説明

近接スイッチ

【課題】コイルの温度特性を補償する回路等を設けることなく温度補償を行う近接スイッチを提供する。
【解決手段】温度変化に応じた筐体9及び充填材10の膨張収縮により変化する検出面内壁9aとコイル部6との隙間Aの変化量がコイル部6の温度特性を相殺する位置Bに固定部20を設けて、充填材10の一部を筐体9の内壁へ部分的に固定し、この位置を基点にして充填材10を膨張収縮可能にして、温度変化に応じた隙間Aの変化によりコイル部6の検出距離の温度依存特性を補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属等の被検出体の近接によるコイルのインピーダンスの変化を検出することによって被検出体の接近を判定する近接スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近接スイッチは、筐体内の一端側にコイルを収容し、他端側から樹脂等の充填材を注入して封止してなる。従来は筐体の検出面をプラスチック、側面を黄銅で構成したが、近年、近接スイッチへの被検出体等の衝突による破壊及び劣化等を防止する目的で、筐体を非磁性ステンレスにより構成する場合がある(例えば、特許文献1参照)。このように構成された近接スイッチは、コイルの発振に伴い筐体検出面の前方に磁界を形成する。この磁界に被検出体が進入すると当該被検出体内にて渦電流損失が発生し、それに伴いコイルのインピーダンスが変化する。このインピーダンスの変化を付属の回路で検出して、被検出体の近接を判定することが可能となる。
【0003】
近接スイッチは、温度変化に応じてコイルのインピーダンスが変化することに起因して、被検出体ありと判定する当該被検出体から検出面までの距離(以下、検出距離と称す)も温度に依存した特性を示す。図5は、ステンレス筐体の近接スイッチの温度特性を示すグラフであり、縦軸にコイルの共振インピーダンスZosc[kΩ]、横軸に検出距離[mm]を示す。この共振インピーダンスは、Zosc=ω/Rで近似的に表されるコイル固有の値である。ここでLはコイルのインダクタンス、Rはコイルの抵抗値、ωは発振周波数である。例えばコイルの共振インピーダンスZoscが6.3kΩを上回るか否かによって被検出体の検出/非検出を判定するものとすると、周囲温度25℃では検出距離が7mmになるが、−25℃になると6mmになり、70℃になると8mmになる。このため、これら温度条件の違いによらず、広い温度範囲で一定の検出距離を実現するためには、別途、温度補償回路が必要となる(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
図5では検出面とコイルとの間の隙間を固定した場合の温度特性を示したが、この隙間の変動によっても検出距離が変化する。図6は、ステンレス筐体の近接スイッチの隙間と検出距離の関係を示すグラフであり、縦軸に検出距離[mm]、横軸に隙間[mm]を示す。ステンレス製の筐体の場合、検出面とコイルとの間の隙間が小さくなるほど、検出距離が増大する傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−141762号公報
【特許文献2】特開2003−298403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の近接スイッチは上述のように構成されているので、コイルの温度特性を補償するために、特許文献2のような温度補償回路を用いる必要があり、コスト高につながっていた。
【0007】
また、ステンレス筐体の場合の検出距離の温度特性は、従来のプラスチック筐体の場合と逆の温度特性になるので、特許文献2の補償回路をそのまま流用することができず、高精度の温度補償が困難になるという課題があった。流用するためには、特許文献2の補償回路に含まれるNTCサーミスタ(負の温度係数を有する抵抗素子)をPTCサーミスタ(正の温度係数を有する)に置き換える必要がある。しかし、このPTCサーミスタは種類が少ないため高精度の温度補償が困難となる。
【0008】
さらに、コイルを筐体内に封止する充填材が温度変化に応じて膨張収縮すると、コイルと筐体検出面との間の隙間が変動するので、温度変化による隙間の変動が検出距離の変動要因になるという課題もあった。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、コイルの温度特性を補償する回路等を設けることなく温度補償を行う近接スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の請求項1に係る近接スイッチは、非磁性金属の筐体と、筐体内に収容されて、被検出体の筐体検出面への近接を検出するコイル部と、コイル部を保持する保持部と、筐体内壁の所定位置で保持部を部分的に固定し、当該位置を基点にして保持部を膨張収縮可能にする固定部とを備えるものである。
【0011】
この発明の請求項2に係る近接スイッチは、筐体を、比透磁率が実質的に1、かつ、体積抵抗率が45×10−8[Ωm]以上の金属で構成したものである。
【0012】
