説明

透明導電性基板および電子デバイス

【課題】 優れた塗膜強度とともに、良好な導電性を併せ持つ透明導電性基板、及びこれを用いた電子デバイスを提供する。
【解決手段】 本発明に係る透明導電性基板1は、少なくとも被成膜面が絶縁性を有する透明基板11と、前記透明基板の被成膜面上に形成された導電性高分子を含む第一の透明導電膜12と、前記第一の透明導電膜に重ねて形成された導電性高分子を含む第二の透明導電膜13とを少なくとも備え、前記第二の透明導電膜は、前記第一の透明導電膜と電気的に接続され、かつ、前記第一の透明導電膜より硬質であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス発光素子、透明タッチパネル等に応用できる導電性高分子を用いた透明導電性基板、およびこの透明導電性基板を用いた電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電性基板を用いた電子デバイスが広く用いられている。この透明導電性基板を構成する透明導電膜に用いられる導電性材料としては、導電性高分子がある。導電性高分子を用いた透明導電膜は、通常、導電性高分子を水などの溶剤に溶かし、ロールコートやディップコート、スピンコート、スプレーなど各種コーティング法にて透明基板に塗工して乾燥させることにより形成される。
【0003】
ところが、導電性高分子は、成膜した際に塗膜強度が弱く、爪などで簡単に削り取られやすいので、膜が透明基板上から剥離、あるいは脱落する虞があった。そのため、強度を要する部分に使用する際には、強度を要する面にスパッタ法などにより形成されたITO膜を用いるのが主流であった(例えば、特許文献1参照)。しかし、このようなITO膜は、生産性の面やコストの面から問題があった。
【0004】
また、一般的に導電膜自体の塗膜強度を上げるため、導電性高分子を分散させた溶液に架橋性高分子を添加し、熱または光によって塗膜を架橋させる方法もあるが、架橋性高分子の添加量を多くすると導電性が低下する問題があった。
【特許文献1】特開平2−194943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた塗膜強度とともに、良好な導電性を併せ持つ透明導電性基板、及びこれを用いた電子デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る透明導電性基板は、少なくとも被成膜面が絶縁性を有する透明基板と、前記透明基板の被成膜面上に形成された導電性高分子を含む第一の透明導電膜と、前記第一の透明導電膜に重ねて形成された導電性高分子を含む第二の透明導電膜と、を少なくとも備え、前記第二の透明導電膜は、前記第一の透明導電膜と電気的に接続され、かつ、前記第一の透明導電膜より硬質であることを特徴とする。
本発明の請求項2に係る透明導電性基板は、請求項1において、前記第二の透明導電膜は、さらに架橋性高分子を含むことを特徴とする。
本発明の請求項3に係る透明導電性基板は、請求項2において、前記第二の透明導電膜は、膜厚が10nm以上200nm以下であることを特徴とする。
本発明の請求項4に係る電子デバイスは、前記請求項1乃至3の何れか一項に記載の透明導電性基板を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る透明導電性基板(請求項1)は、透明基板の上に形成される透明導電膜が、透明基板側に位置する導電性に優れた第一の層と、表面側に位置する強度に優れる第二の層との二層構造をなしているので、第一の透明導電膜はこれより硬質な第二の透明導電膜によって被覆された形態となり透明導電膜の表面強度を向上できる。ゆえに、透明導電膜が爪やペン等が接触した際に簡単に損傷を受けたり、あるいは削り取られて透明基板上から剥離、脱落することが防止できるので、長期耐久性に優れた透明導電性基板が得られる。しかも、第二の透明導電膜は第一の透明導電膜と電気的に接続されているので、導電性を備えつつ、塗膜強度に優れた構成からなる透明導電性基板が得られる。
【0008】
本発明に係る電子デバイス(請求項4)は、上記透明導電性基板を使用するので、耐久性に優れ、長期信頼性の高い構成とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明に係る透明導電性基板の一例を示す断面図である。
