説明

輸送試料分析システム及び分析方法

【課題】試料容器を開封せずにそのまま試料分析を行うことができ、従来に比べて短時間で試料分析を行うことができるとともに、作業員の汚染可能性の低減と廃棄物量の低減とを図ることのできる輸送試料分析システム及び分析方法を提供する。
【解決手段】サンプリング室1内のサンプリング装置部2において、分析対象試料は試料容器3に採取され、気送管4を経由して空気流により搬送される。分析室5内の分析装置部6において、試料容器3の抽出セル15に光を照射し、その透過光、および蛍光を測定することによって、試料容器3を開封することなく光反応を応用した分析を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質取扱施設等において遠隔サンプリング点においてサンプリングした試料を輸送経路を経由して分析室に搬送し分析する輸送試料分析システム及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質取扱施設に代表されるように、汚染レベルが高く、管理レベルの高い施設での工程管理分析では、分析対象試料をサンプリングする場所と分析を実施する場所は一般に異なり、遠隔分離されている。そして、サンプリングされた試料は、気送管搬送システム等の搬送手段により、サンプリング点から分析室まで遠隔輸送されている。
【0003】
このようにサンプリングされた汚染物質を輸送した後に試料分析する従来のシステムでは、サンプリング点で採取された分析試料は、一般に試料専用容器に採取され、搬送専用の容器に封入されて、搬送経路を経由して、分析室に搬送される仕組みとなっている。例えば、気送管搬送システムの場合は、分析試料は、樹脂製容器に採取され、さらに気送子と呼ばれる小型容器のカプセルに封入されて、気送管を経由して、分析室に搬送される。一方、一般に分析室では、グローブボックス等の密封作業領域で、試料専用容器を開封して前処理を行い、試料調整を行った後、化学分析装置による定量分析を行っている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】株式会社日本シューター・ホーム・ページ『原子力施設内のサンプル搬送設備』http://www.nippon-shooter.co.jp/
【非特許文献2】日本原燃株式会社・ホーム・ページ『再処理工場の気送設備』 http://www.jnfl.co.jp/cycle-recycle/
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の輸送試料分析システムでは、サンプリングされた試料は試料専用容器に採取された後、さらに搬送専用容器に封入され、搬送経路を経由して分析室に搬送される仕組みとなっている。このような場合、分析室においては、試料専用容器を搬送専用容器から取り出した後、さらに一旦、試料専用容器を開封してからでないと、前処理や分析が実行できないため、分析所要時間が長いという課題があった。
【0005】
また、このようなオフライン分析の場合は、インラインの自動分析システムに比べて、分析業務を担当する作業員の汚染(放射性物質の分析の場合は被曝)の確率が高まるという課題があった。
【0006】
さらに、オフライン分析は、一般に前処理が必要であるため、試料調整後の分析そのものに必要な試料量は少ない場合でも、事前のサンプリングに必要な試料量は多くなるため、廃棄物が多くなるという課題があった。
【0007】
本発明は、かかる従来の事情に対処してなされたもので、試料容器を開封せずにそのまま試料分析を行うことができ、従来に比べて短時間で試料分析を行うことができるとともに、作業員の汚染可能性の低減と廃棄物量の低減とを図ることのできる輸送試料分析システム及び分析方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、サンプリング点において分析対象試料を試料容器に採取し、当該試料容器を輸送経路を経由して分析室に搬送した後に、前記試料容器内の前記分析対象試料の分析を行う輸送試料分析システムであって、前記試料容器は、前記分析対象試料を収容するとともに内部の前記分析対象試料について外部から光を照射し、透過光、蛍光の少なくともいずれか一方を測定することにより外部から分析可能とするセル部を有し、当該試料容器を開けることなく前記分析対象試料を分析可能とされていることを特徴とする。
【0009】
