説明

軽油基材の製造方法

【課題】これまで軽油基材としての活用が困難だったオイルサンドビチューメン等の非在来型原油から製造した合成原油の軽油留分から、セタン指数50以上の軽油基材を製造する方法を提供する。
【解決手段】芳香族成分及び/又は芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を50質量%以上含有する、セタン指数が50未満の軽油留分を水素化分解して、前記軽油留分中の2環ナフテンを少なくとも1環ナフテンに転換させて、セタン指数50以上の軽油基材を製造する、軽油基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオイルサンドビチューメン等の非従来型原油から得られる低品位な軽油留分から、セタン指数50以上の軽油基材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルサンドビチューメン等の非従来型原油から製造された合成原油の軽油留分は、主に多環芳香族分およびその水素化物で構成されているために、セタン指数が低く、軽油基材としての活用が困難である。
上記軽油留分等の、例えば、コーカー熱分解装置から得られる軽油留分については、これを直留軽油に15〜40容量%混合した後、水素化処理して硫黄分10質量ppm以下、セタン指数50以上の軽油基材を製造する技術が提案されている(特許文献1)。このように、従来の水素化処理技術では、コーカー熱分解装置からの軽油留分はセタン指数が高い直留軽油と混合しなければ軽油基材として活用が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−248175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、コーカー熱分解装置と水素化処理技術の組合せで製造されるオイルサンドビチューメン等の非従来型原油の合成原油中の軽油留分についても同様またはそれ以上に直留軽油との混合比率が制限され軽油基材としての活用が困難であるという問題があった。
本発明は、これまで軽油基材としての活用が困難であったオイルサンドビチューメン等の非在来型原油から製造した合成原油の軽油留分等のセタン指数50未満の低品位の軽油留分から、セタン指数50以上の軽油基材を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
オイルサンドビチューメン等の非従来型原油から製造される合成原油の軽油留分のセタン指数が低いのは、該軽油留分が、2環以上の多環芳香族分が水素化されてなる成分により主として構成されているためであり、水素化処理で芳香族環を完全核水添しても、デカリンに代表される2環ナフテンまでの水素化に留まるため、セタン指数は40程度までしか向上しない。従って、セタン指数50以上に改質するためには、更に水素化分解処理を施し、2環ナフテンを開環し、アルキル基を有する1環ナフテンへの転換を行うことが必要であり、また更にパラフィンへの転換を行うことが好ましい。
【0006】
本発明は、
[1]芳香族成分及び/又は芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を50質量%以上含有する、セタン指数が50未満の軽油留分を水素化分解して、前記軽油留分中の2環ナフテンを少なくとも1環ナフテンに転換させて、セタン指数50以上の軽油基材を製造する、軽油基材の製造方法、
[2]前記1環ナフテンをパラフィンに転換する工程を含む、上記[1]記載の軽油基材の製造方法、
[3]前記軽油留分が、オイルサンドビチューメンから製造された合成原油を蒸留して得られる軽油留分である、上記[1]又は[2]に記載の軽油基材の製造方法、
[4]前記軽油留分が、炭化水素を熱分解装置で処理して得られる軽油留分である、上記[1]又は[2]に記載の軽油基材の製造方法、
[5]前記軽油留分の水素化分解処理に用いられる触媒が、長周期型周期律表の第6族及び第8〜10族に属する金属から選ばれる少なくとも1種、及び結晶アルミノシリケートを含有する水素化分解触媒である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の軽油基材の製造方法、
