近接場光導波路接合装置
【課題】伝播光と近接場光とのカップリング効率を可及的に高くすることを可能にする。
【解決手段】光が伝播する伝播光導波路20と、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散膜の近接場光導波路30とを接合し、近接場光導波路と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜である接合部10を有し、伝播光導波路の屈折率の実部と、接合部の有効屈折率の実部との差が、0以上0.5以下である。
【解決手段】光が伝播する伝播光導波路20と、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散膜の近接場光導波路30とを接合し、近接場光導波路と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜である接合部10を有し、伝播光導波路の屈折率の実部と、接合部の有効屈折率の実部との差が、0以上0.5以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場光導波路と伝播光導波路とを接合する近接場光導波路接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ロードマップITRSによるとLSIは2015年頃よりリーク電流や回路内の情報遅延などの問題により、進歩が衰えるといわれており、それに変わる情報制御システムの一つとして近接場システムが提唱されている。光システムは波長多重性、光速情報伝達性、高速論理演算性を有しているが、回折限界が存在するために集積化には向かないといわれている。しかし、近年、回折限界がない近接場光が提唱されてきたことで、この問題は解決される可能性がでてきた。
【0003】
サブミクロンの分解能を持つ光学顕微鏡−近接場光学顕微鏡では光ファイバーを加工したプローブで分解能を上げている。光ファイバーの出力端の開口径を小さくし、更に金属で開口部以外をコートしている。この場合、伝播光から近接場光への変換効率は例えば以下の表に示すようになる。
【表1】
【0004】
しかし、システム効率を考えた場合、開口径100nmで10−4では、実用上問題がある。近接場光システムの構築やSoC(System On Chip)内光配線では光源となるLD(Laser Diode)、LED(Light Emitting Diode)やあるいはシステム外部からファイバーや伝播光導波路との結合ではさらに高い結合効率が必要となる。
【0005】
また、一般に、近接場光は金属系−いわゆるプラズモンを用いる方が、相互作用が強いことが知られている。プラズモン導波には一次元金属細線、一次元サブミクロンドット(あるいは円柱)配列が知られている。一次元金属配線では金属表面で発生する表面プラズモンポラリトンが導波する。すなわち、表面でのみエネルギーが導波する。また一次元サブミクロン配列方式でも、表面で発生するプラズモンがエネルギーを導波するが、球間のスペースもエネルギー伝達空間となる。そして、特許文献1には、4nmの金ナノ粒子を分散した系においてもプラズモンが導波することが示されている。
【特許文献1】特開2007−148289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、伝播光と近接場光とのカップリング効率を可及的に高くすることのできる近接場光導波路接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様による近接場光導波路接合装置は、光が伝播する伝播光導波路と、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散膜の近接場光導波路とを接合し、前記近接場光導波路と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜である接合部を有し、前記伝播光導波路の屈折率の実部と、前記接合部の有効屈折率の実部との差が、0以上0.5以下であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2の態様による近接場光導波路接合装置は、光が伝播する伝播光導波路と、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散膜の近接場光導波路とを接合し、前記近接場光導波路と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜である接合部を有し、前記接合部の有効屈折率の実部が、1.0以上1.2以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、伝播光と近接場光とのカップリング効率を可及的に高くすることが可能な近接場光導波路接合装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明に至った経緯および本発明の概要を説明する。
【0011】
上述したように、一般に、近接場光は金属系−いわゆるプラズモンを用いる方が、相互作用が強いことが知られている。プラズモン導波には一次元金属細線、一次元サブミクロンドット(あるいは円柱)配列が知られている。一次元金属配線では金属表面で発生する表面プラズモンポラリトンが導波する。すなわち、表面でのみエネルギーが導波する。また一次元サブミクロン配列方式でも、表面で発生するプラズモンがエネルギーを導波するが、球間のスペースもエネルギー伝達空間となる。
【0012】
伝播光は回折限界があるが、一旦プラズモンに変化したエネルギーは回折限界を起こさない。そこで、本発明者達は、エネルギーをプラズモンへ移行した後に、導波路幅を小さくすることが有効であると考えた。そして、実現する際に特許文献1に記載のような分散系を用いることが重要であると考えた。すなわち、回折限界以上の幅の導波路において、伝播光からプラズモンに変換し、その後、プラズモン導波路のサイズを小さくし、プラズモン導波路、すなわち近接場導波路は特許文献1に記載のようなシステムを用いることが重要である。
【0013】
この際、伝播光導波路とプラズモン導波路との境界端面で反射が起こることが考えられる。このため、この反射率を小さくすることが重要である。金属の屈折率は可視、近赤外では一般に実部は1より小さく、虚部(消衰係数)が大きい。このような場合、エネルギーは物質内に入り込まず、反射される。金属では表面のみにエネルギーが移行するが、この時、エネルギー保存と波数保存(運動量保存)が成り立つことが条件である。しかし、一般的にはこの二つの保存則は伝播光とプラズモンの分散関係が異なることから成り立ちにくく、また、エネルギー伝播の断面積が大きく異なることから変換効率が著しく低い。
【0014】
この問題の対応策の一つとして、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散系を用いれば良いことが分かった。これは、この金属ナノ粒子分散系は導波断面積を伝播光導波路のそれと同じようにすることが可能となるため、変換効率を上げることができる。また、もう一つの対応策として、金属ナノ粒子分散系において有効屈折率を定義し、この有効屈折率がある条件を満たせば良いことが分かった。この有効屈折率neは、以下のように、定義される。物質Aの体積をVa、複素屈折率をna、物質Bの体積をVb、複素屈折率をnbとすると、
