説明

軽油組成物

【課題】ライフサイクルCO排出特性ならびに酸化安定性、低温始動性、低温流動性に優れた軽油組成物の提供。
【解決手段】動植物油脂及び /又は動物油脂由来成分と、結晶性モレキュラシーブを含む担体に担持された第6A族及び第8族元素から選ばれる1種以上の金属を含む触媒とを、水素圧2〜13MPa、液空間速度0.1〜3.0h−1、水素油比250〜1500NL/L、温度150〜380℃の条件下で接触させて得られるiパラフィン/nパラフィンの比率が0.2以上である軽油基材と、原油等の水素化精製油を、30〜50容量%:70〜50容量%混合して製造される、90%留出点360℃以下、全芳香族15容量%以下、セタン指数が45以上、S分1質量ppm以下、O分1質量%以下、トリグリセリド0.01質量%以下、酸価0.13mgKOH/g以下且つ酸化安定性試験後の酸価増加量が0.12mgKOH/g以下、目詰り点(CFPP)-5℃以下、流動点(PP)-10℃以下、iパラフィン/nパラフィンの比率が0.80以上である軽油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動植物油脂および/または動植物油脂由来成分であるトリグリセリド含有炭化水素を原料として製造された環境低負荷型軽油基材を含有し、ライフサイクルCO排出特性、着火性、酸化安定性および低温性能に優れた軽油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軽油の基材としては、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油に水素化精製処理や水素化脱硫処理を施したもの、原油の常圧蒸留装置から得られる直留灯油に水素化精製処理や水素化脱硫処理を施したもの等が知られている。従来の軽油組成物は上記軽油基材及び灯油基材を1種または2種以上配合することにより製造されている。また、これらの軽油組成物には、必要に応じてセタン価向上剤や清浄剤等の添加剤が配合される(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】小西誠一著,「燃料工学概論」,裳華房,1991年3月,p.136−144
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、早急な大気環境改善及び環境負荷低減を目指して、内燃機関用燃料である軽油中の硫黄分含有量及び芳香族分含有量の低減が求められている。また同時に地球温暖化問題に対応するため、一層の燃費向上に貢献しかつ二酸化炭素(CO)削減に効果的な燃料性状が求められており、その解決手段の1つとして合成燃料や再生可能エネルギーであるバイオディーゼル燃料(以降BDFとも表記する。)を代替燃料として用いることが検討されている。
【0004】
BDFは天然の動植物油脂を原料にした脂肪酸アルキルエステル混合物が主であり、排出ガス中のすす生成寄与度が大きいとされている芳香族化合物分や排出ガス後処理触媒への被毒等の影響が大きいとされている硫黄分をほとんど含まず、またそれ自身が分子中に酸素を持った含酸素化合物であるため、代替燃料の有力な候補として着目されている。また、植物由来であることから再生可能エネルギーと位置づけられているため、1997年に締結された国際間での二酸化炭素削減プロトコル、いわゆる京都議定書においてはBDF起因の二酸化炭素は排出量として計上されないルールである点も、BDFは政策的なメリットとして有している。
【0005】
しかしながら、天然の動植物油脂を原料とした脂肪酸アルキルエステルは本来重質な成分が多く、エンジン燃焼等における燃え切り性が悪くなり、燃焼時の未燃炭化水素排出を増加させる懸念がある。飽和脂肪酸基を多く有する脂肪酸アルキルエステル多くを含有するBDFの場合は、常温でも固体であるために燃料としての取り扱いに劣り、また低温時の流動性能も確保することが困難である。不飽和脂肪酸基を多く含有するBDFの場合は、その化学組成上酸化安定性に劣り、色相の劣化やスラッジの生成およびエンジン部材への悪影響が懸念されている。更には、脂肪酸アルキルエステルを精製する際の原料である脂肪酸グリセライド、アルキルアルコール及び副生成物であるグリセリン混合物はエンジン部材や燃料噴射系への悪影響が極めて懸念されているものである。
これらの傾向は既存の軽油等には見られなかった傾向であり、そのためBDF単独で使用する場合だけでなく、既存の軽油等に混合して使用する場合においても同様に問題となっており、BDF自体の性状に留意するだけでなく、既存軽油との混合使用時においても酸化安定性や低温性能、燃焼性等に従来以上の留意する必要がある。
【0006】
従って、有害排気成分の低減と共にライフサイクルにおけるCOを低減し、部材への影響が少なく、酸化安定性や低温性能に優れた軽油組成物の提供に関して、天然の動植物油脂を原料にした脂肪酸アルキルエステル混合物であるBDFの使用では、これらの性能改善を同時に達成することはできない。さらに、これらのエンジン性能は他の燃料性状とも密接に関連するため、これらの要求性能を高水準で同時に達成できる高品質の燃料を設計することは非常に困難であり、なおかつ市販燃料油として求められている諸性能を十分満たし、また現実的な製造方法の検討を踏まえた例、知見は存在していない。
【0007】
本発明は、かかる実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、動植物油脂および動植物油脂由来成分であるトリグリセリド含有炭化水素を原料として製造された環境低負荷型軽油基材を含有し、ライフサイクルCO排出特性ならびに酸化安定性、低温始動性、
および低温流動性の全てに優れた軽油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、動植物油脂および/または動物油脂由来成分と、結晶性モレキュラシーブを含有する担体に担持された周期律表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒とを、水素圧力2〜13MPa、液空間速度0.1〜3.0h−1、水素油比250〜1500NL/L、反応温度150〜380℃の条件下で接触させることによって得られるイソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率が0.2以上である軽油基材と、原油等から精製された水素化精製油を、30〜50容量%:70〜50容量%混合して製造される、90%留出温度が360℃以下、全芳香族含有量15容量%以下、セタン指数が45以上、硫黄分含有量が1質量ppm以下、酸素含有量1質量%以下、トリグリセリド含有量0.01質量%以下であり、酸価0.13mgKOH/g以下且つ酸化安定性試験後の酸価増加量が0.12mgKOH/g以下、目詰まり点(CFPP)が−5℃以下、流動点(PP)が−10℃以下であり、精製油中に含まれるパラフィン分のうち、イソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率が0.80以上であることを特徴とする軽油組成に関するものである。
【0009】
また本発明は、動植物油脂および/または動物油脂由来成分:10〜90容量と、原油等を精製して得られる硫黄分15ppm以下の石油系基材:90〜10容量%とを混合した混合油を、結晶性モレキュラシーブを含有する担体に担持された周期律表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒とを、水素圧力2〜13MPa、液空間速度0.1〜3.0h−1、水素油比250〜1500NL/L、反応温度150〜380℃の条件下で接触させることによって得られるイソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率が0.2以上である軽油基材と、原油等から精製された水素化精製油を、30〜50容量%:70〜50容量%混合して製造される、90%留出温度が360℃以下、全芳香族含有量15容量%以下、セタン指数が45以上、硫黄分含有量が1質量ppm以下、酸素含有量1質量%以下、トリグリセリド含有量0.01質量%以下であり、酸価0.13mgKOH/g以下且つ酸化安定性試験後の酸価増加量が0.12mgKOH/g以下、目詰まり点(CFPP)が−5℃以下、流動点(PP)が−10℃以下であり、精製油中に含まれるパラフィン分のうち、イソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率が0.80以上であることを特徴とする軽油組成に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記の動植物油脂および動植物油脂由来成分であるトリグリセリド含有炭化水素を原料として製造された環境低負荷型軽油基材を含有することにより、従来の軽油組成物および脂肪酸アルキルエステル混合物のBDFでは実現が困難であったライフサイクルCO排出特性ならびに酸化安定性、部材影響および着火性、低温流動性の全てに優れた軽油組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の軽油組成物の構成成分として、動植物油脂および/または動物油脂由来成分を含有した炭化水素留分と、結晶性モレキュラシーブを含有する担体に担持された周期律表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒とを接触させることにより得られる含炭化水素混合留分の環境低負荷型軽油基材が用いられる。