【0007】
[6]前記水素化分解触媒中における結晶アルミノシリケートの含有量が10〜70質量%である、上記[5]記載の軽油基材の製造方法、
[7]前記結晶アルミノシリケートが超安定化Y型ゼオライトである、上記[5]又は[6]に記載の軽油基材の製造方法、
[8]軽油基材中におけるパラフィンの1環ナフテンに対する割合(パラフィン/1環ナフテン)を質量比で1.0以下とする、上記[2]〜[7]のいずれかに記載の軽油基材の製造方法、
[9]前記軽油留分を、水素化脱硫処理した後に前記水素化分解を行う、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の軽油基材の製造方法、及び
[10]芳香族成分及び/又は芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を50質量%以上含有する、セタン指数が50未満の軽油留分から、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法により得られる、セタン指数50以上の軽油基材、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、これまで軽油基材としての活用が困難だったオイルサンドビチューメン等の非在来型原油から製造した合成原油の軽油留分等のセタン指数50未満の低品位の軽油留分から、セタン指数50以上の軽油基材を製造する方法を提供することができる。
また、本発明の製造方法により、直留軽油等と混合することなく軽油基材として使用することができる、セタン指数50以上の軽油基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[軽油基材の製造方法]
本発明の軽油基材の製造方法は、芳香族成分及び/又は芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を50質量%以上含有する、セタン指数が50未満の軽油留分を水素化分解して、前記軽油留分中の2環ナフテンを少なくとも1環ナフテンに転換させて、セタン指数50以上の軽油基材を製造するものである。
【0010】
(セタン指数50未満の軽油留分)
本発明の製造方法においては、芳香族成分及び/又は芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を50質量%以上含有する、セタン指数が50未満の軽油留分を原料として用いる。
芳香族成分及び芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分の芳香族成分としては、芳香族環を1以上有する芳香族化合物、例えば、アルキルベンゼン、2環あるいは3環の芳香族化合物が挙げられる。
【0011】
前記軽油留分は、上記芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を含有するが、上記ものとしては、1環、2環、3環等の芳香族分のそれぞれの環数に相当する環状ナフテン、または、2環芳香族の2環のうち1の芳香族環が核水添されたテトラリンが挙げられ、そのうち、2環ナフテンを含有するものが本発明の効果が有効に得られる点で好ましい。上記成分は、芳香族成分の少なくとも一部を核水添して得られるが、最終的に原料としての軽油留分が、そのような成分及び芳香族成分を50質量%以上含むように核水添して得られたものであればよい。この観点及び本発明の効果の点から、上記核水添は、好ましくは芳香族成分の30〜100容量%、より好ましくは50〜100容量%について行う。水添処理方法としては、軽油留分の水添に用いられる通常の水素化処理をいずれも採用することができる。
【0012】
原料軽油留分には、上述のように、芳香族成分及び/又は芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を50質量%以上含むが、本発明を効果的に発揮するためには、60質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することが更に好ましい。その上限値は特に制限されない。上記の成分のうち、2環ナフテンは同様の観点から、軽油留分中に20〜60質量%含有されることが好ましく、40〜60質量%含有されることがより好ましい。また、上記2環ナフテンは上記飽和分中に、50〜80質量%含有されることが好ましく、60〜80質量%含有されることがより好ましい。
