスに可撓性のシール部材を設け、上記の圧力損失を低減するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−001821号公報
【特許文献2】特開2000−345997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のシール部材は、激しい温度変化に耐えうる耐温度変化性や、翼部の揺動に耐えうる耐摩耗性が要求されるため、こうした耐温度変化性や耐摩耗性を備えるシール部材を設けることとなると、部品コストが上昇してしまう。また、シール部材を設けることとなれば、その分、製造工程が煩雑になるとともに、シール部材が劣化した場合にはメンテナンスを行わなければならない。
【0007】
本発明は、部品コストが上昇することなく、しかも特段の製造工程やメンテナンスを必要とせずに、翼部に生じる圧力損失を低減することができる軸流式圧縮機の可変静翼機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の軸流式圧縮機の可変静翼機構は、環状流路の外周面および内周面のいずれか一方または双方に揺動可能に支持される翼軸と、翼軸の軸心を揺動中心として環状流路内に吸入された吸入空気の流れ方向に対して角度を可変させる翼部と、を備えた軸流式圧縮機の可変静翼機構であって、翼部は、翼軸が一体化され、環状流路の外周面または内周面に対面配置されるとともに、翼軸よりも環状流路の上流側および下流側に延在する側面と、側面に連続するとともに、側面の厚さ方向に互いに表裏関係を維持して配置される圧力面、および当該圧力面よりも環状流路内に吸入された吸入空気の流れによって低圧となる負圧面と、を備え、圧力面における環状流路の外周面側および内周面側の側縁のいずれか一方または双方には、当該圧力面から隆起する隆起部が設けられたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の軸流式圧縮機の可変静翼機構は、隆起部が、翼軸よりも環状流路の上流側において圧力面からの隆起を開始していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の軸流式圧縮機の可変静翼機構は、隆起部が、環状流路の上流側に位置する圧力面の端部から隆起を開始していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の軸流式圧縮機の可変静翼機構は、翼軸の軸心方向における一つの隆起部の幅が、翼軸の軸心方向における圧力面の幅の40%以内であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の軸流式圧縮機の可変静翼機構は、翼軸の軸心方向における一つの隆起部の幅が、翼軸の軸心方向における圧力面の幅の10〜30%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、部品コストが上昇することなく、しかも特段の製造工程やメンテナンスを必要とせずに、翼部に生じる圧力損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ジェットエンジンの概略断面図である。
【図2】圧縮機の部分概略図である。
【図3】静翼列を構成する翼部の拡大斜視図である。
【図4】静翼列を構成する翼部の概念図であり、(a)は翼部の側面を示す概念図であり、(b)は翼部の圧力面を示す図である。
【図5】隆起部の形状を説明する図である。
【図6】本実施形態の翼部の翼面マッハ数と、通常の翼部の翼面マッハ数との比較試験データを示す図である。
【図7】本実施形態の翼部の圧力損失係数と、通常の翼部の圧力損失係数との比較試験データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、ジェットエンジンの概略断面図である。この図に示すように、ジェットエンジン1は、ケーシング2内に吸入された空気を圧縮する圧縮機3と、この圧縮機3によって圧縮された圧縮空気を燃焼する燃焼室4と、この燃焼室4の燃焼工程で生じる排気ジェットの噴出力を回転エネルギーに変換するタービン5と、を備えている。このタービン5によって変換された回転エネルギーは、シャフト6を介して圧縮機3のロータ7に伝達され、このロータ7の回転によって圧縮機3が作動することとなる。
【0017】
