説明

近赤外吸収フィルタ用ガラス

【課題】 フッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスにおいて実用的な耐候性と安定性を有し、低価格で大量生産可能な近赤外吸収フィルタ用ガラスを提供すること。
【解決手段】 上記フッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスの組成は次のとおりである。
重量パーセントで、
P2O5が40.0〜48.0%、Al2O3が2.0〜10.0%、MgOが0〜5.0%、CaOが0〜10.0%、SrOが0〜10.0%、BaOが13.0〜35.0%、(但し、MgO、CaO、SrO、BaOの合量が16.0〜40.0%)、ZnOが2.0〜15.0%、Li2Oが1.0〜6.0%、Na2Oが0〜7.0%、K2Oが0〜8.0%、(但し、Li2O、Na2O、K2Oの合量が5.0〜16.0%)、を含む基礎ガラス100重量部に、CuOを1.0〜7.0%、Sb2O3を0〜1.2%含有する近赤外吸収フィルタ用ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線領域、特に波長800〜1000nmの光を効率的に吸収し、尚かつ可視域において高い透過率を有するフィルタ用ガラスに関するものである。
本発明のフィルタ用ガラスは、主にカラー撮影機器における受光素子の感度補正用フィルタなどとして使用される。
本発明においては、P2O5を40.0〜48.0%、Al2O3を2.0〜10.0%、R2O合量を5.0〜16.0%(但しR:Li,Na,K)とそれぞれ特定することにより、安定性、耐候性ともに優れたガラスを得ることができる。
【背景技術】
【0002】
カラー撮影機器に使用される撮像管あるいは固体撮像素子の分光感度は可視域から近赤外域の広い範囲にわたっている。このため近赤外域の800〜900nmを吸収し可視域を透過して通常の視感度に補正する近赤外吸収フィルタは必要欠くべからざる光学部品となっている。このようなフィルタ用のガラスは、800nm以上の波長域における吸収係数が大きく、400〜700nmの波長域においては高い透過特性をもたなければならない。そして、このようなガラスはリン酸塩系ガラスにCuOを添加することによって得られる。すなわち、波長800nm付近に吸収帯をもつCu2+がP2O5を主成分としたガラス中に存在した場合、800〜1000nmの波長域の光を十分に吸収し、波長500nmを中心とした可視域において高い透過率を有するガラスとなることが知られている。しかしながら、このガラスは吸湿性の強いP2O5から形成されているため通常の使用に対して十分な耐水性、耐候性を得ることが非常に困難で、長時間使用するとガラス表面が変質し、光学的特性が劣化する。これに対して、Al2O3を多量に含有させることによって、耐候性を改善したガラスとして、特許文献1が開示されている。しかし、Al2O3を多量に含有した場合には、溶融温度が上昇し、ガラス中のCu2+イオンが熱還元によってCu+イオンになり十分な分光特性が得られない。また、このように多量のAl2O3を含有することによって耐候性を改善しても限界があり、更に耐候性の改善が求められていた。これに対して、フツ燐酸塩ガラスは一般に耐候性に優れていることが知られており、これにCuOを含有した近赤外吸収フィルタが現在一般に広く使用されている。このようなガラスとして、特許文献2、特許文献3、特許文献4等が知られている。
【特許文献1】特開平2−263730号公報
【特許文献2】特開平1−219037号公報
【特許文献3】特開平3−83834号公報
【特許文献4】特開平3−83835号公報
【0003】
しかし、一般にフツ燐酸塩ガラスは安定性が低く、フッ素の揮発を伴うため、得率が低いので、大量生産には適していないほか、排ガス処理装置等熔融設備に伴う設備・費用もかさむため製品のコスト高が避けられないという欠点を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、あくまでもフッ化物を使用しない上記のようなリン酸塩系ガラスにおいて、耐候性を改善するには、Al2O3を多量に含有させるのではなく、むしろ耐候性を悪化させるP2O5含有量を大幅に減少させることがより効果的であることを見出した。しかし、ただ単にP2O5含有量を減少させたのでは安定性の悪化が著しく実用的なガラスは得られない。
そこで、本発明者らは、一般的には耐候性を悪化させると考えられているアルカリ酸化物が所定の範囲内(5.0〜16.0%)にあるときには、耐候性を保持したまま安定性を向上させることができるという知見を得て本発明に到達した。