【0013】
上記軽油留分は、そのセタン指数が50未満であるが、本発明は、そのようなセタン指数の軽油留分について、本発明の効果が十分に得られるものであり、この点で、セタン指数は、20〜50であるものが好ましく、35〜50であるものがより好ましい。
上述のような芳香族成分及び/又は芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を50質量%以上含有する、セタン指数が50未満の軽油留分以外の軽油留分については、これに本発明の製造方法を適用することは任意であるが、そのような軽油留分は、本来比較的パラフィン分や1環芳香族分が多いものであり、本発明の製造方法を適用することで、逆にそれらの分解が進み、本発明の製造方法が目的とする軽油基材の生成が少なくなることがある。
【0014】
本発明において、「軽油留分」とは、90%留出温度が267℃を超え400℃以下の留分をいい、本発明において好ましく使用しうる軽油留分としては、例えば、カナダ産オイルサンドビチューメンから製造された合成原油を蒸留して得られる軽油留分;炭化水素を熱分解装置(コーカー)で処理して得られる軽油留分(所謂、コーカー軽油)、特に、オリノコ原油等の超重質原油等の炭化水素を熱分解装置にかけ熱分解して得られる軽油留分等が挙げられるが、本発明の課題、効果の点から、本発明の製造方法は、カナダ産オイルサンドビチューメン等の非在来型原油から製造された合成原油の軽油留分により好ましく適用できる。
【0015】
軽油留分は、本発明の製造方法の原料として、前述の性状、組成を有するものであれば、その他の性状、組成については特に制限はないが、一般に以下のような性状であることが好ましい。以下、括弧内の値は好ましい範囲である。
流動点:−30〜−1℃(−20〜−10℃)
密度:0.86〜0.90g/cc(0.87〜0.89g/cc)
硫黄分:50〜1,500質量ppm(100〜1,000質量ppm)
蒸留性状 10%留出温度:250〜300℃(270〜300℃)
50%留出温度:270〜330℃(300〜330℃)
90%留出温度:300〜400℃(330〜380℃)
飽和分量:40〜70容量%(50〜70容量%)
芳香族分量:30〜60容量%(30〜50容量%)
1環芳香族分量:20〜40容量%(20〜30容量%)
多環芳香族分量:3〜20容量%(5〜15容量%)
【0016】
(セタン指数50以上の軽油基材の製造)
本発明の製造方法においては、前記原料軽油留分中の2環ナフテンを水素化分解して少なくとも1環ナフテンに転換させて、セタン指数50以上の軽油基材を製造する。本発明において、「少なくとも1環ナフテンに転換させ」とは、少なくとも2環ナフテンを1環ナフテンに転換する工程を有すればよいことを意味する。従って、更に、1環ナフテンをパラフィンに転換する工程を有する場合も、有しない場合も包含し、1環ナフテンからパラフィンへの1部転換も含むことができる。
すなわち、上記原料軽油留分は、既に水素化処理により充分に水添されたものであり、芳香族分の核水添はほぼ平衡に達しており、これ以上の核水添は困難であるとともに不経済であるにもかかわらず、そのセタン指数は、未だ50未満であり、軽油基材として活用するには十分ではない。本発明は、このような原料軽油留分中の2環ナフテンを更に水素化して開環させ、1環ナフテンに転換し、更に好ましくは、パラフィンに開環することで、セタン指数50以上の軽油基材を得ることができたものである。
【0017】
前記軽油留分中の2環ナフテンの開環は、例えば、以下のように行われ、具体的には、水素化分解処理により行われる。
【化1】

【0018】
