説明

透光性物品

【課題】屈折率の互いに異なる隣接2層を1組以上含む透明層の積層体から成る透光性物品であって、2層の屈折率差に起因する2層間の界面での透過光の反射損失、及び/又は、当該界面により生じる干渉縞が解消又は低減され、且つ、ヘイズが上昇することもない透光性物品を提供する。
【解決手段】屈折率の互いに異なる隣接2層を1組以上含む、透明層の積層体から成り、該隣接2層のうちの少なくとも1組の界面には微細凹凸を有する透光性物品であって、
該微細凹凸形状は、可視光の波長帯域の真空中における最小波長をλMIN、該微細凹凸の最凸部における周期をPMAXとしたときに、PMAX≦λMINなる関係を有し、且つ該微細凹凸をその凹凸方向と直交する面で切断したと仮定したときの断面内における該最凸部を形成する側の透明層の断面積占有率が、該微細凹凸の最凸部から最凹部に行くに従って連続的に漸次増加して行き、最凹部において100%になることを特徴とする、透光性物品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機器における表示部の窓材、透明タッチパネル等の表面板、レンズ等の各種光学素子、画像表示装置や画像撮像装置の各種表面板の構成部材、建築物の窓材などに使用され得る透光性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種機器における表示部の窓材、透明タッチパネル等の表面板、レンズ等の各種光学素子、画像表示装置や画像撮像装置の各種表面板の構成部材、建築物の窓材等として、2層の透明層が積層されて成る各種透光性物品が用いられている。例えば、特許文献1には、2層の透明層の積層体から成る透光性物品として、樹脂フィルム基材の片面に電離放射線硬化型樹脂を硬化せしめた表面保護層が形成されている耐擦傷性複合フィルムが開示されている。このように、第1の透明層(樹脂フィルム基材)T1に対して、これに不足する耐汚染性、耐擦傷性等を付与しようとすると、必然的に、第2の透明層(表面保護層)T2は、第1の透明層T1とは異なった材料を選択する必要がある。その結果、第1の透明層T1の屈折率N1と、第2の透明層T2の屈折率N2は通常異なるものとなる。
このように、透光性物品において透明層が2層積層されるのは、通常、同一物質から成る1層のみでは得られる性能に限界があることから、第1の透明層とは異なる物質から成る第2の透明層を積層して、不足する性能を補完する為である。従って、積層される2層は、異なる材質が用いられるため、屈折率も異なることが多い。
【0003】
図13のように、隣接して積層された層T1と層T2の屈折率が、界面Iを境にして不連続的に変化すると、当該界面Iにおいて光の反射が生じる。その結果、まず第一に、入射光LINに対して、界面反射光LRのために透過光が損失するという問題が生じる。より具体的には、入射光LINが界面Iで直接反射した反射光Lr1のほか、層T2内の多重反射の結果の透過光Lt、Lt、・・、Ltnも総合した界面反射光LRにより、透過光が損失する。更に第二に、層T2の表面と裏面(層T1との界面I)との間での多重反射する結果、表面から透過する位相差を持った透過光L2、L4、L6、..Ln+1の干渉により、透過光LOUTが変調されて、干渉縞が発生するという問題が生じる。
【0004】
上記のような干渉縞を解消することを目的として、層T1と層T2とを、その界面I近傍において、相互に溶解、浸透、或いは膨潤させて、界面I近傍における屈折率の不連続性を緩和し、且つ界面近傍において光散乱性を付与する技術が開示されている(例えば、特許文献2)。
例えば、特許文献2の技術を、図13のような2層積層体に適用する場合、透明層T1の表面に、透明層T2を塗布して形成する際に、該透明層T2形成用塗工液の稀釈溶剤(分散媒、或いは未反応単量体等)として透明層T1を溶解(分散、或いは膨潤)させ得る物を用いることにより、図14のように、層T1と層T2との界面I近傍に、層T1の樹脂と層T2の樹脂とが相互に溶解、浸透、或いは膨潤により交じり合った相溶拡散層Idiffusedを形成する。
【0005】
該相溶拡散層Idiffusedにおいては屈折率の不連続性も緩和し、界面反射光自体減少する。更に、層Idiffused近傍においては光散乱を生じ、界面Iから層T2内に入射する光は可干渉性(コヒーレンス)の低下した散乱透過光Iscatterになる。よって、透過光LOUTには干渉縞を生じない。
しかしながら、上述の特許文献2の技術を用いた場合でも、図14からも明らかな様に、相溶拡散層Idiffusedにおける散乱透過光Iscatter、及び散乱反射光Iscatterにより、入射光LINに対する透過光(利用すべき光)の損失が依然として存在する。また、特許文献2の技術においては、相溶拡散層Idiffusedにおける散乱により、曇価(ヘイズ)が上昇する場合がある。画像光を透過させる場合には透過画像に曇りを生じ、鮮明度が低下する場合がある。
【0006】
一方、特許文献3には、裏面に反射防止用の特定の形状を有する微細凹凸が形成されてなる表示装置の窓材が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特公平7−51641号公報
【特許文献2】特開2005−144836号公報
【特許文献3】特開2003−4916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、屈折率の互いに異なる隣接2層を1組以上含む透明層の積層体から成る透光性物品であって、2層の屈折率差に起因する2層間の界面での透過光の反射損失、及び/又は、当該界面により生じる干渉縞が解消又は低減され、且つ、ヘイズが上昇することもない透光性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る透光性物品は、屈折率の互いに異なる隣接2層を1組以上含む、透明層の積層体から成り、該隣接2層のうちの少なくとも1組の界面には微細凹凸を有する透光性物品であって、
該微細凹凸形状は、可視光の波長帯域の真空中における最小波長をλMIN、該微細凹凸の最凸部における周期をPMAXとしたときに、
PMAX≦λMIN
なる関係を有し、
且つ該微細凹凸をその凹凸方向と直交する面で切断したと仮定したときの断面内における該最凸部を形成する側の透明層の断面積占有率が、該微細凹凸の最凸部から最凹部に行くに従って連続的に漸次増加して行き、最凹部において100%になることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る透光性物品によれば、屈折率の互いに異なる隣接2層の界面が上記特定形状の微細凹凸になっていることにより、該界面に到達した光に対して、該微細凹凸部の屈折率は、該微細凹凸部を形成している両媒質の屈折率の平均値として作用する。従って、屈折率の互いに異なる隣接2層の界面における屈折率変化の不連続性は緩和される。更により好ましい形態では完全に連続的に漸次変化する。物質界面における光の反射は、屈折率の不連続的変化で起きるものであるから、該界面の微細凹凸を前記特定のものとすることによって、当該界面における光反射をなくすか低減することができる。従って、2層間の界面での透過光の反射損失、及び/又は、当該界面により生じる干渉縞が解消又は低減される。また、上記のような光の分解能以下の特定の微細凹凸が形成されている場合には、光が散乱されることも無いので、ヘイズ値が上昇することもない。更に、本発明に係る透光性物品においては、上記特定の微細凹凸が内部に形成されており、表面に露出されて無い為、当該微細凹凸が経時で摩耗したり、油汚れ等により凹部充填されることがなく、上述のような効果の低下も起きない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、屈折率の互いに異なる隣接2層を1組以上含む透明層の積層体から成る透光性物品であって、2層の屈折率差に起因する2層間の界面での透過光の反射損失、及び/又は、当該界面により生じる干渉縞が解消又は低減され、且つ、ヘイズが上昇することもない透光性物品を提供することができる。更に、本発明に係る透光性物品は、経時で上述のような効果の低下が起きないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る透光性物品は、屈折率の互いに異なる隣接2層を1組以上含む、透明層の積層体から成り、該隣接2層のうちの少なくとも1組の界面には微細凹凸を有する透光性物品であって、