この圧縮機3は、ケーシング2とロータ7との間隔に形成される環状流路10を備えている。ケーシング2とロータ7との対向間隔は、空気が吸入される環状流路10の上流側から、燃焼室4に接続される下流側に向けて徐々に小さくなるように形成されており、したがって、環状流路10は上流側から下流側に向けて徐々に狭くなる構成となっている。これにより、圧縮機3に吸入された空気は、環状流路10の上流側から下流側に導かれるにつれて徐々に昇圧することとなる。
【0018】
図2は、圧縮機3の部分概略図である。この図に示すように、圧縮機3の環状流路10は、ケーシング2の内壁面2aと、ロータ7の周面7aとによって区画形成されており、その上流側から下流側に向かって、複数の動翼列20と複数の静翼列30とが交互に配置されている。
【0019】
各動翼列20は、ロータ7の周面7aから環状流路10に突出する複数の翼部21(図2においては1枚のみ表示)を備えており、これら複数の翼部21が環状流路10の周方向(ロータ7の回転方向)に対して等間隔に配列されている。そして、各翼部21は、ロータ7と一体回転することによって、吸入空気を環状流路10の上流側から下流側に導くことができる形状となっている。
【0020】
また、各静翼列30は、ケーシング2の内壁面2aから環状流路10に突出する複数の翼部31(図2においては1枚のみ表示)を備えており、これら複数の翼部31が環状流路10の周方向に対して等間隔に配列されている。また、各静翼列30は、ケーシング2に揺動可能に支持される翼軸32を、翼部31と同数備えており、各翼部31は、それぞれ翼軸32に一体化されて環状流路10内に保持されている。この翼軸32には、ケーシング2の外方に設けられたピニオンと、このピニオンに噛合するラックとを有する不図示の揺動機構によって軸周り方向に揺動するものであり、この翼軸32の揺動にともなって翼部31が環状流路10内で角度を可変することとなる。
【0021】
なお、環状流路10の径方向(図中上下方向)の幅は、下流側よりも上流側の方が大きくなる。したがって、静翼列30の翼部31の幅(図中上下方向の長さ)も、環状流路10の上流側においては下流側よりも大きくなっている。そのため、環状流路10の上流側に位置する静翼列30においては、翼部31にガタつきが生じないように、ケーシング2側とロータ7側との双方で翼軸32が支持されている。
【0022】
具体的には、環状流路10の上流側においては、各動翼列20の間に環状の内側ケーシング33(シュラウド)が、ケーシング2と同様、固定的に設けられており、この内側ケーシング33で翼軸32を揺動可能に支持するようにしている。これにより、環状流路10の上流側に位置する静翼列30においては、翼部31が翼軸32によって両持ちで支持されることとなる。以下に、静翼列30の構成について詳細に説明する。
【0023】
図3は、静翼列30を構成する翼部31の拡大斜視図、図4は、翼部31の概念図であり、図4(a)は翼部31の側面を示し、図4(b)は翼部31の圧力面を示している。これらの図に示すように、翼部31は、弧状に湾曲するとともに互いに表裏関係を維持する圧力面31aおよび負圧面31bと、これら圧力面31aおよび負圧面31bの側縁から90度に屈曲して連続する側面31c、31dと、を備えている。圧力面31aと負圧面31bとは、圧力面31aが負圧面31bよりも相対的に高圧となるような形状を有している。
【0024】
側面31cは、環状流路10内でケーシング2の内壁面2aに対面配置されるとともに、側面31dは、環状流路10内で内側ケーシング33の外壁面33aに対面配置される。そして、側面31cには、ケーシング2に揺動可能に支持される翼軸32aが一体化され、側面31dには、内側ケーシング33に揺動可能に支持される翼軸32bが一体化されている。このとき、両側面31c、31dは、翼軸32a、32bに対して、環状流路10の上流側および下流側に延在する寸法関係を維持している。なお、翼軸32と翼部31とはそれぞれ別体で構成してもよいし、一体成形してもよい。いずれにしても、本実施形態において、翼軸32と翼部31とが一体化されるという構成には、翼軸32の軸心を揺動中心として当該翼軸32と翼部31とが一体的に揺動するように、翼軸32と翼部31とが接触もしくは連続する関係にある構成を全て含むものである。
【0025】
上記のようにして、翼軸32aが側面31cに一体化され、翼軸32bが側面31dに一体化された状態では、翼部31の圧力面31aおよび負圧面31bが、環状流路10内においてその周方向に臨んで位置している。
【0026】
なお、以下では、翼部31が環状流路10内に保持されたとき、環状流路10の上流側に位置する翼部31の端部を前端部LEとし、環状流路10の下流側に位置する翼部31の端部を後端部TEとする。また、これら前端部LEと後端部TEとの距離を翼部31の長さL1とし、圧力面31aと負圧面31bとの距離を翼部31の厚さL2とし、側面31c、31d間の距離を翼部31の幅L3として説明する。
