説明

透明フィルム、偏光板、および液晶表示装置

【課題】本発明の目的は、面内及び厚み方向のレターデーションがきわめて零に近く、または負であり、かつ高温高湿などの環境条件に対する耐久性に優れた透明フィルムを提供することである。さらに、上記性能を有する透明フィルムを用いた偏光板、およびコントラストが高く、ムラや光漏れがなく、さらには液晶画面の湾曲のない液晶表示装置を提供することである。
【解決手段】基材フィルム上の少なくとも一方の面に直接または他の層を介して、少なくとも1層の金属化合物層を有し、且つ590nmにおける膜厚方向のリターデーション値Rthが−400〜15nmであることを特徴とする透明フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ディスプレイ用途に用いられる透明フィルム、偏光板、および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、低電圧・低消費電力で小型化・薄膜化が可能など様々な利点からパーソナルコンピューターや携帯機器のモニター、テレビ用途に広く利用されている。このような液晶表示装置は液晶セル内の液晶の配列状態により様々なモードが提案されているが、従来は液晶セルの下側基板から上側基板に向かって約90°捩れた配列状態になるTNモードが主流である。
一般に液晶表示装置は液晶セル、位相差フィルムおよび偏光板から構成される。位相差フィルムは画像着色を解消したり、視野角を拡大するために用いられており、延伸した複屈折フィルムや透明フィルムに液晶を塗布したフィルムが使用されている。例えば、特許文献1ではディスコティック液晶をトリアセチルセルロースフィルム上に塗布し配向させて固定化した光学補償シートをTNモードの液晶セルに適用し、視野角を広げる技術が開示されている。
しかしながら、大画面で様々な角度から見ることが想定されるテレビ用途の液晶表示装置は視野角依存性に対する要求が厳しく、前述のような手法をもってしても要求を満足することはできなくなりつつある。また、最近ではモニター用途の液晶表示装置に対する要求性能も高まっている。そのため、IPS(In-Plane Switching)モード、OCB(Optically Compensatory Bend)モード、VA(Vertically Aligned)モードなど、TNモードとは異なる液晶表示装置が様々に研究されている。
【0003】
セルロースアシレートフィルムは、他のポリマーフィルムと比較して、透湿性に富み、親水性の高いPVAなどが一般的に用いられる偏光板の偏光子との接着性が高く、偏光板用の保護フィルムとして、広く用いられている。
セルロースアセテートフィルムは光学的等方性が高いこともあって、従来の一般的な偏光板の保護フィルムとして最適であった。しかし、最近は視野角依存性やその他の特性を改良するために偏光板の保護フィルムにはさらなる光学的等方性が求められるようになってきた。またTNモード以外の上記のような各種モードの液晶表示装置に所望の光学異方性を有する位相差フィルムが要求されるようになってきている。
【0004】
セルロースアセテートフィルムの光学的等方性をさらに高め、面内だけでなく、厚み方向(膜厚方向とも称する)のレターデーションも小さくすることは、非常に困難であり、さらに厚み方向のレターデーションを負とすることは極めて困難であった。負のレターデーションを有する位相差板や偏光板などはIPS方式などの液晶表示装置の視野角特性改善に有用であることが近年理解されるようになってきた。
厚み方向のレターデーションが負の光学フィルムとしては特許文献2において、透光性フィルムに熱収縮性フィルムを接着して加熱処理することにより連続的に製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法では工程が複雑な上、十分熱収縮させるために、ライン速度を上げることが難しく、また大量の熱収縮したフィルムが発生してしまい、生産性が低く、環境負荷が大きい。
さらに、得られたフィルムの面内および厚み方向のレターデーションの場所によるばらつきが大きく、特にセルロースエステルのような弾性率の高いポリマーほどばらつきが大きく、ムラの発生が酷かった。
【0005】
セルロースアシレートフィルムの製造において、一般的に製膜性能を良化するため可塑剤と呼ばれる化合物が添加される。可塑剤の種類としては、リン酸トリフェニル、リン酸ビフェニルジフェニルのようなリン酸トリエステル、フタル酸エステル類等が知られている(例えば、非特許文献1参照)。これら可塑剤の中には、セルロースアシレートフィルムの光学異方性を低下させる効果を有するものが知られており、例えば、特定の脂肪酸エステル類が開示されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、従来知られているこれらの化合物を用いたセルロースアシレートフィルムの光学異方性を低下させる効果は十分とはいえない。またレターデーションを十分に低下させるために化合物の添加量を増やした場合、フィルムからの泣き出しや白濁が起こるという問題があった。
【0006】
一方、最近、液晶表示装置において、長期間の使用での耐久性のほか、常時点灯による内部の回路やバックライトの放熱によりパネル温度が上昇するほか、高温高湿度や低湿の過酷な環境下にて用いられる場合、偏光子の保護フィルムとして一般的に用いられるトリアセチルセルロースフィルムが、時間経時、温度、湿度でのRe、Rthやそれらの波長依存性などの光学特性、寸法や含水率などの幾何特性や物理特性が変化し、その光学補償能に変化が生じてしまう問題があることがわかった。さらに、環境条件により、フィルムの内部応力やカールが顕在化し、液晶表示装置を黒表示とした時に光が漏れる、また、色味が変わる、画像にムラが生じるほか、液晶パネルがワープ(湾曲)するということが問題視されるようになってきた。
【0007】
また、特許文献4には、プラズマ処理により、基材フィルムに金属化合物層を付与することによりフィルムの透湿度を抑える技術が開示されている。
【特許文献1】特許第2587398号公報
【特許文献2】特開2000−231016号公報
【特許文献3】特開2001−247717号公報
【特許文献4】特開2004−285159号公報
【非特許文献1】プラスチック材料講座、第17巻、日刊工業新聞社、「繊維素系樹脂」、121頁(昭和45年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、面内及び厚み方向のレターデーションが極めてゼロに近く、または負であり、かつ高温高湿などの環境条件に対する耐久性に優れた透明フィルムを提供することである。さらに、上記性能を有する透明フィルムを用いた偏光板、および、コントラストが高く、ムラ、光漏れのない、さらには液晶画面の湾曲のない液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、セルロースエステル分子鎖(主鎖および側鎖)が面内方向、膜厚方向に配向することを制御することで、膜厚方向のレターデーションをゼロに近く、さらには負にまで低減させることに成功した。
膜厚方向のレターデーションを十分に低下させるためにはレターデーション低減剤と称される化合物、例えば、セルロースエステル分子鎖(主鎖および側鎖)が面内方向、膜厚方向に配向するのを抑制する化合物を添加することが好ましい態様として挙げられるが、フィルム表面に金属化合物層を付設することにより、添加剤によるレターデーション低減を効果的に実現することができることを見出した。これは、金属化合物層を設けることにより添加剤の保持性が向上し、フィルム白濁や添加剤の泣き出し、そしてそれらに由来するフィルム透過率の低下という従来見られた問題を生じることなく多量の添加剤を添加することが可能となるためであると考えられる。
したがって金属化合物層を有するフィルムでは、フィルム透過率の低下を抑制しつつ多量のレターデーション低減剤を使用することが可能となり、膜厚方向のレターデーションを十分に低減させた光学用途に優れた透明フィルムを得ることができる。
さらに、添加剤の保持性が向上する結果、高温・高湿などの強制条件における添加剤の揮散等を抑制することが出来、レターデーション調整剤などの添加剤の存在状態変動によるフィルム光学性能、物理特性変化を抑制できる。
【0010】
すなわち、本発明の上記目的は、下記構成により達成された。
(1)基材フィルム上の少なくとも一方の面に直接または他の層を介して、少なくとも1層の金属化合物層を有し、且つ590nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rthが−400〜15nmであることを特徴とする透明フィルム。
(2)前記透明フィルムの590nmにおける面内方向のレターデーション値Reが、0〜200nmであることを特徴とする上記(1)に記載の透明フィルム。
(3)前記金属化合物層が、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、および、窒素を主成分とする大気圧近傍もしくは大気圧以上の雰囲気下でのプラズマ処理法のいずれかによって形成されたことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の透明フィルム。
(4)前記基材フィルムが、レターデーション低減剤および/またはレターデーションの波長分散調整剤を含むことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の透明フィルム。
(5)前記金属化合物層の膜厚が0.005〜5μmであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の透明フィルム。
(6)前記金属化合物層が珪素酸化物を含有することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の透明フィルム。
(7)幅手両端部に4〜20μmの高さのナーリングを有することを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の透明フィルム。
(8)前記基材フィルムがセルロースアシレートを含有することを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の透明フィルム。
(9)厚みが30〜200μmであることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の透明フィルム。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の透明フィルムを、偏光子の少なくとも一方の保護フィルムとして用いたことを特徴とする偏光板。
(11)上記(10)に記載の偏光板を、液晶セルの両面(視認側及び非視認側)のうち少なくとも一方に用いたことを特徴とする液晶表示装置。
(12)50℃、相対湿度90%の環境下で50時間調湿した後、25℃、相対湿度60%の環境下に移して1時間後の時点での画面の湾曲Wが、画面長辺Lに対して、−0.01<W/L<0.01であることを特徴とする上記(11)に記載の液晶表示装置。
(13)前記液晶表示装置がIPSモードの液晶セルを有し、透過型、反射型又は半透過型のいずれかの方式であることを特徴とする上記(11)または(12)に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、面内及び厚み方向のレターデーションがきわめてゼロに近く、または負であり、かつ高温高湿などの環境条件に対する耐久性に優れた透明フィルムを提供することができる。さらに、上記性能を有する透明フィルムを用いた偏光板、およびコントラストが高く、ムラや光漏れがなく、さらには液晶画面のワープのない液晶表示装置を提供することができる。低レターデーションやワープ抑制は特にIPSモードの液晶表示装置に有効であるため、本発明の透明フィルムを用いることで優れたIPSモード液晶表示装置を提供することができる。本発明の透明フィルムを、従来の膜厚方向のレターデーションが正であるフィルムと組み合わせて用いることで、様々な面内レターデーションおよび膜厚方向レターデーションを有する位相差膜を作製することが可能となり、光学設計の自由度を著しく向上させることに貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[透明フィルム]
透明とは、フィルムの全光線透過率が50%以上であるものをいう。しかし一般に光学用途に用いられる透明フィルムとしては、全光線透過率が80%以上のものが好ましく、より好ましくは90%以上のフィルムである。
【0013】
[透明フィルムのレターデーション]
本発明の透明フィルムの膜厚方向のレターデーション値Rth(590)は下記式(I)を満たす。
【0014】
式(I)−400≦Rth(590)≦15
[式中、Rth(λ)は波長λnmにおける膜厚方向のレターデーション値(単位:nm)である。]
【0015】
本発明の透明フィルムのRth(590)はフィルムの膜厚方向のレターデーションが必要とならない用途には、−15nm以上15nm以下が好ましく、−10nm以上10nm以下がより好ましく、−5.0nm以上5.0nm以下がさらに好ましく、−3.0nm以上3.0nm以下が特に好ましい。
本発明の透明フィルムを液晶セルや膜厚方向のレターデーションが正である別の透明フィルムの光学異方性を打ち消すために用いる場合には、膜厚方向のレターデーションは−400nm以上−15nm以下が好ましく、−280nm以上−30nm以下がより好ましく、−180nm以上−45nm以下がさらに好ましく、−80nm以上−45nm以下が特に好ましい。
【0016】
このようにRthが負の値となる透明フィルムがあると、これをそのままIPSモードの液晶表示装置の視認性を向上させる光学フィルムとして用いることもできるし、従来から知られているRthが正の値となるセルロースエステルフィルム等と貼り合せることで、簡便にRthを制御することができる。例えば、Rthの絶対値が同じで符号の異なる2枚のフィルムを貼り合せることにより、特定のRe値を有し、Rth値がゼロのフィルムを提供することができる。
【0017】
本発明の透明フィルムの面内レターデーション値Re(590)は下記式(II)を満たすことが好ましい。
【0018】
式(II) 0≦Re(590)≦200
[式中、Re(λ)は、波長λnmにおける面内レターデーション値(単位:nm)、である。]
【0019】
Re(590)は0nm以上200nm以下が好ましく、面内レターデーションが不要な用途には、0nm以上10nm以下がより好ましく、0nm以上5.0nm以下がさらに好ましく、0nm以上3.0nm以下が特に好ましい。一方、面内レターデーションを有する目的には、10nm以上200nm以下が好ましく、30nm以上150nm以下がより好ましく、50nm以上130nm以下がさらに好ましい。
【0020】
本発明の透明フィルムの面内レターデーションReおよび膜厚方向のレターデーションRthはともに湿度による変化が小さいことが好ましい。25℃10%RHにおけるRth値と25℃80%RHにおけるRth値の差ΔRth(=Rth10%RH−Rth80%RH)の絶対値が0〜50nmであることが好ましく、より好ましくは0〜30nmであり、さらに好ましくは0〜20nmである。
【0021】
本発明の透明フィルムは、波長400nmと700nmでのRe、Rthの差、|Re(400)−Re(700)|および|Rth(400)−Rth(700)|が小さいことが好ましく、|Re(400)−Re(700)|≦10かつ|Rth(400)−Rth(700)|≦35であることが好ましい。より好ましくは、|Re(400)−Re(700)|≦5かつ|Rth(400)−Rth(700)|≦25であり、|Re(400)−Re(700)|≦3かつ|Rth(400)−Rth(700)|≦15であることが特に好ましい。
【0022】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は、各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。波長λには、通常400〜750nmの範囲の値が用いられる。
Re(λ)は、KOBRA・21ADH(王子計測機器(株)製)において、波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定する。Rth(λ)は、前記Re(λ)、面内の遅相軸(KOBRA・21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+10数度傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜角(回転軸)としてフィルム法線方向に対して逆に10数度傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA・21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(John Wiley & Sons, Inc)、各種透明フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。本明細書においては、特に断らない場合、波長λは590nmを用いる。
【0023】
[レターデーションのばらつき]
レターデーション値のばらつきは、製膜したフィルムの幅方向5点(中央、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)、および中央部と端部の中間部2点)を長手方向に100mごとにサンプリングした際のレターデーション最大値と最小値との差であり、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましく、1nm以下であることが特に好ましい。
【0024】
〈フィルム性質〉
[フィルムの厚さ]
本発明の透明フィルムの厚さは、位相差フィルム、光学補償フィルムや偏光板保護フィルムとしての適性に加えて偏光板、液晶表示装置の薄型化、軽量化のために30〜200μmであることが好ましく、40〜120μmであることがより好ましく、60〜80μmであることがさらに好ましく、65〜75μmであることが特に好ましい。
【0025】
本発明の透明フィルムは、幅手両端部に4〜20μmの高さのナーリングを有することが好ましい。より好ましくは5〜15μm、さらに好ましくは6〜12μmである。上記の範囲でナーリングを設けることにより、大気圧プラズマ処理で形成された層や塗布により形成された層の膜厚や物性のムラを少なくするほか、ロール状フイルムの保管における安定性を高めるという効果が得られる。
【0026】
[フィルムのカール特性]
本発明の透明フィルムのカール値は、25℃10%RHから25℃80%RHの温湿度条件のすべての範囲で、MD方向及びTD方向ともに、好ましくは−21〜+21/mであり、より好ましくは−15/m〜+15/mであり、更に好ましくは−10/m〜+10/mであり、−5/m〜+5/mであることが特に好ましい。
また本発明の透明フィルムのカールは温度や湿度によって変化しないことが好ましく、好ましくは、25℃80%RH下でのMD方向のカール値CMD,80と25℃10%RH下でのMD方向のカール値CMD,10との差(CMD,80−CMD,10)が−14/m〜+14/mであり、かつ、25℃80%RH下でのTD方向のカール値CTD,80と25℃10%RH下でのTD方向のカール値CTD,10との差(CTD,80−CTD,10)が−14/m〜+14/mである。より好ましくは、(CMD,80−CMD,10)および(CTD,80−CTD,10)が−11/m〜11/mであり、更に好ましくは−7/m〜+7/mであり、−5/m〜+5/mであることが特に好ましい。
【0027】
さらに、25℃10%RHでのカール値と45℃10%RHでのカール値の差は、MDおよびTD方向ともに−19/m〜+19/mであることが好ましい。より好ましくは−14/m〜+14/mであり、−9/m〜+9/mであることが特に好ましい。さらにまた、25℃60%RHでのカール値と45℃60%RHでのカール値の差及び25℃80%RHでのカール値と45℃80%RHでのカール値の差が、MDおよびTD方向ともに、−19/m〜+19/mであることが好ましい。より好ましくは−14/m〜+14/mであり、−9/m〜+9/mであることが特に好ましい。
【0028】
本発明の透明フィルムを偏光板保護フィルムとして偏光子との貼りあわせを行なう場合、特に、長尺の偏光膜と長尺の透明フィルムを効率的に貼りあわせる場合のほか、透明フィルムに表面処理、光学異方性層を塗設したりする際のラビング処理の実施や光学異方性層や様々な機能層の塗設などを長尺品で行なう際に、本発明の透明フィルムのカール値が前述の範囲外では、フィルムのハンドリングに支障をきたし、フィルムの切断が起きるトラブルが発生することがある。また、フィルムのエッジや中央部などで、フィルムが搬送ロールと強く接触するために発塵しやすくなり、フィルム上への異物付着が多くなり、光学補償フィルムなどの光学用フィルムとして、擦れ傷、点欠陥や塗布スジの頻度が許容値を超えることがある。さらにカール値を上述の範囲とすることで偏光膜貼り合せ時に気泡が入ることを防ぐことができ、光学異方性層を設置するときに発生しやすい色斑故障を低減することができる。さらにカール値を上述の範囲とすることで偏光膜貼り合せ時に気泡が入ることを防ぐことができ、光学異方性層を設置するときに発生しやすい色斑故障を低減することができる。
カール値は、アメリカ国家規格協会の規定する測定方法(ANSI/ASCPH1.29−1985)に従い測定することができる。
【0029】
[フィルムの平衡含水率]
本発明の透明フィルムの平衡含水率は、偏光板の保護膜として用いる際、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーとの接着性を損なわないために、膜厚のいかんに関わらず、25℃80%RHにおける平衡含水率が、3.0%以下であることが好ましい。0.1〜2.5%であることがより好ましく、1〜2%であることが特に好ましい。3%より大きい平衡含水率であると、光学補償フィルムの支持体として用いる際にレターデーションの湿度変化による依存性が大きくなりすぎてしまい好ましくない。
含水率の測定法は、本発明の透明フィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0030】
[フィルムの透湿度]
本発明の透明フィルムの透湿度は、JIS規格JISZ0208をもとに、温度60℃、湿度95%RHの条件において測定し、膜厚80μmに換算して40g/m2・24h以上、500g/m2・24h以下であることが好ましい。50〜400g/m2・24hであることがより好ましく、100〜300g/m2・24hであることが特に好ましい。500g/m2・24hを越えると、フィルムのRe値、Rth値の湿度依存性の絶対値が0.3nm/%RHを超える傾向が強くなってしまう。また、本発明の透明フィルムに光学異方性層を積層して光学補償フィルムとした場合も、Re値、Rth値の湿度依存性の絶対値が0.3nm/%RHを超える傾向が強くなってしまい好ましくない。この光学補償フィルムや偏光板が液晶表示装置に組み込まれた場合、色味の変化や視野角の低下を引き起こす。また、透明フィルムの透湿度が50g/m2・24h未満では、偏光膜の両面などに貼り付けて偏光板を作製する場合に、透明フィルムにより接着剤の乾燥が妨げられ、接着不良を生じる。
【0031】
透明フィルムの膜厚が厚ければ透湿度は小さくなり、膜厚が薄ければ透湿度は大きくなる。そこでどのような膜厚のサンプルでも基準を80μmに設け換算する必要がある。膜厚の換算は、(80μm換算の透湿度=実測の透湿度×実測の膜厚μm/80μm)として求めた。
【0032】
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4 共立出版)の285頁〜294頁:蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)に記載の方法を適用することができ、本発明の透明フィルム試料70mmφを25℃90%RH及び60℃95%RHでそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、東洋精機(株))にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量を算出(g/m2)し、透湿度=調湿後質量−調湿前質量で求めた。
【0033】
[フィルムのヘイズ]
本発明の透明フィルムのヘイズは0.01〜2.0%であることがのぞましい。よりのぞましくは0.05〜1.5%であり、0.1〜1.0%であることがさらにのぞましい。透明フィルムとしてフィルムの透明性は重要である。ヘイズの測定は、本発明の透明フィルム試料40mm×80mmを、25℃60%RHでヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)でJIS K−6714に従って測定した。
【0034】
[基材フィルム]
基材フィルムとしては、製造が容易であること、光学的に透明であること等が好ましい要件として挙げられる。透明とは、フィルムの全光線透過率が50%以上であるものをいう。しかし一般に光学用途に用いられる透明フィルムとしては、全光線透過率が80%以上のものが好ましく、より好ましくは90%以上のフィルムである。
【0035】
上記の性質を有していれば特に限定はなく、また、後述のレターデーション低減剤、波長分散調整剤や、他の添加剤を含有していてもよい。例えば、セルロースエステル系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリアリレート系フィルム、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、セルロースジアセテートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、シンジオタクティックポリスチレン系フィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテルケトンイミドフィルム、ポリアミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルムまたはアクリルフィルム等を挙げることができる。また、アートン(R)(JSR株式会社製)で知られるノルボルネン系樹脂フィルム、ゼオノア(R)(日本ゼオン株式会社製)で知られるシクロオレフィン樹脂フィルム等も挙げることができる。中でも、セルロースエステルフィルムが好ましく、セルローストリアセテートフィルムまたはセルロースアセテートプロピオネートフィルム等のセルロースアシレートフィルムが、製造上、コスト面、透明性、低複屈折性、接着性等の観点から好ましく用いられる。
【0036】
〈セルロースエステル〉
本発明に用いられるセルロースエステルとしては、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース(DAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート等のセルロースアシレートフィルムおよび硝酸セルロース等のセルロースエステル類が挙げられる。また、置換基の炭素数が4以上の脂肪族ならびに芳香族の脂肪酸エステルをもちいることもできる。
【0037】
上記セルロースエステルであれば本発明の透明フィルムには好ましく用いられるが、より好ましくは、セルロースエステルの置換度を、酢酸によるアセチル置換度をX、プロピオン酸や酪酸などの酢酸以外によるアシル置換度をYとして表した場合に、下記の式(III)を満たすセルロースエステルである。X+Yが2.71以上3.00以下の範囲において、樹脂の溶解性が高く、高濃度のドープ(溶媒に樹脂を溶かした溶解液を以後ドープと呼ぶ)を作製でき、製膜・乾燥時により有利だからである。
【0038】
式(III) 2.71≦X+Y≦3.00
【0039】
セルロースを形成するグルコースユニットは、結合できる3つの水酸基を有しており、例えば、セルローストリアセテートにおいて、グルコースユニットの3個の水酸基全てがアセチル基に結合している場合には、アセチル基による置換度は3.0である。セルロースエステルの置換度は高ければ高いほど膜厚方向のレターデーションを小さくすることができ、2.81以上3.0以下であることが好ましく、より好ましくは、2.85以上3.0以下で、さらに好ましくは2.89以上3.0以下である。特に好ましくは2.91以上3.0以下である。
これらアシル基の置換度の測定方法は、ASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0040】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることが出来る。また、これらから得られたセルロース誘導体は、それぞれを単独であるいは任意の割合で混合使用することが出来るが、綿花リンターを50質量%以上使用することが好ましい。
【0041】
セルロースエステルフィルムの分子量が大きいと弾性率が大きくなるが、分子量を挙げすぎるとセルロースエステルの溶解液の粘度が高くなりすぎるため生産性が低下する。セルロースエステルの分子量は数平均分子量(Mn)で70,000〜200,000のものが好ましく、100,000〜200,000のものが更に好ましい。本発明で用いられるセルロースエステルはMw/Mn比が4.0未満であることが好ましく、より好ましくは1.4〜3.3である。
【0042】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定できるので、これを用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
【0043】
測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0044】
セルロースエステルの重合度は、粘度平均重合度で170〜800が好ましく、200〜650がより好ましく、250〜450が更に好ましく、250〜400が特に好ましい。粘度平均重合度は宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)に従い測定できる。粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
【0045】
〈レターデーション低減剤〉
本発明において用いることのできるレターデーション低減剤は厚み方向のレターデーションを低減させる化合物であり、具体的な例としては、下記一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物などを挙げることができるが、本発明ではこれに限られるものではない。
【0046】
【化1】

