説明

軽質オレフィンの製造方法

【課題】炭化水素を原料とし、工業的にプロピレンを高い収率で得ることができる軽質オレフィンの製造方法を提供すること。
【解決手段】炭化水素原料を接触転換させて軽質オレフィンを製造する方法において、リンおよび希土類元素を含有するとともに、周期表10〜12族の元素の少なくとも一種を含有するゼオライトを触媒として用い、かつ、該ゼオライトに担持された10〜12族元素の粒子径が1nm以下であることを特徴とする軽質オレフィンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽質オレフィンの製造方法に関し、詳しくは、プロピレンを高い収率で得ることができる軽質オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種化学品の基礎原料として重要なエチレン、プロピレン(以下、「軽質オレフィン」と表記する)は、主として、エタン、プロパン、ブタン等のガス状炭化水素あるいはナフサ等の液状炭化水素を原料とし、外熱式の管状炉内で水蒸気雰囲気下に加熱分解する方法で製造されている。しかしながらこの方法では、オレフィン収率を高めるため800℃以上の高温を必要とし、そのために高価な装置材料を使用しなければならないという経済的に不利な点を有している。また、エチレンに対してプロピレンの生成量が少ない、といった課題もある。このため、軽質オレフィン、特にプロピレンをより多く得るための方法として、ゼオライト触媒を用いた炭化水素の接触転換法が種々検討されてきている。
【0003】
ゼオライト触媒としては、ZSM−5型等のペンタシル型のゼオライトを用いた報告が最も多く、例えば、特許文献1には、アルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオン型のZSM−5型ゼオライトに、周期表IB族の元素(銀など)を含有させた触媒を用いて、ナフサの反応を行い、エチレン、プロピレン等を製造する方法が記載されている。
この触媒では、「実質的に酸性サイトをもたないように調製することが重要」としている(段落〔0013〕参照)。該特許文献によれば、プロピレンの収率はエチレンの収率よりも低い。
また、特許文献2には、実質的にプロトンを含まず、周期表IB族の元素(銀など)を含有させた触媒を用いて、ブテンの反応を行い、エチレン、プロピレンを製造する方法が開示されている。この触媒については、「IB族金属を対応する陽イオンの状態で含むこと」との記載がある(段落〔0031〕参照)。この触媒は、ゼオライト中のプロトン量(酸量)が、ゼオライト1グラムあたり0.02ミリモル以下であり、「実質的にプロトンを含まない」ことを特徴とする(段落〔0027〕参照)。該特許文献に記載のプロピレン収率は約20質量%である。
【0004】
一方、上述の特許文献のような周期表IB族の元素(銀など)での修飾ではなく、希土類やリンで修飾したZSM−5型ゼオライトを用いた例も開示されている。例えば、特許文献3には、ZSM−5型ゼオライトを希土類およびリンで修飾した触媒を用い、n−ブタンの反応を行った例が記載されているが、プロピレンの収率は約20質量%であり、エチレンの収率よりも低い(実施例4参照)。さらに、特許文献4には、希土類およびリンに加え、さらにマンガン及び/又はジルコニウムで修飾したZSM−5型ゼオライトを触媒として用い、n−ブタンの反応を行った例が記載されているが、プロピレン収率は約20質量%以下である(実施例8参照)。
また、特許文献4および特許文献5には、銀あるいは銅と、リンで修飾したZSM−5型ゼオライトを触媒として、炭素数3〜10のパラフィンを主体とする炭化水素の接触反応によって、プロピレンが高収率(30〜60質量%)で得られることが記載されているが、ヘリウムガスで高希釈したパルス反応での結果であり、工業的に実施可能な反応条件で連続的にプロピレンが高収率で得られることは報告されていない。
なお、「周期表」の記載としては、上述の従来技術の記載では、引用した特許文献の例にしたがって、非特許文献1に記載の周期表の表記を参考に記載したが、以降の記述では、国際純正・応用化学連合(IUPAC:The International Union of Pure and Applied Chemistry)の周期表「IUPAC Periodic Table of the Elements,October 3th, 2005」にしたがって記載する。したがって、例えば上述の銀などの「IB族」は、IUPACの周期表では、「11族」となる。
【0005】
【特許文献1】特開平8−126844号公報
【特許文献2】特開2007−106738号公報
【特許文献3】特開平11−180902号公報
【特許文献4】特開2004−143373号公報
【特許文献5】特開平2−1413号公報
【特許文献6】特開平2−184638号公報
