説明

軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法

【課題】補強鉄筋の防錆性、補強鉄筋とパネル母材に対する接着性、防錆材の被膜形成性、品質安定性のいずれもが優れ、商品価値の高いALCパネルを与えることができるALCパネル補強鉄筋の防錆方法を提供する。
【解決手段】補強鉄筋を、無機質原料、水および樹脂エマルションからなる主成分、およびその他の添加剤を含有する混合溶液からなる第1処理液に浸漬し、次いで80〜130℃の温度で乾燥した後、さらにこの補強鉄筋を、ポルトランドセメント、水および樹脂粉末からなる主成分、およびその他の添加剤を含有する混合溶液からなる第2処理液に浸漬し、次いで80〜130℃の温度で乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリートパネル(以下、ALCパネルと呼ぶ)内に埋設される補強鉄筋の防錆方法に関するものである。さらに詳しくは、補強鉄筋の防錆性、補強鉄筋とALCパネル母材に対する接着性、防錆材の造膜性、品質安定性のいずれもが優れ、商品価値の高いALCパネルを与えることができるALCパネル補強鉄筋の防錆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築材料としての利用価値が高いALCパネルは、セメント、石灰などの石灰質原料と、珪砂、珪石などの珪酸質原料とを調合したものに水を加えスラリーとし、さらにアルミニウム金属粉末および気泡安定剤などを加えて撹拌し、これを防錆処理された補強鉄筋が組み込まれた型枠内に流し込み、発泡・硬化させて半硬化体とする。次いで半硬化体を所望の寸法にピアノ線で切断したのち、オートクレープ内で高温高圧の水蒸気養生を行い本硬化させることにより製造されている。
【0003】
しかるに、このALCパネルは、空隙率が70%前後と大きいことから、各種の気体や液体が浸透すると、埋設されている内部の補強鉄筋が腐食されやすいという欠点を有しているため、この欠点を解消することを目的として、補強鉄筋の表面を防錆材被膜で防錆処理することが従来から行われてきた。
【0004】
すなわち、まず鉄筋材料から籠状の補強鉄筋を作製しておき、離型剤を塗布した複数本の吊り棒で複数の籠状補強鉄筋を吊り下げて防錆工程へと搬送する。そして、前記籠状補強鉄筋を防錆材を満たした防錆槽へと浸漬した後、50〜100℃の温度で乾燥するという作業を1回または数回繰り返すことにより、補強鉄筋の表面に防錆材の被膜を形成する。
【0005】
表面に防錆材の被膜が形成された補強鉄筋は、吊り棒に吊り下げられたままで、型枠内に載置されたのち、型枠にALCパネルの原料スラリーが注入される。そして、この原料スラリーの発泡、硬化が進み半硬化体が形成された後、吊り棒が半硬化体から引き抜かれ、ピアノ線で所定の寸法に切断される。前記離型剤は、防錆材および半硬化体との離型性や、離型剤塗布の容易性などを考慮して通常油性のものが用いられている。
【0006】
その後、半硬化体を183℃、1MPa程度の高温・高圧で蒸気養生することにより、本硬化したALCパネルが製造されてきたのである。
【0007】
上記ALCパネル補強鉄筋用防錆材としては、例えば、セメント溶液を主体とするセメントタイプ(例えば、特許文献1および2参照)、無機質充填剤とゴムラテックスとを主成分とする無機質/ゴムタイプ(例えば、特許文献3および4参照)、およびこれらを併用した併用タイプ(例えば、特許文献5参照)などの様々なタイプのものが従来から知られている。また、補強鉄筋をこれらの防錆材に一回浸漬した後乾燥するか、あるいはこの浸漬・乾燥を数回繰り返すことにより、防錆処理が行われていた。
【0008】
上記防錆方法では、第1回目の防錆材と第2回目の防錆材を異種のものとすることにより、防錆効果のさらなる改良を図った方法(例えば、上記特許文献3参照)もとられていた。
【0009】