【0047】
上記一般式(1)において、R11はアルキル基またはアリール基を表し、R12およびR13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。R11、R12およびR13の炭素原子数の総和は10以上であることが好ましい。R11、R12およびR13において、各アルキル基又はアリール基は置換基を有していてもよい。
【0048】
上記アルキル基又はアリール基の置換基としてはフッ素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、スルホン基およびスルホンアミド基が好ましく、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、スルホン基およびスルホンアミド基がより好ましい。また、アルキル基は直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよく、炭素原子数1〜25のものが好ましく、6〜25のものがより好ましく、6〜20のもの(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、アミル、イソアミル、t−アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、オクチル、ビシクロオクチル、ノニル、アダマンチル、デシル、t−オクチル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、ジデシル)が特に好ましい。アリール基としては炭素原子数が6〜30のものが好ましく、6〜24のもの(例えば、フェニル、ビフェニル、テルフェニル、ナフチル、ビナフチル、トリフェニルフェニル)が特に好ましい。
【0049】
一般式(1)で表される化合物の好ましい例を下記に示すが、これらの具体例に限定されない。
【0050】
【化2】

【0051】
【化3】

【0052】
【化4】

【0053】
Priは、イソプロピル基を表す。
【0054】
次に、一般式(2)の化合物について説明する。
式(2)中、R14はアルキル基またはアリール基を表し、R15およびR16はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基またはアリール基を表す。また、アルキル基およびアリール基は置換基を有していてもよい。
【0055】
より好ましくは、R14、R15およびR16はそれぞれ独立にアルキル基またはアリール基を表す。ここで、アルキル基は直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよく、炭素原子数が1〜20のものが好ましく、1〜15のものがさらに好ましく、1〜12のものが最も好ましい。環状のアルキル基としては、シクロヘキシル基が特に好ましい。アリール基は炭素原子数が6〜36のものが好ましく、6〜24のものがより好ましい。
【0056】
上記のアルキル基およびアリール基は置換基を有していてもよく、置換基としてはハロゲン原子(例えば、塩素、臭素、フッ素およびヨウ素)、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、スルホニルアミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、アミノ基およびアシルアミノ基が好ましく、より好ましくはハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、スルホニルアミノ基およびアシルアミノ基であり、特に好ましくは、アルキル基、アリール基、スルホニルアミノ基およびアシルアミノ基である。
【0057】
以下に、一般式(2)で表される化合物の好ましい例を下記に示すが、これらの具体例に限定されない。
【0058】
【化5】

【0059】
【化6】

【0060】
【化7】

【0061】
【化8】

【0062】
【化9】

【0063】
【化10】

【0064】
【化11】

【0065】
【化12】

【0066】
これらのレターデョーション低減剤は、光学異方性を低下させる機能を有している。
この光学異方性を低下させる化合物を含有することにより、基材フィルム中のポリマーが面内および膜厚方向に配向するのを抑制するため光学異方性を十分に低下させ、Reはゼロに近く、さらにRthは負にすることができる。光学異方性を低下させる化合物は、ポリマーに十分に相溶し、化合物自身が棒状の構造や平面性の構造を持たないことが有利である。具体的には芳香族基のような平面性の官能基を複数持っている場合、それらの官能基を同一平面ではなく、非平面に持つような構造が有利である。
【0067】
(LogP値)
本発明で用いられる基材フィルムを作製するにあたっては、上述のようにフィルム中の例えばセルロースエステル、中でもセルロースアシレートが面内および膜厚方向に配向するのを抑制して光学異方性を低下させる化合物のうち、オクタノール−水分配係数(logP値)が0ないし7である化合物を用いることが好ましい。logP値が7以下の化合物は、セルロースエステル、中でもセルロースアシレートとの相溶性が良好で、フィルムの白濁や粉吹きを生じにくいため好ましい。また、logP値が0以上の化合物は親水性が十分に低いため、例えばセルロースアセテートフィルムの耐水性を悪化させることがなく好ましい。logP値としてさらに好ましい範囲は1ないし6であり、特に好ましい範囲は1.5ないし5である。
【0068】
オクタノール−水分配係数(logP値)の測定は、JIS日本工業規格Z7260−107(2000)に記載のフラスコ浸とう法により実施することができる。また、オクタノール−水分配係数(logP値)は実測に代わって、計算化学的手法あるいは経験的方法により見積もることも可能である。計算方法としては、Crippen's fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27,21(1987).)、Viswanadhan's fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,29,163(1989).)、Broto's fragmentation法(Eur.J.Med.Chem.- Chim.Theor.,19,71(1984).)などが好ましく用いられるが、Crippen's fragmentation法(J.Chem.Inf.Comput.Sci.,27,21(1987).)がより好ましい。ある化合物のlogPの値が測定方法あるいは計算方法により異なる場合に、該化合物が本発明の範囲内であるかどうかは、Crippen's fragmentation法により判断することが好ましい。
【0069】
本発明で用いられる基材フィルムには、光学異方性を低下させる化合物を、基材フィルム中のポリマーと相溶し、泣き出しなどの不具合が生じない範囲で添加することができ、基材フィルム中のポリマー100質量部に対し0.01質量部以上100質量部以上添加することが好ましい。特に、下記式(a)、(b)を満たす範囲で少なくとも1種含有することが好ましい。
【0070】
(a)(Rth(A)−Rth(0))/A≦−1.0
(b)0.01≦A≦100
【0071】
[式中、Rth(A)はRthを低下させる化合物をA%含有したフィルムのRth(nm)、Rth(0)はRthを低下させる化合物を含有しないフィルムのRth(nm)、Aは前記ポリマーの固形分質量を100としたときの化合物の質量(%)である。]
【0072】
上記式(a)、(b)は
(a1)(Rth(A)−Rth(0))/A≦−2.0
(b1)0.05≦A≦50
であることがより好ましく、
(a2)(Rth(A)−Rth(0))/A≦−3.0
(b2)0.1≦A≦20
であることがさらに好ましい。
【0073】
(波長分散調整剤)
本発明で用いられる基材フィルムは、ReおよびRthの波長による依存性、すなわち波長分散が制御されていることが好ましい。例えば、波長分散を低下させる手段として、本発明においては基材フィルムに対して波長分散を調整する化合物(以下波長分散調整剤ともいう)を添加することが有効である。
波長分散調整剤としては、下記式(c)で表されるRthの波長分散ΔRth=|Rth(400)−Rth(700)|を低下させる化合物であることが好ましく、本発明の基材フィルムは、この化合物を下記式(d)、(e)をみたす範囲で少なくとも1種含有することが好ましい。
(c)ΔRth=|Rth(400)−Rth(700)
(d)(ΔRth(B)−ΔRth(0))/B≦−2.0
(e)0.01≦B≦30
[式中、ΔRth(B)はRthの波長分散を調整する化合物をB%含有したフィルムのΔRth(nm)、ΔRth(0)はRthの波長分散を調整する化合物を含有しないフィルムのΔRth(nm)、Bはポリマーの固形分質量を100としたときの化合物の質量(%)である。]
上記式(c)、(d)は
(c1)(ΔRth(B)−ΔRth(0))/B≦−3.0
(d1)0.05≦B≦25
であることがより好ましく、
(c2)(ΔRth(B)−ΔRth(0))/B≦−4.0
(d2)0.1≦B≦20
であることがさらに好ましい。
【0074】
波長分散調整剤としては基材フィルムを構成するポリマーの波長分散と逆の波長分散を有する化合物を用いることが好ましい。
本発明において好ましく用いられるセルロースエステルのように、長波長側が大きい波長分散を有するポリマーを用いる場合には、波長分散調整剤としては、短波長側のRe、Rthの大きい化合物であって、フィルムのΔRe=|Re(400)−Re(700)|およびΔRth=|Rth(400)−Rth(700)|を低下させる化合物であることがより好ましく、このような化合物を少なくとも1種含むことによって、光学フィルムのRe、Rthの波長分散をより効果的に調整することができる。
【0075】
200〜400nmの紫外領域に吸収を持つ化合物は長波長側よりも短波長側の吸光度が大きい波長分散特性をもつ。この化合物自身が光学フィルム内部で等方的に存在していれば、化合物自身の複屈折性、ひいてはRe、Rthの波長分散は吸光度の波長分散と同様に短波長側が大きいと想定される。
【0076】
したがって上述したような、200〜400nmの紫外領域に吸収を持ち、化合物自身のRe、Rthの波長分散が短波長側ほど大きいと想定されるものを用いることによって、光学フィルムのRe、Rthの波長分散を調製することができる。このためには波長分散を調整する化合物はポリマー固形分に十分均一に相溶することが要求される。このような化合物の紫外領域の吸収帯範囲は200〜400nmが好ましいが、220〜395nmがより好ましく、240〜390nmがさらに好ましい。
【0077】
また、近年テレビやノートパソコン、モバイル型携帯端末などの液晶表示装置ではより少ない電力で輝度を高めるために、液晶表示装置に用いられる光学部材の透過率が優れたものが要求されている。よって、波長分散調整剤を基材フィルムに添加する場合、分光透過率が優れたものを用いることが好ましい。波長分散調整剤の分光透過率としては、波長380nmにおける分光透過率が45%以上95%以下であることが好ましく、かつ波長350nmにおける分光透過率が10%以下であることがより好ましい。
【0078】
波長分散調整剤は、基材フィルム作製のドープ流延、乾燥の過程で揮散しないことが好ましいため、分子量が250〜1000であることが好ましい。より好ましくは260〜800であり、更に好ましくは270〜800であり、特に好ましくは300〜800である。これらの分子量の範囲であれば、特定のモノマー構造であっても良いし、そのモノマーユニットが複数結合したオリゴマー構造、ポリマー構造でも良い。
【0079】
波長分散調整剤の添加量は、ポリマーの固形分の0.01ないし30質量%であることが好ましく、0.1ないし20質量%であることがより好ましく、0.2ないし10質量%であることが特に好ましい。
またこれら波長分散調整剤は、単独で用いても、2種以上化合物を任意の比で混合して用いてもよい。
【0080】
本発明に好ましく用いられる波長分散調整剤の具体例としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノ基を含む化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられるが、本発明はこれら化合物だけに限定されるものではない。
【0081】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、下記一般式(101)で示されるものが好ましく用いられる。
一般式(101): Q1−Q2−OH
(一般式(101)中、Q1は含窒素芳香族ヘテロ環、Q2は芳香族環を表す。)
【0082】
一般式(101)中、Q1は、含窒素方向芳香族へテロ環を表し、好ましくは5乃至7員の含窒素芳香族ヘテロ環であり、より好ましくは5ないし6員の含窒素芳香族ヘテロ環である。例えば、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアゾール、オキサゾール、セレナゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール、ベンズオキサゾール、ベンゾセレナゾール、チアジアゾール、オキサジアゾール、ナフトチアゾール、ナフトオキサゾール、アザベンズイミダゾール、プリン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、トリアザインデン、テトラザインデン等が挙げられ、更に好ましくは、5員の含窒素芳香族ヘテロ環であり、具体的にはイミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアゾール、オキサゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール、ベンズオキサゾール、チアジアゾール、オキサジアゾールが好ましく、特に好ましくは、ベンゾトリアゾールである。
Q1で表される含窒素芳香族ヘテロ環は更に置換基を有してもよく、置換基としては後述の置換基Tが適用できる。また、置換基が複数ある場合にはそれぞれが縮環して更に環を形成してもよい。
【0083】
一般式(101)中、Q2で表される芳香族環は、特に限定されず、芳香族炭化水素環でも芳香族ヘテロ環でもよいが、芳香族炭化水素環であることが好ましい。また、これらは単環であってもよいし、更に他の環と縮合環を形成してもよい。
芳香族炭化水素環としては、炭素数6〜30の単環または二環の芳香族炭化水素環(例えばベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。)であることが好ましく、炭素数6〜20の芳香族炭化水素環であることがより好ましく、炭素数6〜12の芳香族炭化水素環であることがさらに好ましく、ナフタレン環、ベンゼン環であることが特に好ましく、ベンゼン環であることが最も好ましい。
【0084】
芳香族ヘテロ環としては、特に限定されないが、好ましくは窒素原子あるいは硫黄原子を含む芳香族ヘテロ環である。この芳香族ヘテロ環の具体例としては、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデン等が挙げられる。中でも、ピリジン、トリアジン、キノリンが好ましい。
【0085】
一般式(101)中、Q2は、更に置換基を有してもよく、後述の置換基Tが好ましい。
置換基Tとしては例えばアルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニル等が挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル等が挙げられる。)、置換又は未置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、特に好ましくは炭素数0〜6であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ等が挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ等が挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、2−ナフチルオキシ等が挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイル等が挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル等が挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜10であり、例えばフェニルオキシカルボニル等が挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等が挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノ等が挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ等が挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノ等が挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイル等が挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイル等が挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオ等が挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオ等が挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメシル、トシル等が挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニル等が挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイド等が挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミド等が挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等が挙げられ、具体的にはイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、ピペリジル、モルホリノ、ベンゾオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル等が挙げられる。)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは、炭素数3〜24であり、例えば、トリメチルシリル、トリフェニルシリル等が挙げられる)等が挙げられる。
これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0086】
一般式(101)として好ましくは下記一般式(101−A)で表される化合物である。
【0087】
【化13】