ここに示す透明導電性基板1は、透明基板11と、この透明基板の上に形成された第一の透明導電膜12と、この第一の透明導電膜12の上に形成された第二の透明導電膜13とを少なくとも備えている。
【0010】
透明基板11は、透明なフィルムまたはガラスであり、軽量性、耐久性および透明性を考慮すると、具体的には、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステルやポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエーテルスルフォンで作られた透明性を有する高分子材料からなるフィルムであることが好ましい。特に、指やペン等にて印圧する側に位置する透明基板11は、印圧に応じて柔軟に上下電極の接触を促す必要があることから、可撓性を備えた部材が好ましい。
【0011】
透明基板11の厚さは、タッチパネル10として使用することを考慮すると、100nmから250nm、好ましくは120nmから190nmの範囲とすればよい。透明基板11の厚さが100nm未満であると、機械的強度が不足し、実用に供するのに十分な耐久性を得ることができず、一方、厚さが250nmより大きいと、タッチパネル10としての柔軟性が損なわれる虞がある。
【0012】
第一の透明導電膜12は、導電性高分子を含む。導電性高分子としては、具体的には、たとえば、ポリチオフェン系導電性高分子が用いられる。この第一の透明導電膜12の透明基板11上への形成は、導電性高分子を含む透明導電膜の原料液を、たとえば、ロールコートにとって塗布することにより行うことができる。なお、導電性高分子を含む透明導電膜の原料液の透明基板11上への塗布は、ロールコートに限らずディップコートやスピンコート、バーコート等であっても良い。
【0013】
第二の透明導電膜13もまた導電性高分子を含み、上記第一の透明導電膜12と同様の方法により形成することができる。また、第二の透明導電膜13としては、第一の透明導電膜12と電気的に接続され、かつ、第一の透明導電膜12より硬質なものが用いられる。第二の透明導電膜13を第一の透明導電膜12より硬質とするためには、例えば第二の透明導電膜13が含有するバインダ樹脂の添加量を制御すればよい。また、第二の透明導電膜13に架橋性高分子を添加する等によっても制御することができる。導電性高分子樹脂中に架橋性高分子樹脂を含有させる手法の方が、バインダ樹脂を添加する手法より望ましい。架橋性高分子樹脂の場合、その含有量を少なくしても所定の硬度が得られるので、他の手法に比べて導電性も向上させることができる。その際、架橋性高分子樹脂を熱架橋ポリエステル樹脂とすると、柔軟性に優れたものとなり、屈曲を伴う用途に使用することができるものとなる。
【0014】
第二の透明導電膜13の膜厚は、10nm以上200nm以下の範囲が好適であり、より好ましくは30nm以上100nm以下の範囲である。第二の透明導電膜13の膜厚が30nmより薄い場合には、膜強度が劣ったものとなってしまう。これに対して、第二の透明導電膜13の膜厚が200nmより厚い場合には、導電性が劣ったものとなってしまう。
【0015】
以上のように構成された透明導電性基板1は、導電性を確保しつつ、表面の塗膜強度に優れた構成とすることができ、たとえば、タッチパネルなどの電子デバイスにおける基材として使用することで、高寿命なものとすることができる。
【0016】
次に、この透明導電性基板1を用いた電子デバイスの一例として、タッチパネルについて説明する。
図2と図3は、本発明に係る透明導電性基板1を用いた電子デバイスであるタッチパネルの一例を示す図である。特に、図2(a)はタッチパネルの主な構成部品を厚み方向に分解して示した斜視図であり、図2(b)は図2(a)のα−α’部分における断面図である。そして、図3は、タッチパネルの動作原理を説明する概略図である。
【0017】
図2に示すように、タッチパネル10は、上述した構成の透明導電性基板1を、上部電極用の第一の透明導電性基板(以下、「上部電極」という場合がある。)1Aおよび下部電極用の第二の透明導電性基板(以下、「下部電極」という場合がある。)1Bとして用い、両電極(上部電極1A、下部電極1B)を構成する第二の透明導電膜13同士が対向するように、スペーサ3及びオーバーレジスト4を介して設けてなる構成を有する。