本発明方法の一態様は、サンプリング点において分析対象試料を試料容器に採取し、当該試料容器を輸送経路を経由して分析室に搬送した後に、前記試料容器内の前記分析対象試料の分析を行う輸送試料分析方法であって、前記試料容器に、前記分析対象試料を収容するとともに内部の前記分析対象試料について外部から光を照射し、透過光、蛍光の少なくともいずれか一方を測定することにより外部から分析可能とするセル部を設け、当該セル部に外部から光を照射して前記試料容器を開けることなく前記分析対象試料の分析を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料容器を開封せずにそのまま試料分析を行うことができ、従来に比べて短時間で試料分析を行うことができるとともに、作業員の汚染可能性の低減と廃棄物量の低減とを図ることのできる輸送試料分析システム及び分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る気送方式の場合の輸送試料分析システムの構成を示す概念図である。
【0012】
図1において1は、分析対象試料をサンプリングするサンプリング室であり、5は分析対象試料を分析する分析室である。これらのサンプリング室1と分析室5とは、輸送経路としての気送管4によって接続されている。
【0013】
サンプリング室1内のサンプリング装置部2において、分析対象試料は試料容器3に採取され、気送管4を経由して高流速の空気により搬送された後、分析室5内の分析装置部6において、未開封のまま直接に光反応を応用して分析が行われる。
【0014】
図2は、本発明の実施形態に係わる輸送試料分析システムにおける試料容器の構成及び試料採取方法を示す概念図である。また、図3は、本発明の実施形態に係わる輸送試料分析システムにおける試料分析部の構成及び試料分析方法を示す概念図である。
【0015】
本実施形態では、分析対象試料が、硝酸ウラニルを含む核燃料再処理溶液の場合について、サンプリング室1内の試料サンプリングタンク7から採取した分析対象試料8を試料容器3に封入して気送管4で輸送した後、分析室5において、硝酸溶液中に含まれるウラン(ウラニルイオン;UO22+)の濃度を、共存する他成分物質と区別して、定量分析する場合を例にして説明する。
【0016】
本実施形態において、試料サンプリングタンク7内の分析対象試料8は、逆流防止弁9を介し試料配管10を経由して試料導入キャピラリ11に導入可能となっている。また、試料容器3は、プレパラート状の薄い基盤12と角柱状の筒型のホルダ13とから構成され、ホルダ13の側面から基盤12を挿入することによって、これらが一体となるよう構成されている。
【0017】
基盤12内部には、微小内径の細管14、薄い円盤構造の微小空間から構成される抽出セル15、及び薄い円盤構造の微小空間から構成される真空セル16が配置されている。細管14は、接点17及び18において、抽出セル15及び真空セル16と接続されている。試料サンプリング前の初期状態においては、抽出セル15内部はTBP(トリブチル燐酸)溶液で満たし、真空セル16及び細管14内部は減圧または真空状態とし、その端面には真空封じ膜19を設けて、外部から封じ切り構造としておく。
【0018】
ホルダ13の上面及び下面には、抽出セル15において分析時に光照射(透過)や蛍光観測を行えるように、窓20がそれぞれ穴あけされて設けられている。キャピラリ11及び細管14の内径は小さく、基盤12は薄くかつ小さいことが望ましい。キャピラリ11及び細管14の内径は例えばサブミリ(0.1mm)オーダーとし、基盤12の大きさは、例えば数cm角で厚さ数mm程度とすることが好ましい。
【0019】
基盤12は、気送管4内を輸送中に破損しないようにする必要があり、このため軽量で強固であることが望ましい。さらに、後述するように抽出セル部15は分析時に光照射(透過)や蛍光観測を行えるようにする必要があるため、可視・紫外光の透過率の高い材質であることが必要である。PMMA(アクリル)やPS(ポリスチレン)は、それぞれ波長285〜750nm、340〜750nmの領域で透過率が比較的高いことから、基盤12の材質として、光学的にこれらの材質は好適であり、前述の強度の面からしても問題がない。
【0020】
また、ホルダ13の材質も、基盤12が輸送中に破損しないために、振動や応力に対して強靭であり、衝撃吸収緩和作用の大きいものが好ましく、樹脂やゴム系の材質が好適である。さらに、ホルダ13はICタグ等の情報記録媒体を内蔵した構成とすることが好ましい。
【0021】
図3に示すように、試料分析時においては、光源21からの照射光22は、試料容器3の抽出セル15を透過し、その透過光23は透過光検出器24で検出される。また、抽出セル15内から発生した蛍光25は光学フィルタ26を透過し、その透過蛍光27は蛍光検出器28で検出される。
【0022】
一般にウラニルイオンは可視から紫外波長領域(約200nm〜約500nm)に光吸収波長帯を有しており、短波長領域の方がその吸光度も大きい傾向にあることが知られている。光源21としては、例えば、Nd:YAGレーザーの第3高調波(波長355nm)、窒素レーザー(波長377nm)等で、パルス時間幅が10ns程度のものを用いれば、定量分析が可能である。また、試料分析部の小型化のためには、紫外光LED(波長375nm)等のランプ光源で代用することも可能である。