【0088】
(一般式(101−A)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0089】
一般式(101−A)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、置換基としては前述の置換基Tが適用できる。またこれらの置換基は更に別の置換基によって置換されてもよく、置換基同士が縮環して環構造を形成してもよい。
一般式(101−A)中、R1およびR3として好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子であり、更に好ましくは水素原子、炭素1〜12アルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜12のアルキル基(好ましくは炭素数4〜12)である。
【0090】
一般式(101−A)中、R2、およびR4として好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子であり、更に好ましくは水素原子、炭素1〜12アルキル基であり、特に好ましくは水素原子、メチル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0091】
一般式(101−A)中、R5およびR8として好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子であり、更に好ましくは水素原子、炭素1〜12アルキル基であり、特に好ましくは水素原子、メチル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0092】
一般式(101−A)中、R6およびR7として好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子であり、更に好ましくは水素原子、ハロゲン原子であり、特に好ましくは水素原子、塩素原子である。
【0093】
一般式(101)としてより好ましくは下記一般式(101−B)で表される化合物である。
【0094】
【化14】

【0095】
(一般式(101−B)中、R1、R3、R6およびR7は一般式(101−A)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。)
【0096】
以下に、一般式(101)で表される化合物の具体例を挙げるが、下記具体例に限定されない。
【0097】
【化15】

【0098】
【化16】

【0099】
以上のベンゾトリアゾール系化合物の中でも、分子量が320以下のものを含まずにセルロースアシレートフィルムを作製した場合、保留性の点で有利である。
【0100】
また、波長分散調整剤として用いられるベンゾフェノン系化合物としては、下記一般式(102)で示されるものが好ましい。
【0101】
【化17】

【0102】
(一般式(102)中、Q1およびQ2はそれぞれ独立に芳香族環を表す。Xは、NR(Rは水素原子または置換基を表す。)、酸素原子、又は硫黄原子を表す。)
【0103】
一般式(102)中、Q1およびQ2で表される芳香族環は芳香族炭化水素環でも芳香族ヘテロ環でもよい。また、これらは単環であってもよいし、更に他の環と縮合環を形成してもよい。
1およびQ2で表される芳香族炭化水素環として好ましくは炭素数6〜30の単環または二環の芳香族炭化水素環(例えばベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる)であり、より好ましくは炭素数6〜20の芳香族炭化水素環、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素環である。最も好ましくはベンゼン環である。
1およびQ2で表される芳香族ヘテロ環として好ましくは酸素原子、窒素原子あるいは硫黄原子のどれかひとつを少なくとも1つ含む芳香族ヘテロ環である。ヘテロ環の具体例としては、例えば、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデンなどが挙げられる。芳香族ヘテロ環として好ましくは、ピリジン、トリアジン、キノリンである。
1およびQ2であらわされる芳香族環として好ましくは芳香族炭化水素環であり、より好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素環であり、更に好ましくは置換または無置換のベンゼン環である。
1およびQ2は更に置換基を有してもよく、前述の置換基Tが好ましいが、置換基にカルボン酸やスルホン酸、4級アンモニウム塩を含むことはない。また、可能な場合には置換基同士が連結して環構造を形成してもよい。
【0104】
XはNR(Rは水素原子または置換基を表す。置換基としては前述の置換基Tが適用できる。)、酸素原子または硫黄原子を表す。XがNRである場合、Rとして好ましくはアシル基、スルホニル基であり、これらの置換基は更に置換してもよい。Xとして好ましくは、NRまたは酸素原子であり、特に好ましくは酸素原子である。
【0105】
一般式(102)として好ましくは下記一般式(102−A)で表される化合物である。
【0106】
【化18】

【0107】
(一般式(102−A)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、およびR9は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0108】
一般式(102−A)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、およびR9は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、置換基ととしては前述の置換基Tが適用できる。またこれらの置換基は更に別の置換基によって置換されてもよく、置換基同士が縮環して環構造を形成してもよい。
【0109】
一般式(102−A)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、およびR9として好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子であり、更に好ましくは水素原子、炭素1〜12アルキル基であり、特に好ましくは水素原子、メチル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0110】
一般式(102−A)中、R2として好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、より好ましくは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数0〜20のアミノ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12アリールオキシ基、ヒドロキシ基であり、更に好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基であり、特に好ましくは炭素数1〜12のアルコキシ基である。
【0111】
一般式(102−A)中、R7として好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、より好ましくは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数0〜20のアミノ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12アリールオキシ基、ヒドロキシ基であり、更に好ましくは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、更に好ましくはメチル基)であり、特に好ましくはメチル基、水素原子である。
【0112】
一般式(102)としてより好ましくは下記一般式(102−B)で表される化合物である。
【0113】
【化19】

【0114】
(一般式(102−B)中、R10は水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基を表す。)
【0115】
一般式(102−B)中、R10は水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基を表し、置換基としては前述の置換基Tが適用できる。
10として好ましくは置換または無置換のアルキル基であり、より好ましくは炭素数5〜20の置換または無置換のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数5〜12の置換または無置換のアルキル基(n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、ベンジル基、などが挙げられる。)であり、特に好ましくは、炭素数6〜12の置換または無置換のアルキル基(2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、ベンジル基)である。
【0116】
一般式(102)で表される化合物は特開平11−12219号公報記載の方法により合成できる。
以下に一般式(102)で表される化合物の具体例を挙げるが、下記具体例に限定されない。
【0117】
【化20】

【0118】
【化21】

【0119】
【化22】

【0120】
また、波長分散調整剤として用いられるシアノ基を含む化合物としては、下記一般式(103)で示されるものが好ましい。
【0121】
【化23】

【0122】
(一般式(103)中、Q1およびQ2はそれぞれ独立に芳香族環を表す。X1およびX2は水素原子または置換基を表し、少なくともどちらか1つは少なくともどちらか1つはシアノ基を表す。)
1およびQ2であらわされる芳香族環は芳香族炭化水素環でも芳香族ヘテロ環でもよい。また、これらは単環であってもよいし、更に他の環と縮合環を形成してもよい。
【0123】
芳香族炭化水素環として好ましくは炭素数6〜30の単環または二環の芳香族炭化水素環(例えばベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる)であり、より好ましくは炭素数6〜20の芳香族炭化水素環、更に好ましくは炭素数6〜12の芳香族炭化水素環である。最も好ましくはベンゼン環である。
【0124】
芳香族ヘテロ環として好ましくは窒素原子あるいは硫黄原子を含む芳香族ヘテロ環である。ヘテロ環の具体例としては、例えば、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデンなどが挙げられる。芳香族ヘテロ環として好ましくは、ピリジン、トリアジン、キノリンである。
【0125】
一般式(103)中、Q1およびQ2であらわされる芳香族環として好ましくは芳香族炭化水素環であり、より好ましくはベンゼン環である。
1およびQ2は更に置換基を有してもよく、前述の置換基Tが好ましい。
【0126】
一般式(103)中、X1およびX2は水素原子または置換基を表し、少なくともどちらか1つはシアノ基を表す。X1およびX2で表される置換基は前述の置換基Tを適用することができる。また、X1およびX2はで表される置換基は更に他の置換基によって置換されてもよく、X1およびX2はそれぞれが縮環して環構造を形成してもよい。
【0127】
一般式(103)中、X1およびX2として好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基、スルホニル基、芳香族ヘテロ環であり、より好ましくは、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基、芳香族ヘテロ環であり、更に好ましくはシアノ基、カルボニル基であり、特に好ましくはシアノ基、アルコキシカルボニル基(−C(=O)OR(Rは:炭素数1〜20アルキル基、炭素数6〜12のアリール基およびこれらを組み合せたもの))である。
【0128】
一般式(103)として好ましくは下記一般式(103−A)で表される化合物である。
【0129】
【化24】

【0130】
(一般式(103−A)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9およびR10は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。X1およびX2は一般式(103)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。)
【0131】
一般式(103−A)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9およびR10はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表し、置換基としては前述の置換基Tが適用できる。またこれらの置換基は更に別の置換基によって置換されてもよく、置換基同士が縮環して環構造を形成してもよい。
【0132】
一般式(103−A)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9およびR10として好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子であり、更に好ましくは水素原子、炭素1〜12アルキル基であり、特に好ましくは水素原子、メチル基であり、最も好ましくは水素原子である。
【0133】
一般式(103−A)中、R3およびR8として好ましくは水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、より好ましくは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数0〜20のアミノ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜12アリールオキシ基、ヒドロキシ基であり、更に好ましくは水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12アルコキシ基であり、特に好ましくは水素原子である。
【0134】
一般式(103)としてより好ましくは下記一般式(103−B)で表される化合物である。
【0135】
【化25】

【0136】
(一般式(103−B)中、R3およびR8は一般式(103−A)におけるそれらと同義であり、また、好ましい範囲も同様である。X3は水素原子または置換基を表す。)
【0137】
一般式(103−B)中、X3は水素原子、または置換基を表し、置換基としては前述の置換基Tが適用でき、また、可能な場合は更に他の置換基で置換されてもよい。X3として好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基、スルホニル基、芳香族ヘテロ環であり、より好ましくは、シアノ基、カルボニル基、スルホニル基、芳香族ヘテロ環であり、更に好ましくはシアノ基、カルボニル基であり、特に好ましくはシアノ基、アルコキシカルボニル基(−C(=O)OR(Rは:炭素数1〜20アルキル基、炭素数6〜12のアリール基およびこれらを組み合せたもの)である。
【0138】
一般式(103)として更に好ましくは一般式(103−C)で表される化合物である。
【0139】
【化26】

【0140】
(一般式(103−C)中、R3およびR8は一般式(103−A)におけるそれらと同義であり、また、好ましい範囲も同様である。R21は炭素数1〜20のアルキル基を表す。)
【0141】
一般式(103−C)中、R21として好ましくは、R3およびR8が両方とも水素原子である場合には、炭素数2〜12のアルキル基であり、より好ましくは炭素数4〜12のアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数6〜12のアルキル基であり、特に好ましくは、n−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルへキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基であり、最も好ましくは2−エチルへキシル基である。
【0142】
一般式(103−C)中、R21として好ましくは、R3およびR8が水素以外の場合には、一般式(103−C)で表される化合物の分子量が300以上になり、かつ炭素数20以下の炭素数のアルキル基が好ましい。
【0143】
一般式(103)で表される化合物は、Journal of American Chemical Society 63巻 3452頁(1941)に記載の方法によって合成できる。
【0144】
以下に一般式(103)で表される化合物の具体例を挙げるが、下記具体例に限定されない。
【0145】
【化27】

