説明

農用作業車の操作構造

【課題】 畦越え走行時や作業終い走行時などにおける地上側からの作業装置の上昇操作や作動停止操作を容易に行えるようにする。
【解決手段】 車体1の前部に、地上側からの車体1の誘導操作を可能にする誘導操作具11を備え、車体1の後部に備えた作業装置Aの昇降駆動を可能にする昇降機構Cと、作業装置Aに対する動力の断続を可能にする断続機構Bとを備え、搭乗運転部7に、昇降機構Cおよび断続機構Bの作動状態の切り換え操作を可能にする作業用の操作レバー17を配備し、操作レバー17を、断続機構Bが遮断状態となり、かつ、昇降機構Cが上昇状態となる操作位置に向けて付勢する付勢手段83と、この付勢手段83の作用に抗した操作レバー17の操作保持を可能にする保持手段84とを備え、誘導操作具11に、地上側からの保持手段84の保持解除操作を可能にする補助操作具Dを装備してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の後部に作業装置を装備し、前記車体の前部に、地上側からの前記車体の誘導操作を可能にする誘導操作具を備えた農用作業車の操作構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような農用作業車の操作構造においては、車体の前部に誘導操作具を備えたことにより、運転者が降車して行うことが望ましいと考えられている、例えば、車体を圃場に対して進入または退出させる畦越え走行や、歩み板を利用して車体をトラックの荷台に対して積み卸しする積み卸し走行などの最中において、車体が所定の走行経路から外れる虞が生じた場合には、誘導操作具を利用することにより、車体の軌道修正を地上側から行うことができる。また、その畦越え走行や積み卸し走行などの際に、作業装置の重量などによって車体の前部側が浮き上がり気味になる虞が生じた場合には、地上側から誘導操作具を下方に向けて押さえ込むことにより、その浮き上がりを防止することができる。
【0003】
従来、上記のような農用作業車の操作構造においては、誘導操作具の近傍に、主クラッチおよびブレーキに対する地上側からの関連操作を可能にする停止レバー、ならびに、地上側からの停止レバーの停止位置での保持および解除を可能にする係止レバーを設け、また、運転座席の右側方に、車体の後部に昇降可能かつ伝動可能に装備した作業装置の昇降操作と作業装置に対する伝動状態の切り換え操作とを可能にする植付レバーを配備することが考えられていた(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−362383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した畦越え走行や積み卸し走行などを行う場合には、まえもって、車体を走行させる畦斜面や歩み板などの勾配を考慮した任意の高さ位置まで作業装置を上昇させておくことが一般的に行われている。このようにすると、畦越え走行や積み卸し走行などの際に、作業装置が地面や歩み板などの走行面に接触する虞を未然に回避することができる。また、作業装置を上限位置まで上昇させる場合に比較して、車体の重心位置を低くすることができ、車体の安定性を確保することができる。
【0005】
しかしながら、畦越え走行や積み卸し走行などを実際に行ってみると、畦斜面や歩み板などの勾配が思ったよりもきつい場合がある。このような場合には、作業装置の走行面との接触を回避するために、再び作業装置を上昇させる必要がある。そして、この作業装置の再上昇操作を地上側から行うためには、停止アームと係止アームとを操作して車体の走行を停止させた後、畦斜面上や歩み板上などに位置する車体の右側方に回り込んで、運転座席の右側方にある植付レバーを操作することになる。そのため、作業装置の再上昇操作が煩わしいものになっていた。
【0006】
一方、圃場作業の終了間際には、作業装置による作業を畦際まで行うために、畦斜面に車体を登坂させながら作業装置による作業を継続させる作業終い走行を行うことがある。この作業終い走行においても、運転者は降車し、車体が所定の走行経路から外れる虞が生じた場合には、誘導操作具を利用した地上側からの車体の軌道修正を行い、また、車体の前部側が浮き上がり気味になる虞が生じた場合には、地上側から誘導操作具を下方に向けて押さえ込むことにより、その浮き上がりを防止する。
【0007】
そして、作業終い走行の終了時には、運転者は、誘導操作具を利用した車体の軌道修正や車体前部側の浮き上がり防止を行いながら、作業装置の畦際への到達を見計らい、適当な時期に畦斜面上に位置する車体の右側方に回り込み、植付レバーによる作業装置に対する伝動の遮断操作や作業装置の上昇操作を行うことにより、作業装置を作動停止させる、あるいは、作業装置を上昇させながら作動停止させることになる。そのため、作業終い走行の終了時における作業装置に対する操作が煩わしいものになっていた。
【0008】
本発明の目的は、畦越え走行時や積み卸し走行時などにおける地上側からの作業装置の再上昇操作、あるいは、作業終い走行時における地上側からの作業装置の上昇操作または作動停止操作を容易に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明のうちの請求項1に記載の発明では、
車体の後部に作業装置を装備し、前記車体の前部に、地上側からの前記車体の誘導操作を可能にする誘導操作具を備えた農用作業車の操作構造において、
前記作業装置の昇降駆動を可能にする昇降機構と、前記作業装置に対する動力の断続を可能にする断続機構とを備え、
前記車体に形成した搭乗運転部に、前記昇降機構および前記断続機構の作動状態の切り換え操作を可能にする作業用の操作レバーを配備し、
前記操作レバーを、前記断続機構が遮断状態となり、かつ、前記昇降機構が上昇状態となる操作位置に向けて付勢する付勢手段と、この付勢手段の作用に抗した前記操作レバーの操作保持を可能にする保持手段とを備え、
前記誘導操作具に、地上側からの前記保持手段の保持解除操作を可能にする補助操作具を装備してあることを特徴とする。
【0010】
この特徴構成によると、前述した畦越え走行や積み卸し走行などの最中に、畦斜面や歩み板などの勾配が思ったよりもきついために作業装置を再上昇させる必要が生じた場合には、誘導操作具に備えた補助操作具を操作すれば、車体の走行を維持しながら、保持手段による操作レバーの操作保持が解除され、付勢手段の作用により、操作レバーが、断続機構が遮断状態となり、かつ、昇降機構が上昇状態となる操作位置に操作され、その操作に基づいて作業装置が上昇する。これにより、作業装置が地面や歩み板などの走行面に接触する虞を未然に回避することができる。
【0011】
なお、畦越え走行や積み卸し走行などの際には、断続機構を接続状態に切り換えないことから、付勢手段の作用による操作レバーの変位にかかわらず断続機構は遮断状態に維持される。
【0012】
また、前述した作業終い走行の終了間際には、例えば、車体の登坂により生じる虞が高くなる車体前部側の浮き上がりを、誘導操作具の下方への押さえ込みにより防止しながら、作業装置の畦際への到達を見計らって、適当な時期に誘導操作具に備えた補助操作具を操作すれば、車体の走行を維持しながら、上記のように操作レバーが前記操作位置に操作され、その操作に基づいて作業装置が作動を停止し上昇する。これにより、畦上での作業装置の不必要な作動を防止することができるとともに、作業装置が畦に接触する虞を未然に回避することができる。
【0013】
従って、畦越え走行時や積み卸し走行時などにおける地上側からの作業装置の再上昇操作、および、作業終い走行時における地上側からの作業装置の作動停止操作および上昇操作を簡単かつ確実に行える。その結果、畦越え走行や積み卸し走行などの際には、作業装置が地面や歩み板などの走行面に接触する虞を未然に回避しながら、車体の圃場に対する出し入れやトラックの荷台などに対する積み卸しをスムーズに行える。また、作業終い走行の際には、畦上での作業装置の不必要な作動を防止し、かつ、作業装置が畦に接触する虞を未然に回避しながら、車体を圃場からスムーズに脱出させることができる。
【0014】
本発明のうちの請求項2に記載の発明では、
車体の後部に作業装置を装備し、前記車体の前部に、地上側からの前記車体の誘導操作を可能にする誘導操作具を備えた農用作業車の操作構造において、
前記作業装置の昇降駆動を可能にする昇降機構を備え、
前記誘導操作具に、地上側からの前記昇降機構の作動状態の切り換え操作を可能にする補助操作具を装備してあることを特徴とする。
【0015】