該微細凹凸形状は、可視光の波長帯域の真空中における最小波長をλMIN、該微細凹凸の最凸部における周期をPMAXとしたときに、
PMAX≦λMIN
なる関係を有し、
且つ該微細凹凸をその凹凸方向と直交する面で切断したと仮定したときの断面内における該最凸部を形成する側の透明層の断面積占有率が、該微細凹凸の最凸部から最凹部に行くに従って連続的に漸次増加して行き、最凹部において100%になることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る透光性物品によれば、屈折率の互いに異なる隣接2層の界面が上記特定形状の微細凹凸になっていることにより、該隣接2層界面に到達した光に対して、該微細凹凸部の屈折率は、該微細凹凸部を形成している両媒質の屈折率の平均値として作用する。従って、屈折率の互いに異なる隣接2層の界面における屈折率変化の不連続性は緩和される。更により好ましい形態では完全に連続的に漸次変化する。物質界面における光の反射は、屈折率の不連続的変化で起きるものであるから、該界面の微細凹凸を前記特定のものとすることによって、当該界面における光反射をなくすか低減することができる。従って、2層間の界面での透過光の反射損失、及び/又は、当該界面により生じる干渉縞が解消又は低減される。また、上記のような光の分解能以下の特定の微細凹凸が形成されている場合には、光が散乱されることも無いので、ヘイズ値が上昇することもない。更に、本発明に係る透光性物品においては、上記特定の微細凹凸が内部に形成されており、表面に露出されて無い為、当該微細凹凸が経時で摩耗したり、油汚れ等により凹部充填されることがなく、上述のような効果の低下も起きない。
【0014】
以下適宜図面を引用して説明していくが、何れの図面においても、表裏は図面上方を表、図面下方を裏とし、又凹凸は図面上方に突出する場合を凸、図面下方に向かって突出する場合を凹とする。
【0015】
図1は、本発明に係る透光性物品10を概念的に示す断面図である。同図のように、本発明に係る透光性物品10は、屈折率がN1の第1の透明層T1と屈折率がN2の第2の透明層T2との界面Iに上記特定の微細凹凸P12が形成されている。なお、該特定の微細凹凸P12は、本発明に係る透光性物品10では屈折率の異なる2層の透明層の界面に形成される。本発明特有のこの微細凹凸P12は、可視光線の波長以下の大きさの特定の形状の凹凸である。この様な微細な凹凸によって、屈折率の異なる2層の透明層の間での急激で不連続な屈折率変化を緩和し、不連続ではあっても段差の少ない屈折率変化、或いは更に完全に連続的で漸次変化する屈折率変化に変えることが可能となる。そして、光の反射は、物質界面の不連続な急激な屈折率変化によって生じる現象であるから、空間的に連続的に変化する様にした屈折率変化によって、光反射防止効果が得られる。その結果、2層の屈折率差に起因する2層間の界面での透過光の反射損失、及び/又は、当該界面により生じる干渉縞が解消又は低減される。更に、本発明の透光性物品においては、微細凹凸は表面ではなく透光性物品の内部に形成してあるので、使用時に摩耗や、油汚れによる凹部充填等によって微細凹凸形状が鈍って上記効果が低下することもない。
【0016】
なお、本発明に係る透光性物品10は、図2に示されるように透明層が3層以上の積層体であっても良く、その場合において、図2(A)に示されるように、屈折率の互いに異なる隣接2層のうち1組のT2とT3層の間の界面Iのみに上記特定の微細凹凸形状P23が形成されていても良いし、図2(B)に示されるように、屈折率の互いに異なる隣接2層の全ての界面I、I、Iに上記特定の微細凹凸形状P12、P23、P34が形成されていても良い。更に、本発明に係る透光性物品10は、屈折率の互いに異なる隣接2層のうち1組の界面に上記特定の微細凹凸形状P12が形成されているだけでなく、これに加えて図3(A)に示されるように積層体の最表面(図面上方)に上記特定の微細凹凸形状Psurfが形成されていても良いし、図3(B)に示されるように積層体の最裏面(図面下方)に上記特定の微細凹凸形状Prearが形成されていても良いし、更には図3(C)に示されるように積層体の最表面と最裏面の両面に、上記特定の微細凹凸形状Psurf及びPrearが設けられていても良い。このように最表面や最裏面に設けられた上記特定の微細凹凸形状により、該微細凹凸形成面における透明層と空気との間の急激で不連続な屈折率変化を、連続的で漸次変化する屈折率変化に変えることが可能となる。このように最表面及び/又は最裏面にも上記特定の微細凹凸形状を形成する場合には、空間的に連続的に変化する様にした屈折率変化によって、最表面及び/又は最裏面における光反射防止効果が得られるため好ましい。この場合において、透光性物品を使用者が触れる可能性がない最裏面に、微細凹凸を形成する場合には、内部に微細凹凸形状が形成されている場合と同様に、使用時に摩耗や、油汚れによる凹部充填等によって微細凹凸形状が鈍って反射防止効果が低下する事もない。
【0017】
尚、以上の例示は、本発明の透光性物品の態様を限定するものではない。本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0018】
〔微細凹凸〕
図4〜図6は、上記特定の微細凹凸によって得られる屈折率分布の好ましい形態を、概念的に説明する概念図である。先ず、図4は、屈折率の互いに異なる隣接2層(透明層1A及び透明層1B)のうち、一方の透明層1Aが、Z≦0の部分の空間において100%を占め、Z=0におけるXY平面上に、Z軸方向を凹凸方向とする多数の微細凹凸2が形成された状態を示す。該微細凹凸2をその凹凸方向(Z軸方向)と直交するXY平面に平行な面(Z=z)上で切断したと仮定したときの、断面内における該最凸部を形成する側の透明層1Aの断面積占有率は、該微細凹凸の最凸部2tの高さZ=HMAXから最凹部Z=0に行くに従って連続的に漸次0%から増加して行き、最凹部Z=0において100%になる。逆に、Z>0の部分の空間において形成されているもう一方の透明層1Bは、最凹部Z=0においては断面積占有率が0%であり、Z=0から微細凹凸の最凸部2tの高さZ=HMAXに行くに従って連続的に漸次0%から増加して行き、最凸部2tの高さZ=HMAXにおいて100%になる。そして、微細凹凸の最凸部2tから上方、即ちHMAX≦Zの部分の空間においては、もう一方の透明層1Bが100%を占める。なお、透明層1Aにおける断面積占有率とは、透明層1A及び透明層1Bからなる全面積に対する透明層1Aが占有する部分の合計の面積(透明層1Aの占有面積/全面積)をいう。図5において、透明層1Aにおける断面積占有率は、符号nを付した領域が相当する。
【0019】
そして、本発明では、微細凹凸2を、その最凸部2tにおける周期をPMAXとしたときに、このPMAXが、可視光の波長帯域の真空中における最小波長λMIN以下としてある為、微細凹凸形成面への到達光に対しては、媒質(透明層1A、及び透明層1B)の屈折率に空間的な分布があっても、それは注目する波長以下の大きさの分布である為に、その分布がそのまま直接に光に作用せず、それが平均化されたものとして作用する。そして該平均屈折率(有効屈折率とも云う)は、透明層1Aの屈折率nに透明層1Aの断面積占有率(図5参照。符号nの部分の合計面積の全体に対する割合)を掛け、又透明層1Bの屈折率nに透明層1Bの断面積占有率(図5参照。符号nの部分の合計面積の全体に対する割合)を掛けて合計した値となる。即ち、該微細凹凸部の断面積占有率が最凸部から最凹部にかけて連続的変化をすれば、平均屈折率も最凸部から最凹部にかけてnからnに向かって連続的変化をする(図6参照)。本発明の屈折率が互いに異なる透明層の界面おいては、平均化された後の屈折率(有効屈折率)が、光が進行するに従って連続的に変化する様な分布にしてあるため、光の反射を防げるのである。なお、本発明において、最凸部2tにおける周期PMAXとは、隣接する微細凹凸2の最凸部2t間の距離のうち最大の距離であって、個々の微細凹凸が規則的に配置され周期性を有し、隣接する微細凹凸同士間の距離が同一の構成でも良いが、周期性が無く、隣接する微細凹凸同士間の距離が不揃いである構成であっても良い。このように隣接する微細凹凸同士間の距離が不揃いの場合には、最も大きな微細凹凸同士間の距離をPMAXとする。
