説明

透光性アルミナ原料微粉末の製造方法

【課題】粗粒の割合が小さいアルミナ微粉末を、1つの連続粉砕工程で得ることができる透光性アルミナ原料微粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】純度99.9%以上のアルミナ粒子を、ジェットミル1を用いて粉砕する製造方法において、ジェットミル1における、粉砕ノズル4の流路部46は、略円柱状に形成された高圧ガス流路41と、この高圧ガス流路41と連通し、高圧ガスの噴射方向に直交する断面が、流路部46の径方向に沿うスリット状に形成されているスリット流路42とを備えている。そして、粉砕ノズル4の噴射面43においては、スリット流路42の端部が噴射口44として外界に臨んでいる。これにより、粉砕ノズル4がケーシング2に取り付けられた状態では、この噴射口44が粉砕室14に臨んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平旋回流型ジェットミルを用いた透光性アルミナ原料微粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ等のHIDランプ(High Intensity Discharge lump)の発光管材料として、透光性を有するアルミナ焼結体(透光性アルミナ焼結体)が広く用いられている。
一般的に、透光性アルミナ焼結体は、高純度のアルミナ粒子を粉砕し、得られた透光性アルミナ原料微粉末を成形後、焼結させることにより得られる。
【0003】
アルミナ粒子において、粒子中に不純物(例えば、鉄、ケイ素、ナトリウム等)が多く含有されていると、焼結体に着色が生じたり、焼結が阻害されたりする場合がある。そのため、通常、純度99.9%以上のアルミナ粒子を粉砕して得られる高純度の透光性アルミナ原料微粉末が使用される。
また、透光性アルミナ原料微粉末の粒度分布が狭ければ(シャープであれば)、これを焼結する際、焼結速度が均一となり、結晶中の気孔(ポア)を減らすことができるので、透光性アルミナ原料微粉末中に含まれる粗粒の割合が少ないほど、高透光性を示すアルミナ焼結体を得ることができる。そのため、現在まで、透光性アルミナ原料微粉末中の粗粒の割合を小さくするアルミナ粒子の粉砕方法が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、粗粒(平均粒径1μm以上)の割合が70重量%の高純度のアルミナ粒子(純度99.99%)を、粗粒の割合が12重量%の透光性アルミナ原料微粉末になるまで、高圧ガスの噴射方向における断面が真円状に形成された粉砕ノズルを備えるジェットミルで粉砕した後、粗粒の割合が10重量%未満になるまで振動ミルで粉砕する粉砕方法が提案されている。そして、この方法により得られた透光性アルミナ原料微粉末を焼結させた透光性アルミナ焼結体は、高透光性(波長600nmの光の直線透過率:28%)を示すということが報告されている。
【特許文献1】特開平4−108545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した粉砕方法では、粗粒の割合が小さい透光性アルミナ原料微粉末を得ることができるものの、ジェットミルによる粉砕工程および振動ミルによる粉砕工程からなる2つの粉砕工程を行なわなければならないため、粉砕に要するコストが高くなるという不具合がある。そこで、粉砕効率を低下させずに、1つの連続粉砕工程で透光性アルミナ原料微粉末を得られるアルミナ粒子の粉砕方法の提案が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、粗粒の割合が小さいアルミナ微粉末を、1つの連続粉砕工程で得ることができる透光性アルミナ原料微粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の透光性アルミナ原料微粉末の製造方法は、純度99.9%以上のアルミナ粒子を、水平旋回流型のジェットミルを用いて粉砕する透光性アルミナ原料微粉末の製造方法であって、前記ジェットミルは、前記アルミナ粒子を粉砕するための粉砕室と、前記アルミナ粒子を前記粉砕室に噴射するための供給ノズルと、高圧ガスを噴射して前記粉砕室に水平旋回流を発生させるための粉砕ノズルと、を備え、前記粉砕ノズルの噴射方向に直交する断面は、スリット状に形成されていることを特徴としている。