その際、ペンなどの筆記治具により外部から印圧され、厚み方向に変形することが求められる上部電極1A用の透明基板11Aとしては、例えば可撓性基材の樹脂フィルムが好ましく、一方、上記変形を要しない下部電極1B用の透明基板11Bとしては、剛性基材のガラスや樹脂の板材が望ましい。
この構成によれば、上部電極1A用の透明基板11Aに外側から局所的に押圧を加えることにより、透明基板11Aが内側に撓み、押圧を加えた箇所において上部電極1Aと下部電極1Bとを電気的に接触させることが可能となる。なお、透明基板11Aの外側には、必要に応じて硬質の保護膜Hが配置される。
【0018】
また、第一の透明導電性基板1Aと第二の透明導電性基板1Bの対向する面の上には、それぞれ引き回し線2A,2Bが設けられるとともに、何れか一方の対向面(図では第二の透明導電性基板1B)の上にドットスペーサ5が設けられている。ドットスペーサ5を設置しておけば、例えば透明基板11Aが自重により内側に撓み、上部電極1Aが下部電極1Bと接触してしまうような誤動作を回避できる。換言すると、所定の押圧が局所的に加わった際に初めて、上部電極1Aと下部電極1Bとの間で電気的な接触が生じ、その結果、この接触地点の位置情報が高精度に把握できるようになるので、ドットスペーサ5を適宜設置することは好適である。
【0019】
引き回し線2A,2Bは、上部電極1A及び下部電極1Bにおける対向する一対の両端側に平行してそれぞれ設けられ、上部電極1Aと下部電極1Bとでは、引き回し線2A,2Bが直交する位置関係に配置されている。この引き回し線2A,2Bの材料としては、具体的には、たとえば、導電性に優れた銀を用いることができる。また、引き回し線は銀に限らず、金や銅、もしくはニッケルなどの金属、あるいはカーボンなどの導電性を有するものとすることもできる。この引き回し線の形成方法としては、たとえば、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷などの印刷法、またはフォトレジスト法や刷毛塗法などがある。
【0020】
スペーサ3は、上部電極1Aと下部電極1Bととが無闇に接触しないように保持するものである。このスペーサ3の材料としては、例えば、アクリル系粘着剤を用いることができる。
オーバーレジスト4は、上部電極1Aまたは下部電極1Bとスペーサ3との間の接着強度を上げて、スペーサ3に接合される上部電極1Aおよび下部電極1Bが剥離するのを防ぐものである。このオーバーレジスト4の材料としては、例えば、熱硬化性ポリエステル樹脂を用いることができる。
【0021】
ドットスペーサ5は、たとえば、数十μm程度の高さを持った半球状、円錐状、または円柱状をした突起体であり、下部電極を構成する第二の透明導電性基板1Bにおける第二の透明導電膜13上に一定の間隔をあけて形成されている。ドットスペーサ5の材料としては、たとえば、アクリル系樹脂などの透明性を有する絶縁材料が挙げられる。
このドットスペーサ5により、上部電極を構成する第一の透明導電性基板1Aにおける第二の透明導電膜13と、下部電極を構成する第二の透明導電性基板1Bにおける第二の透明導電膜13とが無闇に接触しないように保持される構造となり、長期にわたる安定したスイッチ動作の維持および情報入力時における高精度な位置検出が可能となっている。
【0022】
タッチパネル10は、透明抵抗(導電)膜が設けられた一対の透明導電性基板よりなる上部電極1Aと下部電極1Bを、透明導電膜側同士が向い合う方向に貼り合わせ、上部電極1A側の基板の上から指やペンを用いて押圧することで、上部電極1Aが大きく撓んで透明導電膜同士が接触し、導通状態となった点の電圧から位置を検出することでタッチパネル入力が行われる。すなわち、この上下に向い合った上部電極1Aと下部電極1Bは、一方でX座標回路を構成し、もう一方でY座標回路を構成している。
したがって、X座標の検出は、上部電極1Aに電圧を印加すると導電性高分子の抵抗によって引き回し線間2A、2A方向に電圧勾配ができ、押圧接触点での分圧比Rx1,Rx2を測定することによりX座標がわかる。また、Y座標の検出は、下部電極1Bに電圧を印加すると導電性高分子の抵抗によって引き回し線間2B、2B方向に電圧勾配ができ、押圧接触点での分圧比Ry1,Ry2を測定することによりX座標がわかる。
【0023】
(実験例1−6)