この発明の請求項3に係る近接スイッチは、コイル部が、温度変化に応じて被検出体の検出距離が変動する温度特性を有し、固定部は、温度変化に応じた筐体及び保持部の膨張収縮により変化する筐体検出面の内壁とコイル部との隙間の変化量がコイル部の温度特性を相殺する位置に設けられたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、非磁性金属の筐体内壁に保持部を部分的に固定し、当該位置を基点にして保持部を膨張収縮可能にしたので、コイル部の温度特性を筐体検出面内壁とコイル部との隙間の変化量で相殺できるようになり、コイル部の温度特性を補償する回路等を設けることなく温度補償を行うことのできる近接スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1に係る近接スイッチの構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す近接スイッチの検出距離の温度依存特性を示すグラフである。
【図3】実施の形態1に係る近接スイッチの変形例を示す断面図である。
【図4】実施の形態1に係る近接スイッチの変形例を示す断面図である。
【図5】ステンレス筐体の近接スイッチの、コイルの温度特性を示すグラフである。
【図6】ステンレス筐体の近接スイッチの、検出面とコイルとの間の隙間と検出距離との関係を示すグラフである。
【図7】図1に示す近接スイッチの筐体の構成例を示す斜視図である。
【図8】図1に示す近接スイッチの筐体の構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は、本実施の形態1に係る近接スイッチ1の構成を示す断面図である。図1において、コイル2がボビン3に巻回され、フェライトコア4の環状の溝に収納され、また、各種の電子部品が実装された基板5がフェライトコア4の裏面に接続されて、コイル部6を構成している。このコイル部6を有底円筒状のキャップ7に収容し、さらに、離型材8を塗布した有底円筒状の筐体9にキャップ7ごとコイル部6を収容して、充填材(保持部)10を充填する。また、筐体9の開口部にケーブルホルダ11を冠着し、ケーブルホルダ11の孔からケーブル12を引き出す。
【0016】
図2は、近接スイッチ1の検出距離の温度依存特性を例示したグラフであり、縦軸に検出距離の変化率[%]、横軸に周囲温度[℃]を示す。図中、□プロットは隙間Aの変動がない場合のコイル部6の温度特性を、検出距離として表す。◇プロットは隙間Aの変動に応じた検出距離の特性を表す。筐体9をステンレス、充填材10を熱硬化性の樹脂とした場合、ステンレスと樹脂の線膨張率が異なるので、高温になるにつれ、筐体9の検出面内壁9aとキャップ7の底面との隙間Aが小さくなり、検出距離が大きくなる傾向がある(図2の◇プロット)。一方、コイル2の温度特性により、高温になるにつれ検出距離が小さくなる傾向がある(図2の□プロット)。このように、隙間Aの変動とコイル2の温度特性とが、検出距離の温度依存特性を互いに補償し合う傾向となっている。そこで、本実施の形態1では、筐体9と充填材10の膨張収縮による隙間Aの変動を利用してコイル2の温度特性を補償する構成にして、近接スイッチ1の検出距離変化率を温度によらず一定にする(図2の△プロット)。
【0017】
より具体的には、隙間Aの変化量がコイル2の温度特性を相殺する位置に、固定部20を設けて、充填材10の一部を筐体9へ部分的に固定する。この固定部20の位置が、コイル部6及び充填材10等を含む内容物の膨張収縮の基点となる。この基点より検出面内壁9a側にある筐体9と充填材10がそれぞれ膨張収縮して隙間Aが変化しても(図2の◇プロット)、コイル2の温度特性が相殺を図るので(図2の□プロット)、検出距離の温度依存特性を補償することができる(図2の△プロット)。
【0018】
次に、基点の位置を決定する方法を説明する。
ここでは近接スイッチ1が図5及び図6のグラフに示す特性を有するものと仮定する。図5に示したグラフによると25℃から70℃への温度変化に対し、検出距離は約1mm増大している。さらに、図6に示したグラフによると検出距離の変動約1mmに対応する隙間Aの変動は約−0.05mmである。
【0019】
ここで、キャップ7の底面から基点までの距離をB[mm]とし、コイル部6とキャップ7とを封止する充填材10の線膨張率と筐体9の線膨張率の差を5×10−5mm/mm℃とすると、膨張収縮に伴う隙間Aの変動量C[mm]は、下式(1)となる。ただし、充填材10の線膨張率を6.8×10−5とし、また、筐体9をSUS(Stainless Used Steel)303と仮定してその線膨張率1.8×10−5を用いる。
C=5×10−5×(70−25)×B (1)
【0020】
図5及び図6より隙間Aの変動量Cを−0.05mmとして上式(1)を解くとB=22.22mmとなり、キャップ7の底面から約22mmの位置を基点にして固定部20を設ける。
【0021】
次に、固定部20の構成例を説明する。
図1に示す構成例では、筐体9の内周面の基点位置に溝21を形成し、この溝21に充填材10の凸部22を係合することによって固定部20とする。筐体9の内周面とコイル部6及び充填材10の外周面の間には離型材8の層が形成されているため、充填材10は、凸部22が固定端、コイル部6固着側が開放端となって、検出面内壁9aの方向へ膨張収縮し、コイル2の温度特性を補償する。
なお、充填材10に溝21を、筐体9に凸部22を形成してもよい。