【0008】
この方法によれば、粉砕ノズルの噴射方向に直交する断面がスリット状に形成されているので、純度99.9%以上のアルミナ粒子が粉砕されずに、粗粒のまま排出口から排出されることを抑制することができる。その結果、粗粒の割合が小さい(平均粒径の小さい)シャープな粒度分布の透光性アルミナ原料微粉末を得ることができる。また、このような透光性アルミナ原料微粉末の製造を、水平旋回流型ジェットミルを用いた1つの連続粉砕工程で行なえるので、製造コストを低減することもできる。
【0009】
また、本発明の透光性アルミナ原料微粉末の製造方法では、前記ジェットミルは、噴射された前記アルミナ粒子が衝突する粉接部を含み、前記粉接部は、アルミナセラミックスを用いて形成されていることが好適である。
粉接部がアルミナセラミックスを用いて形成されていれば、純度99.9%以上のアルミナ粒子が粉接部に衝突し、その衝撃により粉接部の一部がアルミナ粒子に混入しても、アルミナ粒子の純度が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の透光性アルミナ原料微粉末の製造方法によれば、粗粒の割合が小さい(平均粒径の小さい)シャープな粒度分布の透光性アルミナ原料微粉末を得ることができる。また、このような透光性アルミナ原料微粉末の製造を、水平旋回流型ジェットミルを用いた1つの連続粉砕工程で行なえるので、製造コストを低減することもできる。そして、得られた透光性アルミナ原料微粉末を成形し、焼結することによって、結晶が緻密化された高透光性のアルミナ焼結体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の製造方法に使用されるジェットミル1の概略平断面図であって、図2のI−Iで示す切断線の位置で切断したときの断面を示している。また、図2は、本発明の製造方法に使用されるジェットミル1の概略側断面図であって、図1のII−IIで示す切断線の位置で切断したときの断面を示している。
図1および図2を参照して、ジェットミル1は、水平旋回流を発生させてアルミナ粒子を粉砕する水平旋回流型ジェットミルであって、その外殻を構成するケーシング2を備えている。
【0012】
ケーシング2は、その上面に開口(後述する排出口7)を有する略中空円盤状に形成されている。ケーシング2は、リングライナー8と、トップライナー6と、ボトムライナー5とを備えている。
リングライナー8は、ケーシング2の中空部分の内径と同じ大きさの外径を有する略円環形状に形成され、ケーシング2の内周面に沿って取り付けられている。
【0013】
トップライナー6は、ケーシング2の中空部分の内径と同じ大きさの外径を有する略円環形状に形成され、その中央の開口61は、ケーシング2の上面開口(排出口7)の径と略同じ開口径を有している。トップライナー6は、ケーシング2の上面開口(排出口7)の外周と開口61の外周とが合うように、ケーシング2の内上面に沿って取り付けられている。
【0014】
ボトムライナー5は、ケーシング2の中空部分の内径と同じ大きさの外径を有する略円環形状に形成され、その中央の開口51は、トップライナー6の開口61の開口径と略同じ開口径を有している。ボトムライナー5は、トップライナー6の開口61と開口51の外周とが平面視において合うように、トップライナー6に対向してケーシング2の内底面に沿って取り付けられている。
【0015】
そして、ジェットミル1では、ケーシング2におけるリングライナー8、トップライナー6およびボトムライナー5(以下、これらを総称して「ライナー(8、6、5)」とする。)の内側部分が、アルミナ粒子を粉砕するための粉砕室14とされている。
