説明

逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システム用洗浄剤組成物

【課題】繰り返し洗濯による生地の脆化を抑制し、かつシミ漂白性を向上しつつ、逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システムに対応した洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システム用洗浄剤組成物であって、炭酸塩を10〜70重量%と脂肪酸石鹸を5〜50重量%含有し、カチオン界面活性剤及びアルカリ剤としての珪酸塩を含有しないものである。洗濯排水を逆浸透膜で処理し、処理した水を洗濯水に用いて洗濯を行う洗濯方法において、前記洗浄剤組成物を洗濯水に投入して洗濯を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯排水を逆浸透膜(RO膜とも称される。以下同じ。)で処理する排水リサイクルを行う洗濯システムに対応した洗浄剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホテル、旅館、病院、レストラン等で使用されるシーツ、タオル、おしぼり等は、一般に、リネンサプライヤーにより顧客に供給され、使用後に回収され、洗濯されている。リネンサプライヤーでの洗濯には、主に横軸回転式のバッチ式洗濯機又は連続式洗濯機が使用されており、大量の水を必要とする。そのため、洗濯に使用する水(井戸水や上水道水)量および洗濯排水(下水道水)量の削減を目的として、逆浸透膜を用いた排水リサイクルシステムを導入するリネンサプライヤーが増加してきている(下記特許文献1参照)。
【0003】
従来、リネンサプライ用の洗浄剤組成物としては、例えば、下記特許文献2に記載されているように、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤と、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、珪酸塩及び炭酸塩等のアルカリ剤と、キレート剤とを含有するものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−232159号公報
【特許文献2】特開2002−138298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
逆浸透膜による排水リサイクルシステムを導入した場合、従来のリネンサプライ用洗浄剤組成物をそのまま用いることはできない。逆浸透膜は通常、膜面がアニオン荷電となっているため、洗浄剤にカチオン界面活性剤が含まれると、カチオン界面活性剤が膜面に吸着して透過流速の低下を引き起こしてしまう。また、洗浄剤に珪酸塩が含まれると、汚れ分等と結合して水不溶物(スケール)を発生して膜面に付着するおそれがある。更に、洗浄剤にシリコーンが含まれると、同様に膜面に吸着して透過流速の低下を引き起こしてしまう。このように、逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システムに対応する洗浄剤組成物としては、カチオン界面活性剤、珪酸塩、シリコーンを含まないことが求められる。
【0006】
そのため、例えば、アルカリ剤として珪酸塩を含まない炭酸塩と、非イオン界面活性剤とを主体とした洗浄剤を用いることが考えられる。しかしながら、炭酸塩と非イオン界面活性剤主体の洗浄剤では、繰り返し洗濯による生地の脆化やシミ漂白性の低下などの問題が新たに生じる。従って、これらの問題点を解消しつつ、上記逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システムに対応した洗浄剤組成物の開発が望まれる。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、繰り返し洗濯による生地の脆化を抑制し、かつシミ漂白性を向上しつつ、逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システムに対応した洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システム用洗浄剤組成物であって、炭酸塩を10〜70重量%と脂肪酸石鹸を5〜50重量%含有し、カチオン界面活性剤及びアルカリ剤としての珪酸塩を含有しないことを特徴とする洗浄剤組成物が提供される。
【0009】
本発明によればまた、洗濯排水を逆浸透膜で処理し、処理した水を洗濯水に用いて洗濯を行う洗濯方法において、前記洗浄剤組成物を洗濯水に投入して洗濯を行うことを特徴とする逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭酸塩と脂肪酸石鹸を所定量組み合わせて用いることにより、逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システムに対応したものでありながら、繰り返し洗濯による生地の脆化を抑制し、シミ漂白性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システムの処理の流れを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0013】
本発明に係る洗浄剤組成物は、アルカリ剤としての炭酸塩と、脂肪酸石鹸を含有するものである。
【0014】
上記炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。好ましくは炭酸ナトリウムを用いることである。炭酸塩の配合量は、10〜70重量%であることが好ましく、より好ましくは30〜60重量%である。炭酸塩の配合量が10重量%未満では、洗濯液のアルカリ度が低く、汚れ落ちや漂白剤によるシミ漂白性が不良となる。逆に70重量%を超えると、洗濯液のアルカリ度が高く、すすぎ性が不良となる。上記配合量は、洗浄剤組成物全体に占める重量比率である。但し、水溶液の場合は水を除く固形分全体に占める重量比率である(下記の各成分の配合量についても同じ)。