【0027】
本実施形態においては、図4(b)に示すように、側面31cとケーシング2の内壁面2aとの間、および、側面31dと内側ケーシング33の外壁面33aとの間に、クリアランスxが形成される。このようにしてクリアランスxが形成されると、環状流路10内に吸入された吸入空気の流れにおいて、相対的に高圧となる圧力面31aから、相対的に低圧となる負圧面31bへと漏れが生じるが、この漏れを低減すべく、本実施形態においては、翼部31の圧力面31aに隆起部40が設けられている。
【0028】
この隆起部40は、圧力面31aの幅方向両側縁、換言すれば、圧力面31aにおいて、側面31cに連続する側縁と、側面31dに連続する側縁とにそれぞれ設けられている。したがって、翼部31においては、幅方向両端近傍の厚さL2aが、幅方向中央近傍の厚さL2bよりも大きくなっている。なお、本実施形態においては、1つの隆起部40における翼軸32の軸心方向の幅L4を、圧力面31aの幅L3の30%としている。ただし、この隆起部40の幅L4と、圧力面31aの幅L3との関係は、幅L4を幅L3の10〜30%とすることが望ましいが、40%以内であれば、圧力損失を低減するのに十分な効果を得ることができる。
【0029】
また、隆起部40は、圧力面31aの前端部LE側、すなわち翼軸32よりも環状流路10の上流側に設けられている。より詳細には、隆起部40は、圧力面31aの前端部LEから隆起を開始するとともに、翼軸32の周面よりも環状流路10の上流側において隆起を終了させている。つまり、隆起部40は、圧力面31aの前端部LE側であって、かつ、翼部31の幅方向両側縁に設けられることとなる。
【0030】
図5は、隆起部40の形状を詳細に説明する図である。上記したとおり、隆起部40は、圧力面31aにおいて、側面31c近傍と側面31d近傍とに1つずつ設けられているが、ここでは、側面31c近傍に設けられた隆起部40の形状について説明する。図5(a)に示すように、圧力面31aにおいて、側面31c側の端部をL=0、側面31d側の端部をL=100とし、側面31c側の端部から側面31d側の端部までの距離をLで示したとする。図5(b)は、L=0の場合の圧力面31aの断面を示し、図5(c)は、L=10の場合の圧力面31aの断面を示し、図5(d)は、L=20の場合の圧力面31aの断面を示し、図5(e)は、L=30の場合の圧力面31aの断面を示している。
【0031】
隆起部40は、側面31c側の側縁においては、図5(b)に示すように、前端部LEから翼軸32aの周面までの範囲で隆起している。そして、図5(c)および図5(e)に示すように、側面31cから翼部31の幅方向中央側に向かうにつれて、隆起部40の隆起高さ、すなわち、隆起部40における翼部31の厚さL2aが徐々に小さくなるとともに、前端部LEから後端部TE側に向けて広がる隆起部40の隆起範囲も徐々に狭くなっている。そして、図5(e)に示すように、L=30の位置においては、隆起部40が完全に消滅することとなる。
【0032】
このように、隆起部40は、側面31cからは翼部31の幅方向中央側に向かうにつれて、徐々に隆起高さを小さくするとともに、前端部LEから後端部TE側へ向かう方向の隆起範囲が徐々に狭くなっている。なお、ここでは側面31c側に設けられた隆起部40について説明したが、側面31d側に設けられた隆起部40においても、上記と同様に、側面31d側から翼部31の幅方向中央側に向かうにつれて、徐々に隆起高さが小さくなり、徐々に隆起範囲が狭くなっている。
【0033】
図6は、本実施形態の翼部31の翼面マッハ数と、通常の翼部の翼面マッハ数との所定条件下における比較試験データを示す図である。ただし、図6(a)は、図4(b)に示すように、環状流路10の内周面(内側ケーシング33の外壁面33a)から外周面(ケーシング2の内壁面2a)までの距離を100とした場合に、内周面からの距離=5の位置における翼面マッハ数を示し、図6(b)は、内周面からの距離=10の位置における翼面マッハ数を示している。
【0034】
なお、比較試験対象である通常の翼部は、隆起部40が設けられていない点のみ本実施形態の翼部31と異なり、他の形状や材質などは全て同じである。また、図6(a)および図6(b)において、実線は本実施形態の翼部31の翼面マッハ数を、点線は通常の翼部の翼面マッハ数を示しており、図中PSは圧力面側の翼面マッハ数、図中SSは負圧面側の翼面マッハ数を示している。そして、前端部LEから後端部TEまでの距離(長さ)=L1を1とした場合に、図中横軸に示す翼部31の長さ方向における位置ごとの翼面マッハ数(縦軸)は次のとおりとなる。