また、ライナー(8、6、5)は、本発明の粉接部に相当し、ライナー(8、6、5)を形成する原料としては、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニアセラミックス、窒化ケイ素セラミックス等、耐摩耗性を有する材料が挙げられ、好ましくは、アルミナセラミックスが挙げられる。ライナー(8、6、5)がアルミナセラミックスを用いて形成されていれば、粉砕室14でアルミナ粒子を粉砕する場合において、耐摩耗性を有することに加え、アルミナ粒子がライナー(8、6、5)に衝突し、その衝撃によりライナー(8、6、5)の一部がアルミナ粒子に混入しても、アルミナ粒子の純度が低下することを抑制することができる。ライナー(8、6、5)の他、本発明の粉接部に相当する要素(ガイド部13、接続管18、分級板19、ベンチュリーノズル31および流路部46)を後述するが、これらの中でも、とりわけライナー(8、6、5)は、アルミナ粒子との衝突面積が大きいので、上記した効果が顕著に現われる。なお、この実施形態では、ケーシング2、ライナー(8、6、5)および粉砕室14が本発明の粉砕室に相当する
また、ケーシング2は、供給ノズル3と、粉砕ノズル4とを備えている。
【0016】
供給ノズル3は、アルミナ粒子を粉砕室14に噴射するためのノズルであって、突出管36と、固気混合管35とを備えている。
突出管36は、ケーシング2と一体的に形成され、ケーシング2の外周面からケーシング2の外側へと突出している。突出管36には、突出管36の遊端から、突出管36、ケーシング2およびリングライナー8を貫通して粉砕室14に達するベンチュリーノズル31(粉接部)が挿入されている。
【0017】
ベンチュリーノズル31は、粉砕室14と後述する固気混合室35とを連通させるノズルであって、流路の途中が絞られた絞り流路39を有している。また、ベンチュリーノズル31は、ライナー(8、6、5)と同様の材料を用いて形成されていることが好ましい。
固気混合管35は、一端が突出管36の遊端に接合された管であって、押込ノズル33と、固気混合室32とを備えている。
【0018】
押込ノズル33は、固気混合管35の他端からその途中まで挿入されている。押込ノズル33が挿入されることにより、固気混合管35内における押込ノズル33の先端と突出管36の遊端との間に、固気混合室32が形成されている。また、押込ノズル33の後端には、エアホース10の一端が接続されており、エアホース10の他端は、高圧ガスを送るための高圧ヘッダー(図示せず)に接続されている。そして、エアホース10と高圧ヘッダー(図示せず)との間には、押込ノズル33への高圧ガスの供給量を調節するためのバルブ(図示せず)が設けられている。
【0019】
固気混合室32は、高圧ヘッダー(図示せず)から送られる高圧ガスとアルミナ粒子とを混合するための空間であって、その上方には、固気混合室32にアルミナ粒子を供給するための砕料導入部34が設けられている。
粉砕ノズル4は、高圧ガスを噴射して粉砕室14に水平旋回流を発生させるためのノズルであって、ケーシング2の周方向沿って互いに間隔を隔てて複数(この実施形態では7つ)設けられている。より具体的には、各粉砕ノズル4は、例えば、隣接する2つの粉砕ノズル4の各中心軸4Cにより形成される狭角Aが20〜60度、好ましくは、30〜50度となるように設けられている。粉砕ノズル4がこのような角度で設けられることにより、粉砕室14に反時計回りの旋回流を発生させることができる。なお、粉砕ノズル4の形状については、図3を参照して後に詳説する。
【0020】
また、各粉砕ノズル4の後端には、エアホース11の一端が接続されており、エアホース11の他端は、エアホース10と接続された高圧ヘッダー(図示せず)に接続されている。そして、エアホース11と高圧ヘッダー(図示せず)との間には、粉砕ノズル4への高圧ガスの供給量を調節するためのバルブ(図示せず)が設けられている。
また、ケーシング2には、その上面に排出口7が形成されている。排出口7は、粉砕室14で粉砕された透光性アルミナ原料微粉末を排出するための開口である。排出口7には、排出管9が接続されている。
【0021】
排出管9は、後述する分級部15の接続管18と接続され、排出口7との接続部から上方に向かって延びている。排出管9の終端には、排出された透光性アルミナ原料微粉末を捕獲するためのバグフィルタ(図示せず)が取り付けられている。排出管9としては、好ましくは、ポリウレタンコーティング、テフロン(登録商標)によるコーティング等が施された鉄製の鉄管等が用いられている。排出管9が、これらのコーティングの施された鉄管であれば、排出される透光性アルミナ原料微粉末に排出管9の鉄成分が混入することを防止できるので、透光性アルミナ原料微粉末を原料とする透光性アルミナ焼結体の透光性の低下を防止することができる。
