説明

軽量気泡コンクリート補強鉄筋用防錆剤

【課題】 鉄筋との付着力や防錆性能に優れると共に、優れた耐水性を有する防錆被膜を得ることができ、型枠への配置時に用いた固定棒を引き抜いたパネル側面の孔付近に着色を生じることがなく、外観品質にも優れたALCパネルの製造に適したALC補強鉄筋用防錆剤を提供する。
【解決手段】 スチレン結合量が65〜75重量%のSBR水性エマルションと、アスファルトの水性エマルションと、アルカリ土類の炭酸塩粉末に、pH調整用の消石灰と粘度調整用の水を混合して得られるスラリーからなるALC補強鉄筋用防錆剤である。上記炭酸塩粉末として、平均粒子径が8〜30μm、空気透過法による比表面積が2000〜50000cm/gの炭酸カルシウム粉末を用いると共に、水性エマルションの水と粘度調整用の水の合計をスラリー全体の15〜25重量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,軽量気泡コンクリート(以下、ALCとも称する)の補強鉄筋に塗付けて錆発生を防止するALC補強鉄筋用の防錆剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルの製造においては、補強鉄筋を配置した型枠に対して、生石灰、セメント及び珪砂からなる主原料と、石こう及び繰り返し原料(オートクレーブ前の切断屑並びにALC廃材)の副原料を水と混合撹拌し、更に発泡剤としてアルミニウム粉末を加えた原料スラリーを注入して発泡させる。所定時間を経てケーキ状半硬化体となった後、ピアノ線で所定寸法に切断し、オートクレーブにおいて180℃で8時間程度の高温高圧水蒸気養生を行うことによりALCパネルが製造され、これを更に切削加工を経て製品が得られる。
【0003】
このようにして製造されたALCパネルは、体積のほぼ80%が気泡及び細孔となっていることから、軽量であると共に、耐火性及び断熱性かつ施工性に優れており、建築材料として広く使用されている。その反面、気泡及び細孔を経由して外部の水分がパネル内部へ侵入しやすいため、パネル内部の補強鉄筋が腐食しやすいという問題点がある。そのため、型枠に配置する補強鉄筋には、予め防錆処理が施されている。尚、ALCパネル用の補強鉄筋は、直径4〜10mmの鉄筋をカゴ状に成形した補強鉄筋のカゴや、直径1〜4mmの細い鉄筋を格子状に成形した補強鉄筋のマットが使用されている。
【0004】
補強鉄筋用の防錆剤方法としては、例えば特開平10−176292号公報に記載されたものがある。即ち、スチレン結合量が65〜75重量%のSBR水性エマルションを固形分として5〜25重量%と、アスファルトの水性エマルションを固形分として5〜15重量%と、石灰石で代表されるアルカリ土類の炭酸塩粉末を固形分として60〜90重量%を主成分とし、これにpH調整用の消石灰と粘度調整用の水を混合して得られた防錆剤に補強鉄筋を浸漬させて、防錆被膜を得る方法である。
【特許文献1】特開平10−176292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
防錆剤に求められる性能には、防錆剤の粘性変化や成分分離を長時間発生させることのない性状安定性と、補強鉄筋への均一な付着量の制御が可能な成膜安定性とがある。また、防錆被膜に求められる性能としては、耐水性、鉄筋との付着力、及び被膜強度などの物性に優れることが挙げられる。
【0006】
上記特開平10−176292号公報記載の防錆被膜では、水性エマルションが形成する被膜が物性を左右する主要因であり、炭酸塩粉末は防錆被膜の骨材として強度発現に作用している。一方、防錆剤の性状安定性や成膜安定性は各原料の相互作用に因って粘度や構造粘性に変化を生じるため、原料の仕様や調合を厳密にする必要である。特に粘度調整に多量の水を要する場合、防錆被膜の耐水性を悪化させ、ALCパネルの外観を損なうことがあった。
【0007】
防錆被膜の耐水性悪化がALCパネルの外観を損なう事例として、パネル側面に着色を生じる問題がある。具体的に説明すると、補強鉄筋を型枠に配置する際には、型枠内の位置を固定するために固定棒を使用する。補強鉄筋は型枠に配する前に防錆処理を施すことから、固定棒にも防錆被膜が同様に付着している。型枠に原料スラリーを注入し、所定時間を経てケーキ状半硬化体となった後、これら固定棒は引き抜かれ、ケーキ状半硬化体はピアノ線で所定寸法に切断されて水蒸気養生される。その際、固定棒には防錆被膜との剥離を容易にするため離型剤が塗付されていることから、固定棒に付着した防錆被膜は剥離して、ケーキ状半硬化体側、即ち固定棒が抜けた孔内に残存することになる。
