説明

輝度上昇フィルム

【課題】透明性、流動性、耐熱性および転写性に優れ、高温多湿の環境下でのたわみや反り等の形状変化が生じにくい耐湿熱性に優れたポリカーボネート樹脂製の輝度上昇フィルムを提供する。
【解決手段】粘度平均分子量が1.0×10〜2.5×10であるポリカーボネート樹脂100重量部に対し、アルコールと脂肪酸とのエステル0.17〜0.40重量部、およびリン系安定剤0.001〜0.1重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物から形成されたフィルムであり、その表面に規則的に配列された凹凸形状を賦形した輝度上昇フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート樹脂組成物からなる輝度上昇フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビやパーソナルコンピュータ等の液晶ディスプレイ装置は、一般的には、液晶パネル、反射型偏光フィルム、輝度上昇フィルム、拡散フィルム、バックライトユニット、反射板で構成される。輝度上昇フィルムは、バックライトユニット前面に組み込むことにより、光源から照射された光をディスプレイに向かって集光し、正面での輝度を向上させることができる。
【0003】
従来、輝度上昇フィルムは、ポリエステル樹脂シート表面にプリズム形状を賦形したアクリル樹脂を積層した光学フィルムが主流であった。しかしながら、最近の液晶ディスプレイ装置の大型化により、輝度上昇フィルムを構成する各樹脂の収縮率差による反り・波うち等の不具合が発生するため、単一材料に賦型を施した輝度上昇フィルムが検討されている。さらに、薄型化に伴い、輝度上昇フィルムの薄肉化が求められる上に、光源近傍で発生する熱によって機器装置内が高温となる傾向にあり、温度や湿度等の環境変化による形状変化が小さい、耐湿熱性に優れた樹脂材料が求められている。また、大型薄肉の輝度上昇フィルムを得るため高温成形となることから、樹脂材料から輝度上昇フィルムを形成する際の流動性、転写性も必要である。
【0004】
特許文献1には、吸水率が0.25重量%以下の熱可塑性樹脂からなるフィルムが示されている。しかしながら、該フィルムは液晶表示装置の光拡散板の保護層として使用されることが記載されている。また、特許文献2には、片面にレンズ形状又はプリズム形状を有する低吸水率等の特定の物性を有する光学シートが示されている。該光学シートの材料としてポリカーボネート樹脂が使用されることは記載されているが、その組成については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−225108号公報
【特許文献2】特開2008−096930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、透明性、流動性、耐熱性および転写性に優れ、高温多湿の環境下でのたわみや反り等の形状変化が生じにくい耐湿熱性に優れたポリカーボネート樹脂製の輝度上昇フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために以下の構成を採用する。
1.粘度平均分子量が1.0×10〜2.5×10であるポリカーボネート樹脂100重量部に対し、アルコールと脂肪酸とのエステル0.17〜0.40重量部、およびリン系安定剤0.001〜0.1重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物から形成されたフィルムであり、その表面に規則的に配列された凹凸形状を賦形した輝度上昇フィルム。
2.リン系安定剤が下記式(I)で表されるリン系化合物である上記1記載の輝度上昇フィルム。
【化1】

〔式中、Rは炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されてもよい炭素数1〜20のアリール基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい〕
3.規則的に配列された凹凸形状は、ピッチが10〜300μm、高さが10〜300μmであるレンチキュラー型、プリズム型、およびリニアーフレネル型形状からなる群より選ばれる少なくとも一種である上記1記載の輝度上昇フィルム。
4.厚みが0.1〜1.0mmである上記1記載の輝度上昇フィルム。
5.0.3mm厚における透湿度が15〜20g/m/24h(JIS Z 0208準拠)である上記1記載の輝度上昇フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、透明性、流動性、耐熱性および転写性に優れ、高温多湿の環境下でのたわみや反り等の形状変化が生じにくい耐湿熱性に優れたポリカーボネート樹脂製の輝度上昇フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】反り量の測定方法を示す図である。
【図2】賦形表面近傍を拡大した図である。
【図3】輝度上昇フィルムの製造装置の一態様を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリカーボネート樹脂について]