この特徴構成によると、前述した畦越え走行や積み卸し走行などの最中に、畦斜面や歩み板などの勾配が思ったよりもきついために、作業装置を再上昇させる必要が生じた場合には、誘導操作具に備えた補助操作具を操作することにより、車体の走行を維持しながら、そのときに再認識した畦斜面や歩み板などの勾配に応じた適切な高さ位置まで作業装置を容易に上昇させることができる。これにより、作業装置が地面や歩み板などの走行面に接触する虞を未然に回避することができる。また、作業装置を上限位置まで上昇させる場合に比較して、車体の重心位置を低くすることができ、車体の安定性を確保することができる。
【0016】
また、前述した作業終い走行の際には、例えば、車体の登坂により生じる虞が高くなる車体前部側の浮き上がりを、誘導操作具の下方への押さえ込みにより防止しながら、誘導操作具に備えた補助操作具を操作することにより、車体の登坂により車体の姿勢が前上がり方向に変化するのに伴って、その変化量に応じた適切な上昇操作量で作業装置を上昇させることが可能になる。これにより、作業終い走行時の車体の登坂に起因した作業装置の沈下を防止することが可能になるとともに、作業終い走行の終了後に作業装置が畦に接触する虞を未然に回避することができる。
【0017】
従って、畦越え走行時や積み卸し走行時などにおける地上側からの作業装置の再上昇操作、および、作業終い走行時における地上側からの作業装置の上昇操作を簡単かつ確実に行える。その結果、畦越え走行や積み卸し走行などの際には、作業装置が地面や歩み板などの走行面に接触する虞を未然に回避しながら、車体の圃場に対する出し入れやトラックの荷台などに対する積み卸しをスムーズに行える。また、作業終い走行の際には、作業終い走行時における作業精度の向上を図れる上に、作業終い走行の終了後に作業装置が畦に接触する虞を未然に回避しながら、車体を圃場からスムーズに脱出させることができる。
【0018】
本発明のうちの請求項3に記載の発明では、
車体の後部に作業装置を装備し、前記車体の前部に、地上側からの前記車体の誘導操作を可能にする誘導操作具を備えた農用作業車の操作構造において、
前記作業装置に対する動力の断続を可能にする断続機構を備え、
前記誘導操作具に、地上側からの前記断続機構の作動状態の切り換え操作を可能にする補助操作具を装備してあることを特徴とする。
【0019】
この特徴構成によると、前述した作業終い走行の終了時には、例えば、車体の登坂により生じる虞が高くなる車体前部側の浮き上がりを、誘導操作具の下方への押さえ込みにより防止しながら、作業装置の畦際への到達を見計らって、適当な時期に誘導操作具に備えた補助操作具を操作することにより、車体の走行を維持しながら作業装置を作動停止させることができる。これにより、畦上での作業装置の不必要な作動を防止することができる。
【0020】
従って、作業終い走行時における地上側からの作業装置の作動停止操作を簡単かつ確実に行える。その結果、作業終い走行の際には、畦上での作業装置の不必要な作動を防止しながら、車体を圃場からスムーズに脱出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
〔第1実施形態〕
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例として、本発明に係る農用作業車の操作構造を、農用作業車の一例である乗用田植機に適用した第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は乗用田植機の全体側面図である。図2は乗用田植機の全体平面図である。これらの図に示すように、この乗用田植機は、車体1の後部に、油圧式の昇降シリンダ2の作動により上下揺動するリンク機構3を介して、作業装置Aの一例である4条植え用の苗植付装置4を昇降可能に連結するとともに、作業装置Aの一例であるミッドマウント式の施肥装置5を装備することにより、4条植え用のミッドマウント施肥仕様に構成されている。
【0024】
図1〜5に示すように、車体1は、その前部に空冷式のエンジン6が防振搭載されている。車体1の上部側には搭乗運転部7が形成されている。車体1の下部側には、エンジン6からの動力を左右一対の前輪8や左右一対の後輪9などに伝達する伝動系10などが配備されている。車体1の前端部には、車体前方の降車位置(地上側)からの車体1の誘導操作や押さえ込み操作などを可能にする誘導操作具11が配備されている。
【0025】
図1〜4に示すように、搭乗運転部7には、前輪操舵用のステアリングホイール12、主変速レバー13、副変速レバー14、クラッチ・ブレーキペダル15、デフロックペダル16、作業用の操作レバー17、および運転座席18などが備えられている。
【0026】
図1および図4〜6に示すように、伝動系10は、エンジン6からの動力を断続するベルトテンション式の主クラッチ19、主変速装置として備えた静油圧式の無段変速装置(以下、HSTと略称する)20、および、トランスミッションケース(以下、T/Mケースと略称する)21の内部に備えたギヤ式の副変速装置22やギヤ式の株間変速装置23、などにより構成されている。
【0027】
図5および図6に示すように、伝動系10において、エンジン6からの動力は主クラッチ19を介してHST20に伝達される。HST20による変速後の動力は副変速装置22と株間変速装置23とに分配される。副変速装置22による変速後の動力は、前輪用の差動装置24などを介して左右の前輪8に伝達され、かつ、チェーン式の伝動装置25や左右一対のサイドクラッチ26などを介して左右の後輪9に伝達される。株間変速装置23による変速後の動力は、ギヤ式の伝動機構27や植付クラッチ28などを介して苗植付装置4に伝達される。チェーン式の伝動装置25には、動力分配用のスプロケット29が装備され、このスプロケット29からの分配動力が、施肥クラッチ30などを介して施肥装置5に伝達される。
【0028】
つまり、本実施形態では、植付クラッチ28および施肥クラッチ30が、作業装置4,5に対する動力の断続を可能にする断続機構Bである。
【0029】
図1および図2に示すように、苗植付装置4は、動力分配機構31、苗載台32、横送り機構(図示せず)、4組のロータリ式の植付機構33、3つの整地フロート34、および縦送り機構35、などを備えて、最大4条の苗の植え付けを行うように構成されている。動力分配機構31は、車体1からの動力を、横送り機構、各植付機構33、および縦送り機構35に分配供給する。苗載台32は、最大4条分のマット状苗を載置するように形成されている。横送り機構は、動力分配機構31からの動力により、苗載台32を左右方向に一定ストロークで往復移動させる。各植付機構33は、動力分配機構31からの動力により、苗載台32に載置されたマット状苗の下端から所定量ずつの植付苗を切り取り、切り取った植付苗を各整地フロート34により整地された圃場の泥土部に植え付ける。各整地フロート34は、それらの後端部を支点にした上下揺動が可能となるように苗植付装置4に装備され、車体1の走行に伴って圃場の泥面を整地しながら滑走する。縦送り機構35は、苗載台32が左右のストローク端に達するごとに、動力分配機構31からの動力により、各マット状苗を苗載台32の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。
【0030】
施肥装置5は、肥料貯留用のホッパ36、左右一対の繰出機構37、電動式の施肥ファン38、4本の施肥ホース39、および、4つの作溝器40、などを備えて最大4条の側条施肥を行うように構成されている。各繰出機構37は、ホッパ36および施肥ファン38とともに車体1の後部に搭載され、車体1からの動力により、ホッパ36に貯留した粉粒状の肥料を所定量ずつ繰り出す。施肥ファン38は、その作動により搬送風を生起し、その搬送風により、各繰出機構37により繰り出された肥料を風力搬送する。各施肥ホース39は、風力搬送される粉粒状の肥料を対応する作溝器40に向けて案内する。各作溝器40は、左右方向に所定間隔を隔てるように対応する整地フロート34に配備され、車体1の走行に伴って圃場の泥土部に施肥用の溝を形成し、その溝内に搬送案内された粉粒状の肥料を埋没させる。
【0031】
図2〜7に示すように、主クラッチ19は、そのテンションアーム41の揺動により、エンジン6からの動力をHST20に伝動する入り状態と、エンジン6からHST20への伝動を遮断する切り状態とに切り換わる。テンションアーム41は、バネ42の作用により、エンジン6からHST20への伝動を遮断する切り位置から、エンジン6からの動力をHST20に伝動する入り位置に向けて揺動付勢されている。テンションアーム41は、搭乗運転部16の右足元部に配置したクラッチ・ブレーキペダル15に、連係ロッド43などを介して連係されている。
【0032】
