説明

近接検知装置

【課題】指の近接又は接近時に誤ったキャリブレーションが行われることを防いで、安定した指の近接又は接触検知を行う。
【解決手段】静電容量検出部3が、検知電極2a〜2eと指8の間の静電容量値を検出し、近接・接触検出部4が、静電容量値とベースライン値の差分値を近接基準容量値及び接触基準容量値と比較して、指8の近接及び接触状態を検出する。ベースライン更新部5は、近接・接触検出部4によって指8が近接又は接触状態にないと判別された場合に、差分値分布に基づいて指8の接近がないことを判定して、静電容量値を新たなベースライン値として更新する。近接・接触検出部4で指8が近接状態にあると判別した場合、又はベースライン更新部5で差分値分布に基づいて指8が接近状態にあると判定した場合には、ベースライン更新部5はベースライン値を更新しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タッチパネルに配置されている複数の検知電極の静電容量を検出して、ユーザがタッチパネルに接触している位置又は近接している位置を特定する近接検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユーザの意思を直接的に入力する手段として、ユーザがパネルや情報表示面に配置されている操作キーに触れると、その接触位置を検出するタッチセンサが有効なことが良く知られている。従来、実用に供されている代表的なタッチセンサとして、下記(a)〜(c)に示すものがある。
【0003】
(a)2枚の導電シートが直接接触しないように重ね合わされている電気抵抗変化検出型タッチセンサ。ユーザが導電シートの任意の位置を押下すると、押下された位置で2枚の導電シートが導通するので、タッチセンサはその導通箇所の座標を検出する。
(b)情報表示面に近い空間に光線ビームが張られているビーム遮断型タッチセンサ。ユーザが情報表示面に触れようとして指を近づけると、ユーザが触れようとしている位置に張られたビームが遮断されるので、タッチセンサはその遮断箇所の座標を検出する。
(c)透明、不透明又は半透明の電極の静電容量を検出する静電センサ。ユーザの指又は誘電体が電極に接触又は近接すると静電容量が変化するので、タッチセンサは容量変化した電極の座標を検出する。
【0004】
上記(a)の電気抵抗変化検出型タッチセンサは、ユーザが導電シートに接触しない限り、座標を検出することができず、導電シートに対するユーザの近接及びその近接座標を検出することができないという欠点がある。
上記(b)のビーム遮断型タッチセンサは、ユーザが情報表示面に触れなくても、情報表示面に対するユーザの近接及びその近接座標を検出することができる。しかし、ユーザが指示する位置の座標を確定する時点がフィードバックされないため、入力時点の不確定性による不安が大きくなることがあるという欠点がある。
【0005】
上記(a)及び(b)に対し、上記(c)の静電センサは、電極に対するユーザの接触及び近接の両方を検出することが可能であり、電気抵抗変化検出型タッチセンサ及びビーム遮断型タッチセンサの欠点を解消することができる。
しかしながら、静電センサは温度変化、環境変動(周辺機器の影響等)等により、電極から出力される静電容量値が変動するため、絶対的な静電容量値を用いて指の近接及び接触を検出することは困難であった。
そこで、例えば特許文献1に、ユーザの指及び誘電体が電極に触れていない状態での静電容量値を基準容量(ベースライン値)とし、指等による入力を検出する際には電極から出力された静電容量値とベースライン値の差分値を用いて、指の近接及び接触状態を検知する方法(感度キャリブレーション)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−208682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の近接検知装置は以上のように構成されているので、指が近接した状態で感度キャリブレーションを行った場合には、指が近接した状態での静電容量値がベースライン値となってしまい、実際より大きい値でキャリブレーションされてしまう。この結果、入力検出時の静電容量値とベースライン値の差分が小さくなり、場合によっては指の接触を検出できないといった課題があった。