上記開環処理に用いられる触媒としては、反応性及び本発明の効果を有効に発揮させる点から、長周期型周期律表の第6族及び第8〜10族に属する金属から選ばれる少なくとも1種を耐火物性担体に担持した触媒が好ましい。長周期型周期律表の第6族及び第8〜10族に属する金属のうち、本発明においては、上記観点から、モリブデン、ニッケル、コバルト、タングステン等の金属が好ましく、より好ましくは、モリブデン、ニッケル、コバルトである。これらは、1種でも使用できるが、2種以上組み合わせて使用することが反応性及び本発明の効果を有効に発揮させる点で好ましい。
【0019】
また、耐火物性担体としては、アルミナ、シリカアルミナ、ボリアアルミナ、シリカ、結晶性アルミノシリケート等を含有するものを用いることができ、2環ナフテンの開環反応を充分に進める点から、結晶性アルミノシリケート、シリカアルミナ、シリカ、が好ましく、より好ましくは結晶性アルミノシリケートである。これらは、1種でも使用できるが、2種以上組み合わせて使用することもできる。
本発明においては、上記触媒として、長周期型周期律表の第6族及び第8〜10族に属する金属から選ばれる少なくとも1種を含有し、かつ結晶アルミノシリケートを含有する水素化分解触媒が好ましく使用できる。
【0020】
上記長周期型周期律表の第6族及び第8〜10族に属する金属は、2環ナフテンの開環反応を充分に進める点から、好ましくは触媒中に2〜25質量%含有され、より好ましくは5〜20質量%含有され、更に好ましくは10〜15質量%含有される。
また、結晶性アルミノシリケートを使用する場合は、その含有量は、2環ナフテンの開環反応を充分に進める点から、触媒中、10〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜70質量%であり、更に好ましくは40〜70質量%である。
【0021】
結晶性アルミノシリケートとしては、Y型ゼオライト、β型ゼオライト、モルデナイトゼオライト等を用いることができるが、2環ナフテンの開環反応を充分に進める点から、超安定化Y型ゼオライトを用いることが好ましい。
上記結晶性アルミノシリケートは、本発明を効果的に発揮させる点から、そのシリカ/アルミナ(SiO2/Al23)質量比が、10〜70であることが好ましく、20〜55であることがより好ましい。また、その比表面積、細孔容積が、それぞれ、700〜900m2/g、0.2〜0.7cc/gであることが好ましく、それぞれ800〜850m2/g、0.3〜0.6cc/gであることがより好ましい。上記比表面積はBET法により、細孔容積は窒素吸着法により測定することができる。
【0022】
本発明においては、上記触媒の存在下、セタン指数が50未満の原料軽油留分から、水素化分解処理により、前記軽油留分中の2環ナフテンを開環させ、少なくとも1環ナフテンに転換させて、セタン指数50以上の軽油基材を製造する。その際の反応条件は、2環ナフテンの開環反応を充分に進める点から、以下のとおりである。
前記水素化分解触媒は原料油100ccに対し、好ましくは50〜500cc、より好ましくは63〜200cc使用する。また、水素分圧は3〜10MPaであることが好ましく、5〜7MPaであることがより好ましい。また、水素モル比としては、200〜2000Nm3/klであることが好ましく、1000〜2000Nm3/klであることがより好ましい。更に、反応温度としては、300〜400℃であることが好ましく、330〜380℃であることがより好ましい。また、液空間速度(LHSV)としては、0.2〜2.0h-1であることが好ましく、0.5〜1.6h-1であることがより好ましい。
【0023】
本発明においては、上記反応において得られた1環ナフテン分を、パラフィンに転換することで、更にセタン指数を向上することができる。しかしながら、得られる軽油基材の流動点を考慮すると、低温流動性の観点から、上記反応を適度に制御することが好ましい。得られるパラフィンとしては、n−パラフィン、イソパラフィンのいずれであってもよいが、セタン指数向上の点から、イソパラフィンであることが好ましい。
1環ナフテンをパラフィンに転換する工程は、1工程で行っても良いが、2以上の工程で行うこともできる。例えば、触媒充填層を2つのゾーンにわけて、各ゾーンの反応条件を変えることで、一方のゾーン(第1触媒層)では主に、2環ナフテンを1環ナフテンに、他方のゾーン(第2触媒層)では主に、1環ナフテンをパラフィンに転換させて行うことができる。
