説明

軽油組成物

【課題】バイオディーゼルを含有しても高い酸化安定性、貯蔵安定性を示す軽油組成物を提供する。
【解決手段】トコフェロールの含有量が1〜100質量ppm、硫黄分が10質量ppm以下、密度が0.81〜0.86g/cm、30℃における動粘度が1.7〜6.0mm/s、HFRRが460μm以下、及び酸化安定度が0.12mgKOH/g以下である軽油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化安定性及び貯蔵安定性を改善した軽油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気環境改善のための方策として、ディーゼル車から排出される窒素酸化物(NOx)及び粒子状物質(PM)などの低減が進められており、ディーゼル車に各種の排ガス浄化装置が装着されている。排ガス浄化装置の性能を発揮させるためには、軽油中の硫黄分を低減することが求められ、我が国では、2005年よりサルファーフリー軽油(硫黄分が10質量ppm以下)が市場に導入された。サルファーフリー軽油は、硫黄分を低減する過程で、通常、従来よりも高温で処理され、多大な熱負荷を受ける。これにより、不安定な物質を生成しやすく、酸化安定性が悪化する傾向にあり、改善が求められている。
【0003】
軽油の酸化安定性を改善させるため、芳香族アミン系やフェノール系等の酸化防止剤を添加する方法が知られている(特許文献1参照)。
また、酸化防止剤を使用しない方法として、沸点が220℃以下の留分、1環の芳香族、2環の芳香族、3環の芳香族、セタン指数等を適切な範囲にコントロールすることにより、酸化安定性が良好な軽油を提供できることが提案されている。(特許文献2参照)
【0004】
一方地球環境問題、とりわけ二酸化炭素削減の方策として、カーボンニュートラルのバイオ燃料の導入が進められ、軽油にはバイオディーゼルとして、脂肪酸メチルエステル等が用いられている。この脂肪酸メチルエステルは、不飽和脂肪酸を含むため酸化安定性が悪いことから、フェノール系等の合成酸化防止剤が広く使用されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−33076号公報
【特許文献2】特開2008−7675号公報
【特許文献3】特開2006−283028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、硫黄分が低く酸化安定性が良好な軽油組成物を提供すること、特には、バイオディーゼルを含有する燃料であっても高い酸化安定性、貯蔵安定性を示す軽油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、トコフェロールを含有する軽油は、優れた酸化安定性を示すこと、さらに酸化安定性が悪化する低硫黄軽油やバイオディーゼルを含む軽油であっても、優れた酸化安定性を示すことを見出した。また、トコフェロールに加えトコトリエノールをさらに含む軽油は、より優れた酸化安定性、貯蔵安定性を示すことを見出し、本発明に想到した。
【0007】
本発明は、以下のとおりの軽油組成物である。
(1) トコフェロールの含有量が1〜100質量ppm、硫黄分が10質量ppm以下、密度が0.81〜0.86g/cm、30℃における動粘度が1.7〜6.0mm/s、HFRRが460μm以下、及び酸化安定度が0.12mgKOH/g以下であることを特徴とする軽油組成物。
(2) さらに、トコトリエノールの含有量が1〜100質量ppmである、上記(1)に記載の軽油組成物。
(3) トコフェロールの含有量が1〜50質量ppm、及びトコトリエノールの含有量が1〜50質量ppmである上記(1)又は(2)に記載の軽油組成物。
(4) さらに、脂肪酸メチルエステルを1〜20質量%含有し、前記トコフェロール及び/又はトコトリエノールの全部又は一部が前記脂肪酸メチルエステルに含有されるものである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の軽油組成物。
(5) 酸化安定度が0.13〜1.5mgKOH/gである炭化水素系の軽油基材と、トコフェロールとトコトリエノールの合計含有量が20〜2000質量ppmである脂肪酸メチルエステルとを含む、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の軽油組成物。