図4、図5および図7に示すように、クラッチ・ブレーキペダル15は、その基端部15Aを支点にした踏み込み方向への揺動操作が可能となるように構成されている。クラッチ・ブレーキペダル15の基端部15Aには、クラッチ・ブレーキペダル15を非操作位置に向けて揺動付勢するバネ44が外嵌されている。クラッチ・ブレーキペダル15は、連係ロッド45や連係バネ46などを介してブレーキ47の操作アーム48に連係されている。ブレーキ47はT/Mケース21の内部に備えられている。
【0033】
この構成から、通常、主クラッチ19は、バネ42の作用により入り状態に保持されている。ブレーキ47は、バネ44の作用により非制動状態に保持されている。クラッチ・ブレーキペダル15の踏み込み操作が行われると、バネ42の作用に抗して主クラッチ19が入り状態から切り状態に切り換わるとともに、バネ44の作用に抗してブレーキ47が非制動状態から制動状態に切り換わる。クラッチ・ブレーキペダル15の踏み込み操作が解除されると、バネ42の作用により主クラッチ19が切り状態から入り状態に切り換わるとともに入り状態に保持され、バネ44の作用によりブレーキ47が制動状態から非制動状態に切り換わるとともに非制動状態に保持される。
【0034】
図4、図8および図9に示すように、HST20は、そのトラニオン軸49がステアリングホイール12の左方に配備した主変速レバー13に主変速用の連係機構50を介して連係されている。これにより、HST20は、主変速レバー13の揺動操作により、主変速レバー13の操作位置に応じた変速状態に切り換わる。
【0035】
主変速用の連係機構50は、主変速レバー13と前後方向に一体揺動し、かつ、主変速レバー13の左右方向への揺動を許容する揺動プレート51、揺動プレート51の揺動に連動して押し引きされる第1連係ロッド52、第1連係ロッド52の押し引きに連動して上下揺動する揺動アーム53、および、揺動アーム53の揺動に連動して押し引きされる第2連係ロッド54、などにより構成されている。
【0036】
主変速用の連係機構50には、トラニオン軸49に備えたV字カム式の中立復帰機構55の作用に抗した主変速レバー13の複数段の変速操作位置での係合保持を可能にする変速操作用のデテント機構56が備えられている。これにより、主変速レバー13を、中立位置、中立位置よりも車体前方側に位置する前進用の複数の変速操作位置、および、中立位置よりも車体後方側に位置する後進用の複数の変速操作位置、のそれぞれに操作保持することができる。
【0037】
主変速レバー13は、前進変速用の操作領域に沿った前後方向への揺動操作と、後進変速用の操作領域に沿った前後方向への揺動操作と、それらの中立位置を繋ぐ中立領域に沿った左右方向への揺動操作とが可能になるように構成されている。主変速レバー13の基端部13Aには、主変速レバー13を前進変速用の操作領域(右方)に向けて揺動付勢するバネ57が外嵌されている。
【0038】
図4〜6に示すように、副変速装置22は、そのシフトギヤ58がHST20の後方に配備した副変速レバー14に連係ロッド59などを介して連係されている。これにより、副変速装置22は、副変速レバー14の左右方向への揺動操作により、副変速レバー14の操作位置に応じた高低2段の変速状態に切り換わる。
【0039】
図5および図6に示すように、株間変速装置23は、そのシフトキー60が株間変速用の操作具(図示せず)に連係ロッド61などを介して連係されている。これにより、株間変速装置23は、その操作具の操作により、操作具の操作位置に応じた3段の変速状態に切り換わる。
【0040】
差動装置24は、副変速装置22のシフトギヤ58と一体回転するケーシング62、ケーシング62に相対回転可能に支持されたピニオンギヤ63、および、ピニオンギヤ63に噛合する左右一対のサイドギヤ64、などにより構成されている。左側のサイドギヤ64は、左右一対の前輪駆動軸65のうちの左側の前輪駆動軸65に、また、右側のサイドギヤ64は右側の前輪駆動軸65にスプライン嵌合されている。
【0041】
差動装置24の左方には、差動装置24の作用による左右の前輪8の差動を阻止するデフロック機構66が配備されている。デフロック機構66は、左側の前輪駆動軸65と一体回転し、かつ、左側の前輪駆動軸65に対する相対摺動が可能となるように、左側の前輪駆動軸65に外嵌されたシフト爪67、シフト爪67との係合が可能となるように差動装置24のケーシング62に形成した係合爪62A、および、係合爪62Aから離れる方向にシフト爪67を摺動付勢するバネ68、などにより構成されている。
【0042】
図4、図6および図11に示すように、デフロック機構66のシフト爪67は、副変速レバー14の後方に配備したデフロックペダル16にデフロック用の連係機構69を介して連係されている。デフロック用の連係機構69は、デフロックペダル16の上下摺動に連動して揺動するクランクアーム70、クランクアーム70の揺動に連動して押し引きされる連係ロッド71、連係ロッド71の一端部が係合される連係プレート72、連係プレート72が溶接されたカム軸73、および、クランクアーム70を介してデフロックペダル16を上方に向けて摺動付勢するバネ74、などにより構成されている。
【0043】
連係ロッド71は、その一端部が、カム軸73を中心にして連係プレート72に形成した円弧状の長孔72Aに係合されている。カム軸73は、その軸心を支点にして回動することにより、バネ68の作用によるシフト爪67の係合爪62Aからの離間を許容して、差動装置24による左右の前輪8の差動を許容する差動位置と、バネ68の作用に抗してシフト爪67を係合爪62Aに係合して、差動装置24による左右の前輪8の差動を阻止する差動停止位置とに切り換わる。連係プレート72の長孔72Aは、デフロックペダル16の踏み込み操作に連動して、カム軸73が差動位置から差動停止位置に向けて回動変位するように、また、デフロックペダル16が非ロック位置に位置する状態でのカム軸73の差動位置から差動停止位置への回動変位を許容するように形成されている。
【0044】
この構成から、差動装置24は、バネ74の作用によりデフロックペダル16が非ロック位置に保持され、バネ68の作用によりシフト爪67が係合爪62Aから離間することにより、左右の前輪8の差動を許容する差動状態に保持される。バネ74の作用に抗したデフロックペダル16のロック位置への踏み込み操作が行われると、バネ68の作用に抗してシフト爪67が係合爪62Aに係合することにより、差動状態から左右の前輪8の差動を阻止する差動停止状態に切り換わる。デフロックペダル16の踏み込み操作が解除されると、バネ74の作用によりデフロックペダル16が非ロック位置に復帰し、バネ68の作用によりシフト爪67が係合爪62Aから離間することにより、左右の前輪8の差動を許容する差動状態に復帰保持される。
【0045】
図6、図9、図12および図13に示すように、植付クラッチ28は、その操作ピン75の摺動操作により、株間変速装置23による変速後の動力を苗植付装置4に伝達する接続状態と、その伝動を遮断する遮断状態とに切り換えられる。操作ピン75は、ステアリングホイール12の右方に配備した作業用の操作レバー17に、植え付け伝動用の連係機構76を介して連係されている。
【0046】
植え付け伝動用の連係機構76は、操作レバー17と前後方向に一体揺動し、かつ、操作レバー17の左右方向への揺動を許容する揺動部材77、操作レバー17の前後揺動に連動して揺動部材77を介して押し引きされる第1連係ロッド78、第1連係ロッド78に係合された第1揺動板79、第1揺動板79の揺動に連動して押し引きされる第2連係ロッド80、第2連係ロッド80と植付クラッチ28の操作ピン75とにわたる第2揺動板81、および、第2揺動板81を介して操作ピン75を接続位置から遮断位置に向けて摺動付勢するバネ82、などにより構成されている。
【0047】
図9および図12に示すように、作業用の操作レバー17は、前後方向への揺動操作と左右方向への揺動操作とが可能で、かつ、油圧ダンパ(付勢手段の一例)83の作用により車体後方側の上昇位置に向けて揺動付勢されている。そして、その油圧ダンパ83の作用に抗して、上昇位置よりも車体前方側の中立位置、中立位置よりも車体前方側の下降位置、および、下降位置よりも車体前方側の植付位置、のそれぞれに揺動操作することができる。また、作業操作用のデテント機構(保持手段の一例)84の作用により、油圧ダンパ83の作用に抗して、中立位置、下降位置、および植付位置、のそれぞれに操作保持することができる。さらに、その植付位置において左右方向への揺動操作が許容されている。
【0048】
