説明

追尾レーダ装置

【課題】地図情報を用いて不要反射波からの目標誤検出を低減することにより、追尾維持率の改善を図る。
【解決手段】検出処理部31は、地図情報記憶装置50から現在観測中の地域の地図情報を読み出し、当該地図情報から追尾目標の反射波と誤認識する不要反射波を発生する領域を追尾対象外として区分けするプロット検出用フィルタ(52,54,55)を作成し、当該プロット検出用フィルタ(52,54,55)に基づいて追尾対象外の領域を除いた領域からの反射波についてのプロットのみを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クラッタ等の不要信号を軽減して航空機や船舶等の目標の追尾を改善する追尾レーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ波を発射し、例えば海上を移動する船舶等の目標からの反射波を受信し、その受信波から目標の航跡を抽出し、観測値から目標の速度、進行方向等を予測して目標の追尾値を算出する追尾レーダ装置が知られている。このような追尾レーダ装置では、追尾目標の近傍に他の目標やクラッタ等の不要信号が存在する環境下においても高い追尾性能の確保が求められる。この場合、センサから得られる観測値のいずれが追尾目標のものであるかを判定する相関処理が重要となる。そのため、追尾目標に対して、予測位置に最も近い観測値を選択し、追尾計算に使用する方式が採られていた。しかし、海洋上にある船舶などの追尾を行う際、海岸線を越えた陸地からの反射信号を観測し、これらの不要信号を目標からの反射信号として誤相関を起こし、結果として目標追尾を外してしまう等の問題が生じている。また陸上等クラッタ数が多い場合には処理負荷も大きくなるという問題がある。さらに、航空機を追尾する場合においても、山脈や高い建造物等からの反射波を目標と誤認識し追尾をはずしてしまうという問題がある。
【0003】
ところで、レーダ等の探知装置において、目標が具体的に何処に実在しているかを可視確認できるようにするため、目標の観測映像と対応する地点の海図などの地図情報を重畳してディスプレイに表示するという技術がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−318727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来の追尾レーダ装置は、レーダ波の反射波を基にして信号処理を実施しており、クラッタからの反射波を、目標からの反射波として誤相関を起こし、結果として目標の追尾を外してしまう等の問題が発生していた。例えば、水上目標を対象とした追尾において、水上目標が陸上に乗り上げる結果となってしまっていた。このため、目標追尾の性能を高めるためは陸地等クラッタからの不要信号の検出を低減することで追尾維持率の改善を図る必要があった。
一方、目標の観測映像と対応する地点の海図などの地図情報を重畳してディスプレイに表示するレーダ装置の場合、観測映像を地図上で可視することには有効であるが、追尾結果を正確にすることとは結びつかず、また陸上等クラッタ数が多い場合における処理負荷の改善にはならない。
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、地図情報を用いて不要反射波からの目標誤検出を低減することにより、追尾維持率の改善を図る追尾レーダ装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の追尾レーダ装置は、送受信器によりアンテナを介してレーダ波を送信して目標からの反射波を受信し、検出処理部により受信信号から目標の候補であるプロットを検出し、追尾処理部により順次検出されて入力される目標候補のプロットに基づいて目標の軌跡を推定する追尾レーダ装置において、観測地域を含む地図情報を格納する地図情報記憶装置を備え、検出処理部は、地図情報記憶装置から現在観測中の地域の地図情報を読み出し、当該地図情報から追尾目標の反射波と誤認識する不要反射波を発生する領域を追尾対象外として区分けするプロット検出用フィルタを作成し、当該プロット検出用フィルタに基づいて追尾対象外の領域を除いた領域からの反射波についてのプロットのみを検出するようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、観測地域を含む地図情報を用いて、不要反射波が発生しやすい地形等に対し、反射波検出の追尾対象外とする、もしくは反射波検出を低減させる信号処理を適用できるようにしたので、不要反射波による誤追尾を減らして追尾維持率の改善を図る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の各実施の形態に共通な追尾レーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る信号処理器による地図情報使用の処理を示す説明図である。
【図3】実施の形態1に係る処理の効果を示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2に係る信号処理器による地図情報使用の処理を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態3に係る信号処理器による地図情報使用の処理を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の各実施の形態に共通な追尾レーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