【0146】
【化28】

【0147】
【化29】

【0148】
〈フィルムの添加剤〉
本発明の基材フィルムは種々の添加剤を含有させることができ、添加剤としては、厚み方向のレターデーションを所望の範囲とできる添加量であれば制限はない。例えば、上述のレターデーション低減剤(光学異方性を低下させる化合物)、波長分散調整剤、架橋構造を形成する化合物の他、その他光学特性調整剤、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、等が挙げられる。
種々の添加剤は、製造段階において添加することが好ましい。添加する時期は特に限定されないが、熱可塑性樹脂を熱溶融して基材フィルムを製膜する場合は、熱溶融時等に加えることができる。また、ポリマーを均一に溶剤に溶解した溶液から溶液製膜(ソルベントキャスト法)によって製膜する場合は、ポリマー溶液(以下、ドープという)の調製工程に添加することができる。この場合、ドープ調製工程の最後の工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。また、これらの添加剤も重合性不飽和二重結合を有する官能基によって置換し、重合性不飽和二重結合を複数有する低分子化合物とともに共重合させてもよい。
【0149】
[添加剤の含有量]
本発明の基材フィルムは、基材樹脂素材に対して、0.3質量%以上、例えば0.3質量%以上45質量%以下の添加剤を含有することが好ましい。添加剤は、光学特性、物理特性などのフィルムの諸特性を樹脂素材のみからなるフィルムよりも広範囲に調整することができる。より好ましくは5〜40質量%であり、さらにのぞましくは10〜30質量%である。これらの化合物としては上述したように、光学異方性を低下させる化合物、架橋構造を形成する化合物、波長分散調整剤、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤などであり、分子量としては、3000以下が好ましく、2000以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましい。例えば主としてフィルムが樹脂で形成されている場合、基材樹脂素材単体の性質を抑えることができ、例えば、温度や湿度の変化に対して光学性能や物理的強度が変動しにくくなるなどの点で、これら化合物の総量が0.3質量%以上であることが好ましい。また、透明フィルム中に化合物が相溶する限界を超えず、フィルム表面への析出によるフィルムの白濁(フィルムからの泣き出し)等の抑制の観点から、これら化合物の総量が45質量%以下であることが好ましい。
【0150】
[添加剤の厚み方向分布]
本発明の基材フィルムは、分子量が3000以下の化合物の添加物を、基材フィルムを構成する樹脂素材質量に対して少なくとも1種類以上、0.3質量%以上含有し、基材フィルムを厚み方向に10等分した領域の中で、最外層を除く8つの領域それぞれの添加剤存在量が基材フィルム全体の平均添加剤存在量(フィルム中全添加剤量を10で割った値)の80%〜120%であることが好ましい。このように添加剤分布が均一であることにより、常温常湿、低湿、高湿の他、低温や高温でも基材フィルムのカール値を0に近づけることができるものと考えられ、湿度変化によるカールの変動や温度変化によるカールの変動も小さく抑えられるものと考えられる。各領域の添加剤存在量はフィルム平均存在量の85%〜115%であることがより好ましく、90%〜110%であることが特に好ましい。
【0151】
添加剤の厚み方向分布の評価はION―TOF社製TOF−SIMS IV(一次イオンとしてAu1+、25keV)を用いて評価することができる。フィルム流延時の支持体面から空気表面(反支持体面)へ膜厚方向に10等分した各層の添加剤強度を算出し評価する。複数の添加剤を有する場合、それぞれの添加剤ごとに添加強度を算出し、フィルム全体に含有する添加剤量を算出し、その割合に応じて各層の添加剤量を評価することができる。
【0152】
基材フィルムの添加剤の分布を上記の範囲とするには、溶融製膜品についてはフィルム製膜時の押出し、冷却工程における添加剤の飛散性や拡散性の少ない添加剤を用いることにより達成できる。また、添加剤の飛散性や拡散性を考慮した上で、共押出し法により、外側溶融層の添加剤添加量を内部よりも幾分高めに設定することも好ましい方法である。すなわち、下記(1)および(2)の工程を有する方法が挙げられる。
【0153】
(1)分子量3000以下の添加剤を樹脂素材に対し複数の異なる濃度で添加し、溶融し、前記添加剤の濃度の異なる複数の溶融物を調製する工程。
(2)前記添加剤の濃度の高い溶融物が、得られる基材フィルムの外側層を形成するように、共押出し法により支持体上に押出す工程。
【0154】
なお、前記の外側層とは、基材フィルムを厚み方向に10等分した領域の中での、上下の最外層を意味する。また、最外層の添加剤の濃度は、内側層にくらべて好ましくは0.1〜15%、さらに好ましくは0.5%〜10%高いのがよい。
【0155】
溶液製膜品については、ドープ溶液流延後の溶剤乾燥工程における添加剤の拡散性や飛散性の少ない添加剤と溶剤の組み合わせを選択することにより達成できる。好ましい添加剤は、溶剤よりも樹脂素材との親和性が強いものが好ましく、乾燥過程で、溶剤がフィルム表面から蒸発する際の添加剤の飛散性や、溶剤濃度が低くなっていく過程で、溶剤がフィルム表面へ拡散する際の添加剤の拡散性が、親和性のより強い樹脂素材によって阻害され、添加剤の分布が不均一とならず、所望の範囲に収めることができる。
【0156】
また、添加剤の拡散性や飛散性を考慮した上で、公知の共流延法あるいは積層流延法により、外側ドープ層(外側層)の添加剤添加量を内部よりも幾分高めに設定することも好ましい。すなわち、下記(3)および(4)の工程を有する方法が挙げられる。
【0157】
(3)分子量3000以下の添加剤を樹脂素材に対し複数の異なる濃度で添加し、溶剤を加え溶解し、前記添加剤の濃度の異なる複数の溶液を調製する工程。
(4)前記添加剤の濃度の高い溶液が、得られる基材フィルムの外側層を形成するように、共流延法または積層流延法により支持体上に流延する工程。
なお、前記の外側層の定義、また最外層と内側層の添加剤の濃度の差異は、前述のとおりである。
【0158】
また、乾燥条件をコントロールすることにより、添加剤の分布を良好な範囲に収めることができる。すなわち、例えば下記(5)、(6)および(7)の工程を有する方法が挙げられる。
【0159】
(5)溶剤に樹脂素材および分子量3000以下の添加剤を加え溶解し溶液を調製し、これを支持体上に流延する工程。
(6)前記溶液の揮発分量が80%以下40%以上の範囲になるまで乾燥し、フィルムを形成し、前記フィルムを前記支持体から剥ぎ取る工程。
(7)前記支持体から剥ぎ取ったフィルムの揮発分量を45%以下10%以上の範囲に調整し、これを131℃以上の温度で急速に乾燥する工程。
【0160】
好ましい乾燥条件としては、バンドまたはドラムのような支持体からの剥ぎ取りを揮発分量80%以下40%以上、剥ぎ取り速度40m/分以上200m/分以下で行い、131℃以上での乾燥を揮発分量45%以下10%以上で開始し、乾燥時間を24分以内として、急速に乾燥させる条件である。
剥ぎ取り時の揮発分量は70%以下50%以上が好ましく、65%以下58%以上がより好ましい。剥ぎ取り速度は53m/分以上180m/分以下が好ましく、90m/分以上160m以下がより好ましい。剥ぎ取り速度は生産性に影響し、40m/分未満では、安価にフィルムを作製することは難しくなる。
131℃以上での乾燥を揮発分量40%以下15%以上で開始することが好ましく、35%以下18%以上で行うことがより好ましい。乾燥時間は20分以内であることが好ましく、16分以内であることがより好ましい。
乾燥温度は、高いほど迅速に乾燥でき、添加剤の分布を均一化することができ好ましい。ドープの組成にもよるが、混入する水分を速やかに除去するために、131℃以上が好ましく、さらに好ましくは135〜180℃である。
【0161】
[剥離剤]
本発明に使用することのできる樹脂素材、例えばセルロースアシレートフィルムには、剥離時の荷重を小さくするために剥離剤を添加することが好ましい。
剥離剤としては、公知の界面活性剤を用いることが有効である。この界面活性剤としては、リン酸系、スルホン酸系、カルボン酸系、ノニオン系、カチオン系等の界面活性剤を用いることができ、特に限定されない。ここで用いることができる界面活性剤の例としては、例えば特開昭61−243837号公報等に記載されている。
【0162】
なお、剥離剤に関しては、特開2003−055501号公報に、セルロースアシレート溶液の白濁を防止し、フィルム製造剥離性とフィルム面状を改良するため、非塩素系溶剤に溶解したセルロースアシレート溶液で、酸解離指数pKAが1.93〜4.5の多塩基酸部分エステル体、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩から選ばれる添加剤を含有するセルロースアシレート溶液について記載がある。
なお、添加剤に関しては特開2003−128838号公報には、剥ぎ取り性、面状、膜強度を良化させるために、少なくとも一種類の活性水素と反応する基を2個以上有する架橋剤をセルロースアシレートに対して0.1〜10質量%含有するセルロースアシレートドープ溶液についての記載がある。
また、特開2003−165868号公報には、添加剤を添加し、良好な透湿度を有し、寸法安定性に優れたフィルムを提案している。
本発明では、上記公報に記載されている剥離剤を用いることができる。
【0163】
[マット剤微粒子]
本発明の基材フィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0164】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm以上1.5μm以下が好ましく、0.4μm以上1.2μm以下がさらに好ましく、0.6μm以上1.1μm以下が最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0165】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0166】
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vは、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、透明フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0167】
本発明において2次平均粒子径の小さな粒子を有する基材フィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作成し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子が更に再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行ない、これを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%が更に好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1m2あたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gが更に好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
【0168】
使用される溶剤は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0169】
[可塑剤、劣化防止剤]
上記の光学異方性を低下させる化合物、波長分散調整剤などの他に、本発明で用いられる基材フィルムには、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、赤外線吸収剤、など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば融点が20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に可塑剤の混合などであり、例えば特開2001−151901号公報などに記載されている。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はドープ作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、基材フィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。例えば特開2001−151902号公報などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。これらの詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて16頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0170】
また、本発明の基材フィルムは、例えばセルロースアシレートフィルムと、架橋ポリマーのセミIPN型ポリマーアロイから形成されていても良い。
IPNとは相互貫入網目構造のことであり、セミIPNとは一方が架橋ポリマー、他方が非架橋ポリマーの場合のIPNのことである。セミIPN型のポリマーアロイは、例えば、非架橋ポリマーを溶解した状態で、架橋ポリマー用のモノマーおよび/またはオリゴマーを架橋重合させる方法や、溶剤の存在または不存在下で架橋ポリマーをモノマーおよび/またはオリゴマーで膨潤させた状態でモノマーを非架橋重合させることにより形成することができる。ただし、本発明においては、架橋ポリマーと非架橋ポリマーが完全に相溶している必要はなく、相分離しているものも含む。架橋ポリマーと非架橋ポリマーが相分離している場合であっても、架橋ポリマーリッチ相と非架橋ポリマーリッチ相とは、それぞれセミIPN構造を取っている。しかしながら、本発明の基材フィルムは、粒子状に成形した架橋ポリマーと、非架橋ポリマーとをブレンドしたものではない。このことは、非架橋ポリマーを溶解する溶剤に本発明の透明フィルムを浸漬した時に、大部分の架橋ポリマーが粒子状に分散しないことにより確認できる。
【0171】
上記セミIPN型ポリマーアロイからなる基材フィルムは、架橋ポリマーが有する高硬度、耐熱性等の物性と、非架橋ポリマーの柔軟性や光学特性を両立させることができる。
【0172】
〈有機−無機ポリマーハイブリッド〉
本発明においては、有機−無機ポリマーハイブリッド(または有機−無機ポリマーコンポジットまたはゾル・ゲル法など)と呼称される手法を併用することができる。
【0173】
有機−無機ポリマーハイブリッドとは、有機ポリマーと無機化合物を組み合わせて、双方の特性を持った材料を合成する手法であるが、有機ポリマーと無機化合物は相溶性に乏しいため、単純に両者を混合するだけでは有用な材料を得ることが難しい。近年になって、無機物を金属アルコキシドのような液体状態から合成する手法が開発されるにいたり、溶液プロセスによって光の波長以下(〜約750nm以下)のナノスケールで有機物と無機物を混合することが可能となり、光学的にも透明で有用な材料が得られるようになってきている。
【0174】
本発明においても、例えば有機ポリマーである本発明に係るセルロースエステル、必要に応じて用いられる架橋ポリマー中に、さらに無機化合物である金属酸化物微粒子をハイブリッドすることにより、透明性や光学特性を保ったまま、より耐熱性を向上させることができる。
【0175】
〈無機化合物〉
以下、金属酸化物微粒子について説明する。
【0176】
本発明において金属とは、「周期表の化学」岩波書店 斎藤一夫著 p.71記載の金属すなわち半金属性原子を含む金属である。
本発明に用いられる加水分解重縮合が可能な反応性金属化合物としては、例えば金属アルコキシド、金属ジケトネート、金属アルキルアセトアセテート、金属イソシアネート、反応性の金属ハロゲン化物が挙げられるが、好ましくは金属アルコキシドである。中心金属はケイ素、ジルコニウム、チタンおよびアルミニウムが好ましく、特に好ましくは下記一般式(4)で表されるアルコキシシラン化合物である。
【0177】
【化30】

【0178】
(式(4)中、R31、R32は水素原子または一価の置換基を表し、pは3または4である。)
【0179】
加水分解重縮合可能なアルコキシシラン化合物としては、p=4であるような、全てが加水分解可能な置換基で置換されていることが好ましいが、基材フィルムの透湿度を低減する観点から、加水分解されない置換基によって該金属1原子当たり1つ置換されている化合物が含まれていても良い。このような加水分解されない置換基としては、置換または無置換のアルキル基、または置換または無置換のアリール基が好ましく、該アルキル基またはアリール基の置換基としては、アルキル基(例えばメチル基、エチル基等)、シクロアルキル基(例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アラルキル基(例えばベンジル基、2−フェネチル基等)、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基等)、複素環基(たとえばフラン、チオフェン、ピリジン等)アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、アシル基、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、アルキルチオ基、グリシジル基、ビニル基、フッ素原子含有アルキル基またはフッ素原子含有アリール基等が挙げられる。
【0180】
このような一般式(4)で表されるアルコキシシランは、理想的には下記の式(5)のように反応が完結し、金属酸化物微粒子が得られる。
【0181】
【化31】