図9、図12および図13に示すように、植え付け伝動用の連係機構76において、第1揺動板79は、左右向きの支軸85を支点にした揺動が許容されている。第2揺動板81は、上下向きの支軸86を支点にした揺動が許容されている。第1揺動板79には、その支軸85を中心とする円弧状の長孔79Aが形成されている。この長孔79Aにより、第1連係ロッド78と第1揺動板79とは、操作レバー17が上昇位置と下降位置との間で揺動操作されている場合には、その操作にかかわらず、操作ピン75がバネ82の作用により遮断位置に保持されるように、また、操作レバー17が下降位置から植付位置に揺動操作された場合には、その操作に連動して、操作ピン75がバネ82の作用に抗して接続位置に摺動操作されるように、さらに、操作レバー17が植付位置から下降位置に揺動操作された場合は、その操作に連動して、操作ピン75がバネ82の作用により遮断位置に摺動操作されるように連係されている。
【0049】
この構成から、植付クラッチ28は、操作レバー17が上昇位置、中立位置、および下降位置、のいずれかの操作位置に操作された場合には、バネ82の作用により遮断状態が現出され、操作レバー17が植付位置に操作された場合には、バネ82の作用に抗して接続状態が現出される。
【0050】
つまり、操作レバー17の上昇位置、中立位置、および下降位置のそれぞれが、植付クラッチ28の作動状態を遮断状態とする操作位置に設定されている。
【0051】
図5に示すように、施肥クラッチ30は、クランク軸87にスプライン嵌合されたシフト爪88、スプロケット29に形成された係合爪29A、および、シフト爪88を係合爪29Aから離れる方向に摺動付勢するバネ89、などにより構成されている。そして、そのシフト爪88の摺動操作により、副変速装置22による変速後の動力を施肥装置5に伝達する接続状態と、その伝動を遮断する遮断状態とに切り換わる。
【0052】
図5および図13に示すように、施肥クラッチ30のシフト爪88は、施肥伝動用の連係機構90を介して、植え付け伝動用の連係機構76の第2連係ロッド80に連係されている。施肥伝動用の連係機構90は、第2連係ロッド80の押し引きに連動して上下向きの支軸86を支点にして揺動する第1揺動アーム91、第1揺動アーム91の揺動に連動して押し引きされる連係ロッド92、連係ロッド92の一端部が係合される第2揺動アーム93、第2揺動アーム93が溶接されたカム軸94、および、第1揺動アーム91などを介してカム軸94に作用するバネ95、などにより構成されている。
【0053】
カム軸94は、その軸心を支点にして回動することにより、バネ89の作用によるシフト爪88の係合爪29Aからの離間を許容する遮断位置と、バネ68の作用に抗してシフト爪67を係合爪62Aに係合する接続位置とに切り換わる。バネ95は、第1揺動アーム91などを介してカム軸94を切り位置に向けて回動付勢する。
【0054】
そして、前述したように、第1連係ロッド78と第1揺動板79とを第1揺動板79の長孔79Aを介して連係していることにより、操作レバー17が上昇位置と下降位置との間で揺動操作されている場合には、その操作にかかわらず、カム軸94がバネ95の作用により遮断位置に保持され、また、操作レバー17が下降位置から植付位置に揺動操作された場合には、その操作に連動して、カム軸94がバネ95の作用に抗して接続位置に回動操作され、さらに、操作レバー17が植付位置から下降位置に揺動操作された場合は、その操作に連動して、カム軸94がバネ95の作用により遮断位置に回動操作される。
【0055】
この構成から、施肥クラッチ30は、操作レバー17が上昇位置、中立位置、および下降位置、のいずれかの操作位置に操作された場合には、バネ89の作用により遮断状態が現出され、操作レバー17が植付位置に操作された場合には、バネ89の作用に抗して接続状態が現出される。
【0056】
つまり、操作レバー17の上昇位置、中立位置、および下降位置のそれぞれが、施肥クラッチ30の作動状態を遮断状態とする操作位置に設定されている。
【0057】
そして、操作レバー17を、搭乗運転部16からの植付クラッチ28および施肥クラッチ30の作動状態の切り換え操作を可能にする作業クラッチ操作用として使用することができる。
【0058】
クランク軸87は、連係ロッド96や前進動力伝達用のワンウェイクラッチ(図示せず)などを介して施肥装置5の繰出機構37に伝動可能に連係されている。つまり、施肥装置5は、施肥クラッチ30などを介して伝達される前進動力により、その繰出機構37が駆動される。
【0059】
図9、図12および図13に示すように、作業用の操作レバー17は、昇降シリンダ2に対する作動油の流れを制御する昇降弁97に備えた昇降用のスプール98に、植え付け昇降用の第1連係機構99を介して連係されている。スプール98は、昇降弁97の内部に備えたバネ(図示せず)の作用により、昇降シリンダ2から作動油を排出させて苗植付装置4を下降させる下降位置に向けて摺動付勢されている。また、バネの作用に抗して摺動操作されることにより、昇降シリンダ2に作動油を供給して苗植付装置4を上昇させる上昇位置、および、昇降シリンダ2に対する作動油の給排を停止して苗植付装置4を昇降停止させる中立位置に変位する。
【0060】
つまり、本実施形態では、昇降シリンダ2および昇降弁97により、苗植付装置4の昇降駆動を可能にする昇降機構Cが構成されている。
【0061】
第1連係機構99は、植え付け伝動用の連係機構76に兼用される揺動部材77と第1連係ロッド78、および、植え付け伝動用の第1揺動板79の左側方に並設した揺動板100、などにより構成されている。揺動板100は、左右向きの支軸85を支点にした揺動が許容され、その揺動により昇降弁97のスプール98に作用する。具体的には、揺動板100は、操作レバー17が上昇位置に位置する場合には、バネの作用に抗して、スプール98を、昇降シリンダ2に作動油を供給して苗植付装置4を上昇させる上昇位置に位置させる。操作レバー17が中立位置に位置する場合は、バネの作用に抗して、スプール98を、昇降シリンダ2に対する作動油の給排を停止させて苗植付装置4を昇降停止させる中立位置に位置させる。操作レバー17が下降位置および植付位置に位置する場合は、左右中央に位置する整地フロート(以下、センタフロートと略称する)34の上下揺動に基づいてスプール98に作用する。
【0062】
揺動板100は、センタフロート34の前端側に植え付け昇降用の第2連係機構101を介して連係されている。第2連係機構101は、センタフロート34の上下揺動に連動して揺動板100を揺動させる連係ロッド102、などにより構成されている。揺動板100には、その揺動支点である左右向きの支軸85を中心とする円弧状の長孔100Aが形成されている。長孔100Aは、センタフロート34が浮上している場合には、その下端縁が連係ロッド78に接当して、センタフロート34の下降揺動を制限する。また、操作レバー17が下降位置または植付位置に揺動操作され、かつ、センタフロート34が接地している場合には、第2連係機構101を介したセンタフロート34と揺動板100との連動揺動を許容し、揺動板100によるスプール98の摺動操作を許容する。
【0063】
これにより、揺動板100は、操作レバー17が下降位置または植付位置に揺動操作され、かつ、センタフロート34が接地している状態において、その整地フロート34の揺動姿勢が所定の基準姿勢よりも下方に揺動変位している場合には、バネの作用によるスプール98の下降位置への摺動操作を許容する。その整地フロート34の揺動姿勢が所定の基準姿勢よりも上方に揺動変位している場合には、バネの作用に抗してスプール98を上昇位置に摺動操作する。その整地フロート34の揺動姿勢が所定の基準姿勢に到達している場合には、バネの作用に抗してスプール7を中立位置に摺動操作する。
【0064】
以上の構成から、操作レバー17を上昇位置に揺動操作することにより、苗植付装置4を所定の上限位置に向けて上昇させることができる。操作レバー17を下降位置に揺動操作することにより、苗植付装置4を、そのセンタフロート34の揺動姿勢が所定の基準姿勢となる所定の接地作業高さ位置に向けて下降させることができる。操作レバー17を中立位置に揺動操作することにより、苗植付装置4を任意の高さ位置にて昇降停止させることができる。
【0065】
つまり、操作レバー17を、搭乗運転部16からの昇降機構Cの作動状態の切り換えを可能にする昇降操作用として使用することができる。
【0066】
また、操作レバー17を下降位置または植付位置に保持して苗植付装置4を接地させると、センタフロート34の上下揺動に基づいて、苗植付装置4を所定の接地作業高さ位置に維持することができる。これにより、操作レバー17を植付位置に保持する植え付け作業時には、圃場の起伏にかかわらず苗植付装置4による苗の植え付け深さを一定にすることができ、植え付け作業精度の向上を図ることができる。
【0067】
