説明

透明光学部材及びその製造方法

【課題】粘着層の両面に異なる部材を積層するときに、これら異なる部材の各々に求められる性能を同時に満たす透明光学部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の透明光学部材は、透明基材11と、表面に金属酸化物層12bが形成されている透明導電性基材12とが、多層の粘着剤層13を介して積層されたものであり、これら多層の粘着剤層13のうち、透明導電性基材12の金属酸化物層12bに粘着する層は、酸成分を実質的に含有せず、多層の粘着剤層13の25℃における貯蔵弾性率E’は、粘着層ごとに異なり、粘着剤層13全体の25℃における貯蔵弾性率E’は、3×10〜1×10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルや液晶ディスプレイ、電子ペーパー等の画像表示装置に用いる光学部材に関し、さらに詳しくは、ガラス等の基材と、ITO等の金属酸化物薄膜が形成されている透明導電性フィルムとを粘着層を介して積層してなる、透明光学部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネル、液晶ディスプレイ、電子ペーパー等の情報端末機器は、小型化、薄型化が進んでおり、製品内部は複雑かつ緻密な設計が行われる。使用者の視認側に配置される透明光学部材として、ガラス等の透明基材と、酸化インジウムスズ(以下「ITO」ともいう)等の導電性薄膜が表面に形成されている透明導電性フィルムとを、粘着層を介して積層してなる光学部材が一般に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−132522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この粘着層は、一方の面がITO膜側に粘着し、他方の面がガラス等基材側に粘着することになるが、それぞれの粘着面では必要とされる性能が異なっている。例えば、一方のITO面側においては、ITOの腐食を防止するための構成が必要であり、このために腐食の原因となる酸を極力排除する必要がある。また、ITO面上の一部には集電用の金属電極が配置されるため、この電極とITO面での段差に追従する段差追従性も要求されるので、弾性の低い粘着剤を用いることが好ましい。
【0005】
しかし、このような酸を含有しない粘着剤組成においては、その弾性を維持するのが困難である。粘着層が弾性不足になると、スリットやハーフカット等の後加工処理において粘着剤が刃に残るトラブルが発生したり、粘着力が高くなって貼り直しが困難になったりする。このため、粘着層の全体としては適度な弾性が要求される。
【0006】
このように、ガラス/粘着層/ITO基材等の系においては、粘着剤層の弾性において相反する要求が発生したり、粘着対象によって異なる化学的性質が要求されたりすることがあり、この相反する要求を同時に満たす粘着層が必要である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、粘着層の両面に異なる部材を積層するときに、これら異なる部材の各々に求められる性能を同時に満たす透明光学部材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、粘着層を多層化して、それぞれの層に要求される機能を分配し、かつ、全体の弾性を適度に調整することで、スリットやハーフカット等の後加工処理において粘着剤が刃に残るトラブルを防止でき、また、適度の粘着力によって貼り直しも可能であり、これにより、異なる被粘着部材への各々の粘着性能を同時に満たすことを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)本発明は、透明基材と、表面に金属酸化物層が形成されている透明導電性基材とが、多層の粘着剤層を介して積層されている透明光学部材であって、前記多層の粘着剤層のうち、前記透明導電性フィルムの金属酸化物層に粘着する層は、酸成分を実質的に含有せず、前記多層の粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率E’は、粘着層ごとに異なり、前記粘着剤層全体の25℃における貯蔵弾性率E’が3×10〜1×10である透明光学部材である。
【0010】
(2)また、本発明は、前記多層の粘着剤層は、前記透明基材側に粘着し、25℃における貯蔵弾性率E’が3×10〜1×10Paである第1粘着層と、前記透明導電性基材の金属酸化物層側に粘着し、0〜150℃における貯蔵弾性率E’が前記第1粘着層の貯蔵弾性率E’よりも低い第2粘着層と、を備える、(1)記載の透明光学部材である。