【非特許文献1】CRC Handbook of Chemistryand Physics,75th edition(David R.Lideら著、CRC Press Inc.発行、1994〜1995年、1〜15頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、炭化水素を原料とし、工業的にプロピレンを高い収率で得ることができる軽質オレフィンの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、特定の元素を含有するゼオライト触媒であって、かつ該特定の元素の粒子径を選択したゼオライト触媒を用いることによって、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明は、
【0008】
〔1〕炭化水素原料を接触転換させて軽質オレフィンを製造する方法において、リンおよび希土類元素を含有するとともに、周期表10〜12族の元素の少なくとも一種を含有するゼオライトを触媒として用い、かつ、該ゼオライトに担持された10〜12族元素の粒子径が1nm以下であることを特徴とする軽質オレフィンの製造方法、
〔2〕周期表10〜12族の元素が、銀、亜鉛、及びパラジウムの中から選ばれる少なくとも一種の元素である前記〔1〕に記載の軽質オレフィンの製造方法、
〔3〕ゼオライトがペンタシル型のゼオライトである前記〔1〕又は〔2〕に記載の軽質オレフィンの製造方法、
〔4〕ゼオライトが、MFI型構造のゼオライトである前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の軽質オレフィンの製造方法、
〔5〕炭化水素原料が、炭素数4以上の炭化水素類を10質量%以上含むものである前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の軽質オレフィンの製造方法、
〔6〕炭化水素原料が、ブテン類であることを特徴とする前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の軽質オレフィンの製造方法、及び
〔7〕軽質オレフィンが、プロピレンを主成分とするものである前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の軽質オレフィンの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭化水素原料を原料とし、工業的にプロピレンを高い収率で得ることができる軽質オレフィンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、炭化水素原料を接触転換させて軽質オレフィンを製造する方法において、リンおよび希土類元素を含有するとともに、周期表10〜12族の元素の少なくとも一種を含有するゼオライトを触媒として用い、かつ、該ゼオライトに担持された10〜12族元素の粒子径が1nm以下であることを特徴とする軽質オレフィンの製造方法である。
【0011】
本発明で使用する炭化水素原料としては、常温、常圧でガス状または液状の炭化水素類が使用できる。一般的には、炭素数2〜30、好ましくは2〜20の炭化水素原料が用いられる。このような炭化水素原料としては、例えば、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のパラフィン類、ブテン類、ペンテン類、ヘキセン類等のオレフィン類、シクロヘキサン等のナフテン類、あるいはナフサ、軽油等の軽質炭化水素留分を挙げることができる。これらの中で、より多くのプロピレンを生成するために適した原料としては、炭素数4以上の炭化水素類を10質量%以上含有する原料が好ましい。また、ブテン類、ペンテン類、ヘキセン類のような不飽和結合を有する原料が好ましく、特にブテン類を10質量%以上、好ましくは20質量%以上含む原料が適している。ブテン類とは、1−ブテン、2−ブテン、イソブテンのことであり、これらは混合物の状態で使用することができる。
【0012】
本発明の触媒は、希土類元素およびリンを含み、周期表10〜12族の元素の少なくとも1種を含有するゼオライトを触媒の主成分とする。該ゼオライトとしては、ペンタシル型のゼオライトが好ましく、特にMFI型構造のものが好ましい。「MFI」は、国際ゼオライト連盟(International Zeolite Association)によって、ある特定の結晶構造を有するゼオライト種に対して付与される構造コードのひとつであり、MFI型構造ゼオライトの代表的なものとしては、ZSM−5及び/又はZSM−11が挙げられる。
また、当該ゼオライトのSiO2/Al23比は25〜800、好ましくは40〜600であり、さらに好ましくは60〜300である。
【0013】
希土類元素としてはどのようなものでも使用できるが、好ましくは、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム等を挙げることができる。希土類元素は、それぞれを単独で使用しても、また、2種以上を混合して使用してもよい。触媒への希土類の修飾は、種々の塩、例えば酢酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、炭酸塩、あるいはアルコキシド、アセチルアセトナト等を使用し、イオン交換法、含浸法あるいは水熱合成法その他の方法で行うことができる。