【0015】
上記脂肪酸石鹸としては、炭素数8〜22、好ましくは10〜20の飽和又は不飽和の脂肪酸のアルカリ金属塩やアルカノールアミン塩などを用いることができる。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましく、アルカノールアミン塩としては、モノエタールアミン塩、トリエタノールアミン塩が挙げられる。上記脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、カプロレイン酸、ラウロレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の合成脂肪酸、ヤシ油、パーム油、大豆油、菜種油、ココナッツ油、牛脂等の動植物油脂の脂肪酸、あるいはこれら動植物油脂の硬化油、魚油硬化油等の硬化油の脂肪酸、更には上記動植物油脂のエステル交換油等の天然脂肪酸が挙げられ、これらを直接けん化するか、あるいはこれらから誘導される脂肪酸又は合成脂肪酸を中和することによって製造することができる。
【0016】
脂肪酸石鹸の配合量は、5〜50重量%であることが好ましくは、より好ましく10〜40重量%である。脂肪酸石鹸の配合量をこの範囲に設定することで、繰り返し洗濯による生地の脆化を抑制するとともに、シミ漂白性を向上することができる。
【0017】
本発明に係る洗浄剤組成物には、更に、非イオン界面活性剤を配合することができる。上記成分に加えて非イオン界面活性剤を配合することにより、ポリエステルなどの合成繊維に対する洗浄性が向上する。非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。好ましくは、アルキル基の炭素数が6〜14であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いることである。非イオン界面活性剤の配合量としては、5〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜15重量%である。
【0018】
本発明に係る洗浄剤組成物には、更に、キレート剤を配合することができる。上記成分に加えてキレート剤を配合することにより、被洗物から出る汚れ成分の分散などの効果が期待でき、また被洗物に付着した金属分と漂白剤との異常な反応を防止することもできる。キレート剤としては、例えば、ホスホン酸、トリポリリン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、ニトリロトリ酢酸、エチレングリコースビス(2−アミノエチルエーテル)テトラ酢酸、クエン酸、マレイン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸−マレイン酸共重合体、アクリル酸−メタクリル酸共重合体、グルコン酸及びこれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩やアルカールアミン塩)などが挙げられる。キレート剤の配合量としては、5〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは10〜25重量%である。
【0019】
本発明に係る洗浄剤組成物には、上記成分の他、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、例えば、他のアニオン界面活性剤、カルボキシメチルセルロースなどの再汚染防止剤、酵素、蛍光染料など、一般にリネンサプライ用洗浄剤に用いられる他の成分を配合してもよい。
【0020】
本発明に係る洗浄剤組成物は、逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システムに用いられるものであるため、カチオン界面活性剤は配合されない。逆浸透膜は膜面がアニオン荷電となっているため、カチオン界面活性剤が含まれると、カチオン界面活性剤が膜面に吸着して透過流速の低下を引き起こしてしまうからである。
【0021】
本発明に係る洗浄剤組成物には、また、リネンサプライ用洗浄剤に通常配合される珪酸塩も配合されない。珪酸塩が含まれると、汚れ分等と結合して水不溶物(スケール)を発生して膜面に付着するおそれがあるからである。本発明に係る洗浄剤組成物には、更に、シリコーンも配合されない。シリコーンが含まれると、同様に膜面に吸着して透過流速の低下を引き起こしてしまうからである。
【0022】
本発明に係る洗浄剤組成物は、逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システムに用いられる。すなわち、洗濯排水を逆浸透膜で処理し、処理した水を洗濯水に用いて洗濯を行う際に、当該洗濯水に投入して被洗物であるリネンを洗浄するために用いられるものである。
【0023】
図1は、かかる洗濯システムの一例を示す概念図である。図示するように、(1)の洗濯水は、(2)において洗濯機の洗浄槽内で上記洗浄剤組成物が添加されて被洗物であるリネンの洗濯に供される。洗濯後、(3)において洗濯水は洗浄槽から排水され、該洗濯排水は、(4)において活性汚泥処理される。活性汚泥処理により浄化された水は、(5)において逆浸透膜処理され、逆浸透膜を透過した膜処理水は、(6)において井戸水や上水道水とブレンドされて、(1)の洗濯水とされ、上記(2)以下が繰り返される。
【0024】
