説明

送液用ポンプを備えた分析システム

【課題】分析対象がサンプル液中の微量成分や超微量成分である場合における、何らかの汚染に起因した、間欠的に分析不能状態となる(波形が安定しない)ことの解決。
【解決手段】プランジャの往復移動によって液体の吸い込み及び吐き出しを行う液体送液用ポンプと、前記液体送液用ポンプが送液した前記液体を含有する分析対象液中の所定成分を分析する分析部と、を備えた分析システムにおいて、前記分析システムは、前記プランジャの前記往復運動が可能な形で前記プランジャの外周面を包囲するように取り付けられた、プランジャ洗浄部材を更に有しており、前記プランジャ洗浄部材は、洗浄液を流入するための洗浄液流入口と、前記洗浄液を流出するための洗浄液流出口と、前記洗浄液流入口及び前記洗浄液流出口と液体導通可能に連絡している、前記プランジャの外周面が剥き出しとなった空間であるプランジャ洗浄部とを備えている、ことを特徴とする分析システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャの往復移動によって液体の吸い込み及び吐き出しを行う送液用ポンプを備えた、分析対象液中の微量成分又は超微量成分が分析可能な分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で、微量成分又は超微量成分の定量又は半定量分析技術が検討されている。例えば、半導体プロセスにおいては、Siウエハの洗浄その他の洗浄工程、露光・現像工程、エッチング工程において、様々な薬液が用いられる。これらの薬液に金属不純物が混入している場合、サブppb乃至はpptオーダーであっても、製品性能・歩留まりに深刻な悪影響を及ぼすことがあるので、当該濃度の不純物測定は極めて重要である。
【0003】
更に、前記薬液の分析に至るまでの流れは、(1)薬液毎にサンプルを採取し、(2)濃縮等で検出感度を高める処理を行った後、(3)ICP-MS(Inductively coupled plasma-mass spectrometer:誘導結合プラズマ質量分析)などの高感度分析装置により分析を行う、である。このような方法では、試料濃縮などの処理が必要なために、分析結果が出るまでに最短でも一日程度要し、その結果、薬液の不純物濃度が高いと判断された場合は、それにかかる製品をすべて廃棄するなどの無駄を生じ、結果として、歩留まりの低下を引き起こしていた。加えて、前記手法では、サンプルが測定されるまでの間、濃縮プロセス等の複数の工程を介在させるので、汚染の機会が増え、必ずしも超微量分析に適した手法とはいえない。
【0004】
そこで、微量の金属元素をオンサイトで分析する手法として、フローインジェクション分析(FIA)を適用する手法が提案されている。当該手法は、リアルタイムにオンサイト分析が可能な分析手法であり、極めて高純度の薬品類が使用される半導体の製造工程における、当該薬品類に不純物として含まれる微量元素のオンサイト分析に有効である。ここで、FIAを簡単に説明すると、フロー分析の一種であり、流路にキャリア(試料を運ぶ流体)を流しておき、適時、キャリアをサンプル(分析試料)に置きかえて、これら検出元素が発色する反応試薬と反応させ、キャリアの吸光度と分析試料の吸光度との差△を検出して元素濃度を分析する方法である。即ち、FIAにおいては、キャリアと反応試薬を混合し、これを攪拌・分散等によってよく混ぜた後に、元素濃度を検出する検出器によって濃度検出(典型的には吸光度分析による吸光度の測定)を行うのであるが、キャリアをある時点で試料に置換することにより、吸光度の差分を測定することによって試料濃度を決定する。尚、特許文献1(特開2004−163191号公報)の内容は、本明細書に組み込まれるものとする。
【特許文献1】特開2004−163191
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、当該システムを長中期に亘り使用していると、特に分析対象がサンプル液中の微量成分や超微量成分(例えばpptオーダーの分析)であるような場合、本来はそれ程発色される筈の無いサンプルや標準液について、高い発色を呈する事態を招くことがしばしばある(間欠的に発生する)。また、逆に、本来はある程度発色される筈のサンプルや標準液について、殆ど発色を呈さない事態を招くこともしばしばある。このような場合、当該微量成分や超微量成分の定量分析や半定量分析が誤った結果となることに加え、当該分析を最初から(検量線を引くところから)やり直さなくてはいけないという事態をも招き得る。当初、この原因として、ライン内の汚染や、使用する試薬及び標準液自体の汚染を検討したが、これらの汚染が直接的な原因では無い場合が存在することが判明した。