【0008】
ところが、水蒸気養生後に得られるALCパネルには、上記のごとく固定棒を抜き取った後の側面の孔付近に、黒色ないし茶色の着色を生じることがあった。この着色の状況は孔を同心円とした環状の着色となることが多いが、パネル側面を越えてパネル表面に着色が達することもあり、ALCパネルの外観品質を低下させる一因となっていた。尚、ALCパネルは外壁に施工する場合は塗装することが一般的であるが、間仕切りや屋根では無塗装で使用することも多いため、外観品質の要求は厳しくなる状況にある。
【0009】
上記固定棒の抜けた孔付近に着色する原因については、必ずしも詳細は明らかではないが、孔内部から防錆被膜成分が溶出して沈着したものと考えられる。即ち、水蒸気養生後のALCパネルを大気圧まで降温減圧する過程において、パネル内部の高温蒸気は、パネル表面や固定棒を引き抜いた孔を経路に大気へ放出される。その際、孔内部に残存している防錆被膜は高温蒸気で煮沸されるため、防錆被膜の耐水性に劣る場合、防錆被膜から溶出した成分が孔内部から移行してパネル側面を着色するものと考えられる。
【0010】
尚、水蒸気養生後のALCパネル内部の温度は、オートクレーブ釜から排出して3時間以上経過した時点でも約100℃であることから、オートクレーブ釜内での降温減圧過程において固定棒の抜けた孔内を通る高温蒸気は、温度低下しても180℃程度であり、最低でも約100℃までと考えられる。
【0011】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、鉄筋との付着力や防錆性能に優れると共に、優れた耐水性を有する防錆被膜を得ることができ、型枠への配置時に用いた固定棒を引き抜いたパネル側面の孔付近に着色を生じることがなく、外観品質にも優れたALCパネルの製造に適したALC補強鉄筋用防錆剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明が提供する軽量気泡コンクリート補強鉄筋用防錆剤は、スチレン結合量が65〜75重量%のSBR水性エマルションを固形分として5〜25重量%と、アスファルトの水性エマルションを固形分として5〜15重量%と、アルカリ土類の炭酸塩粉末を固形分として60〜70重量%とに、pH調整用の消石灰と粘度調整用の水を混合して得られるスラリーからなり、前記炭酸塩粉末が平均粒子径が8〜30μm、空気透過法による比表面積が2000〜50000cm/gの炭酸カルシウム粉末であって、前記水性エマルションの水と粘度調整用の水の合計をスラリー全体の15〜25重量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉄筋との付着力や防錆性能に優れると共に、優れた耐水性を有する防錆被膜の形成が可能な軽量気泡コンクリート補強鉄筋用防錆剤を提供することができる。従って、本発明の防錆剤を用いることによって、型枠へ補強鉄筋を配置する際に用いた固定棒を引き抜いたパネル側面の孔付近に着色を生じることを防止でき、外観品質にも優れたALCパネルを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明が提供する軽量気泡コンクリート補強鉄筋用防錆剤は、スチレン結合量が65〜75重量%のSBR水性エマルションと、アスファルトの水性エマルションと、アルカリ土類の炭酸塩粉末とを主成分とし、これら主成分にpH調整用の消石灰と粘度調整用の水を混合したスラリーからなる。これら各主成分のスラリー中の含有量は、SBR水性エマルションが固形分として5〜25重量%、アスファルトの水性エマルションが固形分として5〜15重量%、アルカリ土類の炭酸塩粉末が固形分として60〜70重量%の範囲とする。
【0015】
上記炭酸塩粉末としては、平均粒子径が8〜30μm、空気透過法による比表面積が2000〜50000cm/gの炭酸カルシウム粉末を使用する。炭酸カルシウム粉末の粉末度については、上記範囲よりも平均粒子径が小さく比表面積が大きい場合、スラリー粘度が増加するほか、炭酸カルシウムの混合分散不良が生じて防錆性能が損なわれる。また、上記範囲よりも平均粒子径が大きく比表面積が小さい場合には、スラリー粘度が低下して炭酸カルシウム粉末の沈殿が起こるため、得られる防錆被膜の品質が変動しやすい。