【0182】
このように反応が完結したと仮定した、(R314-pSiOp/2の質量を、無機物の含有量として算出する。
【0183】
基材中に含まれる無機物の含有量、特にセミIPN構造を有する基材フィルム無機物の含有量としては、セミIPN構造を有する基材フィルムの全質量に対して、0.1〜40質量%が好ましい。より好ましくは、1.0〜20質量%である。無機物の添加量が0.1質量%より少ないと、有機−無機ハイブリッドによる物性改良効果が認められなくなり、40質量%を越えるとセミIPN構造を有する基材フィルムが脆くなってしまうためである。
【0184】
本発明に用いられる加水分解重縮合が可能なアルコキシシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシプロポキシ)シラン、テトラ(t−ブトキシシラン)、テトラクロロシラン、テトライソシアナートシラン等が挙げられる。
【0185】
また加水分解されない置換基を有するアルコキシシラン化合物として、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジイソプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジイソプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジエチルシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、アセトキシトリエトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリクロロシラン、ペンタフルオロフェニルプロピルトリクロロシラン、(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリクロロシラン、メチルトリイソシアナートシラン、フェニルトリイソシアナートシラン、ビニルトリイソシアナートシラン、等が挙げられる。
【0186】
また、これらの化合物が部分的に縮合した、多摩化学製シリケート40、シリケート45、シリケート48、Mシリケート51のような、数量体のケイ素化合物も挙げられる。
【0187】
またその他の金属化合物としては、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンn−ブトキシド、テトラクロロチタン、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキシド(ビス−2,4−エチルアセトアセテート)、チタンジ−n−ブトキシド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンアセチルアセトネート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ブチルチタネートダイマー、ジルコニウムn−プロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムトリ−n−ブトキシドアセチルアセトネート、ジルコニウムジ−n−ブトキシドビスアセチルアセトネート、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテート、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド、アルマトラン、アルミニウムフェノキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、等が挙げられる。
【0188】
〈加水分解触媒〉
本発明の基材フィルムにおいて、前記一般式(4)で表されるのアルコキシシランは、必要に応じて水・触媒を加えて加水分解を起こさせて縮合反応を促進してもよい。
【0189】
しかしフィルムのヘイズ、平面性、製膜速度、溶剤リサイクルなどの生産性の観点から、水分はドープ濃度の0.01%以上2.0%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0190】
疎水的な有機金属化合物に水を添加する場合には、有機金属化合物と水が混和しやすいように、メタノール、エタノール、アセトニトリルのような親水性の有機溶媒が共存していることが好ましい。また、セルロース誘導体のドープに有機金属化合物を添加する際に、ドープからセルロース誘導体が析出しないよう、該セルロース誘導体の良溶媒も含まれていることが好ましい。
【0191】
ここで触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、りん酸、12タングスト(VI)りん酸、12モリブド(VI)りん酸、けいタングステン酸等の無機酸、酢酸、トリフロロ酢酸、レブリン酸、クエン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機酸等が用いられる。酸を添加しゾル・ゲル反応が進行した後に塩基を加え中和しても良い。塩基を加え中和する場合、乾燥工程前でのアルカリ金属の含有量が5000ppm未満である事が好ましい(ここでアルカリ金属とは、イオン状態のものを含む)。又、ルイス酸、例えばゲルマニウム、チタン、アルミニウム、アンチモン、錫などの金属の酢酸塩、その他の有機酸塩、ハロゲン化物、燐酸塩などを併用してもよい。
【0192】
また触媒として、このような酸類の代りに、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなど、DBU(ジアザビシクロウンデセン−1)、DBN(ジアザビシクロノネン)などのビシクロ環系アミン、アンモニア、ホスフィン、アルカリ金属アルコキシド、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の塩基を用いることができる。
【0193】
このような、酸またはアルカリ触媒の添加量としては特に制限はされないが、好ましくは加水分解重縮合可能な反応性金属化合物の量に対して1.0%〜20%が好ましい。また、酸及び塩基の処理を複数回併用しても良い。触媒を中和してもよいし揮発性の触媒は減圧で除去してもよいし、分液水洗等により除去しても良い。触媒の除去が簡便である、イオン交換樹脂のような固体触媒を使用しても良い。
【0194】
なお該反応性金属化合物の加水分解重縮合は、塗布前の溶液状態で反応を完結させても良いし、フィルム状に流延してから反応を完結させても良いが塗布前に反応を完結させるのが良い。用途によっては、反応は完全に終了しなくても良いが、できれば完結していたほうが良い。
【0195】
〈溶剤〉
本発明に係る基材フィルム等の原料として好ましい例えばセルロースエステルおよび必要により用いられる架橋性化合物は、溶剤に溶解され、基材上に流延しフィルムを形成させる際に押し出しあるいは流延後に溶剤を蒸発させるという溶剤キャスト法で成膜することが好ましいため、揮発性の溶媒が好ましく、かつ、触媒や架橋性化合物等と反応せず、しかも流延用基材を溶解しないものであり、2種以上の溶媒を混合して用いても良い。また、例えばセルロースエステルと架橋性化合物を各々別の溶媒に溶解した後に混合しても良い。
【0196】
ここで、以下、本発明において好ましい原料であるセルロースエステルに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0197】
良溶媒の例としてはアセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、ぎ酸メチル、ぎ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレンなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチルおよび塩化メチレンが好ましい。
【0198】
ドープには、上記有機溶媒の他に、炭素原子数1〜4のアルコールを1〜40質量%含有させることが好ましい。これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることでウェブ(支持体上に原料のドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、ウェブを丈夫にし金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロース誘導体の溶解を促進したりする役割もあるし、反応性金属化合物のゲル化、析出、粘度上昇を抑える役割もある。
【0199】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることが出来る。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0200】
このような条件を満たし好ましい高分子化合物である本発明に係るセルロースエステルを高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。
【0201】
〈製造方法〉
次に、本発明において好ましい原料であるセルロースエステルの溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。
本発明の基材フィルム等を製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が好ましく用いられる。例えば、以下のようにして製造される。溶解機(釜)から調製されたドープ(例えばセルロースアセテート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて得られたフィルムを乾燥装置のロール群で機械的に搬送し乾燥を終了して巻き取り機でロール状に所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。本発明のセルロースエステルフィルムの主な用途である、電子ディスプレイ用の光学部材である機能性保護膜やハロゲン化銀写真感光材料に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらについては、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25頁〜30頁に詳細に記載されており、流延(共流延を含む),金属支持体,乾燥,剥離などに分類され、本発明において好ましく用いることができる。
【0202】
本発明においてエネルギー線を照射することにより架橋を行う場合には、流延工程後にエネルギー線照射工程を経ることが好ましい。また、加熱により架橋を行う場合には、上記の乾燥工程において加熱することにより、乾燥と同時に化合物を高分子化(または架橋)させる。
加熱温度と加熱時間は、用いる化合物や高分子化促進剤等により異なるが、一般に好ましくは70℃以上170℃以下、より好ましくは80°以上160℃以下、最も好ましいのは、90℃以上150℃以下である。乾燥(加熱)時間は、好ましくは20分〜240分、最も好ましくは30分〜180分である。
【0203】
[金属化合物層]
本発明の透明フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に、直接または他の層を介して、少なくとも1層の金属化合物層を有することを特徴とする。金属化合物層は非晶性であることが好ましい。非晶性でなく、結晶性の金属化合物層を用いた場合には、ロール状形態で保管時に金属化合物層の破断・亀裂が生じやすい。
金属化合物層によって水蒸気および気体の透過性を低減することができる。また、経時や温度・湿度などの環境変化による光学特性や物理特性の変化を抑制することができる。また、厚みムラのない平滑なフィルム面状を実現することにも寄与できる。さらには、金属化合物層付きフィルムを液晶表示装置の視認側偏光板に用いることにより、従来、環境の変化によって発生していた液晶画面の湾曲(ワープ)を低減することができる。
また、可視光域では反射防止、紫外域では反射膜の機能を付与することにより、本発明の透明フィルムに含まれる添加剤の分解を抑制するとともに、後述の紫外線吸収剤の添加量を抑え、レターデーション低減剤の添加量を増やすことができ、レターデーションのさらなる低減を図ることができる。
加えて、透明導電性、帯電防止性を付与することができ、ゴミ付着を防止し、不良品率低減、搬送速度アップによる生産性向上、コストダウンを図ることができる。
本明細書において、水蒸気および気体の透過性を低減することを主な目的とする金属化合物層は、防湿膜または防湿層と呼ばれることがあり、透明伝導性を主な目的とする金属化合物層は、透明導電膜または透明導電層と呼ばれることがある。また、これら各機能を目的とする金属化合物層を複数積層してもよい。
【0204】
金属化合物層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの方法のほか、後述する、窒素を主成分とする大気圧近傍および大気圧以上の雰囲気下でのプラズマ放電処理方法により形成することが好ましい。
また、これらの乾式成膜法のほかに、塗布による湿式成膜法を用いることも好ましく、さらに、これらを併用することにより作製することも好ましい。そのなかでも、大気圧プラズマ放電処理方法によるものが簡便でありより好ましい。
本発明の金属化合物層としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物、金属酸炭窒化物、これらのうちの二つ以上を混合した混合物のいずれでもよい。
【0205】
金属化合物層は、薄過ぎると効果に乏しく、厚過ぎると割れ、クラック等の問題が発生するため、その膜厚は、0.005〜5μm程度であるのが好ましく、特に0.1μmよりも大きく、かつ、1.8μm以下であるのが好ましく、さらには1.0μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以下であるのが特に好ましい。金属化合物層はフィルムの両面に設置しても構わないし、積層することもできる。
【0206】
金属化合物層に含まれる金属原子としては、例えば、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、錫(Sn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ゲルマニウム(Ge)、タングステン、タンタル、インジウム、クロム、バナジウム等が挙げられるが、特に珪素原子(Si)、アルミニウム(Al)が好ましい。金属化合物層に含まれる金属原子が珪素原子である場合には、珪素酸化物、窒化ケイ素であることが好ましい。
【0207】
また、J.Sol-Gel Sci.Tech.,p141〜146(1998)に開示されているように、金属酸化物や金属窒化物、金属酸窒化物の薄膜はひび割れやすく、割れたクラックから水蒸気がもれてしまうため、金属酸化物や金属窒化物、金属酸窒化物の防湿膜の上に各種コーティング材を塗布することで前記クラックを封止し、一層の透湿度の低減をはかることもできる。
【0208】
〈透明導電層〉
本発明においては、透明フィルムは、下記の透明導電層を有していてもよい。また、前記金属化合物層が透明導電層を兼ねていてもよい。好ましい透明導電層とは、一般に工業材料としてよく知られているものであり、可視光(400〜700nm)をほとんど吸収せず透明で、しかも良導電体の膜のことである。電気を運ぶ自由荷電体の透過特性が可視光域で高く、透明であり、しかも電気伝導性が高いため、例えば有機EL表示装置等の透明電極として用いられる。透明導電膜を有機EL表示装置用として使用する場合には、透明導電層の膜厚を約100〜140nmとすることが好ましい。
【0209】
透明導電層としては、SnO2、In23、CdO、ZnO2、SnO2:Sb、SnO2:F、ZnO:AL、In23:Snなどの金属酸化物膜及びドーパントによる複合酸化物膜が挙げられる。
【0210】
ドーパントによる複合酸化物膜としては、例えば、酸化インジウムにスズをドーピングして得られるITO膜、酸化錫にフッ素をドーピングして得られるFTO膜、In23−ZnO系アモルファスからなるIZO膜等が挙げられる。
【0211】
このような透明導電層は、大気圧プラズマ放電処理方法のほか、塗布に代表される湿式成膜法や、あるいは、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の真空を用いた乾式成膜法で形成されても良いが、製膜プロセスが簡便な大気圧プラズマ放電処理方法が好ましい方法である。
【0212】
〈活性線硬化樹脂層〉
本発明の透明フィルムにおいて、前記の防湿膜・透明導電膜のような金属化合物層を基材フィルムに直接形成させてもよいが、他の中間層を少なくとも1層設けた上に形成させてもよい。他の層として、防眩層やクリアハードコート層等を好ましく用いることが出来、これらの層が紫外線等活性線により硬化する活性線硬化樹脂層であることが好ましく、このような紫外線で硬化された樹脂層の上に本防湿膜・透明導電膜等の金属化合物層を形成させることによって例えば耐擦り傷性に優れた透明フィルムを得ることも出来る。
【0213】
この中間層は、大気圧プラズマ処理により金属酸化物層を形成する際に、接着性向上及びプラズマダメージ軽減の作用を有する。このように、中間層を設けることによって、本発明の基材フィルム上に直接、金属化合物層を形成する場合に比して金属化合物層の特性を上げることができる。また、この中間層によって本発明の基材フィルムと金属化合物層との間の密着性を向上させることができる。
【0214】
防眩層及びクリアハードコート層の活性線硬化樹脂層は、重合性不飽和モノマーを含む成分を重合させて形成することができる。ここで、活性線硬化樹脂層とは、紫外線や電子線のような活性線照射により架橋反応などを経て硬化する樹脂を主たる成分とする層をいう。活性線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂などが代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線照射によって硬化する樹脂でもよい。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることが出来る。
【0215】
[金属化合物層の形成方法]
前述のように、金属化合物層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの方法のほか、後述する大気圧プラズマ放電処理方法により形成することが好ましい。また、これらの乾式成膜法のほかに、塗布による湿式成膜法を用いることも好ましく、さらに、これらを併用することにより作製することも好ましい。そのなかでも、大気圧プラズマ放電処理方法のよるものが簡便でありより好ましい。
金属化合物層については、前述の通りである。
【0216】
(プラズマ放電処理)
本発明の透明フィルムにおいては、大気圧以上もしくは大気圧近傍の圧力下にある電極間隙に窒素を主体とする反応ガスを供給してプラズマ放電処理することにより、金属化合物層を基材フィルム上に直接または他の層を介して形成することが好ましい。
プラズマ放電処理中の圧力は、大気圧以上もしくは大気圧近傍である。好ましくは、0.08MPa以上、0.28MPa未満、より好ましくは、0.09MPa以上0.19MPa未満である。
【0217】
このプラズマ放電処理方法は、常圧プラズマ法あるいは大気圧プラズマ放電処理方法とも呼ばれている方法(以下、この大気圧以上またはその近傍の圧力下のプラズマ放電処理を単にプラズマ放電処理と略すことがある)で、大気圧以上またはその近傍の圧力下にある対向電極間の間隙に反応ガスを供給して放電することにより発生させたプラズマによって、基材フィルム上に薄膜を形成させるものである。
【0218】
従来、真空蒸着による方法は、長尺の基材フィルム上に連続的に薄膜層を形成する場合に、薄膜形成速度を上げようとすると、形成される薄膜層の膜厚ムラが起こりやすく、また基材フィルムが部分的に伸びたり縮んだり、変形する等して平面性が悪化しやすいという問題があったが、プラズマ放電処理方法によって改善することができる。
【0219】
また、長時間連続的に基材フィルムに薄膜層を形成することができ、金属化合物薄膜層のクラックの発生が少なく、さらに、高温高湿環境下で保存した場合に白化を起こさず、導電性の低下が少ない等、耐久性に優れ、かつ、安定した透明フィルムを得ることができた。
【0220】
本発明では複数の金属化合物層を設ける場合には、塗布、スパッタ、蒸着、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成された金属化合物層と組み合わせて用いることも可能である。好ましくは2層以上が窒素を主成分とする雰囲気下での大気圧プラズマ処理によって形成された金属化合物層を有することであり、更に好ましくは4層以上が窒素を主成分とする雰囲気下での大気圧プラズマ処理によって形成された金属化合物層を有することである。
【0221】
以下に、プラズマ放電処理により、基材フィルムの少なくとも一方の面に直接または他の層を介して、少なくとも一層の金属化合物層を形成する方法を図1、2を用いて説明するが、本発明は、これらの図によって限定されるものではない。
以下の説明において、基材および基材Fとは、基材フィルムまたは基材フィルムに他の層が積層されたものを意味する。
【0222】
図1は本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【0223】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置は、プラズマ放電処理装置、二つの電源を有する電圧印加手段の他に、図1では図示してない(後述の図2に図示してある)が、ガス供給手段、電極温度調節手段を有している装置である。
【0224】
プラズマ放電処理装置10は、第1電極11と第2電極12から構成されている対向電極を有しており、該対向電極間に、第1電極11からは第1電源21からの第1の周波数ω1の高周波電圧V1が印加され、また第2電極12からは第2電源22からの第2の周波数ω2の高周波電圧V2が印加されるようになっている。第1電源21は第2電源22より大きな高周波電圧(V1>V2)を印加できる能力を有していればよく、また第1電源21の第1の周波数ω1と第2電源22の第2の周波数ω2は、ω1<ω2の関係にある。
【0225】
第1電極11と第1電源21との間には、第1電源21からの電流21Aが第1電極11に向かって流れるように第1フィルター23が設置されており、第1電源21からの電流21Aをアース側へと通過しにくくし、第2電源22からの電流22Aがアース側へと通過しやすくするように設計されている。
【0226】
また、第2電極12と第2電源22との間には、第2電源22からの電流22Aが第2電極12に向かって流れるように第2フィルター24が設置されており、第2電源22からの電流22Aをアース側へと通過しにくくし、第1電源21からの電流21Aをアース側へと通過しやすくするように設計されている。
【0227】
第1電極11と第2電極12との対向電極間(放電空間)13に、ここでは図示してない(後述の図2に図示してあるような)ガス供給手段からガスGを導入し、第1電極11と第2電極12から高周波電圧を印加して放電を発生させ、ガスGをプラズマ状態にしながら対向電極の下側(紙面下側)にジェット状に吹き出させて、対向電極下面と基材Fとで作る処理空間をプラズマ状態のガスG°で満たし、図示してない基材の元巻き(アンワインダー)から巻きほぐされて搬送して来るか、あるいは前工程から搬送して来る基材Fの上に、処理位置14付近で薄膜を形成させる。薄膜形成中、ここでは図示してない(後述の図2に図示してあるような)電極温度調節手段から配管を経て電極を加熱または冷却する。プラズマ放電処理の際の基材の温度によっては、得られる薄膜の物性や組成は変化することがあり、これに対して適宜制御することが望ましい。温度調節の媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ放電処理の際、幅手方向あるいは長手方向での基材の温度ムラができるだけ生じないように電極の表面の温度を均等に調節することが望まれる。
【0228】
