説明

逆止弁

【課題】 耐熱性を向上するとともに、高温使用に伴う「シール部材への栓体の張り付き」という課題を解消することで、高温条件下においても使用することができる逆止弁を提供する。
【解決手段】 第1ボディ2に設けられた流体通路2aの開口を付勢部材7により付勢された栓体5がシール部材4に当接することで遮断状態が得られている。シール部材4が二次加硫されたパーフロロエラストマー製パッキンとされている。栓体5に、シール部材4に線接触する環状のシール部6が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、逆止弁に関し、特に、200℃を超えるような高温条件での使用に適した逆止弁に関する。
【背景技術】
【0002】
逆止弁として、特許文献1には、本体に設けられた流体通路の開口を付勢部材により付勢された栓体がシール部材としてのOリングに当接することで遮断状態とし、本体の流体通路内に所定値以上の流体圧が負荷された際に、栓体が付勢部材の付勢力に抗して移動することで開放状態とするものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平3−597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
配管に流すガスの液化を防するためなどに、高温に維持される装置で使用される逆止弁では、耐熱性が求められるが、上記特許文献1の逆止弁は、Oリングの耐熱性が十分ではないため、高温条件下での使用には適さないという問題があった。
【0005】
高温条件下で使用するには、シール部材として、Oリングに代えて、耐熱性に優れたパッキンを使用することが考えられる。しかしながら、高温条件下で使用するには、高温使用に伴う「シール部材への栓体の張り付き」という問題があり、単に、耐熱性を向上するだけでは、200℃を超えるような高温条件下での使用に適した逆止弁を得ることはできない。
【0006】
この発明の目的は、耐熱性を向上するとともに、高温使用に伴う「シール部材への栓体の張り付き」という課題を解消することで、高温条件下においても使用することができる逆止弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による逆止弁は、本体に設けられた流体通路の開口を付勢部材により付勢された栓体がシール部材に当接することで遮断状態とし、本体の流体通路内に所定値以上の流体圧が負荷された際に、栓体が付勢部材の付勢力に抗して移動することで開放状態とする逆止弁において、シール部材が二次加硫されたパーフロロエラストマー製パッキンとされ、栓体に、シール部材に線接触する環状のシール部が形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
高温条件下において使用可能とするため、シール部材がパーフロロエラストマー製パッキンとされる。これにより、耐熱性が確保される。パーフロロエラストマーとしては、例えばカルレッツ(登録商標)が挙げられる。栓体は、ステンレス鋼などの適宜な金属製とされる。
【0009】
本発明者は、シール部材への栓体の張り付きに着目し、種々解析を行った結果、この張り付きを小さくするための構成として、上記構成を得たものである。
【0010】
二次加硫は、成形品を炉内で200℃程度の高温で数時間から数十時間加熱することで、通常は、不純物除去のための工程として行われている。パーフロロエラストマーは、優れた耐薬品性と耐熱性を有し、さらにゴムと同等の弾力性を備えている。特に、その耐熱性は優れており、300℃近くの高温においてもゴムと同等の弾力性を保持することができ、且つ、脱ガスも少ないという利点を有している。
【0011】
この発明の逆止弁によると、栓体に、シール部材に線接触する環状のシール部が形成されていることに加えて、シール部材の材料として、パーフロロエラストマーを採用し、昇温後に自然冷却という条件においては、線接触+パーフロロエラストマーとするだけでは十分に小さくならないシール部材への栓体の張り付きについて、パーフロロエラストマーを二次加硫することで、この張り付きが十分なレベルにまで低下したものとなっている。
【0012】
栓体は、開放状態の流体の通路となる流体逃がし通路が形成された円柱部と、円柱部の先端側に連なって設けられて本体の開口を塞ぐ小径円板部とを有し、栓体の環状シール部は、円柱部の先端側の面において径方向外側にのびる第1傾斜面と第1傾斜面に連なって径方向外側にのびる第2傾斜面とによって形成されていることが好ましい。
【0013】