【数1】
と定義することができる。この有効屈折率neは、金属ナノ粒子分散系においては、金属の複素屈折率とマトリックスである誘電体の複素屈折率とを体積を重みにして加重平均をとることである。本発明者達は、伝播光導波路とプラズモン導波路が接する端面においてこの実部が一致する、あるいは実部、虚部双方とも一致することが反射を小さくできることを見出した。これは、誘電体導波路や異種誘電体界面の反射を考慮する時には一般的であるが、一方が金属である場合は有効ではない。例えば、金属の表面には反射防止膜を付けることができないからであり、これは、金属ナノ粒子分散系がプラズモンを導波する材料系にも関わらず、システム全体としては、一般の誘電体と同じような実部が1より大きく、虚部もそれほど大きくない複素屈折率を実現できることに依存している。
【0015】
また、本発明者達は、以下に述べる実施形態において説明するように、金属ナノ粒子分散系の複素屈折率の実部が1以上でかつ1に近いほど伝播光導波路からプラズモン導波路へのエネルギー変換効率が大きくなることを実験上見出した。
【0016】
さらに、近年盛んになっているサブ波長構造による反射防止にも本発明の一実施形態による近接場光導波路接合装置が有効であることを確認した。
【0017】
本発明の実施形態を以下に図面を参照して説明する。
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による近接場光導波路接合装置を図1に示す。図1は、本実施形態による近接場光導波路接合装置の平面図である。本実施形態の近接場光導波路接合装置は、伝播光導波路20と、サイズ(直径)がナノメートルのオーダーの金属ナノ粒子(例えば、直径が10nmの銀粒子)が誘電体(例えばSiO2)中に分散された金属ナノ粒子分散膜からなる近接場光導波路(プラズモン導波路)30とを接続する接合部10を有している。この接合部10は、プラズモン導波路30と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜からなっており、伝播光導波路20との接続部分では伝播光導波路20と同じサイズ(直径(例えば、1μm)または断面積)を有しかつプラズモン導波路30との接続部分ではプラズモン導波路30と同じサイズ(直径(例えば100nm)または断面積)を有し、伝播光導波路20との接続部分からプラズモン導波路30との接続部分まで、サイズが滑らかに減少するように構成されている。
【0019】
このように構成された本実施形態の接合装置において、金属ナノ粒子(銀ナノ粒子)を分散させている誘電体(マトリックス)の屈折率値を変えることによる接合部10の有効屈折率を変化させるとともに伝播光導波路20の屈折率の実部を変化させてカップリング効率(変換効率)の違いをシミュレーションで調べた。その結果を図2に示す。図2には、伝播光導波路20の屈折率の実部を1、1.2、1.5、1.053、1.183、1.283、1.383、1.5、1.183、1.283、1.118と変えたとき、接合部10の有効屈折率の実部を1、1、1、1.053、1.053、1.053、1.053、1.053、1.183、1.183、1.118とそれぞれ変化させ、そのときの差Δnと、シミュレーションにより求めたカップリング効率が示されている。これらのΔnを横軸に取り、カップリング効率を縦軸に取ったグラフを図3に示す。なお、図3に示すグラフは、接合部10の屈折率の実部の値が1、1.053、1.118、1.183をパラメータにとってプロットされている。また、図4には、接合部10の有効屈折率の実部を横軸に取り、縦軸にカップリング効率を取ったときのデータをプロットしたグラフを示す。なお、この場合、伝播光導波路20の屈折率の実部は、接合部10の有効屈折率の実部と同じ値となっている。
【0020】
図2乃至図4からわかるように、接合部10の有効屈折率の実部が変化しても、伝播光導波路20の屈折率の実部と接合部10の有効屈折率の実部との差Δnが小さいほど変換効率(すなわち伝播光からプラズモンへの変換効率)が高い。また、差Δnが0.5以下であれば、変換効率は0.057以上となり、従来のようにファイバープローブを用いる場合よりも2桁大きい。
【0021】
また、接合部10の有効屈折率の実部と伝播光導波路20の屈折率の実部との差がない場合には図4からわかるように、接合部10の有効屈折率が1に近い方が変換効率は高い。このシミュレーションから、接合部10の有効屈折率の実部が、1.0以上1.2以下であれば、従来の場合よりも、より高い変換効率を得ることができることがわかる。
【0022】
以上説明したように、本実施形態によれば、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0023】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による近接場光導波路接合装置を図5に示す。図5は、本実施形態による近接場光導波路接合装置の平面図である。本実施形態の近接場光導波路接合装置は、第1実施形態の近接場光導波路接合装置において、接合部10の金属ナノ粒子として直径が30nmの円柱状の銀ナノ粒子12を用いている。この接合部10の作製方法は、FIB(focused ion beam)を用いて、それぞれが直径30nmの銀ナノ粒子を円柱状に加工し、これらの銀ナノ粒子12の外側に、囲うようにTEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate)の加水分解で作製した有機SiO2膜(図示せず)の塗布を行った。この有機SiO2膜の膜厚は約500nmであった。また、伝播光導波路20の幅は1μm、プラズモン導波路30の幅は100nmとした。なお、プラズモン導波路30は、第1実施形態と同様に、接合部10と同じ材料から構成した。図5においては、円柱状の銀ナノ粒子12は、円柱の軸方向が紙面に垂直となるように配置されている。
【0024】
このようにして構成された接合部10を、近接場顕微鏡と微分干渉計を組み合わせた微分干渉近接場光学顕微鏡(以下、SNOM(Scanning Near-field Optical Microscope)とも云う)で観察し、接合部10の有効屈折率を測定した。TEOS塗布時に含有させるドーパントを変化させ、その内のいくつかを微分干渉SNOMで測定し、接合部10の有効屈折率が約1.05のものを選び、伝播光導波路20の屈折率の実部を変化させたものを接合させた。本実施形態においては、伝播光導波路20の屈折率の実部と、接合部10の有効屈折率の実部との差Δnを0.05、0.45、0.53とし、このときのカップリング効率(伝播光からプラズモンへの変換効率)を測定した。この測定に用いられた光の波長は1μmである。この測定の結果を図6に示す。なお、差Δn=0.05の場合は伝播光導波路20を用いずに、光を空気中から接合部に入射し、測定した。