【0008】
接触のみを検出する装置であれば、指が電極に直接接触した場合と空気層を介して近接した場合とでは非誘電率の差異による大きな静電容量変化が生じるため、ベースライン値が多少高くなっても指の接触検出が可能になることもある。しかし、指の接触のみでなく、指の近接も検出する装置では、指が空気層を介して電極に接近した場合と、接近状態から更に電極に近づいて近接した場合とを判別する必要があり、指が接近した状態で感度キャリブレーションが行われた場合にはその影響がベースライン値に大きく反映されてしまい、結果的に指の近接検知ができないといった課題があった。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、指の近接及び接触を検出可能な手段を設けて、電極に指が近接していない状態でキャリブレーションを行うことにより、指の近接時に誤ったキャリブレーションが行われることを防いで、安定した指の接触検知を行うことを目的とする。
【0010】
また、指が近接していない状態の電極間の静電容量分布に基づいて、電極に指が接近していない状態においてのみキャリブレーションを行うことにより、指の接近時に誤ったキャリブレーションが行われることを防いで、安定した指の近接及び接触検知を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る近接検知装置は、検知対象物との距離に応じて静電容量が変化する複数の検知電極と、検知電極と検知対象物間の静電容量値を検出する静電容量検出部と、静電容量検出部が検出した静電容量値とベースライン値とを用いて、検知対象物の検知電極への近接又は接触状態を判別する近接・接触検出部と、近接・接触検出部が用いるベースライン値を格納しておくベースライン格納部と、静電容量検出部が検出した静電容量値に基づいて、ベースライン格納部に格納されているベースライン値を更新するベースライン更新部とを備え、ベースライン更新部は、近接・接触検出部で検知対象物が近接又は接触状態にないと判別された場合にベースライン値の更新可否を判定し、更新可のときにベースライン格納部のベースライン値を更新するようにしたものである。
【0012】
また、この発明に係る近接検知装置は、ベースライン更新部が、ベースライン値の更新可否を、複数の検知電極の静電容量値分布の情報又はその分布の時間推移情報を用いて判定するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、検知対象物が検知電極へ近接又は接触状態にない場合にベースライン値の更新を行うか否か判定するようにしたので、検知対象物の近接時の誤ったキャリブレーションを防ぐことができ、指等の検知対象物の安定した接触検知が可能となる。
【0014】
また、この発明によれば、検知電極の静電容量値分布に基づいてベースライン値の更新を行うか否か判断するようにしたので、検知対象物が接近していない状態においてのみベースライン値の更新を行うことにより検知対象物の接近時の誤ったキャリブレーションを防ぐことができ、指等の検知対象物の安定した近接及び接触検知が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係る近接検知装置の構成を示すブロック図であり、指8がタッチパネル1に近接している状態を示す。
【図2】物質の比誘電率を示す図である。
【図3】図1に示す近接状態において、静電容量検出部3が検出した検知電極2a〜2eの静電容量値、及びベースライン格納部6に格納されているベースライン値を示すグラフである。
【図4】図1に示す近接状態において、近接・接触検出部4による近接及び接触状態の検出処理を説明するグラフであり、図3に示すベースライン値と静電容量値との差分値を示す。
【図5】実施の形態1に係る近接検知装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】実施の形態1に係る近接検知装置の構成を示すブロック図であり、指がタッチパネル1に接近していない状態を示す。