このようにすると、線接触する環状のシール部を有する栓体の製作が容易なものとなる。
【0014】
シール部材は、本体の流体通路の開口縁部と栓体の環状シール部との間に介在される円板部を有しており、環状シール部による円板部の潰し代が0.05mm〜0.15mmとされていることが好ましい。
【0015】
潰し代は、付勢部材によって付勢される前の厚みと付勢部材によって付勢された後の厚みとの差であり、潰し代が0.05mm〜0.15mmは、潰し代/付勢される前の厚みで表される比率としては、5.5%〜17%となる。
【0016】
このようにすると、適正なシール力を確保して、シール部材への栓体の張り付きを小さなものとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の逆止弁によると、シール部材が二次加硫されたパーフロロエラストマー製パッキンとされ、栓体に、シール部材に線接触する環状のシール部が形成されているので、昇温後に自然冷却した際に起こるシール部材への栓体の張り付きをなくすことができ、この結果、高温条件下において使用するのに適したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、この発明による逆止弁の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図2は、この発明による逆止弁の栓体を示す縦断面図で、(b)は、(a)の要部である環状シール部を拡大した図である。
【図3】図3は、この発明による逆止弁の栓体とシール部材との位置関係を示す拡大縦断面図である。
【図4】図4は、逆止弁の比較例の栓体を示す縦断面図で、(b)は、(a)の要部である環状シール部を拡大した図である。
【図5】図5は、逆止弁の比較例の栓体とシール部材との位置関係を示す縦断面図である。
【図6】図6は、この発明による逆止弁の「開き始めの圧」の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。以下の説明において、左右は、図1の左右をいうものとする。
【0020】
この発明による逆止弁(1)は、図1に示すように、流体通路となる左側の小径内周面(2a)および右側の大径内周面(2b)を有する筒状の第1ボディ(本体)(2)と、左側の大径内周面(3a)、右側の小径内周面(3b)およびこれらの間にある中間径の中間内周面(3c)を有し第1ボディ(2)にねじ結合された筒状の第2ボディ(3)と、第1ボディ(2)の小径内周面(2a)と大径内周面(2b)との間の環状段差部(2c)で受けられた環状のシール部材(4)と、環状のシール部(6)を介してシール部材(4)に右側から当接する栓体(5)と、栓体(5)を左方に(シール部材(4)に向けて)付勢する付勢部材(7)と、第1ボディ(2)と第2ボディ(3)との間をシールするグランドパッキン(8)とを備えている。
【0021】
第1ボディ(2)と第2ボディ(3)とは、第1ボディ(2)の右部外周に設けられたおねじ部と第2ボディ(3)の大径内周面(3a)に設けられためねじ部とのねじ合わせによって結合されている。
【0022】
シール部材(4)は、二次加硫されたパーフロロエラストマー製パッキンとされており、第1ボディ(2)の小径内周面(2a)の開口縁部と栓体(5)のシール部(6)との間に介在される円板部(11)と、円板部(11)の外周縁部から右方にのびる円筒部(12)とからなる。シール部材(4)の外径は、第1ボディ(2)の大径内周面(2b)の内径にほぼ等しく、同内径は、第1ボディ(2)の小径内周面(2a)の内径よりも大きくなされている。
【0023】
栓体(5)は、流体逃がし通路(13a)(13b)(13c)が形成された円柱部(13)と、円柱部(13)の左側(先端側)に連なり円柱部(13)よりも外径が小さい小径円板部(14)と、円柱部(13)の右側(基端側)に連なり円柱部(13)よりも外径が大きい大径円筒部(15)とからなる。
【0024】
栓体(5)は、その小径円板部(14)の外周縁部の左面が第1ボディ(2)の小径内周面(2a)の右端開口縁部に当接させられるとともに、その円柱部(13)の左端外周縁部に設けられた環状のシール部(6)がシール部材(4)の円板部(11)の右面を押圧することで、第1ボディ(2)の小径内周面(流体通路)(2a)の右端開口を遮断状態としている。
【0025】
円柱部(13)の流体逃がし通路(13a)(13b)(13c)は、円柱部(13)の外周面にある流体を大径円筒部(15)内に導くように形成されている。
【0026】