【0012】
本発明にかかる環境低負荷型軽油基材とは、所定の原料油を水素化処理して得られる低硫黄の軽油留分、灯油留分、若しくはそれらの混合物である。
該原料油としては、動植物油脂および動物油脂由来成分を含有した炭化水素留分であることが必要である。本発明における動植物油脂および動植物油脂由来成分とは、天然もしくは人工的に生産、製造される動植物油脂およびこれらの油脂を由来して生産、製造される成分をいう。動物油脂および動物油の原料としては、牛脂、牛乳脂質(バター)、豚脂、羊脂、鯨油、魚油、肝油等が挙げられ、植物油脂および植物油原料としては、ココヤシ、パームヤシ、オリーブ、べにばな、菜種(菜の花)、米ぬか、ひまわり、綿実、とうもろこし、大豆、ごま、アマニ等の種子部及びその他の部分が挙げられるが、これ以外の油脂、油であっても使用に問題はない。これらの原料油に関してはその状態が固体、液体であることは問わないが、取り扱いの容易さおよび二酸化炭素吸収能や生産性の高さから植物油脂、植物油を原料とする方が好ましい。また、本発明においては、これらの動物油、植物油を民生用、産業用、食用等で使用した廃油も雑物等の除去工程を加えた後に原料とすることができる。
【0013】
これらの原料中に含有されるグリセライド化合物の脂肪酸部分の代表的な組成としては、飽和脂肪酸と称する分子構造中に不飽和結合を有しない脂肪酸である酪酸(CCOOH)、カプロン酸(C11COOH)、カプリル酸(C15COOH)、カプリン酸(C19COOH)、ラウリン酸(C1123COOH)、ミリスチン酸(C1327COOH)、パルミチン酸(C1531COOH)、ステアリン酸(C1735COOH)、及び不飽和結合を1つもしくは複数有する不飽和脂肪酸であるオレイン酸(C1733COOH)、リノール酸(C1731COOH)、リノレン酸(C1729COOH)、リシノレン酸(C1732(OH)COOH)等が挙げられる。自然界の物質におけるこれら脂肪酸の炭化水素部は一般に直鎖であることが多いが、本発明において本発明で規定する性状を満たす限りで、側鎖を有する構造、すなわち異性体であっても使用することができる。また、不飽和脂肪酸における分子中の不飽和結合の位置も、本発明において本発明で規定する性状を満たす限りで、自然界で一般に存在確認されているものだけでなく、化学合成によって任意の位置に設定されたものも使用することができる。
上述の原料油(動植物油脂および動植物油脂由来成分)はこれらの脂肪酸を1種または複数種有しており、原料によってその有する脂肪酸類は異なっている。例えば、ココヤシ油はラウリン酸、ミリスチン酸等の飽和脂肪酸を比較的多く有しているが、大豆油はオレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸を多く有している。
【0014】
また、原料油としては250℃以上の留分を含有していることが好ましく、300℃以上の留分を含有していることがより好ましく、360℃以上の留分を含有していることが更に好ましい。沸点が250℃以上の留分を含有していない場合には、製造時にガス分の生成が増加するため液生成物の収率が減少し、ライフサイクル二酸化炭素が増加する恐れがある。
【0015】
また、原料油としては、動植物油脂および動植物油脂由来成分に石油系炭化水素留分を混合しているものを用いてもよい。原料油を混合する場合、石油系炭化水素留分の硫黄分は10ppm以下であることが必要である。なお、その硫黄分は1〜5ppmであることがより望ましい。混合比率は原料油全体の容量に対して10〜99容量%が望ましく、30〜99容量%がより望ましく、60〜98容量%がさらにより望ましい。石油系炭化水素留分の比率が前記下限値に満たない場合には、副生する水の処理に要する設備が必要となる可能性があり、石油系炭化水素留分の比率が前記上限値を超える場合にはライフサイクル二酸化炭素削減の観点からは好ましくない。
【0016】
石油系炭化水素留分は、原油の蒸留によって得られる留分や水素化脱硫、水素化分解、流動接触分解、接触改質などの反応で得られる留分を含んでいても良い。これらの留分の混合量は、被処理油に含まれる酸素分および硫黄分が所定の濃度範囲を満たしている限りにおいて任意に設定することができる。さらに、化学品由来の化合物やフィッシャートロプシュ反応を経由して得られる合成油と併せて混合してもよい。
【0017】
原料油に含まれる酸素分は、原料油全量を基準として、好ましくは0.1〜15質量%であり、より好ましくは1〜15質量%、更に好ましくは3〜14質量%、特に好ましくは5〜13質量%である。酸素分の含有量が0.1質量%未満であると、脱酸素活性及び脱硫活性を安定的に維持することが困難となる傾向にある。他方、酸素分の含有量が15質量%を超えると、副生する水の処理に要する設備が必要となることや、水と触媒担体との相互作用が過度となり活性低下したり触媒強度が低下したりする。
【0018】
被処理油に含まれる硫黄分は、被処理油全量を基準として、好ましくは15質量ppm以下であり、より好ましくは10質量ppm以下であり、更に好ましくは5質量ppm以下である。硫黄分の含有量が15質量ppmを超える場合、脱酸素活性を安定的に維持することが困難となる傾向にあるとともに、水素化精製油に含まれる硫黄分含有量が増加する傾向にあり、ディーゼルエンジン等の燃料として用いる場合にエンジン排ガス浄化装置への悪影響が懸念される。なお、本発明における硫黄分は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」又はASTM−5453に記載の方法に準拠して測定される硫黄分の質量含有量を意味する。
【0019】
原料油の水素化処理条件としては、水素圧力2〜13MPa、液空間速度(LHSV)0.1〜3.0h−1、水素油比(水素/油比)150〜1500NL/Lであり、好ましくは、水素圧力2.5〜10MPa、液空間速度0.5〜2.0h−1、水素油比380〜1200NL/Lであることがより好ましく、水素圧力3〜8MPa、空間速度0.8〜1.8h−1、水素油比350〜1000NL/Lであることが更に好ましい。これらの条件はいずれも反応活性を左右する因子であり、例えば水素圧力及び水素油比が上記の下限値に満たない場合には、反応性が低下したり活性が急速に低下したりする傾向がある。他方、水素圧力及び水素油比が上記の上限値を超える場合には、圧縮機等の過大な設備投資が必要となる傾向がある。また、液空間速度は低いほど反応に有利な傾向にあるが、上記の下限値未満の場合は、極めて大きな内容積の反応器が必要となり過大な設備投資が必要となる傾向があり、他方、液空間速度が上記の上限値を超える場合は、反応が十分に進行しなくなる傾向がある。
【0020】
反応器の形式としては、固定床方式を採用することができる。すなわち、水素は被処理油に対して向流又は並流のいずれの形式を採用することができる。また、複数の反応器を用いて、向流、並流を組み合せた形式としてもよい。一般的な形式としては、ダウンフローであり、気液双並流形式を採用することができる。また、反応器は単独又は複数を組み合せてもよく、一つの反応器内部を複数の触媒床に区分した構造を採用してもよい。
【0021】
水素ガスは加熱炉を通過前もしくは通過後の被処理油に随伴させて最初の反応器の入口から導入することが一般的であるが、これとは別に、反応器内の温度を制御するとともに、反応器内全体にわたって水素圧力を維持する目的で触媒床の間や複数の反応器の間から水素ガスを導入してもよい。このようにして導入される水素を一般にクエンチ水素と呼ぶ。被処理油に随伴して導入する水素ガスに対するクエンチ水素の割合は、10〜60容量%であることが好ましく、15〜50容量%であることがより好ましい。クエンチ水素の割合が10容量未満であると後段の反応部位での反応が十分に進行しない傾向があり、クエンチ水素の割合が60容積%を超えると反応器入口付近での反応が十分に進行しない傾向がある。
【0022】
本発明で用いられる触媒に含まれる結晶性モレキュラシーブは、十分な水素化脱酸素活性と水素化異性化活性を付与するために、少なくともケイ素を含有していることが好ましい。ケイ素以外の構成元素として、アルミニウム、ジルコニウム、ホウ素、チタン、ガリウム、亜鉛、リンを含有していることがより好ましく、ケイ素のほかアルミニウム、ジルコニウム、ホウ素、チタン、リンを含有していることがさらにより好ましい。これらの元素を含有していることにより、水素化脱酸素反応と炭化水素の骨格異性化反応を同時に促進し、精製油の低温性能向上を達成することができる。