【0006】
そこで、本発明は、特に分析対象がサンプル液中の微量成分や超微量成分(例えばpptオーダーの分析)である場合における、何らかの汚染に起因した、間欠的に分析不能状態となる(波形が安定しない)という問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために鋭意研究をした結果、本発明者は、間欠的に分析不能状態となる(波形が安定しない)という問題が、サンプルや試薬液等を分析ライン上に流す際に用いる液体送液用ポンプのプランジャの汚染に起因していることを突き止めた。以下、詳述する。
【0008】
フロー分析システム等の高感度分析においては、サンプルや試薬(例えば、発色剤液、酸化剤液、緩衝液)を前記流路に流すに際しては、プランジャポンプやシリンジポンプといった、プランジャの往復運動によって液体の吸い込み及び吐き出しを行う液体送液用ポンプが使用されている。
【0009】
ここで、従来のポンプでは、プランジャがシリンダ内で往復移動を繰り返すと、プランジャの表面及び/又はパッキンが磨耗する結果、プランジャとパッキン(プランジャとシリンダとの間に設けられたパッキン)との間に隙間が生じることがある。この場合、プランジャの往復移動(プランジャをポンプ室に引き込む方向に移動)の際、パッキンは、プランジャの外周面に付着した液体を充分に拭えなくなり、当該隙間から液体がシリンダの内部に漏れる。そして、例えば不使用時に、この漏れた液体がプランジャの外周面(シリンダ内部)で乾燥して析出物が形成され、プランジャの往復移動(プランジャをポンプ室に押し込む方向に移動)の際に当該析出物がポンプ室内の液体に混入していたため、液体の濃度に変化が生じることを見出した。ここで、通常の分析(例えば、分析対象成分がppmやサブppmオーダー程度で存在する比較的高濃度の分析)である場合には、このような僅かな汚染では分析結果にそれ程影響を与えないが、微量成分や超微量成分の分析(サブppbオーダー以下の分析)に際しては、このような僅かな汚染でも、分析結果に多大な影響を及ぼすことを突き止めた。これを踏まえ、以下の本発明(1)〜(5)を完成させたものである。
【0010】
本発明(1)は、プランジャ(プランジャ112)の往復移動によって液体の吸い込み及び吐き出しを行う液体送液用ポンプ(プランジャポンプ100)と、前記液体送液用ポンプ(プランジャポンプ100)が送液した前記液体を含有する分析対象液中の所定成分を分析する分析部と、を備えた分析システムにおいて、
前記分析システムは、
前記プランジャ(プランジャ112)の前記往復運動が可能な形で前記プランジャ(プランジャ112)の外周面を包囲するように取り付けられた、プランジャ洗浄部材(プランジャ洗浄部材180)を更に有しており、
前記プランジャ洗浄部材(プランジャ洗浄部材180)は、
洗浄液を流入するための洗浄液流入口(洗浄液流入口182)と、
前記洗浄液を流出するための洗浄液流出口(洗浄液流出口186)と、
前記洗浄液流入口(洗浄液流入口182)及び前記洗浄液流出口(洗浄液流出口186)と液体導通可能に連絡している、前記プランジャ(プランジャ112)の外周面が剥き出しとなった空間であるプランジャ洗浄部(プランジャ洗浄部182)とを備えている、
ことを特徴とする、分析中にも洗浄が可能な分析システムである。
【0011】
本発明(2)は、前記分析システムは、
複数の前記液体送液用ポンプ(プランジャポンプ100a〜100f)と、
複数の前記液体送液用ポンプ(プランジャポンプ100a〜100f)のそれぞれに備えられた、複数の前記プランジャ洗浄部材(プランジャ洗浄部材180)と、
前記複数の前記プランジャ洗浄部材(プランジャ洗浄部材180)の、前記洗浄液流入口(洗浄液流入口182)及び前記洗浄液流出口(洗浄液流出口186)同士を相互に洗浄液管(洗浄液管92)で接続することにより、前記複数の前記プランジャ洗浄部材(プランジャ洗浄部材180)が液体導通的に1ラインに配された、洗浄液ラインと、
前記複数の前記プランジャ洗浄部材を経由して、前記洗浄液ラインの上流から下流まで洗浄液を送液するための洗浄液送液用ポンプ(ポンプ100g)と
を備えている、前記発明(1)の分析システムである。尚、本発明(2)に関しては、分析システムに存在するすべての液体送液用ポンプにプランジャ洗浄部材が備えられていなくとも、一部の液体送液用ポンプ(複数)に備えられていればよい。更には、プランジャ洗浄部材を備えたすべての液体送液用ポンプが1ラインで接続されていなくとも、一部の液体送液用ポンプ(複数)が1ラインで接続されていればよい。
【0012】
