説明

軽油組成物及びその製造方法

【課題】硫黄分、芳香族分が十分に低く、かつ、低温特性及び燃焼性に優れた環境対応軽油、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による環境対応軽油は、密度が0.78g/cm3以上、硫黄分が1質量ppm以下であり、かつ、下記の式(1)で表される数Aが16.0以上であり、及び式(2)で表される数Bが19.5以下であることを特徴とする。
A=(Nc)×(Np)0.02・・・・・・・・(1)
B=(Nc)×(Np)0.05・・・・・・・・(2)
式(1)及び(2)において、Ncは平均炭素数、Npはノルマルパラフィン含有量(質量%)を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環境への影響を低減した環境対応軽油及びその製造方法に関し、詳しくは硫黄分、芳香族分を低減することで環境問題に配慮しつつかつ十分な低温特性及び燃焼性、とりわけ着火性を確保した軽油及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の高まりからディ−ゼル自動車技術に種々の工夫が加えられ、燃料として用いられる軽油中の硫黄分、芳香族分の低減が求められている。石油系の軽油を既存の水素化精製技術により、硫黄分を1質量ppm以下、かつ芳香族分を5質量%以下にすることは困難である。
【0003】
一方、フィッシャー・トロプシュ(Fischer-Tropsch)法により、天然ガス等の改質で得られる合成ガス(水素と一酸化炭素よりなる)からノルマルパラフィンを主成分とし、硫黄と芳香族をほとんど含まない炭化水素を合成することができる。この合成された炭化水素を原料として合成軽油を製造することが近年注目されている(例えば、特許文献1〜7参照。)。しかし、このような合成軽油は、硫黄分、芳香族分が十分に低いものではあるが、石油系の軽油と比較すると、発熱量が低く、また低温特性と燃焼性、とりわけ着火性を同時に満たすことは困難であった。
【特許文献1】特表平11−513729号公報
【特許文献2】特表平11−513730号公報
【特許文献3】特表2001−511207号公報
【特許文献4】特表2001−522382号公報
【特許文献5】特表2002−507635号公報
【特許文献6】特表2002−526636号公報
【特許文献7】特表2002−526637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような課題を解決するもので、硫黄分、芳香族分が十分に低く、かつ、実用上十分な低温特性及び燃焼性、とりわけ着火性を確保した環境対応軽油及びその製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ノルマルパラフィンを原料にして特定の触媒を用い水素化分解及び異性化を行って得られた生成油の特定の留分を用いて軽油を製造したところ、平均炭素数Ncとノルマルパラフィン含有量Np(質量%)から導かれる数A(=(Nc)×(Np)0.02)が燃焼性と、また数B(=(Nc)×(Np)0.05)が低温流動性と良い相関を示すことを見出し、数A及びBを特定の範囲とすることで低温特性と燃焼性、とりわけ着火性を同時に良好にできることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、
密度が0.78g/cm3以上、硫黄分が1質量ppm以下であり、かつ、下記の式(1)で表される数Aが16.0以上であり、及び式(2)で表される数Bが19.5以下である環境対応軽油である。
A=(Nc)×(Np)0.02・・・・・・・・(1)
B=(Nc)×(Np)0.05・・・・・・・・(2)
式(1)及び(2)において、Ncは平均炭素数、Npはノルマルパラフィン含有量(質量%)を示す。
【0007】
また、本発明による環境対応軽油は、10%留出温度が200℃以上、90%留出温度が340℃以下であり、流動点が−10℃以下であり、炭素数10〜20のノルマルパラフィン含有量が1.0〜20質量%以下、かつ炭素数21以上のノルマルパラフィン含有量が2%以下であることが好ましい。
【0008】
さらに、本発明による環境対応軽油は、曇り点が−10℃以下、かつ芳香族分が5質量%以下であることが好ましい。
【0009】