【0016】
かかる粉末度を有する炭酸カルシウム粉末としては、石灰石を乾式又は湿式で粉砕して作製した重質炭酸カルシウム粉末が特に好ましい。尚、空気透過法による炭酸カルシウム粉末の比表面積の測定は、JIS R 5210のセメントの物理試験方法に定めるブレーン空気透過装置により行った。
【0017】
また、本発明の防錆剤において、スラリーの水量は粘度調整用の水と水性エマルションが含有する水とを合わせたものであり、これらの合計水量をスラリー全体の15〜25重量%とする。上記合計水量がスラリー全体の25重量%を超えると、スラリー粘度が低くなり過ぎて、炭酸カルシウム粉末の沈降分離が生じ、補強鉄筋への付着量の制御が困難となると共に、防錆被膜の耐水性が低下する。一方、15重量%未満であると、スラリー粘度が高くなり過ぎ、補強鉄筋への付着量が増大して制御が困難となる。
【0018】
尚、スラリーの合計水量を上記15〜25重量%の範囲内とすることにより、スラリーの粘度は2500〜6000mPa・s(BM型粘度計、6rpm、#3ローター、23℃)となるが、粘度は水量以外の要因でも変動するため、上記粘度に限定されるものではない。
【0019】
本発明の防錆剤においては、炭酸カルシウムの粉末度及びスラリーの水量を上記のごとく限定することによって、粘度変化や成分分離が長時間発生しない安定した防錆剤スラリーが得られ、且つ補強鉄筋への防錆剤の付着量の制御が容易である。しかも、この防錆剤を補強鉄筋に塗布することにより、鉄筋との付着力や被膜強度に優れ、更に耐水性が改善向上されることで着色を抑制することができる防錆被膜の形成を実現することができる。
【実施例】
【0020】
スチレン結合量が70重量%であるSBR水性エマルション(ガンツ化成株式会社製、商品名SPX−1、固形分濃度45重量%)と、アスファルトの水性エマルション(昭和シェル石油株式会社製、商品名FL−S、固形分濃度57重量%)と、重質炭酸カルシウム粉末(菱光石灰株式会社製)とを混合し、更にpH調整用の消石灰及び粘度調整用の水を加えて30分混合することにより、防錆剤スラリーを製造した。
【0021】
その際、下記表1に示すように、重質炭酸カルシウムの粉末度(平均粒径と空気透過法による比表面積)とスラリー水量(スラリー全体に対する重量%)を変化させて、本発明による試料1〜4と、比較例の試料5〜8の各防錆剤スラリーを得た。尚、これらの試料1〜8における上記各主成分の添加量は、上記スラリー水量に応じて全体が100重量%となるように、SBR水性エマルションを固形分として5〜25重量%、アスファルトの水性エマルションを固形分として5〜15重量%、重質炭酸カルシウム粉末を固形分として60〜70重量%の範囲内で調整した。
【0022】
【表1】

【0023】
上記各試料の防錆剤スラリーに補強鉄筋と固定棒を浸漬した後、その補強鉄筋を型枠内に固定棒で位置決めして固定した。この型枠内にALC原料スラリーを注入して発泡させ、所定時間を経てケーキ状半硬化体となった後、固定棒を引き抜いた。その後、ケーキ状半硬化体をピアノ線で所定寸法に切断し、オートクレーブにおいて180℃で8時間の高温高圧水蒸気養生して、各試料のALCパネルを得た。尚、ALC原料スラリーは、生石灰、セメント及び珪砂と、石こう及び繰り返し原料とを水と混合撹拌し、更に発泡剤としてアルミニウム粉末を加えて調整した。
【0024】
このようにして作製した試料1〜8の各ALCパネルについて、各試料の防錆剤の防錆性能及び鉄筋付着力を評価すると共に、防錆剤の耐水性並びに固定棒を引き抜いた孔の周囲での着色の有無を確認した。尚、防錆性能の測定サンプルの形状は、JIS A 5416の防錆性能試験方法に準じた。また、鉄筋付着力用の測定サンプルは、防錆性能用の測定サンプルと同じ要領で長さ方向に補強鉄筋が配されており、寸法が縦50mm×横50mm×長さ150mmの形状とした。
【0025】
防錆性能の試験では、JIS A 5416の防錆性能試験方法よりも錆発生状況が一層判別しやすいように、3%食塩水中でALCパネルの測定サンプルを真空引きすることで内部の空気を塩水で置換する操作を2時間行い、75℃にて一日乾燥を一サイクルとして4サイクル繰返した後、上記JISの温湿度調整プログラムにて14日間処理して錆発生面積率を求めた。また、鉄筋付着力の試験は、ALCパネルの測定サンプルの補強鉄筋に荷重を与え、補強鉄筋がALCパネルから脱出する最大荷重を補強鉄筋表面積で除する方法とした。
【0026】