しかしながら、上記セメントタイプの防錆材を使用した防錆方法では、防錆材を短時間で乾燥するために80〜100℃の高温加熱が行われるが、この場合に防錆材中の水分が蒸発して固化した被膜に微細なミクロ孔が形成されるため、次いで行われる高温・高圧の水蒸気養生時にミクロ孔から水分が侵入したり、さらには製造後のALCパネル内部に浸透した水分がミクロ孔から侵入することに起因して補強鉄筋が発錆する。その結果、防錆性能が低下してしまうという問題があった。この問題を解消するために、セメントタイプの防錆材を使用する場合には、防錆材の被膜厚さを数mm程度と厚くしなければならず、これにより乾燥時間が長くなるばかりか、コストアップを招くという弊害があった。
【0010】
また、上記無機質/ゴムタイプの防錆材を使用した防錆方法によれば、ゴムの使用により防錆材自体の緻密性は向上するものの、ALCパネル母材、特に半硬化体に対する接着性が劣るばかりか、水性溶液の状態で用いているため、上記セメントタイプの防錆材を用いた場合と同様に、乾燥時の被膜にミクロ孔が形成されやすいという問題を包含していた。
【0011】
さらに、上記樹脂タイプの防錆材を樹脂だけの水性エマルションとして浸漬法で使用する場合には、膜厚確保のためにある程度の高粘度が必要で、補強鉄筋の表面に防錆材を均一に付着させるのが困難であり、一定の膜厚を確保し難いという問題があった。また、この問題を解消するために、水性エマルションに有機溶剤を混合して粘性を下げ使用する場合には、有機溶剤の揮発に対する安全性確保に特別な配慮が必要になるという問題があった。
【0012】
さらにまた、上記併用タイプの防錆材を使用した場合にも、それぞれのタイプが包含する問題点が持ち込まれることになるため、さらなる改良がしきりに望まれていた。
【0013】
なお、上記した従来の各防錆材を使用した方法においては、防錆性および造膜性を高めるために、天然アスファルトなどの瀝青物質を添加することがよく行われている(例えば、特許文献1、5参照)。この場合には、相応の効果が得られるものの、この瀝青物質は防錆処理時に補強鉄筋を吊り下げる吊り棒に塗布される油性の離型剤に溶解するため、半硬化体の生成時に抜き取られた吊り棒跡に残存し、さらには本硬化体への養生時に湿潤して吊り棒跡の孔から流出して、吊り棒跡の周辺に黒色の汚れを生じて外観を損なっていた。その結果、ALCパネルの商品価値を低下させるという問題があり、そればかりか、近年では天然材料としての瀝青物質が枯渇しつつあるため、安定供給に対する不安やその代替品の出現が望まれているのが実情である。
【0014】
【特許文献1】特公昭36−23879号公報
【特許文献2】特公昭45−15062号公報
【特許文献3】特公昭60− 7972号公報
【特許文献4】特開昭50−97617号公報
【特許文献5】特開昭58−110456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0016】
したがって、本発明の目的は、補強鉄筋の防錆性、補強鉄筋とALCパネル母材に対する接着性、防錆材の造膜性、品質安定性ならびに供給安定性に優れ、かつ、商品価値の高いALCパネルを与えることができるALCパネル補強鉄筋の防錆方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために本発明によれば、ALCパネル内に埋設される補強鉄筋に防錆処理を施すに際し、前記補強鉄筋を、無機質原料、水および樹脂エマルションからなる主成分、およびその他の添加剤を含有する混合溶液からなる第1処理液に浸漬し、次いで80〜130℃の温度で乾燥する第1処理工程と、さらにこの補強鉄筋を、無機質原料、水および軟化点165℃〜190℃の樹脂粉末からなる主成分、およびその他の添加剤を含有する混合溶液からなる第2処理液に浸漬し、次いで80〜130℃の温度で乾燥する第2処理工程を順次実施することを特徴とする軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法が提供される。
【0018】
なお、本発明のALCパネル補強鉄筋の防錆方法においては、
前記第1処理液および第2処理液が、セメント硬化抑制剤、接着剤、分散剤、保水剤、消泡剤、水和抑制剤、アルカリ性付与剤および着色剤から選ばれた少なくとも1種のその他の添加剤を含有すること、
前記第1処理液および第2処理液に含有される無機質原料が、ポルトランドセメント、炭酸カルシウム、消石灰、タルク、珪石粉末、寒水石、クレー、マイカ、珪藻土、白土、酸化チタンおよびベンガラから選ばれた少なくとも1種であること、