上記洗濯機としては、特に限定されず、リネンサプライ業において一般に使用されているバッチ式洗濯機や連続式洗濯機などの各種洗濯機を用いることができる。上記活性汚泥処理は、微生物によって水中の有機物を分解し浄化する処理であり、特に限定するものではない。上記逆浸透膜についても特に限定されるものではなく、一般に排水の浄化に使用されているものを用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0026】
下記表1に示す配合に従い、各成分を混合して、実施例及び比較例の洗浄剤組成物を調製した。表中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0027】
・脂肪酸石鹸:ミヨシ油脂(株)製「タンカルCO−50」(主成分:ラウリン酸Na,オレイン酸Na)、
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル:第一工業製薬(株)製「ゲンブLFベース」。
【0028】
実施例及び比較例の各洗浄剤組成物を洗剤として用いて、下記試験方法により生地の脆化率とシミ漂白性を測定した。
【0029】
[生地の脆化率]
・洗濯試験方法
試験機:(株)大栄科学精器製作所製「ターゴトメーター」
試験片:(株)大野製、綿シーツ生地25cm×25cm
試験条件:洗い70℃×15分、100rpm、浴比1:30
洗濯水中の洗浄剤組成物濃度:0.3重量%、
漂白剤として過酸化水素を併用(0.4容量%)
濯ぎ2分×2回、絞り率200%、脱水5分、アイロン掛け
以上の作業を繰り返して行う。
【0030】
・脆化率の測定方法
試験機:オートグラフ(万能材料試験機、インストロンジャパン(株)製「INSTRON5881」)
試験片:洗浄後の綿シーツ生地を20cm×2.5cmに縦及び横方向に裁断したもの、各3枚の計6枚
試験方法:JIS L1096の一般織物試験方法に準じて引張強度を測定、引張速度は15±1cm/分
脆化率の算出方法:
脆化率(%)=(試験前の引張強度−試験後の引張強度)×100/試験前の引張強度
試験片6枚の平均値で算出。
【0031】
[シミ漂白性]
・洗濯試験方法
試験機:(株)大栄科学精器製作所製「ターゴトメーター」
試験片:EMPA社製、生地は全て綿
EMPA112…ココア
EMPA116…血液/ミルク/墨汁
EMPA167…紅茶
試験条件:洗い70℃×15分、100rpm、浴比1:30
洗濯水中の洗浄剤組成物濃度:0.15重量%、
漂白剤として過酸化水素を併用(0.2容量%)
濯ぎ2分×2回、絞り率200%、脱水5分、アイロン掛け。
【0032】
・シミ漂白性の測定方法
試験機:分光型測色計(東京電色製「TC−1500SX」)
試験片:洗浄後の試験片の反射率を測定
シミ漂白性(洗浄効率)の算出方法:
シミ漂白性(%)=(試験後の反射率−試験前の反射率)×100/(白布の反射率−試験前の反射率)。
【0033】
結果は下記表1に示す通りであり、炭酸塩と非イオン界面活性剤を主体とし脂肪酸石鹸を含有しない比較例1に対して、脂肪酸石鹸を配合した実施例であると、繰り返し洗浄後の生地の脆化率が低下しており、また、シミ漂白性も向上した。なお、比較例2は、生地の脆化率及びシミ漂白性ともに比較例1に対して良好であったが、アルカリ剤として珪酸塩を用いたものであるため、逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システムには適さないものであった。
【0034】
【表1】

【0035】
[逆浸透膜による排水リサイクルシステムでの評価]
洗浄剤組成物の配合は、炭酸ナトリウム48.5重量%、脂肪酸石鹸(ミヨシ油脂(株)製「タンカルCO−50」)20重量%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(第一工業製薬(株)製「ゲンブLFベース」)10重量%、トリポリリン酸ナトリウム20重量%、カルボキシメチルセルロース1重量%、及び、蛍光染料0.5重量%とした。
【0036】
逆浸透膜による排水リサイクルシステムを導入しているリネンサプライヤー(洗濯機:三菱重工産業機器(株)製「CR60−12BF」、逆浸透膜設備:日本ピュアウォーター(株)製)において、この洗浄剤組成物を洗剤として用いて洗濯評価を行ったところ、排水リサイクル処理において問題が発生することなく、生地の脆化及びシミ漂白性の点で従来の炭酸塩と非イオン界面活性剤を主体とした洗剤に対して改善効果が認められ、良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システムに利用することができ、特にリネンサプライ業において好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯システム用洗浄剤組成物であって、炭酸塩を10〜70重量%と脂肪酸石鹸を5〜50重量%含有し、カチオン界面活性剤及びアルカリ剤としての珪酸塩を含有しないことを特徴とする洗浄剤組成物。
【請求項2】
非イオン界面活性剤を5〜20重量%と、キレート剤を5〜50重量%含有する請求項1記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
洗濯排水を逆浸透膜で処理し、処理した水を洗濯水に用いて洗濯を行う洗濯方法において、請求項1又は2記載の洗浄剤組成物を前記洗濯水に投入して前記洗濯を行うことを特徴とする逆浸透膜による排水リサイクルを行う洗濯方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−242024(P2010−242024A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94837(P2009−94837)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(594032481)ゲンブ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】