また、図1に前述の高周波電圧(印加電圧)と放電開始電圧の測定に使用する測定器を示した。25及び26は高周波プローブであり、27及び28はオシロスコープである。
【0229】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置を複数基接して直列に並べて同時に同じプラズマ状態のガスを放電させることができるので、複数回処理を行い、高速で処理することもできる。また各装置が異なったプラズマ状態のガスをジェット噴射すれば、異なった層の積層薄膜を連続的に形成することもできる。
【0230】
図2は本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【0231】
図2の大気圧プラズマ放電処理装置は、少なくとも、プラズマ放電処理装置30、二つの電源を有する電圧印加手段40、ガス供給手段50、電極温度調節手段60を有していることが好ましい。
【0232】
図2は、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との対向電極間(放電空間)32で、基材Fをプラズマ放電処理して薄膜を形成するものである。
【0233】
ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との間の放電空間(対向電極間)32に、ロール回転電極(第1電極)35には第1電源41から周波数ω1であって高周波電圧V1を、また角筒型固定電極群(第2電極)36には第2電源42から周波数ω2であって高周波電圧V2をかけるようになっている。
【0234】
ロール回転電極(第1電極)35と第1電源41との間には、第1電源41からの電流がロール回転電極(第1電極)35に向かって流れるように第1フィルター43が設置されている。該第1フィルターは第1電源41からの電流をアース側へと通過しにくくし、第2電源42からの電流をアース側へと通過しやすくするように設計されている。また、角筒型固定電極群(第2電極)36と第2電源42との間には、第2電源からの電流が第2電極に向かって流れるように第2フィルター44が設置されている。第2フィルター44は、第2電源42からの電流をアース側へと通過しにくくし、第1電源41からの電流をアース側へと通過しやすくするように設計されている。
【0235】
なお、ロール回転電極35を第2電極、また角筒型固定電極群36を第1電極としてもよい。何れにしろ第1電極には第1電源が、また第2電極には第2電源が接続される。第1電源は第2電源より大きな高周波電圧(V1>V2)を印加できる能力を有しており、また、周波数はω1<ω2となる能力を有している。
【0236】
ガス供給手段50のガス供給装置51で発生させたガスGは、流量を制御して給気口52よりプラズマ放電処理容器31内に導入する。放電空間32及びプラズマ放電処理容器31内をガスGで満たす。
【0237】
基材Fを、図示されていない元巻きから巻きほぐして搬送されて来るか、または前工程から搬送されて来て、ガイドロール64を経てニップロール65で基材に同伴されて来る空気等を遮断し、ロール回転電極35に接触したまま巻き回しながら角筒型固定電極群36との間に移送し、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との両方から電圧をかけ、対向電極間(放電空間)32で放電プラズマを発生させる。基材Fはロール回転電極35に接触したまま巻き回されながらプラズマ状態のガスにより薄膜を形成する。基材Fは、ニップロール66、ガイドロール67を経て、図示してない巻き取り機で巻き取るか、次工程に移送する。
【0238】
放電処理済みの処理排ガスG′は排気口53より排出する。図2では省略しているが、角筒型固定電極群36の間にはガスGの供給口または排ガスG′の排出口が設けられている。
【0239】
薄膜形成中、ロール回転電極(第1電極)35及び角筒型固定電極群(第2電極)36を加熱または冷却するために、電極温度調節手段60で温度を調節した媒体を、送液ポンプPで配管61を経て両電極に送り、電極内側から温度を調節する。なお、68及び69はプラズマ放電処理容器31と外界とを仕切る仕切板である。
【0240】
図3は、図2に示したロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0241】
図3において、ロール電極35aは導電性の金属質母材35Aとその上に誘電体35Bが被覆されたものである。内部は中空のジャケットになっていて温度調節が行われるようになっている。即ち、放電中の電極表面の温度を制御するための媒体(水、シリコンオイル等)を循環できるようになっている。
【0242】
図4は、図2に示した角筒型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0243】
図4において、角筒型電極36aは、導電性の金属質母材36Aに対し、図3同様の誘電体36Bの被覆を有し、該電極の構造は金属質のパイプになっていて、それがジャケットとなり、内部に温度制御された媒体(水、シリコンオイル等)を循環できるようになっている。放電中の電極表面の温度調節が行えるようになっている。
【0244】
なお、角筒型固定電極の数は、上記ロール電極の円周より大きな円周上に沿って複数本設置されていおり、電極の放電面積はロール回転電極35に対向している全角筒型固定電極面の面積の和で表される。
【0245】
図4に示した角筒型電極36aは、円筒型電極でもよいが、角筒型電極は円筒型電極に比べて、放電範囲(放電面積)を広げる効果があるので、本発明に好ましく用いられる。
【0246】
図3及び4において、ロール電極35a及び角筒型電極36aは、それぞれ導電性の金属質母材35A及び36Aの上に誘電体35B及び36Bとしてのセラミックスを溶射後、無機化合物の封孔材料を用いて封孔処理したものである。セラミックス誘電体は片肉で1mm程度被覆あればよい。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工しやすいので、特に好ましく用いられる。また、誘電体層が、ガラスライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体であってもよい。
【0247】
導電性の金属質母材35A及び36Aとしては、チタン金属またはチタン合金、銀、白金、ステンレススティール、アルミニウム、鉄等の金属等や、鉄とセラミックスとの複合材料またはアルミニウムとセラミックスとの複合材料等を挙げることができるが、後述の理由から、チタン金属またはチタン合金が特に好ましい。
【0248】
2個の電極間の距離(電極間隙)は、導電性の金属質母材に設けた誘電体の厚さ、印加電圧の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定されるが、電極の一方に誘電体を設けた場合の誘電体表面と導電性の金属質母材表面の最短距離、上記電極の双方に誘電体を設けた場合の誘電体表面同士の距離としては、いずれの場合も均一な放電を行う観点から0.1nm〜20mmが好ましく、特に好ましくは0.5nm〜2mmである。
【0249】
本発明に有用な導電性の金属質母材及び誘電体についての詳細については後述する。
【0250】
プラズマ放電処理容器31はパイレックス(R)ガラス製の処理容器等が好ましく用いられるが、電極との絶縁がとれれば金属製を用いることも可能である。例えば、アルミニウムまたは、ステンレススティールのフレームの内面にポリイミド樹脂等を張り付けても良く、該金属フレームにセラミックス溶射を行い絶縁性をとってもよい。図1において、平行した両電極の両側面(基材面近くまで)を上記のような材質の物で覆うことが好ましい。
【0251】
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置に設置する第1電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数
A1 神鋼電機 3kHz
A2 神鋼電機 5kHz
A3 春日電機 15kHz
A4 神鋼電機 50kHz
A5 ハイデン研究所 100kHz*
A6 パール工業 200kHz
等の市販のものを挙げることができ、何れも使用することができる。なお、*印はハイデン研究所インパルス高周波電源(連続モードで100kHz)である。
【0252】
また、第2電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数
B1 パール工業 800kHz
B2 パール工業 2MHz
B3 パール工業 13.56MHz
B4 パール工業 27MHz
B5 パール工業 150MHz
等の市販のものを挙げることができ、何れも好ましく使用できる。
【0253】
本発明においては、このような電圧を印加して、均一なグロー放電状態を保つことができる電極が用いられる。
【0254】
本発明において、対向する電極間に印加する電力は、第2電極に1W/cm2以上の電力(出力密度)を供給し、放電ガスを励起してプラズマを発生させ、エネルギーを薄膜形成性ガスに与え薄膜を形成させる。供給する電力は、好ましくは1〜50W/cm2であり、更に好ましくは、1.2〜20W/cm2である。なお、放電面積(cm2)は、電極において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0255】
ここで電源の印加法に関しては、連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モードのどちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
【0256】
このような大気圧プラズマによる薄膜形成法に使用する電極は、構造的にも、性能的にも過酷な条件に耐えられるものでなければならない。このような電極としては、金属質母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。
【0257】
本発明に使用できる誘電体被覆電極においては、さまざまな金属質母材と誘電体との間に特性が合うものが好ましく、その一つの特性として、金属質母材と誘電体との線熱膨張係数の差が10×10-6/℃以下となる組み合わせのものである。好ましくは8×10-6/℃以下、更に好ましくは5×10-6/℃以下、更に好ましくは2×10-6/℃以下である。なお、線熱膨張係数とは、周知の材料特有の物性値である。
【0258】
線熱膨張係数の差が、この範囲にある導電性の金属質母材と誘電体との組み合わせとしては、金属質母材 誘電体
(a)純チタンまたはチタン合金 セラミックス溶射被膜
(b)純チタンまたはチタン合金 ガラスライニング
(c)ステンレススティール セラミックス溶射被膜
(d)ステンレススティール ガラスライニング
(e)セラミックスと鉄の複合材料 セラミックス溶射被膜
(f)セラミックスと鉄の複合材料 ガラスライニング
(g)セラミックスとアルミの複合材料 セラミックス溶射皮膜
(h)セラミックスとアルミの複合材料 ガラスライニング
等がある。線熱膨張係数の差という観点では、上記(a)または(b)及び(e)〜(h)が好ましく、特に、(a)が好ましい。
【0259】
本発明において、金属質母材は、上記の特性からはチタンまたはチタン合金が特に有用である。金属質母材をチタンまたはチタン合金とすることにより、誘電体を上記とすることにより、使用中の電極の劣化、特にひび割れ、剥がれ、脱落等がなく、過酷な条件での長時間の使用に耐えることができる。
【0260】
本発明に有用な電極の金属質母材は、チタンを70質量%以上含有するチタン合金またはチタン金属である。本発明において、チタン合金またはチタン金属中のチタンの含有量は、70質量%以上であれば、問題なく使用できるが、好ましくは80質量%以上のチタンを含有しているものが好ましい。本発明に有用なチタン合金またはチタン金属は、工業用純チタン、耐食性チタン、高力チタン等として一般に使用されているものを用いることができる。工業用純チタンとしては、TIA、TIB、TIC、TID等を挙げることができ、何れも鉄原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、水素原子等を極僅か含有しているもので、チタンの含有量としては、99質量%以上を有している。耐食性チタン合金としては、T15PBを好ましく用いることができ、上記含有原子の他に鉛を含有しており、チタン含有量としては、98質量%以上である。また、チタン合金としては、鉛を除く上記の原子の他に、アルミニウムを含有し、その他バナジウムや錫を含有しているT64、T325、T525、TA3等を好ましく用いることができ、これらのチタン含有量としては、85質量%以上を含有しているものである。これらのチタン合金またはチタン金属はステンレススティール、例えばAISI316に比べて、熱膨張係数が1/2程度小さく、金属質母材としてチタン合金またはチタン金属の上に施された後述の誘電体との組み合わせがよく、高温、長時間での使用に耐えることができる。
【0261】
一方、誘電体の求められる特性としては、具体的には、比誘電率が6〜45の無機化合物であることが好ましく、また、このような誘電体としては、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、あるいは、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス等のガラスライニング材等がある。この中では、後述のセラミックスを溶射したものやガラスライニングにより設けたものが好ましい。特にアルミナを溶射して設けた誘電体が好ましい。
【0262】
または、上述のような大電力に耐える仕様の一つとして、誘電体の空隙率が10体積%以下、好ましくは8体積%以下であることで、好ましくは0体積%を越えて5体積%以下である。なお、誘電体の空隙率は、BET吸着法や水銀ポロシメーターにより測定することができる。後述の実施例においては、島津製作所製の水銀ポロシメーターにより金属質母材に被覆された誘電体の破片を用い、空隙率を測定する。誘電体が、低い空隙率を有することにより、高耐久性が達成される。このような空隙を有しつつも空隙率が低い誘電体としては、後述の大気プラズマ溶射法等による高密度、高密着のセラミックス溶射被膜等を挙げることができる。更に空隙率を下げるためには、封孔処理を行うことが好ましい。
【0263】
上記、大気プラズマ溶射法は、セラミックス等の微粉末、ワイヤ等をプラズマ熱源中に投入し、溶融または半溶融状態の微粒子として被覆対象の金属質母材に吹き付け、皮膜を形成させる技術である。プラズマ熱源とは、分子ガスを高温にし、原子に解離させ、更にエネルギーを与えて電子を放出させた高温のプラズマガスである。このプラズマガスの噴射速度は大きく、従来のアーク溶射やフレーム溶射に比べて、溶射材料が高速で金属質母材に衝突するため、密着強度が高く、高密度な被膜を得ることができる。詳しくは、特開2000−301655に記載の高温被曝部材に熱遮蔽皮膜を形成する溶射方法を参照することができる。この方法により、上記のような被覆する誘電体(セラミック溶射膜)の空隙率にすることができる。
【0264】
また、大電力に耐える別の好ましい仕様としては、誘電体の厚みが0.5〜2mmであることである。この膜厚変動は、5%以下であることが望ましく、好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。
【0265】
誘電体の空隙率をより低減させるためには、上記のようにセラミックス等の溶射膜に、更に、無機化合物で封孔処理を行うことが好ましい。前記無機化合物としては、金属酸化物が好ましく、この中では特に酸化ケイ素(SiOx)を主成分として含有するものが好ましい。
【0266】
封孔処理の無機化合物は、ゾルゲル反応により硬化して形成したものであることが好ましい。封孔処理の無機化合物が金属酸化物を主成分とするものである場合には、金属アルコキシド等を封孔液として前記セラミック溶射膜上に塗布し、ゾルゲル反応により硬化する。無機化合物がシリカを主成分とするものの場合には、アルコキシシランを封孔液として用いることが好ましい。
【0267】
ここでゾルゲル反応の促進には、エネルギー処理を用いることが好ましい。エネルギー処理としては、熱硬化(好ましくは200℃以下)や、紫外線照射等がある。更に封孔処理の仕方として、封孔液を希釈し、コーティングと硬化を逐次で数回繰り返すと、よりいっそう無機質化が向上し、劣化のない緻密な電極ができる。
【0268】
本発明に係る誘電体被覆電極の金属アルコキシド等を封孔液として、セラミックス溶射膜にコーティングした後、ゾルゲル反応で硬化する封孔処理を行う場合、硬化した後の金属酸化物の含有量は60モル%以上であることが好ましい。封孔液の金属アルコキシドとしてアルコキシシランを用いた場合には、硬化後のSiOx(xは2以下)含有量が60モル%以上であることが好ましい。硬化後のSiOx含有量は、XPS(X線光電子スペクトル)により誘電体層の断層を分析することにより測定できる。
【0269】
本発明の透明フィルムの製造方法に係る電極においては、電極の少なくとも基材と接する側のJIS B 0601で規定される表面粗さの最大高さ(Rmax)が10μm以下になるように調整することが好ましいが、更に好ましくは、8μm以下であり、特に好ましくは、7μm以下に調整することである。このように誘電体被覆電極の誘電体表面を研磨仕上げする等の方法により、誘電体の厚み及び電極間のギャップを一定に保つことができ、放電状態を安定化できること、更に熱収縮差や残留応力による歪やひび割れを無くし、且つ、高精度で、耐久性を大きく向上させることができる。誘電体表面の研磨仕上げは、少なくとも基材と接する側の誘電体において行われることが好ましい。
【0270】
本発明に使用できる誘電体被覆電極において、大電力に耐える他の好ましい仕様としては、耐熱温度が100℃以上であることである。更に好ましくは120℃以上、特に好ましくは150℃以上である。また上限は500℃である。なお、耐熱温度とは、絶縁破壊が発生せず、正常に放電できる状態において耐えられる最も高い温度のことを指す。このような耐熱温度は、上記のセラミックス溶射や、泡混入量の異なる層状のガラスライニングで設けた誘電体を適用したり、下記金属質母材と誘電体の線熱膨張係数の差の範囲内の材料を適宜選択する手段を適宜組み合わせることによって達成可能である。
【0271】
(反応ガス)
本発明の金属化合物層の形成に用いることのできる反応ガスについて説明する。
【0272】
金属化合物層を形成するための反応ガスは、窒素を主成分とするガスである。すなわち、窒素ガスが50体積%以上で含有することが好ましく、さらに好ましくは70体積%以上で含有することが好ましく、さらに好ましくは90〜99.99体積%であることが望ましい。反応ガスには窒素のほかに希ガスが含有していてもよい。
【0273】
ここで、希ガスとは、周期表の第18属元素、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等であり、本発明では、ヘリウム、アルゴン等が窒素に添加されて用いられてもよい。
【0274】
窒素ガスは安定したプラズマ放電を発生させるために用いられ、反応ガスには薄膜を形成するための原料として、反応性ガスが添加される。該プラズマ中で反応性ガスはイオン化あるいはラジカル化され、基材表面に堆積あるいは付着する等して薄膜が形成される。
【0275】
更に、反応ガス中に酸素、水素、二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素、一酸化窒素、水、過酸化水素、オゾン等を好ましくは0.1〜10体積%含有させることにより薄膜層の硬度、密度等の物性を制御することができる。
【0276】
本発明に有用な反応ガスは、原料ガスを変更することによって、さまざまな機能を持った薄膜を基材上に形成することができる。ここでいう原料ガスとはプラズマ処理により薄膜を形成するためのガスであり、金属化合物層を形成する場合、金属化合物のガスを意味する。本発明に有用な原料ガスとしての有機金属化合物としては、特に限定されないが、Al、As、Au、B、Bi、Sb、Ca、Cd、Cr、Co、Cu、Fe、Ga、Ge、Hg、In、Li、Mg、Mn、Mo、Na、Ni、Pb、Pt、Rh、Se、Si、Sn、Ti、Zr、Y、V、W、Zn,Ta等の金属酸化物を形成するための金属化合物を挙げることができる。
【0277】
例えば、Ti、Zr、In、Sn、Zn、Ge、Si、Taあるいはその他の金属を含有する有機金属化合物、金属水素化合物、金属ハロゲン化物、金属錯体を用いて、これらの金属化合物層(金属化合物層、金属酸化物窒化物層も含む)または金属窒化物層等を形成することができる。
【0278】
本発明において、反応性ガスとして有機金属化合物を用いる場合、プラズマ放電処理により基材上に均一な層を形成する観点から、反応ガス中の原料ガスとしての金属化合物の含有率は、0.01〜10体積%であることが好ましいが、更に好ましくは、0.1〜5体積%である。
【0279】
原料ガスについてさらに詳細に説明する。
チタン化合物、ジルコニウム化合物、タンタル化合物が好ましく、具体的には、例えば、テトラジメチルアミノチタン等の有機アミノ金属化合物、モノチタン、ジチタン等の金属水素化合物、二塩化チタン、三塩化チタン、四塩化チタン等の金属ハロゲン化合物、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル等の金属アルコキシド等を挙げることができ、これらを用いて金属化合物層を形成することができる。
【0280】
亜鉛化合物としては、ジンクアセチルアセトナート、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛等が挙げられ、錫化合物としては、テトラエチル錫、テトラメチル錫、二酢酸ジ−n−ブチル錫、ビス(2−エチルヘキサン酸)ジブチル錫、二酢酸ジブチル錫、酸化ジブチル錫、二ラウリン酸ジブチル錫、テトラメチル錫、テトラエチル錫、テトラブチル錫、テトラプロピル錫、テトラオクチル錫等の有機錫化合物が好ましく用いられ、インジウム化合物としてはトリエチルインジウム、トリメチルインジウム等が好ましく用いられる。
【0281】
本発明に有用な反応性ガスとしての珪素化合物としては、例えば、ジメチルシラン、テトラメチルシラン等の有機金属化合物、モノシラン、ジシラン等の金属水素化合物、二塩化シラン、三塩化シラン、四フッ化珪素等の金属ハロゲン化合物、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、等のアルコキシシラン、オルガノシラン等、3,3,3−トリフルオロメチルトリメトキシシラン等のフルオロアルキルシラン類を用いることが好ましいがこれらに限定されない。
【0282】
また、これらは適宜組み合わせて用いることができる。あるいは別の有機化合物を添加して膜の物性を変化あるいは制御することもできる。
【0283】
また、珪素化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、タンタル化合物等の金属化合物を放電部へ導入するには、両者は常温常圧で気体、液体または固体いずれの状態であっても使用し得る。
【0284】
気体の場合は、そのまま放電部に導入できるが、液体や固体の場合は、加熱、減圧、超音波照射等の気化手段により気化させて使用することができる。この目的のため、市販の気化器が好ましく用いられる。
【0285】
珪素化合物、チタン化合物等の金属化合物を加熱により気化して用いる場合、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシチタン等のように常温で液体で、且つ、沸点が200℃以下である金属アルコキシドが本発明の金属化合物層の形成する方法に好適である。上記金属アルコキシドは、有機溶媒によって希釈して使用しても良く、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−ヘキサン、アセトン等の有機溶媒またはこれらの混合有機溶媒を使用することができる。
【0286】
表1、表2に好ましい反応ガス組成の一例を示すが、これに限定されない。
【0287】
【表1】