【0022】
また、固定部20を図3に示す構成にしてもよい。図3に示す近接スイッチ1aの構成例では、筐体9の内周面の基点位置に凹状段差23を形成し、この段差23に充填材10の凸状段差24を係合することによって固定部20aとする。離型材8は基点より検出面内壁9a側にのみ設けるようにして、凹状段差23と凸状段差24とを固着させる。
なお、充填材10に凹状段差23を、筐体9に凸状段差24を形成してもよい。また、凹状段差23と凸状段差24の対向面を螺刻して、互いにネジ止めして固定してもよい。
【0023】
また、固定部20を図4に示す構成にしてもよい。図4に示す近接スイッチ1bの構成例では、キャップ7の開口周縁にフランジ25を形成し、このフランジ25を筐体9の内周面の基点位置に形成した凹状段差23に係合することによって固定部20bとする。この構成の場合には、筐体9とキャップ7(保持部に相当する)の膨張収縮の差に応じて隙間Aが定まるため、キャップ7の素材に応じた線膨張率を用いて上式(1)より基点の距離Bを決定する。
【0024】
以上より、実施の形態1によれば、非磁性のステンレスで構成した筐体9と、筐体9内に収容されて、被検出体の検出面への近接を検出するコイル部6と、コイル部6を保持する充填材10とを備える近接スイッチ1において、温度変化に応じた筐体9及び充填材10の膨張収縮により変化する検出面内壁9aとコイル部6との隙間Aの変化量がコイル部6の温度特性を相殺する位置で、充填材10を筐体9内壁に部分的に固定して、この位置を基点にして充填材10を膨張収縮可能にする固定部20を備える構成にした。このため、温度変化に応じた隙間Aの変化により、コイル部6の検出距離の温度依存特性を補償できるようになり、従来のような温度補償回路等を設けることなく温度補償を行うことができる。
【0025】
なお、上記実施の形態1では、コイル部6をコイル2、ボビン3、フェライトコア4及び基板5から構成するようにしたが、コイル部6は少なくとも磁界を発生させるためのコイル2を備える構成であればよく、必要に応じてその他の部材を省略してもよい。
また、フェライトコア4はフェライト製であるが、これ以外の材質で構成したコアを用いてもよい。
さらに、コイル部6を絶縁用のキャップ7に収容したが、このキャップ7を省略してもよい。
【0026】
また、上記実施の形態1では、筐体9の素材として特にSUS303を例に用いたが、これに限定されるものではなく、非磁性のステンレスであればよい。あるいは、一般的な非磁性ステンレスの特性である、比透磁率(同一電界強度での物質の透磁率と真空の透磁率の比)が実質的に1であって、20℃のときの体積抵抗率が45×10−8[Ωm]以上の特性を有する、ステンレス以外の金属(チタン等)を用いてもよい。
【0027】
また、固定部20,20a,20bは、筐体9内壁の全周に亘って設けるようにしてもよいし、内壁全周のうち所定の角度毎に複数設けることで形成されるものであってもよい。即ち、固定部20,20a,20bは、充填材10を適切に固定することができ、かつ、検出面内壁9aとそれに対向するキャップ7の底面とがなす角度(一般的には平行)が、温度変化に伴う充填材10の伸縮に係わらず、許容される程度の精度で一定に保たれる形状であればよい。
【0028】
具体例を図7及び図8に示す。図7及び図8は、図1に示す筐体9の斜視図に相当し、この筐体9の内壁に設けた溝21に、不図示の充填材10の凸部22を係合することによって、不図示の固定部20となる。図7の例では、一点鎖線で示す基点位置に、筐体9内壁の全周に亘って溝21を設けるのに対し、図8の例では、同じく一点鎖線で示す基点位置に、60°毎に3箇所の溝21を設ける。
【符号の説明】
【0029】
1,1a,1b 近接スイッチ
2 コイル
3 ボビン
4 フェライトコア
5 基板
6 コイル部
7 キャップ(保持部)
8 離型材
9 筐体
9a 検出面内壁
10 充填材(保持部)
11 ケーブルホルダ
12 ケーブル
20,20a,20b 固定部
21 溝
22 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性金属の筐体と、前記筐体内に収容されて、被検出体の前記筐体検出面への近接を検出するコイル部と、前記コイル部を保持する保持部とを備える近接スイッチにおいて、
前記筐体内壁の所定位置で前記保持部を部分的に固定して、当該位置を基点にして前記保持部を膨張収縮可能にする固定部を備えることを特徴とする近接スイッチ。
【請求項2】
筐体は、比透磁率が実質的に1、かつ、体積抵抗率が45×10−8[Ωm]以上の金属で構成されることを特徴とする請求項1記載の近接スイッチ。
【請求項3】
コイル部は、温度変化に応じて被検出体の検出距離が変動する温度特性を有し、
固定部は、温度変化に応じた筐体及び保持部の膨張収縮により変化する筐体検出面の内壁と前記コイル部との隙間の変化量が前記コイル部の温度特性を相殺する位置に設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の近接スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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