そして、本実施形態では、操作レバー17の上昇位置が、植付クラッチ28および施肥クラッチ30の作動状態を遮断状態とし、かつ、昇降機構Cの作動状態を上昇状態とする操作位置に設定されている。
【0068】
図示は省略するが、作業用の操作レバー17は、植付位置に位置する状態では、左右一対の線引きマーカ103(図1および図2参照)を格納姿勢に保持する左右一対の保持機構に、マーカ解除用の連係機構を介して連係される。マーカ解除用の連係機構は、植付位置において操作レバー17が左右いずれか一方に揺動操作されると、その操作方向に対応する側の保持機構による線引きマーカ103の格納姿勢での保持を解除する。
【0069】
図1および図2に示すように、左右の線引きマーカ103は、その先端が圃場泥面から離間するように苗植付装置4に沿って起立する格納姿勢と、その先端が圃場泥面に突入するように苗植付装置4の横外方に向けて倒伏する作用姿勢とに、起伏揺動による姿勢切り換えが可能となるように苗植付装置4に装備されている。
【0070】
図示は省略するが、苗植付装置4には、対応する線引きマーカ103を格納姿勢から作用姿勢に向けて揺動付勢する左右一対のバネが備えられている。左右の線引きマーカ103は、苗植付装置4の所定の上限位置への上昇操作に連動して、左右のバネの作用に抗して作用姿勢から格納姿勢に切り換わるように、マーカ格納用の連係機構を介してリンク機構3に連係されている。左右の保持機構は、苗植付装置4の上昇操作に連動して作用姿勢から格納姿勢に切り換えられる線引きマーカ103に係合することにより、対応する線引きマーカ103を格納姿勢で保持する。
【0071】
つまり、上記の構成から、植付位置に位置する操作レバー17を左方に揺動操作すると、バネの作用により、左側の線引きマーカ103を格納姿勢から作用姿勢に切り換えることができる。逆に、植付位置に位置する操作レバー17を右方に揺動操作すると、バネの作用により、右側の線引きマーカ103を格納姿勢から作用姿勢に切り換えることができる。そして、植付位置に位置する操作レバー17を上昇位置に揺動操作すると、苗植付装置4の上昇とともに作用姿勢の線引きマーカ103を格納姿勢に切り換えて格納姿勢に保持することができる。
【0072】
図4、図6、図8、図9、図12および図13に示すように、主変速レバー13は、植付クラッチ28のシフトフォーク104にバックアップ用の第1連係機構105を介して連係されている。また、作業操作用のデテント機構84にバックアップ用の第2連係機構106を介して連係されている。
【0073】
バックアップ用の第1連係機構105は、主変速レバー13の左右揺動に連動して押し引きされる第1連係ロッド107、第1連係ロッド107に係合された第1揺動アーム108、左右向きの回転軸109を介して第1揺動アーム108と一体揺動する第2揺動アーム110、第2揺動アーム110の揺動に連動して押し引きされる第2連係ロッド111、第2連係ロッド111が係合された第3揺動アーム112、および、シフトフォーク104を第3揺動アーム112と一体揺動するように連結する上下向きの回転軸113、などにより構成されている。
【0074】
第1揺動アーム108には、その揺動軸心を中心とする円弧状の長孔108Aが形成されている。長孔108Aは、主変速レバー13が前進変速用の操作領域に位置する場合には、作業レバー17による植付クラッチ28の断続操作に連動した第1揺動アーム108の揺動を許容し、また、主変速レバー13が前進変速用の操作領域から後進変速用の操作領域に揺動操作されると、その操作に連動して第1揺動アーム108を下方に向けて揺動させることにより、植付クラッチ28のシフトフォーク104を接続位置から遮断位置に向けて揺動変位させるように設定されている。
【0075】
バックアップ用の第2連係機構106は、第1連係機構105に兼用された第1連係ロッド107、第1連係ロッド107に左右向きに溶接した連係ピン114、連係ピン114に係合された第1揺動部材115、および、第1揺動部材115が左端部に連結された回転軸116、などにより構成されている。
【0076】
第1揺動部材115は、回転軸116を介して作業操作用のデテント機構84のデテントアーム117と一体揺動する。回転軸116には、デテントアーム117を係合方向に揺動付勢するバネ118が外嵌されている。第1揺動部材115には、回転軸116を中心とする円弧状の長孔115Aが形成されている。長孔115Aは、主変速レバー13が前進変速用の操作領域に位置する場合には、デテントアーム117の揺動部材77に対する係脱方向への揺動を許容し、また、主変速レバー13が前進変速用の操作領域から後進変速用の操作領域に揺動操作されると、その操作に連動して、バネ118の作用に抗して第1揺動部材115を下方に向けて揺動させることにより、デテントアーム117を揺動部材77から離間させるように設定されている。
【0077】
上記の構成から、バックアップ用の第1連係機構105は、主変速レバー13が前進変速用の操作領域に位置する場合には、作業用の操作レバー17による植付クラッチ28の断続操作を許容し、植付クラッチ28の接続状態において、主変速レバー13が前進変速用の操作領域から後進変速用の操作領域に揺動操作された場合には、その操作に連動して、植付クラッチ28を接続状態から遮断状態に切り換える。
【0078】
一方、バックアップ用の第2連係機構106は、主変速レバー13が前進変速用の操作領域に位置する場合には、作業操作用のデテント機構84による作業用の操作レバー17の位置保持と、作業操作用のデテント機構84の作用に抗した作業用の操作レバー17の揺動操作とを許容し、主変速レバー13が前進変速用の操作領域から後進変速用の操作領域に揺動操作された場合には、その操作に連動して、作業操作用のデテント機構84による作業用の操作レバー17の位置保持を解除し、油圧ダンパ83の作用による作業用の操作レバー17の上昇位置への揺動操作を許容する。
【0079】
つまり、主変速レバー13を前進変速用の操作領域から後進変速用の操作領域に揺動操作することにより、苗植付装置4が接地作動している場合には、その操作に連動して、苗植付装置4が作動停止するとともに所定の上限位置に向けて上昇し、また、苗植付装置4が所定の上限位置に達していない場合には、その操作に連動して、苗植付装置4が所定の上限位置に向けて上昇する。
【0080】
その結果、苗植付装置4が接地作動または接地している状態のまま後進状態が現出されることなどに起因した苗植付装置4の破損を回避することができる。
【0081】
図1〜4および図14に示すように、誘導操作具11は、アーチ状に屈曲形成され、左右向きの軸心を支点にした揺動操作が可能となるように、その両端部が車体1の前部に配備したエンジンフレーム119の前端部に連結されている。誘導操作具11の右端部とエンジンフレーム119との間には、誘導操作具11の起立姿勢と倒伏姿勢との切り換え保持を可能にする保持機構(図示せず)が介装されている。誘導操作具11の上端部には、車体1の左右中心を線引きマーカ103により圃場泥面に形成された走行基準線に合わせるための照準具120が装備されている。照準具120は、誘導操作具11の延出方向に沿う姿勢で誘導操作具11の外方に突出する姿勢と、誘導操作具11の延出方向に沿う姿勢で誘導操作具11の内方に格納する姿勢とに姿勢切り換え可能に構成してある。
【0082】
この構成により、運転者が乗車して搭乗運転部16から車体1を運転する路上走行時や作業走行時には、誘導操作具11を、その車体前方への延出長さが最小となる起立姿勢に切り換え、かつ、照準具12を突出姿勢に切り換えておくことにより、誘導操作具11や照準具12の他物との接触を回避することができる。また、作業走行時には、照準具120が運転者の目前に起立姿勢で位置することになり、これにより、照準具120を走行基準線に合わせ易くなり、走行基準線に沿った走行が行い易くなる。
【0083】
一方、運転者が降車した状態で行うことが望ましい、例えば、車体1を圃場に対して進入または退出させる畦越え走行や、歩み板を利用して車体1をトラックの荷台に対して積み卸しする積み卸し走行などを行う際には、誘導操作具11を、その略全体が車体1の前方に向けて延出する倒伏姿勢に切り換え、かつ、照準具12を格納姿勢に切り換えておくことにより、照準具12の他物との接触を回避しながら、車体1が所定の走行経路から外れる虞が生じた場合には、誘導操作具11を利用した軌道修正を、照準具12が邪魔になる不都合を招くことなく、車体前方の降車位置(地上側)から行える。また、その畦越え走行や積み卸し走行などの際に、苗植付装置4の重量などによって車体1の前部側が浮き上がり気味になる虞が生じた場合には、誘導操作具11を車体前方の降車位置から下方に向けて押さえ込むことにより、その浮き上がりを防止することができる。