【0288】
【表2】

【0289】
これらはあらかじめ調整されたガスとして放電部に供給してもよいし、放電部近傍で2種以上のガスを混合して上記ガス組成としてもよい。水素、酸素等の添加ガスはあらかじめ窒素もしくは希ガス等によって希釈されたものを放電空間に導入することが、連続製膜の際に薄膜の物性が安定するため好ましい。
【0290】
また、反応ガスは室温〜200℃に加温して放電部に供給されることが好ましく、更に好ましくは50〜150℃であり、更に好ましくは70〜120℃であり、特に90〜110℃であることが好ましい。温度が高いほど得られる金属化合物層が緻密で、硬度に優れた膜が得られるが高すぎると基材が変形することがある。
【0291】
供給ガスの温度は一定であることが、連続製膜において、膜厚や膜質を安定するために好ましく、温度変動は±10℃以内であることが好ましく、±5℃以内であることが更に好ましく、±1℃以内であることが更に好ましく±0.1℃以内であることが特に好ましい。供給ガスの供給量も一定であることが好ましい。放電部へのガス供給量としては、反応ガス供給量(ml/秒)/放電空間の容積(ml)に対して、好ましくは10-2〜104(1/秒)とすることができ、適宜調整される。
【0292】
以上の方法により酸化珪素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム等の非晶性の金属化合物層を好ましく作製することができる。
【0293】
大気圧プラズマ処理では原料ガスにフッ素含有有機化合物を用いることでフッ素化合物含有層を形成することもできる。
【0294】
フッ素含有有機化合物としては、フッ化炭素ガス、フッ化炭化水素ガス等が好ましい。
【0295】
具体的には、フッ素含有有機化合物としては、例えば、四フッ化炭素、六フッ化炭素、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、八フッ化シクロブタン等のフッ化炭素化合物;二フッ化メタン、四フッ化エタン、四フッ化プロピレン、三フッ化プロピレン、八フッ化シクロブタン等のフッ化炭化水素化合物;更に、一塩化三フッ化メタン、一塩化二フッ化メタン、二塩化四フッ化シクロブタン等のフッ化炭化水素化合物のハロゲン化物、アルコール、酸、ケトン等の有機化合物のフッ素置換体等を挙げることができる。
【0296】
これらは単独でも混合して用いてもよい。上記のフッ化炭化水素ガスとしては、二フッ化メタン、四フッ化エタン、四フッ化プロピレン、三フッ化プロピレン等の各ガスを挙げることができる。
【0297】
更に、一塩化三フッ化メタン、一塩化二フッ化メタン、二塩化四フッ化シクロブタン等のフッ化炭化水素化合物のハロゲン化物やアルコール、酸、ケトン等の有機化合物のフッ素置換体を用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0298】
また、これらの化合物は分子内にエチレン性不飽和基を有していてもよい。また、上記の化合物は混合して用いてもよい。
【0299】
本発明に有用な反応性ガスにフッ素含有有機化合物を用いる場合、プラズマ放電処理により均一な層を形成する観点から、反応ガス中の反応性ガスとしてのフッ素含有有機化合物の含有率は、0.01〜10体積%であることが好ましいく、更に好ましくは、0.1〜5体積%である。
【0300】
また、本発明に好ましく用いられるフッ素含有、有機化合物が常温常圧で気体である場合は、反応性ガスの成分としてそのまま使用できる。
【0301】
また、フッ素含有有機化合物が常温常圧で液体または固体である場合には、気化手段により、例えば加熱、減圧等により気化して使用すればよく、適切な有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0302】
このように、基材フィルム上の少なくとも一方の面に、直接または他の層を介して少なくとも一層の金属化合物層を設けることにより、巻き取られたロール状基材フィルムの保存安定性を著しく改善することができ、リターデーションの変動が少なく、平面性や面品質が劣化しない透明フィルムを提供することができる。
【0303】
特に、大気圧プラズマ処理によって金属化合物層を形成した場合には、密度の高い緻密な膜が形成されるので、基材フィルムによる吸湿を防止でき、また、強度が強く、耐傷性に優れた透明フィルムを提供することができる。
【0304】
また、金属化合物層を有する面に対して、もう一方の面の純水に対する接触角は20°未満であることが好ましい。接触角の測定は、協和界面化学株式会社製接触角計CA−X型等を用いて測定することができる。
【0305】
〈層構成〉
本発明の透明フィルムは金属化合物層を有しており、例えば金属化合物層として防湿膜と透明導電膜のそれぞれの薄膜が製膜されたものであってもよい。これらの層は、互いに積層されていても良いし、基板の片面ずつに成膜されていても良い。また防湿膜は両面に成膜されてもよい。
【0306】
防湿膜と導電膜を積層する場合は、例えば、大気圧もしくはその近傍の圧力下で、反応ガス雰囲気内でプラズマ放電処理装置を直列に2基を防湿膜・導電膜の順に2層積層するように並べて連続的に処理することが出来、この連続的積層処理は品質の安定やコスト削減、生産性の向上等から本発明の導電性フィルムの作製に適しており好ましい。無論同時に積層せずに、1層処理ごと、処理後巻き取り、逐次処理して積層してもよい。
【0307】
導電膜が積層されていない基材フィルムの裏面側には防汚層を設けても良い。また裏面にも防湿膜がある場合は、防湿膜の上に防汚層や反射防止層を積層しても良い。また、本発明の透明フィルムを他のフィルム状、シート状あるいは板状の成型物と貼り合わせて使用してもよい。
【0308】
防汚層とは、透明基材表面に汚れがついて透過像を見にくくすることがないよう、ゴミ・指紋等を付着しにくく、またふき取りやすく層である。防汚層は、例えば熱架橋性含フッ素ポリマーにイソプロピルアルコールを加えて、0.2質量%の粗分散液を調製し、最表面層の表面にバーコータで塗布することによって形成される。
【0309】
本発明の透明フィルムの好ましい構成例は以下に示す通りである。
(A) 基材フィルム/中間層/防湿膜/透明導電膜
(B) 防汚層/基材フィルム/中間層/防湿膜/透明導電膜
(C) 防湿膜/中間層/基材フィルム/中間層/透明導電膜
(D) 防汚層/防湿膜/中間層/基材フィルム/中間層/防湿膜/透明導電膜
【0310】
[機能層]
本発明の透明フィルムは、その用途として例えば光学用途と写真感光材料に適用される。特に光学用途が液晶表示装置であることが好ましく、液晶表示装置が、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光板、および該液晶セルと該偏光板との間に少なくとも一枚の光学補償フィルムを配置した構成であることがさらに好ましい。これらの液晶表示装置としては、TN、IPS、FLC、AFLC、OCB、STN、ECB、VAおよびHANが好ましい。
その際に前述の光学用途に本発明の透明フィルムを用いるに際し、各種の機能層を付与することが実施される。それらは、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層(透明ハードコート層)、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層、配向層、液晶層などである。本発明の透明フィルムを用いることができるこれらの機能層及びその材料としては、界面活性剤、滑り剤、マット剤、帯電防止層、ハードコート層などが挙げられ、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて32頁〜45頁に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0311】
[用途(偏光板)]
本発明の透明フィルムの用途について説明する。
本発明の透明フィルムは特に偏光板保護フィルム用として有用である。偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られた透明フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、特開平6−118232号の各公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。
保護フィルム処理面と偏光膜を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
【0312】
偏光板は偏光膜及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
【0313】
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明の透明フィルムを適用した偏光板保護フィルムはどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには一般に透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが特に好ましい。
【0314】
[用途(光学補償フィルム)]
本発明の透明フィルムは、様々な用途で用いることができ、液晶表示装置の光学補償フィルムとして用いると特に効果がある。なお、光学補償フィルムとは、一般に液晶表示装置に用いられ、位相差を補償する光学材料のことを指し、位相差板、位相差フィルム、光学補償フィルムなどと同義である。光学補償フィルムは複屈折性を有し、液晶表示装置の表示画面の着色を取り除いたり、視野角特性を改善したりする目的で用いられる。本発明の透明フィルムは別の複屈折を持つ光学異方性フィルムあるいは光学異方性層を積層して光学異方性を制御させることができる。
【0315】
したがって本発明の透明フィルムを液晶表示装置の光学補償フィルムとして用いる場合、併用する光学異方性フィルムあるいは光学異方性層のRe(590)が0 〜200nmであり、かつ|Rth(590)|が0〜400nmであることが好ましく、この範囲であればどのような光学異方性層でも良い。本発明の透明フィルムが使用される液晶表示装置の液晶セルの光学性能や駆動方式に制限されず、光学補償フィルムとして要求される、どのような光学異方性層も併用することができる。併用される光学異方性層としては、液晶性化合物を含有する組成物から形成しても良いし、複屈折を持つポリマーフィルムから形成しても良い。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0316】
(ディスコティック液晶性化合物)
本発明に使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(C. Destrade et al., Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794(1985); J.Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol.116, page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0317】
光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子について、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0318】
(棒状液晶性化合物)
本発明において、使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0319】
光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶性化合物の例には、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許4683327号、同5622648号、同5770107号、世界特許(WO)95/22586号、同95/24455号、同97/00600号、同98/23580号、同98/52905号、特開平1−272551号、同6−16616号、同7−110469号、同11−80081号、および特開2001−328973号などに記載の化合物が含まれる。
【0320】
(ポリマーフィルムからなる光学異方性層)
上記した様に、光学異方性層はポリマーフィルムから形成してもよい。ポリマーフィルムは、光学異方性を発現し得るポリマーから形成する。そのようなポリマーの例には、ポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン、ノルボルネン系ポリマー)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステルおよびセルロースエステル(例、セルローストリアセーテート、セルロースジアセテート)が含まれる。また、これらのポリマーの共重合体あるいはポリマー混合物を用いてもよい。
【0321】
ポリマーフィルムの光学異方性は、延伸により得ることが好ましい。延伸は一軸延伸または二軸延伸であることが好ましい。具体的には、2つ以上のロールの周速差を利用した縦一軸延伸、またはポリマーフィルムの両サイドを掴んで幅方向に延伸するテンター延伸、これらを組み合せての二軸延伸が好ましい。なお、二枚以上のポリマーフィルムを用いて、二枚以上のフィルム全体の光学的性質が前記の条件を満足してもよい。ポリマーフィルムは、複屈折のムラを少なくするためにソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ポリマーフィルムの厚さは、20〜500μmであることが好ましく、40〜100μmであることが最も好ましい。
【0322】
また、光学異方性層を形成するポリマーフィルムとして、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、およびポリアリールエーテルケトン、からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリマー材料を用い、これを溶媒に溶解した溶液を基材に塗布し、溶媒を乾燥させてフィルム化する方法も好ましく用いることができる。この際、上記ポリマーフィルムと基材とを延伸して光学異方性を発現させて光学異方性層として用いる手法も好ましく用いることができ、本発明の透明フィルムは上記基材として好ましく用いることができる。また、上記ポリマーフィルムを別の基材の上で作製しておき、ポリマーフィルムを基材から剥離させたのちに本発明の透明フィルムと貼合し、あわせて光学異方性層として用いることも好ましい。この手法ではポリマーフィルムの厚さを薄くすることができ、50μm以下であることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。
【0323】
(液晶表示装置)
本発明の液晶表示装置は、例えば、2枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に偏光板あるいは、視認側に偏光板、裏側に反射板あるいは半透過板を供えるものであり、偏光板とセルの間に位相差フィルムあるいは光学補償フィルムを有するか、あるいは偏光板保護フィルムが位相差フィルム、光学補償フィルムの機能を有するものであり、少なくとも1枚の本発明の透明フィルムが偏光板保護フィルムあるいは位相差フィルムあるいは、光学補償フィルムの支持体に用いられているものである。
液晶表示装置は視認側の偏光板あるいは機能性要素を含む偏光板と、裏側の偏光板あるいは機能性要素を含む偏光板とは温度や湿度などの外部環境の変化に伴う偏光板自体の温度、含水量が異なる場合、急激な環境変化が生じると視認側の偏光板と裏側の偏光板の温度、含水量に差異を生じるため液晶画面が湾曲(ワープ)しやすい。ここで言う画面とは液晶表示される液晶パネルを意味し、液晶セルと該セルの両面(視認側および非視認側)に積層された偏光板などが積層された物を指す。
本発明の液晶表示装置は、50℃、相対湿度90%環境下に50時間調湿した後、25℃、相対湿度60%の環境下に移して1時間の時点での画面の湾曲W(mm)が、画面長辺L(mm)に対して、好ましくは−0.01<W/L<0.01を満たすものであり、より好ましくは、−0.005<W/L<0.005、さらに好ましくは、−0.003<W/L<0.003、特に好ましくは、−0.002<W/L<0.002である。
湾曲W(mm)は、市販のレーザー変位計(例えば、キーエンス(株)製LK−30)により測定できる。
【0324】
また、液晶表示装置には黒表示をさせるときに、本来は偏光板の偏光子により光漏れが生じないように偏光板の吸収軸を直交させるほか、さまざまな改良を加えているが、偏光子や偏光板、位相差フィルム、光学補償フィルムやその支持体、粘着剤や接着剤などの経時変化、環境変化に伴う光学特性、物理的特性変化、化学的特性変化に伴ない光漏れが生ずるが、本発明の液晶表示装置は光もれを小さくすることができ好ましく、TN、VA、IPS、OCBモードの液晶表示装置に効果があり、IPSモードの表示装置に特に効果がある。
【0325】
なお、本発明の液晶表示装置に用いられる液晶セルの液晶層は、通常は、2枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリア層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層(下塗り層)を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、一般に50μm〜2mmの厚さを有する。
【0326】
(液晶表示装置の種類)
本発明の透明フィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、ECB(Electrically Controlled BiRefringence)、およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、上記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。本発明の透明フィルムは、いずれの表示モードの液晶表示装置においても有効である。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。中でも、液晶モードがTN、VA、IPS、OCB方式でのものであることが好ましい。
【0327】
(TN型液晶表示装置)
本発明の透明フィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の偏光板保護フィルムまたは光学補償フィルムの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置については、古くから良く知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号、特開平9−26572号の各公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn. J. Appl. Phys. Vol.36(1997)p.143や、Jpn. J. Appl. Phys. Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0328】
(STN型液晶表示装置)
本発明の透明フィルムを、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の偏光板保護フィルムまたは光学補償フィルムの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0329】
(VA型液晶表示装置)
本発明の透明フィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の偏光板保護フィルムまたは光学補償フィルムの支持体として用いてもよい。VA型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムのReを0乃至150nmとし、Rthを70乃至400nmとすることが好ましい。Reは、20乃至70nmであることが更に好ましい。VA型液晶表示装置に二枚の光学異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は70乃至250nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置に一枚の光学異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRthは150乃至400nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。
【0330】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明の透明フィルムは、IPSモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置あるいはECBモードの液晶セルを有するECB型液晶表示装置の偏光板保護フィルムまたは光学補償フィルムの支持体としても特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明の透明フィルムを用いた偏光板は色味の改善、視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。この態様においては、液晶セルの上下に配置される前記偏光板保護膜のうち、液晶セルと偏光板との間に配置された保護膜(セル側の保護膜)に本発明の透明フィルムを用いた偏光板を少なくとも片側一方に用いることが好ましい。更に好ましくは、偏光板の保護膜と液晶セルの間に光学異方性層を配置し、配置された光学異方性層のリターデーションの値を、液晶層のΔn・dの値の2倍以下に設定するのが好ましい。
【0331】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明の透明フィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の偏光板保護フィルムまたは光学補償フィルムの支持体として用いてもよい。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償フィルムの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムの光学的性質も、光学異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn. J. Appl. Phys. Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
【0332】
(反射型液晶表示装置)
本発明の透明フィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の偏光板保護フィルムまたは光学補償フィルムとして用いてもよい。これらの表示モードは古くから良く知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、WO9848320号、特許第3022477号の各公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、WO00−65384号に記載がある。
【0333】
(その他の液晶表示装置)
本発明の透明フィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell )モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の偏光板保護フィルムまたは光学補償フィルムの支持体として用いてもよい。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)他の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。
【0334】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明の透明フィルムは、またハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへの適用が好ましく実施できる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明の透明フィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明の透明フィルムを好ましく用いることができる。
【0335】
[用途(写真フィルム支持体)]
さらに本発明の透明フィルムは、ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としても適用でき、下記特許等に記載されている各種の素材や処方さらには処理方法が適用できる。それらの技術については、特開2000−105445にカラーネガティブに関する記載が詳細に挙げられており、本発明の透明フィルムが好ましく用いられる。またカラー反転ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としての適用も好ましく、特開平11−282119に記載されている各種の素材や処方さらには処理方法が適用できる。
【実施例】
【0336】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されない。
【0337】
[実施例1]
〈基材フィルム1の作製〉
メタノール60.0質量部と塩化メチレン407.0質量部の混合溶媒に、トリアセチルセルロース(酢化度 2.92)100.0質量部をミキシングタンクにて攪拌溶解し,加熱処理を行い、セルロースアシレート溶液Aを調整した。
【0338】
平均粒経16nmのシリカ粒子2質量部とメタノール8質量部とをよく攪拌し、シリカ分散液とし、塩化メチレン69.0質量部、メタノール3.0質量部とセルロースアシレート溶液A10.5質量部、明細書記載の波長分散調整剤(UV−101)7.5質量部の混合溶液に添加し攪拌分散して、マット剤溶液Aを作成した。
【0339】
明細書記載のレターデーション低減剤(A−4)50.0質量部、塩化メチレン60.0質量部、メタノール8.0質量部、クエン酸メチルエステル0.1質量部セルロースアシレート溶液A13.0質量部を加熱攪拌溶解して添加剤溶液Aを調整した。
【0340】
前記、セルロースアシレート溶液A 95質量部、マット剤溶液A 3.0質量部、添加剤溶液A 2.0質量部をそれぞれろ過後に混合し、流延部、テンター部、乾燥部から構成されるバンド流延機を用いて流延した。前記組成でレターデーション低下化合物および波長分散調整剤のセルロースアシレートに対する質量比は6%および2%であった。
バンド上で流延したフィルムを約55質量%の残留溶剤量を含んだ状態で剥離した後、テンターで両端を保持しながら95℃で乾燥させた。さらに残留溶剤量が約15質量%のところでテンターから離脱させ、クリップ跡のある両端を切り落とした後、複数のロールからなる乾燥部で100〜135℃の温度範囲で乾燥させて、ロール搬送しながら乾燥させ幅手両端部に10μmの高さのナーリングを設けて巻き取り巻き取った。このようにして得た基材フィルム1の膜厚は65μmであった。
自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株))を用いて幅方向に100点の複屈折測定を行い、平均値を求めた。Reは0nm、Rthは−1nmであった。
【0341】
〈基材フィルム2の作製〉
前記、セルロースアシレート溶液A 95質量部、マット剤溶液A 1.5質量部、添加剤溶液A 4.0質量部をそれぞれろ過後に混合し、流延部、テンター部、乾燥部から構成されるバンド流延機を用いて流延した。前記組成でレターデーション低下化合物および波長分散調整剤のセルロースアシレートに対する質量比は12%および1%であった。
バンド上で流延したフィルムを約55質量%の残留溶剤量を含んだ状態で剥離した後、テンターで両端を保持しながら95℃で乾燥させた。さらに残留溶剤量が約15質量%のところでテンターから離脱させ、クリップ跡のある両端を切り落とした後、複数のロールからなる乾燥部で100〜135℃の温度範囲で乾燥させて、ロール搬送しながら乾燥させ幅手両端部に10μmの高さのナーリングを設けて巻き取り巻き取った。このようにして得た基材フィルム2の膜厚は65μmであった。
自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株))を用いて幅方向に100点の複屈折測定を行い、平均値を求めた。Reは1nm、Rthは−7nmであった。
【0342】
〈基材フィルム3の作製〉
メタノール60.0質量部と塩化メチレン407.0質量部の混合溶媒に、トリアセチルセルロース(酢化度 2.95)100.0質量部をミキシングタンクにて攪拌溶解し,加熱処理を行い、セルロースアシレート溶液Bを調整した。
【0343】
平均粒経16nmのシリカ粒子2質量部とメタノール8質量部とをよく攪拌し、シリカ分散液とし、塩化メチレン69.0質量部、メタノール3.0質量部とセルロースアシレート溶液B10.5質量部、明細書記載の波長分散調整剤(UV−102)7.5質量部の混合溶液に添加し攪拌分散して、マット剤溶液Bを作成した。
【0344】
レターデーション低減剤(A−4)50.0質量部、塩化メチレン60.0質量部、メタノール8.0質量部、クエン酸メチルエステル0.1質量部セルロースアシレート溶液B13.0質量部を加熱攪拌溶解して添加剤溶液Bを調整した。
【0345】
前記、セルロースアシレート溶液B 91質量部、マット剤溶液B 1.5質量部、添加剤溶液B 8.0質量部をそれぞれろ過後に混合し、流延部、テンター部、乾燥部から構成されるバンド流延機を用いて流延した。前記組成でレターデーション低下化合物および波長分散調整剤のセルロースアシレートに対する質量比は24%および1%であった。
バンド上で流延したフィルムを約55質量%の残留溶剤量を含んだ状態で剥離した後、テンターで両端を保持しながら95℃で乾燥させた。さらに残留溶剤量が約15質量%のところでテンターから離脱させ、クリップ跡のある両端を切り落とした後、複数のロールからなる乾燥部で100〜135℃の温度範囲で乾燥させて、ロール搬送しながら乾燥させ幅手両端部に10μmの高さのナーリングを設けて巻き取り巻き取った。このようにして得た基材フィルム3の膜厚は65μmであった。
自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株))を用いて幅方向に100点の複屈折測定を行い、平均値を求めた。Reは4nm、Rthは−42nmであった。
【0346】
〈基材フィルム4の作製〉
メタノール60.0質量部と塩化メチレン407.0質量部の混合溶媒に、トリアセチルセルロース(酢化度 2.96)100.0質量部をミキシングタンクにて攪拌溶解し,加熱処理を行い、セルロースアシレート溶液Cを調整した。
【0347】
平均粒経16nmのシリカ粒子2質量部とメタノール8質量部とをよく攪拌し、シリカ分散液とし、塩化メチレン69.0質量部、メタノール3.0質量部とセルロースアシレート溶液C10.5質量部、明細書記載の波長分散調整剤(UV−104)7.5質量部の混合溶液に添加し攪拌分散して、マット剤溶液Cを作成した。
【0348】
レターデーション低減剤(A−4)50.0質量部、塩化メチレン60.0質量部、メタノール8.0質量部、クエン酸メチルエステル0.1質量部セルロースアシレート溶液C13.0質量部を加熱攪拌溶解して添加剤溶液Cを調整した。
【0349】
前記、セルロースアシレート溶液C 91質量部、マット剤溶液C 1.5質量部、添加剤溶液C 8.0質量部をそれぞれろ過後に混合し、流延部、テンター部、乾燥部から構成されるバンド流延機を用いて流延した。前記組成でレターデーション低下化合物および波長分散調整剤のセルロースアシレートに対する質量比は24%および1%であった。
バンド上で流延したフィルムを約55質量%の残留溶剤量を含んだ状態で剥離した後、テンターで両端を保持しながら95℃で乾燥させた。さらに残留溶剤量が約15質量%のところでテンターから離脱させ、クリップ跡のある両端を切り落とした後、複数のロールからなる乾燥部で100〜135℃の温度範囲で乾燥させて、ロール搬送しながら乾燥させ幅手両端部に10μmの高さのナーリングを設けて巻き取り巻き取った。このようにして得た基材フィルム4の膜厚は65μmであった。
自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株))を用いて幅方向に100点の複屈折測定を行い、平均値を求めた。Reは5nm、Rthは−53nmであった。
【0350】
〈基材フィルム5の作製〉
メタノール30.0質量部と塩化メチレン437.0質量部の混合溶媒に、トリアセチルセルロース(酢化度 2.96)100.0質量部をミキシングタンクにて攪拌溶解し,加熱処理を行い、セルロースアシレート溶液Dを調整した。
【0351】
平均粒経16nmのシリカ粒子2質量部とメタノール8質量部とをよく攪拌し、シリカ分散液とし、塩化メチレン69.0質量部、メタノール3.0質量部とセルロースアシレート溶液D10.5質量部、明細書記載の波長分散調整剤(UV−101)7.5質量部の混合溶液に添加し攪拌分散して、マット剤溶液Dを作成した。
【0352】
レターデーション低減剤(A−19)50.0質量部、塩化メチレン60.0質量部、メタノール8.0質量部、クエン酸メチルエステル0.1質量部セルロースアシレート溶液D13.0質量部を加熱攪拌溶解して添加剤溶液Dを調整した。
【0353】
前記、セルロースアシレート溶液D 91質量部、マット剤溶液D 1.5質量部、添加剤溶液D 8.0質量部をそれぞれろ過後に混合し、流延部、乾燥部から構成されるドラム流延機を用いて流延した。前記組成でレターデーション低下化合物および波長分散調整剤のセルロースアシレートに対する質量比は24%および1%であった。
ドラム上で流延したフィルムを−15℃のでゲル化させ、剥離した後、両端を保持しながら60〜95℃で乾燥させた。さらに残留溶剤量が約15質量%のところで、ピン跡のある両端を切り落とした後、複数のロールからなる乾燥部で100〜135℃の温度範囲で乾燥させて、ロール搬送しながら乾燥させ幅手両端部に10μmの高さのナーリングを設けて巻き取り巻き取った。このようにして得た基材フィルム5の膜厚は65μmであった。
自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株))を用いて幅方向に100点の複屈折測定を行い、平均値を求めた。Reは3nm、Rthは−63nmであった。
【0354】
(基材フィルム101の作製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して溶解し、セルロースエステル溶液(ドープ)を調製した。
【0355】
〈セルロースエステル溶液組成〉
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.9、プロピオニル基置換度0.8)100質量部、トリフェニルホスフェート 8質量部、ビフェニルジフェニルホスフェート 4質量部、メチレンクロライド 320質量部、メタノール 59質量部、1−ブタノール 11質量部
【0356】
得られたドープを、基材フィルム1を作成したのと同様にして、基材フィルム101を作製した。作製した基材フィルム101(厚さ65μm)について、自動複屈折計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株))を用いて幅方向に100点の複屈折測定を行い、平均値を求めた。Reは13nm、Rthは48nmであった。
【0357】
(透明フィルムの作製)
基材フィルム1〜5、および基材フィルム101に対して、窒素を主成分とする雰囲気下で、下記条件で大気圧プラズマ処理を施して、表3記載のように膜厚0.08μmの酸化珪素層を設け、それぞれ透明フィルム1A〜5A、および透明フィルム101A(比較例)を作製した。また、基材フィルム1に対して、窒素を主成分とする雰囲気下で、下記条件で大気圧プラズマ処理を施して、表3記載のように膜厚0.25μmの酸化珪素層を設けた透明フィルム1B及び膜厚0.08μmの酸化チタン層を設けた透明フィルム1Cを作製した。
【0358】
〈大気圧プラズマ放電処理〉
図2に示すプラズマ放電処理装置を用い、対向電極間より反応ガスの導入と使用済みガスの排気を交互に行った。
【0359】
プラズマ放電処理装置には、固定電極側に、連続周波数13.56MHz、0.8kV/mmの高周波電圧を供給し、ロール電極側には、連続周波数100kHz、8kV/mmの高周波電圧を供給した。また、ロール電極は、ドライブを用いて基材フィルムの搬送に同期して回転させた。
【0360】
なお、固定電極とロール電極の間隙は1mm、反応ガスの圧力は大気圧+0.01MPaとして行った。プラズマ放電処理には、表1に示す反応ガス1(酸化チタン層形成用反応ガス)及び反応ガス2(酸化珪素層形成用反応ガス)を用いた。なお、反応ガス中の液体成分は気化器によって蒸気とし、加温しながら放電部に供給した。
【0361】
(ケン化処理基材フィルムの作製)
基材フィルム1〜5、および基材フィルム101を55℃の1.5mol/LのNaOH水溶液に120秒浸漬して鹸化処理した後、30℃で0.05mol/Lの硫酸を用いて中和、常温水で水洗して、100℃で乾燥し、それぞれケン化処理基材フィルム1K〜5K、およびケン化処理基材フィルム101Kを得た。
【0362】
(ケン化処理透明フィルムの作製)
ケン化処理基材フィルム1K〜5Kの一方の面に、透明フィルム1A〜5Aの作製と同様にして窒素を主成分とする雰囲気下で大気圧プラズマ処理を施して、表3記載のように膜厚の異なる酸化珪素層または酸化チタン層を設け、それぞれケン化処理透明フィルム1AK〜5AKを作製した。
また、ケン化処理基材フィルム101Kの一方の面に、透明フィルム101A(比較例)の作製と同様にして窒素を主成分とする雰囲気下で大気圧プラズマ処理を施して、表3記載の膜厚の酸化珪素層を設け、ケン化処理透明フィルム101AK(比較例)を作製した。
【0363】
作製した透明フィルムを35℃95%で168時間処理(サーモとも呼ぶ)した後のRe、Rthおよび処理前後での700nmの波長でのRthと400nmの波長でのRthの差 Δ(Rth(700)−Rth(400))の変化とヘイズの変化(サーモ前後でのヘイズ差)を評価した。
【0364】
【表3】