前記結晶性モレキュラシーブを構成する元素のうち酸素を除く元素について、{ケイ素原子数}/{ケイ素以外の元素の原子数}の比が3以上であることが好ましい。より好ましくは10以上であり、さらにより好ましくは30以上である。前記の比率が3に満たない場合、パラフィンの分解反応が促進され、コーキングによる活性低下を招く恐れがある。
前記結晶性モレキュラシーブの細孔直径は0.8nm以下であることが好ましく、0.65nm以下であることがより好ましい。ゼオライト細孔直径が0.8nmよりも大きい場合、パラフィンの分解反応が起こる懸念がある。結晶性モレキュラシーブの結晶構造としては、特に限定されるものではないが、国際ゼオライト学会が定める構造でいうFAU、AEL、MFI、MMW、TON、MTW、*BEA、MORなどが挙げられる。
本発明で用いられる触媒に含まれる結晶性モレキュラシーブの合成方法は、特に限定されるものではなく、一般的に知られているように、構成成分原料とアミン化合物を構造指示剤とした水熱合成法などを用いることができる。構成成分原料とは、例えばケイ素含有化合物の場合にはケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ、ケイ酸アルコキサイドなどが、アルミニウムの場合、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウムなどが挙げられる。構造指示剤としては、テトラプロピルアンモニウム塩などが挙げられる。
また、結晶性モレキュラシーブは、必要に応じてスチーム等による水熱処理、アルカリ性または酸性の水溶液による浸漬処理、イオン交換、塩素ガスやアンモニア等の塩基性または酸性ガスによる表面処理などを、単独または複数の工程を組み合わせて施すことによって物性を調整することができる。
【0023】
本発明で用いられる触媒において、結晶性モレキュラシーブ以外の構成物としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる無機酸化物が挙げられる。これらの無機酸化物は、結晶性モレキュラシーブを成型する際の接合剤として用いるとともに、水素化脱酸素と水素化異性化を促進する活性成分としても機能することができる点から、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上であることが好ましい。触媒全体に占める結晶性モレキュラシーブの含有量は2〜90質量%が好ましく、5〜85質量%がより好ましく、10〜80質量%がさらにより好ましい。前記含有量が2質量%に満たない場合、触媒としての水素化脱酸素活性および水素化異性化活性が十分でなく、前期含有量が90質量%を超える場合、触媒成形性が容易でなくなり、工業的な製造に支障が生じる恐れがある。
【0024】
本発明で用いられる触媒における結晶性モレキュラシーブ以外の構成物について、アルミニウム以外の構成元素である、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムを担体に導入する方法は特に制限されず、これらの元素を含有する溶液などを原料として用いればよい。例えば、ケイ素については、ケイ酸、水ガラス、シリカゾルなど、ホウ素についてはホウ酸など、リンについては、リン酸やリン酸のアルカリ金属塩など、チタンについては硫化チタン、四塩化チタンや各種アルコキサイド塩など、ジルコニウムについては硫酸ジルコニウムや各種アルコキサイド塩などを用いることができる。
【0025】
上記の酸化アルミニウム以外の担体構成成分の原料は、担体の焼成より前の工程において添加することが好ましい。例えば、アルミニウム水溶液に予め上記原料を添加した後、これらの構成成分を含む水酸化アルミニウムゲルを調製してもよく、調合した水酸化アルミニウムゲルに対して上記原料を添加してもよい。あるいは、市販の酸化アルミニウム中間体やベーマイトパウダーに水もしくは酸性水溶液を添加して混練する工程において上記原料を添加してもよいが、水酸化アルミニウムゲルを調合する段階で共存させることがより好ましい。酸化アルミニウム以外の担体構成成分の効果発現機構は必ずしも解明されたわけではないが、アルミニウムと複合的な酸化物状態を形成していると推察され、このことが担体表面積の増加や活性金属との相互作用を生じることにより、活性に影響を及ぼしていると考えられる。
【0026】
結晶性モレキュラシーブを含有する担体には、周期律表第8族の元素から選ばれる1種以上の金属が担持される。これらの金属の中でも、Pd、Pt、Rh、Ir、Au、Niから選ばれる1種以上の金属を用いることが好ましく、組み合わせて用いることがより好ましい。好適な組み合せとしては、例えば、Pd−Pt、Pd−Ir、Pd−Rh、Pd−Au、Pd−Ni、Pt−Rh、Pt−Ir、Pt−Au、Pt−Ni、Rh−Ir、Rh−Au、Rh−Ni、Ir−Au、Ir−Ni、Au−Ni、Pd−Pt−Rh、Pd−Pt−Ir、Pt−Pd−Niなどが挙げられる。このうち、Pd−Pt、Pd−Ni、Pt−Ni、Pd−Ir、Pt−Rh、Pt−Ir、Rh−Ir、Pd−Pt−Rh、Pd−Pt−Ni、Pd−Pt−Irの組み合わせがより好ましく、Pd−Pt、Pd−Ni、Pt−Ni、Pd−Ir、Pt−Ir、Pd−Pt−Ni、Pd−Pt−Irの組み合わせがさらにより好ましい。
本発明で用いられる上記触媒は、反応に供する前に触媒に含まれる活性金属を還元処理しておくことが好ましい。還元条件は特に限定されないが、水素気流下、200〜400℃の温度で処理することによって還元される。好ましくは、240〜380℃の範囲で処理することが好ましい。還元温度が200℃に満たない場合、活性金属の還元が十分進行せず、水素化脱酸素および水素化異性化活性が発揮できない恐れがある。また、還元温度が400℃を超える場合、活性金属の凝集が進行し、同様に活性が発揮できなくなる恐れがある。
【0027】
触媒質量を基準とする活性金属の合計含有量としては、金属として0.1〜2質量%が好ましく、0.2〜1.5質量%がより好ましく、0.5〜1.3質量%がさらにより好ましい。金属の合計担持量が0.1質量%未満であると、活性点が少なくなり、十分な活性が得られなくなる傾向がある。他方、2質量%を越えると、金属が効果的に分散せず、十分な活性が得られなくなる傾向がある。
【0028】
これらの活性金属を触媒に含有させる方法は特に限定されず、通常の脱硫触媒を製造する際に適用される公知の方法を用いることができる。通常、活性金属の塩を含む溶液を触媒担体に含浸する方法が好ましく採用される。また、平衡吸着法、Pore−filling法、Incipient−wetness法なども好ましく採用される。例えば、Pore−filling法は、担体の細孔容積を予め測定しておき、これと同じ容積の金属塩溶液を含浸する方法である。なお、含浸方法は特に限定されるものではなく、金属担持量や触媒担体の物性に応じて適当な方法で含浸することができる。
【0029】
さらに本発明においては、前記で製造された環境低負荷型軽油基材と原油等から精製された水素化精製油を混合して所定の性能を満たした軽油組成物を製造することができる。
該原油等から精製された水素化精製油としては、原油の常圧蒸留装置から得られる直留軽油、常圧蒸留装置から得られる直留重質油や残査油を減圧蒸留装置で処理して得られる減圧軽油、減圧重質軽油あるいは脱硫重油を接触分解または水素化分解して得られる接触分解軽油または水素化分解軽油、これらの石油系炭化水素を水素化精製して得られる水素化精製軽油若しくは水素化脱硫軽油等が挙げられる。
これらの水素化精製油は、所定の条件を満たす範疇で、複数の軽油留分基材及び灯油留分基材を配合して構成することができる。また、天然ガス、アスファルト、石炭、バイオマスなどを原料にして合成される合成軽油等も使用することができる。
【0030】
該水素化精製油の水素化精製は、石油精製において一般的な水素化脱硫装置を用いて処理を行うことができる。一般的には軽油留分の場合、反応温度300〜380℃、水素圧力3〜8MPa、LHSV0.3〜2h−1、水素/油比100〜500NL/Lといった条件で行われる。
水素化精製に用いられる触媒は一般的な水素化脱硫用触媒を適用できる。活性金属としては、通常、周期律表第6A族および第8族金属が好ましく用いられ、例えばCo−Mo,Ni−Mo,Co−W,Ni−Wが挙げられる。担体としてはアルミナを主成分とした多孔質無機酸化物が用いられる。これらの条件、触媒は原料油の性状を満たす限りにおいて特に限定されるものではない。
【0031】
また、水素化精製油は上述の原料油を水素化触媒の存在下で水素化処理したものも用いることができる。水素化処理条件は、通常、反応温度170〜320℃、水素圧力2〜10MPa、LHSV0.1〜2h−1、水素/油比100〜800NL/Lである。好ましくは反応温度175℃〜300℃、水素圧力2.5〜8MPa、LHSV0.2〜1.5h−1、水素/油比150〜600NL/Lであり、さらに好ましくは反応温度180℃〜280℃、水素圧力3〜7MPa、LHSV0.3〜1.2h−1、水素/油比150〜500NL/Lである。反応温度は低温ほど水素化反応には有利であるが、脱硫反応には好ましくない。水素圧力、水素/油比は高いほど脱硫、水素化反応とも促進されるが、経済的に最適点が存在する。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので不利である。