【0023】
光学フィルタ26としては、例えば、照射光22の波長領域の光を選択的に低減させる特性を有するもので、短波長カットタイプの色ガラスフィルタで厚さ2mm程度のものを用いることができる。また、光学フィルタ26としは、例えばウラン蛍光波長領域の光を選択的に透過させる特性を有するもので、バンドパスタイプの干渉フィルタで厚さ3mm程度のものを用いることができる。さらには、光学フィルタ26としては、上記の2種類のフィルタを重ねて使用することもできる。この場合、相乗効果が得られ、そのウラン蛍光波長領域の光の選択的透過特性を向上させることができる。
【0024】
透過光検出器24、蛍光検出器28としては、例えば、光電子増倍管、CCDタイプ光検出素子、CMOSタイプ光検出素子等を用いることができる。
【0025】
従来の分析システムでは、試料サンプリングタンク7内の分析対象試料8を試料容器に採取する作業は、分析作業員が試料採取用具を用いて移し替えする方式の手作業で行っていた。これに対して、本実施形態では、基盤12内部の真空セル16及び細管14内部は減圧または真空状態とし、その端面には真空封じ膜19を設けて、外部から封じ切り構造としてあるため、真空封じ膜19を突き破るようにして、キャピラリ11を細管14内部へ差し込むだけで、試料サンプリングタンク7内の分析対象試料8は、逆流防止弁9を介して試料配管10を経由して試料容器3内部へ自動的に試料導入される吸引作用が得られる。これによって、分析作業員が試料採取を行う場合であっても従来に比べて容易に短時間で試料採取を行うことができ、また、自動化を図ることも容易である。なお、吸引された分析対象試料8は、細管14の毛細管現象のために、液漏れすることなく、試料容器3内に保持される。
【0026】
従来の分析システムでは、一般に前処理が必要であるため、試料調整後の分析そのものに必要な試料量は少ない場合でも、事前のサンプリングに必要な分析対象試料8の容量は多くなり数ミリリットル以上であった。そして、気送管4を経由して搬送する試料容器3の容積及び重量が大きくなることにより、輸送時に試料容器3が受ける振動や応力も大きくなるため、強固な容器が必要であり総重量が増大していた。
【0027】
これに対して本実施形態では、試料容器3の基盤12は、内部空間寸法がサブミリ(0.1mm)オーダーで、分析に必要な分析対象試料8の容量は微小で数マイクロリットル〜数百マイクロリットルに低減される作用がある。また、基盤12の外形寸法も数cm角で厚さ数mm程度であり、PMMA(アクリル)等の材質を用いており、ホルダ13も樹脂やゴム系の材質を用いているため、試料容器3を軽量・小型化することができる。
【0028】
さらに、従来の分析システムでは、分析室5においては、一旦、試料容器を開封してから、前処理を行い、分析を実行していため、分析所要時間が長く、分析作業員の汚染や放射線被曝の確率が高まっていた。さらには、前処理工程で廃棄物が発生し、廃棄物総量が増大していた。
【0029】
これに対して本実施形態では、試料サンプリング時に、試料容器3の基盤12内には、外部との圧力差により自動的に試料が導入される。このとき、細管14から真空セル16までの微小空間は、分析対象試料8で満たされる。そして分析対象試料8中のウラン(ウラニルイオン;UO22+)成分は、接点17を経由して、抽出セル15内部のTBP(トリブチル燐酸)溶液中に抽出される。この溶媒抽出反応は、選択的に生じ、分析対象試料8である再処理溶液中において共存する他成分物質と区別して、選択的にウランのみが抽出される。この、選択的なウランの抽出は、試料容器3を開封することなく、自動的に進むことから、分析作業員による手作業による前処理の必要がなくなる。
【0030】
さらに、本実施形態では、光源21からの照射光22は、試料容器3の抽出セル15に抽出されたウランによって吸収され、その透過光23は減衰して透過光検出器24で検出される。このとき得られる透過光23の強度と、予め装置構成時にウラン成分の含まれていない分析対象試料8をブランク試料とし取得しておいた透過光23の強度とを比較して、吸光度法による定量分析を制御用計算機で自動処理することにより、分析対象試料8中のウラン成分の定量が可能となる。
【0031】
また、抽出セル15内に抽出されたウランが照射光22を吸収して励起された後、緩和過程で発生する蛍光25は、ウラン蛍光波長のみ選択的に透過する光学フィルタ26を通り、その透過蛍光27は蛍光検出器28で検出される。このとき得られる透過蛍光27の強度と、予め装置構成時に取得しておいたウラン成分濃度と蛍光強度との直線的相関関係のデータ、すなわち較正直線とを比較して、誘起蛍光法による定量分析を制御用計算機で自動処理することにより、分析対象試料8中のウラン成分の定量が可能となる。