本発明(3)は、前記洗浄液は、蒸留水又は前記液体送液用ポンプが送液する液体である、前記発明(1)又は(2)の分析システムである。
【0013】
本発明(4)は、前記分析システムが、高感度分析システム、例えば、フローインジェクション分析装置(FIA)、シーケンシャルインジェクション分析装置(SIA)、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)、原子吸光分析装置(AA)、気−液クロマトグラフ装置(GLC)、高速液体クロマトグラフ装置(HPCL)又はイオンクロマトグラフ装置(IC)である、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの分析システムである。
【0014】
本発明(5)は、前記液体送液用ポンプ(プランジャポンプ100)が液体と接触する接液部(シリンダ138、プランジャ洗浄部材180、プランジャ112、ルビーボール150及び152)が非金属製である、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの分析システムである。
【0015】
ここで、本明細書における各用語の意義について説明する。「液体送液用ポンプ」は、プランジャの往復移動によって液体の吸い込み及び吐き出しを行う限り特に限定されず、プランジャポンプやシリンジポンプを挙げることができる。「分析」とは、定量分析、半定量分析、定性分析のいずれをも包含する。「システム」とは、装置を包含する概念である。「高感度分析システム」とは、例えば、サブppbオーダー程度以下の感度で分析可能なシステムを指す。「所定成分」とは、一種の成分のみならず、複数の成分が対象であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、洗浄液によってプランジャを裏側から洗浄するよう構成されているので、特にサブppbオーダー(例えばpptオーダー)以下の微量成分や超微量成分の分析に際して、分析結果に多大な影響を及ぼす析出物の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本最良形態に係るフローインジェクション分析システムを、半導体製造工程において使用される薬液を例に採り説明する。まず、図1は、本最良形態に係るフローインジェクション分析システムの全体構成図である。尚、本発明の特徴であるプランジャポンプについては後述する。また、本最良形態では、試薬等を送液するポンプとしてプランジャポンプを例に説明しているが、これに限定されることなく、試薬等を送液出来るポンプであれば他でもよい。更に、使用する薬液の組み合わせは、サンプルの種類や分析方法等に依拠して変動するものである。即ち、以下の最良形態はあくまで例示に過ぎず、本発明は当該形態に限定されるものではない(例えば、実施例では、以下の最良形態に示す前処理手段は存在しない)。
【0018】
そこで図1を参照しながら説明すると、当該システム1は、半導体製造工程における所定の薬液ラインから一定時間毎にサンプルSを採取するサンプル採取手段2と、当該サンプルSを前処理するための前処理液Nとを混合して、当該サンプルSを前処理する前処理手段3(中和官、冷却部)と、金属イオンを触媒として酸化反応を起こすことにより発色を呈する発色試薬Rと、酸化剤液Oと、緩衝溶液Bとを所定の割合で混合して、発色反応を起こさせる反応手段4と、前記反応手段4で発色反応を呈したサンプルSの吸光度を測定する吸光光度測定手段5と、後述するプランジャポンプ(100a〜100f)のプランジャ112を洗浄する洗浄液H(例えば純水)が流通する洗浄液流通管90から洗浄液Hを採取する洗浄液採取手段91と、を有している。
【0019】
まず、サンプル採取手段2に係るプランジャポンプ100aは、半導体製造工程において使用される薬液が流通する薬液流通管50に設置されている。そして、当該薬品流通管50から一定時間毎に一定量のサンプルSを採取する。尚、本最良形態では、薬液流通管50からサンプルSを採取する形態を例示したが、例えば、サンプルSを容器中に導入しそこからサンプルSを採取する形態であってもよい。
【0020】
前処理液Nは、薬液バック8aに封入されており、当該薬液バック8aは、プランジャポンプ100bを介して第2液吸入管Bと接続している。ここで、第2液吸入管Bは、前処理装置Bと液体導通可能に接続している。そして、薬液バッグ8aからの前処理液Nは、プランジャポンプ100bの作動により、前処理装置Bを介して、下流の前処理管Z(より詳しくは第2液排出管Bとの合流点X)に導かれる。尚、前処理液Nをはじめ、本システム1で使用される試薬は、すべて薬液バッグに収容されており、当該システム1外部からの不純物の混入が極力防止されている。