実験例1−6では、透明導電性基板が透明基板上に第一の透明導電膜(T1)と第二の透明導電膜(T2)を順に積層してなり、第二の透明導電膜が第一の透明導電膜と電気的に接続され、かつ、第一の透明導電膜より硬質とした場合について検証するため、表1に示す6通りの実験例を行い、試料A〜Fを作製した。表1において、αはポリチオフェン系透明導電塗料(アグファゲバルト社製、Orgacon )を、βはバインダとして機能するポリエステル系樹脂(東洋紡績社製、バイロナール)、Tgは硬化温度を表し、矢印(←)は左欄と同じであること意味する。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示した各試料のポイントは、以下の点にある。
試料A:T1からなる単層構造。
試料B:T1にT2を重ねた積層構造。T2は主材αのみから構成。
試料C:T1にT2を重ねた積層構造。T2は主材αと副材βから構成。副材βのTgが0℃より低い場合。
試料D:T1にT2を重ねた積層構造。T2は主材αと副材βから構成。副材βのTgが0℃の場合。
試料E:T1にT2を重ねた積層構造。T2は主材αと副材βから構成。副材βのTgが0℃より高い場合。
試料F:T2からなる単層構造。T2は主材αと副材βから構成。副材βのTgが0℃より高い場合。
【0026】
以下では、実験例5の作製手順について詳述する。
まず、長さ5cm、幅5cm、厚さ700μmの透明ガラス基板上に、ポリチオフェン系透明導電塗料(αと略記:アグファゲバルト社製、Orgacon )の1.3%水分散液をロールコートし、80℃で2分間乾燥させることによって、ガラスからなる透明基板上に厚さ300nmの第一の透明導電膜を形成した。次いで、上述した第一の透明導電膜用分散液にバインダとしてポリエステル系樹脂(βと略記:東洋紡績社製、バイロナール、Tg>0℃)を1.5%添加したポリチオフェン系透明導電塗料をロールコートし、130℃で30分間乾燥させることにより、第一の透明導電膜上に厚さ100nmの第二の透明導電膜を形成し、透明導電性基板(試料E)とした。
【0027】
他の実験例1〜4、6は実験例5の変形である。
実施例1は、実験例5と同様に第一の透明導電膜のみ形成し、透明導電性基板(試料A)とした。
実施例2は、実験例5と同様に第一の透明導電膜を形成した後、ポリチオフェン系透明導電塗料αのみを用いて第二の透明導電膜を形成し、透明導電性基板(試料B)とした。
実験例3と4は、第二の透明導電膜を形成する際、αに含有させるβとしてTgの異なるもの(実験例3はTg<0℃、実験例4はTg=0℃)を用いた点のみ実験例5と異なり、他の点は実施例5と同様として、透明導電性基板(試料C、D)を得た。
実施例6は、第一の透明導電膜は設けず、透明基板上に第二の透明導電膜のみ実施例5と同様に形成し、透明導電性基板(試料F)とした。
【0028】
表2は、試料A〜Fにおける塗膜強度(硬度)と表面抵抗(導電性)とをそれぞれ測定した結果である。
塗膜強度は、JIS−K5400に準拠し、それぞれ芯の硬さの異なる複数の鉛筆を用いて透明導電膜表面を引っ掻き、透明導電膜表面に傷が生じた状態を観測することにより評価した。
表面抵抗は、JIS−K7194に準拠し、表面抵抗計(三菱化学社製、ロレスタGP)を用いて測定した。導電性において、○印は従来と同等の抵抗値(300〜700[Ω/□])、△印はやや劣るが実用可能レベル(700〜1500[Ω/□])、×印は実用不可レベル(1500〜3000[Ω/□])、であることを意味する。
【0029】
また、上述した各実験例と同じ構造の透明導電性基板を、2種類の基材[フィルム(上部電極用)、ガラス(下部電極用)]上に形成し、図2に示すような、4線式抵抗膜型の透明タッチパネルを作製した。このタッチパネルの直線性(リニアリティ)として筆記寿命(R1)と打鍵寿命(R2)を評価し、それぞれ初期値で規格化した結果も表2に示した。
筆記寿命(R1)と打鍵寿命(R2)の評価は、以下に示す各条件により行った。
筆記寿命は、対向する電極間(上下両方とも)に5[V]の直流電圧を印加しながら、0.05〜1[N」の入力荷重にて、10万文字筆記した後のリニアリティを初期値で除すことにより求めた数値である。その際、筆記治具として、先端曲率がR0.8のポリアセタール製のペンを用いた。