【0020】
以上について図面を基に、更に詳述する。図4において、光が透明層1B(Z軸の正)の方向から透明層1A(Z軸の負)の方向へ入光して、該透明層1B内部を進み、該透明層1Bと透明層1Aの界面近傍をZ軸の負方向に進行しつつあり、丁度、Z軸座標がzのところに存在するとする。すると、ここのZ=zに居る光にとっては、媒体の屈折率は透明基材が特定の微細凹凸をなす為、厳密には、Z=zにおいてZ軸と直交するXY平面(横断面:水平断面)内において、分布f(x,y,z)を持つ様に見える。すなわち、XY平面内において、透明層1Aの断面部分は屈折率n、その他の部分、具体的には透明層1Bの部分は屈折率nとなる(図5参照)。ところが実際には、光にとっては、その波長(表示装置の視認に関係する光の波長が分布を有する場合は、波長帯域の最小波長λMIN)よりも小さな空間的スケールの屈折率分布は、平均化されたものとして作用する結果、平均化された結果の有効屈折率(平均屈折率)は、前記XY平面内において、屈折率分布f(x,y,z)をXY平面内において積分したもの、となる。その結果、有効屈折率(nef)の分布はzのみの関数nef(z)となる(図6参照)。
【0021】
【数1】

【0022】
よって、もしも、微細凹凸における透明基材の凸部の面積が、凹部に向かって連続的に増大する様な形状であれば、XY平面内における透明層1Aの部分と透明層1Bの部分との面積比がZ軸方向に向かって連続的に変化する為、有効屈折率nef(z)はzに付いての連続関数になる。
一方、屈折率n0の媒質から、屈折率n1の媒質に光が入射する場合を考える。今、簡単の為に、入射角θ=0°(垂直入射)を考える。但し、入射角は入射面の法線に対する角度とする。この場合、媒質界面での反射率Rは、偏光、及び入射角には依存せず、下記の式(2)となる。
【0023】
【数2】

【0024】
従って、(有効)屈折率のZ方向への変化が連続関数であるということは、Z方向(光の進行方向)に微小距離Δzを隔てた2点、Z=zにおける屈折率をn0、Z=z+Δzにおける屈折率をn1、としたときに、Δz→0ならば、n1→n0となり(連続関数の定義より)、よって、式(2)より、R→0となる。
【0025】
なお、ここで、より厳密に言うと、物体中での光の波長は、真空中の波長をλ、物体の屈折率をnとしたときに、λ/nとなり、λよりは一般にある程度小さくなる。従って、真空中の波長を用いてPMAX≦λMINの条件を設計すれば、最低限、隣接2層の媒質1A、1Bの何れかの屈折率が真空中の屈折率(屈折率=1、あらゆる媒質の中で有り得る最低の屈折率)に等しい場合に初めて上記反射防止効果を奏する。即ちこの場合が、媒質によって有り得るPMAXの上限値を与える。
【0026】
通常の殆どの媒質では屈折率nは真空の屈折率よりは大であり、厳密には反射防止の為のPMAXの条件は、PMAX≦λMIN/n(≦λMIN)となり、上記の真空の波長を使った不等式の上限で設計すると、一部の低波長領域で反射防止条件から外れる部分が生じる。但し、その場合においても、完全ではないが、ある程度の反射防止効果を奏し得る。即ち、媒質の屈折率nが真空の屈折率より大となった場合でも、λ/n≧λMINである波長λを持つような充分長波長領域の光に対しては前記、PMAX≦λ/nの条件が成り立つためである。また、PMAX≧λ/nとなる光に対しても少しでは有るが反射防止効果が期待できる為である。
【0027】
但し、勿論、媒質の屈折率nが真空の屈折率より大の場合に、より厳密に数値を設定し、反射防止効果を完全とする必要がある場合には、前記微細凹凸を界面に有する隣接2層の透明層の屈折率のうち、大きい屈折率をn’としたときに、PMAX≦λMIN/n’となるように設定することが好ましい。硝子、アクリル樹脂等、透明層に使われる材料は、通常1.5前後の屈折率である為、屈折率n’の透明基材中の波長(λ/n’)は、0.7λ程度となる。具体的には、λMINを可視光波長帯域の下限380nm、n’を仮に1.5とした場合には、λMIN/n’は250nm、つまりPMAXは250nm以下とすれば良い。
【0028】
次に、微細凹凸の形状は、該微細凹凸をその凹凸方向と直交する面で切断したと仮定したときの断面内における該最凸部を形成する側の透明層の断面積占有率が、該微細凹凸の最凸部から最凹部に行くに従って連続的に漸次増加して行き、最凹部において100%になるような形状であれば、どのような形状でもあっても良い。この為には、微細凹凸の山は少なくともその一部の側面が斜めの斜面を有するものとすれば良く、下記する図7(G)の様に斜面と共に垂直側面がある形状の微細凹凸2Gでも良い。特に、好ましくは、最凸部において最凸部を形成する側の透明層の断面積占有率が0%まで連続的に収束し、且つ最凹部において当該断面積占有率が100%まで連続的に収束する形状とする。具体的には例えば、図7(A)〜図7(G)のような形状が挙げられる。
【0029】
但し、本発明における微小凹凸は、図示は省略するが、例えば垂直断面形状が凸部が窄まった台形であるような、斜面部分に於いては断面積占有率が連続変化し、最凸部や最凹部が平坦な形状であっても良い。この場合、最凸部を形成する側の透明層の断面積占有率は、最凸部において断面積占有率が完全には0%にならず(例えば20%)、斜面部分において最凸部から最凹部に行くに従って、例えば20%から80%まで連続的に漸次増加して行き、最凹部で100%になるときに、例えば80%から100%に不連続に変化する。最凸部と最凸部より上側についても、最凸部を形成する側の透明層の断面積占有率は、例えば20%から0%へと不連続に変化する。しかしながらこの場合においても、或る程度の効果は得られる。即ち、この場合には、最凸部及び最凹部に於いては反射が起きるが、斜面部分に於いては断面積占有率が連続変化する為、前記の反射防止機構が奏効するからである。本発明の微細凹凸の形状は、この様な条件を満たせば、どんな形状でも良い。従って、微細凹凸2の斜面は垂直断面形状で言えば、直線や曲線の他、折れ線、或いは、これらの組合わせ等でも良い。
【0030】
また、有効屈折率nef(z)を空気中から基材中に向かうZ方向の関数として、naからnbに連続的に変化する様にする為には、最凸部を形成する側の透明層が微細凹凸の最凸部において、断面積占有率が0%に収束する図7(A)や図7(C)等のような形状〔すなわち、最凸部が点(立体空間で捉えれば点又は線)となる形状〕で且つ最凹部において該断面積占有率が連続的に100%に収束する形状が最も好ましい。
そして、微細凹凸2の形状の更に好ましい形状としては、その山と谷の尖り具合を規定する。すなわち、図8(A)の垂直断面図でそれを概念的に示すように、微細凹凸2についてその最凸部2tを有する山側Mtの形状2Mtが、最凹部2bを有する谷側Mbの形状2Mbに比べて、より尖った形状を成した形状とする。なお、微細凹凸2を山側Mtと谷側Mbとに二分する境界は、図8(A)の(垂直)断面図で概念的に示すように、微細凹凸2の高さH(最凸部2tと最凹部2bとの高低差)に対して、丁度半分の高さH/2として、高さH/2以上の部分を山側Mt、高さH/2以下の部分を谷側Mbと捉える。
【0031】