【0022】
ケーシング2は、さらに、分級部15と、ガイド部13(粉接部)とを備えている。
分級部15は、排出口7に取り付けられ、接続管18(粉接部)と、分級板19(粉接部)とを一体的に備えている。
接続管18は、排出管9の内径と略同じ外径を有する円筒状に形成され、分級部15が排出口7に取り付けられた状態において、排出口7からケーシング2の上方へ突出している。接続管18には、上述したように排出管9が嵌め込まれている。
【0023】
分級板19は、粉砕室14を旋回するアルミナ粒子を分級するための板である。分級板19は、トップライナー6の開口61の開口径と略同じ大きさの外径を有する円筒状に形成され、分級部15が排出口7に取り付けられた状態において、排出口7からトップライナー6を厚み方向に貫通し、その先端が粉砕室14内で先細りのテーパー状となっている。なお、接続管18および分級板19は、ライナー(8、6、5)と同様の材料を用いて形成されていることが好ましい。
【0024】
ガイド部13は、透光性アルミナ原料微粉末を、排出口7へと導くための部位であって、ボトムライナー5の開口51の開口径と略同じ大きさの直径の底面有する円錐状に形成されている。ガイド部13は、その頂部が排出口7に対向するように、ボトムライナー5の開口51を介してケーシング2の内底面に取り付けられている。また、ガイド部13は、ライナー(8、6、5)と同様の材料を用いて形成されていることが好ましい。
【0025】
図3は、粉砕ノズル4の全体図であって、図3(a)は粉砕ノズル4を斜め上方から見た斜視図である。また、図3(b)は粉砕ノズル4の噴射面43を正面から見た正面図である。さらに、図3(c)は粉砕ノズル4の変形例を示す図であって、噴射面43を正面から見た正面図である。
図3を参照して、粉砕ノズル4は、鍔部45と、流路部46(粉接部)とを一体的に備えている。
【0026】
鍔部45は、エアホース11が接続される部位であって、その中央に開口部(後述する高圧ガス流路41)が形成された略円環形状に形成されている。ジェットミル1においては、この鍔部45の一方表面にエアホース11が接続されている(図1および図2参照)。
流路部46は、鍔部45の他方表面から突出し、湾曲傾斜状の尖端部を有する鍔部45よりも小径の略円柱状に形成されている。流路部46の内部には、高圧ガス流路41と、スリット流路42とが形成されている。また、流路部46は、ライナー(8、6、5)と同様の材料を用いて形成されていることが好ましい。
【0027】
高圧ガス流路41は、鍔部45とエアホース11との接続面(鍔部45の一方表面)から流路部46の途中まで達する略中空円柱状に形成された高圧ガスの流路であり、鍔部45を貫通する部分が鍔部45の中央開口部となる。
スリット流路42は、高圧ガス流路41と連通し、高圧ガスの噴射方向に直交する断面が、流路部46の径方向に沿うスリット状(矩形状)に形成された高圧ガスの流路である。このスリット流路42の短辺42aと長辺42bとの比(アスペクト比)は、例えば、1/10であり、好ましくは、1/20である。そして、スリット流路42における高圧ガスの噴射方向の終端(流路部46の尖端部)には、噴射面43が形成されている。
【0028】
噴射面43は、粉砕ノズル4がケーシング2(リングライナー8)に取り付けられた状態において、粉砕室14に臨む面であり、リングライナー8の内周面と同じ曲率半径を有する円弧面となるように形成されている。噴射面43がこのような円弧面となるように形成されることにより、粉砕ノズル4がケーシング2に取り付けられた状態において、粉砕室14の周方向におけるリングライナー8の内周面と噴射面43とを滑らかに繋げることができる。
【0029】
また、噴射面43においては、スリット流路42における高圧ガスの噴射方向の終端が噴射口44として粉砕室14に臨んでいる。高圧ガス流路41およびスリット流路42を流れる高圧ガスは、噴射口44から粉砕室14に噴射される。
そして、上記のような構成を有する粉砕ノズル4は、ジェットミル1において、スリット流路42および噴射口44の長辺42bが粉砕室14の上下方向に沿うように、ケーシング2に取り付けられている(図1および図2参照)。