【0021】
そして、前処理手段3に係る前処理管Zに流入したサンプルSと前処理液Nは、前処理管Zを流通する間に混合し、サンプルSは処理される。この際、前処理管Zに流入するサンプルSの流量及び前処理液Nの流量は、自動制御される。
【0022】
前処理管Zは、自動切り替えバルブVに接続されている。当該自動切り替えバルブVには、一定量のサンプルSを保持することができるサンプル計量管10が設けられている。
【0023】
切り替えバルブVには、キャリア流通管11が接続されている。当該キャリア流通管11には、プランジャポンプ100cを介して、キャリアCを封入するための試薬バック8bが接続されている。
【0024】
キャリアCを、プランジャポンプ100cを介してキャリア流通管11に流入させながら、適当なタイミングで自動切り替えバルブVを切り替えることにより、キャリアCはサンプル保持管10内に流入する。その結果、サンプル保持管10内に保持されたサンプルは、キャリアCによって押し出され、反応手段4に係る反応管12に流入する。
【0025】
反応手段4の上流側には、発色試薬R(金属イオンを触媒として酸化反応を起こし発色する試薬)を封入した試薬バッグ8cにプランジャポンプ100dを介して接続された発色試薬流通管13、酸化剤液Oを封入した試薬バッグ8dにプランジャポンプ100eを介して接続された酸化剤流通管14、及び、緩衝溶液Bを封入した試薬バッグ8eにプランジャポンプ100fを介して接続された緩衝溶液流通管15が、当該反応管12に接続されている。
【0026】
反応管12は、サンプルS又はキャリアCに、発色試薬R、酸化剤液O及び必要に応じて用いられる緩衝溶液Bを夫々混合し、酸化反応を促進する。フローインジェクション分析システム1においては、当該反応管12の長さを調節することにより反応時間をコントロールすることが出来る。また、当該反応管12(特に下流側)を温度調節器16内に設けることにより、反応温度を調節することも可能である。
【0027】
更に、夫々の流通管(発色試薬流通管13、酸化剤流通管14、緩衝溶液流通管15)には、試薬の流量を調節する機構が設けられている(図示せず)。したがって、夫々の流通管(発色試薬流通管13、酸化剤流通管14、緩衝溶液流通管15)を流れる溶液のpHや濃度等により、それぞれの流通管の流量を調節することによって、発色試薬が最も発色し易い条件を容易に作り出すことができる。
【0028】
反応管12は、吸光光度測定手段5である吸光光度計17に接続されている。吸光光度計17は、サンプルS又はキャリアCの吸光度を測定する。吸光度が測定されたサンプルSは、排出管18より排出される。そして、両者の吸光度の差Δに基づき、サンプル液S中の分析対象物の濃度を決定する。
【0029】
吸光光度計17には、金属検出ブザーWなどを設置してもよい。当該金属検出ブザーWは、予め設定した吸光度以上の吸光度を測定した場合にはブザー音を発するようになっており、当該ブザーを設けることにより、ほぼリアルタイムで金属が検出されたことを認知することができる。
【0030】
さらにまた、当該金属検出ブザーWを用いるとともに、コンピュータPC制御によって、薬品流通管50に予め設けておいたストッパー20を作動させて、金属が検出された薬品の供給を遮断することも可能である。
【0031】
また、図1における吸光光度測定手段5に代えて蛍光光度測定手段(例えば蛍光光度計)を用いてもよい。
【0032】
次に、本発明に係る裏洗浄システムの概略を説明する。まず、当該裏洗浄システムは、まず、洗浄液流通管90から洗浄液を採取するポンプ100gを有している。尚、本最良形態では、洗浄液流通管90から洗浄液を採取する形態を例示したが、これに限定されず、洗浄液が蓄えられたタンク等の容器から洗浄液を採取する形態でもよい。また、ポンプ100gの位置も、本最良形態では、裏洗浄対象であるプランジャポンプ100a〜100fの上流に配置したが、これに限定されず、例えば、これらプランジャポンプの下流に配置してもよい。
【0033】