そして、山側Mtが谷側Mbよりも「尖った形状」とは、垂直断面で単なる正弦波形状や三角形状等の山側と谷側とが同一形状となる様な中立的な形状に比べて、更に尖った形状という事である。ここで、微細凹凸2をその凹凸方向と平行な面で切断したと仮定したときの垂直断面で形状を概念的に示し図8(A)及び(B)を参照して更に説明すれば、図8(A)のように、高さH/2以上の部分である微細凹凸2の最凸部2tを有する山側Mtの形状2Mtと、高さH/2以下の部分である最凹部2bを有する谷側Mbの形状2Mbとを、図8(B)のように谷側の形状2Mbを上下逆さにして、山側の形状2Mtと重ねてそれら形状を比較した場合に、それらが全く同一で重ならず、山側の形状2Mtの高さH/2における幅Wtが、谷側の形状2Mbの高さH/2における幅Wb、よりも小さく(狭く)、Wt<Wbとなる形状が該当する。なお、形状の尖り具合は、山側Mtの形状2Mtにおいては最凸部を形成する側の透明層1Aの材料部分が占める部分を考え、谷側Mbの形状Mbにおいては当該透明層1Aと隣接する透明層1Bが占める部分を考える。つまり、山と谷では形状の中身が違う。
なお、尖った形状において、その最凸部2t或いは最凹部2bが成す形状は、三角形(立体空間では例えば円錐や四角錐等となる)の頂点〔図7(C)参照〕のように尖点を有する鋭角的形状の他図8(A)、図7(A)に示す丸みを帯びた曲率を有する湾曲形状も包含する。従って微細凹凸の最凸部と最凹部の形状の組合わせは、最凸部及び最凹部が共に尖点の場合、或いは共に曲率を有する場合、或いはどちらか片方が尖点で他方が曲率を有する場合等、いずれでも良い。
【0032】
上述のように本発明では、微細凹凸のサイズ的要素である周期及び高さが同一であったとしても、微細凹凸の形状を上述の様に、最凸部を有する山側の形状を最凹部を有する谷側の形状に比べて、より尖った形状とすることで、光の反射率をより小さくできるのである。例えば、本発明に該当する図7(A)のような微細凹凸2Aでは、図7(B)のような山側と谷側が同じ尖り具合の中立的な形状の微細凹凸2Bよりも、反射防止効果が大きくなる。
【0033】
なお、図7(A)及び図7(B)では、微細凹凸の垂直断面形状が正弦波等の曲線のみによる波形の場合の比較であったが、断面形状が三角形状(より尖った形状とする為には斜面を直線のみで構成する場合、斜面は少なくとも2直線で構成されるので厳密には三角形では無いが、全体として三角形類似形状であるので「三角形状」とする。他も同様。)の微細凹凸の場合でも同じである。すなわち、図7(C)のように山側が谷側よりも尖った形状の微細凹凸2C、図7(D)のように山側と谷側とが同じ尖り具合の形状の微細凹凸2D、図7(E)のように逆に谷側の方が山側よりも尖った形状の微細凹凸2Eを比較した場合、それら微細凹凸の反射率の大小関係は、微細凹凸2Cが最も反射率が小さく、微細凹凸2C<微細凹凸2D<微細凹凸2E、の関係となる。
【0034】
また、本発明による微細凹凸は、その垂直断面形状が、水平面の全ての方向での垂直断面にて、図7(A)や図7(C)のように山側が谷側よりも尖った形状が最も効果的で好ましい。しかし、それらが主体を成し一部の方向のみならば、図7(D)或いは図7(E)のように、山側と谷側の尖り具合が同じ形状、或いは谷側が尖った形状を有していても、相応の効果は得られる。
【0035】
ここで、図9に、図7(C)〜図7(E)の微細凹凸の拡大断面図を示しておく。図9中、微細凹凸2Cは図7(C)に、微細凹凸2Dは図7(D)に、微細凹凸2Eは図7(E)に対応する。各微細凹凸の最凸部2tと最凹部2bとを直線で結ぶ形状が、中立的な形状である微細凹凸2Dである。そして、微細凹凸の高さに対して高さH/2において、本発明に該当する山側が谷側より尖った微細凹凸2Cは、その山側の幅Wtが前記中立的な微細凹凸2Dの山側の幅よりも小さく内側(基材側)となる。逆に谷側が山側よりも尖った微細凹凸2Eは、その山側の幅Wtが前記中立的な微細凹凸2Dの山側の幅よりも大きく外側(空間側)となる。
【0036】
なお、個々の微細凹凸の水平断面形状は、円形(例えば図4)、楕円形、三角形、四角形、長方形、六角形、その他多角形等任意である。また、水平断面形状は、微細凹凸の最凸部から最凹部の全てにわたって同じ(相似形)である必要は無い。従って、微細凹凸の立体形状は、例えば、水平断面形状が円形で垂直断面形状が二等辺三角形状の場合の微細凹凸の立体形状は円錐状に、水平断面形状が円形で垂直断面形状が三角形状の場合の微細凹凸の立体形状は斜円錐状に、水平断面形状が三角形状で垂直断面形状が正三角形の場合の微細凹凸の立体形状は三角錐状に、水平断面形状が四角形で垂直断面形状が三角形状の場合の微細凹凸の立体形状は四角錐状になる。なお、前述したように、上記にて例えば、二等辺三角形「状」とは、例えば、図7(C)や図7(F)等の様に二等辺三角形よりも最凸部がより尖った様な二等辺三角形に類似した形状を意味する。
【0037】
また、微細凹凸の、水平面内における配置は、図4で例示したように二次元的配置の他に、図10(A)の斜視図で例示の直線溝状の微細凹凸2のように、一次元的配置でも良く、どちらも効果は得られる。但し、一次元的配置の場合は、光の波の振幅方向との関係で、反射防止効果が得られる方向と得られない方向とが出る、異方性が発生する。従って、図4の斜視図や図10(B)及び図10(C)の平面図で例示の様な二次元的配置の方が、方向性が全く無い点で好ましい。
【0038】
また、図11の平面図で例示する様に、微細凹凸2を水平面内に二次元的に配置する場合、或る水平面を基準として、隣接する2層のうち透明層1Aが透明層1B側に向かって凸を成す山側Mtと、透明層1Bが占める空間部分が透明層1Aに向かって凸を成す(つまり透明層1A部分が透明層1A側に向かって凹を成し、谷は山を裏返した様な形状)谷側Mbとが、交互に絡み合った二重の格子状に配列された微細凹凸2でも良い。図11では、山側Mtと谷側Mbの水平断面形状は、それぞれ等高線Ltと等高線Lbで描いてある。同心円状の複数の線の等高線Ltは山側Mtを、同心円状の複数の点線の等高線Lbが谷側Mbを表す。この様な山と、山を裏返した様な谷とが共に交互に配置された様な微細凹凸の場合には、山の頂上部分が微細凹凸の最凸部2tであり、谷の谷底部分が微細凹凸の最凹部2bとなる。なお、図中、符号Mcで示した部分は、峠或いは馬の鞍の様な形状をしている鞍部である。また、図中、等高線はあくまでも、山と谷の配置を示す為のものであり、実際の或る等高線が厳密に図示の通りなっている事を示すものでは無い。また、この様な微細凹凸は、前述した図10(B)の水平面への二次元的配置を、円錐状形状の微細凹凸で行った場合の一種でもある(錐と錐との間に谷が形成される)。
【0039】
なお、上述したような本発明による微細凹凸は、その個々の微細凹凸(或いは山や谷)の立体形状が全て同一でも良いが、全て同一で無くても良い。また、個々の微細凹凸2を二次元配置する場合に、周期は、個々の微細凹凸において全て同一でも良いが、全て同一で無くても良い。
【0040】
また、微細凹凸の高さHは、希望する反射率の低減効果と基材表面に入射する可視光帯域の最大波長に応じて決定する。通常、高さHは、その最小高さHMINで、100〜1000nm程度である。但し、本発明の特有の微細凹凸によれば、特開昭50−70040号公報等に記載の従来の考え方からすれば、光の波長以下で反射防止効果が得難いとされる様な高さHであっても、界面での反射防止効果が得られる。例えば、最小高さHMINが250nmでも良好な界面での反射防止性能が得られる。
ここで、微細凹凸の具体的形状及び大きさを例示すれば、形状は垂直断面が正弦波状で水平断面が円形の円錐状の形状のものを多数、二次元的に規則的配置した集合体であり、周期PMAXが50〜450nm、最小高さHMINを前記周期PMAXの1.5倍としたもの等がある。
【0041】
〔透明層〕
本発明に用いられる透明層としては、用途により各種材料が使用でき、通常機械的強度を有する材料が使用されるが、特に制限は無い。ここで透明層とは、光を透過する性質を有すれば良く、ヘイズ5%以下、全光線透過率60%以上であることを目安にすることができる。しかしながら、本発明においては、上記特定形状の微細凹凸が界面に形成される隣接2層の透明層は、屈折率が互いに異なることが前提である。上述したような干渉縞の発生や反射損失が無視できないような2層間の屈折率差は、0.07程度以上である。特に、2層間の屈折率差が0.14以上である場合には、特に干渉縞の発生や反射損失が大きくなり、目立つようになり、本発明を適用することにより、より有効に効果が得られる。