【0032】
原料油を水素化処理する装置はいかなる構成でもよく、反応塔は単独でもまたは複数を組み合わせてもよく、複数の反応塔の間に水素を追加注入してもよく、気液分離操作や硫化水素除去設備を有していてもよい。
水素化処理装置の反応形式は、固定床方式が好ましく採用される。水素は原料油に対して、向流または並流のいずれの形式をとることができ、また、複数の反応塔を有し、向流、並流を組み合わせた形式のものでもよい。一般的な形式としてはダウンフローであり、気液双並流形式が好ましい。反応塔の中段には反応熱の除去、あるいは水素分圧を上げる目的で水素ガスをクエンチとして注入してもよい。
【0033】
水素化処理に用いる触媒は水素化活性金属を多孔質担体に担持したものである。多孔質担体としては無機酸化物が挙げられる。具体的な無機酸化物としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、あるいはゼオライトがあり、本発明ではこのうちチタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、ゼオライトのうち少なくとも1種類とアルミナによって構成されているものがよい。その製造法は特に限定されないが、各元素に対応した各種ゾル、塩化合物などの状態の原料を用いて任意の調製法を採用することができる。さらには一旦シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナチタニア、シリカチタニア、アルミナボリアなどの複合水酸化物あるいは複合酸化物を調製した後に、アルミナゲルやその他水酸化物の状態あるいは適当な溶液の状態で調製工程の任意の工程で添加して調製してもよい。アルミナと他の酸化物との比率は多孔質担体に対して任意の割合を取り得るが、好ましくはアルミナが90質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0034】
ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、フォージャサイト、ペンタシル、モルデナイトなどが挙げられ、所定の水熱処理および/または酸処理によって超安定化したもの、あるいはゼオライト中のアルミナ含有量を調整したものを用いることができる。好ましくはフォージャサイト、モルデナイト、特に好ましくはY型、ベータ型が用いられる。Y型は超安定化したものが好ましく、水熱処理により超安定化したゼオライトは本来の20Å以下のミクロ細孔と呼ばれる細孔構造に加え、20〜100Åの範囲に新たな細孔が形成される。水熱処理条件は公知の条件を用いることができる。
【0035】
水素化処理に用いる触媒の活性金属としては周期律表第8族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属である。好ましくはRu,Rd,Ir,PdおよびPtから選ばれる少なくとも1種類であり、さらに好ましくはPdまたは/およびPtである。活性金属としてはこれらの金属を組み合わせたものでよく、例えばPt−Pd,Pt−Rh,Pt−Ru,Ir−Pd,Ir−Rh,Ir−Ru,Pt−Pd−Rh,Pt−Rh−Ru,Ir−Pd−Rh,Ir−Rh−Ruなどの組み合わせを採用することができる。金属源としては一般的な無機塩、錯塩化合物を用いることができ、担持方法としては含浸法、イオン交換法など通常の水素化触媒で用いられる担持方法のいずれの方法も用いることができる。また、複数の金属を担持する場合には混合溶液を用いて同時に担持してもよく、または単独溶液を用いて逐次担持してもよい。金属溶液は水溶液でもよく有機溶剤を用いてもよい。
【0036】
金属担持は、構成されている多孔質担体の調製全工程終了後に行ってもよく、多孔質担体調製中間工程における適当な酸化物、複合酸化物、ゼオライトに予め担持した後に更なるゲル調合工程あるいは加熱濃縮、混練を行ってもよい。
活性金属の担持量は特に限定されないが、触媒質量に対し金属量合計で0.1〜10質量%、好ましくは0.15〜5質量%、さらに好ましくは0.2〜3質量%である。
触媒は、水素気流下において予備還元処理を施した後に用いるのが好ましい。一般的には水素を含むガスを流通し、200℃以上の熱を所定の手順に従って与えることにより触媒上の活性金属が還元され、水素化活性を発現することになる。
【0037】
本発明には、軽油留分の水素化精製油以外にも、灯油留分の水素化精製油などを用いることができる。かかる灯油留分は、所定の原料油を水素化処理して得られる灯油留分とすることができる。該原料油としては、原油の常圧蒸留により得られる直留灯油が主であるが、水素化分解軽油と共に製造される水素化分解灯油、上記の灯油留分を水素化精製して得られる水素化精製灯油を用いることができる。また、天然ガス、アスファルト分、石炭、バイオマスなどを原料とする合成灯油を使用することも可能である。
【0038】
本発明の水素化精製油灯油留分は、上述の原料油を水素化触媒の存在下で水素化処理(脱硫及び精製)したものを用いることができる。
水素化処理条件は、通常、反応温度220〜350℃、水素圧力1〜6MPa、LHSV0.1〜10h−1、水素/油比10〜300NL/Lである。好ましくは反応温度250℃〜340℃、水素圧力2〜5MPa、LHSV1〜10h−1、水素/油比30〜200NL/Lであり、さらに好ましくは反応度270℃〜330℃、水素圧力2〜4MPa、LHSV2〜10h−1、水素/油比50〜200NL/Lである。反応温度は低温ほど水素化反応には有利であるが、脱硫反応には好ましくない。水素圧力、水素/油比は高いほど脱硫、水素化反応とも促進されるが、経済的に最適点が存在する。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので不利である。
【0039】
原料油を水素化処理する装置はいかなる構成でもよく、反応塔は単独でもまたは複数を組み合わせてもよく、複数の反応塔の間に水素を追加注入してもよく、気液分離操作や硫化水素除去設備を有していてもよい。
水素化処理装置の反応形式は、固定床方式が好ましく採用される。水素は原料油に対して、向流または並流のいずれの形式をとることができ、また、複数の反応塔を有し、向流、並流を組み合わせた形式のものでもよい。一般的な形式としてはダウンフローであり、気液双並流形式が好ましい。反応塔の中段には反応熱の除去、あるいは水素分圧を上げる目的で水素ガスをクエンチとして注入してもよい。
【0040】
水素化処理に用いる触媒は水素化活性金属を多孔質担体に担持したものである。多孔質担体としてはアルミナを主成分とした多孔質無機酸化物が用いられる。具体的な無機酸化物としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、あるいはゼオライトがあり、本発明ではこのうちチタニア、ジルコニア、ボリア、シリカ、ゼオライトのうち少なくとも1種類とアルミナによって構成されているものがよい。その製造法は特に限定されないが、各元素に対応した各種ゾル、塩化合物などの状態の原料を用いて任意の調製法を採用することができる。さらには一旦シリカアルミナ、シリカジルコニア、アルミナチタニア、シリカチタニア、アルミナボリアなどの複合水酸化物あるいは複合酸化物を調製した後に、アルミナゲルやその他水酸化物の状態あるいは適当な溶液の状態で調製工程の任意の工程で添加して調製してもよい。アルミナと他の酸化物との比率は多孔質担体に対して任意の割合を取りうるが、好ましくはアルミナが90質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。これらの条件、触媒は原料油の性状を満たす限りにおいて特に限定されるものではない。
【0041】
ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、フォージャサイト、ペンタシル、モルデナイトなどが挙げられ、所定の水熱処理および/または酸処理によって超安定化したもの、あるいはゼオライト中のアルミナ含有量を調整したものを用いることができる。好ましくはフォージャサイト、モルデナイト、特に好ましくはY型、ベータ型が用いられる。Y型は超安定化したものが好ましく、水熱処理により超安定化したゼオライトは本来の20Å以下のミクロ細孔と呼ばれる細孔構造に加え、20〜100Åの範囲に新たな細孔が形成される。水熱処理条件は公知の条件を用いることができる。
【0042】
水素化処理に用いる触媒の活性金属としては周期律表第6A族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属である。好ましくはMoおよびWから選ばれる少なくとも1種類である。活性金属としては第6A族金属と第8族金属を組み合わせたものでよく、具体的にはMoまたはWと、CoまたはNiの組み合わせであり、例えばCo−Mo、Co−W、Ni−Mo、Ni−W、Co−Ni−Mo、Co−Ni−Wなどの組み合わせを採用することができる。金属源としては一般的な無機塩、錯塩化合物を用いることができ、担持方法としては含浸法、イオン交換法など通常の水素化触媒で用いられる担持方法のいずれの方法も用いることができる。また、複数の金属を担持する場合には混合溶液を用いて同時に担持してもよく、または単独溶液を用いて逐次担持してもよい。金属溶液は水溶液でもよく有機溶剤を用いてもよい。