(6) 冷暗所に室温で9ヶ月間保存した後の、酸化安定度が0.12mgKOH/g以下である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の軽油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、低硫黄で酸化安定性、潤滑性が良好な軽油組成物を得ることができ、熱劣化によるデポジットの生成を抑えることができる。したがって、インジェクターの詰まりを防止し、燃料噴射ポンプやインジェクターの摩耗を防止することができ、更には、貯蔵安定性も改善されることから、長期保管を行っても良好な安定性が維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の軽油組成物は、トコフェロールを1〜100質量ppm含有する。さらには、トコトリエノールを1〜100質量ppm含有することが好ましい。トコフェロールとトコトリエノールの両者を含有する場合、その合計含有量は、2〜100質量ppmが好ましい。トコフェロール、トコトリエノールの一方でも、酸化安定性効果は得られるが、トコフェロールとトコトリエノールの両方を含む場合、さらに高い酸化安定性が得られる。より好ましい合計含有量は5〜100質量ppmである。トコフェロール、トコトリエノールの各含有量或いはそれらの合計量が、1質量ppm未満では十分な酸化安定性が得られず、一方、100質量ppmを超えても、その増量に見合う効果の向上がなく、コストがかさむので好ましくない。トコフェロールの含有量は、1〜50質量ppmがより好ましく、5〜50質量ppmが特に好ましい。また、トコトリエノールの含有量は、1〜50質量ppmがより好ましく、5〜50質量ppm含有することが特に望ましい。
【0010】
トコフェロール及びトコトリエノールは、合成品、天然物由来のいずれも使用できる。天然物由来として、例えば、ひまわり油、アーモンド油、綿実油、サフラワー油、とうもろこし油、菜種油、大豆油、パーム油、小麦胚芽油などの油脂又はこれら油脂の原料となる種子等から抽出、蒸留などの公知の方法により分離、精製して得られるトコフェロール、トコトリエノールないしは各種の精製工程中における様々な濃度の中間製品が挙げられ、本発明の軽油組成物を調製する際に使用することができる。
上記の植物由来の油は、実質的にトコフェロールとトコトリエノールのいずれか一方だけを有するもの、両方とも含むものがあり、いずれも使用できるが、トコフェロールとトコトリエノールの両方を含むものが好ましい。
【0011】
圧搾や抽出等によって回収した油脂は、低温で固化したり、あるいは酸化して変質し、スラッジなどを発生するため、そのままでは、ディーゼル燃料として用いることが難しい。食用油の廃油などもディーゼル燃料として使えなくはないが、乗用車用の汎用軽油として用いるため、油脂をメタノールと反応して得られた脂肪酸メチルエステルを用いる。油脂とメタノールとのメチルエステル化反応において、トコフェロール及びトコトリエノールは、反応には実質的に関与しないので、そのまま、反応生成物に含まれて脂肪酸メチルエステルとともに得られる。
【0012】
したがって、本発明の軽油組成物に含有されるトコフェロール、トコトリエノールは、脂肪酸メチルエステルの原料となる油脂から持ち越され、脂肪酸メチルエステル中に含まれるトコフェロール、トコトリエノールであっても良い。この場合は、軽油中にバイオディーゼル燃料としての脂肪酸メチルエステルを配合すれば、トコフェロール、トコトリエノールを配合する手間が省けるので好ましい。
【0013】
バイオディーゼル燃料のために用いる脂肪酸メチルエステルは、植物油、動物油及び/又はこれらの廃油を原料として、メチルエステル化することにより製造される。メチルエステル化は化学処理(エステル交換)のみでなく、酵素法、超臨界法、イオン交換樹脂法等の公知のどのような方法を用いて行ってもかまわない。脂肪酸メチルエステルの原料油としては動・植物油を用いることができる。植物油としては、具体的には、とうもろこし油、大豆油、オリーブ油、菜種油、ごま油、落花生油、ジャトロファ油、パーム油、ひまわり油、アーモンド油、綿実油、サフラワー油、小麦胚芽油などが挙げられ、動物油としては、肝油、鯨油、牛脂、牛酪脂、馬油、豚油、羊油などを挙げることができる。本発明の軽油組成物の場合、前記の原料油から持ち越されたトコフェロール、トコトリエノールを含む脂肪酸メチルエステルがより好ましく、中でも、パーム油、大豆油、菜種油から製造された脂肪酸メチルエステルが好ましい。また、例えば、適度な水洗などの方法により軽度に精製された原料油をメチルエステル化に用いることで、トコフェロール、トコトリエノールをより多く含む脂肪酸メチルエステルを得ることができる。