【0042】
透明層に用いられる材料としては、特に限定されず、通常透明基材として用いられるような、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体等のアクリル樹脂〔但し、(メタ)アクリルとはアクリル、或いはメタクリルを意味する。〕、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系高分子(代表的にはノルボルネン系樹脂等があるが、例えば、日本ゼオン株式会社製の製品名「ゼオノア」、JSR株式会社製の「アートン」等がある)等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、セルロース系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、或いは、ガラス(セラミックスを含む)等が挙げられる。
【0043】
また、上記のような通常透明基材として用いられるような透明層に対し、別の機能を付与する層を隣接して形成するために、通常バインダー成分として用いられるような、電離放射線硬化型樹脂組成物及び/又は熱硬化型樹脂組成物も好ましく用いることができる。
【0044】
電離放射線硬化型樹脂組成物には、電離放射線の照射を受けた時に直接、又は開始剤の作用を受けて間接的に、重合や二量化等の大分子化を進行させる反応を起こす硬化反応性官能基を有するモノマー、オリゴマー及びポリマーを用いることができる。具体的には、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合を有するラジカル重合性のモノマー、オリゴマーが好ましく、バインダー成分の分子間で架橋結合が生じるように、一分子内に硬化反応性官能基を2個以上、好ましくは3個以上有する多官能のバインダー成分であることが望ましい。エチレン性不飽和結合を有する場合には、紫外線や電子線等の電離放射線の照射により、直接または開始剤の作用を受けて間接的に、光ラジカル重合反応を生じさせることができるため、光硬化工程を含む取り扱いが比較的容易である。これらの中でも(メタ)アクリロイル基は生産性に優れるため好ましい。しかしながら、その他の電離放射線硬化性のバインダー成分を用いることも可能であり、例えば、エポキシ基含有化合物のような光カチオン重合性のモノマーやオリゴマーを用いてもよい。
【0045】
電離放射線硬化型樹脂組成物は、好ましくは、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレートなどのオリゴマー又はプレポリマー、及び反応性希釈剤を含む電離放射線硬化型樹脂から構成する。上記反応性希釈剤としては、エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、ビニルトルエン、N−ビニルピロリドンなどの単官能モノマー、並びに多官能モノマー、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオンが挙げられる。
【0046】
上記の電離放射線硬化型樹脂を紫外線硬化型樹脂として使用するときは、バインダー中に光重合開始剤として、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、チオキサントン類や、光増感剤としてn−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリn−ブチルホスフィンなどを混合して使用することができる。特に本発明では、オリゴマーとしてウレタンアクリレート、モノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を混合するのが好ましい。光重合開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されており、これらの光重合開始剤も本発明に用いることができる。市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア907(各商品名)等が好ましい例として挙げられる。
【0047】
一方、熱硬化型樹脂としては、加熱によって同一の官能基又は他の官能基との間で重合又は架橋等の大分子量化反応を進行させて硬化させることができる硬化反応性官能基を有するモノマー、オリゴマー及びポリマーを用いることができる。熱硬化型樹脂としては、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、水素結合形成基等を有するモノマー、オリゴマー等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、具体的には、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂等が使用される。これらの熱硬化性樹脂には必要に応じて架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶剤、粘度調整剤等を加えて使用する。
【0048】
また、本発明における透明層は、上述のような熱可塑性樹脂、電離放射線硬化型樹脂組成物及び/又は熱硬化型樹脂組成物を、1種又は2種以上混合して用いて形成されても良い。
なお、透明層の形状は、透光性物品の用途により様々な形状があり得る。例えば、概念図ではあるが図1で例示したような平板状である。また、平板状の場合、可撓性を有するシート状もあり得る。つまり、前述機械的強度とは、剛直に限定されるものではない。また、透明層は、三次元立体物等でも良い。つまり、透光性物品の形状は、三次元立体物でも良い。例えば、表示部の窓材等で例示すれば、反射防止面部分については、上記平板状ではあるが、その周囲にリブ等の窓材取付け用の形状を有する物等が挙げられる。また、基材が平板状の場合の厚さの具体例としては、表示部の窓材等の用途では通常0.5〜2mm程度である。
【0049】
なお、微細凹凸2は透明層の一部を構成するものであるが、該微細凹凸2を含む透明層は、図1に例示の透光性物品10のように、微細凹凸部分も含めて同一材質からなる連続の物体として構成する以外に、図12に例示の透光性物品10のように、微細凹凸2を含む部分(微細凹凸層11)と、微細凹凸を含まない部分(透明層基材12)とからなる例えば2層が密着した構成等としても良い。
【0050】
〔微細凹凸の作製方法〕
微細凹凸2を、隣接2層の透明層の界面に形成する方法としては、本発明では特に限定は無く、従来公知のレンズ等に対して微細凹凸を形成する方法を適宜利用することができる。
第1の透明層を形成する方法としては、例えば、次の(1)〜(7)等が挙げられる。
(1)先ず、ガラス等の物体表面に形成したフォトレジスト膜を、ホログラム、回折格子等の作製等に利用されているレーザ干渉法を利用して干渉縞を露光し、レジスト膜に露光量の粗密を形成し、現像処理後、このフォトレジスト膜存在下で物体をエッチングして、物体表面に微細凹凸を作製し、第1の透明層としても良い。或いは、当該微細凹凸を形成した物体を型として、この型に(或いは該型を原型としてそれから一旦めっき法等で複製型を作製してそれを型としても良い)、光硬化性樹脂を適用して光硬化させる2P法(Photo-polymerization法)、樹脂の射出成形法等を利用して、樹脂層表面に所望の微細凹凸を複製して第1の透明層を形成する(特開2003−149405号公報参照)。
【0051】
(2)ガラス等の物体表面にアルミニウム等の金属薄膜層を蒸着等の薄膜形成手段で形成した後、該金属薄膜層を加熱下で水処理して、酸化物或いは水酸化物に転化することで、金属薄膜層表面に所望の微細凹凸を作製する(特公昭61−48124号公報参照)。更に必要ならば、この金属薄膜層表面を型として、或いは例えば上記(1)の様にめっき法等で複製型を作製してこれを型として、型から2P法等で樹脂層表面に所望の微細凹凸を複製して第1の透明層を形成する。