この場合、各々の工程で用いる触媒としては前述した水素化分解触媒を用いることができる。
【0024】
原料油feed上流側のゾーンを第1触媒層とし、その水素分圧や温度を、下流側のゾーン(第2触媒層)より低くすることで前記目的を達成できる方向に反応が進む。例えば、第1触媒層は、反応温度を350〜360℃、圧力5〜7MPa、LHSVは1〜5h-1、第2触媒層は、反応温度:330〜340℃(前段より低温に設定する)、圧力:5〜7MPa、LHSV:1〜5h-1(前段より接触時間が長くなるように設定する)
本発明の軽油基材中における2環ナフテン、1環ナフテン及びパラフィンの含有量は、本発明の課題及び効果の点から、それぞれ10〜40質量%、20〜50質量%、10〜30質量%であることが好ましく、それぞれ10〜30質量%、30〜40質量%、20〜30質量%であることがより好ましい。
【0025】
上記の点から、本発明においては、得られる軽油基材中における、1環ナフテンとパラフィンの合計含有量は、50〜70質量%であることが好ましく、55〜65質量%であることがより好ましい。
また、パラフィンの1環ナフテンに対する割合(パラフィン/1環ナフテン)は、質量比で1.0以下であることが好ましく、0.6〜0.9であることがより好ましく、0.6〜0.8であることが更に好ましい。1環ナフテンをパラフィンに転換する際の処理条件については、上記2環ナフテンの開環処理の条件の範囲内である。
【0026】
上記のような適度な反応の制御は、前記触媒あるいは反応条件のうち、温度、水素分圧、水素モル比、LHSV等の条件を調整することで行うことができ、例えば、水素化分解後の油中にパラフィンが30質量%を超えており、これをいくらか低減したい場合は、温度、水素分圧等の条件を反応が進行する範囲で低く設定することで、水素化分解後の油中のパラフィン量を低減する方向で調整できる。水素化分解後の油中のパラフィン量を増大したい場合は、その逆の方法で行うことができる。
本発明においては、以上のような製造方法により、セタン指数が50以上の軽油基材を得ることができる。本発明の製造方法によれば、更にセタン指数が52以上の軽油基材、更には54以上の軽油基材の製造も可能であるが、その上限は、低温流動性を維持させる点から60程度であることが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法は、前記原料軽油留分を水素化分解して、軽油留分中の2環ナフテンを少なくとも1環ナフテンに転換させて、軽油基材を得るものであるが、上記水素化分解の前に、水素化脱硫処理を行うことが、2環ナフテン濃度を高くできることの点から好ましい。
水素化脱硫処理は、水素の存在下、水素化脱硫触媒を用い、例えば、水素分圧2〜13MPa、水素モル比100〜4000Nm3/kl、反応温度180〜480℃、液空間速度(LHSV)0.1〜3h-1等の条件で行なうことが好ましく、水素分圧3〜8Mpa、水素モル比100〜3000Nm3/kl、反応温度300〜380℃、LHSV0.3〜2h-1で行うことがより好ましい。
【0028】
上記水素化脱硫処理に用いられる触媒としては、一般的な水素化脱硫用触媒を適用することができる。活性金属としては、通常、周期律表第6A族および第8族金属が好ましく用いられ、例えば、Co−Mo、Ni−Mo、Co−W、Ni−Wなどが挙げられる。担体としてはアルミナを主成分とした多孔質無機酸化物等が用いられる。その使用量は、原料油100ccに対し、50〜500ccが好ましい。
上記水素化脱硫処理後の軽油基材の硫黄分は、10質量ppm以下であること好ましい。
【0029】
[軽油基材]
本発明の軽油基材は、上記製造方法、すなわち、芳香族成分及び/又は芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を50質量%以上含有する、セタン指数が50未満の軽油留分を水素化分解して、前記軽油留分中の2環ナフテンを少なくとも1環ナフテンに転換させて得られるものである。
本発明の軽油基材は、そのセタン指数が50以上であり、好ましくは52以上、より好ましくは54以上である。また、その各組成は前述のとおりである。
【0030】
