説明

透明層付き黒色合成石英ガラス及びその製造方法

【課題】要求される種々の形状に対応して、必要な光遮蔽性と赤外域の放射率を満たす黒色部分を持ち、合成石英ガラスと同等の金属不純物の純度を保持し、天然石英ガラス並の高温粘度特性を有し、溶接などの高温加工が可能で、表面から炭素が放出しない透明層と、黒色石英中、及び、透明層と黒色石英ガラスの界面に泡や異物がない、透明層付き黒色合成石英ガラス及びその製造方法を容易に提供する。
【解決手段】黒色石英ガラス部分と透明層石英ガラス部分を含む透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法であって、水酸基を含むシリカ多孔質ガラス体を、揮発性有機珪素化合物雰囲気中、所定温度で気相反応させた後、所定温度にて焼成する黒色石英ガラス作成工程と、前記黒色石英ガラス部分に、特定のシリカスラリーである透明層材料を塗布し、所定の条件で加熱処理する透明層作成工程と、を含むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明層付き黒色合成石英ガラス及びその製造方法に関するものである。本発明の透明層付き黒色合成石英ガラスは、分光セル等の光学部品、赤外線熱吸収部材、耐プラズマエッチング性部材、半導体製造装置用の遮光部材等に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
石英ガラスは、その紫外域から赤外域にわたる良好な光透過性や低熱膨張性を生かして分光セルなどの光学分野に用いられている。従来この分野において、局所的な遮光が必要な部位には、石英ガラスに微量の遷移金属酸化物を添加した黒色ガラスが用いられ、透明石英ガラスと熱圧着等により接合するなどして光学セルが製造されている。しかしながら近年、光学セルの微細化/薄型化が進んでおり、従来の黒色ガラスでは遮光性が不足する場合が生じており、より遮光性が高く、泡・異物等を含まず均一性が高く、さらに、透明性石英ガラスと容易に接合できる黒色石英ガラスが求められている。
【0003】
また、石英ガラスは耐熱性、化学的高純度の特徴も有し、半導体製造用の冶具などにも多く用いられてきたが、近年、半導体製造プロセスの熱処理工程において、1000℃を超える高温領域の工程が増え、高耐熱性へ要求が増大している。また、赤外光を用いた急速な加熱プロセスにおいて、赤外光を素通しする透明石英ガラスによる加熱ロスが問題となり、加熱対象物以外を赤外線照射から遮蔽する部材も必要になっている。このことから、耐熱性に優れ、赤外線を効果的に遮蔽し、急速な加熱冷却性を有し、断熱性に優れ、かつ急速加熱冷却時の熱衝撃にも耐え、しかも工程汚染の原因となる金属不純物を含有しない黒色石英ガラスの開発が求められている。
【0004】
従来、シリカを主成分とする黒色ガラスとしては以下のようなものが知られている。例えば、特許文献1では、石英ガラス中に金属元素化合物を添加した黒色石英ガラスが提案されている。しかしながらこの種の黒色石英ガラスは遮光性が十分でない場合があり、また含有する金属成分が工程汚染を引き起こす恐れがあることから半導体製造分野に適用することは困難が伴った。
【0005】
また、特許文献2では、シリカ粉末に炭素源となりうる有機結合材を添加し、熱処理により分解した炭素を生成した後、焼成により炭素をガラスネットワーク中に固溶させた黒色石英ガラスが提案されている。しかしながら、このような炭素を固溶したガラス体は、硬度や高温粘性が上昇するなど通常の石英ガラスと異なった機械的、熱的物性を有することが知られている。また熱膨張率も変化すると考えられ、通常の透明石英ガラスと接合或いは嵌合させて用いると割れ原因となるなどの困難を伴った。さらに、加熱雰囲気においては、表面近傍の炭素が周囲雰囲気へ飛散して悪影響を及ぼすことや、シリカと炭素が反応して、気泡が発生して、溶接や火炎加工が不可能となるなどの問題もあった。さらに、加熱使用中に、透明石英ガラスと黒色石英ガラスの界面からは気泡が発生するなどして、製品使用中の割れ原因になった。
【0006】