図において、送受信器20は、アンテナ10を介して、定期的にパルスのレーダ波を送信することにより、自追尾レーダ装置を中心としてある方位から時間経過に応じた反射波を受信する。送受信器20から出力される受信信号は、検出処理部31と追尾処理部32で構成された信号処理器30に与えられる。検出処理部31では、受信信号から目標の候補であるプロットを検出し追尾処理部32に出力する。追尾処理部32では、順次検出されて入力される目標候補のプロットから推定した目標の軌跡を目標情報として表示器40に出力して表示する。ここまでの説明は従来の追尾レーダ装置で行っている一般的動作である。
【0011】
この発明では、デジタルデータの地図情報を格納した地図情報記憶装置50を備えており、地図情報を信号処理器30の検出処理部31に与えるように構成している。検出処理部31では、図2に示すように、前述した目標候補の検出プロットに対して地図情報を使用した処理を行う。ここで、捕捉目標を船舶などの水上目標とした場合、受信した目標の反射波から検出されるプロットの位置は海上に存在することになるが、目標が海岸線に付近の地域に存在した場合、陸上クラッタからの反射波に対する検出プロットを目標と誤認識し追尾をはずしてしまう可能性がある。このため、この実施の形態1では、地図情報記憶装置50の中から観測領域に対応する地図情報51を読み出し、陸と海の領域に存在するプロットを区分けする分別フィルタ(プロット検出用フィルタ)52を作成する。すなわち、分別フィルタ52は追尾対象(海)と追尾対象外(陸)の領域を形成しており、検出処理部31はこの分別フィルタ52を用いて目標候補の検出プロットの中から追尾対象に該当する海上に対応するプロットのみを抽出して追尾処理部32へ出力する。したがって、追尾処理部32は、目標からの反射波である確度が高いプロットのみを使用した追尾処理を実施し、結果を目標情報として表示器40に出力する。
【0012】
次に、図3でこの実施の形態1の処理による効果について説明する。ある追尾目標において、対象となる2つプロットA,Bが得られた場合を示している。ここで、Aは陸の領域から得られたプロット、Bは海の領域から得られたプロットであるとすると、地図情報を用いることによりAは追尾対象外、Bは追尾対象となる。従来は、追尾目標が存在する可能性が高い予測位置から近距離にあるプロットAが選択されたが、地図情報から得られる追尾対象、追尾対象外の領域を区分けする分別フィルタを使用することによりプロットBのみを選択して追尾を行うことで、追尾維持率の向上が図れる。
【0013】
以上のように、この実施の形態1によれば、観測地域を含む地図情報を格納する地図情報記憶装置50を備え、検出処理部31が、地図情報記憶装置50から現在観測中の地域の地図情報を読み出し、当該地図情報から追尾目標の反射波と誤認識する不要反射波を発生する領域を追尾対象外として区分けするプロット検出用フィルタを作成し、このプロット検出用フィルタに基づいて追尾対象外の領域を除いた領域からの反射波についてのプロットのみを検出するようにしている。特にこの実施の形態1では、プロット検出用フィルタとして陸の領域を追尾対象外とし、かつ海の領域を追尾対象に区分けする分別フィルタを用いるようにしている。したがって、不要反射波が発生しやすい陸地に対し、反射波検出の追尾対象外とする信号処理を行うので、陸からの不要反射波のプロットによる誤追尾を減らし追尾維持率の改善を図ることができる。
【0014】
実施の形態2.
図4は、この発明の実施の形態2に係る信号処理器による地図情報使用の処理を示す説明図である。
検出処理部31は、送受信器20から入力された受信信号から目標の候補であるプロットを検出し、図4に示すように、目標候補の検出プロットに対して地図情報を使用した処理を行う。ここで、捕捉目標を飛行機などの航空目標とした場合、従来の追尾レーダだと、山脈等の反射波から検出されるプロットを目標と誤認識し追尾をはずしてしまう可能性がある。このため、検出処理部31では、地図情報記憶装置50の中から観測領域に対応する地図情報53を読み出し、不要反射波が発生しやすい山脈や高い建造物のような固定目標物のある領域を検出してMTI(Moving Target Indicator)フィルタ54を作成する。そしてこのMTIフィルタ54を用いて対象領域からの不要反射波を検出しないようにするMTI処理を行う。これにより、不要反射波が発生しやすい山脈等の高所領域に対応するプロットが検出されないため、目標候補の検出プロットの中から追尾対象に該当するプロットのみが抽出できるようになり、追尾処理部32は、目標からの反射波である確度が高いプロットのみを使用した追尾処理を行うことができる。
【0015】
以上のように、この実施の形態2によれば、現在観測中の地域の地図情報から作成するプロット検出用フィルタとして、地図情報から不要反射波が発生しやすい山脈や高い建造物のような固定目標物のある領域を検出してMTIフィルタ54を作成し、このMTIフィルタ54に基づいてMTI処理を行うことにより対象領域からの反射波を検出しないようにしている。したがって、不要反射波からのプロット検出を抑圧することで誤追尾を減らし、追尾維持率の向上を図ることができる。
【0016】
実施の形態3.