【0014】
本触媒の性能発現には、希土類元素に加えてリンと、周期表10〜12族の元素の少なくとも1種を触媒に含有させることが必須である。希土類元素、リン、周期表10〜12族の元素での修飾の順序については特に制約はなく、同時に修飾してもよいが、周期表10〜12族の元素、リン、希土類元素、の順で修飾する方がより好ましい。周期表10〜12族の元素としては、銀、亜鉛、パラジウムが好ましく、銀がより好ましい。ゼオライトへの導入は、それぞれの各種化合物を用いたイオン交換法、含浸法あるいは水熱合成法その他の方法で行うことができる。また、リンは、リン酸および/またはリン酸のアンモニウム塩等の水溶液に、ゼオライトを含浸、またはゼオライト上にこれらの水溶液を噴霧することによって担持することができる。リンの担持量は、0.2〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0015】
本触媒での希土類元素、リン、周期表10〜12族の元素はゼオライト上に担持あるいは含有されていることが重要であり、ゼオライトとこれらの修飾剤を物理的に混合しただけでは本触媒の効果は得られない。
本発明の触媒において、希土類元素の含有量は、ゼオライト中のアルミニウムに対し原子比で0.4〜20、好ましくは0.6〜5、さらに好ましくは1〜3であり、これらの値より含有量が少ない場合は副生成物である重質コークや芳香族が多くなり、含有量が多すぎる場合は触媒活性が低くなりプロピレン収率が低下する。一方、周期表10〜12族の元素の含有量は、その合計のモル数が、ゼオライト中のアルミニウムのモル数に対し、0.1〜20、好ましくは0.5〜10、さらに好ましくは1〜5であり、これらの値より含有量が少ない場合はプロピレンの生成量が低くなり、含有量が多すぎる場合は触媒活性が低くなる。また、このとき、担持された周期表10〜12族の元素は、ゼオライト上での粒子径を1nm以下となるように制御することが必要である。担持した後のこれらの粒子径が1nmよりも大きいと、触媒活性が著しく低下する。これらの金属の粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)あるいは、粉末X線回折分析等で測定することができる。
【0016】
本発明の触媒の形状は特に限定されず、粉末や成型品等のいずれの形状のものでもよい。また、これらの触媒はゼオライトおよび希土類元素、リン、周期表10〜12族の元素以外の他の成分、例えばアルカリ元素、アルカリ土類元素、各種バインダー等が含まれていてもよい。シリカ、アルミナ、マグネシアあるいは石英砂等の充填剤と混合して使用することも可能である。
本発明の接触転換反応の様式は特に限定しないが、固定床、移動床、流動床等の形式の反応器を使用し、上記の触媒を充填した触媒層へ炭化水素原料を供給することにより行われる。このとき炭化水素原料は、窒素、水素、ヘリウムあるいはスチーム等で希釈されていてもよい。反応温度は350〜780℃、好ましくは450〜650℃、さらに好ましくは500〜600℃の範囲である。780℃を越える温度でも実施できるが、メタンおよびコークの生成が急増する。また350℃以下では十分な活性が得られないため、一回通過あたりのプロピレン収量が少なくなる。反応圧力は常圧、減圧あるいは加圧のいずれでも実施できるが、通常は常圧からやや加圧が採用される。
以上のような条件下に本発明の方法を実施すれば、炭化水素原料から、軽質オレフィン特にプロピレンを選択的に製造することができる。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0018】
実施例1
〔ゼオライト触媒の調製〕
ゼオライトとして粉末状のプロトン型ZSM−5ゼオライト(ケイ光X線分析で測定したSiO2/Al23比=60、比表面積350m2/g、粒子径150μm以下)100重量部を、硝酸銀を含む水溶液(1.575重量部の硝酸銀を脱イオン水1000重量部に溶解させたもの)に含浸し、40℃で2時間攪拌した。生成したスラリーを減圧下、40〜60℃で攪拌しながら約2時間かけて水分を蒸発させ、白色の粉末を得た。得られた粉末を空気中、120℃で8時間乾燥した後、マッフル炉内で4時間かけて600℃まで昇温し、600℃で5時間焼成した。得られた固体を粉砕し、さらに塩化ランタン水溶液(26.7質量部の塩化ランタン7水和物を脱イオン水1000質量部に溶解させたもの)に含浸し、硝酸銀水溶液に含浸したときと同様な操作で乾燥・焼成し、白色の固体を得た。それを乳鉢で粉砕し、リン酸水素二アンモニウム水溶液(リン酸水素二アンモニウム17.1質量部を脱イオン水1000質量部に溶解させたもの)に含浸し、同様な操作で乾燥・焼成し、白色の固体を得た。それを乳鉢で粉砕し、さらにアルミナバインダー25質量部を加えて混練した後に、押出成型して直径1.6mm、長さ約2cmの円柱状の成型体とした(「触媒A」と呼称)。