すなわち、本発明の目的は、フッ化物を含有しないリン酸塩系ガラスにおいて、実用的な耐候性と安定性を有し、低価格で大量生産可能な近赤外吸収フィルタ用ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の本発明の課題は、以下に要約した各発明特定事項によって達成される。
(1) 重量パーセントで、
P2O5が40.0〜48.0%、Al2O3が2.0〜10.0%、MgOが0〜5.0%、CaOが0〜10.0%、SrOが0〜10.0%、BaOが13.0〜35.0%、(但し、MgO、CaO、SrO、BaOの合量が16.0〜40.0%)、ZnOが2.0〜15.0%、Li2Oが1.0〜6.0%、Na2Oが0〜7.0%、K2Oが0〜8.0%、(但し、Li2O、Na2O、K2Oの合量が5.0〜16.0%)、を含む基礎ガラス100重量部に、CuOを1.0〜7.0%、Sb2O3を0〜1.2%含有する近赤外吸収フィルタ用ガラス。
【0006】
(2) 重量パーセントで、
15.0%までのNb2O5を含有する、上記(1)に記載の近赤外吸収フィルタ用ガラス。
【発明の効果】
【0007】
P2O5を減らすことによって、従来のように沢山のAl2O3を含有させなくても耐候性が改善され、しかもアルカリ酸化物が所定の範囲内にあるときには、耐候性を犠牲にすることなく実用的な安定性を得ることができる。
すなわち、P2O5を40.0〜48.0%、Al2O3を2.0〜10.0%、R2O合量を5.0〜16.0%(但しR:Li,Na,K)とそれぞれ特定することにより、安定性、耐候性ともに優れたガラスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の近赤外吸収フィルタ用ガラスは、フッ素を含有しないリン酸塩系ガラスで、安定性・耐候性に優れており、その主成分は、P2O5,Al2O3,BaO,ZnO,Li2O,CuOである。
【0009】
本発明の近赤外吸収フィルタ用ガラスの各成分範囲を上記(1)(2)のように限定した理由は次のとおりである。(%は全て重量%を表す。)
P2O5はガラス形成成分であり、40.0%より少ないとガラス形成が困難となり、また48%を超えると耐候性が低下するので、40.0〜48.0%とする。好ましい範囲は43.0〜47.0%である。Al2O3は、耐候性を改善する成分であるが、2.0%よりも少ないとその効果が十分でなく、また10.0%を超えると熔融温度が上昇し、分光特性が悪化するので本発明においては、2.0〜10.0%と規定する。好ましい範囲は、2.0〜5.0%である。BaOは、分光特性・溶解性を改善する成分であるが、13.0%より少ないとその効果が十分でなくまた35.0%を超えると安定性、耐候性が悪化するので、13.0〜35.0%と規定する。好ましい範囲は、16.0〜30.0%である。
【0010】
MgO、CaO、SrOは、主に耐候性を改善する効果を有するが、それぞれ上限を超えると安定性が悪化する。好ましい範囲は、MgOが0〜5.0%、CaOが1.0〜5.0%、SrOが0〜5.0%である。MgO、CaO、SrO、BaOの合量は、16.0〜40.0%、好ましくは、16.0〜30.0%である。ZnOは、安定性および耐候性を改善する成分であるが、2.0%よりも少ないとその効果が十分でなく、15.0%を超えると、分光特性が悪化する。好ましい範囲は、4.0〜15.0%である。
【0011】
Li2Oは溶解性・安定性を改善する成分であるが、1.0%よりも少ないとその効果が十分でなく、また6.0%を超えると、耐候性および安定性が悪化する。好ましい範囲は、1.0〜5.0%である。Na2OおよびK2Oは、それぞれ上限を超えると耐候性が悪化する。好ましい範囲は、Na2Oが3.0〜6.0%、K2Oが3.0〜6.0%である。また、Li2O、Na2O、K2Oの合量は、5.0〜16.0%であり、下限より少ないと溶解性・安定性を改善する効果が十分でなく、また上限を超えると耐候性が悪化する。好ましい範囲は、8.0〜14.0%である。
【0012】
Nb2O5はガラスの安定性を向上させる成分であるが、15.0%を超えると溶解性が悪化する。好ましい範囲は、4.0〜9.0%である。CuOは、基礎ガラス100重量部に添加されるが、1.0%よりも少ないと実用的な分光特性が得られず、7%を超えるとガラスが不安定になる。このCuOの含有量は、実際に使用するフィルタの厚みと分光特性によって変更される。Sb2O3は、脱泡効果の他に分光特性を改善する効果を有する成分であるが、1.2%を超えるとガラスが不安定になる。
【0013】
以上説明したとおり、本発明者等はフッ素を含まないリン酸塩系ガラスにおいて、耐候性を改善するには、Al2O3を多量に含有させるのではなく、むしろ耐候性を悪化させるP2O5含有量を大幅に減少させることがより効果的であることを見出した。しかし、ただ単にP2O5を減少させると安定性が低下し実用的なガラスとならないが、本発明者らは、一般的には耐候性を悪化させると考えられているアルカリ酸化物が所定の範囲内にあるときには、耐候性を犠牲にすることなく安定性が改善されることを見出し本発明に至ったものである。