【0052】
(3)ガラス等の物体表面を、その前後に適宜酸、アルカリ、有機溶剤処理等を組み合わせて、低温プラズマ処理することで、表面に所望の微細凹凸を作製する(特開平3−2801号公報参照)。更に必要ならば、この物体表面を型として、或いは例えば上記(1)の様にめっき法等で複製型を作製してこれを型として、型から2P法等で樹脂層表面に所望の微細凹凸を複製して第1の透明層を形成する。
【0053】
(4)ガラス等の物体表面に、浸漬コート法等で粒径が光波長以下の微粒子を固定させて、少なくとも1粒子層以上(好ましくは1粒子層)の微粒子層を形成することで、該微粒子による、所望の微細凹凸を作製する方法(特開2002−6108号公報参照)。物体表面と微粒子との固定手段には、静電的相互作用等の微弱な力を利用できる。それはナノメートルオーダーの微粒子である為に、微弱力でも固定が可能な為である。更に必要ならば、この微細凹凸を形成した表面を型として、或いは該型表面に例えば上記(1)の様にめっき法等で複製型を作製してこれを型として、型から2P法等で樹脂層表面に所望の微細凹凸を複製して第1の透明層を形成する。
【0054】
上記(4)の形成方法を更に説明すれば、物体表面に上記微粒子を1粒子層で、或いは複数粒子層の場合でもなるべく均一粒子数厚みで固定するには、物体表面に微粒子を接触させる前に該表面を前処理するのが好ましい。該前処理としては、例えば単分子膜等と微粒子径よりも薄い高分子電解質膜を形成する。高分子電解質としては、ポリエチレンイミン4級化物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等のカチオンポリマー、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム等のアニオンポリマー等が用いられる。また、高分子電解質膜は1種の高分子電解質の単層膜でも良いが、より好ましくは互いに極性の異なる2種以上の高分子電解質を積層した多層膜が均一粒子数厚みの点でより望ましい。このような高分子電解質多層膜の形成方法としては、公知の交互吸着膜作製法(例えば、Gero Decherら,Science,vol.277,p1232,1997)を利用できる。この方法は浸漬法を利用し、物体をカチオンポリマー水溶液とアニオンポリマー水溶液とに交互に浸漬して、ナノメートルオーダーの膜厚制御で物体表面に高分子電解質多層膜を形成する手法である。
なお、物体表面への微粒子の固定力強化が望まれるときは、例えば、微粒子が固定後の物体表面を樹脂層で覆っても良い。該樹脂層は単分子層でも効果が得られる。また、該樹脂には上記の様な高分子電解質が利用でき、また層形成も上記の様な浸漬法が利用できる。
また、上記の様に浸漬法を利用すれば、浸漬法での形成対象物体を連続帯状のシート(フィルム)とした場合に、エンドレスの微細凹凸面を形成できるため、生産性の点でも好ましい。また上記シートを透明層として製造することもできる。
【0055】
(5)上記(1)〜(4)に記載の方法を用いて、金属等から成る円筒又は平板上に微細凹凸を形成して成るエンボス版を用意する。一方で、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポチエステル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン樹脂、セルロース系樹脂等から成る熱可塑性樹脂を公知の熔融押出法、キャスティング法、カレンダー法等により製膜して、第1の透明層基体を形成する。公知のエンボス加工法を用いて、該第1の透明層基体上に上記エンボス版を用いて該微細凹凸を賦形する。即ち、該第1の透明層基体を其の軟化温度から融点の間の適当な温度に加熱軟化させる。次いで、該第1の透明層基体上に該エンボス版の微細凹凸面を押圧して、該第1の透明層表面を該微細凹凸形状に賦形(成形)すると共に該第1の透明層を冷却して、賦形形状を固定する。而かる後にエンボス版を離型して、微細凹凸を有する第1の透明層を形成する。
【0056】
(6)上記(1)〜(4)に記載の方法を用い、金属等から成る円筒又は平板上に微細凹凸を形成して成るエンボス版を用意する。一方で第1の透明層を準備する。この場合の第1の透明層は、上記(5)と同様の熱可塑性樹脂を製膜した物でも良いし、エンボス加工適性の無い熱硬化性樹脂でも良いし、或いは硝子、セラミックスでも良い。次に、当該第1の透明層上に、透明樹脂から成るエンボス受容層を形成する。当該エンボス受容層は、エンボス加工適性の有る熱可塑性樹脂であって、且つ第1の透明層と屈折率の同じ樹脂を選択して用いて形成する。これは、エンボス受容層/透明基材層間の界面での光反射を防ぐためである。そして上記(5)と同様にして、公知のエンボス加工法を用いて、該エンボス受容層上に該微細凹凸を賦形し、第1の透明層を形成する。
【0057】
(7)上記(1)〜(4)に記載の方法を用い、金属等から成る円筒又は平板上に微細凹凸を形成して成るエンボス版を用意する。上記(6)と同様に、第1の透明層を準備する。次に、当該第1の透明層上に、電離放射線硬化性樹脂を含有する液状組成物を塗工しエンボス受容層とする。該液状組成物としては、上述したような(メタ)アクリレート系、エポキシ系等の各種の単量体、プレポリマー等の中から適宜選択して用いる。該第1の透明層上の該液状組成物表面に、該エンボス版の微細凹凸面を重ねて押圧して、該微細凹凸形状に該液状組成物を充填、賦形し、その状態で、該液状組成物に電離放射線を照射して、これを架橋、硬化させる。ここで電離放射線は、通常は第1の透明層側からこれを透過して該液状組成物に到達させるが、エンボス版が電離放射線に対して透明な場合には、エンボス版側からの照射も可能である。電離放射線としては、紫外線、X線、可視光線等の電磁波、或いは電子線、イオン線等の荷電粒子線が用いられる。しかる後に、該エンボス版を離型して、電離放射線硬化性樹脂の硬化物から成るエンボス受容層表面に、該微細凹凸を形成する。
【0058】
上記の(1)〜(7)のような方法を用いて、上記特定の微細凹凸を有する第1の透明層を形成した後に、第2の透明層を形成する方法としては、まず、第1の透明層とは固化製膜後の屈折率が異なる材料からなる、第2透明層用液状樹脂組成物を準備する。当該液状樹脂組成物とは、樹脂を含有する溶液、分散液、或いは未重合の単量体乃至はプレポリマーから成るものである。当該液状樹脂組成物には、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、紫外線や電子線で硬化するアクリレート系等の電離放射線硬化性樹脂等の1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。そして、上記で得られた第1の透明層の該微細凹凸形成面上に、第2透明層用液状樹脂組成物を塗工し、該微細凹凸を充填する。而かる後に、溶剤や分散媒の乾燥、重合(架橋反応も含む)等により該液状組成物を固化させ、第2の透明層を形成する。
【0059】
なお、微細凹凸は、上記(1)の方法のように既に有形の基材とする物一つ一つに、直接形成する事も可能であるが、工業製品として大量生産が必要となる透光性物品の場合には、工業的生産性、コストを考慮すると、賦形型を作製しておき、この賦形型によって微細凹凸を賦形により形成する方法が好ましい。更に、賦形型としては、微細凹凸形状を最初に造形した原型は用いずに、該原型から1回、或いは2回以上の型取・反転による複製工程を経て作製した複製型を用いるのが好ましい。つまり、最初に一旦、原型(これを原版、或いはマザー版とも呼ぶ)を作製した後、この原型から複製型を作製する複製操作を1回又は2回以上の多数回行い、その結果、得られた複製型(これを本版、或いはマスター版とも呼ぶ)を、賦形型として使用することが好ましい。この様な賦形型を用いることで、工業的生産性、コスト等に優れた方法となる。例えば、本版が傷付いたとしても、本版は容易に再作製できるからである。
【0060】
[透光性物品の用途]