また、特許文献3では、所望の形状を有する水酸基含有多孔質石英ガラス体を、揮発性有機珪素化合物中に置き、加熱して反応させた後、真空中で加熱焼結させることにより、所望の形状の黒色石英ガラス体の表面に1mmから10mm程度の、石英ガラス透明層を形成する方法が、述べられている。但し、この方法では、種々の形状の石英ガラスジグに対応することが困難であるとともに、要求される遮光性と赤外域の放射率を満たす黒色度を保持しながら、透明層の厚さを適宜調整することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3156733号
【特許文献2】特開2000−281430号公報
【特許文献3】特開2009−91221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、要求される種々の形状に対応して、必要な光遮蔽性と赤外域の放射率を満たす黒色部分を持ち、合成石英ガラスと同等の金属不純物の純度を保持し、天然石英ガラス並の高温粘度特性を有し、溶接などの高温加工が可能で、表面から炭素が放出しない透明層と、黒色石英中、及び、透明層と黒色石英ガラスの界面に泡や異物がない、透明層付き黒色合成石英ガラス及びその製造方法を容易に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下のような透明層付き黒色合成石英ガラス体及びその製造方法を開発した。
即ち、本発明の透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法の第一の態様は、黒色石英ガラス部分と透明層石英ガラス部分を含む透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法であって、水酸基を含むシリカ多孔質ガラス体を、揮発性有機珪素化合物雰囲気中、100℃以上1200℃以下の温度で気相反応させ、その反応後、1200℃以上2000℃以下の温度にて焼成する黒色石英ガラス部分を作成する黒色石英ガラス作成工程と、前記黒色石英ガラス部分に、透明層材料を塗布し、加熱処理する透明層作成工程と、を含み、前記透明層作成工程が、シリカスラリーを前記黒色石英ガラスに塗布し、酸化雰囲気中にて300℃〜1200℃の温度域で加熱処理し、その後、1300℃〜2000℃の温度範囲において、0.001〜1.0MPaの圧力範囲に保持し焼結する工程を含み、前記シリカスラリーが、粒径0.1μm〜100μmのシリカ粒子を用い、シリカ濃度が50〜95%、セルロース誘導体濃度が0.05〜10%であることを特徴とする。
【0010】
前記セルロース誘導体が、メチルセルロースであることが好適である。
【0011】
本発明の透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法の第二の態様は、黒色石英ガラス部分と透明層石英ガラス部分を含む透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法であって、水酸基を含むシリカ多孔質ガラス体を、揮発性有機珪素化合物雰囲気中、100℃以上1200℃以下の温度で気相反応させ、その反応後、1200℃以上2000℃以下の温度にて焼成し、黒色石英ガラス部分を作成する黒色石英ガラス作成工程と、前記黒色石英ガラス部分に、透明層材料を塗布し、加熱処理する透明層作成工程と、を含み、前記透明層作成工程が、シリカスラリーを、前記黒色石英ガラスに塗布し、酸化雰囲気中にて300℃〜1200℃の温度域で加熱処理し、その後、800℃以上1500℃以下の温度範囲において、0.001〜1.0MPaの圧力範囲に保持し焼結する工程を含み、前記シリカスラリーが、粒径1nm〜100nmのシリカ粒子を用い、シリカ濃度が1〜50%、有機系バインダーの濃度が0.05〜10%、であることを特徴とする。
【0012】
前記有機系バインダーが、ポリビニルアルコールまたはメチルセルロースであることが好ましい。
【0013】
本発明の透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法の第一及び第二の態様において、前記揮発性有機珪素化合物が、オルガノシラザンであることが好ましく、該オルガノシラザンが、ヘキサメチルジシラザンであるがより好ましい。
【0014】