更に、当該ポンプ100gは、洗浄液Hが流通する洗浄液管92と流体導通可能に接続している。そして、当該洗浄液管92の他端は、プランジャポンプ100a(より詳しくは、後述する洗浄液流入口184)に接続している。更に、プランジャポンプ100a(より詳しくは、後述する洗浄液流出口186)とプランジャポンプ100b(より詳しくは、後述する洗浄液流入口184)とは、互いに洗浄液管92と流体導通可能に接続している。以後、プランジャポンプ100b及びプランジャポンプ100c、プランジャポンプ100c及びプランジャポンプ100d、プランジャポンプ100d及びプランジャポンプ100e、プランジャポンプ100e及びプランジャポンプ100fも同様に、互いに洗浄液管92と流体導通可能に接続している。そして、プランジャポンプ100f(より詳しくは、後述する洗浄液流出口186)は、洗浄液排出管93と流体導通可能に接続している。このような構成を採ることにより、プランジャポンプ100aの上流から送液された洗浄液が、プランジャポンプ100a〜100fの裏側(プランジャの外周面)を洗浄した後、洗浄液排出管93から排出されることになる。
【0034】
ここで、裏洗浄のための洗浄液Hは、分析結果に影響を及ぼさない液体であれば何でもよく、好適には蒸留水である。また、夫々のプランジャポンプ100が送液する液体を洗浄液として用いてもよい。但し、サブppbレベル以下の微量金属成分の分析を行う際には、洗浄液中の不純物金属含有量を分析感度の1/1000以下(好適には1/10000以下、より好適には1/100000以下)にする必要がある(例えば100pptレベルの分析を行うためには、100ppb以下とする必要がある)。ppmやサブppmオーダーといった通常量の金属分析の場合には、このような洗浄液を使用する必要は無いが、サブppbレベル以下の微量金属分析の場合には、このようなレベルの洗浄液を用いることで、ポンプ由来の汚染に起因した分析不能状態(波形が安定しない状態)をより確実に回避することが可能となる。
【0035】
尚、本最良形態では、すべての送液用ポンプ(サンプル液用、キャリア液用及び試薬用)におけるプランジャを裏洗浄するように構成したが、これに限定されず、任意の一つ又は任意複数の組み合わせに係るプランジャのみを裏洗浄するように構成してもよい。
【0036】
次に、図2を参照しながら、本最良形態に係るプランジャポンプ100の裏洗浄機構について説明する。
【0037】
はじめに、本発明の特徴である裏洗浄機構が取り付けられたプランジャポンプ100の構造の概要を説明する。ここで、図2(a)は、プランジャ112をポンプ室140から外方に移動させた状態を示す図であり、図2(b)は、プランジャ112をポンプ室140内に押し込んだ状態を示す図である。
【0038】
まず、プランジャポンプ100には、プランジャ112が備えられている。そして、当該プランジャ112は、シリンダ138内へ挿通可能となっている。
【0039】
また、プランジャ112の一端部には、シャフト118が連結している。そして、このシャフト118には、延長シャフト120が連結されている。当該クランク機構を通じ、モータ122からの回転力がシャフト124及びリンク126を介して延長シャフト120に伝達される結果、シャフト118を往復移動させる動力へと変換されることになる。これにより、シャフト118と一体に連結されたプランジャ112は、シリンダ138内をシリンダ138の軸方向に沿って往復移動可能となっている。
【0040】
一方、シリンダ138の一端側の内周壁には、円筒状のパッキン128が配置されており、プランジャ112の外周面が摺動可能となっている。即ち、パッキン128は、ポンプ室140をシールすることにより、ポンプ室140内の液体がプランジャ112の後方(プランジャ112をポンプ室140から後退させる方向)に漏れることを防止している。
【0041】
そして、シリンダ138の先端部(プランジャ112の先端部側に位置する側)には、プランジャ112の先端部が往復移動可能なポンプ室140が形成されている。
【0042】
このポンプ室140は、シリンダ138に設けられた吸込流路142及び吐出流路144と連通している。そして、吸込流路142に形成された吸込口146から液体が吸込まれ、ポンプ室140を経て、吐出流路144に形成された吐出口148から液体が吐出可能となっている。
【0043】
ここで、吸込流路142及び吐出流路144には、弁体(吸い込み側逆止弁、吐出側逆止弁)としてのルビーボール150、152が収容されており、吸込口146及び吐出口148を閉塞可能な大きさとなっている。また、吸込流路142及び吐出流路144には、コイルスプリング154、156が配設されており、ルビーボール150、152をそれぞれ吸込口146及び吐出口148側へ付勢している。尚、本最良形態のように、液を下方から導入し上方から排出するように構成した場合、コイルスプリングが無くとも、ルビーボール150、152には、自重により穴を塞ぐ方向への力が作用する。したがって、この場合にはコイルスプリングは不要である。
【0044】