図5は、この発明の実施の形態3に係る信号処理器による地図情報使用の処理を示す説明図である。
検出処理部31は、送受信器20から入力された受信信号から目標の候補であるプロットを検出し、図5に示すように、目標候補の検出プロットに対して地図情報を使用した処理を行う。ここで、捕捉目標を航空目標とした場合、従来の追尾レーダだと、山脈等の反射波から得られるプロットを目標と誤認識し追尾をはずしてしまう可能性がある。このため、地図情報記憶装置50の中から観測領域に対応する地図情報53を読み出し、地形情報53から不要反射波が発生しやすい山脈等の領域を検出し、その領域の検出基準を高い値に設定することで不要反射波の検出を抑圧する。これにより、不要反射波に対応するプロット検出動作が抑圧されるため、追尾対象に該当するプロットのみが抽出できるようになり、追尾処理部32は、目標からの反射波である確度が高いプロットのみを使用した追尾処理を行うことができる。
【0017】
以上のように、この実施の形態3によれば、現在観測中の地域の地図情報から作成するプロット検出用フィルタとして、地図情報から山脈等の不要反射波が発生しやすい領域を検出し、当該領域に検出基準の高い値を設定することで反射波の検出を抑圧するようにしている。したがって、山脈等からの不要反射波の検出を抑圧することで、誤追尾を減らし、追尾維持率の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0018】
10 アンテナ、20 送受信器、30 信号処理器、31 検出処理部、32 追尾処理部、40 表示器、50 地図情報記憶装置、51,53 地図情報、52,54 分別フィルタ(プロット検出用フィルタ)、55 制御フィルタ(プロット検出用フィルタ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信器によりアンテナを介してレーダ波を送信して目標からの反射波を受信し、検出処理部により受信信号から目標の候補であるプロットを検出し、追尾処理部により順次検出されて入力される目標候補のプロットに基づいて目標の軌跡を推定する追尾レーダ装置において、
観測地域を含む地図情報を格納する地図情報記憶装置を備え、
前記検出処理部は、前記地図情報記憶装置から現在観測中の地域の地図情報を読み出し、当該地図情報から追尾目標の反射波と誤認識する不要反射波を発生する領域を追尾対象外として区分けするプロット検出用フィルタを作成し、当該プロット検出用フィルタに基づいて追尾対象外の領域を除いた領域からの反射波についてのプロットのみを検出することを特徴とする追尾レーダ装置。
【請求項2】
検出処理部は、現在観測中の地域の地図情報から作成するプロット検出用フィルタとして陸の領域を追尾対象外とし、かつ海の領域を追尾対象に区分けする分別フィルタを作成し、当該分別フィルタに基づいて目標候補の検出プロットの中から追尾対象とするプロットのみを抽出して出力することを特徴とする請求項1記載の追尾レーダ装置。
【請求項3】
検出処理部は、現在観測中の地域の地図情報から作成するプロット検出用フィルタとして、地図情報から不要反射波が発生しやすい山脈や高い建造物のような固定目標物に該当する領域を検出してMTI(Moving Target Indicator)フィルタを作成し、当該MTIフィルタに基づいて前記MTI領域からの反射波を検出しないようにMTI処理することにより追尾対象とする反射波のプロットのみを抽出して出力することを特徴とする請求項1記載の追尾レーダ装置。
【請求項4】
検出処理部は、現在観測中の地域の地図情報から作成するプロット検出用フィルタとして、地図情報から不要反射波が発生しやすい山脈等の領域を検出し、当該領域に検出基準の高い値を設定し、当該領域からの反射波の検出を抑圧し、追尾対象とするプロットのみを抽出して出力することを特徴とする請求項1記載の追尾レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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