【0032】
以上のような工程により、手作業の前処理のいらない自動分析が迅速に実行されるため、分析所要時間を短くすることができる。また、分析作業員の汚染や放射線被曝の確率を低減することができ、さらに廃棄物量の低減も図ることができる。また、ICタグに分析試料付帯情報として、サンプリング情報を予め入力しておけば、分析室における識別自動化、分析情報の電子情報一元管理化を図ることができる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によれば、硝酸ウラニルを含む核燃料再処理溶液を分析する場合で、試料サンプリングタンクから採取した分析対象試料を試料容器に封入して気送管で輸送した後、分析室において、硝酸溶液中に含まれるウラン(ウラニルイオン;UO22+)の濃度を、共存する他成分物質と区別して、定量分析する場合において、前処理不要でリアルタイム分析が可能な光応用分析システムとすることにより、試料容器を開封せずにそのまま分析することが可能となる。従来のシステムと比較した場合、分析所要時間は短くなり、分析作業員の汚染や放射線被曝の確率は低くなり、さらには、前処理工程で廃棄物の発生が無くなり廃棄物総量が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る気送方式の輸送試料分析システムの概念図
【図2】輸送試料分析システムにおける試料容器構造及び試料採取方法の概念図
【図3】輸送試料分析システムにおける試料分析部構造及び試料分析方法の概念図
【符号の説明】
【0035】
1……サンプリング室、2……サンプリング装置部、3……試料容器、4……気送管、5……分析室、6……分析装置部、7……試料サンプリングタンク、8……分析対象試料、9……逆流防止弁、10……試料配管、11……試料導入キャピラリ、12……:基盤、13……ホルダ、14……細管、15……抽出セル、16……真空セル、17,18……接点、19……真空封じ膜、20……窓枠、21……光源、22……照射光、23……透過光、24……透過光検出器、25……蛍光、26……光学フィルタ、27……蛍光、28……蛍光検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリング点において分析対象試料を試料容器に採取し、当該試料容器を輸送経路を経由して分析室に搬送した後に、前記試料容器内の前記分析対象試料の分析を行う輸送試料分析システムであって、
前記試料容器は、前記分析対象試料を収容するとともに内部の前記分析対象試料について外部から光を照射し、透過光、蛍光の少なくともいずれか一方を測定することにより外部から分析可能とするセル部を有し、当該試料容器を開けることなく前記分析対象試料を分析可能とされていることを特徴とする輸送試料分析システム。
【請求項2】
請求項1記載の輸送試料分析システムであって、
前記試料容器は、
略板状に形成され、内部に前記セル部と、当該セル部と接続され前記分析対象試料の流路となる管状部とが設けられた基盤と、
前記基盤の外側を覆うように設けられ前記セル部に対応した窓部を有するホルダと、
を有することを特徴とする輸送試料分析システム。
【請求項3】
請求項2項記載の輸送試料分析システムであって、
前記基盤は、前記管状部と接続し、前記分析対象試料採取前において内部圧力が減圧状態とされる真空セル部を有し、外部との圧力差によって前記分析対象試料を内部に取り込むよう構成されていることを特徴とする輸送試料分析システム。
【請求項4】
サンプリング点において分析対象試料を試料容器に採取し、当該試料容器を輸送経路を経由して分析室に搬送した後に、前記試料容器内の前記分析対象試料の分析を行う輸送試料分析方法であって、
前記試料容器に、前記分析対象試料を収容するとともに内部の前記分析対象試料について外部から光を照射し、透過光、蛍光の少なくともいずれか一方を測定することにより外部から分析可能とするセル部を設け、当該セル部に外部から光を照射して前記試料容器を開けることなく前記分析対象試料の分析を行うことを特徴とする輸送試料分析方法。
【請求項5】
請求項4項記載の輸送試料分析方法であって、
前記試料容器の内部に、前記分析対象試料と作用する反応物質を予め収容しておき、当該反応物質の作用により前記分析対象試料を分析するための前処理が行うことを特徴とする輸送試料分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−2863(P2009−2863A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165482(P2007−165482)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】