【図7】図6に示す指が接近していない状態において、静電容量検出部3が検出した検知電極2a〜2eの静電容量値、及びベースライン格納部6に格納されているベースライン値を示すグラフである。
【図8】図6に示す指が接近していない状態において、近接・接触検出部4による近接及び接触状態の検出処理を説明するグラフであり、図7に示すベースライン値と静電容量値との差分値を示す。
【図9】図6に示す指が接近していない状態において、ベースライン格納部6が格納する新たなベースライン値を示す図である。
【図10】実施の形態1に係る近接検知装置の構成を示すブロック図であり、指8がタッチパネル1に接近している状態を示す。
【図11】図10に示す接近状態において、静電容量検出部3が検出した検知電極2a〜2eの静電容量値、及びベースライン格納部6に格納されているベースライン値を示すグラフである。
【図12】図10に示す接近状態において、近接・接触検出部4による近接及び接触状態の検出処理を説明するグラフであり、図11に示すベースライン値と静電容量値との差分値を示す。
【図13】実施の形態1に係る近接検知装置の他の構成例を示すブロック図である。
【図14】実施の形態1に係る近接検知装置の他の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る近接検知装置の構成を示すブロック図である。近接検知装置は、検知電極2a〜2eの静電容量を出力するタッチパネル1と、検知電極2a〜2eと検知対象物の間の静電容量値を検出する静電容量検出部3と、ベースライン値を用いて検知対象物の近接及び接触を検出する近接・接触検出部4と、近接・接触検出部4で用いるベースライン値を更新する、即ち感度キャリブレーションを行うベースライン更新部5と、更新したベースライン値を格納し、近接・接触検出部4へ出力するベースライン格納部6と、これら各部の動作を制御する制御部7とを備える。
【0017】
タッチパネル1には検知電極2a〜2eが配置されており、これらの検知電極2a〜2eは検知対象物であるユーザの指8(又は誘電体)の接近、近接、接触によって静電容量が変化する。なお、図1では指8がタッチパネル1に近接している状態を示す。また、指8とタッチパネル1との距離が近い順に、接触、近接、接近と称し、それぞれの状態を接触状態、近接状態(図1に示す)、接近状態と称す。
【0018】
静電容量検出部3は、制御部7から検出指示信号を受けると、検知電極2a〜2eの各静電容量を順次検出し、検出した静電容量値を近接・接触検出部4とベースライン更新部5に出力する。
【0019】
一般的に、指(バーチャルグランド電極)と検知電極の間に生じる静電容量値は、(真空の誘電率)×(指と検知電極間の物質の誘電率)×(検知電極と指の重なり面積)/(指と検知電極の間の距離)で決まる。ここで、指と検知電極間の物質の誘電率は、(真空の誘電率)×(物質の比誘電率)であり、このうち真空の誘電率は固定であるから、物質の比誘電率が大きいほど指と検知電極間に生じる静電容量値は大きくなる。ここで、図1に示すように透明タイプの静電タッチパネル又は静電センサの場合、検知電極にITO(酸化インジウムスズ)等の透明電極を用いるが、通常はこの電極上面に保護用のガラス、アクリル等を重ねて被覆し、ガラス又はアクリル面への指の接触を検知する。図2に、ガラス、アクリル等、指と検知電極間の物質の比誘電率の一覧を示す。図2に示すように、ガラス及びアクリルの比誘電率に比べて空気の比誘電率は小さいので、ガラス又はアクリル面と指の間に空気層がある状態(近接状態及び接近状態)と、ガラス又はアクリル面に指が接触した状態(接触状態)とでは接触状態の方が検出される静電容量値は大きくなる。近接検知装置はこの変化を利用して検知電極に対する指の接触検知を行う。また、前述したように、指と検知電極との距離が小さいほど静電容量値は大きくなるので、その微小な変化を高精度で検出できれば、近接状態及び接近状態における指と検知電極間の大まかな距離(近接度合い及び接近度合い)が推定できることになる。通常、静電容量値の単位にはF(ファラド)が用いられるが、指と検知電極間の静電容量値の検出方法には、充放電時間の変異を計測する方法、正弦波及び矩形波等の電圧変化を計測する方法等、様々な方法があるので、本実施の形態で説明する際の静電容量値の単位は、正規化された尺度として表す。