本発明の軽油基材は、一般に軽油基材として使用しうるものであれば、その他の各性状には特に制限はないが、一般に以下のような性状であることが好ましい。
すなわち、その流動点は、低温流動性の点から、−20〜−7.5℃であることが好ましく、−20〜−10℃であることがより好ましい。その他の性状については以下のとおりである。以下、括弧内の値は好ましい範囲である。
密度:0.85〜0.89g/cc(0.86〜0.88g/cc)
硫黄分:0〜10質量ppm(0〜9質量ppm)
蒸留性状 10%留出温度:250〜300℃(270〜300℃)
50%留出温度:270〜330℃(280〜320℃)
90%留出温度:300〜360℃(330〜350℃)
飽和分量:60〜90容量%(75〜90容量%)
芳香族分量:10〜40容量%(10〜25容量%)
1環芳香族分量:5〜30容量%(5〜15容量%)
多環芳香族分量:5〜10容量%(5〜8容量%)
【0031】
本発明の軽油基材は、これに必要に応じ、軽油に通常用いられる潤滑性向上剤、セタン価向上剤、清浄剤等を配合して、軽油組成物として使用することができる。また、本発明の軽油基材は、直留軽油等と混合することなく軽油として用いることができるものであるが、必要に応じ、本発明の軽油基材以外のその他の軽油留分、灯油留分、合成軽油及び合成灯油を配合して使用することもできる。本発明の軽油基材は、軽油組成物に60容量%以上含有され、愛用されることが好ましく、より好ましくは70容量%以上であり、更に好ましくは80容量%以上である。
【実施例】
【0032】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、軽油留分及び軽油基材の性状、組成及び性能は次の方法に従って求めた。
【0033】
(1)密度
JIS K 2249に準拠して測定した。
(2)硫黄分
JIS K 2541−2に準拠して測定した。
(3)蒸留性状
JIS K 2254により測定した。
【0034】
(4)セタン指数
JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法ならびにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」により測定した。
(5)流動点
JIS K 2269に準じて、測定した。尚、JISでは2.5℃毎に測定するが試験精度向上のため1℃毎に測定した。
【0035】
(6)各成分組成
社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速クロマトグラフ法」による測定で得た。特に、飽和分組成は、GERSTEL社の型式ZOEX−2006KTであるGC×GC装置を用いて、第1カラム:HP−5MS(30m×0.25mm,膜厚:0.25μm)、第2カラム:DB−17(2.0m×0.1mm,膜厚:0.1μm)、オーブン温度:50℃(0分)→(昇温:3℃/分)→280℃(10分保持)、注入口および検出器温度:280℃、注入量:0.1μL、MSにより定性を行い、FIDで定量を行った。
【0036】
[触媒A(水素化脱硫触媒)の調製]
水素化脱硫触媒は、以下のように、アルミナ担体に、ニッケル、モリブデン、リンを含む金属溶液を含浸担持して調製した。
塩基性炭酸ニッケル(FLUKA:NiO2;62.3質量%)95g、三酸化モリブデン323g、正リン酸(純度80質量%)39gをイオン交換水1000ccに加えて、攪拌しながら80℃で溶解させ、80℃で濃縮後、室温に冷却、純水にて500ccに定容し、ニッケルモリブデンリン含浸液(S1)を調整した。
吸水率0.8cc/gのγ-アルミナ担体(A1)100gに、その吸水量に見合うようにヒドロキシカルボキシラトチタンアンモニウム溶液(T1)60ccを純水で希釈し、常圧にて含浸し、70℃で1時間真空にて乾燥後、120℃、3時間乾燥機にて乾燥させ、500℃で4時間焼成し担体(A2)を得た。
ニッケルモリブデンリン含浸液(S1)を50cc採取し、トリエチレングリコール6gを添加し、吸水率0.75cc/gの担体(A2)100gに、その吸水率に見合うように純水で容積を調整した溶液を、常圧下で含浸し、120℃で16時間乾燥させ、触媒A(水素化脱硫触媒)を調整した。