【0030】
次に、図1および図2に示すジェットミル1により、アルミナ粒子を粉砕して透光性アルミナ原料微粉末を製造する本発明の製造方法の一実施形態について説明する。
この方法では、エアホース10およびエアホース11に設けられたバルブ(図示せず)を開けて、高圧ヘッダー(図示せず)から押込ノズル33および粉砕ノズル4へ高圧ガスを供給するとともに、砕料導入部34にアルミナ粒子を投入する。
【0031】
供給する高圧ガスのガス圧力は、例えば、0.5MPa〜1.5MPaであり、好ましくは、0.7MPa〜1.3MPaである。
砕料導入部34に投入するアルミナ粒子としては、例えば、精製したアンモニウム明礬、擬ベーマイト等を焼成して得られるアルミナ粒子が挙げられ、好ましくは、擬ベーマイトを焼成して得られるアルミナ粒子が挙げられる。
【0032】
一般的に、アルミナ粒子粉砕後の透光性アルミナ原料微粉末中に不純物(例えば、鉄、ケイ素、ナトリウム等)が多く含有されていると、透光性アルミナ焼結体に着色が生じたり、焼結が阻害されたりする場合がある。そのため、本発明では、純度99.9%以上のアルミナ粒子が必要であるところ、アルミナ粒子の原料が擬ベーマイトであれば、アルミナ粒子の純度をより高くすることができる。
【0033】
また、アルミナ粒子の結晶形としては、例えば、α―アルミナおよびα―アルミナと中間アルミナ(γ―アルミナ、θ―アルミナ、η―アルミナ等)との共存体等が挙げられ、好ましくは、熱的に安定なα―アルミナが挙げられる。また、α―アルミナと中間アルミナとの共存体の場合には、例えば、中間アルミナが50重量%未満であり、30重量%未満であることが好ましい。
【0034】
アルミナ粒子の純度は、99.9%以上であり、好ましくは、99.99%以上である。アルミナ粒子の純度がこの範囲であれば、粉砕後の透光性アルミナ原料微粉末を原料として得られる透光性アルミナ焼結体の着色や、焼結の阻害を低減することができる。
アルミナ粒子の平均粒径は、例えば、5μm〜15μmであり、好ましくは、7μm〜9μmである。
【0035】
アルミナ粒子の表面積は、例えば、BET比表面積が2m2/g〜8m2/gであり、好ましくは、3.6m2/g〜6m2/gである。アルミナ粒子のBET比表面積が3.6m2/gより小さいと、アルミナ粒子が粉砕されにくく、得られる透光性アルミナ原料微粉末に含まれる粗粒の割合が大きくなるので、透光性アルミナ焼結体の直線透過率が低下する場合がある。一方、アルミナ粒子のBET比表面積が6m2/gより大きければ、粉砕後の透光性アルミナ原料微粉末を、排出管9を通過させてバグフィルタ(図示せず)で捕獲する際、排出管9に対する透光性アルミナ原料微粉末の付着量が多くなり、ジェットミル1の連続運転時間が短くなるので、生産性が低下する場合がある。
【0036】
砕料導入部43へのアルミナ粒子の供給方法としては、例えば、砕料導入部43に公知の供給機を取り付けて連続的に供給することが好ましい。そのような公知の供給機としては、砕料導入部43へ連続的に供給できる供給機であれば特に制限されず、例えば、振動フィーダー、テーブルフィーダー、ロータリーフィーダー、シェーキングフィーダー、スクリューフィーダー等が挙げられる。
【0037】
そして、粉砕室14においては、各粉砕ノズル4から高圧ガスが噴射されることによって、反時計回り方向の旋回流が発生する。一方、固気混合室32においては、砕料導入部34から供給されたアルミナ粒子と押込ノズル33を介して供給された高圧ガスとが混合される。混合されたアルミナ粒子は、高圧ガスに同伴して絞り流路39を介して粉砕室14に噴射され、粉砕室14に発生している旋回流により粉砕室14を旋回する。
【0038】
粉砕室14を旋回するアルミナ粒子は、その一部が粒子同士の衝突により、また、その他がライナー(8、6、5)に衝突して粉砕される。その後、アルミナ粒子が粉砕されて透光性アルミナ原料微粉末になると、その重さが小さくなり、粒子に掛かる遠心力も小さくなるため、透光性アルミナ原料微粉末が粉砕室14の中心付近を旋回する。そして、粉砕室14の中心付近を旋回する透光性アルミナ原料微粉末は、ガイド部13によって粉砕室14の上方に向けて誘導され、排出口7から排出管9へと排出されて、バグフィルタ(図示せず)で捕獲される。これにより、ジェットミル1で粉砕された透光性アルミナ原料微粉末を得ることができる。