本発明の透明層付き黒色合成石英ガラスは、前述した本発明の製造方法により製造される黒色石英ガラス部分と透明層石英ガラス部分からなる透明層付き黒色合成石英ガラスであって、前記黒色石英ガラス部分は、200〜10000nmの光透過率が厚さ1mmで50%以下、金属不純物濃度の総和が1ppm以下、含有される炭素の濃度が30ppmを超え50000ppm以下、1280℃での粘度が1011.7ポアズ以上である黒色合成石英ガラスからなり、前記透明石英ガラス部分は、金属不純物濃度の総和が70ppm以下、含有される炭素の濃度が30ppm以下、の特性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光遮蔽性に優れ、合成石英ガラスと同等の金属不純物の純度を保持し、天然石英ガラス並の高温粘度特性を有し、溶接などの高温加工が可能で、表面から炭素が放出せず、透明層および黒色石英ガラス部分と、透明層と黒色石英ガラスの界面に泡がなく、製品化後に割れなどが発生しない、透明層付き黒色合成石英ガラスを得ることができる。本発明の透明層付き黒色合成石英ガラスは、分光セル等の光学部品、半導体製造装置用の遮光部材、赤外線熱吸収部材、耐プラズマエッチング性部材などの黒色石英ガラス製品等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1において得られた透明層付き黒色合成石英ガラス体の堆積層断面状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これらは例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0018】
本発明の透明層付き黒色合成石英ガラスは、以下の方法により製造することができる。
本発明の透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法は、黒色石英ガラス部分を作成する黒色石英ガラス作成工程と、前記黒色石英ガラス部分に、透明層材料を塗布し、加熱処理する透明層作成工程と、を含むものである。
【0019】
まず、前記黒色石英ガラス作成工程を説明する。水酸基を含むシリカ多孔質ガラス体を、揮発性有機珪素化合物雰囲気中、100℃以上1200℃以下の温度で気相反応させ、その反応後、1200℃以上2000℃以下の温度にて焼成する。気相反応後のシリカ多孔質ガラス体中には、揮発性有機珪素化合物が残留しているので、焼結によって、熱分解した炭素が大量に残留し、黒色石英ガラス部分が形成される。
得られた黒色石英ガラス部分は、炭素がガラス体中に30ppmを超えて50000ppm以下の範囲で残留し、遠赤外域の放射率が0.8以上、200〜10000nmの光透過率が厚さ1mmで50%以下、金属不純物濃度の総和が1ppm以下、1280℃での粘度が1011.7ポアズ以上の特性を有している。
【0020】
前記水酸基を含むシリカ多孔質ガラス体としては、特に限定されないが、ガラス形成原料を酸水素火炎で加水分解反応させて得られる石英ガラス微粒子(スート)を堆積させて作製した合成石英ガラス多孔質体が好ましい。ガラス形成原料としては珪素化合物が好適であり、珪素化合物としては、例えば、四塩化珪素、トリクロルシラン及びジクロルシラン等のハロゲン化珪素、モノシラン、メチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。その他、ゾルゲル法で作製した多孔質体でもよい。シリカ多孔質ガラス体中の水酸基の濃度は100ppm〜3000ppmが好ましい。
【0021】
前記揮発性有機珪素化合物(反応ガス)としては特に制限はないが、窒素を含む珪素化合物を用いることが好ましく、特に、Si−N結合を有する有機珪素化合物、即ちオルガノシラザンは、水酸基との反応性がよく、水酸基を除去し易く好適である。さらに、前記オルガノシラザンがヘキサメチルジシラザンであると、微量窒素を含有できて、ガラス体の粘度の上昇度が高い為、特に好適である。
【0022】