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂は二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。ポリカーボネート樹脂はいかなる製造方法によって製造されたものでもよく、界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。ポリカーボネート樹脂は前記二価フェノールまたは二官能性アルコールに加えて、3官能以上の多官能成分を重合させた分岐ポリカーボネートであってもよい。また3官能フェノール類の如き多官能フェノール類を重合させた分岐ポリカーボネート樹脂であってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、ポリオルガノシロキサン成分、並びにビニル系単量体を共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。二価フェノールの代表的な例として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等があげられる。好ましい二価フェノールはビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系であり、特にビスフェノールAが好ましい。
【0011】
カーボネート前駆物質として例えばホスゲンを使用する反応では、通常酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は数分〜5時間である。
【0012】
カーボネート前駆物質として例えば炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点等により異なるが、通常120〜300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0013】
末端停止剤として通常使用される単官能フェノール類を使用することができる。殊にカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られた芳香族ポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる単官能フェノール類としては、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端停止剤として使用されるものであればよく、前記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
【0014】
ポリカーボネート樹脂を製造するに当り、上記二価フェノールを単独で又は二種以上併用することができ、また必要に応じて分子量調節剤、分岐剤、触媒等を用いることができる。
【0015】
ポリカーボネート樹脂の分子量は粘度平均分子量で表して1.0×10〜2.5×10であり、好ましくは1.3×10〜2.3×10であり、さらに好ましくは1.5×10〜2.1×10である。本発明でいう粘度平均分子量は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0016】
本発明で好適に使用されるポリカーボネート樹脂は、そのOH末端量がOH基の重量で好ましくは1〜5,000ppmの範囲であり、より好ましくは5〜2,000ppmの範囲であり、さらに好ましくは10〜10,00ppmの範囲である。
【0017】
[アルコールと脂肪酸のエステルについて]
本発明で使用されるアルコールと脂肪酸とのエステルは、転写性、離型性、流動性などの成形性の向上だけでなく、高温多湿の環境下でのたわみや反り等の形状変化抑制に効果を発揮する。
【0018】
アルコールと脂肪酸とのエステルとしては、具体的には一価アルコールと脂肪酸とのエステルおよび/または多価アルコールと脂肪酸との部分エステルあるいは全エステルが挙げられる。前記一価アルコールと脂肪酸とのエステルとしては、炭素原子数1〜20の一価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸とのエステルが好ましい。また、多価アルコールと脂肪酸との部分エステルあるいは全エステルとしては、炭素原子数1〜25の多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルが好ましい。
【0019】
一価アルコールと飽和脂肪酸とのエステルとしては、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート等が挙げられ、特にステアリルステアレートが好ましい。
【0020】
多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリンモノベヘネート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等のジペンタエリスルトールの全エステルまたは部分エステル等が挙げられる。なかでも、グリセリンモノステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、グリセリントリステアレーとステアリルステアレートとの混合物が好ましい。特に、ペンタエリスリトールテトラステアレート、グリセリンモノステアレートが好ましい。
【0021】
上記脂肪酸エステルの酸価は、3以下が好ましく、2以下がより好ましい。グリセリンモノステアレートの場合は、酸価1.5以下、純度95重量%以上が好ましく、酸価1.2以下、純度98重量%以上が特に好ましい。脂肪酸エステルの酸価の測定は、公知の方法を用いることができる。
【0022】
アルコールと脂肪酸とのエステルの配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し0.17〜0.40重量部の範囲であり、0.20〜0.35重量部の範囲が好ましく、0.25〜0.30重量部の範囲が最も好ましい。かかるアルコールと脂肪酸とのエステルの配合量が0.17重量部に満たない場合、流動性や耐湿熱性に劣り、0.40重量部を超える場合、成形時にロール汚染を生じる上、フィルムの透明性が損なわれ、また転写性にも劣り好ましくない。