【0039】
この製造方法では、ジェットミル1において、粉砕ノズル4に、高圧ガスの噴射方向に直交する断面がスリット状のスリット流路42が形成されているため、アルミナ粒子が粉砕されずに粗粒のまま排出口7から排出されることを抑制することができる。
その結果、粗粒の割合が小さい(平均粒径の小さい)シャープな粒度分布の透光性アルミナ原料微粉末を得ることができる。また、このような透光性アルミナ原料微粉末の製造を、ジェットミル1を用いた1つの連続粉砕工程で行なえるので、例えば、ジェットミルによる粉砕工程および振動ミルによる粉砕工程からなる2つの粉砕工程を行なう、従来の製造方法に比べて、製造コストを低減することもできる。
【0040】
そして、上記した粗粒の割合が小さい(平均粒径の小さい)粒度分布を有する透光性アルミナ原料微粉末を成形し、焼結することによって、結晶が緻密化された高透光性のアルミナ焼結体を得ることができる。
なお、上述の実施形態において、粉砕ノズル4におけるスリット流路42は、高圧ガスの噴射方向に直交する断面が、流路部46の径方向に沿うスリット状(矩形状)に形成されているとしたが、例えば、図3(c)に示すように、スリット流路42の長辺42bが、その中央において両外側に少し張り出して形成された凸部50を有する形状でもよい。また、例えば、長辺42bが、その両端において両外側に少し張り出して形成された凸部52を有する形状でもよい。その他、スリット流路42は、凸部50や凸部52のような凸部が、その長辺42bの中央および両端以外の位置における両外側に形成される形状でもよく、さらに、それらが1つに限らず、複数形成される形状でもよい。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における「ジェットミル」とは、図1および図2に示した構造を有する水平旋回流型ジェットミル1を示し、比較例における「ジェットミル」とは、水平旋回流型ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製 PJM−280SP)を示している。
実施例1
擬ベーマイトを焼成することにより得られたα―アルミナ(平均粒径9μm BET比表面積4.2m2/g)を、供給量13kg/hで、スリット形状の噴射口および高圧ガス流路を有する粉砕ノズルおよびアルミナセラミックス製のライナー(リングライナー、トップライナーおよびボトムライナー)を備えたジェットミルに供給し、高圧ガス圧力1MPaで粉砕してアルミナ微粉末を得た。得られたアルミナ微粉末100重量部に、イオン交換水98.5重量部、分散剤0.5重量部および硝酸マグネシウムを酸化マグネシウム換算で0.05重量部加え、超音波を照射して分散させた。その後、酢酸ビニル1.5重量部、ポリビニルアルコール0.3重量部、ステアリン酸0.5重量部を添加後、混合してアルミナスラリーを得た。得られたアルミナスラリーを噴霧乾燥して、アルミナ顆粒を得た。
実施例2
擬ベーマイトを焼成することにより得られたα―アルミナ(平均粒径9μm BET比表面積4.2m2/g)を、供給量5kg/hで、スリット形状の噴射口および高圧ガス流路を有する粉砕ノズルおよびアルミナセラミックス製のライナー(リングライナー、トップライナーおよびボトムライナー)を備えたジェットミルに供給し、高圧ガス圧力0.7MPaで粉砕してアルミナ微粉末を得た。得られたアルミナ微粉末から、実施例1と同様の方法によりアルミナ顆粒を得た。
比較例1
特許文献1に記載されている実施例1と同様の方法によりアルミナ顆粒を得た。
評価実験
各実施例で得られたアルミナ微粉末の平均粒径を、レーザー散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社 マイクロトラックHRA)を用いて測定した。その結果を表1に示す。また、アルミナ微粉末のFe含有量を測定した。その結果を表1に示す。
【0042】
また、各実施例および比較例1で得られたアルミナ顆粒を、150MPaの圧力で静水圧成形することにより、直径20mm、厚み1.2mmの円盤状のアルミナ成形体を得た。得られたアルミナ成形体(各実施例分のみ)の成形密度を測定した。その結果を表1に示す。