本発明の透光性物品は、形状は、三次元形状、板、シート等任意であり、用途も特に限定されるものではない。本発明が適用し得る用途は、これから例示される用途に限定されるものではない。特に、本発明に係る透光性物品は、2層の屈折率差に起因する2層間の界面での透過光の反射損失、及び/又は、当該界面により生じる干渉縞が解消又は低減され、且つ、ヘイズが上昇しないものであるため、透過光を利用するような箇所に用いることが好ましい。
【0061】
例えば、携帯電話等の各種機器における情報表示部の窓材が挙げられる。これら情報表示部では、LCD等の表示パネルの前面に、板や成形品等となった樹脂製の窓材が配置される。窓材としての透光性物品は、外側は露出する為に傷や汚れへの耐性の点で本発明特有の微細凹凸は設けず、物品内部の屈折率の異なる隣接2層の透明層の界面の他、更に窓材の裏面側にも該微細凹凸を設けたものとするのが好ましい。
【0062】
窓材の具体的な層構成としては、具体的には例えば、透明基材上にハードコート層が積層された2層の透明層の積層体である場合が挙げられる。この場合において、透明基材は通常熱可塑性樹脂からなり、ハードコート層は電離放射線硬化型樹脂組成物からなることが多いため、特に透明基材とハードコート層の間の屈折率差が大きくなる場合が多い。したがって、当該層構成を有する透光性物品においては、透明基材とハードコート層の界面に上記特定の微細凹凸が設けられる。
【0063】
情報表示部は、LCD等の表示パネル以外に、時計に代表される機械式アナログメータ等の様な機械的手段で表示するものでもよく、これらの窓材でも良い。なお、窓材は、平板状もあるが、組み付けやデザイン上の観点から周囲に突起等有する物もある。
また、上記の様な窓付き情報表示部を有する機器としては、携帯電話、時計の外にも、パーソナルコンピュータ、電子手帳等のPDA乃至は携帯情報端末、電卓、或いは、CDプレーヤー、DVDプレーヤ、MDプレーヤ、半導体メモリ方式音楽プレーヤ等の各種携帯型音楽プレーヤ、或いは、ビデオテープレコーダ、ICレコーダ、ビデオカメラ、デシタルカメラ、ラベルプリンタ等の電子機器、或いは、電気炊飯器、電気ポット、洗濯機等の電気製品等がある。
【0064】
更に、板状やシート状の透光性物品としては、透明タッチパネル等に使用する透明板等の透明な基材が挙げられる。
なお、透明タッチパネルは、例えば、電子手帳等のPDA乃至は携帯情報端末(機器)、或いは、カーナビゲーションシステム、POS(販売時点情報管理)端末、携帯型オーダー入力端末、ATM(現金自動預金支払兼用機)、ファクシミリ、固定電話端末、携帯電話機、デシタルカメラ、ビデオカメラ、パソコン、パソコン用ディスプレイ、テレビジョン受像機、テレビ用モニターディスプレイ、券売機、計測機器、電卓、電子楽器等の電子機器、複写機、ECR(金銭登録機)等の事務器、或いは、洗濯機、電子レンジ等の電気製品に使用される。
【0065】
また、本発明の透光性物品の用途としては各種光学素子等も挙げられる。例えば、写真機のレンズ、写真機のファインダの窓材、眼鏡のレンズ、オーバーヘッドプロジェクタのフレネルレンズ、光センサの光入力窓、望遠鏡のレンズ、或いは、CD、DVD等の光ディスクのピックアップレンズ、レーザ装置の出力窓、等が挙げられる。
【0066】
更に、本発明の透光性物品の用途としては画像表示装置の各種表面板の構成部材も挙げられる。当該画像表示装置としては、ブラウン管(CRT、陰極線管)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶表示装置(LCD)、電場発光素子(EL)等が挙げられる。また、表面板としては、単なる補強の為の保護板の他、紫外線、赤外線、或いは可視光線のうちの特定の波長帯域を吸収或いは反射する光学フィルタ、電磁波遮蔽フィルタ、光反射防止フィルタ等が挙げられる。
また、本発明の透光性物品の用途としては、各種建築物の窓材であっても良い。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
<実施例1>
(1)第1の透明層における微細凹凸の形成
片面が易接着処理された厚み100μmの透明な2軸延伸PETフィルム(屈折率1.66、東洋紡績製 品名;コスモシャイン A4100)を、160℃に加熱し、易接着処理されていない側の面に、エンボス加工をして微細凹凸を形成した。
なお、エンボス版は以下のように作製した。152.4mm(6インチ)角で6.35mm厚の合成石英の一面に金属クロム膜を形成したフォトマスク用の基板を用意し、その金属クロム膜上にポジ型のEBレジスト〔商品名「ZEP7000」(日本ゼオン株式会社製)〕を回転塗布してレジスト層を形成した後、電子線描画装置にて縦横の周期325nmのメッシュ状の描画データを用いて、描画し、所定の現像液を用い現像処理を施した。その結果、描画データのメッシュ開口領域に対応する領域が現像により開口したレジストパターン層が形成された。次いで、該レジストパターン層の開口部から露出している金属クロム膜を塩素系のガスを用いてドライエッチングして、該金属クロム膜を開口した。尚、金属クロム膜のドライエッチングにはUnaxis社製ドライエッチング装置「VERSALOCK7000」を用いた。次いで、レジストパターン層と金属クロム膜を耐エッチング層として、フッ素系のガスを用いて基板のドライエッチングを行い、凸部の山側が凹部の谷側よりも尖った所望の微細凹凸形状が形成された原型(マザー版)を得た。なお、基板のドライエッチングには、日本真空株式会社製「MEPS−6025D」を用いた。次に、この原型から、電気めっき法によって、厚さ80μmのニッケルめっきプレートからなるシート状の複製型(マスター版)をエンボス版として作製した。
【0068】
(2)第2の透明層形成用組成物の調製
下記組成の成分を混合して第2の透明層形成用組成物を調製した。
・カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(KAYARAD DPCA30 日本化薬社製);50重量部
・イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性トリアクリレート(M315 東亞合成社製);50重量部
・トルエン(溶剤);100重量部
・光重合開始剤(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン)(商品名イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製);3重量部
【0069】
(3)第2の透明層の形成
第1の透明層の微細凹凸が形成されている面に、上記第2の透明層形成用組成物を巻き線型コーティングロッドを使用して塗布した。60℃に加熱したオーブンで30秒保持し、溶剤を乾燥させ、次いで紫外線を積算光量98mJになるように照射して塗膜を硬化させ、膜厚5μmの第2の透明層(屈折率1.50)を第1の透明層上に設け、本発明に係る透光性物品を作製した。
【0070】
<実施例2>
(1)第1の透明層における微細凹凸の形成
片面が易接着処理された厚み100μmの透明な2軸延伸PETフィルム(屈折率1.66、東洋紡績製 品名;コスモシャイン A4100)の易接着処理されていない面に、下記プライマー層形成用組成物をグラビアコーティングにて膜厚500nmで塗工し、70℃で1分間加熱し、溶剤を乾燥させた。その後、120℃に加熱し、実施例1と同様にしてプライマー層にエンボス加工をして微細凹凸を形成した。
[プライマー層形成用組成物(屈折率1.63)]
下記(A)及び(B)を、使用時にA/B=6/4の割合で混合して用いた。
(A)
・非結晶性ポリエステル(商品名バイロン280、東洋紡績製);95重量部
・トルエン/メチルエチルケトン=1/1重量比混合溶剤;5重量部
(B)
・ルチル型酸化チタン粒子(商品名MT−01、テイカ製);10重量部
・分散剤(商品名ディスパービック163、ビックケミー・ジャパン製);2重量部
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(商品名PET30、日本化薬製);4重量部