【0011】
(3)また、本発明は、前記透明基材上の周縁部には印刷インキ層が形成され、前記多層の粘着剤層は、前記透明導電性基材の金属酸化物層側に粘着し、25℃における貯蔵弾性率E’が3×10〜1×10Paである第1粘着層と、前記透明基材側に粘着し、0〜150℃における貯蔵弾性率E’が前記第1粘着層の貯蔵弾性率E’よりも低い第2粘着層と、を備える、(1)記載の透明光学部材である。
【0012】
(4)また、本発明は、前記第1粘着層と第2粘着層の層厚の割合が50:50〜75:25である、(2)又は(3)に記載の透明光学部材である。
【0013】
(5)また、本発明は、前記第1粘着層がエネルギー線硬化型粘着剤であり、前記第2粘着層が熱硬化型粘着剤である、(2)から(4)のいずれかに記載の透明光学部材である。
【0014】
(6)また、本発明は、前記透明導電性フィルムの金属酸化物層上の一部には金属電極が形成されている、(1)から(5)のいずれかに記載の透明光学部材である。
【0015】
(7)また、本発明は、(1)から(6)のいずれかに記載の透明光学部材の製造方法であって、前記多層の粘着剤層は、複数のノズルから、それぞれの粘着剤組成物を順次又は同時に吐出し、その後に硬化工程を行う透明光学部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スリットやハーフカット等の後加工処理において粘着剤が刃に残るトラブルを防止でき、また、適度の粘着力によって貼り直しも可能であり、これにより、異なる被粘着部材への各々の粘着性能を同時に満たす透明光学部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る透明光学部材の概略断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る透明光学部材の概略断面図である。
【図3】実施例及び比較例における貯蔵弾性率E’を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
〔第1実施形態〕
<透明光学部材>
図1は、本発明の第1実施形態に係る透明光学部材1の構成の一例を示す。本発明の透明光学部材1は、透明基材11と、透明導電性基材12とが、多層の粘着剤層13を介して積層されている。
【0020】
[透明基材11]
透明基材11は、透明光学部材1の最外層に配置される。透明基材11は、画像表示装置の表面に用いられるものであればどのようなものであってもよく、ガラスであってもよいし、透明フィルムであってもよい。
【0021】
[透明導電性基材12]
透明導電性基材12は、フィルム基材12aと、このフィルム基材12a上に形成される金属酸化物層12bとを有する。
【0022】
フィルム基材12aは、ポリエステルフィルム等の基材フィルム上にITO膜や酸化亜鉛(AZO:Al−Zn−O)膜等、導電性を有する膜を形成したものであればどのようなものであってもよい。フィルム基材12aの厚さは、25μmから250μmであることが好適である。25μm未満であると、薄膜であるために加工適性が悪く、かつ耐久性も不十分であるため、好ましくない。250μmを超えると、費用面で好ましくない上、厚膜であるために光線透過率が低下し、光学部材として好ましくない。
【0023】
金属酸化物層12bは、電極として形成される。金属酸化物として、ZnO、TiO、CeO、Sb、SnO、Y、La、ZrO、Al、Nb等が挙げられるが、この限りではない。金属酸化物層12bの膜厚は10〜200nmであることが好ましい。10nm未満であると、層形成時に塗布ムラなどから電極として抜け部分が生じるため、適切な集電効果が得られない可能性がある点で、好ましくない。200nmを超えると、コストが嵩む点で好ましくない。
【0024】
金属酸化物層12b上の一部には、集電のための金属電極14が形成されている。金属電極14は、イオン化傾向が異なる2種類の金属の電極であれば、どのようなものであってもよく、正極であれば、アルミニウム電極が広く用いられ、負極であれば、アルミニウムよりもイオン化傾向が低い銅電極が広く用いられる。
【0025】
[多層の粘着剤層13]
多層の粘着剤層13は、透明基材11側に粘着する第1粘着層13aと、透明導電性基材12の金属酸化物層12b側に粘着する第2粘着層13bとを備える。
【0026】
(第1粘着層13a)