【0025】
図6からわかるように、差Δnが0.53以上であれば、カップリング効率は6.0×10−2以上となり、従来の場合よりも、より高い変換効率を得ることができることがわかる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態によれば、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0027】
(変形例)
次に、本実施形態の変形例による近接場光導波路接合装置を図7に示す。本変形例の近接場光導波路接合装置は、伝播光導波路20は、先端に行くにつれて断面積が小さくなる形状、例えば平面形状において先端が尖った三角形の三角形部分20aを有しており、この三角形部分20aの尖った先端が接合部10に挿入されるように構成されている。すなわち、伝播光導波路20と接合部10との接合面は、三角形部分20aの先端の表面となり、三角形部分20aの尖りを鋭くすることによって、接合面の面積を広くすることができる。この接合部10は、第2実施形態で説明した、接合部10の製造方法と同様にして形成され、直径が30nmの円柱状の銀ナノ粒子が有機SiO2膜中に分散された構成を有している。
【0028】
本変形例においても、第1実施形態と同様に、伝播光導波路20の屈折率の実部と、この伝播光導波路20に接する接合部10の有効屈折率の実部との差Δnが小さければ、可及的に高い変換効率を得ることができる。また、接合部10の有効屈折率の実部が1に近ければ近いほど高い変換効率を得ることができる。
【0029】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による近接場光導波路接合装置を説明する。本実施形態の近接場光導波路接合装置は、第2実施形態の近接場光導波路接合装置と、銀ナノ粒子分散膜からなる接合部10およびプラズモン導波路30の製造方法が異なっている。本実施形態に係る接合部10およびプラズモン導波路30は、Snシードによる銀還元法で、銀ナノ粒子が有機SiO2中に分散している銀ナノ粒子分散膜を作製した。作製した銀ナノ粒子分散膜をTEM(Transmission Electron Microscope)を用いて測定した結果、銀ナノ粒子の直径は平均10nmであった。微分干渉近接場光学顕微鏡で測定した結果、密度のばらつきがあり有効屈折率にも差があった。このため、有効屈折率の実部が1.183となるものを選択して、図5に示す第2実施形態のような構造を有する接合部10およびプラズモン導波路30をイオンミリングで作製した。この接合部10をファイバー型伝播光導波路20と接合させ、変換効率を測定した。この測定においては、伝播光導波路20の屈折率の実部と、接合部10の有効屈折率の実部との差Δnを0.05、0.45、0.53とし、このときのカップリング効率(伝播光からプラズモンへの変換効率)を測定した。この測定に用いられた光の波長は1μmである。この測定の結果を図8に示す。なお、差Δn=0.05の場合は伝播光導波路20を用いずに、光を空気中から接合部10に入射し、測定した。
【0030】
図8からわかるように、差Δnが0.53以上であれば、カップリング効率は6.4×10−2以上となり、従来の場合よりも、より高い変換効率を得ることができることがわかる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0032】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態による近接場光導波路接合装置を、図9を参照して説明する。図9は、本実施形態の近接場光導波路接合装置の部分的な平面図である。本実施形態の近接場光導波路接合装置は、図5に示す第2実施形態の近接場光導波路接合装置において、接合部10の、伝播光導波路20に近接している領域の金属ナノ粒子12を間引いた構成となっている(図9参照)。間引き方は、伝播光導波路20に近いほど多めに間引き、サブ波長構造を構成した。なお、本実施形態においても、伝播光導波路20の屈折率の実部と、接合部10の、伝播光導波路20に近接している領域の屈折率の実部との差Δnは、第1実施形態で説明したように、1.183以下となるようにした。
【0033】
サブ波長構造は、反射防止に有効であることは良く知られている(例えば、H. Toyota, K. Takahara. M. Okamoto, T. Yotsuya, and H. Kikuta, Jpn J. Appl. Phys. 40 L747 (2001)参照)。本実施形態においては、サブ波長構造を有しているので、伝播光導波路20と接合部10との接合面における伝播光の反射が抑制され、変換効率が第2実施形態に比べて、約3%増加した。
【0034】
本実施形態も第2実施形態と同様に、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0035】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態による近接場光導波路接合装置を図10(a)乃至図11を参照して説明する。図10(a)は、本実施形態の近接場光導波路接合装置に係る金属ナノ粒子分散膜に用いられる金属ナノ粒子13を示す模式図、図10(b)は、図10(a)に示す金属ナノ粒子13が配列された金属ナノ粒子分散膜を示す模式図である。
【0036】
本実施形態の近接場光導波路接合装置は、第2実施形態の近接場光導波路接合装置と、金属ナノ粒子分散膜からなる接合部10およびプラズモン導波路30の製造方法が異なっている。本実施形態に係る接合部10およびプラズモン導波路30は、図10(a)に示すように、ドデカンチオールをリガンド(有機シェル)としたコアシェル型金ナノ粒子13をディップ方式で成膜した構成となっている。
【0037】
作製した金ナノ粒子分散膜をTEM(Transmission Electron Microscope)を用いて測定した結果、金ナノ粒子の直径は約3nmであった。微分干渉近接場光学顕微鏡で測定した結果、密度のばらつきがあり有効屈折率にも差があった。このため、有効屈折率の実部が1.183となるものを選択して、図5に示す第2実施形態のような構造を有する接合部10およびプラズモン導波路30をイオンミリングで作製した。この接合部10をファイバー型伝播光導波路20と接合させ、変換効率を測定した。この測定においては、伝播光導波路20の屈折率の実部と、接合部10の有効屈折率の実部との差Δnを0.05、0.45、0.53とし、このときのカップリング効率(伝播光からプラズモンへの変換効率)を測定した。この測定に用いられた光の波長は1μmである。この測定の結果を図11に示す。なお、差Δn=0.05の場合は伝播光導波路20を用いずに、光を空気中から接合部10に入射し、測定した。
【0038】
図11からわかるように、差Δnが0.53以上であれば、カップリング効率は0.05以上となり、従来の場合よりも、より高い変換効率を得ることができることがわかる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によれば、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、金ナノ粒子を用いたが、銀ナノ粒子またはAlナノ粒子を用いても良い。