・チタネートカップリング剤(商品名TA−25、松本交商製);1.28重量部
・光重合開始剤((1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン)商品名イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製);0.2重量部
・メチルイソブチルケトン(溶剤);17.48重量部
【0071】
(2)第2の透明層の形成
第2の透明層の形成は、実施例1と同様に行ない、実施例2の透光性物品を製造した。
【0072】
<実施例3>
第2の透明層の組成物を下記に変更して、屈折率1.56の第2の透明層を形成した以外は、実施例2と同様に、実施例3の透光性物品を製造した。
[第2の透明層形成用組成物]
・9,9―ビス[4−(2アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン(商品名、NKエステルA−BPEF、新中村化学社製);2.5重量部
・ビス[(2―メタクリロイルチオ)エチル]スルフィド(商品名S2EG、住友精化製);2.5重量部
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名DPHA、日本化薬製);3重量部
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(商品名PET30、日本化薬製);2重量部
・光重合開始剤(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、商品名イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製);0.3重量部
・光重合開始剤((2,4,6-トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)商品名DAROCURE TPO、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製);0.3重量部
・メチルエチルケトン(溶剤);10重量部
【0073】
<比較例1>
片面が易接着処理された厚み100μmの透明な2軸延伸PETフィルムに微細凹凸を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の透光性物品を製造した。
【0074】
<比較例2>
プライマー層に微細凹凸を形成しなかったこと以外は実施例2と同様にして、比較例2の透光性物品を製造した。
【0075】
<比較例3>
プライマー層に微細凹凸を形成しなかったこと以外は実施例3と同様にして、比較例3の透光性物品を製造した。
【0076】
<比較例4>
プライマー層に微細凹凸を形成せず、且つ第2の透明樹脂層の形成をしなかったこと以外は実施例2と同様にして、比較例4の透光性物品を製造した。
【0077】
〔性能評価方法〕
上記で得られた各実施例、及び比較例の透光性物品に対して、以下の点を評価した。評価結果を表1に示す。
(1)干渉縞の有無
透光性物品において、第1の透明層の面のうち、第2の透明層を積層していない側の起因する裏面反射の影響を防ぐため、当該第2の透明層が積層していない側の第1の透明層の面をサンドペーパーで擦り、その上に黒色テープを貼り、干渉縞検査ランプ(フナテック(株)製 FNA−18)および3波長蛍光灯にて第2の透明層の面から透光性物品を目視で観察し、下記評価基準にて評価した。
(評価基準)
○:干渉縞検査ランプ及び3波長蛍光灯の両方について干渉縞が生じなかった。
×:干渉縞検査ランプ及び3波長蛍光灯の両方について干渉縞が生じた。
【0078】
(2)全光線透過率
JIS−K7105に準拠して、ヘイズメーターHR100(村上色彩技術研究所社製、商品名)を用いて全光線透過率(%)を測定した。
【0079】
【表1】

【0080】
<結果のまとめ>
実施例及び比較例の比較により、屈折率の互いに異なる隣接2層の界面に本発明に係る特定形状の微細凹凸を有する透光性物品では、当該微細凹凸を有しない場合には発生する干渉縞が、観測不能になることが明らかになった。
今回試作した物品の評価結果によれば、隣接2層界面の屈折率差が0.03と僅差の場合は、界面の微細凹凸無しでも干渉縞発生は見られなかった。該屈折率差が0.07以上の場合には該界面に特定の微細凹凸無しだと干渉縞が認められた。
また、上記界面に本発明に係る特定形状の微細凹凸を形成することによって、当該微細凹凸を有しない場合に比べて1.5〜1.7%全光線透過率が向上した。これは、本来上記界面で生じていた反射による透過光損失が、微細凹凸を有するために低減されたからであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る透光性物品の一形態を例示する断面図である。
【図2】本発明に係る透光性物品の一形態を例示する断面図である。
【図3】本発明に係る透光性物品の一形態を例示する断面図である。
【図4】微細凹凸で得られる有効屈折率の分布を概念的に説明するための図である。
【図5】微細凹凸で得られる有効屈折率の分布を概念的に説明するための図である。
【図6】微細凹凸で得られる有効屈折率の分布を概念的に説明するための図である。
【図7】微細凹凸の形状を垂直断面形状で概念的に比較説明するための断面図である。
【図8】微細凹凸の形状を垂直断面形状で概念的に比較説明するための断面図である。
【図9】微細凹凸の形状を垂直断面形状で概念的に比較説明するための断面図である。
【図10】微細凹凸の水平面内での配置の幾つかを例示する斜視図と平面図である。
【図11】微細凹凸の水平面内での別の一例を示す平面図である。
【図12】本発明に係る透光性物品の一形態を例示する断面図である。
【図13】従来の透光性物品の一形態を例示する断面図である。
【図14】従来の透光性物品の一形態を例示する断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1A 第1の透明層
1B 第2の透明層
2 微細凹凸
2A〜2G 微細凹凸
Mb 谷側の形状
Mt 山側の形状
2b (微細凹凸の)最凹部
2t (微細凹凸の)最凸部
10 透光性物品
11 微小凹凸層
12 透明層基材
〜T 透明層
I 隣接2層の界面
IN 入射光
OUT 透過光
P 微細凹凸が形成されている面
n 屈折率
a 第1の透明層の屈折率
b 第2の透明層の屈折率
ef(Z) 有効屈折率
H (微細凹凸の)高さ
H/2 (微細凹凸の高さの半分(1/2)
MAX (微細凹凸の)最凸部の高さ
Lb (谷側の)等高線
Lt (山側の)等高線
Mb 微細凹凸の谷側
Mc 微細凹凸の鞍部
Mt 微細凹凸の山側
PMAX 周期
Wb 谷部分の幅
Wb1 山の片側での谷部分の幅
Wb2 山の他方側での谷部分の幅
Wt 山部分の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率の互いに異なる隣接2層を1組以上含む、透明層の積層体から成り、該隣接2層のうちの少なくとも1組の界面には微細凹凸を有する透光性物品であって、
該微細凹凸形状は、可視光の波長帯域の真空中における最小波長をλMIN、該微細凹凸の最凸部における周期をPMAXとしたときに、
PMAX≦λMIN
なる関係を有し、
且つ該微細凹凸をその凹凸方向と直交する面で切断したと仮定したときの断面内における該最凸部を形成する側の透明層の断面積占有率が、該微細凹凸の最凸部から最凹部に行くに従って連続的に漸次増加して行き、最凹部において100%になることを特徴とする、透光性物品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−90656(P2007−90656A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282916(P2005−282916)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】