【0043】
金属担持は、構成されている多孔質担体の調製全工程終了後に行ってもよく、多孔質担体調製中間工程における適当な酸化物、複合酸化物、ゼオライトに予め担持した後に更なるゲル調合工程あるいは加熱濃縮、混練を行ってもよい。
活性金属の担持量は特に限定されないが、触媒質量に対し金属量合計で0.1〜10質量%、好ましくは0.15〜5質量%、さらに好ましくは0.2〜3質量%である。
触媒は、水素気流下において予備還元処理を施した後に用いるのが好ましい。一般的には水素を含むガスを流通し、200℃以上の熱を所定の手順に従って与えることにより触媒上の活性金属が還元され、水素化活性を発現することになる。
【0044】
本発明において被処理油を水素化精製する工程が、被処理油に含まれる酸素分を70質量%以上除去する第一水素化工程と、残存する酸素分をさらに被処理油に対して95質量%以上に除去し、精製油に含まれるパラフィン分のうち、イソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率を0.2以上にする第二水素化工程によって構成されていることが好ましい。第一工程における酸素分除去率が70質量%に満たない場合、第二水素化工程における水素化脱酸素および水素化異性化反応が十分進行しない恐れがある。
第一水素化工程において、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、ホウ素、チタン及びマグネシウムから選ばれる2種以上の元素を含んで構成される多孔性無機酸化物に担持された周期律表第6A族および第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒を用いることが好ましく、活性金属として、Pd、Pt、Rh、Ir、Au、Ni、Moから選ばれる1種類以上の元素であることがさらに好ましい。
第二水素化工程では、結晶性モレキュラシーブを含有する担体に担持された周期律表第8族の元素から選ばれる1種類以上の金属を含有する触媒を用いることができる。
なお、第二水素化工程において用いる触媒は1種類でも複数種用いてもよく、精製油の安定性を向上させる目的で、第二水素化工程後段に水素化活性を有する触媒を充填してもよい。
【0045】
本発明によって製造される軽油組成物は前述の含炭化水素混合留分の環境低負荷型軽油基材を用い、硫黄分含有量が5質量ppm以下、酸素含有量1質量%以下である軽油組成物である。
【0046】
本発明の軽油組成物の硫黄分含有量は、エンジンから排出される有害排気成分低減と排ガス後処理装置の性能向上の点から5質量ppm以下であることが必要であり、好ましくは4質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、さらに好ましくは2質量ppm以下、さらにより好ましくは1質量ppm以下である。なお、ここでいう硫黄分含有量とは、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を意味する。
【0047】
本発明の軽油組成物の酸素分含有量は、酸化安定性向上の観点から1質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以下、さらにより好ましくは0.2質量%以下である。なお、酸素分含有量は一般的な元素分析装置で測定することができ、例えば、試料を白金炭素上でCOに転換し、あるいはさらにCOに転換した後に熱伝導度検出器を用いて測定することもできる。
【0048】
本発明の軽油組成物の引火点は、45℃以上を満たす必要がある。引火点が45℃に満たない場合には、安全上の理由により軽油組成物として取り扱うことができない。同様の理由により、引火点は54℃以上であることが好ましく、58℃以上であることがより好ましい。なお、本発明でいう引火点はJIS K 2265「原油及び石油製品引火点試験方法」で測定される値を示す。
【0049】
本発明の軽油組成物のトリグリセリド含有量は、部材への影響等も考慮し、0.01質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.008質量%、より好ましくは0.005質量%以下である。なお、本発明でいうトリグリセライドは、EN14105に準拠して測定される値を示す。
【0050】
本発明の軽油組成物のセタン指数は、JIS2号軽油規格である45以上を満たす必要がある。セタン指数が45に満たない場合には、排出ガス中のPM、アルデヒド類、あるいはさらにNOxの濃度が高くなる傾向にある。また、同様の理由により、セタン指数は48以上であることが好ましく、51以上であることが最も好ましい。なお、本発明でいうセタン指数とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」によって算出される価を意味する。
【0051】
本発明の軽油組成物におけるセタン価は、好ましくは52以上であり、より好ましくは54以上であり、さらに好ましくは55以上である。セタン価が52に満たない場合には、排出ガス中のNOx、PM及びアルデヒド類の濃度が高くなりやすい。また、排ガス中の黒煙低減の観点から、セタン価は90以下であることが好ましく、88以下であることがより好ましく、85以下であることがさらに好ましい。また本発明の軽油組成物においては、必要に応じてセタン価向上剤を適量配合し、得られる軽油組成物のセタン価を向上させることができる。なお、ここでいうセタン価とは、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「7.セタン価試験方法」に準拠して測定されるセタン価を意味する。
【0052】
本発明の軽油組成物の15℃における密度は、発熱量確保の点から、750kg/m以上であることが好ましく、760kg/m以上がより好ましく、770kg/m以上がさらに好ましい。また、当該密度は、NOx、PMの排出量を低減する点から、850kg/m以下であることが好ましく、845kg/m以下がより好ましく、840kg/m以下がさらに好ましい。なお、ここでいう密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を意味する。
【0053】
本発明の軽油組成物は、HFRR摩耗痕径(WS1.4)が好ましくは410μm以下、より好ましくは400μm以下となる潤滑性能を有することが望ましい。HFRR摩耗痕径(WS1.4)が410μmを超える場合は、特に分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増、ポンプ各部の摩耗増を引き起こし、排ガス性能、微小粒子性能の悪化のみならずエンジン自体が破壊される恐れがある。また、高圧噴射が可能な電子制御式燃料噴射ポンプにおいても、摺動面等の摩耗が懸念される。
なお、本発明でいうHFRR摩耗痕径(WS1.4)とは、社団法人石油学会から発行されている石油学会規格JPI−5S−50−98「軽油−潤滑性試験方法」により測定される値を意味する。
【0054】
本発明の軽油組成物における芳香族分含有量は、環境負荷低減効果を高め、NOx及びPM低減の観点から、15容量%以下であることが必要である。13容量%以下であることが好ましく、より好ましくは10容量%以下である。なお、本発明でいう芳香族分含有量とは、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された芳香族分含有量の容量百分率(容量%)を意味する。
【0055】
本発明の軽油組成物の水分含有量は、燃料タンク等への部材への悪影響、及びエステル化合物の加水分解抑制の観点から、300容量ppm以下であることが好ましく、250容量ppm以下であることがより好ましく、200容量ppm以下であることがさらに好ましい。なお、ここでいう水分とは、JIS K 2275「水分試験方法(原油及び石油製品)」で規定される水分である。
【0056】
本発明の軽油組成物に含まれるパラフィン分のうち、イソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率は、低温性能の確保のため、0.80以上であることが必要である。好ましくは0.90以上、より好ましくは1.00以上である。なお、本発明でいうイソパラフィン分、ノルマルパラフィン分は、GC−TOFMSを用いて得ることができる。GC−TOFMSにおいては、先ず、試料の構成成分をガスクロマトグラフィーにより分離し、分離された各成分をイオン化する。次いで、イオンに一定の加速電圧を与えたときの飛行速度がイオンの質量によって異なることに基づき、イオンを質量分離し、イオン検出器への到達時間の違いに基づいて質量スペクトルを得るものである。なお、GC−TOFMSにおけるイオン化法としては、フラグメントイオンの生成を抑制し、イソパラフィン類の測定精度をより向上させることができることから、FIイオン化法が好ましい。本発明における測定装置及び測定条件を以下に示す。