【0020】
図3は、図1に示す近接状態において、静電容量検出部3が検出した検知電極2a〜2eの静電容量値(黒棒)、及びベースライン格納部6に格納されているベースライン値(斜線棒)を示すグラフである。指8が検知電極2cに近接した状態のため、静電容量値は、検知電極2cをピークとして、指8と検知電極2a〜2e間の距離に応じた静電容量分布となっている。
【0021】
近接・接触検出部4は、制御部7から検出指示信号を受けると、静電容量検出部3から出力された静電容量値とベースライン格納部6から出力されたベースライン値とを基に、検知電極2a〜2eへの指8の近接状態及び接触状態を検出して、近接情報及び接触情報を出力する。
図4は、近接・接触検出部4による近接及び接触状態の検出処理を説明するグラフであり、図3に示す静電容量値とベースライン値との差分値を示す。近接・接触検出部4には、近接状態を判断するための近接基準容量値20と、接触状態を判断するための接触基準容量値21とが予め設定されている。図1に示すように検知電極2cに指8が近接した状態であるため、検知電極2cの静電容量値とベースライン値との差分値のみが近接基準容量値20を超えている。この場合、近接・接触検出部4は、指8が検知電極2cに近接状態であることを示す近接情報を出力する。
【0022】
ベースライン更新部5は、制御部7から指示信号を受けると、静電容量検出部3から入力された静電容量値を用いて検知電極2a〜2eそれぞれのベースライン値を求め、ベースライン格納部6に出力する。ベースライン格納部6は、制御部7から格納指示信号を受けるとベースライン更新部5から出力されたベースライン値を格納し、制御部7から出力指示信号を受けると近接・接触検出部4又はベースライン更新部5に格納しているベースライン値を出力する。
【0023】
次に、近接検知装置の動作を説明する。図5は、実施の形態1に係る近接検知装置の動作を示すフローチャートである。
先ず、図1に示す近接状態における近接検知装置の動作を説明する。ステップST1において、制御部7が静電容量検出部3に指示し、静電容量検出部3が検知電極2a〜2eの静電容量値を順次検出する。静電容量検出部3は、検出した静電容量値を近接・接触検出部4及びベースライン更新部5に出力する。ここで、静電容量検出部3によって検出された静電容量値が、図3に示す黒棒である。指8が検知電極2cに近接しているので、検知電極2cの静電容量値が大きい値となっている。
【0024】
続くステップST2において、制御部7が近接・接触検出部4に指示し、近接・接触検出部4が静電容量値を基に、近接状態及び接触状態を検出する。具体的には、近接・接触検出部4が、各検知電極2a〜2eが出力した静電容量値からベースライン格納部6に格納されている検知電極2a〜2e毎のベースライン値を減じた差分値を求め、その差分値と近接基準容量値を比較することにより近接状態を検出すると共に、その差分値と接触基準容量値を比較することにより接触状態を検出する。
図1の例では、ベースライン格納部6が図3に斜線棒で示すベースライン値を格納しており、静電容量検出部3が同じく図3に黒棒で示す静電容量値を検出している。このため、近接・接触検出部4が求める差分値は図4に示す黒棒となり、近接基準容量値20を超えた検知電極2cについて近接状態と判断される。
【0025】
続くステップST3において、制御部7は、近接・接触検出部4の判断結果に基づいて指8が近接している状態か否かを判別し、近接状態であれば処理をステップST4へ進め、そうでなければステップST7へ進める。ここでは、検知電極2cが近接状態であることを示す判断結果に基づいて、処理がステップST4へ進む。
【0026】
続くステップST4において、制御部7は、近接・接触検出部4の判断結果に基づいて指8が接触している状態か否かを判別し、接触状態であれば処理をステップST5へ進め、そうでなければステップST6へ進める。ここでは、いずれの検知電極2a〜2eも接触状態ではないことを示す判断結果に基づいて、処理がステップST6へ進む。
【0027】