【0037】
[触媒B(水素化分解触媒)の調製]
ナフテン開環触媒の調製は、以下のように、ニッケル・モリブデンを含む金属溶液をアルミナ担体に含浸担持して調製した。
合成Na−Yゼオライト(Na20含量:13.3質量%、SiO2/Al23のモル比:5.0)をアンモニウムイオン交換し、NH4−YゼオライトNa2O含量:1.3質量%)を得た。これを580℃でスチーミング処理してスチーミングゼオライトを得た。10kgのスチーミングゼオライトを純水115リットルに懸濁させた後、この懸濁液を75℃に昇温し30分間攪拌した。次いで、この懸濁液に10質量%硫酸溶液63.7kgを35分間で添加し、さらに濃度0.57mol/lの硫酸第二鉄溶液11.5kgを10分間で添加し、添加後さらに30分間攪拌した後、濾過、洗浄し、固形分濃度30.5質量%の鉄含有結晶性アルミノシリケートスラリーIを得た。この鉄含有結晶性アルミノシリケートスラリーIの一部をとり乾燥した後、細孔構造を測定した。細孔構造としては、600Å以下の細孔容積が0.5393cc/g、600Å以下の細孔容積に占める50〜300Åの細孔容積の割合が22.8%、さらに、100〜300Åの細孔容積の割合が15.6%であった。
【0038】
次に、アルミナスラリーの調整を行った。内容積200リットルのスチームジャケット付ステンレス容器に、アルミン酸ナトリウム溶液(Al23換算濃度:5.0質量%)80kgおよび50質量%のグルコン酸溶液240gを入れ、60℃に加熱した。次いで硫酸アルミニウム溶液(Al23換算濃度:2.5質量%)88kgを別容器に準備し、15分間でpH7.2になるようにこの希釈硫酸アルミニウム溶液を添加し、水酸化アルミニウムスラリー(調合スラリーI)を得た。
この調合スラリーIをさらに60℃に保ったまま、60分間熟成した。次いで、調合スラリー全量を平板フィルターにより脱水し、60℃の0.3質量%アンモニア水600リットルで洗浄し、アルミナケーキとした。このアルミナケーキの一部を純水と15質量%のアンモニア水を用い、アルミナ濃度12.0質量%、pH 0.5のスラリーを得た。このスラリーを還流器付のステンレス製熟成タンクに入れ攪拌しながら95℃で8時間熟成した。次いで、この熟成スラリーに純水を加え、アルミナ濃度9.0質量%に希釈した後、攪拌機付オートクレーブに移し、145℃で5時間熟成した。さらにAl23換算濃度で20質量%となるように加熱濃縮すると同時に脱アンモニアし、アルミナスラリーAを得た。
【0039】
触媒の調整は、3200gの鉄含有結晶性アルミノシリケートスラリーI(30.5質量%濃度)と2625gのアルミナスラリーA(20質量%濃度)をニーダーに加え、加熱、攪拌しながら押し出し成形可能な濃度に濃縮した後、1/16インチサイズの三葉型ペレット状に押し出し成形した。次いで、110℃で16時間乾燥した後、550℃で3時間焼成し、鉄含有結晶性アルミノシリケート/アルミナ(固形分換算質量比)で50/50の担体A3を得た。
次に、三酸化モリブデンと炭酸ニッケルを純水に懸濁したものを90℃に加熱し、次いでりんご酸を加え溶解させた。この溶解液を担体A3にそれぞれ触媒全体に対してMoO3として10.0質量%、NiOとして4.25質量%になるように含浸し、乾燥させ、550℃で3時間焼成し、触媒B(水素化分解触媒)を得た。得られた触媒B中における、モリブデン含有量は6.7質量%、ニッケル含有量は3.3質量%、更に結晶性アルミノシリケート含有量は50質量%であった。また、得られた触媒Bの比表面積は455m2/g、細孔容は0.62cc/g、細孔径1000Å以上の細孔容積は0.13cc/gであった。
上記比表面積はBET法、細孔容積、細孔分布は水銀圧入法で測定したものである。
【0040】
比較例1
触媒Aを原料油100ccに対して83ccの量で用いて、その存在下、下記反応条件で0.83時間反応させ、下記表1に記載の組成、性状のオイルサンドビチューメンから製造した合成原油の軽油留分を硫黄分10質量ppm以下に脱硫した。得られた軽油基材について各性状、組成を表1に示す。
水素分圧:7MPa
水素モル比:2000Nm3/kl
反応温度:345℃
LHSV:1.2h-1