さらに、得られたアルミナ成形体を、大気雰囲気下、仮焼温度900℃、仮焼時間3時間で仮焼し、次いで、真空下、焼結温度1800℃、焼結時間6時間で焼結してアルミナ焼結体を得た。
【0043】
得られたアルミナ焼結体について、以下の評価を実施した。その結果を表1に示す。
1)焼結密度(各実施例分のみ)
得られたアルミナ焼結体について、下記式を用いて、乾燥重量(W1)、水中重量(W2)および飽水重量(W3)から焼結密度を求めた。
W1×0.9978/W3−W2
なお、上記した各重量(W1〜W3)の定義は下記の通りである。
【0044】
乾燥重量(W1):アルミナ焼結体の乾燥状態での重量
水中重量(W2):アルミナ焼結体の水中での重量
飽水重量(W3):飽水状態になって濡れているアルミナ焼結体の表面を、固く絞ったガーゼで拭った後に測定したアルミナ焼結体の重量
2)試験サンプルの作製
各実施例および比較例1によって得られたアルミナ焼結体を両面ラッピングし、厚み0.85mmに調整して、試験サンプルを得た。
3)直線透過率測定
2)で得られた試験サンプルを、スペクトロメータ(株式会社日立製作所製 U−2000 光源−ヨウ素タングステンランプ 検出器−シリコンフォトダイオード)において、光源スポット径5.5mmφ、波長600nmの光を入射し、そのときの直線透過率を測定した。
【0045】
【表1】

【0046】
考察
表1に示したように、実施例1および実施例2では、アルミナ焼結体の直線透過率が共に29%である。一方、比較例1では、アルミナ焼結体の直線透過率が28%である。その結果、比較例1のように2つの粉砕工程(ジェットミルによる粉砕工程および振動ミルによる粉砕工程)を行なうことなく、1つの粉砕工程(ジェットミルによる粉砕工程)を行なうだけで、直線透過率の優れた高透光性のアルミナ焼結体を得られることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の製造方法に使用されるジェットミルの概略平断面図であって、図2のI−Iで示す切断線の位置で切断したときの断面を示している。
【図2】本発明の製造方法に使用されるジェットミルの概略側断面図であって、図1のII−IIで示す切断線の位置で切断したときの断面を示している。
【図3】粉砕ノズルの全体図であって、図3(a)は粉砕ノズルを斜め上方から見た斜視図である。また、図3(b)は粉砕ノズルの噴射面を正面から見た正面図である。さらに、図3(c)は粉砕ノズルの変形例を示す図であって、噴射面を正面から見た正面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ジェットミル
2 ケーシング
3 供給ノズル
4 粉砕ノズル
5 ボトムライナー
6 トップライナー
8 リングライナー
13 ガイド部
14 粉砕室
18 接続管
19 分級板
31 ベンチュリーノズル
42 スリット流路
44 噴射口
46 流路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度99.9%以上のアルミナ粒子を、水平旋回流型のジェットミルを用いて粉砕する透光性アルミナ原料微粉末の製造方法であって、
前記ジェットミルは、
前記アルミナ粒子を粉砕するための粉砕室と、
前記アルミナ粒子を前記粉砕室に噴射するための供給ノズルと、
高圧ガスを噴射して前記粉砕室に水平旋回流を発生させるための粉砕ノズルと、を備え、
前記粉砕ノズルの噴射方向に直交する断面は、スリット状に形成されていることを特徴とする、透光性アルミナ原料微粉末の製造方法。
【請求項2】
前記ジェットミルは、噴射された前記アルミナ粒子が衝突する粉接部を含み、
前記粉接部は、アルミナセラミックスを用いて形成されていることを特徴とする、請求項1記載の透光性アルミナ原料微粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−229549(P2008−229549A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75068(P2007−75068)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】