続くステップST6において、制御部7が近接・接触検出部4に指示し、近接・接触検出部4から近接情報を出力する。近接情報は、指8が近接状態になっている検知電極の識別番号、及びその近接度合いを表す尺度を含む。この近接度合いの尺度とは、例えば図4に示す検知電極2cの差分値と近接基準容量値20との差である。
【0028】
制御部7は処理を再びステップST1に戻し、次のタイミングにおける検知電極2a〜2eの静電容量値の検出を開始する。
【0029】
次に、図6に示す、いずれの検知電極2a〜2eにも指8が近づいていない状態における近接検知装置の動作を説明する。図6は、実施の形態1に係る近接検知装置の構成を示すブロック図であり、指8(不図示)がタッチパネル1に接近していない状態を示す。
ステップST1において、制御部7が静電容量検出部3に指示し、静電容量検出部3が検知電極2a〜2eの静電容量値を順次検出する。図7は、図6に示す指8が接近していない状態において、静電容量検出部3が検出した検知電極2a〜2eの静電容量値、及びベースライン格納部6に格納されているベースライン値を示すグラフである。いずれの検知電極2a〜2eにも指8が接近、近接、接触していないので、静電容量値は小さい値となっている。静電容量検出部3は、検出した静電容量値を近接・接触検出部4及びベースライン更新部5に出力する。
【0030】
続くステップST2において、制御部7が近接・接触検出部4に指示し、近接・接触検出部4が静電容量値を基に、近接状態又は接触状態を検出する。図8は、図6に示す指8が接近していない状態において、近接・接触検出部4による近接及び接触状態の検出処理を説明するグラフであり、図7に示すベースライン値と静電容量値との差分値を示す。いずれの検知電極2a〜2eの差分値も近接基準容量値20及び接触基準容量値21より小さい値となっており、近接及び接触のない状態と判断される。
【0031】
続くステップST3において、制御部7は、近接・接触検出部4の判断結果に基づいて指8が近接していない状態と判断して処理をステップST7へ進める。
【0032】
続くステップST7において、制御部7がベースライン更新部5に指示し、ベースライン更新部5がキャリブレーションを行うか否かを判断する。指8が検知電極2a〜2eに接近していない状態では、差分値分布(静電容量値分布の情報)はランダムな分布になるが、近接状態とまではならないが接近はしている接近状態では、その影響が指8と検知電極2a〜2eの距離に応じた分布に表れる。ベースライン更新部5は、このような差分値分布の特徴を利用して指8が接近状態かどうかを判定し、接近状態になければキャリブレーションを行い(ステップST7“Yes”)、接近状態であればキャリブレーションを行わない(ステップST7“No”)。ここでは、差分値分布を判別する尺度の一例として下記式(1)に示す尖度(Kurtosis)Xkを用いることとし、ベースライン更新部5はこの尖度Xkが一定以内の場合に接近状態と判定する。なお、差分値分布は、ユーザの指8の大きさ、検知電極2a〜2eの大きさ、検知電極2a〜2e間のピッチ、レイアウト方式等によって異なる可能性があるので、このような条件に応じて尖度Xkを設定する。この例では、指8が接近した場合の尖度Xkの範囲を、−1.0<Xk<3とする。下記式(1)によれば図8の差分値分布における尖度Xkは−3.33となり、上記範囲内にないため、ベースライン更新部5は指8が接近していないと判定して、キャリブレーションを行う(ステップST7“Yes”)。
【数1】

【0033】
続くステップST8において、制御部7がベースライン更新部5に指示し、ベースライン更新部5が新たなベースライン値を求める。ここでは単純に、静電容量検出部3から出力された最新の、接近状態にないと判定した静電容量値を新たなベースライン値とする。その他、新たなベースライン値の求め方として、過去の一定数のサンプルまで遡った平均値を算出する方法等を用いてもよい。
【0034】
続くステップST9において、制御部7がベースライン格納部6に指示し、ベースライン格納部6が、ステップST8においてベースライン更新部5で更新された新たなベースライン値を格納する。図9は、ベースライン格納部6が格納する新たなベースライン値を示す図である。
【0035】