前記第1処理液に含有される無機質原料の粒径が150μm以下であること、
前記第1処理液に含有される樹脂エマルションが、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂およびスチレン・ブタジエン系樹脂のエマルションから選ばれた少なくとも1種であること、
前記第2処理液に含有される樹脂粉末が、ポリアミド系樹脂粉末であること、
前記第2処理液に含有される樹脂粉末が粒度200μm以下の樹脂粉末であること、
前記第1処理液が、無機質原料100重量部に対して、水30〜55重量部、樹脂エマルション3〜30重量部、およびその他の添加剤0〜8重量部を添加した混合溶液からなること、
前記第2処理液が、無機質原料100重量部に対して、水30〜55重量部、軟化点165℃〜190℃の樹脂粉末1〜15重量部、およびその他の添加剤0〜8重量部を添加した混合溶液からなること、および
前記第1処理および第2処理工程により補強鉄筋表面に塗着された防錆材の被膜厚さが、それぞれ50〜300μmの範囲となるように塗布すること、
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下に説明するとおり、補強鉄筋の防錆性、補強鉄筋とALCパネル母材に対する接着性、防錆材の造膜性、品質安定性のいずれもが優れ、商品価値の高いALCパネルを得ることができるALCパネル補強鉄筋の防錆方法を実現することができる。
【0020】
また、本発明の防錆方法によれば、この防錆材が均一かつ強固に塗着した、防錆性能の高い補強鉄筋を効率的に製造することができ、本発明の方法により防錆された補強鉄筋を使用することにより、表面外観が良好で防錆性に優れ、商品価値が高いALCパネルの取得が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0022】
本発明の補強鉄筋用の防錆方法で使用する第1処理液は、無機質原料、水および樹脂エマルションからなる主成分、およびその他の添加剤を含有する混合溶液からなるものであり、補強鉄筋に対して浸漬法により付与され、次いで乾燥されることにより、補強鉄筋の表面に防錆材被膜を形成する性能(造膜性)を有するものである。
【0023】
本発明で使用する第1処理液および第2処理液の主成分をなす無機質原料とは、ポルトランドセメント、炭酸カルシウム、消石灰、タルク、珪石粉末、寒水石、クレー、マイカ、珪藻土、白土、酸化チタンおよびベンガラから選ばれた少なくとも1種であり、通常はこれらの2種以上を混合して使用することが望ましい。そして、これらの無機質原料は粒径が150μm以下、特に100ミクロン以下の粉末状であることが好ましい。中でもポルトランドセメントなどの無機質原料はALCパネルの原料スラリー中のセメントとの結合も容易に図られるため、防錆材とALCパネル母材とがより強固に結合でき、防錆性が向上する。さらに比較的安価な材料でもあり推奨される。
【0024】
本発明で使用する第1処理液が必須成分として含有する樹脂エマルションとは、アクリル系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂、スチレン・ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などの樹脂が分散したエマルションであり、無機質原料に対して100℃程度で造膜性と接着性を付与するために機能する成分である。この樹脂エマルションには、ある程度の水溶性と、優れた耐熱性および耐アルカリ性が求められるため、上記エマルションの中でも特に、アクリル系樹脂エマルション、ポリスチレン系樹脂エマルション、スチレン・アクリル系樹脂エマルションおよびスチレン・ブタジエン系樹脂エマルションから選ばれた少なくとも1種の使用が推奨される。そして、これらのエマルションとしては樹脂濃度が30〜70重量%であり、一般にセメント混和用として市販されているものをそのまま使用することができる。
【0025】
本発明で使用する無機質原料であるポルトランドセメントとは、一般に市販されている水硬性セメントであり、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントなどが用いられ、後述する割合の水を混和して使用する。