本発明で用いられる揮発性有機珪素化合物としては、具体的には、酢酸珪素、ハロゲン化シラン(例えば、メチルトリクロロシランまたはテトラクロロシラン等)、オルガノアセトキシシラン(例えば、アセトキシトリメチルシラン等)、オルガノシラン(例えば、メチルシラン、テトラメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ジメチルシラン、テトラエチルシラン、トリエチルシラン、テトラフェニルシラン等)、オルガノポリシラン(例えば、ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン等)、オルガノシラノール(例えば、トリメチルシラノール、ジエチルシランジオール等)、トリメチル(トリフルオロメタンスルホニルオキシ)シラン、トリメチル(メチルチオ)シラン、アジドトリメチルシラン、シアノトリメチルシラン、(エトキシカルボニルメチル)トリメチルシラン、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、オルガノシロキサン(例えば、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、ヘキサフェニルシクロトリシロキサン、オクタメチルスピロ[5.5]ペンタシロキサン等)、オルガノシラザン(例えば、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、ヘキサフェニルシラザン、トリエチルシラザン、トリプロピルシラザン、トリフェニルシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、ヘキサエチルシクロトリシラザン、オクタエチルシクロテトラシラザン、ヘキサフェニルシクロトリシラザン等)、アルコキシシラン(例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メトキシトリメチルシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリメチルフェノキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカトリフルオロデシルトリメトキシシラン等)、オルガノシランカルボン酸(例えば、トリメチルシリルプロピオン酸等)、オルガノシランチオール(例えば、トリメチルシランチオール等)、オルガノシリコンイソシアナート(例えば、トリメチルシリコンイソシアナート、トリフェニルシリコンイソシアナート等)、オルガノシリコンイソチオシアネート(例えば、トリメチルシリコンイソチオシアナート、フェニルシリコントリイソチオシアナート等)、オルガノシルチアン(例えば、ヘキサメチルジシルチアン、テトラメチルシクロジシルチアン等)、オルガノシルメチレン(例えば、ヘキサメチルジシルメチレン、オクタメチルトリシルメチレン等)などが挙げられる。
【0023】
前記気相反応は、反応温度が100℃未満では反応が起こらず、1200℃を超える場合は、シリカ多孔質ガラス体が緻密化を起こして、ガスがシリカ多孔質体中へ拡散しないため、100℃以上1200℃以下、好ましくは、400℃以上900℃以下の反応温度で行う。反応時間は特に制限はないが、1時間〜300時間が好ましく、10時間〜100時間がより好ましい。
【0024】
また、焼結温度が2000℃を超えると、ガラス体が軟化しすぎて、構造を保持できないため、加熱焼成時の温度範囲は、1200℃以上2000℃以下、好ましくは、1300℃以上1800℃以下、が好適である。加熱焼成時間は特に制限はないが、1時間〜30時間が好ましく、5時間〜20時間がより好ましい。
加熱焼成時の雰囲気は特に限定されず、例えば、真空、不活性ガス、が挙げられるが、不活性ガスが好ましく、He、窒素、Ar又はこれらの混合ガス等がより好ましい。
【0025】
また、上記シリカ多孔質ガラス体に反応ガスを供給するに先立ち、シリカ多孔質ガラス体を減圧雰囲気で100℃以上1200℃以下の温度範囲、好ましくは反応温度近傍で一定時間予熱することが好ましい。その後、多孔質ガラス体を反応ガスと反応させた後、焼成することが好適である。
【0026】
また、本発明方法によれば、Li、Na、K、Mg、Ti、Fe、Cu、Ni、Cr及びAl等の金属不純物の総含有量が1ppm以下(0を含む)である高純度な黒色合成石英ガラス部分が得られる。
【0027】
以下に、本発明の透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法において、反応ガスとして使用するガスとして、ヘキサメチルジシラザン:[(CHSi]NHを用いた態様を例に詳細に説明する。まず、公知の方法でテトラクロロシランを加水分解してシリカ微粒子を層状に堆積させて多孔質体を作る。この多孔質体を電気炉内に設けられた石英ガラス製の炉心管内にセットし、所定の温度まで昇温する。このとき多孔質体を反応温度近傍で一定時間保持することにより多孔質体に吸着している水分を除くことが好ましい。