【0023】
[リン系安定剤について]
本発明においては、ポリカーボネート樹脂組成物の安定剤としてリン系安定剤が使用され、好ましくは下記式(I)で表されるビフェニルの各環に各種ホスフィン酸エステルの置換したリン系化合物が使用される。
【0024】
【化2】

〔式中、Rは炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されてもよい炭素数1〜20のアリール基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい〕
【0025】
具体的には、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイトなどがあり、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイトが好ましく、特にテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイトがより好ましい。
【0026】
リン系安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜0.1重量部の範囲であり、0.003〜0.06重量部の範囲が好ましく、0.01〜0.05重量部の範囲が最も好ましい。かかるリン系化合物の配合量が0.001重量部に満たない場合ポリカーボネート樹脂の成形耐熱性が不十分となり好ましくない。また、0.1重量部を超える場合、物性低下や成形時にロール汚染を生じ易くなり好ましくない。
【0027】
また、前記リン系安定剤の他に、前記以外のリン系安定剤やヒンダードフェノール系安定剤などを組み合わせて使用してもよい。
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲で、前記以外の樹脂添加剤、例えば、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤などを配合してもよい。
【0028】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。上記の他樹脂の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常40重量部以下、好ましくは30重量部以下である。
【0029】
[ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法等について]
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば、当該ポリカーボネート樹脂、アルコールと脂肪酸とのエステル、リン系安定剤、並びに任意に他の添加剤を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどによりかかる予備混合物の造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練し、ペレタイザーによりペレット化する方法が挙げられる。
【0030】
ポリカーボネート樹脂と、アルコールと脂肪酸とのエステル、リン系安定剤およびその他の添加剤とのブレンドにあたっては、一段階で実施してもよいが、二段階以上に分けて実施してもよい。二段階に分けて実施する方法には、例えば、配合予定のポリカーボネート樹脂パウダーやペレットの一部と添加剤とをブレンドした後、つまり、添加剤をポリカーボネート樹脂パウダーで希釈して添加剤のマスターバッチとした後、これを用いて最終的なブレンドを行う方法がある。
【0031】
例えば、一段階でブレンドする方法においては、各所定量の各添加剤を予め混合したものをポリカーボネート樹脂パウダーやペレットとブレンドする方法、また、各所定量の各添加剤を各々別個に計量し、ポリカーボネート樹脂パウダーやペレットに順次添加後ブレンドする方法等を採用することができる。リン系化合物以外の添加剤の配合にあたっては、かかる添加剤を押出機に直接添加、注入する方法をとることができる。その場合、各添加剤を加熱融解後注入することも可能である。
【0032】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂組成物の流動性は、25cm/10min以上が好ましく、25〜40cm/10minの範囲がより好ましく、30〜35cm/10minの範囲がさらに好ましい。上記範囲であると流動性に優れフィルムの転写性が良好となる。
【0033】
[輝度上昇フィルムについて]
本発明の輝度上昇フィルムは、厚み0.1〜1.0mmの範囲が好ましく、また、表面に規則的に配列された凹凸形状を賦形したフィルムである。凹凸形状は、ピッチが好ましくは10〜300μm、より好ましくは20〜100μmであり、高さが好ましくは10〜300μm、より好ましくは20〜250μm、さらに好ましくは100〜200μmである、レンチキュラー型、プリズム型、およびリニアーフレネル型形状からなる群より選ばれる少なくとも一種であるものが好ましい。
【0034】
本発明の輝度上昇フィルムは、その製法には特に限定はなく、例えば、溶融押出法、溶液キャスティング法(流延法)等を挙げることができる。溶融押出法の具体的な方法は、例えば、ポリカーボネート樹脂を押出機に定量供給して、加熱溶融し、Tダイの先端部から溶融樹脂をフィルム状に鏡面ロール上に押出し、複数のロールにて冷却しながら引き取り、固化した時点で適当な大きさにカットするか巻き取る方式が用いられる。溶液キャスティング法の具体的な方法は、例えば、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解した溶液(濃度5%〜40%)を鏡面研磨されたステンレス板上にTダイから流延し、段階的に温度制御されたオーブンを通過させながらフィルムを剥離し、溶媒を除去した後、冷却して巻き取る方式が用いられる。