【0026】
また、本発明で使用する第2処理液が必須成分として含有する軟化点165℃〜190℃の樹脂粉末とは、樹脂粉末の粒度が200μm以下、特に160μm以下であることが、防錆材スラリーへの分散性が優れることから望ましい。この樹脂粉末としては、軟化点が上記の範囲にありセメントの水和反応を阻害しない樹脂の粉末であれば特に制限されないが、中でもナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド系樹脂で、特にナイロン6/66、ナイロン11が好ましく使用される。
【0027】
この樹脂粉末は、防錆性、造膜性およびALCパネル母材との接着性を一層高めるために機能する成分である。すなわち、第1処理液の乾燥工程において、水分の蒸発に伴い被膜に微細なミクロ孔が形成されたとしても、第2処理液を浸漬・乾燥後に行われる高温・高圧の水蒸気養生時において、第2処理液に含まれていた樹脂粉末が軟化して樹脂膜をさらに形成し、この樹脂膜がミクロ孔を埋めることになるため、防錆材中のミクロ孔が解消して安定な被膜が形成され、従来にない優れた防錆性が得られるのである。また、同時にALCパネル母材との接着も行われ、ALCパネルの曲げ強度などの物性向上に寄与する。
【0028】
本発明で使用する第1処理液および第2処理液は、上記の各成分以外に、所望に応じてその他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤としては、カゼインなどのセメント硬化抑制剤、メトローズなどの接着剤、無機質原料などの分散剤、保水剤、シリコーン化合物などの消泡剤、ナトリウムボロンハイドライドなどの水和抑制剤(遅延剤)、苛性ソーダなどのアルカリ性付与剤、顔料・染料などの着色剤、高温・高圧の蒸気養生に対する耐熱剤・安定剤、無機質原料などの結合剤などが挙げられるが、中でもセメント硬化抑制剤、接着剤、消泡剤、水和抑制剤、アルカリ性付与剤の含有が推奨される。
【0029】
本発明の第1処理液における各成分の配合割合は、無機質原料100重量部に対して、水30〜55重量部、樹脂エマルション3〜30重量部およびその他の添加剤0〜8重量部の範囲から選択される。
【0030】
前記樹脂エマルションの配合量は、3重量部未満では乾燥時にミクロ孔を生じやすい傾向となり、30重量部を越えるとALCパネル硬化体との接着性が低下し、防錆性能も悪化する傾向となるため、特に5〜20重量部の範囲が好ましい。
【0031】
水の配合量は、30重量部未満では造膜性が阻害されて厚さが均一な被膜を形成し難くなり、また55重量部を越えると乾燥に長時間を要するばかりか、被膜へのミクロ孔の発生が著しくなるため、特に30〜50重量部の範囲が好ましい。
【0032】
一方、本発明の第2処理液における各成分の配合割合は、無機質原料100重量部に対して、水30〜55重量部、軟化点165℃〜190℃の樹脂粉末1〜15重量部およびその他の添加剤0〜8重量部の範囲から選択される。
【0033】
水の配合量は、30重量部未満では前記樹脂粉末の分散性が悪くなり、その結果、造膜性が阻害されて厚さが均一な被膜を形成し難くなる。また、55重量部を越えると乾燥に長時間を要するばかりか、均一な防錆被膜形成が得られがたく、そのため高温・高圧の蒸気養生中にミクロ孔を塞ぐことが難しくなるため、特に30〜50重量部の範囲が好ましい。
【0034】
前記樹脂粉末の配合量は、無機質原料100重量部に対して、1重量部未満では乾燥時にミクロ孔を生じやすい傾向となり、15重量部を越えるとALC硬化体との接着性が低下し、防錆性能も悪化する傾向となるため、特に3〜12重量部の範囲が好ましい。
【0035】
また、その他の添加剤の配合量は、過度に多すぎると本発明の効果が阻害されることがあるため、無機質原料100重量部に対し8重量部以下、特に5重量部以下であることが望ましい。
【0036】
本発明の第1処理液は、それぞれ従来公知の方法により調製することができ、例えば第1処理液の具体的な調製方法としては、無機質原料と水から形成したスラリーに樹脂エマルションとその他の添加剤を添加して撹拌する方法、また第2処理液は、カゼインなどの難溶性の添加剤を、水、樹脂粉末と予め混練したスラリーに無機質原料を混合攪拌する方法などが挙げられる。