【0041】
実施例1
比較例1で得た軽油基材を、100ccに対して83ccの触媒Bの存在下、下記反応条件で0.83時間反応させ、セタン指数を向上させた軽油基材を得た。得られた軽油基材について各性状、組成を表1に示す。
水素分圧:7MPa
水素モル比:2000Nm3/kl
反応温度:355℃
LHSV:1.2h-1
【0042】
実施例2
比較例1で得た軽油基材100ccに対して83ccの触媒Bの存在下、下記反応条件で0.83時間反応させ、セタン指数を向上させた軽油基材を得た。得られた軽油基材について各性状、組成を表1に示す。
水素分圧:5MPa
水素モル比:2000Nm3/kl
反応温度:355℃
LHSV:1.2h-1
【0043】
【表1】

【0044】
表1から、比較例1の水素化処理では若干の2環芳香族、3環芳香族への核水添が起こるだけでセタン指数はほとんど向上しない。一方、実施例1ではナフテン開環が起こり、飽和分が増加した。結果としてセタン指数は56まで向上した。また、流動点は−13℃という高い低温流動性を維持した。また、実施例2では水素分圧を既存の軽油超深度脱硫装置に近いものとしたが、それでも触媒の性能は充分に発揮され、セタン指数は54まで向上した。また、実施例1と同じく、流動点は−15℃という高い低温流動性を維持した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の製造方法によれば、これまで軽油基材としての活用が困難だったオイルサンドビチューメン等の非在来型原油から製造した合成原油の軽油留分のセタン指数を50以上とすることができることから、得られた軽油留分は、軽油基材として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族成分及び/又は芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を50質量%以上含有する、セタン指数が50未満の軽油留分を水素化分解して、前記軽油留分中の2環ナフテンを少なくとも1環ナフテンに転換させて、セタン指数50以上の軽油基材を製造する、軽油基材の製造方法。
【請求項2】
前記1環ナフテンをパラフィンに転換する工程を含む、請求項1記載の軽油基材の製造方法。
【請求項3】
前記軽油留分が、オイルサンドビチューメンから製造された合成原油を蒸留して得られる軽油留分である、請求項1又は2に記載の軽油基材の製造方法。
【請求項4】
前記軽油留分が、炭化水素を熱分解装置で処理して得られる軽油留分である、請求項1又は2に記載の軽油基材の製造方法。
【請求項5】
前記軽油留分の水素化分解処理に用いられる触媒が、長周期型周期律表の第6族及び第8〜10族に属する金属から選ばれる少なくとも1種、及び結晶アルミノシリケートを含有する水素化分解触媒である、請求項1〜4のいずれかに記載の軽油基材の製造方法。
【請求項6】
前記水素化分解触媒中における結晶アルミノシリケートの含有量が10〜70質量%である、請求項5に記載の軽油基材の製造方法。
【請求項7】
前記結晶アルミノシリケートが超安定化Y型ゼオライトである、請求項5または6に記載の軽油基材の製造方法。
【請求項8】
軽油基材中におけるパラフィンの1環ナフテンに対する割合(パラフィン/1環ナフテン)を質量比で1.0以下とする、請求項2〜7のいずれかに記載の軽油基材の製造方法。
【請求項9】
前記軽油留分を、水素化脱硫処理した後に前記水素化分解を行う、請求項1〜8のいずれかに記載の軽油基材の製造方法。
【請求項10】
芳香族成分及び/又は芳香族成分の少なくとも一部が核水添されてなる成分を50質量%以上含有する、セタン指数が50未満の軽油留分から、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られる、セタン指数50以上の軽油基材。

【公開番号】特開2010−215723(P2010−215723A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61788(P2009−61788)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】