【0028】
次にヘキサメチルジシラザン蒸気を窒素ガスで希釈しながら流し、多孔質体と結合している水酸基とヘキサメチルジシラザンとを反応させる。このとき下記式(1)のような反応が起こると考えられる。
Si−OH + [(CHSi]NH →
Si−N−[(CHSi] + HO ・・・(1)
【0029】
反応温度が、100〜1200℃の温度で反応終了後、多孔質体を加熱炉に設置して、真空引きを開始し、10mmHgを超える真空度、好ましくは5mmHg以上の真空度、より好ましくは1mmHg以上の真空度に達した後、或いは、Nガス雰囲気に置換した後、加熱を開始して、1200〜2000℃の温度で緻密化する。加熱温度が約800℃を超えると、多孔質体中に残留したシラザンガスが分解して、遊離炭素を多量に生成し、その後の加熱においてもガラス体中に残留して、得られた石英ガラスは黒色に着色する。多孔質体中に残留したSi−N−[(CHSi]は、Si−N又はSi−Cを一部形成し、粘度の向上に寄与する。
【0030】
次に、前記透明層作成工程について説明する。
前記透明層作成工程の第一の態様は、前記透明層作成工程が、シリカスラリーを前記黒色石英ガラスに塗布し、酸化雰囲気中にて300℃〜1200℃の温度域で加熱処理し、その後、1300℃〜2000℃の温度範囲において、0.001〜1.0MPaの圧力範囲に保持し焼結する工程を含むものである。
【0031】
前記透明層作成工程の第一の態様において、前記シリカスラリーは、粒径0.1μm〜100μm、好ましくは、0.5μm〜50μmのシリカ粒子を、シリカ濃度50〜95%、好ましくは、60〜80%、セルロース誘導体濃度が0.05〜10%、好ましくは、0.1〜5%、で調合したシリカスラリーである。前記セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等が挙げられ、メチルセルロースが好ましい。
シリカスラリーを塗布する方法は特に制限はなく、スラリーに前記黒色石英ガラス体を漬けてもよいし、スラリーを塗ってもよい。スピンコートで均一厚さに塗布することも可能である。塗布後、常温〜300℃の範囲で乾燥させる。
【0032】
前記酸化雰囲気中での加熱処理は、例えば、酸素雰囲気、大気雰囲気などで、300℃〜1200℃、好ましくは、500℃〜1000℃の温度域で加熱処理し、炭素などの有機物分を分解除去するものである。加熱処理時間は特に制限はないが、0.5時間〜100時間が好ましく、2時間〜40時間がより好ましい。
半導体製造工程に使用される場合は、高純度である必要があるので、この後、純化工程を導入する。即ち、塩素を含む雰囲気中、好ましくは、HClガス中で、800℃〜1400℃、好ましくは、1100℃〜1300℃の温度範囲で、加熱処理する。
【0033】
前記焼結処理は、1300℃〜2000℃、好ましくは、1500℃〜1800℃の温度範囲において、塗布層を焼結するものである。焼結時の圧力は、0.001〜1.0MPa、好ましくは、0.01〜0.5MPaの圧力範囲に保持することによって、塗布層内、或いは、塗布層と黒色石英ガラス界面での泡の発生を防止できる。焼結時間は特に制限はないが、0.2時間〜20時間が好ましく、1時間〜10時間がより好ましい。
【0034】
焼結後の透明石英ガラス部分は、含有される金属不純物の総和が、70ppm以下(0を含む)、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下に含有される。70ppmを超える金属不純物の含有量であると、表面から放出される金属不純物が増大し、特に、半導体製造工程に使用される石英ガラス材料としては不適となり、製造された半導体素子の電気的異常の原因となる。30ppm以下では、問題は無い。
一方、炭素の濃度は、30ppm以下となり、好ましくは、20ppm以下、さらに好ましくは、10ppm以下となる。炭素も金属不純物と同様に、半導体製造工程において、製造された半導体素子の電気的異常の原因として考えられていて、30ppmを超える場合、半導体製造工程に使用される石英ガラス材料としては不適となり、10pm以下では、問題は無い。