なお、ステップST7にてベースライン更新部5が接近状態と判定した場合(ステップST7“No”)には、制御部7が処理をステップST1に戻し、次のタイミングにおける検知電極2a〜2eの静電容量値の検出を開始する。
【0036】
次に、図10に示す接近状態における近接検知装置の動作を説明する。図10は、実施の形態1に係る近接検知装置の構成を示すブロック図であり、指8がタッチパネル1に接近している状態を示す。
ステップST1において、制御部7が静電容量検出部3に指示し、静電容量検出部3が検知電極2a〜2eの静電容量値を順次検出する。図11は、図10に示す接近状態において、静電容量検出部3が検出した検知電極2a〜2eの静電容量値、及びベースライン格納部6に格納されているベースライン値を示すグラフである。指8が検知電極2cに接近しているので、検知電極2cの静電容量値が大きい値となっている。静電容量検出部3は、検出した静電容量値を近接・接触検出部4及びベースライン更新部5に出力する。
【0037】
続くステップST2において、制御部7が近接・接触検出部4に指示し、近接・接触検出部4が静電容量値を基に、近接状態又は接触状態を検出する。図12は、図10に示す接近状態において、近接・接触検出部4による近接及び接触状態の検出処理を説明するグラフであり、図11に示すベースライン値と静電容量値との差分値を示す。いずれの検知電極2a〜2eにも指8が近接及び接触していないので、差分値は近接基準容量値20及び接触基準容量値21よりも小さい値となっており近接及び接触のない状態と判断される。ただし、指8が接近しているため、一定の値の差分値が得られている。
【0038】
続くステップST3において、制御部7は、近接・接触検出部4の判断結果に基づいて指8が近接していない状態と判断して処理をステップST7へ進める。
【0039】
続くステップST7において、制御部7がベースライン更新部5に指示し、ベースライン更新部5がキャリブレーションを行うか否かを判断する。図12の差分値分布における尖度Xkは−0.36となり、指8が接近した場合の尖度範囲内であるため、ベースライン更新部5は指8が接近していると判定して、キャリブレーションを行わない(ステップST7“No”)。そのため、制御部7は、ベースライン格納部6が格納しているベースライン値(図11に示す斜線棒)を、図11に示すように指8の接近の影響を受けている静電容量値に更新することなしに、処理をステップST1に戻す。
【0040】
以上のように、実施の形態1によれば、指8との距離に応じて静電容量が変化する複数の検知電極2a〜2eと、検知電極2a〜2eと指8の間の静電容量値を検出する静電容量検出部3と、静電容量検出部3が検出した静電容量値とベースライン値とを用いて、指8の検知電極2a〜2eへの近接又は接触状態を判別する近接・接触検出部4と、近接・接触検出部4が用いるベースライン値を格納しておくベースライン格納部6と、静電容量検出部3が検出した静電容量値に基づいて、ベースライン格納部6に格納されているベースライン値を更新するベースライン更新部5とを備え、ベースライン更新部5が、近接・接触検出部4で指8が近接又は接触状態にないと判別された場合にベースライン値の更新可否を判定するように構成した。このため、近接・接触検出部4によって指8が近接又は接触状態にあると判別された場合にはベースライン更新部5が感度キャリブレーションを行わず、指8の近接時の誤ったキャリブレーションによるベースライン値の更新がなされないので、指8の接触状態の高精度な検出が可能になる。
【0041】
また、ベースライン更新部5を、近接・接触検出部4によって指8が近接又は接触状態にないと判別された場合に、更に、差分値分布に基づいて指8の接近の有無を判別してベースライン値更新可否を判定するように構成した。そのため、指8の接近時の誤ったキャリブレーションによるベースライン値の更新がされないので、指8の近接状態の高精度な検出が可能になる。
【0042】
なお、上記実施の形態1では、近接・接触検出部4が、近接情報又は接触情報として、近接基準容量値20又は接触基準容量値21を超えた検知電極の情報を出力する構成としたが、この他にも例えば、最大出力の検知電極の情報又は各検知電極間に生じる静電容量を補間処理によって求めた座標情報(即ち仮想的なピーク情報)を出力する構成にしてもよい。