本発明の軽油組成物は、脂肪酸メチルエステルが配合される場合、1〜20質量%含むことが好ましく、1〜5質量%含むことがより好ましい。換言すれば、本発明の軽油組成物には、脂肪酸メチルエステルを、1〜20質量%、より好ましくは1〜5質量%含有されるように配合することができる。脂肪酸メチルエステルは、トコフェロールとトコトリエノールの両方を含有するものが好ましく、トコフェロールとトコトリエノールの含有量が合計で20〜2000質量ppmである脂肪酸メチルエステルが好ましい。脂肪酸メチルエステルの配合量が20質量%を超える場合は、燃料系などのゴムシール材に対する影響が生じる場合が懸念される。この観点から、配合量として1〜5質量%がより好ましい。
【0014】
本発明の軽油組成物は、トコフェロール及び/又はトコトリエノールの含有量が1〜100質量ppmであることに加えて、次の性状を有する。
硫黄分が10質量ppm以下であり、好ましくは8質量ppm以下である。10質量ppmを超える場合は、排ガス後処理装置の性能が発揮されず、結果、排ガス中のPM排出量が増大する恐れがある。硫黄分が10質量ppm以下において、酸化安定性が悪化しているケースが多いが、特にトコフェロールとトコトリエノールの含有量を特定することにより良好な酸化安定性を確保して本発明の効果が特に引き出される。
【0015】
本発明の軽油組成物の密度は、0.81〜0.86g/cmである。好ましくは、0.81〜0.85g/cmであり、さらに好ましくは0.82〜0.84g/cmである。0.81g/cm未満の場合、燃費が悪くなることがあり、一方、0.86g/cmを超えると、PMの排出量が増加することがある。
【0016】
本発明の軽油組成物は、30℃の動粘度が1.7〜6.0mm/sであり、好ましくは、2.0〜5.0mm/s、より好ましくは、2.5〜4.0mm/sである。1.7mm/s未満の場合、燃料燃料噴射ポンプ側の燃料噴射時期制御が困難となる場合がある。またエンジンに搭載された燃料噴射ポンプの各部における潤滑性が損なわれるおそれがある。6.0mm/sを超える場合、燃料噴射システム内部の抵抗が増加して噴射系が不安定化し、排出ガス中のNOx、PMの濃度が高くなる場合がある。
【0017】
本発明の軽油組成物は、HFRR(High Frequency Reciprocating Rig)の値が、460μm以下である。好ましくは、400μm以下、より好ましくは360μm以下である。400μmを超える場合は、燃料噴射ポンプなどにおいて摩耗が増える場合がある。
HFRRは、試験鋼板の上に試験鋼球を置き、接触部を燃料試料で完全に浸漬した状態で一定荷重をかけて試験鋼球を1mm振幅、60Hzの周波数で往復運動させ、その試験鋼球に発生する摩耗痕跡を測定するもので、詳細にはJPI−5S−50−98「石油−潤滑性試験方法」により測定される。
【0018】
本発明の軽油組成物は、酸化安定性の指標として、酸化安定度が0.12mgKOH/g以下である。酸化安定度は0.10mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは0.05mgKOH/g以下である。酸化安定度が0.12mgKOH/gを超える場合は、熱負荷や酸化劣化による酸及びスラッジの発生が起こりやすくなる。
なお、酸化安定度は、ISO12205の酸化安定性試験に準拠して求めた。なお、試料温度は95℃から115℃に変更し、試料350mL中に、酸素を供給量3L/hにて16時間バブリングした後、試料を氷水にて冷却して室温に戻す強制酸化試験を行い、この酸化試験後の試料の酸価(TAN)と酸化試験前の試料の酸価(TAN)をそれぞれ求めると、その差(ΔTAN=TAN−TAN)が酸化安定度として求められる。酸化安定度は、数値が小さいほど酸化安定性に優れていることを示す。なお、酸価とはJIS K2501「中石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」)に基づいて測定した全酸価である。
【0019】
本発明の軽油組成物は、酸化安定性に優れ、かつ、貯蔵安定性も良好である。貯蔵安定性は、保管状態で長期間放置した後の酸化安定度から評価するものである。ここでは、具体的には、ブリキ製の4L缶(寸法:150×110×280mm)に試料油を2L充填し、冷暗所にて室温(10〜30℃)で9ヶ月保存した後、上記の酸化安定性試験の方法で試料油の酸化安定度を測定する。このようにして測定された酸化安定度の数値を、貯蔵安定性の指標として、貯蔵安定度とする。貯蔵安定度は、0.12mgKOH/g以下であることが好ましい。低いほど好ましく、より好ましくは、0.10mgKOH/g以下である。
【0020】
脂肪酸メチルエステルを含有する場合の、本発明の軽油組成物の好ましい性状は次のとおりである。
・トリグリセリド含有量は、燃料フィルターの詰まりや、部品の摺動不良の観点から、0.01質量%以下であることが好ましい。
・メタノール含有量は、金属部品の腐食の観点から、0.01質量%以下であることが好ましい。
・ギ酸、酢酸、プロピオン酸の含有量は、金属部品の腐食の観点から、合計が0.003質量%以下であることが好ましい。