また、本発明による環境対応軽油の製造方法は、ノルマルパラフィンを主成分とする原料を、シリカアルミナ、シリカ、又はそれらの両者を含む担体に水素化活性金属を担持した触媒を用いて、水素化分解及び異性化を行い生成油を得る工程と、この生成油を分留して10%留出温度が200℃以上、90%留出温度が340℃以下の軽油留分を得る工程を含む環境対応軽油の製造方法であり、特には、前記ノルマルパラフィンを主成分とする原料がFischer-Tropsch法により合成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の環境対応軽油は、特定の蒸留特性を有し、かつ、硫黄分、芳香族分が極めて低いことから、更に、平均炭素数及びノルマルパラフィン含有量から決定される構造パラメータの範囲が特定の範囲に設定したことから、燃焼性とりわけ着火性に優れ、かつ十分な低温特性を有する実用性能に優れ、かつ環境保全に優れるという格別な効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔環境対応軽油〕
本発明による環境対応軽油は、密度(15℃)が0.78g/cm3以上、好ましくは0.785〜0.815g/cm3、硫黄分が1質量ppm以下である。芳香族分は、エンジンから排出されるPM増加防止の点から、5質量%以下が好ましく、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0012】
本発明による環境対応軽油の低温特性は、流動点は−10℃以下が好ましく、特には−25℃〜−50℃が好ましい。また、曇り点は−10℃以下が好ましく、特には−15〜−35℃、目詰まり点は−5℃以下が好ましく、特には−15〜−30℃が好ましい。
【0013】
本発明による環境対応軽油は、平均炭素数(Nc)とノルマルパラフィン含有量(Np)(質量%)とから下記の式(1)によって算出される数Aが16.0以上、及び式(2)によって算出される数Bが19.5以下である。
A=(Nc)×(Np)0.02・・・・・・・・(1)
B=(Nc)×(Np)0.05・・・・・・・・(2)
Aは、燃焼性の観点から、好ましくは17.0以上、18.5以下であり、また、Bは、低温流動性の観点から、好ましくは17.0以上、19.0以下である。
【0014】
本発明による環境対応軽油の蒸留性状は、10%留出温度は、排出ガスに含まれる炭化水素が増加する懸念があること、及び高温における始動性の観点から200℃以上が好ましい。また、10%留出温度が高すぎると低温始動性に不具合を生じる可能性があるため250〜290℃がさらに好ましい。90%留出温度はエンジンから排出される粒子状物質(PM)の増加を防止する観点から340℃以下が好ましく、高温における始動性、アイドリング時のエンジン回転の安定性確保、及び燃料消費率低減の点から300〜335℃がより好ましい。
また、本発明の環境対応軽油の蒸留性状においては、初留点(IBP)は260〜280℃、10%留出温度は270〜290℃、50%留出温度は280〜310℃、90%留出温度は315〜330℃、終点(EP)は320〜350℃であることが特に好ましい。
【0015】
ノルマルパラフィンが軽油中に存在すると、燃焼性、とりわけ着火性が良好になるため好ましい。しかし、過度に存在すると、低温流動性が損なわれるため、ノルマルパラフィンの含有量は、適度な範囲内にあることが好ましい。また、低温流動性に対する効果は、ノルマルパラフィンの炭素数によって大きく異なる。このため、本発明の環境対応軽油は、炭素数10〜20のノルマルパラフィン含有量(Np(C10−20))が1.0〜20質量%であることが好ましく、2.0〜12質量%がより好ましい。また炭素数21以上のノルマルパラフィン含有量(Np(C21以上))は、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0016】
本発明の環境対応軽油の30℃における動粘度は、2.7〜6.0mm2/sであることが好ましい。30℃における動粘度が2.7mm2/s未満のときは、比較的高い温度下で使用した場合に、始動不良を起こしたり、アイドリング時のエンジン回転が不安定となる可能性がある。このため、30℃における動粘度は3.5mm2/s以上であることがより好ましい。また、30℃における動粘度が6.0mm2/sより大きくなると、排出ガスの黒煙が増加するため5.5mm2/s以下であることがより好ましい。
【0017】
〔ノルマルパラフィン原料〕
本発明の製造方法で用いるノルマルパラフィンを主成分とする原料(以下、ノルマルパラフィン原料)は、ノルマルパラフィンの軽質分は水素化分解及び異性化の反応性が低いので、必要に応じてあらかじめ蒸留等により原料油の軽質留分をカットしたものが好ましく、具体的には初留点としては300℃以上、特には310℃以上、10%留出温度としては350℃以上、特には360℃以上の原料を使用することが好ましい。また、このノルマルパラフィン原料の重質分は、分解により軽油留分のノルマルパラフィンに転換されるが、反応率、軽油収率を高くするには同じく蒸留などにより重質過ぎる留分をカットすることが好ましく、終点としては600℃以下、特には590℃以下とすることが好ましく、90%留出温度としては560℃以下、特には550℃以下とすることが好ましい。これらにより水素化分解及び異性化の反応率、軽油収率を高くすることができる。