(GC部)
装置:HEWLETT PACKARD社製、HP6890 Series GC System & Injector
カラム:A glient HP−5(30m×0.32mmφ、0.25μm−film)
キャリアガス:He、1.4mL/分(一定流量)
注入口温度:320℃
注入モード:スプリット(スプリット比=1:100)
オーブン温度:50℃にて5分間保持し、5℃/分で昇温し、320℃にて6分間保持する。
注入量:1μL
(TOFMS部)
装置:日本電子社製、JMS−T100GC
対抗電極電圧:10.0kV
イオン化法:FI+(電界イオン化)
GCインターフェース温度:250℃
測定質量範囲:35〜500
【0057】
本発明の軽油組成物の目詰まり点(CFPP)は、JIS2号軽油規格である−5℃以下を満たす必要がある。さらに、ディーゼル車のプレフィルタ閉塞防止の点から、−6℃以下であることが好ましく、−7℃以下であることがより好ましい。ここで目詰まり点とはJIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」により測定される目詰まり点を指す。
【0058】
また、本発明の軽油組成物の流動点は、JIS2号軽油規格である−7.5℃以下を満たす必要がある。さらに、低温始動性ないしは低温運転性の観点、並びに電子制御式燃料噴射ポンプにおける噴射性能維持の観点から、−10℃以下であることが好ましい。ここで流動点とは、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定される流動点を意味する。
【0059】
本発明の軽油組成物における蒸留性状としては、90%留出温度360℃以下を満たす必要がある。好ましくは340℃以下、より好ましくは330℃以下、さらに好ましくは320℃以下である。90%留出温度が前記上限値を超えると、PMや微小粒子の排出量が増加する傾向にある。また、90%留出温度は、好ましくは280℃以上、より好ましくは285℃以上、さらに好ましくは290℃以上、さらにより好ましくは295℃以上である。90%留出温度が前記下限値に満たないと、燃費向上効果が不十分となり、エンジン出力が低下する傾向にある。
【0060】
本発明の軽油組成物の30℃における動粘度は特に制限はないが、2.5mm/s以上であることが必要であり、2.7mm/s以上であることが好ましく、2.9mm/s以上であることがより好ましい。当該動粘度が2.5mm/sに満たない場合は、燃料噴射ポンプ側の燃料噴射時期制御が困難となる傾向にあり、またエンジンに搭載された燃料噴射ポンプの各部における潤滑性が損なわれるおそれがある。また、本発明の軽油組成物の30℃における動粘度は5mm/s以下であることが好ましく、4.7mm/s以下であることがより好ましく、4.5mm/s以下であることがさらに好ましい。当該動粘度が5mm/sを超えると、燃料噴射システム内部の抵抗が増加して噴射系が不安定化し、排出ガス中のNOx、PMの濃度が高くなってしまう。なお、ここでいう動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される動粘度を意味する。
【0061】
本発明の軽油組成物における10%残油の残留炭素分は、JIS2号軽油規格である0.1質量%以下を満たす必要がある。さらに、微小粒子やPM低減の観点、並びにエンジンに搭載される排ガス後処理装置の性能維持の観点から、0.08質量%以下であることが好ましく、0.06質量%以下であることがより好ましい。なお、ここでいう10%残油の残留炭素分とは、JIS K 2270「原油及び石油製品−残留炭素分試験方法」により測定される10%残油の残留炭素分を意味する。
【0062】
また、本発明の軽油組成物の酸価は0.13mgKOH/g以下であることが好ましい。全酸価は混合物内の遊離脂肪酸量を示しているため、この値が大きいと酸性化合物による部材への悪影響が懸念される。そのため、酸価は0.13mgKOH/g以下であることが好ましく、0.10mgKOH/g以下であることがより好ましく、0.08mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。なお、ここでいう酸価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」により測定される酸価を意味する。
【0063】
本発明の軽油組成物は、貯蔵安定性、部材への適合性の点から、酸化安定性試験後の酸価増加量は0.12mgKOH/g以下であることが必要である。この酸価増加量は、0.10mgKOH/g以下であることがより好ましく、0.08mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。
なお、本発明でいう酸化安定性試験とは、ASTM D2274−94に準拠して、115℃、酸素バブリング下、16時間の条件で実施するものである。
【0064】
本発明の軽油組成物においては、必要に応じてセタン価向上剤を適量配合し、得られる軽油組成物のセタン価を向上させることができる。
セタン価向上剤としては、軽油のセタン価向上剤として知られる各種の化合物を任意に使用することができ、例えば、硝酸エステルや有機過酸化物等が挙げられる。これらのセタン価向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0065】
本発明においては、上述のセタン価向上剤の中でも硝酸エステルを用いることが好ましい。かかる硝酸エステルには、2−クロロエチルナイトレート、2−エトキシエチルナイトレート、イソプロピルナイトレート、ブチルナイトレート、第一アミルナイトレート、第二アミルナイトレート、イソアミルナイトレート、第一ヘキシルナイトレート、第二ヘキシルナイトレート、n−ヘプチルナイトレート、n−オクチルナイトレート、2−エチルヘキシルナイトレート、シクロヘキシルナイトレート、エチレングリコールジナイトレートなどの種々のナイトレート等が包含されるが、特に、炭素数6〜8のアルキルナイトレートが好ましい。
【0066】
セタン価向上剤の含有量は、組成物全量基準で500質量ppm以上であることが好ましく、600質量ppm以上であることがより好ましく、700質量ppm以上であることがさらに好ましく、800質量ppm以上であることがさらにより好ましく、900質量ppm以上であることが最も好ましい。セタン価向上剤の含有量が500質量ppmに満たない場合は、十分なセタン価向上効果が得られず、ディーゼルエンジン排出ガスのPM、アルデヒド類、さらにはNOxが十分に低減されない傾向にある。また、セタン価向上剤の含有量の上限値は特に限定されないが、軽油組成物全量基準で、1400質量ppm以下であることが好ましく、1250質量ppm以下であることがより好ましく、1100質量ppm以下であることがさらに好ましく、1000質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0067】
セタン価向上剤は、常法に従い合成したものを用いてもよく、また、市販品を用いてもよい。なお、セタン価向上剤と称して市販されているものは、セタン価向上に寄与する有効成分(すなわちセタン価向上剤自体)を適当な溶剤で希釈した状態で入手されるのが通例である。このような市販品を使用して本発明の軽油組成物を調製する場合には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
【0068】
本発明の軽油組成物においては、上記セタン価向上剤以外の添加剤を必要に応じて配合することができ、特に、潤滑性向上剤および/または清浄剤が好ましく配合される。
【0069】
潤滑性向上剤としては、例えば、カルボン酸系、エステル系、アルコール系およびフェノール系の各潤滑性向上剤の1種又は2種以上が任意に使用可能である。これらの中でも、カルボン酸系及びエステル系の潤滑性向上剤が好ましい。
カルボン酸系の潤滑性向上剤としては、例えば、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸及び上記カルボン酸の2種以上の混合物が例示できる。
エステル系の潤滑性向上剤としては、グリセリンのカルボン酸エステルが挙げられる。カルボン酸エステルを構成するカルボン酸は、1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、リノ−ル酸、オレイン酸、サリチル酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ヘキサデセン酸等がある。
【0070】