第1粘着層13aを構成する粘着剤の25℃における貯蔵弾性率E’は、3×10〜1×10Paであることが好適である。貯蔵弾性率が3×10Pa未満であると、粘着剤層13全体としての弾性が不十分なものとなり、スリットやハーフカット等の後加工処理において粘着剤が刃に残るトラブルが発生する可能性や、粘着力が高くなって貼り直しが困難になる可能性が生じるため、好ましくない。貯蔵弾性率が1×10Paを超えると、厚膜品をロールで巻き取る工程において、シワ寄りやヒビ割れが生じる可能性があるため、好ましくない。
【0027】
上記範囲の貯蔵弾性率にするため、第1粘着層13aを構成する粘着剤組成物は、エネルギー線硬化型であることが好適である。エネルギー線は特に制限されるものではないが、例えば、マイクロ波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線等が挙げられる。これらの中でも、特に取り扱いが簡便であり、比較的高いエネルギーを得ることが可能な紫外線がより好適である。
【0028】
上記粘着剤組成物の一例として、DIC社製UV硬化型樹脂『ユニディック』シリーズ(アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂)が挙げられる。
【0029】
(第2粘着層13b)
第2粘着層13bを構成する粘着剤は、酸成分を実質的に含有しないことが好適である。酸成分を含有すると、透明導電性基材12を腐食し得るため、好ましくない。このような酸成分としては、カルボン酸等が挙げられる。一方、酸成分を実質的に含有しない組成として、例えば、アクリル酸エステルと、このアクリル酸エステルと共重合可能な水酸基含有モノマーとを含み、これらアクリル酸エステルと水酸基含有モノマーとの共重合により得られる粘着剤が挙げられる。
【0030】
ここで、実質的に含有しないとは、アクリル系ポリマー中のカルボキシル基の含有量が25ppm未満であることを意味する。本発明では、アクリル系ポリマー中にカルボキシル基を25ppm以上含有させないことで、透明導電性基材12の腐食を有効に防止できる。なお、アクリル系ポリマー中のカルボキシル基の含有量は、核磁気共鳴装置(NMR)により測定することができる。具体的には、カルボキシル基とシリル化剤とを反応させ、1H−NMR(600MHz)にて、シリル化物に由来するピークを測定する(定量下限:25ppm)。
【0031】
上記アクリル系ポリマーは、アクリル酸エステルを主成分とする。ここで、主成分とは、共重合割合が51質量%以上であることを意味し、65質量%以上であることが好ましい。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸ヒドロキシルエチル、アクリル酸プロピレングリコール、アクリルアミド、アクリル酸グリシジル等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記アクリル酸エステルの中でも、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルが、耐久性、透明性、塗工適性等に優れ、また、低コストである点において好ましい。
【0032】
共重合可能な水酸基含有モノマーは、その構造中に、共重合可能な重合性基と、水酸基とを有していれば、特に限定されず、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0033】
上記アクリル酸エステルと、上記水酸基含有モノマーとの共重合比(質量比)は、アクリル酸エステルが主成分であれば、特に限定されず、所望の粘着強度を示すように、適宜、設定することができるが、耐久性、粘着性、光学特性等の観点から、99/1〜70/30であることが好ましい。なお、上記共重合比は、核磁気共鳴装置(NMR)により測定することができる。
【0034】
また、上記アクリル系ポリマーの質量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、耐久性の観点から、好ましくは30万〜150万の範囲内であり、より好ましくは50万〜130万の範囲内である。なお、上記質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
【0035】
なお、上記アクリル系ポリマーの市販品としては、例えば、SKダイン1811L(綜研化学株式会社製)、SKダイン2147(綜研化学株式会社製)、SKダイン1435(綜研化学株式会社製)、SKダイン1415(綜研化学株式会社製)、オリバインEG−655(東洋インキ製造株式会社製)等を好適に用いることができる。