打鍵寿命は、対向する電極間(上下両方とも)に5[V]の直流電圧を印加しながら、1.96[N]の打鍵荷重、5[Hz]の打鍵周波数にて、100万回打鍵した後のリニアリティを初期値で除すことにより求めた数値である。その際、打鍵治具として、先端曲率がR8のシリコンゴム製(硬度60°)のペンを用いた。
【0030】
【表2】

【0031】
表1および表2より、以下の点が明らかとなった。
(1)単層構造(T1のみ)の場合、導電性はほぼ良好だが、硬度が低く、リニアリティがいずれも1.5以上と芳しくない(試料A)。
(2)単層構造(T2のみ)の場合、硬度が高く、リニアリティはいずれも1.2程度と良好であるが、導電性が芳しくない(試料F)。
(3)二層構造にすると、ほぼ良好な導電性を保ちつつ、硬度が若干高くなるが、リニアリティはいずれも1.5以上と改善が見られない(試料B)。
(4)二層構造にするとともに、第二の透明導電膜を形成する際、αにβを含有させ、βとしてTgの異なるものを用いることにより、ほぼ良好な導電性を保ちつつ、硬度が高くなり、Tgの上昇に伴いリニアリティは1.2程度まで改善する(試料C、D、E)。
以上の結果より、第二の透明導電膜が第一の透明導電膜と電気的に接続され、かつ、第一の透明導電膜より硬質とすることにより、ほぼ良好な導電性を保ちつつ、リニアリティも良好な透明導電性基板が得られることが分かった。
【0032】
(実験例7−13)
実験例7−13では、バインダとして機能するポリエステル系樹脂βに代えて、架橋性高分子γをポリチオフェン系透明導電塗料αに含有させ、第二の透明導電膜(T2)を膜厚を10〜300[nm]の範囲で変えて形成した点が実施例5と異なり、他の点は実施例5と同様とした。架橋性高分子を含有させた際の作用・効果と膜厚T2の依存性を検証することを目的とし、表3に示す7通りの実験例を行い、試料G〜Mを作製した。表3において、αはポリチオフェン系透明導電塗料(アグファゲバルト社製、Orgacon )を、γは架橋性高分子として機能する熱架橋ポリエステル系樹脂(東洋紡績社製、バイロナール)を表し、矢印(←)は左欄と同じであること意味する。なお、前述した試料A(第二の透明導電膜を設けず、第一の透明導電膜のみからなる場合:T2=0[nm])を比較のため表3に掲載した。
【0033】
【表3】

【0034】
以下では、実験例11の作製手順について詳述する。
まず、長さ5cm、幅5cm、厚さ700μmの透明ガラス基板上に、ポリチオフェン系透明導電塗料(αと略記:アグファゲバルト社製、Orgacon )の1.3%水分散液をロールコートし、80℃で2分間乾燥させることによって、ガラスからなる透明基板上に厚さ300nmの第一の透明導電膜を形成した。次いで、上述した第一の透明導電膜用分散液に架橋性高分子として熱架橋性ポリエステル系樹脂(γと略記:東洋紡績社製、バイロナール)を1.5%、及びシラン系硬化剤を1%添加したポリチオフェン系透明導電塗料をロールコートし、130℃で30分間乾燥させることにより、第一の透明導電膜上に厚さ100nmの第二の透明導電膜を形成し、透明導電性基板(試料K)とした。
【0035】
表4は、試料A、G〜Mにおける塗膜強度(硬度)と表面抵抗(導電性)とをそれぞれ測定した結果である。また、リニアリティとして筆記寿命(R1)と打鍵寿命(R2)を初期値で規格化して示した。これらの評価方法は前述したものと同様とした。
【0036】
【表4】

【0037】
表3および表4より、以下の点が明らかとなった。
(1)二層構造の上層をなす第二の透明導電膜(T2)に架橋性高分子を含有することにより、ほぼ良好な導電性を保ちつつ、硬度の向上が図れる(試料A、G)。
(2)架橋性高分子を含有させた場合、第二の透明導電膜(T2)の厚さを増加させるに伴い、硬度をさらに高くすることができる。その際、筆記寿命(R1)と打鍵寿命(R2)からなるリニアリティも一緒に著しく改善される(試料G〜L)。
(3)しかし、第二の透明導電膜(T2)の厚さが200nm以上の場合には、導電性が低下し、300nmの場合には実用不可レベルになる(試料L、M)。
以上の結果より、第二の透明導電膜(T2)に架橋性高分子を含有させ、その膜厚を10nm以上200nm以下の範囲とすることにより、ほぼ良好な導電性を保ちつつ、硬度を高めることができ、リニアリティも改善が図れる。特に、T2の膜厚を30nm以上100nm以下の範囲とした場合には、リニアリティの2因子[R1(筆記寿命)、R2(打鍵寿命)]を同時に1.20以下に抑制できるので、より好ましい。