【0043】
また、ベースライン更新部5で指の接近有無を判定する際に尖度Xkを用いる構成としたが、これに限定されるものではなく、指の接近を判定できる情報であれば、別の尺度を用いてもよい。また、上記実施の形態1では、指の接近有無を判定するための尖度範囲を予め規定していたが、ベースライン更新部5にユーザの指の情報を登録しておき、ユーザの指の大きさに応じた尖度範囲に変更して接近有無を判定するようにしてもよい。また、この判定の際にベースライン更新部5は全ての検知電極の差分値を使用したが、指の接近判定に必要な数の検知電極に絞って使用してもよい。また、この判定の際にベースライン更新部5は1つの時点のサンプル(即ち、近接及び接触がない状態における検知電極2a〜2eの1時点の差分値分布の情報)を使用したが、時間方向の複数のサンプル(即ち、近接及び接触がない状態における検知電極2a〜2eの複数時点の差分値分布の時間推移情報)を使用してもよい。
【0044】
また、上記実施の形態1では、1次元に配置された検知電極2a〜2eの静電容量値を用いる構成を例に近接検知装置を説明したが、2次元に配置された検知電極の静電容量値を用いる構成であってもよい。図13は、実施の形態1に係る近接検知装置の他の構成例を示すブロック図である。この構成の場合には、ベースライン更新部5で指の接近有無を判定する際に、2次元的な差分値分布等を利用することができる。
【0045】
また、上記実施の形態1では、近接検知装置が接触状態だけでなく近接状態も検出する構成としたが、接触状態のみを検出して接触情報のみを出力する構成にしてもよい。図14は、実施の形態1に係る近接検知装置の他の動作例を示すフローチャートである。近接検知装置が接触状態のみを検出する構成の場合には、図14のステップST2において近接・接触検出部4が指の接触状態のみ検出することとし、続くステップST4において制御部7で指が接触していない状態(近接状態)と判断した場合(ステップST4“No”)に、ステップST7においてベースライン更新部5が指の接近有無を判定するように構成すればよい。
【符号の説明】
【0046】
1 タッチパネル、2a〜2e 検知電極、3 静電容量検出部、4 近接・接触検出部、5 ベースライン更新部、6 ベースライン格納部、7 制御部、8 指、20 近接基準容量値、21 接触基準容量値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象物との距離に応じて静電容量が変化する複数の検知電極と、
前記検知電極と検知対象物間の静電容量値を検出する静電容量検出部と、
前記静電容量検出部が検出した静電容量値とベースライン値とを用いて、検知対象物の前記検知電極への近接又は接触状態を判別する近接・接触検出部と、
前記近接・接触検出部が用いるベースライン値を格納しておくベースライン格納部と、
前記静電容量検出部が検出した静電容量値に基づいて、前記ベースライン格納部に格納されているベースライン値を更新するベースライン更新部とを備え、
前記ベースライン更新部は、前記近接・接触検出部で検知対象物が近接又は接触状態にないと判別された場合にベースライン値の更新可否を判定し、更新可のときに前記ベースライン格納部のベースライン値を更新することを特徴とする近接検知装置。
【請求項2】
ベースライン更新部は、ベースライン値の更新可否を、複数の検知電極の静電容量値分布の情報を用いて判定することを特徴とする請求項1記載の近接検知装置。
【請求項3】
ベースライン更新部は、ベースライン値の更新可否を、複数の検知電極の静電容量値分布の時間推移情報を用いて判定することを特徴とする請求項1記載の近接検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−257046(P2010−257046A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103981(P2009−103981)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】