【0041】
また、本実施形態において、第4実施形態に示したように、接合部10の、伝播光導波路20に近接している領域の金属ナノ粒子12を間引いた構成としてもよい。
【0042】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態による近接場光導波路接合装置を、図12を参照して説明する。
【0043】
以下のような有限差分時間領域(FDTD)シミュレーション計算を行った。まず、図12に示すように、銀ナノ粒子分散膜の端面に5個の導波路A、B、C、D、Eを接続させた構造を有する試料を設計した。銀ナノ粒子分散膜のマトリックス(SiO2)の屈折率は1.2とし、銀ナノ粒子の体積比率は20Vol%とした。波長1μmでの複素屈折率の体積加重平均(実部)は約1.0となる。一方、Maxwell-Garnettによる計算では有効屈折率の実部は約1.64である。接続した導波路A、B、C、D、Eの屈折率をそれぞれ1.0、1.2、1.4、1.6、1.8とし、その他の部分を白金とした。すなわち、導波路A、B、C、D、Eの屈折率は、1.0から0.2刻みで増加させた構成となっている。
【0044】
このように構成の試料に、波長1μmのパルスをそれぞれの導波路A、B、C、D、Eに同時に入射した。伝播光導波路では屈折率が大きい方が伝播速度は遅く、銀ナノ粒子分散膜との境界線へ達する時間が遅くなる。銀ナノ粒子分散膜はいずれも同じ特性なので、伝播速度は同一である。また、銀ナノ粒子分散膜は複素屈折率の虚部がゼロではないため、光の伝播と共に強度は吸収され、弱くなる。図12は光が導波後のある瞬間の光電磁場強度を示す図である。図12では光の強度が強いほど、濃度が濃く表されている。図12では導波路Aから入射した光の電磁場強度が早く銀ナノ粒子分散膜領域に達し、その分だけ長い距離を進行している。これに対して、導波路Bから導波路Eまでは銀ナノ粒子分散膜領域に達する時間が段々と遅くなっているため、銀ナノ粒子分散膜中を進行する距離は短くなっている。図12では導波路Aを通過した光パルスは進行距離が長いにも関わらず、導波路Eを通過した光パルスよりも強度が強い結果となった。すなわち、導波路A、導波路B、導波路C、導波路D、導波路Eの順序でカップリング効率が低下していることを示している。
【0045】
Maxwell-Garnettによる銀ナノ粒子分散膜に関する有効屈折率の計算が正しければ、導波路の屈折率の実部と銀ナノ粒子分散膜の屈折率の実部(1.63)との差Δnが最も小さくなってカップリング効率が高くなる導波路は導波路Dとなるはずである。しかし、図12に示す測定結果は、導波路Aのカップリング効率が高いことを示している。したがって、図12の測定結果は、本発明の各実施形態で説明した有効屈折率を用いて解析した方が良いことを示している。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0047】
以上述べたように、本発明の各実施形態によれば、伝播光と近接場光とのカップリング効率(変換効率)を可及的に高くすることが可能な近接場光導波路接合装置を提供することができる。
【0048】
なお、第1乃至第5および第7実施形態においては、金属ナノ粒子として銀ナノ粒子を用いたが、金ナノ粒子またはAlナノ粒子を用いても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1実施形態の近接場光導波路接合装置を示す平面図。
【図2】第1実施形態による近接場光導波路接合装置のシミュレーション結果を示す図。
【図3】図2に示すシミュレーション結果をプロットした図。
【図4】図2に示すシミュレーション結果をプロットした図。
【図5】第2実施形態の近接場光導波路接合装置を示す平面図。
【図6】第2実施形態の近接場光導波路接合装置の変換効率を示す図。
【図7】第2実施形態の変形例による近接場光導波路接合装置を示す平面図。
【図8】第3実施形態の近接場光導波路接合装置の変換効率を示す図。
【図9】第4実施形態の近接場光導波路接合装置を示す平面図。
【図10】第5実施形態に係る金属ナノ粒子膜の構成を示す図。
【図11】第5実施形態の近接場光導波路接合装置の変換効率を示す図。
【図12】第6実施形態の近接場光導波路接合装置を説明する図。
【符号の説明】
【0050】
10 接合部
12 円柱状金属ナノ粒子
13 コアシェル型金属ナノ粒子
20 伝播光導波路
30 プラズモン導波路(近接場導波路)
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場光導波路と伝播光導波路とを接合する近接場光導波路接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ロードマップITRSによるとLSIは2015年頃よりリーク電流や回路内の情報遅延などの問題により、進歩が衰えるといわれており、それに変わる情報制御システムの一つとして近接場システムが提唱されている。光システムは波長多重性、光速情報伝達性、高速論理演算性を有しているが、回折限界が存在するために集積化には向かないといわれている。しかし、近年、回折限界がない近接場光が提唱されてきたことで、この問題は解決される可能性がでてきた。
【0003】
サブミクロンの分解能を持つ光学顕微鏡−近接場光学顕微鏡では光ファイバーを加工したプローブで分解能を上げている。光ファイバーの出力端の開口径を小さくし、更に金属で開口部以外をコートしている。この場合、伝播光から近接場光への変換効率は例えば以下の表に示すようになる。
【表1】
【0004】
しかし、システム効率を考えた場合、開口径100nmで10−4では、実用上問題がある。近接場光システムの構築やSoC(System On Chip)内光配線では光源となるLD(Laser Diode)、LED(Light Emitting Diode)やあるいはシステム外部からファイバーや伝播光導波路との結合ではさらに高い結合効率が必要となる。
【0005】
また、一般に、近接場光は金属系−いわゆるプラズモンを用いる方が、相互作用が強いことが知られている。プラズモン導波には一次元金属細線、一次元サブミクロンドット(あるいは円柱)配列が知られている。一次元金属配線では金属表面で発生する表面プラズモンポラリトンが導波する。すなわち、表面でのみエネルギーが導波する。また一次元サブミクロン配列方式でも、表面で発生するプラズモンがエネルギーを導波するが、球間のスペースもエネルギー伝達空間となる。そして、特許文献1には、4nmの金ナノ粒子を分散した系においてもプラズモンが導波することが示されている。