【0037】
このように調製して得られる本発明の第1処理液および第2処理液は、いずれもスラリー状であり、このスラリーに籠状の補強鉄筋を浸漬することによる防錆処理に使用されるが、実用に際しては、所望の被膜厚さが得られるように、水や各添加物成分を添加してその粘度や濃度を適宜調整することができる。
【0038】
また、本発明の第1処理液および第2処理液は、調製後のスラリーを密封状態で保存しておけば、いずれも水分の蒸発がない限り安定であり、性能低下を生じることがない。また、硬化抑制剤や水和抑制剤などを適宜投入することで該スラリーの固化を防止することができ安定して使用が可能である。さらに、連続して補強鉄筋の浸漬処理を行う際に、不足分を新たに調製して補充しても、性状が変化したり性能が悪化したりすることがない。
【0039】
次に、上記の第1処理液および第2処理液を使用して補強鉄筋の防錆処理を行う本発明の防錆方法について説明する。
【0040】
本発明の防錆方法を行うに際しては、まず、得ようとするALCパネルの大きさや浸漬層の大きさに応じた所望の形の籠状に組み上げた籠状補強鉄筋(直径が2.0〜9.0mm程度の鉄筋を使用)を複数枚準備する。
【0041】
そしてまず、上記の第1処理液を浸漬槽に所望の量供給しておき、この処理液中に籠状補強鉄筋を浸漬して鉄筋表面に防錆材を塗着させ、次いで80〜130℃の温度で乾燥する。この浸漬処理は、上述した従来法、つまり、離型剤を塗布した複数本の吊り棒で複数の籠状補強鉄筋を吊り下げて防錆工程へと搬送し、防錆材を満たした防錆槽へ籠状補強鉄筋を浸漬して引き上げる方法と同様に行えばよい。
【0042】
防錆槽から引き上げた後の防錆材の乾燥は、通常の熱風式加熱炉や温風式乾燥炉を用いて行うことができるが、この場合に塗膜のワキ現象や引き現象を起こさせないためには、急激な乾燥条件の採用を避け、また製造ラインスピードに合わせた適度な乾燥条件を設定すべきである。
【0043】
ここで、乾燥温度が80℃未満では、乾燥時間が長くなるばかりか被膜の厚さが不均一となり、逆に130℃を超えると、急激な水分蒸発によるミクロ孔の発生が著しくなるため、特に90〜120℃の温度で乾燥すると好ましい。
【0044】
次いで、第1処理液に浸漬し乾燥した籠状補強鉄筋を、さらに上記第2処理液を満たした浸漬槽に浸漬して鉄筋表面に防錆材を塗着させた後、上記と同様に80〜130℃、好ましくは90〜120℃の温度で乾燥する。
【0045】
ここで、乾燥温度を80〜130℃としたのは、上記の第1処理液の場合と同様の理由による。
【0046】
また、本発明の防錆方法においては、第1処理液および第2処理液の浸漬・乾燥処理により補強鉄筋表面に塗着された防錆材の被膜厚さが、それぞれ50〜300μm、特に100〜250μmの範囲となるように処理することが望ましい。ここで、1回の浸漬・乾燥処理により得られた防錆材被膜の厚さが50μm未満では、所望の防錆効果が得られないことがあり、逆に300μmを超えても防錆性能に大きな効果が無く経済的に不利である。尚、防錆材の被膜厚さを50〜300μmにするには、溶液の粘度が500〜20,000mPa・Sに調整された防錆液に、該補強鉄筋を浸漬後、秒速5〜20cmで引き上げるようにするとよい。
【0047】
かくして防錆処理が施された籠状補強鉄筋は、吊り棒に吊り下げられたままで、型枠内に載置されたのち、型枠にALCパネルの原料スラリーが注入され、この原料スラリーの発泡、硬化が進み半硬化体が形成される。次いで、吊り棒が半硬化体から引き抜かれた後、ピアノ線で所定の寸法に切断される。その後、183℃、1MPa程度の高温・高圧で蒸気養生することにより、本硬化したALCパネルが製造される。
【0048】
そして、乾燥工程において例え被膜にミクロ孔が発生していたとしても、この高温・高圧の蒸気養生工程において、第2処理液に含まれていた樹脂粉末が軟化して樹脂膜を形成し、この樹脂膜がミクロ孔を埋めることになるため、ミクロ孔が塞がれてより安定な被膜が形成され、従来にない優れた防錆性が得られるのである。また、前記高温・高圧の蒸気養生工程において、ALCパネル母材と補強鉄筋の防錆材とがより強固に接着が行われるため、ALCパネルとしての性能が向上する。
【0049】