【0035】
すなわち、翼面マッハ数は、圧力面および負圧面ともに、前端部LE側から後端部TE側に向けて徐々に低下しているが、これによって、翼部を通過する過程で、吸入空気が減速および昇圧されることが示されている。ここで、通常の翼部の圧力面における翼面マッハ数は、前端部LEにおいて急激に高くなった後、後端部TEに向かうにつれて徐々に低くなるとともに、後端部TEの近傍で再び上昇する。また、通常の翼部によれば、圧力面と負圧面との翼面マッハ数の差すなわち流速の差が、後端部TE側よりも前端部LE側の方が大きくなっており、図中一点鎖線で示す翼軸32よりも前端部LE側において、圧力面と負圧面との間にy1の差が生じている。
【0036】
これに対して、本実施形態の翼部31においては、圧力面31aの幅方向両側縁に設けられた隆起部40の影響により、翼面マッハ数が、翼軸32よりも前端部LE側において通常の翼部31よりも高くなっている。つまり、本実施形態の翼部31においては、隆起部40によって吸入空気が加速された結果、翼軸32よりも前端部LE側において、圧力面31aと負圧面31bとの間の翼面マッハ数の差=y2が、通常の翼部における翼面マッハ数の差=y1よりも小さくなっている。このように、翼部31の前端部LE側において、圧力面31aと負圧面31bとの流速差が小さくなれば、クリアランスxを介して生じる圧力面31aから負圧面31bへの漏れが低減され、よってクリアランスxによって生じる圧力損失を低減することができる。
【0037】
図7は、本実施形態の翼部31の圧力損失係数と、通常の翼部の圧力損失係数との比較試験データを示す図である。この図において、横軸は圧力損失係数を示しており、縦軸は環状流路10の内周面(内側ケーシング33の外壁面33a)からの距離を示している。ただし、ここでは、環状流路10の径方向の幅の内側20%の範囲を示しており、また、本実施形態においては、環状流路10の内周面から2%の範囲が、環状流路10の内周面(内側ケーシング33の外壁面33a)と、翼部の側面との間に形成されるクリアランスに相当する。また、図中実線は、本実施形態の翼部31によって生じる圧力損失係数を示し、図中点線は、通常の翼部によって生じる圧力損失係数を示している。
【0038】
この図からも明らかなように、本実施形態によれば、隆起部40が設けられた範囲内、換言すれば、クリアランスxの近傍において圧力損失を低減することができる。このように、圧力損失を低減するために、静翼列30を構成する翼部31に隆起部40を設ければよいので、クリアランスシールなどの部品を設ける必要がなく、よって特段の製造工程やメンテナンスが必要となることもない。
【0039】
なお、上記実施形態においては、翼部31の翼軸32aが環状流路10の外周面(ケーシング2の内壁面2a)に支持され、翼部31の翼軸32bが環状流路10の内周面(内側ケーシング33の外壁面33a)に支持されるいわゆる両持ちの場合について説明した。しかしながら、例えば、図2において、環状流路10のもっとも下流側に位置する静翼列30のように、翼部31が環状流路10の外周面側においてのみ支持されることとしてもよいし、これとは逆に、環状流路10の内周面側においてのみ支持されることとしてもよい。
【0040】
このように、翼部31が環状流路10の外周面または内周面のいずれか一方に片持ちされる場合にも、当該翼部31の側面31cと環状流路10との間、および、翼部31の側面31dと環状流路10との間にはクリアランスxが形成される。したがって、翼部31を環状流路10の外周面または内周面のいずれかに片持ちする場合であっても、当該翼部31の圧力面31aに隆起部40を設けることにより、上記実施形態と同様に、圧力損失を低減することができる。いずれにしても、隆起部40は、翼軸32が環状流路10の外周面および内周面のいずれか一方または双方に搖動可能に支持される翼部31に適用することができる。
【0041】
また、上記実施形態においては、圧力面31aにおける環状流路10の外周面側の側縁と内周面側の側縁との双方に隆起部40が設けられることとしたが、隆起部40は、環状流路10の外周面側の側縁または内周面側の側縁のいずれか一方にのみ設けることとしてもよい。
【0042】