得られた成型体(触媒A)は、ランタン:6.4質量%、リン:3.0質量%、銀:0.6質量%を含んでいた(蛍光X線分析法で定量、以下同様)。
【0019】
上記のように調製した触媒を、日立ハイテクノロジーズ社製HF2200透過型電子顕微鏡(加速電圧200kV)で観察した(観察用の試料は、触媒を乳鉢で粉砕しヘプタン溶媒中に分散した後に、分散液をマイクログリット支持膜付き銅メッシュに滴下し、室温でヘプタンを乾燥することで調製した)。
観察の結果、銀に基づく明確な粒子は観測されず、またX線粉末回折分析でも銀粒子に基づくピークは観測されなかった(X線粉末回折分析は、リガク製RINT UltimaIII型X線回折装置を用い、Cu−Kα線によって測定範囲2θ=5〜80°、X線出力40kV、40mAの条件で測定した)。
これらのことから担持された銀の粒子径は1nm以下となっていることを確認した。
【0020】
一方、フーリエ変換赤外分光法で触媒Aの赤外分光分析を行ったところ、酸性のプロトンに基づく吸収(3605cm-1)がみられ、酸性プロトンを有していることが確認された。またアンモニアTPD分析で、酸点の量を測定したところ、0.12mmol/gの酸量を有していることがわかった。
なお、フーリエ変換赤外分光分析は、非特許文献2に記載の方法に従い、日本分光株式会社製のフーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−550型を使用して実施し、アンモニアTPD分析は、非特許文献3に記載の方法に従って日本ベル株式会社製のTPD−1−AT型を用いて測定した。
【0021】
非特許文献2:Trends in Physical Chemistry、第1巻、133頁、(T.Sanoら著、1990年)
非特許文献3:ゼオライト、第21巻、第2号、45〜52頁(片田直伸、丹羽幹 著、2004年)
【0022】
〔軽質オレフィンの製造実験〕
この触媒1gを内径10mmのステンレス製反応管(外径3mmの熱電対用内挿管付き)に充填した。触媒層の上下には石英砂を充填した。このリアクターに空気を40cm3/min(0℃、1気圧換算、以下同じ)で流しながら触媒層の温度を600℃まで昇温し、そのまま1時間前処理を行った。前処理終了後、触媒層の温度を550℃に保持し、原料として1−ブテンを6cm3/min、窒素およびスチームをそれぞれ20cm3/min、1.0g/hの流量で連続的に供給して、1−ブテンの接触転換反応を行った。
原料の供給を開始してから3時間後、活性が安定した時点で、反応器出口の生成物の分析をガスクロマトグラフィーにより行い、生成物収率および原料転化率を次式により算出した。
生成物収率(質量%)=(各成分重量/供給原料重量)×100 (式1)
原料転化率(%)=(1−未反応原料重量/供給原料重量)×100 (式2)
式(1)で算出したプロピレン収率は36.7質量%、式(2)で算出した原料転化率は72.0%であった。
反応生成物の分析結果を、第1表に示す。
【0023】
比較例1
〔ゼオライト触媒の調製〕
使用する硝酸銀の量を、7.875質量部とした他は、実施例1と同様にして、希土類、リンおよび銀を含有するゼオライト触媒(触媒B)を調製した。得られた触媒(触媒B)は、ランタン:6.4質量%、リン:3.0質量%、銀:3.0質量%を含んでいた。実施例1と同様な方法で透過型電子顕微鏡およびX線粉末回折分析で、銀の粒子径を調べたところ、観測された銀の粒子径は平均1.2nmであり、1nmよりも大きくなっていた。なお、透過型電子顕微鏡での粒子径の測定は、倍率10万倍で200nm×200nmの領域を3ヶ所以上観測し、その中から無作為に選んだ20nm×20nmの領域5ヶ所について、明瞭に観測可能な粒子の数と長軸方向の長さを、目視で計測して平均した。またX線粉末回折分析では、シェラー式を用いた。
比較例1の触媒は、実施例1と同様に、赤外分光分析では酸性プロトンに基づく吸収がみられ、アンモニアTPD法で測定した酸の量は、0.13mmol/gであった。
【0024】
〔軽質オレフィンの製造実験〕
触媒Bを1g用い、実施例1と同じ条件で、1−ブテンの反応を行った。プロピレン収率は13.8質量%と低く、原料転化率も31.2%と低かった。
反応生成物の分析結果を、第1表に示す。
【0025】
実施例2
〔ゼオライト触媒の調製〕
硝酸銀1.575質量部に代えて、硝酸亜鉛6水和物13.65質量部を用いた他は、実施例1と同様にして、希土類、リンおよび亜鉛を含有するゼオライト触媒(触媒C)を調製した。
得られた触媒(触媒C)は、ランタン:6.4質量%、リン:3.0質量%、亜鉛:1.6質量%を含んでいた。透過型電子顕微鏡およびX線粉末回折分析では、亜鉛に基づく明確な粒子は観測されず、担持された亜鉛の粒子径は1nm以下となっていることを確認した。実施例1と同様に、赤外分光分析では酸性プロトンに基づく吸収がみられ、アンモニアTPD法で測定した酸の量は、0.13mmol/gであった。