【特許文献1】特開2007−148289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、伝播光と近接場光とのカップリング効率を可及的に高くすることのできる近接場光導波路接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様による近接場光導波路接合装置は、光が伝播する伝播光導波路と、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散膜の近接場光導波路とを接合し、前記近接場光導波路と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜である接合部を有し、前記伝播光導波路の屈折率の実部と、前記接合部の有効屈折率の実部との差が、0以上0.5以下であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2の態様による近接場光導波路接合装置は、光が伝播する伝播光導波路と、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散膜の近接場光導波路とを接合し、前記近接場光導波路と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜である接合部を有し、前記接合部の有効屈折率の実部が、1.0以上1.2以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、伝播光と近接場光とのカップリング効率を可及的に高くすることが可能な近接場光導波路接合装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明に至った経緯および本発明の概要を説明する。
【0011】
上述したように、一般に、近接場光は金属系−いわゆるプラズモンを用いる方が、相互作用が強いことが知られている。プラズモン導波には一次元金属細線、一次元サブミクロンドット(あるいは円柱)配列が知られている。一次元金属配線では金属表面で発生する表面プラズモンポラリトンが導波する。すなわち、表面でのみエネルギーが導波する。また一次元サブミクロン配列方式でも、表面で発生するプラズモンがエネルギーを導波するが、球間のスペースもエネルギー伝達空間となる。
【0012】
伝播光は回折限界があるが、一旦プラズモンに変化したエネルギーは回折限界を起こさない。そこで、本発明者達は、エネルギーをプラズモンへ移行した後に、導波路幅を小さくすることが有効であると考えた。そして、実現する際に特許文献1に記載のような分散系を用いることが重要であると考えた。すなわち、回折限界以上の幅の導波路において、伝播光からプラズモンに変換し、その後、プラズモン導波路のサイズを小さくし、プラズモン導波路、すなわち近接場導波路は特許文献1に記載のようなシステムを用いることが重要である。
【0013】
この際、伝播光導波路とプラズモン導波路との境界端面で反射が起こることが考えられる。このため、この反射率を小さくすることが重要である。金属の屈折率は可視、近赤外では一般に実部は1より小さく、虚部(消衰係数)が大きい。このような場合、エネルギーは物質内に入り込まず、反射される。金属では表面のみにエネルギーが移行するが、この時、エネルギー保存と波数保存(運動量保存)が成り立つことが条件である。しかし、一般的にはこの二つの保存則は伝播光とプラズモンの分散関係が異なることから成り立ちにくく、また、エネルギー伝播の断面積が大きく異なることから変換効率が著しく低い。
【0014】
この問題の対応策の一つとして、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散系を用いれば良いことが分かった。これは、この金属ナノ粒子分散系は導波断面積を伝播光導波路のそれと同じようにすることが可能となるため、変換効率を上げることができる。また、もう一つの対応策として、金属ナノ粒子分散系において有効屈折率を定義し、この有効屈折率がある条件を満たせば良いことが分かった。この有効屈折率neは、以下のように、定義される。物質Aの体積をVa、複素屈折率をna、物質Bの体積をVb、複素屈折率をnbとすると、
【数1】
と定義することができる。この有効屈折率neは、金属ナノ粒子分散系においては、金属の複素屈折率とマトリックスである誘電体の複素屈折率とを体積を重みにして加重平均をとることである。本発明者達は、伝播光導波路とプラズモン導波路が接する端面においてこの実部が一致する、あるいは実部、虚部双方とも一致することが反射を小さくできることを見出した。これは、誘電体導波路や異種誘電体界面の反射を考慮する時には一般的であるが、一方が金属である場合は有効ではない。例えば、金属の表面には反射防止膜を付けることができないからであり、これは、金属ナノ粒子分散系がプラズモンを導波する材料系にも関わらず、システム全体としては、一般の誘電体と同じような実部が1より大きく、虚部もそれほど大きくない複素屈折率を実現できることに依存している。
【0015】
また、本発明者達は、以下に述べる実施形態において説明するように、金属ナノ粒子分散系の複素屈折率の実部が1以上でかつ1に近いほど伝播光導波路からプラズモン導波路へのエネルギー変換効率が大きくなることを実験上見出した。
【0016】
さらに、近年盛んになっているサブ波長構造による反射防止にも本発明の一実施形態による近接場光導波路接合装置が有効であることを確認した。
【0017】
本発明の実施形態を以下に図面を参照して説明する。
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による近接場光導波路接合装置を図1に示す。図1は、本実施形態による近接場光導波路接合装置の平面図である。本実施形態の近接場光導波路接合装置は、伝播光導波路20と、サイズ(直径)がナノメートルのオーダーの金属ナノ粒子(例えば、直径が10nmの銀粒子)が誘電体(例えばSiO2)中に分散された金属ナノ粒子分散膜からなる近接場光導波路(プラズモン導波路)30とを接続する接合部10を有している。この接合部10は、プラズモン導波路30と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜からなっており、伝播光導波路20との接続部分では伝播光導波路20と同じサイズ(直径(例えば、1μm)または断面積)を有しかつプラズモン導波路30との接続部分ではプラズモン導波路30と同じサイズ(直径(例えば100nm)または断面積)を有し、伝播光導波路20との接続部分からプラズモン導波路30との接続部分まで、サイズが滑らかに減少するように構成されている。
【0019】
このように構成された本実施形態の接合装置において、金属ナノ粒子(銀ナノ粒子)を分散させている誘電体(マトリックス)の屈折率値を変えることによる接合部10の有効屈折率を変化させるとともに伝播光導波路20の屈折率の実部を変化させてカップリング効率(変換効率)の違いをシミュレーションで調べた。その結果を図2に示す。図2には、伝播光導波路20の屈折率の実部を1、1.2、1.5、1.053、1.183、1.283、1.383、1.5、1.183、1.283、1.118と変えたとき、接合部10の有効屈折率の実部を1、1、1、1.053、1.053、1.053、1.053、1.053、1.183、1.183、1.118とそれぞれ変化させ、そのときの差Δnと、シミュレーションにより求めたカップリング効率が示されている。これらのΔnを横軸に取り、カップリング効率を縦軸に取ったグラフを図3に示す。なお、図3に示すグラフは、接合部10の屈折率の実部の値が1、1.053、1.118、1.183をパラメータにとってプロットされている。また、図4には、接合部10の有効屈折率の実部を横軸に取り、縦軸にカップリング効率を取ったときのデータをプロットしたグラフを示す。なお、この場合、伝播光導波路20の屈折率の実部は、接合部10の有効屈折率の実部と同じ値となっている。