付勢部材(7)は、円筒状の圧縮コイルばねとされており、その左端面は、栓体(5)の円柱部(13)の右面で受けられ、その右端面は、第2ボディ(3)の小径内周面(3b)と中間内周面(3c)との間に形成された段差部(3e)で受けられている。
【0027】
グランドパッキン(8)は、円筒部(16)と、円筒部(16)の左端開口縁部に設けられた内向きフランジ部(17)と、円筒部(16)の右端開口縁部に設けられた外向きフランジ部(18)とからなる。内向きフランジ部(17)は、シール部材(4)の円筒部(12)の右面に当接している。外向きフランジ部(18)は、軸方向に長い略方形状とされて、第1ボディ(2)の左端面と第2ボディ(3)の大径内周面(3a)と中間内周面(3c)との間に形成された段差部(3d)とに挟まれており、第1ボディ(2)と第2ボディ(3)とがねじ合わされた際に、所定量変形させられることで、第1ボディ(2)と第2ボディ(3)との間をシールしている。
【0028】
この逆止弁(1)によると、図1に示す状態では、付勢部材(7)により付勢された栓体(5)のシール部(6)がシール部材(4)の円板部(11)に右方から当接することで遮断状態が得られている。第1ボディ(2)の小径内周面(2a)内には流体が導入され、この流体の圧力が付勢部材(7)による付勢力に比べて小さいうちは、遮断状態が継続される。そして、流体圧が大きくなると、この流体圧によって栓体(5)が付勢部材(7)の付勢力に抗して右方に移動することになり、第1ボディ(2)の小径内周面(2a)の開口から栓体(5)とシール部材(4)との間を通り、栓体(5)の流体逃がし通路(13a)(13b)(13c)から同大径円筒部(15)内を経て、第2ボディ(3)の小径内周面(3b)内に通じる通路ができて、開放状態が得られる。
【0029】
図2に拡大して示すように、栓体(5)のシール部(6)(シール部材(4)に当接する面)は、円柱部(13)の先端側の面において小径円板部(14)との境界から径方向外側にのびる第1傾斜面(6a)と、第1傾斜面(6a)に連なって径方向外側にのびる第2傾斜面(6b)とによって形成されている。
【0030】
図3は、付勢部材(7)によって付勢される前のシール部材(4)と栓体(5)との位置関係を示す図で、同図において、栓体(5)のシール部(6)は、シール部材(4)に線接触しており、潰し代として、C1を有している。この状態で、付勢部材(7)の付勢力が作用すると、栓体(5)が左方に移動して、図1に示すように、栓体(5)の小径円板部(14)の左面(先端面)は、第1ボディ(2)の小径内周面(2a)の開口縁部に当接して、シール部材(4)の左面と面一になる。シール部材(4)は、潰し代のC1分だけ圧縮されることで、シール機能を奏する。
【0031】
図4は、比較例としての栓体(21)を示すもので、この栓体(21)は、流体逃がし通路(23a)(23b)(23c)が形成された円柱部(23)と、円柱部(23)の左側(先端側)に連なる小径円板部(24)と、円柱部(23)の右側(基端側)に連なる大径円筒部(25)とからなる(図2のものと同じ)とともに、栓体(21)のシール部(22)は、円柱部(23)の左面外周縁部の平坦面とされている。
【0032】
図5は、図3で使用されているのと同じシール部材(4)を図4に示した栓体(21)と組み合わせた場合における付勢部材(7)によって付勢される前のシール部材(4)と栓体(21)との位置関係を示す図で、同図において、栓体(21)の環状のシール部(22)は、シール部材(4)に面接触しており、潰し代として、C2を有している。
【0033】
図2および図3に示す実施形態は、図4および図5に示す比較例に対して、高温使用条件下で適したものとなっている。
【0034】
高温使用条件下で適したものとするため、本発明者は、シール部材(4)への栓体(5)(21)の張り付きに着目し、種々の条件下で、開き始めの圧(逆止弁(1)の流体逃がし機能が現れるときの圧力値)を測定した。「張り付き」は、栓体(5)(21)にシール部材(パッキン)(4)が密着することであり、この場合、流体圧によって栓体(5)(21)が移動するためには、付勢部材(7)の付勢力+密着力に相当する流体圧が必要となり、密着力の増加に伴って、開き始めの圧が増大する。
【0035】
上記図3におけるC1を0.1mmとし、図5におけるC2を0.3mmとし、円板部(11)の厚みが0.9mmのシール部材(4)と組み合わせて、これらについて、開き始めの圧を測定した結果の1例を図6に示す。開き始めの圧としては、図1に示す逆止弁(1)の右側から1MPaの圧力を負荷した後、左側から流体を導入してその圧力を徐々に上げていき、第1ボディ(2)の小径内周面(2a)の開口が開いて圧力が低下する直前の流体圧を測定した。