〔軽質オレフィンの製造実験〕
触媒Cを1g用い、実施例1と同じ条件で、1−ブテンの反応を行った。プロピレン収率は30.3質量%、原料転化率は66.7%であった。
反応生成物の分析結果を、第1表に示す。
【0026】
実施例3
〔ゼオライト触媒の調製〕
硝酸銀1.575質量部に代えて、硝酸パラジウム2.165質量部を用いた他は、実施例1と同様にして、希土類、リンおよびパラジウムを含有するゼオライト触媒(触媒D)を調製した。
得られた触媒(触媒D)は、ランタン:6.2質量%、リン:3.1質量%、パラジウム:0.6質量%を含んでいた。透過型電子顕微鏡およびX線粉末回折分析では、パラジウムに基づく明確な粒子は観測されず、担持されたパラジウムの粒子径は1nm以下となっていることを確認した。また実施例1と同様に、赤外分光分析では酸性プロトンに基づく吸収がみられ、アンモニアTPD法で測定した酸の量は、0.29mmol/gであった。
〔軽質オレフィンの製造実験〕
触媒Dを1g用い、実施例1と同じ条件で、1−ブテンの反応を行った。プロピレン収率は31.8質量%、原料転化率は83.1%であった。
反応生成物の分析結果を、第1表に示す。
【0027】
比較例2
〔ゼオライト触媒の調製〕
実施例1と同様な方法で、塩化ランタンを用いずに、銀とリンのみで修飾したゼオライト触媒(触媒E)を調製した。
透過型電子顕微鏡およびX線粉末回折分析では、銀に基づく明確な粒子は観測されず、担持された銀の粒子径は1nm以下となっていることを確認した。実施例1と同様に、赤外分光分析では酸性プロトンに基づく吸収がみられ、アンモニアTPD法で測定した酸の量は、0.13mmol/gであった。
〔軽質オレフィンの製造実験〕
触媒Eを1g用い、実施例1と同じ条件で、1−ブテンの反応を行った。原料転化率は91.5%と高かったが、プロピレン収率は20.4質量%と低かった。
反応生成物の分析結果を、第1表に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
〔注〕
「C5」:ペンタン、ペンテン類、「C6+」は、炭素数6以上の生成物、
「その他軽質ガス」:水素および炭素数1〜4までの飽和炭化水素
【0030】
表1より、実施例1〜3の製造方法では、原料転化率が高く、プロピレンの収率も高く、プロピレンを主成分とする生成物が得ることができることが分る。これに対し、担持した銀の粒子径が1nm以上のゼオライトを用いた比較例1や、希土類を担持しないゼオライトを用いた比較例2の方法では、原料の転化率が低く、プロピレンの収率も低い。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の軽質オレフィンの製造方法によれば、炭化水素を原料とし、工業的にプロピレンを高い収率で得ることができる軽質オレフィンの製造方法を提供することができる。したがって、プロピレンを利用する種々の分野において、極めて有用な技術として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素原料を接触転換させて軽質オレフィンを製造する方法において、リンおよび希土類元素を含有するとともに、周期表10〜12族の元素の少なくとも一種を含有するゼオライトを触媒として用い、かつ、該ゼオライトに担持された10〜12族元素の粒子径が1nm以下であることを特徴とする軽質オレフィンの製造方法。
【請求項2】
周期表10〜12族の元素が、銀、亜鉛、及びパラジウムの中から選ばれる少なくとも一種の元素である請求項1に記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項3】
ゼオライトがペンタシル型のゼオライトである請求項1又は2に記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項4】
ゼオライトが、MFI型構造のゼオライトである請求項1〜3のいずれかに記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項5】
炭化水素原料が、炭素数4以上の炭化水素類を10質量%以上含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項6】
炭化水素原料が、ブテン類であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項7】
軽質オレフィンが、プロピレンを主成分とするものである請求項1〜6のいずれかに記載の軽質オレフィンの製造方法。

【公開番号】特開2009−242264(P2009−242264A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88619(P2008−88619)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】