【0084】
なお、エンジンフレーム119の前端部には、倒伏姿勢に切り換えられる誘導操作具11の基端部を受け止めることにより、誘導操作具11の倒伏姿勢からの下降揺動を阻止するストッパ121が備えられている。
【0085】
図1、図3、図4、図7および図14に示すように、誘導操作具11の左側部には、操作アーム122が、左右向きの軸心を支点にした揺動操作が可能となるように装備されている。操作アーム122は、その遊端側が誘導操作具11の基端側に接当する位置が非操作位置に設定され、その遊端側が誘導操作具11の遊端側に接当する位置が操作位置に設定され、その揺動支点部に備えたバネ123の作用により非操作位置に復帰保持されている。そして、そのバネ123の作用に抗した非操作位置から操作位置への揺動操作に連動して、クラッチ・ブレーキペダル15が非操作位置から操作位置に揺動変位し、かつ、そのバネ123の作用による操作位置から非操作位置への揺動操作により、バネ44の作用によるクラッチ・ブレーキペダル15の操作位置から非操作位置への復帰揺動を許容するように、連係ワイヤ124などを介してクラッチ・ブレーキペダル15に連係されている。
【0086】
つまり、誘導操作具11を倒伏姿勢に切り換えた状態では、誘導操作具11に備えた操作アーム122を使用することにより、車体前方の降車位置からでも、搭乗運転部16でのクラッチ・ブレーキペダル15の操作と同様に、主クラッチ19とブレーキ47の関連操作による車体1の停止操作と再発進操作とを容易に行える。
【0087】
また、操作アーム122の操作位置を、操作アーム122の遊端側が倒伏姿勢に切り換えた誘導操作具11の遊端側に対して上方から接当する位置に設定していることにより、誘導操作具11を倒伏姿勢に切り換えた畦越え走行や積み卸し走行などの最中に、車体前方の降車位置から、バネ42,44の付勢などに抗した主クラッチ19およびブレーキ47の関連操作を行う場合には、操作アーム122の非操作位置から操作位置への操作方向が、誘導操作具11の押さえ込み方向と同じ、力を入れ易く体重のかけ易い方向とすることができ、これにより、非操作位置への揺動操作よりも操作荷重が重くなる操作アーム122の操作位置への揺動操作を容易に行える。その結果、車体前方の降車位置から主クラッチ19とブレーキ47の関連操作を行う場合の操作性の向上を図ることができる。
【0088】
なお、誘導操作具11に、操作アーム122の操作位置での係合保持を可能にする保持具を備えるようにしてもよい。また、操作アーム122を、デットポイント越えによる操作位置と非操作位置との切り換え保持が可能となるように構成してもよい。さらに、非操作位置と操作位置とにわたる操作アーム122の揺動操作がさらに行い易くなるように、操作アーム122を、その遊端部が車体1の横外方に向かうように屈曲形成してもよい。
【0089】
図1、図4、図11および図14に示すように、誘導操作具11は、その左側の端部が、デフロック用の連係機構69の連係プレート72に、連係ロッド125を介して連係されている。連係ロッド125は、その一端部が、カム軸73を中心にして連係プレート72に形成した円弧状の長孔72Bに係合されている。長孔72Bは、誘導操作具11の起立姿勢から倒伏姿勢への揺動操作に連動して、カム軸73が差動位置から差動停止位置に向けて回動変位するように、また、誘導操作具11が起立姿勢に切り換えられた状態でのカム軸73の差動位置から差動停止位置への回動変位を許容するように形成されている。
【0090】
この構成から、差動装置24は、誘導操作具11が起立姿勢から倒伏姿勢に切り換えられると、カム軸73が差動位置から差動停止位置に回動変位し、バネ68の作用に抗してシフト爪67が係合爪62Aに係合することにより、差動状態から差動停止状態に切り換わる。誘導操作具11が倒伏姿勢から起立姿勢に切り換えられると、カム軸73が差動停止位置から差動位置に回動変位し、バネ68の作用によりシフト爪67が係合爪62Aから離間することにより、差動停止状態から差動状態に切り換わる。
【0091】
つまり、誘導操作具11を倒伏姿勢に切り換えて行う車体前方の降車位置からの車体1の誘導操作時には、差動装置24が作動停止状態に切り換えられていることから、この誘導操作時において、差動装置24の作用により、片方の前輪8がぬかるみにはまることなどに起因して空転する虞を回避することができる。
【0092】
図1〜4、図9、図12および図14に示すように、誘導操作具11の右側部には、補助レバー126(補助操作具Dの一例)が、左右向きの軸心を支点にした揺動操作が可能となるように装備されている。補助レバー126は、その揺動支点部に備えたバネ127の作用により、誘導操作具11の遊端部から車体側に離れるように揺動付勢されている。また、作業操作用のデテント機構84のデテントアーム117に連係ワイヤ128を介して連係されている。連係ワイヤ128は、バネ127の作用に抗して、補助レバー126が誘導操作具11の遊端部に向けて揺動操作されると、その操作に連動して、作業操作用のデテント機構84におけるバネ118の作用によるデテントアーム117の係入方向への揺動が阻止されるように、補助レバー126とデテントアーム117とを連係する。
【0093】
つまり、補助レバー126を、バネ127の作用に抗して誘導操作具11の遊端部に向けて揺動操作すると、その操作に連動して、作業操作用のデテント機構84による操作レバー17の位置保持が解除され、油圧ダンパ83の作用による操作レバー17の上昇位置への揺動操作が行われる。これにより、苗植付装置4および施肥装置5が作動している場合には、その操作に連動して、それらの作動を停止させることができる。また、苗植付装置4が所定の上限位置に達していない場合には、その操作に連動して、苗植付装置4を所定の上限位置に向けて上昇させることができる。
【0094】
その結果、前述した畦越え走行や積み卸し走行などの最中に、車体1を走行させる畦斜面や歩み板などの勾配が思ったよりもきついために、走行前に、その畦斜面や歩み板などを考慮して予め上昇させた苗植付装置4が、畦斜面や歩み板などに接触する虞が生じた場合には、補助レバー126を誘導操作具11の遊端部に向けて揺動操作することにより、苗植付装置4を所定の上限位置に向けて上昇させることができる。これにより、苗植付装置4が地面や歩み板などの走行面に接触する虞を未然に回避しながら、車体1の圃場に対する出し入れやトラックの荷台などに対する積み卸しをスムーズに行うことができる。
【0095】
また、植え付け作業の終了時に、苗植付装置4による苗の植え付けと施肥装置5による施肥とを畦際まで行うために、畦斜面に車体1を登坂させながら苗植付装置4による苗の植え付けと施肥装置5による施肥とを継続させる植え終い走行を行う場合には、登坂によって生じる虞が高くなる車体前部側の浮き上がりを、誘導操作具11の下方への押さえ込みにより防止しながら、苗植付装置4が畦際に到達するのに伴って、補助レバー126を誘導操作具11の遊端部に向けて揺動操作することにより、苗植付装置4が畦斜面に至る前に、車体1の走行を維持しながら、苗植付装置4および施肥装置5を作動停止させることができるとともに、苗植付装置4を所定の上限位置に向けて浮上させることができる。これにより、苗植付装置4および施肥装置5の不必要な作動を阻止することができるとともに、苗植付装置4が畦に接触する虞を未然に回避することができる。その結果、植え終い走行を良好に行いながら車体1を圃場からスムーズに脱出させることができる。
【0096】
〔第2実施形態〕
【0097】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例として、本発明に係る農用作業車の操作構造を、農用作業車の一例である乗用田植機に適用した第2実施形態を図面に基づいて説明する。
【0098】
なお、この第2実施形態は、前述した第1実施形態に対して、車体前方の降車位置からの、苗植付装置4の昇降に関する操作構造、苗植付装置4および施肥装置5の作動状態の切り換えに関する操作構造、ならびに、主クラッチ19およびブレーキ47に対する操作構造が異なることから、以下、それらの操作構造についてのみ説明する。
【0099】
図15〜17に示すように、クラッチ・ブレーキペダル15には、車体1の前方に向けて延出する操作アーム130が連結されている。つまり、操作アーム130を使用することにより、車体前方の降車位置(地上側)からでも、搭乗運転部16でのクラッチ・ブレーキペダル15の操作と同様の主クラッチ19とブレーキ47の関連操作を容易に行える。
【0100】