【0365】
(2)積層体の作成
(2−1)積層体の作成
厚さ80μmのロール状ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素水溶液中で連続して5倍に延伸し、乾燥して偏光子を得た。ポリビニルアルコール(クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、けん化処理した基材フィルム1K2枚を偏光子の表裏に貼りあわせて偏光板1Kを作成した。同様に、基材フィルム1Kの代わりに透明フィルム1AK、2AK、1BK、101K、101AKを用いて、それぞれ偏光板1AK、2AK、1BK、101K、101AKを作製した。この時、各々の基材フィルムの金属化合物層とは反対側の表面を偏光子と貼り合せた。
偏光板1K、1AK、2AK、1BK、101K、101AKの片側にアートンフィルム(JSR社製)を一軸延伸した光学補償フィルムを貼合して積層偏光板1K、1AK、2AK、1BK、101K、101AKを作製した。光学補償フィルムの面内レターデーションReは270nmでNzファクターは0.52のものを用いた。Nzファクターはよく知られた一般式 Nz=Rth/Re+0.50から算出できる。
【0366】
(4)液晶表示装置の作成
IPS型液晶セルを使用した市販の液晶表示装置(HITACHI(株)製、W32-L5000、32インチサイズ)に設けられている偏光板、位相差板を剥がし、液晶セルを取り出した。液晶セルの表側(視認側)と裏側に、表4に記載される積層体をそれぞれアクリル系の粘着剤を用いて貼りあわせた。このようにして作成した液晶パネルを元通りに組み立て直して比較例1、実施例1〜3、比較例2〜5の液晶表示装置を作成した。
【0367】
(5)液晶表示装置の湿熱処理による評価
作成した液晶表示装置の電源を投入し、24時間後、正面方向と偏光板の光軸に対する方位角45°における法線方向から75°の方向のコントラストを測定し、表4に示した。実施例1〜3および比較例1はコントラストが高いことが確認された。
次に作成した液晶表示装置を50℃、相対湿度90%の環境下で50時間処理した。処理後、25℃、相対湿度50%の環境に移した。電源を投入し、黒表示状態を目視で観察し、表示画面の4辺および4済みの光漏れの官能評価を行った。結果を表4に示した。
【0368】
(光漏れ評価)
◎:光漏れはほとんど認められず、問題ない。
○:光漏れがわずかに認められるが、問題ないレベル。
△:光漏れがやや認められる。懸念されるレベル。
×:光漏れが認められる。支障あり。
【0369】
また、液晶表示装置の画面の反りを25℃、相対湿度60%の環境下に移してから1時間後に湾曲量を測定し、湾曲比率(湾曲量と画面の長辺との比)を算出した。測定結果を表4に示した。湾曲比率が0.01以下のものは、視認性に問題はなかった。
湾曲は、市販のレーザー変位計(キーエンス(株)製LK−30)を用いて測定した。
【0370】
また、画面の黒表示での色味ムラを官能評価した。結果を表4に示した。
【0371】
(色味ムラ評価)
○:表示画面に赤紫や青紫の色味ムラがわずかに認められるが、問題ないレベル。
△:表示画面に赤紫や青紫の色味ムラがやや認められる。懸念されるレベル。
×:表示画面に赤紫や青紫の色味ムラが認められる。支障あり。
【0372】
【表4】

【0373】
表4から明らかなように、金属化合物層を有し、且つレターデーションが所定の値を示す実施例1〜3は高温高湿処理後、周辺部の光漏れが少ないだけでなく、液晶画面の色味ムラがなく、湾曲比率も小さく、実用上問題ないレベルであることが確認された。
一方、比較例1の液晶表示装置は、処理前のコントラストは十分であったものの金属化合物層を有していないため、処理後の湾曲が大きく、パネルコーナーの光漏れも多く、長期の使用に耐えないことがわかった。比較例2、4の液晶表示装置は金属化合物層を有しておらず、レターデーションも所定の範囲にないため、処理後の湾曲が非常に大きく、パネルコーナーの光漏れも多く、液晶画面の色味ムラが極めて悪いことから実用に耐えないことがわかった。比較例3および5は、金属化合物層を有してはいるが、レターデーションが所定の範囲にないため、コントラストが不十分で、処理後の湾曲が大きく、パネルコーナーの光漏れ、液晶画面の色味ムラも不十分であり、実用に耐えないことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0374】
【図1】本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【図3】図2に示したロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【図4】角筒型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0375】
10 プラズマ放電処理装置
11 第1電極
12 第2電極
13 第1電極11と第2電極12との対向電極間(放電空間)
14 処理位置
20 電圧印加手段
21 第1電源
21A 第1電源21からの電流
22 第2電源
22A 第2電源22からの電流
23 第1フィルター
24 第2フィルター
25 高周波プローブ
26 高周波プローブ
27 オシロスコープ
28 オシロスコープ
30 プラズマ放電処理装置
31 プラズマ放電処理容器
32 ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との対向電極間(放電空間)
35 ロール回転電極(第1電極)
35a ロール電極
35A 導電性の金属質母材
35B 誘電体
36 角筒型固定電極群(第2電極)
36a 角筒型電極
36A 導電性の金属質母材
36B 誘電体
40 二つの電源を有する電圧印加手段
41 第1電源
42 第2電源
43 第1フィルター
44 第2フィルター
50 ガス供給手段
51 ガス供給装置
52 給気口
53 排気口
60 電極温度調節手段
61 配管
64 ガイドロール
65 ニップロール
66 ニップロール
67 ガイドロール
65 プラズマ放電処理容器31と外界とを仕切る仕切板
66 プラズマ放電処理容器31と外界とを仕切る仕切板
F 基材
G ガス
G° プラズマ状態のガス
G′ 放電処理済みの処理排ガス
P 送液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上の少なくとも一方の面に直接または他の層を介して、少なくとも1層の金属化合物層を有し、且つ590nmにおける膜厚方向のレターデーション値Rthが−400〜15nmであることを特徴とする透明フィルム。
【請求項2】
前記透明フィルムの590nmにおける面内方向のレターデーション値Reが、0〜200nmであることを特徴とする請求項1に記載の透明フィルム。
【請求項3】
前記金属化合物層が、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、および、窒素を主成分とする大気圧近傍もしくは大気圧以上の雰囲気下でのプラズマ処理法のいずれかによって形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の透明フィルム。
【請求項4】
前記基材フィルムが、レターデーション低減剤および/またはレターデーションの波長分散調整剤を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【請求項5】
前記金属化合物層の膜厚が0.005〜5μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【請求項6】
前記金属化合物層が珪素酸化物を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【請求項7】
幅手両端部に4〜20μmの高さのナーリングを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の透明フィルム。
【請求項8】
前記基材フィルムがセルロースアシレートを含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項9】
厚みが30〜200μmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の透明フィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の透明フィルムを、偏光子の少なくとも一方の保護フィルムとして用いたことを特徴とする偏光板。
【請求項11】
請求項10に記載の偏光板を、液晶セルの両面(視認側及び非視認側)のうち少なくとも一方に用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項12】
50℃、相対湿度90%の環境下で50時間調湿した後、25℃、相対湿度60%の環境下に移して1時間後の時点での画面の湾曲Wが、画面長辺Lに対して、−0.01<W/L<0.01であることを特徴とする請求項11に記載の液晶表示装置。
【請求項13】
前記液晶表示装置がIPSモードの液晶セルを有し、透過型、反射型又は半透過型のいずれかの方式であることを特徴とする請求項11または12に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−44880(P2007−44880A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228439(P2005−228439)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】