【0036】
第2粘着層13bを構成する粘着剤の25℃における貯蔵弾性率E’は、第1粘着層の貯蔵弾性率E’よりも低いことが好適である。具体的には1×10Pa〜3×10Paの範囲であることが好ましい。第1粘着層の貯蔵弾性率E’よりも高いと、金属電極14によって生じる透明導電性基材12上の段差に追従できない可能性があるため、好ましくない。
【0037】
上記範囲の貯蔵弾性率にするため、第2粘着層13bを構成する粘着剤組成物は、熱硬化型であることが好適である。
【0038】
ところで、上記範囲の貯蔵弾性率であれば、第1粘着層13aと第2粘着層13bの組成はどのようなものであってもよく、両方がエネルギー線硬化型であってもよいし、両方が熱硬化型であってもよい。しかし、両方がエネルギー線硬化型であると、硬化工程でのエネルギー線の露光量が膨大になり得る。また、両方が熱硬化型であると、溶剤の揮発が不十分となる可能性がある。そのため、第1粘着層13aと第2粘着層13bの組成は、上記のように異なることが好ましい。
【0039】
(層厚)
第1粘着層13aと第2粘着層13bとの層厚は、50:50〜75:25であることが好適である。第1粘着層13aの粘着剤層13全体に対する割合が50%未満であると、粘着剤層13全体としての弾性が不十分なものとなり、スリットやハーフカット等の後加工処理において粘着剤が刃に残るトラブルが発生する可能性や、粘着力が高くなって貼り直しが困難になる可能性が生じるため、好ましくない。第1粘着層13aの粘着剤層13全体に対する割合が75%を超えると、第1粘着層13aに含まれる酸が透明導電性基材12を腐食する可能性があるため、好ましくない。
【0040】
具体的に、第1粘着層13aの厚さは、第2粘着層13bの厚さ以上500μm以下であることが好適である。厚さが第2粘着層13bの厚さ未満であると、粘着剤層13全体としての弾性が不十分なものとなり、スリットやハーフカット等の後加工処理において粘着剤が刃に残るトラブルが発生する可能性や、粘着力が高くなって貼り直しが困難になる可能性が生じるため、好ましくない。一方、厚さが500μmを超えると、光線透過率等の光学特性に悪影響を及ぼす場合があり好ましくない。
【0041】
第2粘着層13bの厚さは、25μm以上200μm以下であることが好適である。厚さが25μm未満であると、金属電極14によって生じる透明導電性基材12上の段差に追従できない可能性があるため、好ましくない。一方、厚さが200μmを超えると、光線透過率等の光学特性に悪影響を及ぼす場合があり好ましくない。
【0042】
(貯蔵弾性率)
粘着剤層13全体の25℃における貯蔵弾性率E’は、3×10〜1×10であることが好適である。貯蔵弾性率E’が3×10Pa未満であると、スリットやハーフカット等の後加工処理において粘着剤が刃に残るトラブルが発生する可能性や、粘着力が高くなって貼り直しが困難になる可能性が生じるため、好ましくない。また、粘着層間の界面の密着性が不十分となり、層間分離を引き起こす可能性がある点でも好ましくない。貯蔵弾性率E’が1×10Paを超えると、金属電極14によって生じる透明導電性基材12上の段差に追従できない可能性があるため、好ましくない。
【0043】
なお、本発明における貯蔵弾性率E’とは、動的機械特性のひとつであり、試料に時間によって変化(振動)する歪み又は応力を与え、それによって発生する応力又は歪みを検出することにより、試料の力学的な性質を測定する方法で得られる値のうちの試料の内部に貯蔵された値をいう。
【0044】
<透明光学部材1の製造方法>
本発明の透明光学部材1は、次の方法で製造される。まず、複数のノズルから、第1粘着層13aを構成する粘着剤組成物及び第2粘着層13bを構成する粘着剤組成物を順次又は同時に吐出し、透明基材11上に多層の粘着剤層13を形成する。これにより、硬化後に積層する場合に比べて、層間の剥離強度を向上させることができる。なお、同時又は順次とは、硬化前に積層することを意味し、具体的には、それぞれの一のノズルから第1粘着層13aを構成する粘着剤組成物を、他のノズルから第2粘着層13bを構成する粘着剤組成物を同時に吐出してもよく、順次吐出してもよい。
【0045】
続いて、第2粘着層13bに透明導電性基材12を積層する。その後、オーブンを用いて第2粘着層13bを加熱し、第2粘着層13bから溶剤を揮発させる。そして、第1粘着層13aに光源からのエネルギー線を照射し、第1粘着層13aを硬化させる。光源を透明導電性基材12の上方に設置し、第1粘着層13aの上方側からエネルギー線を照射してもよく、第1粘着層13aの下方側からエネルギー線を照射するようにしてもよい。