操作アーム130には、コの字状に屈曲形成された被係合部材131が装備されている。車体1におけるクラッチ・ブレーキペダル15の車体前方側で、かつ、操作アーム130よりも車体内方側の位置には、ロックレバー132が、搭乗運転部16と車体前方の降車位置との双方からの左右方向への揺動操作が可能となるように配備されている。ロックレバー132は、バネ133により、操作アーム130から離れる方向に向けて揺動付勢されている。ロックレバー132には、操作アーム130を非操作位置から操作位置に向けて下降揺動させた場合に被係合部材131との係合が可能になり、かつ、その係合により、クラッチ・ブレーキペダル15とともに操作アーム130を操作位置に保持するフック状の係合部132Aが形成されている。
【0101】
この構成から、ロックレバー132の係合部132Aを操作アーム130の被係合部材131に係合することにより、主クラッチ19を切り状態に、また、ブレーキ47を制動状態に保持することができ、車体1を走行停止状態に維持することができる。また、その走行停止状態において、ロックレバー132の係合部と操作アーム130の被係合部材131との係合を解除することにより、主クラッチ19を入り状態に、また、ブレーキ47を非制動状態に切り換え保持することができ、車体1を再発進させることができる。
【0102】
つまり、搭乗運転部16からは当然のことながら、車体前方の降車位置からでも車体1の停止操作と再発進操作とを簡便に行える。
【0103】
なお、この操作アーム130を用いた主クラッチ19およびブレーキ47に対する操作構造は、前述した第1実施形態に採用してもよい。また、第1実施形態で例示した車体前方の降車位置からの主クラッチ19およびブレーキ47に対する操作構造を、この第2実施形態に採用してもよい。
【0104】
図15および図18に示すように、誘導操作具11の左部には、アーチ状に屈曲形成された誘導操作具11の内部空間内での揺動操作が可能となるように配置された補助レバー134(補助操作具Dの一例)、ならびに、補助レバー134の上昇位置、中立位置、下降位置、および植付位置の各操作位置での操作保持を可能にするデテント機構(図示せず)または摩擦式の保持機構(図示せず)、などが配備されている。
【0105】
補助レバー134は、植え付け伝動用の連係機構76と植え付け昇降用の第1連係機構99とに兼用される揺動部材77に、プッシュプルワイヤ135を介して連係されている。プッシュプルワイヤ135は、その引っ張り方向が、補助レバー134を植付位置から上昇位置に向けて揺動操作する方向となるように、また、補助レバー134を、上昇位置、中立位置、下降位置、植付位置の各操作位置に位置させた場合に、それらの操作位置に対応する操作位置に作業用の操作レバー17が位置するように、補助レバー134と揺動部材77とを連係する。
【0106】
これにより、前述した畦越え走行や積み卸し走行などを行っている最中に、車体1を走行させる畦斜面や歩み板などの勾配が思ったよりもきついために、走行前に、その畦斜面や歩み板などを考慮して予め上昇させた苗植付装置4が、畦斜面や歩み板などに接触する虞が生じた場合には、補助レバー134を操作することにより、そのときに再認識した畦斜面や歩み板などの勾配に応じた適切な高さ位置に苗植付装置4を容易に上昇停止させることができる。その結果、苗植付装置4が地面や歩み板などの走行面に接触する虞を未然に回避することができる。また、苗植付装置4を上限位置まで上昇させる場合に比較して、車体1の重心位置を低くすることができ、車体1の安定性を確保することができる。
【0107】
さらに、前述した植え終い走行の際には、車体1の登坂により生じる虞が高くなる車体前部側の浮き上がりを、誘導操作具11の下方への押さえ込みにより抑制しながら、苗植付装置4が畦際に到達するのに伴って補助レバー134を操作することにより、苗植付装置4が畦斜面に至る前に、車体1の走行を維持しながら、苗植付装置4および施肥装置5を作動停止させることができるとともに、畦斜面の勾配に応じた適切な高さ位置に苗植付装置4を容易に上昇停止させることができる。これにより、苗植付装置4および施肥装置5の不必要な作動を防止することができるとともに、苗植付装置4が畦に接触する虞を未然に回避することができる。その結果、植え終い走行を良好に行いながら車体1を圃場からスムーズに脱出させることができる。
【0108】
また、この構成では、アーチ状に屈曲形成された誘導操作具11の内部空間に補助レバー134を配備することにより、補助レバー134が他物に接触する虞や引っ掛かる虞などを抑制することができる。
【0109】
なお、補助レバー134を、ロッドや揺動アームなどを介して揺動部材77に連係してもよい。
【0110】
〔第3実施形態〕
【0111】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例として、本発明に係る農用作業車の操作構造を、農用作業車の一例である乗用田植機に適用した第3実施形態を図面に基づいて説明する。
【0112】
なお、この第3実施形態は、前述した第2実施形態に対して、車体前方の降車位置からの、苗植付装置4の昇降に関する操作構造、ならびに、苗植付装置4および施肥装置5の作動状態の切り換えに関する操作構造、が異なることから、以下、それらの操作構造についてのみ説明する。
【0113】
図19に示すように、誘導操作具11には、アーチ状に屈曲形成された誘導操作具11の内部空間内での揺動操作が可能となるように配置された左右一対の補助レバー136,137(補助操作具Dの一例)、左側の補助レバー136を中立位置に復帰付勢する中立復帰機構(図示せず)、ならびに、右側の補助レバー137の植付位置および植付停止位置の各操作位置での操作保持を可能にするデテント機構(図示せず)または摩擦式の保持機構(図示せず)、などが配備されている。
【0114】
左側の補助レバー136は、中立位置よりも誘導操作具11の遊端側に位置する操作位置が上昇位置となり、中立位置よりも誘導操作具11の基端側に位置する操作位置が下降位置となるように操作位置が設定されている。
【0115】
左側の補助レバー136は、昇降用の揺動板100に第1連係ワイヤ138を介して連係されている。右側の補助レバー137は、植え付け伝動用の第1揺動板79に第2連係ワイヤ139を介して連係されている。第1連係ワイヤ138は、左側の補助レバー136による、昇降用の揺動板100を介した昇降弁97のスプール98の摺動操作が可能となるように、左側の補助レバー136と昇降用の揺動板100とを連係する。第2連係ワイヤ139は、右側の補助レバー137による、植え付け伝動用の第1揺動板79などを介した植付クラッチ28の操作ピン75および施肥クラッチ30のシフト爪88の摺動操作が可能となるように、右側の補助レバー137と植え付け伝動用の第1揺動板79とを連係する。
【0116】
これにより、前述した畦越え走行や積み卸し走行などを行っている最中に、車体1を走行させる畦斜面や歩み板などの勾配が思ったよりもきついために、走行前に、その畦斜面や歩み板などを考慮して予め上昇させた苗植付装置4が、畦斜面や歩み板などに接触する虞が生じた場合には、左側の補助レバー136を操作することにより、そのときに再認識した畦斜面や歩み板などの勾配に応じた適切な高さ位置に苗植付装置4を容易に上昇停止させることができる。その結果、苗植付装置4が地面や歩み板などの走行面に接触する虞を未然に回避することができる。また、苗植付装置4を上限位置まで上昇させる場合に比較して、車体1の重心位置を低くすることができ、車体1の安定性を確保することができる。
【0117】
さらに、前述した作業終い走行の際には、車体1の登坂により生じる虞が高くなる車体前部側の浮き上がりを、誘導操作具11の下方への押さえ込みにより防止しながら、左側の補助操作具136を操作することにより、苗植付装置4および施肥装置5を作動させながら、車体1の登坂により車体1の姿勢が前上がり方向に変化するのに伴って、その変化量に応じた適切な上昇操作量で苗植付装置4を上昇させることが可能になる。これにより、作業終い走行時の車体1の登坂に起因して、苗植付装置4が沈下することにより、苗植付深さが変動する虞を未然に回避することができる。その結果、作業終い走行時における植え付け精度の向上を図ることができる。
【0118】
また、作業終い走行の際に苗植付装置4が畦際に到達するのに伴って、右側の補助レバー137を操作することにより、苗植付装置4が畦斜面に至る前に、車体1の走行を維持しながら、苗植付装置4および施肥装置5を作動停止させることができ、また、その操作後に左側の補助レバー136を操作することにより、畦斜面の勾配に応じた適切な高さ位置に苗植付装置4を容易に上昇停止させることができる。これにより、苗植付装置4および施肥装置5の不必要な作動を防止することができるとともに、苗植付装置4が畦に接触する虞を未然に回避することができる。その結果、植え終い走行を良好に行いながら車体1を圃場からスムーズに脱出させることができる。