【0018】
ノルマルパラフィン原料中のノルマルパラフィン含有量は85質量%以上、特には95質量%以上が好ましい。不純物含有量としては、硫黄分500ppm以下、特には50ppm以下、また、窒素分100ppm以下、特には10ppm以下が好ましい。
【0019】
ノルマルパラフィン原料は、特にその種類を限定するものではない。例えば、石油精製工程や潤滑油製造工程の1つである溶剤脱ろう工程から得られるスラックワックスや、Fischer-Tropsch法により合成された合成ワックス(FT合成ワックス)などを用いることができる。また、ノルマルパラフィン類似の原料として、長鎖のα−オレフィンを用いることもできる。ワックスには様々な種類のものがあるが、本発明のノルマルパラフィン原料として単独で用いても良く、2種以上混合して、例えばスラックワックスとFT合成ワックスとを混合して用いも良い。特にはFT合成ワックスを単独で用いることが好ましい。
【0020】
〔触媒〕
本発明の環境対応軽油の製造方法で用いる触媒は、シリカアルミナ、及びシリカのいずれかを又は双方を含む担体に水素化活性金属を担持したものである。例えば、特表2002−523231号公報あるいは特許第2901047号公報に開示されている触媒を、好ましく用いことができる。
【0021】
本発明の製造方法において、好ましく用いることができる担体は、シリカアルミナ、シリカのいずれか又は双方を含む無機多孔質酸化物からなる担体である。シリカアルミナ、シリカのいずれか又は双方を、アルミナをバインダーとして担体に成形したものが好ましい。シリカアルミナは、非晶質又は結晶質のものを用いることができるが、非晶質のものを用いることが好ましい。非晶質シリカアルミナのシリカ/アルミナモル比の範囲は3〜8が好ましい。担体にはアルミニウム、ケイ素の酸化物以外は含まれていない方が好ましいが、マグネシア、ジルコニア、ボリア、カルシア等を含ませることもできる。
【0022】
担持される水素化活性金属に特に制限はないが、周期律表の第6族、第9族、及び第10族から選ばれる1種又は2種以上の金属成分を含むことが好ましい。第6族、第9族、及び第10族から選ばれる金属としては、モリブデン、タングステン、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、白金、パラジウムが挙げられ、特にモリブデン、タングステン、コバルト、ニッケルなどの非貴金属が水素化活性成分として好ましく用いられる。水素化活性金属の担持量は、金属元素の合計量が0.05〜35質量%、特には0.1〜30質量%となるように添加、担持することが好ましい。
【0023】
〔水素化分解及び異性化〕
本発明の製造方法で用いる水素化分解及び異性化は、前記の触媒を用いて、反応温度が300〜400℃、特には320〜350℃、水素圧力が1〜20MPa、特には3〜9MPa、水素/オイル比が100〜2000NL/L、特には300〜1500NL/L、液空間速度(LHSV)が0.5〜5h-1の反応条件で行うことが好ましい。
【0024】
ノルマルパラフィン原料中の360℃以上の成分うち、360℃未満の成分となった割合を分解率として定義すると、軽油留分の異性化率と収率を上げるためには、分解率は50〜85質量%が好ましい。85質量%を超える分解率では、軽油留分が二次分解を起こして軽油留分の収率が低下するという問題がある。
水素化分解及び異性化の上記反応条件で、重質なノルマルパラフィンは、異性化されてイソパラフィン(分岐飽和炭化水素)を形成し、次いでより短い鎖長のパラフィンに分解される。この反応は、水素雰囲気下に行われるためオレフィン(不飽和炭化水素)は実質的に形成されることはなく、また、ナフテンや芳香族も新たに生成されることは殆どない。原料中にオレフィンが含まれていた場合、水素化分解及び異性化反応において、分解され、異性化され、飽和されて、原料の長鎖ノルマルパラフィンと同様にノルマルパラフィンとイソパラフィンに変換される。ナフテン及び芳香族の分解による軽質化は、ナフテン環、ベンゼン環の開環よりも、環以外の炭化水素鎖部分での切断、分解されることによるところが大きい。したがって、本発明の環境対応軽油を調製するためには、ノルマルパラフィン原料に含まれるナフテン及び芳香族の含有量は、少ない方が好ましく、特に芳香族の含有量は、3質量%以下、さらには1質量%以下、特には0.5質量%以下が好ましい。また、水素化分解、異性化後、分留して得た軽油留分に含まれる芳香族分は、5質量%以下、さらには2質量%以下、特には1質量%以下が好ましい。
【0025】
〔軽油留分〕
本発明の製造方法では、水素化分解及び異性化工程による生成油から、10%留出温度が好ましくは200℃以上、より好ましくは240℃以上、90%留出温度が好ましくは340℃以下、より好ましくは330℃以下の軽油留分を分留する。なお、この軽油留分よりも重質な留分は、原料としてリサイクルして水素化分解及び異性化することもできる。