【0020】
図2乃至図4からわかるように、接合部10の有効屈折率の実部が変化しても、伝播光導波路20の屈折率の実部と接合部10の有効屈折率の実部との差Δnが小さいほど変換効率(すなわち伝播光からプラズモンへの変換効率)が高い。また、差Δnが0.5以下であれば、変換効率は0.057以上となり、従来のようにファイバープローブを用いる場合よりも2桁大きい。
【0021】
また、接合部10の有効屈折率の実部と伝播光導波路20の屈折率の実部との差がない場合には図4からわかるように、接合部10の有効屈折率が1に近い方が変換効率は高い。このシミュレーションから、接合部10の有効屈折率の実部が、1.0以上1.2以下であれば、従来の場合よりも、より高い変換効率を得ることができることがわかる。
【0022】
以上説明したように、本実施形態によれば、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0023】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による近接場光導波路接合装置を図5に示す。図5は、本実施形態による近接場光導波路接合装置の平面図である。本実施形態の近接場光導波路接合装置は、第1実施形態の近接場光導波路接合装置において、接合部10の金属ナノ粒子として直径が30nmの円柱状の銀ナノ粒子12を用いている。この接合部10の作製方法は、FIB(focused ion beam)を用いて、それぞれが直径30nmの銀ナノ粒子を円柱状に加工し、これらの銀ナノ粒子12の外側に、囲うようにTEOS(Tetra Ethyl Ortho Silicate)の加水分解で作製した有機SiO2膜(図示せず)の塗布を行った。この有機SiO2膜の膜厚は約500nmであった。また、伝播光導波路20の幅は1μm、プラズモン導波路30の幅は100nmとした。なお、プラズモン導波路30は、第1実施形態と同様に、接合部10と同じ材料から構成した。図5においては、円柱状の銀ナノ粒子12は、円柱の軸方向が紙面に垂直となるように配置されている。
【0024】
このようにして構成された接合部10を、近接場顕微鏡と微分干渉計を組み合わせた微分干渉近接場光学顕微鏡(以下、SNOM(Scanning Near-field Optical Microscope)とも云う)で観察し、接合部10の有効屈折率を測定した。TEOS塗布時に含有させるドーパントを変化させ、その内のいくつかを微分干渉SNOMで測定し、接合部10の有効屈折率が約1.05のものを選び、伝播光導波路20の屈折率の実部を変化させたものを接合させた。本実施形態においては、伝播光導波路20の屈折率の実部と、接合部10の有効屈折率の実部との差Δnを0.05、0.45、0.53とし、このときのカップリング効率(伝播光からプラズモンへの変換効率)を測定した。この測定に用いられた光の波長は1μmである。この測定の結果を図6に示す。なお、差Δn=0.05の場合は伝播光導波路20を用いずに、光を空気中から接合部に入射し、測定した。
【0025】
図6からわかるように、差Δnが0.53以上であれば、カップリング効率は6.0×10−2以上となり、従来の場合よりも、より高い変換効率を得ることができることがわかる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態によれば、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0027】
(変形例)
次に、本実施形態の変形例による近接場光導波路接合装置を図7に示す。本変形例の近接場光導波路接合装置は、伝播光導波路20は、先端に行くにつれて断面積が小さくなる形状、例えば平面形状において先端が尖った三角形の三角形部分20aを有しており、この三角形部分20aの尖った先端が接合部10に挿入されるように構成されている。すなわち、伝播光導波路20と接合部10との接合面は、三角形部分20aの先端の表面となり、三角形部分20aの尖りを鋭くすることによって、接合面の面積を広くすることができる。この接合部10は、第2実施形態で説明した、接合部10の製造方法と同様にして形成され、直径が30nmの円柱状の銀ナノ粒子が有機SiO2膜中に分散された構成を有している。
【0028】
本変形例においても、第1実施形態と同様に、伝播光導波路20の屈折率の実部と、この伝播光導波路20に接する接合部10の有効屈折率の実部との差Δnが小さければ、可及的に高い変換効率を得ることができる。また、接合部10の有効屈折率の実部が1に近ければ近いほど高い変換効率を得ることができる。
【0029】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による近接場光導波路接合装置を説明する。本実施形態の近接場光導波路接合装置は、第2実施形態の近接場光導波路接合装置と、銀ナノ粒子分散膜からなる接合部10およびプラズモン導波路30の製造方法が異なっている。本実施形態に係る接合部10およびプラズモン導波路30は、Snシードによる銀還元法で、銀ナノ粒子が有機SiO2中に分散している銀ナノ粒子分散膜を作製した。作製した銀ナノ粒子分散膜をTEM(Transmission Electron Microscope)を用いて測定した結果、銀ナノ粒子の直径は平均10nmであった。微分干渉近接場光学顕微鏡で測定した結果、密度のばらつきがあり有効屈折率にも差があった。このため、有効屈折率の実部が1.183となるものを選択して、図5に示す第2実施形態のような構造を有する接合部10およびプラズモン導波路30をイオンミリングで作製した。この接合部10をファイバー型伝播光導波路20と接合させ、変換効率を測定した。この測定においては、伝播光導波路20の屈折率の実部と、接合部10の有効屈折率の実部との差Δnを0.05、0.45、0.53とし、このときのカップリング効率(伝播光からプラズモンへの変換効率)を測定した。この測定に用いられた光の波長は1μmである。この測定の結果を図8に示す。なお、差Δn=0.05の場合は伝播光導波路20を用いずに、光を空気中から接合部10に入射し、測定した。
【0030】