したがって、本発明によれば、次に述べるような優れた効果を得ることができる。
【0050】
(1)優れた防錆効果を長期にわたって持続することができる。すなわち、乾燥工程で発生した被膜欠陥であるミクロ孔が、蒸気養生工程で塞がれるため、補強鉄筋の表面に空気や水分が触れることがなくなり、防錆性能が格段に向上するのである。
【0051】
(2)防錆材と補強鉄筋、防錆材とALCパネル母材の両者の接着性が優れるため、ALCパネルと補強鉄筋の結合力が高く、ALCパネルの運搬時などに曲げ、衝撃、変形などの負荷がかかったとしても、防錆材被膜に亀裂などの欠陥を生じることがなく、防錆効果の持続性が高いものとなる。
【0052】
(3)処理液が有機溶剤を含まないため、作業環境にも環境衛生を考慮した安全性確保に特別な配慮を必要とせず、経済性や安全性からも優れている。
【0053】
(4)処理液の品質安定性に優れているため、長期間保存しても水分の蒸発を抑制することにより長期間安定である。また、ポルトランドセメントに対する硬化抑制剤や水和抑制剤等を適宜投入することで長期間に渡り、粘度上昇や固化するなどの不具合を生じることがない。
【0054】
(5)瀝青物質などの希少材料を必要としないため、供給安定性に優れているだけでなく、瀝青物質に起因する外観商品性低下が解消して、商品価値の高いALCパネルを得ることができる。
【0055】
(6)防錆材が補強鉄筋の周囲に均一かつ強固に塗着した、防錆性能の高い補強鉄筋が埋設されたALCパネルを効率的に製造することができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳述する。
【0057】
なお、実施例及び比較例における特性評価は次に述べる方法により行った。
【0058】
[防錆性]
蒸気養生後のALCパネルから防錆材が塗着された補強鉄筋(鉄筋の直径:5mm)を取り出し、JIS K5400に準じて5%塩水噴霧を500時間実施した後の発錆率を測定し評価した。発錆率1.0%以下を合格とした。
【0059】
[接着性]
蒸気養生後のALCパネルについて、ALCパネル素材と防錆材が塗着された補強鉄筋との接合強度を、RILEM AAC9.1 「鉄筋の引抜き試験」に準じて測定し接着性を評価した。接合強度1.5N/mm以上を合格とした。
【0060】
[造膜性]
防錆材を塗布・乾燥処理した後の補強鉄筋を水中に2時間浸漬した後の吸水率により評価した。すなわち、補強鉄筋の防錆材被膜より浸透した水分による重量増加から算出し、下記の4水準で造膜性を判定した。◎、○を合格とした。△、×は被膜に形成されたミクロ孔からの水分浸透が多いため不合格とした。
◎ 吸水率が1%未満(十分強固な被膜が形成されている。)
○ 吸水率が1〜2%未満(ある程度の強固な被膜が形成されている。)
△ 吸水率が2〜3%未満(被膜への水分浸透がやや激しい。)
× 吸水率が3%以上(被膜への水分浸透が著しく激しい。)
【0061】
[製品外観]
蒸気養生後のALCパネルについて、その外観を目視評価し、次の2水準で判定した。
○ 防錆材による汚れもなく、外観が極めて良好で問題なし(合格)。
× 吊り棒跡周辺が黒く汚れ、商品価値の低下が見られる(不合格)。
【0062】
[実施例1〜6および比較例1〜7]
ALCパネルの長さ方向へ埋設される縦筋(直径:5mm)と、幅方向に埋設される横筋(直径:4mm)とを格子状に連結して平マット状とし、この平マットを二枚連結して籠状にすることにより、厚さ×幅×高さ=70×480×2960mmの籠状補強鉄筋を複数枚準備した。
【0063】
<第1処理液の作製>
以下の各成分を表1に示した割合(重量比)で混合することにより、第1処理液を作製した。
(主成分)
無機質原料:河合石灰工業(株)製「重質炭酸カルシウム(特粉)」/河合石灰工業社製 消石灰(特粉)」/東海工業(株)製「珪石(特粉)」を45/45/10の割合(重量比)で混合したもの。
水:水道水
樹脂エマルション:中央理化工業(株)製 「リカボンド」(アクリル系樹脂エマルション)
(その他の添加剤)
分散安定剤:旭電化工業(株)製 「プロピレングリコール」
消泡剤:旭電化工業(株)製 「アデカネート」
【0064】
<第2処理液の作製>