【0026】
〔配合〕
本発明の製造方法では、上述の軽油留分が本発明の環境対応軽油の条件を満足すれば、そのまま軽油として、あるいは他の軽油基材と混合して製品軽油を調製するための軽油基材として用いることができる。さらに、本発明の環境対応軽油の条件を満足しても、満足しなくても、軽油基材として用いることができる。要は、他の軽油基材と混合して得た製品軽油が本発明の環境対応軽油の条件を満足すればよい。他の軽油基材としては、例えば、原油を精製して生産される灯油、軽油、あるいはそれらの半製品、中間製品などの配合用基材が挙げられる。また植物油メチルエステルなども他の軽油基材として配合することができる。本発明の軽油留分と他の軽油基材とを配合して軽油を調製する場合、所望の品質の軽油となるように適宜の割合で配合することができるが、他の軽油基材の配合割合は、20質量%以下、特には5〜15質量%にすることが好ましい。
本発明の環境対応軽油は、各種の軽油基材の物性、特には、密度、硫黄分、流動点、10%留出温度、90%留出温度や、平均炭素数とノルマルパラフィン含有量とから算出される数A及びBなどを考慮して、2種類以上の軽油基材を適宜の割合で混合して調製することができる。最も本発明の規定を満たす軽油基材があれば、その基材単独で本発明の環境対応軽油として用いることができる。
【0027】
軽油への添加剤としては、低温流動性向上剤、耐摩耗性向上剤、セタン価向上剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、腐食防止剤等の公知の燃料添加剤を添加してもよい。低温流動性向上剤としては、エチレン共重合体などを用いることができるが、特には、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどの飽和脂肪酸のビニルエステルが好ましく用いられる。耐摩耗性向上剤としては、長鎖(例えば、炭素数12〜24)の脂肪酸またのその脂肪酸エステルが好ましく用いられる。10〜500ppm、好ましくは50〜100ppmの添加量で十分に耐摩耗性が向上する。
【0028】
〔実施例〕
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、この実施例により、本発明が限定して解釈されるものではない。
【0029】
〔触媒Aの調製〕
シリカアルミナ粉体及び擬ベーマイト粉体を混合、混練して、シリンダー状に成形した後、乾燥し、600℃で焼成することで担体Aを調製した。この担体は、乾燥担体基準で、シリカアルミナ80質量%及びアルミナ20質量%からなり、直径約1.6mmのシリンダー形状であった。シリカアルミナ粉体としては、シリカ/アルミナモル比4.4、凝集粒径1〜10μmのもの94.4質量%、強熱減量16.9質量%の粉体を用いた。
【0030】
この触媒担体に、メタタングステン酸アンモニウムを含有する水溶液、及び硝酸ニッケルを含有する水溶液を含浸し、乾燥後、500℃で焼成して、触媒中にタングステンを11.0質量%及びニッケルを1.0質量%含む触媒Aを調製した。
【0031】
〔触媒Bの調製〕
アルミナ粉(コンデア社製Pural SB1)2000g及びシリカゲル(富士シリシア化学社製Cariact G6)250gを混練機に入れ、3.5%濃度の硝酸水溶液1リットルを解膠剤として添加して30分間混練し、これにモルデナイト(ゼオライト細孔長径7.0Å、SiO2/Al23のモル比=210、東ソー社製HSZ−690HOA)40gを添加し、さらに30分間混練した。この混練物を1.4mmφの孔のダイスを有する押出成形機で円柱状に成形し、130℃で一晩乾燥した。乾燥物をロータリーキルンを用いて600℃で1時間焼成し、触媒担体Bを得た。
【0032】
この触媒担体B150gに、モリブデン酸アンモニウム46.5g、硝酸ニッケル六水和物41.8g、リン酸溶液19.6gを含む含浸液を用いてモリブデン、ニッケル、リンを含浸した。これを130℃で一晩乾燥した後、ロータリーキルンを用いて500℃で30分間焼成して触媒Bを得た。
【0033】
触媒Bの組成は、金属元素換算でケイ素5.0質量%、金属元素換算でモリブデンを12.0質量%、金属元素換算でニッケルを4.4質量%、リン元素換算でリンを2.7質量%含有するものであった。
【実施例1】
【0034】
触媒充填量100mLの固定床流通式反応装置に触媒Aを充填し、予備硫化した後、後述のノルマルパラフィンSX−50原料を供給して、圧力4MPa、水素/原料油供給比660NL/L、LHSV=1.0h-1、反応温度335℃の反応条件で水素化分解・異性化反応を行い、得られた生成油から軽油留分を分留して、本発明の軽油Aを得た。
【実施例2】
【0035】