【0035】
前記透明層作成工程の第二の態様は、前記透明層作成工程が、シリカスラリーを、前記黒色石英ガラスに塗布し、酸化雰囲気中にて300℃〜1200℃の温度域で加熱処理し、その後、800℃以上1500℃以下の温度範囲において、0.001〜1.0MPaの圧力範囲に保持し焼結する工程を含むものである。
【0036】
前記透明層作成工程の第二の態様において、前記シリカスラリーは、粒径1nm〜100nm、好ましくは2nm〜50nmのシリカ粒子を用い、シリカ濃度は、1〜50%、好ましくは10〜30%、有機系バインダーの濃度が、0.05〜10%、好ましくは0.1〜5%、で調合したシリカスラリーである。前記有機バインダーとしては、例えば、セルロース系(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルアルコール)、寒天、ビニル系(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン)、デンプン系(ジアルデヒドデンプン、デキストリン、ポリ乳酸)、アクリル系(ポリアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸メチル)、植物性粘性物質などが挙げられ、ポリビニルアルコール又はメチルセルロースが好適である。
【0037】
前記透明層作成工程の第二の態様において、前記シリカスラリーの塗布方法及び酸化雰囲気中での加熱処理は、前記透明層作成工程の第一の態様と同様に行うことができる。
前記焼結処理における温度範囲は、800℃〜1500℃、好ましくは、900℃〜1200℃がよい。シリカ粒子の粒径が小さくなることで、粒子表面の反応活性度が増大し、より低温で、粒子表面のSi−O、Si・、Si−Hx、Si−CHx、が反応して、Si−O−Siとなって、透明ガラス化する。焼結時の圧力及び焼結時間は前記透明層作成工程の第一の態様と同様に行えばよい。
【0038】
前記透明層作成工程の第二の態様により得られる透明石英ガラス部分の金属不純物濃度の総和と、含有される炭素の濃度は、前記透明層作成工程の第一の態様により得られる透明石英ガラス部分と同様である。
【0039】
本発明によれば、気相反応により炭素原子を、緻密且つ均一に分布させたことにより、合成石英並みの純度を保ちながら、天然石英並みの高温耐熱性を持ち、遠赤外域の放射率及び光遮蔽性が高均一に保持される材料であるとともに、さらに、その表面には、高純度で泡、異物がなく、ガスの放出もない、透明合成石英ガラス層が形成されるので、高温度領域で使用しても、変形がなく、表面に失透などの異常が生じず、半導体製造工程などの高純度プロセスでの適用も可能な、石英材料を得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0041】
(実施例1)
下記方法により、シリカスラリーを調合した。
80℃以上の水43gをビーカーに入れ、エマルション系バインダー(バインドセラムWA320、三井化学(株)製)を2g、分散剤(セルナD305、日油(株)製)を0.1g、メチルセルロース(メトローズSM−1500、信越化学工業(株)製)を0.1g、シリカ粉(アドマファインSO−E5、(株)アドマテックス製、粒径分布0.5〜4.0μm、平均粒径1.6μm、金属不純物合計濃度50ppm)を100g加え撹拌し、続いてビーカーを5℃程度の冷水で冷却後、メトローズがおよそ3〜5分で溶解し粘度が高くなった。その後、樹脂容器に移しナイロン被覆の鉄球を入れ、回転架台で48時間、エージング(凝集防止、粘性低下と泡抜き処理)を行った後、シリカ濃度60%、メチルセルロース8%、バインダー0.5%、水分31.5%含有のシリカスラリーを得た。
【0042】
テトラクロロシランの火炎加水分解によって、石英ガラス層を何重にも堆積させて得た、直径100mmの柱状をした石英ガラスの多孔質体(水酸基濃度1000ppm)約1kgを、電気炉内に装着された石英ガラス製の炉心管(直径200mm)内にセットした。次いで、炉心管内を排気した後、500℃に加熱し、この温度で60分間予熱した。