図8からわかるように、差Δnが0.53以上であれば、カップリング効率は6.4×10−2以上となり、従来の場合よりも、より高い変換効率を得ることができることがわかる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0032】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態による近接場光導波路接合装置を、図9を参照して説明する。図9は、本実施形態の近接場光導波路接合装置の部分的な平面図である。本実施形態の近接場光導波路接合装置は、図5に示す第2実施形態の近接場光導波路接合装置において、接合部10の、伝播光導波路20に近接している領域の金属ナノ粒子12を間引いた構成となっている(図9参照)。間引き方は、伝播光導波路20に近いほど多めに間引き、サブ波長構造を構成した。なお、本実施形態においても、伝播光導波路20の屈折率の実部と、接合部10の、伝播光導波路20に近接している領域の屈折率の実部との差Δnは、第1実施形態で説明したように、1.183以下となるようにした。
【0033】
サブ波長構造は、反射防止に有効であることは良く知られている(例えば、H. Toyota, K. Takahara. M. Okamoto, T. Yotsuya, and H. Kikuta, Jpn J. Appl. Phys. 40 L747 (2001)参照)。本実施形態においては、サブ波長構造を有しているので、伝播光導波路20と接合部10との接合面における伝播光の反射が抑制され、変換効率が第2実施形態に比べて、約3%増加した。
【0034】
本実施形態も第2実施形態と同様に、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0035】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態による近接場光導波路接合装置を図10(a)乃至図11を参照して説明する。図10(a)は、本実施形態の近接場光導波路接合装置に係る金属ナノ粒子分散膜に用いられる金属ナノ粒子13を示す模式図、図10(b)は、図10(a)に示す金属ナノ粒子13が配列された金属ナノ粒子分散膜を示す模式図である。
【0036】
本実施形態の近接場光導波路接合装置は、第2実施形態の近接場光導波路接合装置と、金属ナノ粒子分散膜からなる接合部10およびプラズモン導波路30の製造方法が異なっている。本実施形態に係る接合部10およびプラズモン導波路30は、図10(a)に示すように、ドデカンチオールをリガンド(有機シェル)としたコアシェル型金ナノ粒子13をディップ方式で成膜した構成となっている。
【0037】
作製した金ナノ粒子分散膜をTEM(Transmission Electron Microscope)を用いて測定した結果、金ナノ粒子の直径は約3nmであった。微分干渉近接場光学顕微鏡で測定した結果、密度のばらつきがあり有効屈折率にも差があった。このため、有効屈折率の実部が1.183となるものを選択して、図5に示す第2実施形態のような構造を有する接合部10およびプラズモン導波路30をイオンミリングで作製した。この接合部10をファイバー型伝播光導波路20と接合させ、変換効率を測定した。この測定においては、伝播光導波路20の屈折率の実部と、接合部10の有効屈折率の実部との差Δnを0.05、0.45、0.53とし、このときのカップリング効率(伝播光からプラズモンへの変換効率)を測定した。この測定に用いられた光の波長は1μmである。この測定の結果を図11に示す。なお、差Δn=0.05の場合は伝播光導波路20を用いずに、光を空気中から接合部10に入射し、測定した。
【0038】
図11からわかるように、差Δnが0.53以上であれば、カップリング効率は0.05以上となり、従来の場合よりも、より高い変換効率を得ることができることがわかる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によれば、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、金ナノ粒子を用いたが、銀ナノ粒子またはAlナノ粒子を用いても良い。
【0041】
また、本実施形態において、第4実施形態に示したように、接合部10の、伝播光導波路20に近接している領域の金属ナノ粒子12を間引いた構成としてもよい。
【0042】
(第6実施形態)
次に、本発明の第6実施形態による近接場光導波路接合装置を、図12を参照して説明する。
【0043】
以下のような有限差分時間領域(FDTD)シミュレーション計算を行った。まず、図12に示すように、銀ナノ粒子分散膜の端面に5個の導波路A、B、C、D、Eを接続させた構造を有する試料を設計した。銀ナノ粒子分散膜のマトリックス(SiO2)の屈折率は1.2とし、銀ナノ粒子の体積比率は20Vol%とした。波長1μmでの複素屈折率の体積加重平均(実部)は約1.0となる。一方、Maxwell-Garnettによる計算では有効屈折率の実部は約1.64である。接続した導波路A、B、C、D、Eの屈折率をそれぞれ1.0、1.2、1.4、1.6、1.8とし、その他の部分を白金とした。すなわち、導波路A、B、C、D、Eの屈折率は、1.0から0.2刻みで増加させた構成となっている。
【0044】
このように構成の試料に、波長1μmのパルスをそれぞれの導波路A、B、C、D、Eに同時に入射した。伝播光導波路では屈折率が大きい方が伝播速度は遅く、銀ナノ粒子分散膜との境界線へ達する時間が遅くなる。銀ナノ粒子分散膜はいずれも同じ特性なので、伝播速度は同一である。また、銀ナノ粒子分散膜は複素屈折率の虚部がゼロではないため、光の伝播と共に強度は吸収され、弱くなる。図12は光が導波後のある瞬間の光電磁場強度を示す図である。図12では光の強度が強いほど、濃度が濃く表されている。図12では導波路Aから入射した光の電磁場強度が早く銀ナノ粒子分散膜領域に達し、その分だけ長い距離を進行している。これに対して、導波路Bから導波路Eまでは銀ナノ粒子分散膜領域に達する時間が段々と遅くなっているため、銀ナノ粒子分散膜中を進行する距離は短くなっている。図12では導波路Aを通過した光パルスは進行距離が長いにも関わらず、導波路Eを通過した光パルスよりも強度が強い結果となった。すなわち、導波路A、導波路B、導波路C、導波路D、導波路Eの順序でカップリング効率が低下していることを示している。
【0045】
Maxwell-Garnettによる銀ナノ粒子分散膜に関する有効屈折率の計算が正しければ、導波路の屈折率の実部と銀ナノ粒子分散膜の屈折率の実部(1.63)との差Δnが最も小さくなってカップリング効率が高くなる導波路は導波路Dとなるはずである。しかし、図12に示す測定結果は、導波路Aのカップリング効率が高いことを示している。したがって、図12の測定結果は、本発明の各実施形態で説明した有効屈折率を用いて解析した方が良いことを示している。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、伝播光からプラズモン(近接場光)への変換効率(カップリング効率)を可及的に高くすることができる。
【0047】
以上述べたように、本発明の各実施形態によれば、伝播光と近接場光とのカップリング効率(変換効率)を可及的に高くすることが可能な近接場光導波路接合装置を提供することができる。
【0048】
なお、第1乃至第5および第7実施形態においては、金属ナノ粒子として銀ナノ粒子を用いたが、金ナノ粒子またはAlナノ粒子を用いても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】第1実施形態の近接場光導波路接合装置を示す平面図。