【0035】
溶融押出する際には、溶融押出機でポリカーボネート樹脂をそのガラス転移点〜ガラス転移点+230℃、好ましくはガラス転移点+50℃〜ガラス転移点+200℃で溶融押出することができる。溶融押出機は、単軸押出機であっても2軸押出機であってもよい。樹脂の熱劣化、着色の防止、Tダイリップのメヤニ防止、並びにロール汚染の防止などを目的として、ベント吸引による減圧脱気、ホッパー内の吸引脱気、および窒素の如き不活性ガスのホッパーまたはバレルへの注入などを行うことができる。ベント吸引する場合には、好ましくは1.33〜66.5kPaで減圧される。
【0036】
溶融状態で押出されたフィルムは第1ロール、第2ロールおよび第3ロールで狭持圧下されながら冷却される。この際フィルムは第2ロールの表面に施されている彫刻溝により微細な凹凸形状が付与され、冷却された後、引取ロールにより引き取られる。ここで使用する第1〜第3ロールのロール径は特に制限する必要はなくまた同じロール径に統一する必要もないが、ロール径は通常200mm以上であり、特に250〜500mmの同一径のものが好ましく使用される。いずれのロールもロール表面に樹脂コートを含む各種のコート処理が施されてもよい。使用する彫刻溝ロールの彫刻溝のピッチは好ましくは10〜300μmであり、より好ましくは20〜100μmである。賦形フィルムにおける凸形状のピッチは、ロールの彫刻溝のピッチに依存する。本発明における凸形状は、同一のピッチであることが望ましい。したがって、かかる彫刻溝のピッチは一定の値であり、その結果、微細な凹凸形状が同一ピッチで規則的に配列されたフィルムが望ましい。かかるピッチの値は基本的には、求められる光学設計において適宜決められるが、10〜300μmの範囲では、フィルムの輝度上昇性、生産性、並びにロール彫刻の生産性において優れている。
【0037】
本発明で使用する彫刻溝ロールの溝の深さは好ましくは10〜300μmである。かかる下限は、より好ましくは20μm、更に好ましくは100μmである。一方、かかる上限は好ましくは250μm、より好ましくは200μmである。尚、ロールの溝の深さは、フィルムへの転写率を考慮して設計され、公知の彫刻機を用いて彫刻することができる。溶融押出されたポリカーボネート樹脂組成物を第1ロールと第2ロールとの間に挟持して当該2本のロールで押圧する際の線圧が50kg/cm以上であることが好ましい。より好ましくは100〜200kg/cmの範囲である。200kg/cmを超えると、押しつぶしによってフィルムの厚み方向前面に歪が発生し易く、フィルムのカール、反りなどの原因となると共に圧力によるロール軸の歪みが発生し易く、幅方向の賦型程度に差が発生する原因となる。
【0038】
本発明の輝度上昇フィルムは、表面賦形された凹凸形状が、フィルムの幅方向または/および幅方向と直角方向に規則的に配列された凹凸形状であり、凹凸形状はレンズ形状が好ましく、更に好適には、レンチキュラー型、プリズム型、またはリニアーフレネル型レンズが好ましい。ここで、「フィルムの幅方向または/および幅方向と直角方向」とは、凹凸形状が片面にフィルムの幅方向または幅方向と直角方向に規則的に配列されていること、並びに凹凸形状が片面においてはフィルムの幅方向に、もう一方の面において幅方向と直角方向に規則的に配列されていることを含む。本発明の凹凸形状は、片面賦形および両面賦形のいずれの態様も含む。本発明の凹凸形状は、より高精度が要求されるレンズ機能を有する形状が好適である。該レンズ機能の凹凸形状には、いわゆるフライアイレンズを含むレンズアレイを含むが、より好適には畝状のレンズ形状であり、プリズム型が特に好適である。
【0039】
本発明の輝度上昇フィルムの透湿度は、JIS Z 0208に準拠した透湿度で評価される。本発明で得られた輝度上昇フィルムの透湿度は20g/m/24h以下が好ましく、15〜20g/m/24hがより好ましい。透湿度が20g/m/24hを超える場合、高温高湿環境下にてたわみや反りが生じ、その結果、輝度斑が生じるため好ましくない。
【0040】
本発明の輝度上昇フィルムの透明性としては、JIS K 7361−1に準拠した全光線透過率値で評価される。本発明で得られた輝度上昇フィルムの全光線透過率値は好ましくは85%以上であり、より好ましくは88%以上である。
【0041】
本発明の輝度上昇フィルムは、表面賦形された凹凸形状の転写率が90%以上であることが好ましく、95%以上がより好ましい。また、離型する際の変形や反りが可能な限り少ないことが好ましい
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、何らこれに限定されるものではない。なお実施例、比較例中の性能評価は下記の方法に従った。
【0043】
(1)流動性
ポリカーボネート樹脂組成物のメルトボリュームフローレート(MVR)をISO 1133に記載の方法に準拠して300℃、1.2kg荷重で測定した。
【0044】
(2)透湿度
JIS Z0208に準拠し、厚み0.3mmの輝度上昇フィルムの透湿度を測定した。
【0045】
(3)反り
輝度上昇フィルムを長さ80mm、幅25mmに切断し、60℃、90%RH雰囲気で96時間処理した後の反り量を図1に示す方法で測定した。
【0046】
(4)膨張率
輝度上昇フィルムを長さ80mm、幅80mmに切断し、60℃、90%RH雰囲気で96時間処理した後の厚みの膨張率を次の式により算出した。
膨張率={(d−d)/d}×100
[dは処理前のフィルム厚み、dは処理後のフィルム厚み]