また、上記実施形態においては、翼部31の圧力面31aのうち、翼軸32よりも環状流路10の上流側(前端部LE側)に隆起部40が設けられることとしたが、隆起部40を設ける位置は上記実施形態に限られるものではない。例えば、隆起部40は、翼軸32よりも環状流路10の下流側(後端部TE側)に設けることとしてもよいし、翼部31の前端部LEから後端部TEまで連続させて設けることとしてもよい。
【0043】
ただし、図6(a)および図6(b)からも明らかなように、圧力面31aと負圧面31bとの翼面マッハ数(流速)の差は、後端部TE側よりも前端部LE側の方が大きく、より詳細には、翼軸32よりも前端部LE側において特に大きくなる。このように、圧力面31aと負圧面31bとの間の翼面マッハ数(流速)の差が大きくなると、それに伴ってクリアランスxからの漏れも大きくなる。したがって、隆起部40は、少なくとも、翼軸32よりも前端部LE側において、圧力面31aからの隆起を開始することが望ましい。
【0044】
また、翼部31の圧力面31aにおいて、前端部LEと後端部TEとの間のいずれの位置から隆起部40が隆起を開始しても構わないが、前端部LEから隆起部40の隆起を開始させた方が、吸入空気の流れに乱れが生じにくくなり、圧力損失低減の効果をより一層高めることができる。
【0045】
さらに、上記実施形態においては、翼部31の側面31c、31d側の側縁から翼部31の幅方向中央側に向かうにしたがって、隆起部40の隆起高さ、および、隆起範囲を徐々に小さくすることとしたが、隆起部40は、その隆起高さや隆起範囲を、翼部31の幅方向位置とは無関係に一様に設けることとしてもよい。ただし、上記実施形態のように、隆起高さや隆起範囲を徐々に小さくした方が、吸入空気の流れに乱れが生じにくくなり、圧力損失低減の効果をより一層高めることができる。
【0046】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、ジェットエンジンなどの軸流式圧縮機に関し、特には、エンジンの回転速度などに応じて翼部の角度を可変することができる軸流式圧縮機に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 ジェットエンジン
2 ケーシング
2a 内壁面
3 圧縮機
7 ロータ
7a 周面
10 環状流路
30 静翼列
31 翼部
31a 圧力面
31b 負圧面
31c、31d 側面
32(32a、32b) 翼軸
33 内側ケーシング
33a 外壁面
40 隆起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状流路の外周面および内周面のいずれか一方または双方に揺動可能に支持される翼軸と、
前記翼軸の軸心を揺動中心として前記環状流路内に吸入された吸入空気の流れ方向に対して角度を可変させる翼部と、を備えた軸流式圧縮機の可変静翼機構であって、
前記翼部は、
前記翼軸が一体化され、前記環状流路の外周面または内周面に対面配置されるとともに、前記翼軸よりも環状流路の上流側および下流側に延在する側面と、
前記側面に連続するとともに、前記側面の厚さ方向に互いに表裏関係を維持して配置される圧力面、および当該圧力面よりも前記環状流路内に吸入された吸入空気の流れによって低圧となる負圧面と、を備え、
前記圧力面における前記環状流路の外周面側および内周面側の側縁のいずれか一方または双方には、当該圧力面から隆起する隆起部が設けられたことを特徴とする軸流式圧縮機の可変静翼機構。
【請求項2】
前記隆起部は、前記翼軸よりも環状流路の上流側において圧力面からの隆起を開始していることを特徴とする請求項1記載の軸流式圧縮機の可変静翼機構。
【請求項3】
前記隆起部は、前記環状流路の上流側に位置する圧力面の端部から隆起を開始していることを特徴とする請求項2記載の軸流式圧縮機の可変静翼機構。
【請求項4】
前記翼軸の軸心方向における一つの隆起部の幅は、前記翼軸の軸心方向における前記圧力面の幅の40%以内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の軸流式圧縮機の可変静翼機構。
【請求項5】
前記翼軸の軸心方向における一つの前記隆起部の幅は、前記翼軸の軸心方向における前記圧力面の幅の10〜30%であることを特徴とする請求項4記載の軸流式圧縮機の可変静翼機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−233424(P2012−233424A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101684(P2011−101684)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】