潤滑性向上剤の配合量は、HFRR摩耗痕径(WS1.4)が前述の好ましい範囲内であれば特に制限されないが、組成物全量基準で35質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましい。潤滑性向上剤の配合量が前記の範囲内であると、配合された潤滑性向上剤の効能を有効に引き出すことができ、例えば分配型噴射ポンプを搭載したディーゼルエンジンにおいて、運転中のポンプの駆動トルク増を抑制し、ポンプの摩耗を低減させることができる。また、配合量の上限値は、それ以上加えても添加量に見合う効果が得られないことから、組成物全量基準で150質量ppm以下であることが好ましく、105質量ppm以下であることがより好ましい。
【0071】
清浄剤としては、例えば、イミド系化合物;ポリブテニルコハク酸無水物とエチレンポリアミン類とから合成されるポリブテニルコハク酸イミドなどのアルケニルコハク酸イミド;ペンタエリスリトールなどの多価アルコールとポリブテニルコハク酸無水物から合成されるポリブテニルコハク酸エステルなどのコハク酸エステル;ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドンなどとアルキルメタクリレートとのコポリマーなどの共重合系ポリマー、カルボン酸とアミンの反応生成物等の無灰清浄剤等が挙げられ、中でもアルケニルコハク酸イミド及びカルボン酸とアミンとの反応生成物が好ましい。これらの清浄剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
アルケニルコハク酸イミドを使用する例としては、分子量1000〜3000程度のアルケニルコハク酸イミドを単独使用する場合と、分子量700〜2000程度のアルケニルコハク酸イミドと分子量10000〜20000程度のアルケニルコハク酸イミドとを混合して使用する場合とがある。
カルボン酸とアミンとの反応生成物を構成するカルボン酸は1種であっても2種以上であってもよく、その具体例としては、炭素数12〜24の脂肪酸および炭素数7〜24の芳香族カルボン酸等が挙げられる。炭素数12〜24の脂肪酸としては、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、炭素数7〜24の芳香族カルボン酸としては、安息香酸、サリチル酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、カルボン酸とアミンとの反応生成物を構成するアミンは、1種であっても2種以上であってもよい。ここで用いられるアミンとしては、オレイルアミンが代表的であるが、これに限定されるものではなく、各種アミンが使用可能である。
【0073】
清浄剤の配合量は特に制限されないが、清浄剤を配合した効果、具体的には、燃料噴射ノズルの閉塞抑制効果を引き出すためには、清浄剤の配合量を組成物全量基準で30質量ppm以上とすることが好ましく、60質量ppm以上とすることがより好ましく、80質量ppm以上とすることがさらに好ましい。30質量ppmに満たない量を添加しても効果が現れない可能性がある。一方、配合量が多すぎても、それに見合う効果が期待できず、逆にディーゼルエンジン排出ガス中のNOx、PM、アルデヒド類等を増加させる恐れがあることから、清浄剤の配合量は300質量ppm以下であることが好ましく、180質量ppm以下であることがより好ましい。
【0074】
なお、先のセタン価向上剤の場合と同様、潤滑性向上剤又は清浄剤と称して市販されているものは、それぞれ潤滑性向上または清浄に寄与する有効成分が適当な溶剤で希釈された状態で入手されるのが通例である。このような市販品を本発明の軽油組成物に配合する際には、軽油組成物中の当該有効成分の含有量が上述の範囲内となることが好ましい。
【0075】
また、本発明における軽油組成物の性能をさらに高める目的で、後述するその他の公知の燃料油添加剤(以下、便宜上「その他の添加剤」という。)を単独で、または数種類組み合わせて添加することもできる。その他の添加剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アルケニルコハク酸アミドなどの低温流動性向上剤;フェノール系、アミン系などの酸化防止剤;サリチリデン誘導体などの金属不活性化剤;ポリグリコールエーテルなどの氷結防止剤;脂肪族アミン、アルケニルコハク酸エステルなどの腐食防止剤;アニオン系、カチオン系、両性系界面活性剤などの帯電防止剤;アゾ染料などの着色剤;シリコン系などの消泡剤等が挙げられる。
その他の添加剤の添加量は任意に決めることができるが、添加剤個々の添加量は、軽油組成物全量基準でそれぞれ好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
【0076】
本発明の動植物油脂および動植物油脂由来成分であるトリグリセリド含有炭化水素を原料として製造された環境低負荷型軽油基材を含有した軽油組成物は、ライフサイクルCO排出特性ならびに、酸化安定性、部材影響および低温始動性の全てに優れるものである。
【実施例】
【0077】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0078】
(実施例1〜3および比較例1〜3)
表1に示す性状を有する植物油脂、または石油系水素化精製油1と植物油脂を植物油脂:石油系水素化精製油1を20:80の割合で混合した混合油を、表2に示す反応条件で反応させ、表3に示す環境低負荷型軽油基材を調製した。
また、表1に示す植物油脂をエステル化して得た脂肪酸アルキルエステルの性状を示す。これらの脂肪酸アルキルエステルはメタノールとの反応により得られたメチルエステル化合物であり、ここではアルカリ触媒(ナトリウムメチラート)の存在下で70℃、1時間程度の撹拌を行い、アルキルアルコールと直接反応させてエステル化合物を得るエステル交換反応を用いた。
表3に示した環境低負荷型軽油基材、植物油脂のメチルエステル化物および石油系基材である水素化精製油を調合して軽油組成物を製造した(実施例1〜2および比較例1〜3)。
なお、使用した添加剤は以下のとおりである。
・潤滑性向上剤:リノ−ル酸を主成分とするカルボン酸混合物
・清浄剤:オレイン酸を主成分とするカルボン酸混合物とオレイルアミンとの
反応生成物
・低温流動性向上剤:エチレン−酢酸ビニル共重合体
【0079】
調合した軽油組成物の調合比率、及びこの調合した軽油組成物に対して、15℃における密度、30℃における動粘度、引火点、硫黄分含有量、酸素分含有量、蒸留性状、芳香族分含有量、セタン価及びセタン指数、流動点、目詰まり点、10%残油の残留炭素分、灰分、水分、酸化安定性試験後の全不溶解分、過酸化物価、導電率、摩耗痕径を測定した結果を表4に示す。
【0080】
なお、燃料油の性状は以下の方法により測定した。
密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定される密度を指す。
動粘度は、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定される動粘度を指す。
硫黄分含有量は、JIS K 2541「硫黄分試験方法」により測定される軽油組成物全量基準の硫黄分の質量含有量を指す。
酸素分含有量は元素分析法により測定した。
【0081】
蒸留性状は、全てJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」によって測定される値である。
芳香族分含有量は、社団法人石油学会により発行されている石油学会法JPI−5S−49−97「炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠され測定された芳香族分含有量の容量百分率(容量%)を意味する。
水分は、JIS K 2275「水分試験方法(原油及び石油製品)」で規定される水分を意味する。
引火点はJIS K 2265「原油及び石油製品引火点試験方法」で測定される値を示す。
全酸価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」により測定される全酸価を意味する。
【0082】
セタン指数は、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」によって算出した価を指す。なお、上記JIS規格におけるセタン指数は、セタン価向上剤を添加したものに対しては適用されないが、本発明ではセタン価向上剤を添加したもののセタン指数も、上記「8.4変数方程式を用いたセタン指数の算出方法」によって算出した値を表すものとする。
セタン価は、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」の「7.セタン価試験方法」に準拠して測定されるセタン価を意味する。
【0083】
潤滑性能およびHFRR摩耗痕径(WS1.4)とは、社団法人石油学会から発行されている石油学会規格JPI−5S−50−98「軽油−潤滑性試験方法」により測定される潤滑性能を指す。
目詰まり点は、JIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」により測定される目詰まり点を指す。
流動点は、JIS K 2269「原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定される流動点を指す。