【0036】
図6には、初期設定時(昇温前)、昇温後および自然冷却後(昇温後に自然冷却)の3条件について、図2および図3の形状(線接触タイプ)で二次加硫無し、図2および図3の形状(線接触タイプ)で二次加硫有り、図4および図5の形状(面接触タイプ)で二次加硫無しおよび図4および図5の形状(面接触タイプ)で二次加硫有りの4つのものを評価した結果を示している。
【0037】
図6に示す測定結果によると、張り付きは、昇温+自然冷却後に特に大きく、面接触タイプのものは、この冷却後の張り付きが大きいことが分かる。線接触タイプとすることにより、冷却後の張り付きは小さくなり、面接触タイプの初期設定時と同等のレベルに下げることができる。そして、二次加硫有りとすることで、面接触タイプでも線接触タイプでも張り付きを小さくすることができ、特に、線接触タイプかつ二次加硫有りのものでは、開き始めの圧が小さくかつ条件による変動が小さいものとなっている。
【0038】
この結果から、張り付き(開き始めの圧)を小さくするには、栓体(5)とシール部材(4)とが線接触することが好ましく、シール部材(4)の材料であるパーフロロエラストマーが二次加硫されていることがより好ましいことが分かる。
【0039】
なお、図1には、ボディ(2)(3)が管継手に類似の形状とされたライン逆止弁(1)を図示したが、本発明の逆止弁は、これに限られるものではなく、本体に設けられた流体通路の開口を付勢部材により付勢された栓体がシール部材に当接することで遮断状態とし、本体の流体通路内に所定値以上の流体圧が負荷された際に、栓体が付勢部材の付勢力に抗して移動することで開放状態とするものであれば、本体の形状、流体通路の形状、付勢部材の構成やその他の構成は種々変更可能である。
【0040】
また、実施例での栓体(5)のシール部(6)は、円柱部(13)の先端側の面において小径円板部(14)との境界から径方向外側にのびる第1傾斜面(6a)と、第1傾斜面(6a)に連なって径方向外側にのびる第2傾斜面(6b)とによって形成されているが、第1傾斜面(6a)は、小径円板部(14)との境界よりも外側に寄った位置から径方向外側にのびるように設けられていてもよく、要するに、シール部(6)の形状は、シール部材(4)への接触が線接触となる形状であるならどのようなものでもよく、例えば、図4のシール部(平坦面)(22)の径方向中間部に環状突起を形成するような構造や、シール部(平坦面)(22)の外周部分にのみ突起を形成するような構造でもよい。
【符号の説明】
【0041】
(1) :逆止弁、(2) :第1ボディ(本体)、(4) :シール部材、(5) :栓体、(6) :シール部、(6a):第1傾斜面、(6b):第2傾斜面、(7) :付勢部材、(11):円板部、(13):円柱部、(14):小径円板部、(13a)(13b)(13c) :流体逃がし通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体に設けられた流体通路の開口を付勢部材により付勢された栓体がシール部材に当接することで遮断状態とし、本体の流体通路内に所定値以上の流体圧が負荷された際に、栓体が付勢部材の付勢力に抗して移動することで開放状態とする逆止弁において、
シール部材が二次加硫されたパーフロロエラストマー製パッキンとされ、栓体に、シール部材に線接触する環状のシール部が形成されていることを特徴とする逆止弁。
【請求項2】
栓体は、開放状態の流体の通路となる流体逃がし通路が形成された円柱部と、円柱部の先端側に連なって設けられて本体の開口を塞ぐ小径円板部とを有し、栓体の環状シール部は、円柱部の先端側の面において径方向外側にのびる第1傾斜面と第1傾斜面に連なって径方向外側にのびる第2傾斜面とによって形成されていることを特徴とする請求項1の逆止弁。
【請求項3】
シール部材は、本体の流体通路の開口縁部と栓体の環状シール部との間に介在される円板部を有しており、環状シール部による円板部の潰し代が0.05mm〜0.15mmとされていることを特徴とする請求項1または2の逆止弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−255506(P2012−255506A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129720(P2011−129720)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【Fターム(参考)】