一方、以下の各成分を表1に示した割合(重量比)で混合することにより、第2処理液を作製した。
(主成分)
セメント:太平洋セメント(株)製 「普通ポルトランドセメント」
水:水道水
樹脂粉末:ダイセルテグサ(株)製 「ベストジント1111」(ナイロン11、粒度:50〜160μm、軟化点176℃)
東レ(株)製 「CM40F」(ナイロン6/66、粒度:150μm以下、軟化点179〜184℃)
(比較例用樹脂粉末)
石油系樹脂粉末:荒川化学工業(株)製 「アルコンP140」(軟化点1
40℃、粒度:150μm以下 )
ロジン系樹脂粉末:荒川化学工業(株)製 「ペンセルD160」(軟化点158℃、粒度:150μm以下 )
ポリプロピレン系樹脂粉末:三洋化成工業(株)製 「ビスコール660P」(軟化点:145℃、粒度:150μm以下)
瀝青系・天然アスファルト粉末:アメリカンギルソナイト(株)製 「ギルソナイト」(軟化点:160℃、粒度:200μm以下 )
(その他の添加剤)
カゼイン:日成共益(株)製 「ニュージーランドカゼイン」(セメント硬化遅延剤・接着剤)
メトローズ:信越化学工業(株)製 「SM1500」(接着剤・分散剤・保水剤)
苛性ソーダ:セントラル化学(株)製 (アルカリ性付与剤)
消泡剤:旭電化工業(株)製 「アデカネート」
遅延剤:クローダジャパン(株)製 「B90B」
【0065】
そして、第1処理液のスラリーを満たした30℃の浸漬槽に、吊り棒で吊り下げた状態の籠状補強鉄筋を、その全体が防錆材に浸るように浸漬した後、100℃の温風で10分間乾燥した。
【0066】
さらに、乾燥後の籠状補強鉄筋を、第2処理液のスラリーを満たした浸漬槽に浸漬した後、120℃の温風で10分間乾燥した。なお、比較例6および7では、乾燥条件を表2に示したように変更した。この時点で造膜性を評価した結果を表2に示す。
【0067】
次いで、表面に防錆材の被膜が形成された30枚の籠状補強鉄筋を、吊り棒に吊り下げた状態で型枠内に載置して、型枠内にALCパネルの原料スラリーを注入し、この原料スラリーの発泡、硬化を進めて半硬化体とした後、吊り棒を半硬化体から引き抜いた。なお、原料スラリーとしては、珪石粉44重量部、生石灰粉16重量部、ポルトランドセメント11重量部およびALCパネルのリサイクル粉29重量部に対して、水60重量部を加えて、ミキサーで撹拌混合した後、前記粉末原料の100重量部に対し、アルミニウム粉末0.065重量部を添加したスラリーを用いた。
【0068】
その後、半硬化体を型枠から脱型し、ピアノ線で所定の寸法(厚さ×幅×長さ=100×600×2990mm)に切断したのち、183℃、1MPaの高温・高圧で蒸気養生することにより、本硬化したALCパネルを製造した。
【0069】
第1処理液と第2処理液の配合組成を表1に、乾燥条件および各被膜の膜厚、得られたALCパネルについての防錆性、接着性、造膜性および製品外観を評価した結果を表2に、それぞれ示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
表1および表2の結果から明らかなように、本発明の防錆方法によれば、防錆性、接着性、造膜性および製品外観が均衡して優れるALCパネルを得ることができる(実施例1〜6)。一方、第1処理液および第2処理液の両方とも同じ樹脂エマルションを添加した防錆材に浸漬した場合(比較例1)、並びに本発明の樹脂粉末の代わりに石油系、ロジン系、ポリプロピレン樹脂粉末を含む第2処理液を使用した場合(比較例2〜4)では本発明が目的とする効果を得ることができなかった。また、本発明の樹脂粉末の代わりに瀝青物質を含む第2処理液を用いた場合(比較例5)では、製品外観が瀝青物質で汚れ、外観品質が劣るALCパネルしか得ることができない。さらに、第1処理液および第2処理液浸漬後の乾燥温度が低すぎる場合(比較例6)では防錆性、接着性、造膜性に劣り、また逆に高すぎる場合(比較例7)では防錆性および造膜性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したように、本発明によれば、防錆性、補強鉄筋とALCパネル母材に対する接着性、造膜性、品質安定性に優れ、かつ入手しやすく、商品価値の高いALCパネルを与えるALCパネル補強鉄筋を得ることができる。