【図2】第1実施形態による近接場光導波路接合装置のシミュレーション結果を示す図。
【図3】図2に示すシミュレーション結果をプロットした図。
【図4】図2に示すシミュレーション結果をプロットした図。
【図5】第2実施形態の近接場光導波路接合装置を示す平面図。
【図6】第2実施形態の近接場光導波路接合装置の変換効率を示す図。
【図7】第2実施形態の変形例による近接場光導波路接合装置を示す平面図。
【図8】第3実施形態の近接場光導波路接合装置の変換効率を示す図。
【図9】第4実施形態の近接場光導波路接合装置を示す平面図。
【図10】第5実施形態に係る金属ナノ粒子膜の構成を示す図。
【図11】第5実施形態の近接場光導波路接合装置の変換効率を示す図。
【図12】第6実施形態の近接場光導波路接合装置を説明する図。
【符号の説明】
【0050】
10 接合部
12 円柱状金属ナノ粒子
13 コアシェル型金属ナノ粒子
20 伝播光導波路
30 プラズモン導波路(近接場導波路)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が伝播する伝播光導波路と、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散膜の近接場光導波路とを接合し、前記近接場光導波路と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜である接合部を有し、
前記伝播光導波路の屈折率の実部と、前記接合部の有効屈折率の実部との差が、0以上0.5以下であることを特徴とする近接場光導波路接合装置。
【請求項2】
光が伝播する伝播光導波路と、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散膜の近接場光導波路とを接合し、前記近接場光導波路と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜である接合部を有し、
前記接合部の有効屈折率の実部が、1.0以上1.2以下であることを特徴とする近接場光導波路接合装置。
【請求項3】
前記接合部は、前記伝播光導波路との接合面においては前記伝播光導波路と同じ断面を有し、前記近接場光導波路との接合面においては前記近接場光導波路と同じ断面を有し、前記伝播光導波路から前記近接場光導波路に向かうにつれて、断面積が滑らかに減少するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の近接場光導波路接合装置。
【請求項4】
前記接合部および前記近接場光導波路においては、前記金属ナノ粒子は円柱の形状を有し、前記誘電体はSiO2であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の近接場光導波路接合装置。
【請求項5】
前記接合部および前記近接場光導波路においては、前記金属ナノ粒子はコアシェル型金属ナノ粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の近接場光導波路接合装置。
【請求項6】
前記接合部は、前記伝播光導波路との接合面に近接した領域では、前記金属ナノ粒子の数が、他の領域に比べて少ないことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の近接場光導波路接合装置。
【請求項7】
前記伝播光導波路の先端部は先端に行くにつれて断面積が小さくなる形状を有しており、この先端部が前記接合部に挿入された構成となっていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の近接場光導波路接合装置。
【請求項1】
光が伝播する伝播光導波路と、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散膜の近接場光導波路とを接合し、前記近接場光導波路と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜である接合部を有し、
前記伝播光導波路の屈折率の実部と、前記接合部の有効屈折率の実部との差が、0以上0.5以下であることを特徴とする近接場光導波路接合装置。
【請求項2】
光が伝播する伝播光導波路と、誘電体中に金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子分散膜の近接場光導波路とを接合し、前記近接場光導波路と同じ材料の金属ナノ粒子分散膜である接合部を有し、
前記接合部の有効屈折率の実部が、1.0以上1.2以下であることを特徴とする近接場光導波路接合装置。
【請求項3】
前記接合部は、前記伝播光導波路との接合面においては前記伝播光導波路と同じ断面を有し、前記近接場光導波路との接合面においては前記近接場光導波路と同じ断面を有し、前記伝播光導波路から前記近接場光導波路に向かうにつれて、断面積が滑らかに減少するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の近接場光導波路接合装置。
【請求項4】
前記接合部および前記近接場光導波路においては、前記金属ナノ粒子は円柱の形状を有し、前記誘電体はSiO2であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の近接場光導波路接合装置。
【請求項5】
前記接合部および前記近接場光導波路においては、前記金属ナノ粒子はコアシェル型金属ナノ粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の近接場光導波路接合装置。
【請求項6】
前記接合部は、前記伝播光導波路との接合面に近接した領域では、前記金属ナノ粒子の数が、他の領域に比べて少ないことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の近接場光導波路接合装置。
【請求項7】
前記伝播光導波路の先端部は先端に行くにつれて断面積が小さくなる形状を有しており、この先端部が前記接合部に挿入された構成となっていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の近接場光導波路接合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−26331(P2010−26331A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189085(P2008−189085)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低損失オプティカル新機能部材技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低損失オプティカル新機能部材技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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