【0046】
エネルギー線としては、200〜450nmの波長域の光が好ましく、300〜450nmの波長域の光がより好ましい。光源24は、特に限定されるものではなく、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、炭素アーク灯、水銀蒸気アーク、蛍光ランプ、アルゴングローランプ、ハロゲンランプ、白熱ランプ、低圧水銀灯、フラッシュUVランプ、ディープUVランプ、キセノンランプ、タングステンフィラメントランプ、太陽光等が挙げられる。これらの光源24を用い、積算光量が0.5〜6J/cm、好ましくは1〜6J/cmの範囲となるように光を照射することにより、第1粘着層13aを硬化させることができる。積算光量が0.5J/cm未満であると、第1粘着層13aの硬化が不十分となるおそれがあり、6J/cmを超えると、基材及び粘着剤の変形、劣化のおそれがあるため、好ましくない。
【0047】
そして、スリットやハーフカット等の後加工処理を施すことで、本発明の透明光学部材1を製造できる。
【0048】
〔第2実施形態〕
続いて、第2実施形態について説明する。図2は、本発明の第2実施形態に係る透明光学部材21の構成の一例を示す。第1実施形態と同じ構成については、同じ符号を付してある。
【0049】
本発明の第2実施形態に係る透明光学部材21は、透明基材11と、透明導電性基材12とが多層の粘着剤層13を介して積層されている。この点については、第1実施形態と共通する。しかし、第2実施形態では、透明基材11上の周縁部に印刷インキ層22が形成されている。この点で、第2実施形態に係る透明光学部材21は、第1実施形態に係る透明光学部材1とは異なる。なお、印刷インキ層22と金属電極14とは、透明基材11の表面からみて周縁部の略同じ位置に形成されることが好適である。これにより、金属酸化物層12b上に形成される金属電極15を隠すことができ、透明光学部材21やこの透明光学部材21を用いた情報端末機器の意匠性が高まる。
【0050】
ところで、上記印刷インキ層22の厚さは、最大で100μm程度である。そのため、印刷インキ層22によって生じる透明基材11の段差は、金属電極14によって生じる透明導電性基材12の段差よりも大きい。したがって、第2実施形態では、多層の粘着剤層13の層構成が第1実施形態と反対であり、貯蔵弾性率E’が相対的に高い第1粘着層13aが透明導電性基材12の金属酸化物層12b側に粘着する位置に配置され、貯蔵弾性率E’が相対的に低い第2粘着層13bが透明基材11側に粘着する位置に配置される。この点でも、第2実施形態に係る透明光学部材21は、第1実施形態に係る透明光学部材1とは異なる。
【0051】
第2実施形態では、透明導電性基材12の金属酸化物層12b側に第1粘着層13aが粘着される。そのため、第1粘着層13aを構成する粘着剤が酸成分を実質的に含有しないことが求められる。粘着剤がエネルギー線硬化型である場合も熱硬化型である場合と同様に、酸成分を実質的に含有しない組成として、例えば、アクリル酸エステルと、このアクリル酸エステルと共重合可能な水酸基含有モノマーとを含み、これらアクリル酸エステルと水酸基含有モノマーとの共重合により得られる粘着剤が挙げられる。
【0052】
アクリル酸エステルは、粘着剤が熱硬化型である場合と同じものでよいが、中でも、アクリル酸n−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが、耐熱性、耐湿熱性、耐久性、透明性、塗工適性等に優れ、また、低コストである点において好ましい。
【0053】
共重合可能な水酸基含有モノマーは、粘着剤が熱硬化型である場合と同じでよく、その構造中に、共重合可能な重合性基と、水酸基とを有していれば、特に限定されない。また、上記アクリル酸エステルと、上記水酸基含有モノマーとの共重合比(質量比)、上記アクリル系ポリマーの質量平均分子量(Mw)も、粘着剤が熱硬化型である場合と同じでよく、共重合比は、99/1〜70/30であることが好ましく、アクリル系ポリマーの質量平均分子量(Mw)は、30万〜150万の範囲内であることが好ましく、50万〜130万の範囲内であることがより好ましい。
【0054】
なお、上記アクリル系ポリマーの市販品としては、例えば、SKダイン1811L(綜研化学株式会社製)、SKダイン2147(綜研化学株式会社製)、SKダイン1435(綜研化学株式会社製)、SKダイン1415(綜研化学株式会社製)、オリバインEG−655(東洋インキ製造株式会社製)等を好適に用いることができる。