次に、本発明の特徴部分である、プランジャ112の外周面を洗浄するためのプランジャ洗浄部材180を詳述する。プランジャ洗浄部材180は、シリンダ138と接触した形で、プランジャポンプ100に取り付けられている。尚、プランジャ洗浄部材180とシリンダ138とは、例えばネジの手段により、両者間に隙間が生じないよう固定されている。そして、このプランジャ洗浄部材180には、プランジャ112の外周面に沿って形成された略円筒状空間であるプランジャ洗浄部182が存在する。そして、当該プランジャ洗浄部182は、プランジャ洗浄部材180に設けられた、洗浄液Hを流入させるための洗浄液流入口184及び洗浄液Hを流出させるための洗浄液流出口186と流体導通可能に連絡している。ここで、洗浄液流入口184は、下方(鉛直方向下側)に配置し、洗浄液流出口186は上方(鉛直方向上側)に配置することが好適である。このように構成すると空気が内部に侵入することを回避することができるからである。尚、プランジャ洗浄部182を形成する部材端部180aとプランジャ112との間には、プランジャ112が摺動可能な程度の隙間が存在する。しかしながら、その隙間は僅かであり、更には当該部材端部180aの外側(プランジャ洗浄部182の外側)には、パッキン128及び188が配されている。したがって、当該部材端部180aから外側(プランジャ洗浄部182の外側)に抜ける洗浄液の量は、存在していてもごく僅かである{尚、図示しないが、プランジャ洗浄部材180及びパッキン188の左側には、これらを押え付ける部材が存在している(これにより、パッキン188が左側にずれることが防止される)}。したがって、洗浄液流入口184から導入された洗浄液は、プランジャ洗浄部182内で剥き出しになったプランジャ112の外周面を洗浄した後、実質的にすべて、洗浄液流出口186から排出されることになる。そして、プランジャ洗浄部182に、連続的又は適当な間隔で洗浄液Hを流通させることにより、プランジャ112の外周面に付着した液体又は固体を流れ落とすことが可能となる。
【0045】
尚、当該プランジャポンプ100が送液する液体の粘性が強い場合、図示しない機構により、プランジャ洗浄部182に洗浄液が流入する速度(流速)を上げてもよい。
【0046】
ここで、本発明に係る裏洗浄機構が取り付けられた送液用ポンプにおける、液体と接触する接液部は、分析対象成分がサブppbオーダー以下の微量金属である場合には、非金属製であることが好適である。ここで、「非金属」とは、金属以外のすべての材質を指し、例えば、セラミック(例えば、サファイア等の酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム)、樹脂、ダイアモンドを挙げることができる。前述のように、微量金属成分の分析を行う際には、洗浄液中の不純物金属含有量を分析感度の1/1000以下にする必要がある(例えば100pptレベルの分析を行うためには、100ppb以下とする必要がある)。しかしながら、洗浄液だけこのような汚染の無いものを使用しても、当該ポンプの接液部が金属製である場合には、当該接液部からの溶出金属による汚染の危険性がある(ppmやサブppmオーダーといった通常量の金属分析においては当該問題は発生しない)。そのような状況下、プランジャ、シリンジ、プランジャ洗浄部材、ボール、スプリングといった接液部の少なくとも一部(好ましくはすべて)を非金属製で構成すると、当該部からの、サブppbレベル以下の微量金属を分析する上で問題を生じる程度の金属汚染を回避することが可能となる。尚、液と接触しない、シャフト118、シャフト120、リンク126、シャフト118の左右方向への移動を規定する案内部材114は、どのような材質でもよく、強度等の点から金属製であることが好適である。
【0047】
次に、図2(a)及び図2(b)を参照しながら、本最良形態に係る裏洗浄機構の作用を説明する。はじめに、裏洗浄機構の作用の前に、プランジャポンプ100の作用を説明する。
【0048】
まず、図2(a)に示すように、モータ122が回転すると、シャフト124、延長シャフト120及びリンク126を介して、シャフト118が、モータ122側へ引き寄せられる。その結果、プランジャ112の先端部は、ポンプ室140内から引き抜かれる方向へ移動する(往移動)。この際、ポンプ室140内では、吸引力が生じ、吸込流路142及び吐出流路144内に配置されたルビーボール150及び152が、それぞれポンプ室140側へ向かって移動する。その結果、吸込流路142内のルビーボール150は、コイルスプリング154の付勢力の抗する方向へ向かって浮き上がり、吸込流路142と吸込口146とが連通すると共に、吐出流路144内のルビーボール152は、吐出口148へ引き寄せられ、吐出口148が閉塞される。このように、プランジャ112の先端部が、ポンプ室140内から引き抜かれる方向へ移動(往移動)すると、吸込口146及び吸込流路142を経て、ポンプ室140内に液体が流入する。