【0119】
なお、この第3実施形態においては、中立復帰機構に代えて、左側の補助レバー136の上昇位置、中立位置、および下降位置の各操作位置での操作保持を可能にするデテント機構(図示せず)または摩擦式の保持機構(図示せず)を備えるようにしてもよい。
【0120】
また、第1実施形態で例示した車体前方の降車位置からの主クラッチ19およびブレーキ47に対する操作構造を採用してもよい。
【0121】
〔別実施形態〕
【0122】
〔1〕本発明に係る農用作業車の操作構造を、農用作業車の一例であるトラクタなどに適用してもよい。
【0123】
〔2〕乗用田植機としては、車体1の後部に苗植付装置4のみを装備するものであってもよく、また、施肥装置5の代わりに薬剤散布装置を装備したものであってもよい。
【0124】
〔3〕作業装置Aとしては、直播装置、ロータリ耕耘装置、あるいは、地面から浮上した状態で肥料や薬剤を散布する散布装置であってもよい。なお、散布装置を装備する場合には、例えば、散布装置Aに対する動力の断続を可能にする断続機構Bを備え、誘導操作具11に、地上側からの断続機構Aの作動状態の切り換え操作を可能にする補助操作具Dを装備し、作業終い走行の際に散布装置Aが畦際に到達するのに伴って、補助操作具Dを操作することにより、車体1の走行を維持しながら、散布装置Aが畦斜面に至る前に散布装置Aの作動を停止させることができるように構成してもよい。
【0125】
〔4〕施肥装置5としては、苗植付装置4の後部に装備されるリアマウント式に構成されたものであってもよい。
【0126】
〔5〕作業装置Aとしては、車体1に装備したバッテリや発電機などからの電力で駆動されるものであってもよい。この場合、断続機構Bは、作業装置Aに対する電力の断続を可能にするスイッチで構成されることになる。
【0127】
〔6〕昇降機構Cの構成としては種々の変更が可能である。例えば、昇降機構Cを、正逆転切り換え可能に構成された昇降駆動用の油圧モータと、この油圧モータに対する作動油の流れを切り換える昇降弁とから構成してもよく、また、正逆転切り換え可能に構成された昇降駆動用の電動モータと、この電動モータに対する電力の供給状態を切り換えるスイッチとから構成してもよい。
【0128】
〔7〕誘導操作具11に、補助操作具Dとして、作業操作用のデテント機構84のデテントアーム117に連係ワイヤ128を介して連係される上記第1実施形態に記載の補助レバー126と、昇降用の揺動板100に第1連係ワイヤ138を介して連係される上記第3実施形態に記載の補助レバー136とを装備するように構成してもよい。
【0129】
〔8〕誘導操作具11に、補助操作具Dとして、植え付け伝動用の連係機構76と植え付け昇降用の第1連係機構99とに兼用される揺動部材77にプッシュプルワイヤ135を介して連係される上記第2実施形態に記載の補助レバー134と、昇降用の揺動板100に第1連係ワイヤ138を介して連係される上記第3実施形態に記載の補助レバー136とを装備するように構成してもよい。
【0130】
〔9〕誘導操作具11に、補助操作具Dとして、上記第3実施形態に記載の左右一対の補助レバー136,137のうちのいずれか一方のみを装備するように構成してもよい。
【0131】
〔10〕第1実施形態で例示した補助レバー126を、アーチ状に屈曲形成された誘導操作具11の内部空間内で揺動操作されるように構成してもよい。
【0132】
〔11〕図20に示すように、補助操作具Dとしては、誘導操作具11の遊端部に沿ってアーチ状に屈曲形成されたものであってもよい。このように補助操作具Dを形成すると、前述した畦越え走行や積み卸し走行あるいは植え終い走行などにおいて、補助操作具Dの操作を行う必要が生じた場合には、両手あるいは左右いずれかの補助操作具Dの操作を行い易い方の手により、補助操作具Dを無理なく容易に操作することができる。
【0133】
〔12〕補助操作具Dとしては、断続機構Bと昇降機構Cのいずれか一方または双方に専用の連係機構を介して直接的に連係されたものであってもよい。
【0134】
〔13〕誘導操作具11としては、車体1の前部に変位不能に固定装備したものであってもよい。また、車体1の前部に、その車体前方への延出長さが最小となる格納位置と、その略全体が車体1の前方に向けて延出する作用位置とにわたって、車体前後方向に摺動操作されるように構成したものであってもよい。
【0135】
〔14〕誘導操作具11の形状としては種々の変更が可能である。例えば、誘導操作具11を、一直線状や、その遊端部に左右向きの把持部を備えるT字形などに形成してもよい。
【0136】
〔15〕付勢手段83としてエアダンパやバネなどを採用するようにしてもよい。
【0137】
〔16〕保持手段84として、摩擦式で、補助操作具Dの操作により、その摩擦板に対する圧接が解除されて、操作レバー17の操作保持を解除するように構成したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】乗用田植機の全体側面図
【図2】乗用田植機の全体平面図
【図3】乗用田植機の正面図
【図4】車体前部の構成を示す要部の縦断側面図
【図5】伝動構成を示す概略平面図
【図6】トランスミッションケースの一部展開縦断背面図
【図7】クラッチ・ブレーキの操作構造を示す要部の横断平面図
【図8】主変速装置の操作構造を示す要部の縦断側面図
【図9】操作構造を示す要部の縦断正面図
【図10】デフロック機構の操作構造を示す要部の縦断側面図
【図11】デフロック機構の操作構造を示す要部の横断平面図
【図12】作業系の操作構造を示す要部の縦断側面図
【図13】作業系の操作構造を示す要部の横断平面図
【図14】誘導操作具側からの操作構造を示す要部の縦断側面図
【図15】第2実施形態での補助操作具の構成などを示す乗用田植機の正面図
【図16】第2実施形態でのクラッチ・ブレーキの操作構造を示す要部の縦断側面図
【図17】第2実施形態でのクラッチ・ブレーキの操作構造を示す要部の平面図
【図18】第2実施形態での誘導操作具側からの操作構造を示す操作連係図
【図19】第3実施形態での誘導操作具側からの操作構造を示す操作連係図
【図20】別実施形態での補助操作具の形状を示す乗用田植機の正面図
【符号の説明】
【0139】
1 車体
7 搭乗運転部
11 誘導操作具
17 操作レバー
83 付勢手段
84 保持手段
A 作業装置
B 断続機構
C 昇降機構
D 補助操作具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の後部に作業装置を装備し、前記車体の前部に、地上側からの前記車体の誘導操作を可能にする誘導操作具を備えた農用作業車の操作構造であって、
前記作業装置の昇降駆動を可能にする昇降機構と、前記作業装置に対する動力の断続を可能にする断続機構とを備え、
前記車体に形成した搭乗運転部に、前記昇降機構および前記断続機構の作動状態の切り換え操作を可能にする作業用の操作レバーを配備し、
前記操作レバーを、前記断続機構が遮断状態となり、かつ、前記昇降機構が上昇状態となる操作位置に向けて付勢する付勢手段と、この付勢手段の作用に抗した前記操作レバーの操作保持を可能にする保持手段とを備え、
前記誘導操作具に、地上側からの前記保持手段の保持解除操作を可能にする補助操作具を装備してあることを特徴とする農用作業車の操作構造。
【請求項2】
車体の後部に作業装置を装備し、前記車体の前部に、地上側からの前記車体の誘導操作を可能にする誘導操作具を備えた農用作業車の操作構造であって、
前記作業装置の昇降駆動を可能にする昇降機構を備え、
前記誘導操作具に、地上側からの前記昇降機構の作動状態の切り換え操作を可能にする補助操作具を装備してあることを特徴とする農用作業車の操作構造。
【請求項3】
車体の後部に作業装置を装備し、前記車体の前部に、地上側からの前記車体の誘導操作を可能にする誘導操作具を備えた農用作業車の操作構造であって、
前記作業装置に対する動力の断続を可能にする断続機構を備え、
前記誘導操作具に、地上側からの前記断続機構の作動状態の切り換え操作を可能にする補助操作具を装備してあることを特徴とする農用作業車の操作構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−213384(P2009−213384A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59522(P2008−59522)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】