・酸価が、金属部品の腐食の観点から、0.13mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0021】
蒸留性状としては、10%留出温度(T10)は、160℃以上が好ましく、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、上限として260℃以下が好ましく、より好ましくは250℃以下である。T10が160℃に満たない場合は、エンジンの出力が低下する恐れがあり、一方、260℃を超える場合は、排ガス性能が悪化する恐れがある。
50%留出温度(T50)は、加速性等の常温運転性を良好にする観点から、220〜310℃が好ましく、より好ましくは240〜300℃である。
90%留出温度(T90)は、280℃以上が好ましく、より好ましくは300℃以上であり、上限としては350℃以下が好ましく、より好ましくは340℃以下である。280℃未満の場合は、エンジン出力が低下する恐れがあり、350℃を超えると、燃焼室の汚染やインジェクターノズルへのカーボン付着が多くなり、燃料の噴霧状態が悪化し、振動などの不具合が発生する可能性がある。
【0022】
本発明の軽油組成物の製造方法は、特に限定するものでなく、通常の方法で製造することができる。したがって、本発明の軽油組成物は、上記性状が確保できるように、軽油を調製するときに用いられる通常の軽油基材と、トコフェロール、トコトリエノールあるいはこれらを含有する油脂、脂肪酸メチルエステルなどのトコフェロール、トコトリエノール含有基材とを適宜配合して得られる。
軽油基材としては、例えば、直留軽油、減圧軽油、水素化精製軽油、水素化脱硫軽油、水素化分解軽油、接触分解軽油、直脱軽油、間脱軽油、水素化脱硫灯油などが挙げられる。これらを1種又は2種以上組み合わせて用いる。
【0023】
トコフェロール、トコトリエノール含有基材としては、これらを含有する油脂、食用油などの廃油、これらをメチルエステル化して得られた脂肪酸メチルエステル、トコフェロール及び/又はトコトリエノールの濃縮品、該濃縮品を得る際の中間製品などが挙げられる。トコフェロール、トコトリエノール含有基材は、軽油組成物のトコフェロール及び/又はトコトリエノール含有量が上記の範囲内となるように配合すればよい。
本発明の軽油組成物は、トコフェロール、トコトリエノールを含有しないトコフェロール、トコトリエノール含有基材相当品も配合基材として用いることができる。このような配合基材として、トコフェロール、トコトリエノールを含有しない油脂、食用油などの廃油、これらをメチルエステル化して得られた脂肪酸メチルエステルなどを挙げることができる。
【0024】
軽油組成物の酸化安定度は数値として小さいほど好ましく、このため配合基材の酸化安定度も通常小さい数値の良好なものほど好ましいといえる。ところが、本発明の場合、トコフェロール、トコトリエノール含有基材を、トコフェロール及び/又はトコトリエノールの含有量が1〜100質量ppmとなるように配合するため、この結果、酸化安定性を顕著に改善するという格別な効果を発揮する。このことから、軽油組成物を構成するトコフェロール、トコトリエノール含有基材以外の軽油成分でなる組成物(ベース軽油)の酸化安定度の数値が大きく、酸化安定性が悪いものに対してより大きな効果を示す。例えば、酸化安定度が0.13〜1.5mgKOH/gであるベース軽油に、トコフェロール及び/又はトコトリエノールを20〜2000質量ppm含む脂肪酸メチルエステルを配合する場合に、本発明の効果がより一層発揮される。
【0025】
本発明の燃料油組成物には、公知の燃料油添加剤の1種又は2種以上を、必要に応じて配合できる。特には、不飽和脂肪酸、高級直鎖脂肪酸などの脂肪酸系やグリセリンモノ脂肪酸エステルなどのエステル系の潤滑性向上剤;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アルキルアクリレート共重合体、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート等のポリマー系や、アルケニルコハク酸アミド等の界面活性剤型などの低温流動性向上剤;硝酸アルキル系などセタン価向上剤が挙げられる。添加量は、目的の効果が得られるように適宜な量を添加すればよいが、通常は仕上がりの軽油組成物基準で、10〜10,000質量ppm程度添加すればよい
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0027】
軽油基材として、バイオディーゼル燃料を含有しない鉱油系の市販軽油(基材A、B)とバイオディーゼル燃料である脂肪酸メチルエステル(FAME1〜3)の5種類を使用した。5種類の軽油基材の性状、成分組成を表1に示す。