【0049】
他方、図2(b)に示すように、モータ122が更に回転すると、シャフト124、延長シャフト120及びリンク126を介して、シャフト118が、モータ122側から押し出される。その結果、プランジャ112の先端部が、ポンプ室140内へ押し込まれる方向へ移動する(復移動)。この際、ポンプ室140内には、押圧力が生じ、吸込流路142及び吐出流路144内に配置されたルビーボール150及び152が、それぞれポンプ室140から離間する方向へ移動する。その結果、吸込流路142内のルビーボール150は、吸込口146側へ向かって押圧され、吸込口146が閉塞されると共に、吐出流路144内のルビーボール152は、コイルスプリング154の付勢力の抗する方向へ向かって押圧され、吐出流路144と吐出口148とが連通する。このように、プランジャ112の先端部が、ポンプ室140内へ押し込まれる方向へ移動(復移動)すると、ポンプ室140内に流入された液体が、吐出流路144及び吐出口148を経て吐出される。
【0050】
次に、本最良形態に係る裏洗浄機構の作用を説明する。まず、図2(a)の状態(往移動状態)で、洗浄液流入口184から洗浄液がプランジャ洗浄部182に導入された場合、当該洗浄水は、プランジャ112の外周面と接触しながら、図の上から下へ移動した後、洗浄液流出口186から排出される。これにより、プランジャ112を引き込んだ際に、例えばパッキン128が劣化している等の理由で、ポンプ室140内の液体がシリンダ138内に侵入したとしても、当該侵入した液体(プランジャ112の外周面に付着した液体)はこの洗浄液により洗浄される。
【0051】
同様に、図2(b)の状態(復移動状態)で、何らかの理由によりパッキン188の外側に存在していた固体(例えば、試薬の結晶)がプランジャ洗浄部182に導入された場合にも、当該侵入した固体は、この洗浄液により洗浄される。
【0052】
ここで、本最良形態に係る裏洗浄機構は、プランジャが駆動されている限り、どのようなタイミングでも作動可能に構成されている。したがって、分析の初期だけ洗浄液を流してプランジャを洗浄する場合、分析中継続して洗浄液を流してプランジャを継続して洗浄する場合、分析中断続的に洗浄液を流してプランジャを断続的に洗浄する場合、のいずれにも対応可能である。
【実施例】
【0053】
図1及び図2を参照しながら、本実施例に係る装置及び分析方法について説明する。但し、本実施例に係る装置は、図1の構成と略同一であるが、前処理手段を有していない。また、本実施例に係るポンプも、図2に示した構成と略同一であるが、コイルスプリング154及び156を有していない。ここで、接液部であるシリンダ138及びプランジャ洗浄部材180はPEEK製であり、プランジャ112は酸化アルミニウム製であり、ボール150及び152はルビー製である。また、接液部でない、シャフト118、シャフト120、リンク126、シャフト118の左右方向への移動を規定する案内部材114は、金属製である。また、サンプルS、キャリア液C、酸化剤液O、発色試薬液R、緩衝液Bの送液には、旭テクネイオン株式会社製ダブルプランジャポンプを用いた。ここで、サンプルSとしては、鉄を含まない酸性水溶液(ブランク)及び500pptの鉄を含む酸性水溶液をそれぞれ流量100μl/minで流した。キャリア液Cとしては、密封容器(酸素透過度:0.8cc/m2・d・atom)に封入されている0.97mol/lの硫酸アンモニウム水溶液(酸素含有量:2.5ppm)を用い、流量100μml/minで流した。酸化液Oには、密封容器(酸素透過度:0.8cc/m2・d・atm)に封入されている0.3%の過酸化水素水(酸素含有量:2.5ppm)を用い、流量100μml/minで流した。発色試薬液Rには、密封容器(酸素透過度:0.8cc/m2・d・atm)に封入されている4mmol/lのN,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン(酸素含有量:2.5ppm)を用い流量100μl/minで流した。緩衝液Bには、密封容器(酸素透過度:0.8cc/m2・d・atm)に封入されている1.3mol/lの酢酸アンモニウム水溶液(酸素含有量:2.5ppm)を用い、流量100μl/minで流した。サンプル計量管(インジェクションバルブ)には、内径0.8mm、長さ160cmのチューブを用いた。サンプル液S、酸化液O、発色試薬液R、緩衝液Bを、内径0.8mm、長さ2mの反応管で混合した。この混合液を温度調節器で35℃に保った。そして、この着色溶液の吸光度を検出器17(吸光光度計)により最大吸収波長514nmで測定を行った。流路構成には内径0.8mmのチューブを用いた。