【0055】
印刷インキ層22の厚さは、最大で100μm程度であることから、第2実施形態では、第2粘着層13bの厚さは、200μm以上500μm以下であることが好適である。厚さが200μm未満であると、印刷インキ層22によって生じる透明基材11上の段差に追従できない可能性があるため、好ましくない。一方、厚さが500μmを超えると、光線透過率等の光学特性に悪影響を及ぼす場合があり好ましくない。
【0056】
第1粘着層13aと第2粘着層13bとの層厚は、50:50〜75:25であることが好適である。第1粘着層13aの粘着剤層13全体に対する割合が50%未満であると、粘着剤層13全体としての弾性が不十分なものとなり、スリットやハーフカット等の後加工処理において粘着剤が刃に残るトラブルが発生する可能性や、粘着力が高くなって貼り直しが困難になる可能性が生じるため、好ましくない。第1粘着層13aの粘着剤層13全体に対する割合が75%を超えると、第2粘着層13bの厚さが200μm以上であることから、全体の層厚が厚くなりすぎ、光線透過率等の光学特性に悪影響を及ぼす場合があり好ましくない。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
【表1】

【0059】
<第1粘着剤組成物用主剤の合成>
遮光条件下で、冷却管、温度計、撹拌機を備えた三口フラスコに、多官能モノマー(商品名:アロニックスM305,東亜合成製)200質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)化合物(商品名「デュラネートTPA−100」,旭化成製)100質量部、酸化防止剤(ブチルヒドロキシトルエン(BHT),関東化学社製)0.2質量部、重合禁止剤(ヒドロキノンモノメチルエーテル,関東化学社製)0.2質量部、ウレタン化反応触媒(ジラウリン酸ジブチルすず,東京化成社製)0.2質量部を入れ80℃にて5時間撹拌し、エネルギー線硬化型粘着物用主剤を得た。この主剤の粘度は4000mPa・sであった。
<第1粘着剤組成物(エネルギー線硬化型)の調製>
上記第1粘着剤組成物用主剤50質量部に、アクリル酸ブチル(関東化学社製)20質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル(関東化学社製)10質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル(関東化学社製)20質量部を加え、さらに光重合開始剤(商品名:イルガキュア1173,BASF社製)4質量部を溶解させて第1粘着剤組成物(エネルギー線硬化型)を得た。
【0060】
<第2粘着剤組成物(熱硬化型)の調製>
第2粘着剤組成物用主剤であるアクリル系ポリマー(商品名「SKダイン2971」,質量平均分子量:40万,固形分:40%,綜研化学社製)100質量部と、トリレンジイソシアネート系硬化剤(商品名「TD−75」,固形分:75%,綜研化学社製)0.5質量部と、シランカップリング剤(商品名「A−50」,固形分:50%,綜研化学社製)0.2質量部とを、酢酸エチル(DICグラフィックス社製)40質量部に溶解させて第2粘着剤組成物(熱硬化型)を得た。
【0061】
<実施例1>
ガラス基材(グレード「#7059」,コーニング社製)上の一方の面に、複数のノズルから、それぞれの粘着剤組成物を順次吐出し、ガラス基材、厚さ150μmの第1粘着層(エネルギー線硬化型)、厚さ150μmの第2粘着層(熱硬化型)の順に2層の粘着剤層を同時に形成した。続いて、第1粘着層にITOフィルム(商品名「エレクリスタG400L−TMP」,日東電工社製)を積層した。その後、オーブンを用いて第2粘着層を加熱し、第2粘着層を硬化させた。加熱温度は、90℃であった。さらにその後、ITOフィルム側から第1粘着層に紫外線を照射し、第1粘着層を硬化させた。紫外線の波長は260nm、積算照射量は1000mJ/cmであった。このようにして、実施例1の透明光学部材を得た。
【0062】
<実施例2>
第1粘着層の厚さが75μmであり、第2粘着層の厚さが225μmであること以外は、実施例1と同様の方法にて実施例2の透明光学部材を得た。
【0063】
<比較例1>
第1粘着層の厚さが300μmであり、第2粘着層の厚さが0μmであること以外は、実施例1と同様の方法にて比較例1の透明光学部材を得た。
【0064】
<比較例2>