基材A:酸化安定度が、1.02mgKOH/gの市販軽油。
基材B:酸化安定度が、0.03mgKOH/gの市販軽油。
FAME1:パーム油を原料として、エステル交換反応によりメチルエステル化して、水洗により軽度に精製された、脂肪酸メチルエステル。トコフェロールとトコトリエノールを含有する。
FAME2:パーム油を原料として、エステル交換反応によりメチルエステル化して、減圧蒸留により高度に精製された、脂肪酸メチルエステル。トコフェロールとトコトリエノールを含有しない。
FAME3:大豆油を原料として、エステル交換反応によりメチルエステル化して、水洗により軽度に精製された脂肪酸メチルエステル。トコフェロールを含有し、トコトリエノールを含有しない。
【0028】
添加剤として、パーム油を原料として、抽出、精製されたトコフェロール、トコトリエノール濃縮物(単に、トコフェロール濃縮物という)を用いた。該濃縮物中のトコトリエノール含有量は6.7質量%であり、トコフェロール含有量が1.3質量%であった。
【0029】
【表1】

【0030】
基材A、基材B、FAME1〜3及びトコフェロール濃縮物を、表2上部に示す割合で配合し、実施例1〜4及び比較例1〜2の軽油組成物を調製し、それぞれの軽油組成物について物性、成分組成、安定性を試験し、評価した。その結果を表2下部に示す。
【0031】
表1及び2の性状や成分組成は次の試験方法、測定方法に準拠して求めた。
密度:JIS K2249「原油及び石油製品−密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定
硫黄分:JIS K2541−6「原油及び石油製品−硫黄分試験法(紫外蛍光法<JISのどこにあるか?>)」により測定
動粘度:JIS K2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」により測定
蒸留性状:JIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」により測定
脂肪酸メチルエステル含有量
トリグリセリド含有量:揮発油等の品質の確保等に関する法律施行規則に基づく高速液体クロマトグラフィー法により測定
エタノール含有量:揮発油等の品質の確保等に関する法施行規則に基づく酸素検出式ガスクロマトグラフ法により測定
ギ酸、酢酸、プロピオン酸含有量:揮発油等の品質の確保等に関する法施行規則に基づく水抽出イオンクロマトグラフ法により測定
トコフェロール、トコトリエノール含有量:高速液体クロマトグラフィー法により以下の条件下に測定
カラム:シリカゲル
移動相:酢酸/2−プロパノール/ヘキサン(5/6/1000、V/V)
検出器:紫外可視検出器(UV290nm)
潤滑性(HFRR):前述の方法により測定
酸化安定度:前述の方法により測定
貯蔵安定度:前述の方法により測定
総合評価は次の基準で評価した。
◎:酸化安定性、貯蔵安定性ともに優れる。
○:酸化安定性又は貯蔵安定性の一方に優れる。
×:酸化安定性、貯蔵安定性ともに劣る。
【0032】
【表2】

【0033】
表2から、比較例に比べ、実施例は何れも酸化安定性、貯蔵安定性が優れていることがわかる。特に、トコフェロールとトコトリエノールを両方含む実施例1、実施例2及び実施例4が優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トコフェロールの含有量が1〜100質量ppm、硫黄分が10質量ppm以下、密度が0.81〜0.86g/cm、30℃における動粘度が1.7〜6.0mm/s、HFRRが460μm以下、及び酸化安定度が0.12mgKOH/g以下であることを特徴とする軽油組成物。
【請求項2】
さらに、トコトリエノールの含有量が1〜100質量ppmである、請求項1記載の軽油組成物。
【請求項3】
トコフェロールの含有量が1〜50質量ppm、及びトコトリエノールの含有量が1〜50質量ppmである請求項1または2に記載の軽油組成物。
【請求項4】
さらに、脂肪酸メチルエステルを1〜20質量%含有し、前記トコフェロール及び/又はトコトリエノールの全部又は一部が前記脂肪酸メチルエステルに含有されるものである請求項1〜3のいずれかに記載の軽油組成物。
【請求項5】
酸化安定度が0.13〜1.5mgKOH/gである軽油基材と、トコフェロールとトコトリエノールの合計含有量が20〜2000質量ppmである脂肪酸メチルエステルとを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の軽油組成物。
【請求項6】
冷暗所に室温で9ヶ月間保存した後の、酸化安定度が0.12mgKOH/g以下である請求項1〜5のいずれかに記載の軽油組成物。