【0054】
ここで、使用したプランジャポンプのすべてのパッキンを、ある程度傷んだものに置き換えた。これにより、プランジャが汚染され易い状況を人工的に構築した。その後、当該システムを作動させてそれぞれのポンプを一旦駆動させ、人工的にプランジャを汚染させた。その後、当該作動を停止してそのまま1週間放置し、プランジャ上に付着した当該液体を乾燥させた。
【0055】
次に、(a)鉄を700ppb含有する洗浄液で裏洗浄を行い分析、(b)鉄を500ppt含有する洗浄液で裏洗浄を行い分析、の試験を実行した。その結果を図3に示す。ここで、図3(a)及び(b)は、それぞれ上記(a)及び(b)の結果である。当該図から分かるように、(a)の場合には、波形が著しく安定せず(右上がり)分析が不能状態であった(図中の左点線部がブランクであり、図中の右点線部が鉄濃度:500pptである)のに対し、(b)の場合には、波形が安定し(ほぼフラット)分析が可能になることが立証された(図中の左点線部がブランクであり、図中の右点線部が鉄濃度:500pptである)。尚、裏洗浄をせずに同様の分析をしたが、この場合も上記(a)のような傾向を示し、同じく分析不能であった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、本最良形態に係るフローインジェクション分析システム(+裏洗浄液ライン)の構成の概観図である。
【図2】図2は、本最良形態に係るプランジャポンプ(+裏洗浄機構)を示す図であり、プランジャの往復移動の様子を示した図である。
【図3】図3は、本実施例における、裏洗浄の効果確認試験の結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャの往復移動によって液体の吸い込み及び吐き出しを行う液体送液用ポンプと、前記液体送液用ポンプが送液した前記液体を含有する分析対象液中の所定成分を分析する分析部と、を備えた分析システムにおいて、
前記分析システムは、
前記プランジャの前記往復運動が可能な形で前記プランジャの外周面を包囲するように取り付けられた、プランジャ洗浄部材を更に有しており、
前記プランジャ洗浄部材は、
洗浄液を流入するための洗浄液流入口と、
前記洗浄液を流出するための洗浄液流出口と、
前記洗浄液流入口及び前記洗浄液流出口と液体導通可能に連絡している、前記プランジャの外周面が剥き出しとなった空間であるプランジャ洗浄部とを備えている、
ことを特徴とする分析システム。
【請求項2】
前記分析システムは、
複数の前記液体送液用ポンプと、
複数の前記液体送液用ポンプのそれぞれに備えられた、複数の前記プランジャ洗浄部材と、
前記複数の前記プランジャ洗浄部材の、前記洗浄液流入口及び前記洗浄液流出口同士を相互に洗浄液管で接続することにより、前記複数の前記プランジャ洗浄部材が液体導通的に1ラインに配された、洗浄液ラインと、
前記複数の前記プランジャ洗浄部材を経由して、前記洗浄液ラインの上流から下流まで洗浄液を送液するための洗浄液送液用ポンプと
を備えている、請求項1記載の分析システム。
【請求項3】
前記洗浄液は、蒸留水又は前記液体送液用ポンプが送液する液体である、請求項1又は2記載の分析システム。
【請求項4】
前記分析システムが、高感度分析システム、例えば、フローインジェクション分析装置(FIA)、シーケンシャルインジェクション分析装置(SIA)、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)、原子吸光分析装置(AA)、気−液クロマトグラフ装置(GLC)、高速液体クロマトグラフ装置(HPCL)又はイオンクロマトグラフ装置(IC)である、請求項1〜3のいずれか一項記載の分析システム。
【請求項5】
前記液体送液用ポンプが液体と接触する接液部が非金属製である、請求項1〜4のいずれか一項記載の分析システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−164301(P2008−164301A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350614(P2006−350614)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(501210065)株式会社フィアモ (8)
【Fターム(参考)】