なお、ここでは、架橋性高分子として熱架橋性材料を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、光架橋性材料等を用いても構わない。
【0038】
上述した2つの結果から、本発明に係る透明導電性基板(試料D、E、G〜L)を使用したタッチパネルは、従来の透明導電性基板を使用したタッチパネル(試料A)に比較して、塗膜強度(硬度)の点において優れていることから、筆記寿命(R1)及び打鍵寿命(R2)の何れのリニアリティにおいても良好な特性が得られたものと、本発明者は判断した。
【0039】
なお、タッチパネルの入力荷重と第二の透明導電膜の表面抵抗値との関係は、図5に示ような曲線で表される。この入力荷重の測定には、上述した筆記寿命を評価する際に用いた筆記治具(先端曲率がR0.8のポリアセタール製のペン)を使用した。
図5のグラフより、表面抵抗の数値が増加するにつれて入力荷重も増加し、大きな荷重を要することが分かる。ゆえに、第二の透明導電膜の抵抗値があまりに低すぎると、僅かな入力荷重によっても誤作動が生じる虞がある。一方、第二の透明導電膜の抵抗値があまりに大きすぎると、非常に大きな入力荷重を要し、ひいては操作性が劣る一因となることから芳しくない。
この中間をなす好適な抵抗値を満足するためには、表4の結果から、架橋性高分子を含有させた第二の透明導電膜(T2)を用い、その膜厚範囲を10nm以上200nm以下、より好ましくは30nm以上100nm以下とすればよいことが明らかとなった。その結果、優れた塗膜強度とともに、良好な導電性を併せ持つ透明導電性基板、及びこれを用いた電子デバイスの提供が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る透明導電性基板は、その効用が導電性と硬度とを併せ持ち、さらに筆記寿命や打鍵寿命にも優れる点にあることを考慮すると、上述した電子デバイスの一例であるタッチパネルに限定されることなく、例えば液晶表示装置やEL表示装置等に代表される各種の表示デバイス用途においても広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る透明導電性基板の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る電子デバイス(抵抗膜型透明タッチパネル)の構造の一例を示す斜視図および断面図である。
【図3】図2に示す電子デバイスの動作原理を説明する概略図である。
【図4】本発明に係る電子デバイス(抵抗膜型透明タッチパネル)における入力荷重と表面抵抗値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 透明導電性基板、2A,2B 引き回し線、3 スペーサ、4 オーバーレジスト、5 ドットスペーサ、10 タッチパネル(電子デバイス)、11 透明基板、12 第一の透明導電膜、13 第二の透明導電膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも被成膜面が絶縁性を有する透明基板と、
前記透明基板の被成膜面上に形成された導電性高分子を含む第一の透明導電膜と、
前記第一の透明導電膜に重ねて形成された導電性高分子を含む第二の透明導電膜と、
を少なくとも備え、
前記第二の透明導電膜は、前記第一の透明導電膜と電気的に接続され、かつ、前記第一の透明導電膜より硬質であることを特徴とする透明導電性基板。
【請求項2】
前記第二の透明導電膜は、さらに架橋性高分子を含むことを特徴とする請求項1に記載の透明導電性基板。
【請求項3】
前記第二の透明導電膜は、その膜厚が10nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の透明導電性基板。
【請求項4】
前記請求項1乃至3の何れか一項に記載の透明導電性基板を用いた電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−351335(P2006−351335A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175365(P2005−175365)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】