また、防錆材が均一かつ強固に塗着した、防錆性能の高い補強鉄筋を効率的に製造することができるため、本発明の方法により防錆された補強鉄筋を使用することにより、表面外観が良好で防錆性に優れ、建築材料としての商品価値が高いALCパネルの取得が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量気泡コンクリートパネル内に埋設される補強鉄筋に防錆処理を施すに際し、前記補強鉄筋を、無機質原料、水および樹脂エマルションからなる主成分、およびその他の添加剤を含有する混合溶液からなる第1処理液に浸漬し、次いで80〜130℃の温度で乾燥する第1処理工程と、さらにこの補強鉄筋を、無機質原料、水および軟化点165℃〜190℃の樹脂粉末からなる主成分、およびその他の添加剤を含有する混合溶液からなる第2処理液に浸漬し、次いで80〜130℃の温度で乾燥する第2処理工程を順次実施することを特徴とする軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法。
【請求項2】
前記その他の添加剤が、セメント硬化抑制剤、接着剤、分散剤、保水剤、消泡剤、水和抑制剤、アルカリ性付与剤および着色剤から選ばれた少なくとも1種からなる請求項1に記載の軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法。
【請求項3】
前記第1処理液および第2処理液に含有される無機質原料が、ポルトランドセメント、炭酸カルシウム、消石灰、タルク、珪石粉末、寒水石、クレー、マイカ、珪藻土、白土、酸化チタンおよびベンガラから選ばれた少なくとも1種からなる請求項1または2に記載の軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法。
【請求項4】
前記無機質原料の粒径が150μm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法。
【請求項5】
前記第1処理液に含有される樹脂エマルションが、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂およびスチレン・ブタジエン系樹脂のエマルションから選ばれた少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法。
【請求項6】
前記第2処理液に含有される樹脂粉末が、ポリアミド系樹脂粉末である請求項1〜5のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法。
【請求項7】
前記第2処理液に含有される樹脂粉末が、粒度200μm以下の樹脂粉末である請求項1〜6のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法。
【請求項8】
前記第1処理液が、無機質原料100重量部に対して、水30〜55重量部、樹脂エマルション3〜30重量部、およびその他の添加剤0〜8重量部を添加した混合溶液からなる請求項1〜7のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法。
【請求項9】
前記第2処理液が、無機質原料100重量部に対して、水30〜55重量部、軟化点165℃〜190℃の樹脂粉末1〜15重量部およびその他の添加剤0〜8重量部を添加した混合溶液からなる請求項1〜8のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法。
【請求項10】
前記第1処理および第2処理工程により補強鉄筋表面に塗着された防錆材の被膜厚さが、それぞれ50〜300μmの範囲となるように塗布する請求項1〜9のいずれか1項に記載の軽量気泡コンクリートパネル補強鉄筋の防錆方法。

【公開番号】特開2007−254816(P2007−254816A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80603(P2006−80603)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000185949)クリオン株式会社 (105)
【Fターム(参考)】