【0047】
(5)全光線透過率
JIS K 7361−1に準拠し、全光線透過率値を測定した。
【0048】
(6)転写率
輝度上昇フィルムをミクロトームで切断し、切断面を日立製走査電子顕微鏡S−3400Nで観察し、賦形形状のピッチと高さを測定した。賦形形状のピッチと高さについては図2に示す位置で測定を行った。図2は賦形表面近傍を拡大した図である。
【0049】
[実施例1〜5、比較例1〜3]
ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造されたポリカーボネート樹脂パウダー100重量部に、表1記載の各種添加剤を各配合量で、ブレンダーにて混合した。スクリュー径40mmのベント付単軸押出機により、シリンダー温度280℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを作成した。更に、得られたペレットを120℃で5〜7時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、ベント付きTダイ押出機により、押出機温度250〜300℃、ダイス温度280℃、ベント部の真空度を26kPaに保持してポリカーボネート樹脂組成物を押出した。Tダイの幅は450mmであり、エアギャップ間のネッキングによりロール接触時に350mm幅となるように調整した。さらに、フィルム厚みが一定となるように引き取り速度によって調整を行った。図3に示す様式で実施した。即ち、第2ロールを賦形ロールとし、第1ロール及び第3ロールは鏡面ロールとした。いずれのロールもロール直径は360mmであった。第2ロールには、V字型溝が形成され、フィルムの全幅に賦形した。かかるV字型溝は、ピッチ50μm、高さ25μm、頂角45°のプリズム形状であった。第1ロール、第2ロール及び第3ロールの温度をそれぞれ140℃、150℃及び145℃に設定し、押出した溶融ポリカーボネート樹脂組成物を第1ロールと第2ロール間の線圧を8MPaとして狭持して賦形した。最終的に該フィルムの両端約50mmずつを切断し250mm幅、厚み0.3mmのポリカーボネート樹脂輝度上昇フィルムを得た。得られたフィルムの各種評価結果は表1に示した。
【0050】
なお、表1中記号表記の各成分の内容は下記の通りである。
(A−1)ポリカーボネート樹脂;ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造されたのポリカーボネート樹脂[帝人化成(株)製パンライト(登録商標)L−1225WL;粘度平均分子量が18,600]
(A−2)ポリカーボネート樹脂;ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造されたのポリカーボネート樹脂[帝人化成(株)製パンライト(登録商標)L−1225WS;粘度平均分子量が20,900]
(B)アルコールと脂肪酸のエステル;ステアリン酸モノグリセリド[理研ビタミン(株)製リケマールS−100A]
(C)リン系安定剤;テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト[クラリアントジャパン(株)製ホスタノックスP−EPQ]
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物よりなる輝度上昇フィルムは、転写性、離型性、耐熱性に優れ、高温多湿の環境下でのたわみや反り等の形状変化が生じにくいため、薄型且つ大型の液晶ディスプレイ装置用プリズムフィルムとしての使用が可能である。
【符号の説明】
【0053】
A 賦形形状の高さ
B 賦形形状のピッチ
1 Tダイリップ
2 溶融押出されたフィルム状の樹脂
3 冷却ロールの第1ロール
4 賦形彫刻ロールの第2ロール
5 冷却ロールの第3ロール
6 引き取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が1.0×10〜2.5×10であるポリカーボネート樹脂100重量部に対し、アルコールと脂肪酸とのエステル0.17〜0.40重量部、およびリン系安定剤0.001〜0.1重量部を配合してなるポリカーボネート樹脂組成物から形成されたフィルムであり、その表面に規則的に配列された凹凸形状を賦形した輝度上昇フィルム。
【請求項2】
リン系安定剤が下記式(I)で表されるリン系化合物である請求項1記載の輝度上昇フィルム。
【化1】

〔式中、Rは炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されてもよい炭素数1〜20のアリール基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい〕
【請求項3】
規則的に配列された凹凸形状は、ピッチが10〜300μm、高さが10〜300μmであるレンチキュラー型、プリズム型、およびリニアーフレネル型形状からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の輝度上昇フィルム。
【請求項4】
厚みが0.1〜1.0mmである請求項1記載の輝度上昇フィルム。
【請求項5】
0.3mm厚における透湿度が15〜20g/m/24h(JIS Z 0208準拠)である請求項1記載の輝度上昇フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126767(P2012−126767A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277044(P2010−277044)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】