触媒充填量100mLの固定床流通式反応装置に触媒Bを充填し、予備硫化した後、後述のノルマルパラフィンSX−60M原料を供給して、圧力4MPa、水素/原料油供給比660NL/L、LHSV=1.0h-1、反応温度390℃の反応条件で水素化分解・異性化反応を行い、得られた生成油から軽油留分を分留して、本発明の軽油Bを得た。
【比較例1】
【0036】
水素化分解・異性化後、得られた生成油から軽油留分を分留する際の条件を変え、軽めにカットした以外は実施例1と全く同じ条件で水素化分解・異性化反応、分留を行い、軽油Cを得た。
【比較例2】
【0037】
反応温度を320℃にした以外は実施例1と全く同じ条件で、水素化分解・異性化反応を行い、得られた生成油から軽油留分を分留して軽油Dを得た。
【比較例3】
【0038】
比較例3として市販軽油Eを用いた。
【0039】
ノルマルパラフィン原料としては、Fischer-Tropsch法により合成されたSMDS(Shell Middle Distillate Synthesis)製のSX−50、及びSX−60Mを用いた。SX−50は、密度(15℃)0.81g/cm3、初留点316℃、10%留出温度379℃、90%留出温度457℃、終点489℃、ノルマルパラフィン分89.9質量%、芳香族分0.01質量%以下であり、また、SX−60Mは、密度(15℃)0.82g/cm3、初留点343℃、10%留出温度401℃、90%留出温度524℃、終点581℃、ノルマルパラフィン分89.1質量%、芳香族分0.01質量%以下であった。
【0040】
実施例1、2、比較例1、2、3の性状を表1に示す。なお、密度はJIS K 2249の振動式密度試験方法、硫黄分はJIS K 2541の紫外蛍光法、曇り点と流動点はJIS K 2269、目詰まり点はJIS K 2288、蒸留性状はJIS K 2254の常圧蒸留試験方法、動粘度はJIS K 2283の動粘度試験方法、芳香族分はJPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」により、それぞれ測定した。
ノルマルパラフィン含有量は、JIS K 2536のガスクロマトグラフ法による全成分試験方法により分析した。セタン指数はJIS K 2280によって求めた。
数A及びBの算出に式(1)及び(2)で用いた平均炭素数(Nc)は、API“Technical Data Book - Petroleum Refining”のProcedure 2B2.1に記載の方法で導出した平均分子量(Nm)から次式により求めたものである。
Nc=(Nm−2)/14
【0041】
【表1】

【0042】
上記表1から、実施例の軽油A及び軽油Bは、硫黄分が1ppm以下及び芳香族分が1質量%以下と市販軽油Eより極めて低く、また曇り点、目詰まり点、流動点といった低温特性も実用の市販軽油Eに対し十分低い値である。さらに、実施例の軽油A及び軽油Bは、軽油Cや市販軽油Eと比べて、セタン指数が特に高いことから燃焼性とりわけ着火性に優れており、また軽油Dや市販軽油Eと比べて低温特性にも優れていることがわかる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.78g/cm3以上、硫黄分が1質量ppm以下であり、かつ、下記の式(1)で表される数Aが16.0以上であり、及び式(2)で表される数Bが19.5以下であることを特徴とする環境対応軽油、
A=(Nc)×(Np)0.02・・・・・・・・(1)
B=(Nc)×(Np)0.05・・・・・・・・(2)
(式(1)及び(2)において、Ncは平均炭素数、Npはノルマルパラフィン含有量(質量%)を示す。)
【請求項2】
10%留出温度が200℃以上、90%留出温度が340℃以下であり、流動点が−10℃以下であり、炭素数10〜20のノルマルパラフィン含有量が1.0〜20質量%であり、かつ炭素数21以上のノルマルパラフィン含有量が2質量%以下である請求項1に記載の環境対応軽油。
【請求項3】
曇り点が−10℃以下であり、芳香族分が5質量%以下である請求項1又は2に記載の環境対応軽油。
【請求項4】
ノルマルパラフィンを主成分とする原料を、シリカアルミナ、シリカ、又はそれらの両方を含む担体に水素化活性金属を担持した触媒を用いて水素化分解及び異性化を行い、生成油を得る工程と、この生成油を分留して10%留出温度が200℃以上、90%留出温度が340℃以下の軽油留分を得る工程を含む請求項1〜3のいずれかに記載の環境対応軽油の製造方法。
【請求項5】
前記ノルマルパラフィンを主成分とする原料がフィッシャー・トロプシュ法により合成されたものである請求項4記載の環境対応軽油の製造方法。


【公開番号】特開2007−145901(P2007−145901A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338980(P2005−338980)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】