【0014】
本発明の近赤外吸収フィルタ用ガラスは原料として五酸化リンあるいはメタリン酸塩などの塩類、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物など、通常光学ガラスで使用される一般のガラス原料を用いて、通常のガラス製造方法で作製できる。溶融温度は、700〜1200℃程度で白金ルツボを用い、十分に溶融したガラス融液をカーボンなどで作られた型に流し出すと、透明なガラスが得られる。その後、ガラス転移温度付近でアニールをすることにより、熱的に安定なガラスとなる。
耐候性試験は、両面光学研磨したガラスを恒温恒湿槽に設置し、85℃;85%;500hrの条件で行ない、表面の状態を目視により観察した。いずれも外観上の変化は認められず、実用上まったく問題とならない事を確認した。
【実施例】
【0015】
以下実施例と比較例をあげて本発明の近赤外吸収フィルタ用ガラスの有する効果を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜29)
各成分の原料として、各々相当するメタ燐酸塩、酸化物、炭酸塩、硝酸塩等を使用し、ガラス化後に表1,2,3・・に示した成分割合となるように秤量し、十分混合した後に白金ルツボに投入し電気炉中700〜1200℃の温度で数時間から十数時間溶融し、攪拌により均質化、清澄した後に金型に流し出し徐冷する事によって均質なガラスを得た。得られたガラスブロックを20×20×5mmに加工し両面光学研磨によって耐候性試験サンプルを作製した。
次に、恒温恒湿槽中で、85℃;85%;500hr試験後の研磨面の変化を目視により観察した。実施例1〜29においては、いずれも試験前後における違いは確認されなかった。
また図1には、実施例15で得られたガラスの0.4mm厚の分光透過率曲線を示す。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
(比較例1)
比較例1として、特許文献1の実施例2の組成を選択した。
各成分の原料として、各々相当するメタ燐酸塩、酸化物、炭酸塩、硝酸塩等を使用し、ガラス化後に表3の比較例1に示した成分割合となるように秤量し、十分混合した後に白金ルツボに投入し電気炉中1100〜1350℃の温度で数時間熔解し、攪拌により均質化、清澄した後に金型に流し出し徐冷する事によって透明で均質なガラスを得た。
本発明の各実施例と同様に、得られたガラスブロックを20×20×5mmに加工し両面光学研磨によって耐候性試験サンプルを作製し、恒温恒湿槽中で、85℃;85%;500hr試験後の研磨面の変化を目視により観察した。試験後のサンプルは激しく白ヤケしていた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の近赤外カットフィルタガラス組成物は、近赤外線領域、特に波長800〜1000nmの光を効率的に吸収し、かつ可視領域において高い透過率を有するフィルタ用ガラスとして有用であり、例えばカラー撮影機器における受光素子の感度補正用フィルタ等に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例15で得られたガラスの0.4mm厚の分光透過率曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセントで、
P2O5が40.0〜48.0%、Al2O3が2.0〜10.0%、MgOが0〜5.0%、CaOが0〜10.0%、SrOが0〜10.0%、BaOが13.0〜35.0%、(但し、MgO、CaO、SrO、BaOの合量が16.0〜40.0%)、ZnOが2.0〜15.0%、Li2Oが1.0〜6.0%、Na2Oが0〜7.0%、K2Oが0〜8.0%、(但し、Li2O、Na2O、K2Oの合量が5.0〜16.0%)、を含む基礎ガラス100重量部に、CuOを1.0〜7.0%、Sb2O3を0〜1.2%含有する近赤外吸収フィルタ用ガラス。
【請求項2】
重量パーセントで、
15.0%までのNb2O5を含有する、請求項1記載の近赤外吸収フィルタ用ガラス。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−248850(P2006−248850A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68760(P2005−68760)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(391009936)株式会社住田光学ガラス (59)
【Fターム(参考)】