また、耐水性の評価は、上記各試料の防錆剤スラリーを1層目が100μmとなるように補強鉄筋と同じ材質の平板に塗布して60℃で40分乾燥した後、2層目を100〜150μm塗付して同様に乾燥し、最終厚さが200〜250μmの防錆被膜(100×240mm)を形成した。この防錆被膜を付した平板をステンレス製バットに入れ、180℃で8時間の水蒸気養生を実施した後、防錆被膜の変質を計測した。計測方法は、防錆被膜を20×20mmの碁盤目状に区切り、各碁盤目内(全60ヶ所)の変色または膨れの有無を計測して、変色・膨れ発生率を求めた。
【0027】
更に、固定棒を引き抜いた孔の周囲での着色の有無は、各試料のALCパネル側面を目視観察して孔周辺に着色が発生している孔数を求め、その着色孔数を側面全体に存在する孔数で除することにより、着色発生率として評価した。
【0028】
上記の各評価結果を下記表2に示した。以下に防錆剤の評価基準を示す。防錆性能の評価は、JIS A 5416に規定の方法よりも過酷な条件であることから、錆発生面積率が0〜1.5%以下を適(○)とし、1.5%を超えたものを不適(×)とした。また、鉄筋付着力は、実用上問題がないとされる0.82N/mm以上を適(○)とし、0.82N/mm未満を不適(×)とした。尚、防錆性能と鉄筋付着力の評価は、適(○)又は不適(×)の結果のみを下記表2に表示した。
【0029】
また、耐水性の評価については、防錆被膜の変色・膨れ発生率が5%以下を適(○)、5%を超えたものを不適(×)とした。固定棒を引き抜いた孔の周囲での着色状態の評価は、着色発生率が2%以下を適(○)、2%を超えたものを不適(×)とした。これら耐水性と着色状態の評価については、適(○)又は不適(×)の結果と共に、変色・膨れ発生率及び着色発生率の具体的数値についても下記表2に表示した。
【0030】
【表2】

【0031】
上記の結果から、防錆被膜の変質である変色・膨れ発生率とパネルの着色発生率とはほぼ対応した相関関係があり、防錆被膜の耐水性を向上させて変色・膨れの発生を低減させることで、パネル側面の固定棒を引き抜いた孔の周囲での着色が抑制できることが分る。
【0032】
また、重質炭酸カルシウムの平均粒子径が8〜30μmで比表面積が2000〜50000cm/gの範囲にあり、且つスラリー水量が15〜25重量%の範囲内である本発明例の試料1〜4では、防錆性能及び鉄筋付着力が共に満足でき、防錆被膜の耐水性が良好であり、固定棒を引き抜いた孔の周囲での着色の発生も少ないことが分る。
【0033】
これに対し、スラリー水量が25重量%を超える試料5及びスラリー水量が15重量%未満の比較例の試料6では、鉄筋付着力が不十分であると共に、防錆被膜の耐水性が劣り、固定棒を引き抜いた孔の周囲での着色の発生も多くなっている。また、スラリー水量が15〜25重量%の範囲内であっても、重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径又は比表面積が上記範囲を外れている試料7と試料8は、防錆性能及び鉄筋付着力を満足できず、耐水性にも劣るため固定棒を引き抜いた孔の周囲での着色も改善されない結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン結合量が65〜75重量%のSBR水性エマルションを固形分として5〜25重量%と、アスファルトの水性エマルションを固形分として5〜15重量%と、アルカリ土類の炭酸塩粉末を固形分として60〜70重量%とに、pH調整用の消石灰と粘度調整用の水を混合して得られるスラリーからなり、前記炭酸塩粉末が平均粒子径が8〜30μm、空気透過法による比表面積が2000〜50000cm/gの炭酸カルシウム粉末であって、前記水性エマルションの水と粘度調整用の水の合計がスラリー全体の15〜25重量%であることを特徴とする軽量気泡コンクリート補強鉄筋用防錆剤。
【請求項2】
前記炭酸カルシウム粉末が、石灰石を乾式又は湿式で粉砕して作製した重質炭酸カルシウム粉末であることを特徴とする、請求項1に記載の軽量気泡コンクリート補強鉄筋用防錆剤。

【公開番号】特開2009−102700(P2009−102700A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276125(P2007−276125)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】