第1粘着層の厚さが0μmであり、第2粘着層の厚さが300μmであること以外は、実施例1と同様の方法にて比較例2の透明光学部材を得た。
【0065】
<比較例3>
第1粘着層の厚さが225μmであり、第2粘着層の厚さが75μmであること以外は、実施例1と同様の方法にて比較例3の透明光学部材を得た。
【0066】
<貯蔵弾性率E’の測定>
粘着剤層の弾性を、貯蔵弾性率E’をパラメーターとして検討した。貯蔵弾性率E’の測定はティー・エイ・インスツルメント社製の固体粘弾性アナライザーRSA−IIIを用い、JIS K7244−1に準拠した動的粘弾性測定法(アタッチメントモード:圧縮モード,周波数:1Hz,温度:−50〜150度、昇温速度:5度/分)にて行った。その結果を図2に示す。
【0067】
まず、25℃における貯蔵弾性率E’に関し、全てが第1粘着層(エネルギー線硬化型)である場合(比較例1)と、全てが第2粘着層(熱硬化型)である場合(比較例2)とを対比すると、全てが第1粘着層である場合の方が高い貯蔵弾性率E’を有し、スリットやハーフカット等の後加工処理等の作業性に優れることが確認された。
【0068】
続いて、第1粘着層と第2粘着層との割合を種々変更させた場合(実施例1、2、比較例3)とを対比した。第1粘着層の厚さが粘着層全体の厚さに対して50%以上であると、全てが第1粘着層である場合と略同じ貯蔵弾性率E’が得られることが確認された(実施例1、2)。すなわち、第1粘着層の厚さが粘着層全体の厚さに対して50%以上であれば、上記作業性を十分に得られることが確認された(実施例1、2)。一方、第1粘着層の厚さが粘着層全体の厚さに対して50%未満であると、十分な貯蔵弾性率E’が得られず、上記作業性を十分に得られない可能性があることが確認された(比較例3)。
【符号の説明】
【0069】
1 透明光学部材
11 ガラス基材
12 透明導電性フィルム
13 粘着剤層
13a 第1粘着層
13b 第2粘着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、表面に金属酸化物層が形成されている透明導電性基材とが、多層の粘着剤層を介して積層されている透明光学部材であって、
前記多層の粘着剤層のうち、前記透明導電性フィルムの金属酸化物層に粘着する層は、酸成分を実質的に含有せず、
前記多層の粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率E’は、粘着層ごとに異なり、
前記粘着剤層全体の25℃における貯蔵弾性率E’が3×10〜1×10Paである透明光学部材。
【請求項2】
前記多層の粘着剤層は、前記透明基材側に粘着し、25℃における貯蔵弾性率E’が3×10〜1×10Paである第1粘着層と、
前記透明導電性基材の金属酸化物層側に粘着し、0〜150℃における貯蔵弾性率E’が前記第1粘着層の貯蔵弾性率E’よりも低い第2粘着層と、を備える、請求項1記載の透明光学部材。
【請求項3】
前記透明基材上の周縁部には印刷インキ層が形成され、
前記多層の粘着剤層は、前記透明導電性基材の金属酸化物層側に粘着し、25℃における貯蔵弾性率E’が3×10〜1×10Paである第1粘着層と、
前記透明基材側に粘着し、0〜150℃における貯蔵弾性率E’が前記第1粘着層の貯蔵弾性率E’よりも低い第2粘着層と、を備える、請求項1記載の透明光学部材。
【請求項4】
前記第1粘着層と第2粘着層の層厚の割合が、50:50〜75:25である請求項2又は3に記載の透明光学部材。
【請求項5】
前記第1粘着層がエネルギー線硬化型粘着剤であり、前記第2粘着層が熱硬化型粘着剤である請求項2から4のいずれかに記載の透明光学部材。
【請求項6】
前記透明導電性フィルムの金属酸化物層上の一部には金属電極が形成されている請求項1から5のいずれかに記載の透明光学部材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の透明光学部材の製造方法であって、
前記多層の粘着剤層は、複数のノズルから、それぞれの粘着剤組成物を順次又は同時に吐出し、その後に硬化工程を行う透明光学部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−71321(P2013−71321A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212242(P2011−212242)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】