10%残油の残留炭素分とは、JIS K 2270「原油及び石油製品−残留炭素分試験方法」により測定される10%残油の残留炭素分を意味する。
灰分は、JIS K 2272「原油及び石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」によって測定される値を意味する。
酸化安定性試験後の全不溶解分とは、ASTM D2274−94に準拠して、95℃、酸素バブリング下、16時間の条件で測定される値を意味する。
過酸化物価とは、石油学会規格JPI−5S−46−96に準拠して測定される値を意味する。
導電率とは、JIS K 2276「石油製品−航空燃料油試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0084】
実施例および比較例で使用した軽油組成物は、表4に示すとおり、環境低負荷型軽油基材、植物油脂のメチルエステル化物および石油系基材である水素化精製油を特定の割合で調合して製造したものである。
【0085】
表4から明らかなように、環境低負荷型軽油基材、および環境低負荷型軽油基材と水素化精製油とを混合して使用し、本発明で規定される範囲内で配合した実施例1、2においては、硫黄含有量5質量ppm以下、酸素含有量1質量%以下を満足し、かつ90%留出温度が360℃以下、全芳香族含有量15容量%以下、セタン指数が45以上、硫黄分含有量が1質量ppm以下、酸素含有量1質量%以下、トリグリセリド含有量0.01質量%以下であり、酸価0.13mgKOH/g以下且つ酸化安定性試験後の酸価増加量が0.12mgKOH/g以下、目詰まり点(CFPP)が−5℃以下、流動点(PP)が−10℃以下、且つ製品中に含有するパラフィン分のうち、イソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率が0.80以上の軽油組成物を容易にかつ確実に得ることができた。一方、上記特定の環境低負荷型軽油基材を用いずに軽油組成物を調製した比較例1〜3においては、本発明の目的とする軽油組成物は必ずしも得られない。
【0086】
次に実施例1〜3及び比較例1〜3の各軽油組成物を用いて、以下に示す各種試験を行った。全ての試験結果を表5に示す。表5の結果から分かるように、実施例1〜3の軽油組成物は、比較例1〜3の軽油組成物に比べ、ライフサイクルでの二酸化炭素排出量が少ないこと、低温始動性に優れていること、酸化安定性に優れていることが明らかである。
【0087】
(ライフサイクルCO算出)
ライフサイクルCOは、ディーゼルエンジン搭載車両における軽油組成物の燃焼に伴い発生したCOと、採掘から車両タンクへの燃料給油までに発生したCOと分けて算出した。
燃焼に伴い発生したCO(以下、「Tank to Wheel CO」という。
)は、上記車両試験を行ったときのCO排出量、走行燃費及び燃料密度に基づいて、各軽油組成物単位発熱量当たりの排出量として算出した。
また、採掘から車両タンクへの燃料給油までに発生したCO(以下、「Well to Tank CO」という。)は、原料及び原油ソースの採掘、輸送、加工、配送、車両への給油までの一連の流れにおけるCO排出量の総和として算出した。なお、「Well to Tank CO」の算出にあたっては、下記(1B)〜(5B)に示す二酸化炭素の排出量を加味して演算を行った。かかる演算に必要となるデータとしては、本発明者らが有する製油所運転実績データを用いた。
(1B)各種処理装置、ボイラー等設備の燃料使用に伴う二酸化炭素の排出量。
(2B)水素を使用する処理においては、水素製造装置における改質反応に伴う二酸化炭素の排出量。
(3B)接触分解装置等の連続触媒再生を伴う装置を経由する場合は、触媒再生に伴う二酸化炭素の排出量。
(4B)軽油組成物を、横浜で製造又は陸揚げし、横浜から仙台まで配送し、仙台で車両に給油したときの二酸化炭素の排出量。
(5B)動植物油脂および動植物油脂由来の成分は原産地をマレーシアおよびその周辺地域とし、製造を横浜で行うとした際の二酸化炭素の排出量。
なお、動植物油脂および動植物油脂由来の成分を使用した場合、いわゆる京都議定書においてはこれらの燃料に起因する二酸化炭素は排出量として計上されないルールが適用される。本計算においては、燃焼時に発生する「Tank to Wheel CO」に対してこれを適用させた。
このようにして算出した「Tank to Wheel CO」と「Well to Tank CO」の総和であるライフサイクルCO(LC)の各排出量を表5に示す。なお、比較例1を100とし、各結果を相対的に比較、定量化した数値もあわせて示す。
【0088】
(低温始動性)
車両1を用い、環境温度の制御が可能なシャーシダイナモメータ上で、室温で、(1)供試ディーゼル自動車の燃料系統を評価燃料でフラッシング(洗浄)、(2)フラッシング燃料の抜き出し、(3)メインフィルタの新品への交換、(4)燃料タンクに評価燃料の規定量(供試車両の燃料タンク容量の1/2)の張り込みを行う。その後、(5)環境温度を室温から5℃まで急冷し、(6)5℃で1時間保持した後、(7)1℃/hの冷却速度で所定の温度(−7℃)に達するまで徐冷し、(8)所定の温度で1時間保持した後、エンジンを始動させる。10秒間のクランキングを30秒間隔で2回繰り返しても始動しない場合は不可(×)、クランキングを2回繰り返す間でエンジンが始動した場合は可(〇)とした。
【0089】
(酸化安定性試験)
ASTM D2274−94に準拠して、115℃、酸素バブリング下、16時間の条件で燃料を加速劣化させ、試験前後での色相変化を観察し、色相の悪化が有れば不可(×)とし、ない場合は可(〇)とした。
【0090】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】車両排ガス試験、燃費試験における実走行を模擬した過渡運転モードである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物油脂および/または動物油脂由来成分と、結晶性モレキュラシーブを含有する担体に担持された周期律表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒とを、水素圧力2〜13MPa、液空間速度0.1〜3.0h−1、水素油比250〜1500NL/L、反応温度150〜380℃の条件下で接触させることによって得られるイソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率が0.2以上である軽油基材と、原油等から精製された水素化精製油を、30〜50容量%:70〜50容量%混合して製造される、90%留出温度が360℃以下、全芳香族含有量15容量%以下、セタン指数が45以上、硫黄分含有量が1質量ppm以下、酸素含有量1質量%以下、トリグリセリド含有量0.01質量%以下であり、酸価0.13mgKOH/g以下且つ酸化安定性試験後の酸価増加量が0.12mgKOH/g以下、目詰まり点(CFPP)が−5℃以下、流動点(PP)が−10℃以下であり、且つ製品中に含有するパラフィン分のうち、イソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率が0.80以上であることを特徴とする軽油組成物。
【請求項2】
動植物油脂および/または動物油脂由来成分:10〜90容量と、原油等を精製して得られる硫黄分15ppm以下の石油系基材:90〜10容量%とを混合した混合油を、結晶性モレキュラシーブを含有する担体に担持された周期律表第6A族及び第8族の元素から選ばれる1種以上の金属を含有する触媒とを、水素圧力2〜13MPa、液空間速度0.1〜3.0h−1、水素油比250〜1500NL/L、反応温度150〜380℃の条件下で接触させることによって得られるイソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率が0.2以上である軽油基材と、原油等から精製された水素化精製油を、30〜50容量%:70〜50容量%混合して製造される、90%留出温度が360℃以下、全芳香族含有量15容量%以下、セタン指数が45以上、硫黄分含有量が1質量ppm以下、酸素含有量1質量%以下、トリグリセリド含有量0.01質量%以下であり、酸価0.13mgKOH/g以下且つ酸化安定性試験後の酸価増加量が0.12mgKOH/g以下、目詰まり点(CFPP)が−5℃以下、流動点(PP)が−10℃以下であり、且つ製品中に含有するパラフィン分のうち、イソパラフィン/ノルマルパラフィンの比率が0.80以上であることを特徴とする軽油組成物。



【図1】
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【公開番号】特開2007−308576(P2007−308576A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138364(P2006−138364)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】