その後、反応温度まで昇温し、反応ガスとしてヘキサメチルジシラザンガス蒸気をNガスで希釈しながら供給し、多孔質体中の水酸基と反応させた。加熱は、400℃の反応温度にて、10時間の反応時間の間その温度にて保持して行った。なお、Nガスの流量は1mol/Hrである。
反応終了後、処理された多孔質体を、加熱炉内に移し、その後、圧力0.001MPa、Nガス中、温度1500℃で1時間焼成して、黒色合成石英ガラス体を得た。
【0043】
得られた黒色合成石英ガラス体から、20×5×50mmの板を切り出し、切り出した面状態のまま、エチルアルコールで脱脂し、純水で洗浄後、前記調合した石英ガラススラリーに1分浸した後、引き上げると、板表面にスラリー層が均一に形成された。
前記スラリー層が形成された板を、内径200φの石英ガラス管の中において、大気雰囲気で、70℃で10時間保持し、スラリー層から水分を除去し、さらに、10℃/分で昇温し、酸素を2L/分掛け流しながら、600℃で1時間保持し、有機物を除去し、さらに、昇温して、HClを1L/分掛け流しながら、1200℃で3時間保持して、金属不純物を除去した。
【0044】
前記得られたスラリー層付き黒色石英板を、真空中に置き、昇温速度は15℃/分で、1000℃まで真空引きし、その後窒素を導入して、雰囲気圧力を、0.1MPaとして、1600℃まで加熱し、2時間保持し、加熱を終えた。
得られた、黒色石英板の表面部分には、厚さ0.1mmの透明石英ガラス層が形成されていた。
【0045】
前記得られた透明層付き黒色合成石英ガラス体をカットして堆積層断面方向から観察した。図1は該断面方面から観察した実施例1の透明層付き黒色合成石英ガラス体の写真である。図1に示した如く、ガラス体の表面より深さ0.1mmまでに透明層が形成され、その内側には黒色石英ガラス部分が形成された。透明石英ガラス層及び黒色石英ガラス中と、その界面には、泡が確認されなかった。
【0046】
得られた透明層付き黒色合成石英ガラスについて、下記測定を行った。結果を表2に示す。
黒色部分の厚さ1mmにおける波長200〜10000nmの光の透過率を測定した。また、黒色部と透明部の各々について、Li、Na、K、Mg、Ti、Fe、Cu、Ni、Cr及びAlの含有量を、ICP質量分析法によって測定し、該金属の総含有量を表2に示した。OH基の含有量は、FTIRにて赤外域の固有吸収量を測定して算出した。得られた透明層付き黒色合成石英ガラスの透明層部分と黒色石英部分の炭素(C)を、燃焼−赤外線吸収法で測定した。さらに、各々の、1280℃に加熱してビームベンディング法によりその温度における粘度(単位:ポアズ)、目視による石英ガラスの色判別、泡・異物の有無を確認した。
また、得られた透明層付き黒色石英ガラスサンプルの昇温脱離ガス分析を行った。得られたCOガスの量を示すイオン電流値を表2に示す。
【0047】
(実施例2〜5)
表1に示した如く条件を変更し、実施例1と同様の処理条件にて透明層付き黒色合成石英ガラス体を得た。実施例1と同様に測定した各測定結果を表2に示す。
【0048】
(比較例1〜4)
表1に示した如く条件を変更した以外は、実施例1と同様の処理条件にて透明層付き黒色合成石英ガラス体を得た。実施例1と同様に測定した各測定結果を表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表2に示した如く、実施例1〜5で得られた透明層付き黒色合成石英ガラスは、光遮蔽性に優れ、合成石英ガラスと同等の金属不純物の純度を保持し、天然水晶を原料とする天然石英ガラス並の高温粘度特性を有し、さらに、表面に炭素を含有しない透明合成石英ガラス層を有するため、表面より炭素の放出がない素材である。また、透明石英ガラス層と黒色石英ガラス体は形成されてから完全に一体化するので、界面に、泡や失透部分の発生がなく、石英ガラスが通常用いられる温度域では、透明層の剥がれや、クラックの発生も起こらなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色石英ガラス部分と透明層石英ガラス部分を含む透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法であって、
水酸基を含むシリカ多孔質ガラス体を、揮発性有機珪素化合物雰囲気中、100℃以上1200℃以下の温度で気相反応させ、その反応後、1200℃以上2000℃以下の温度にて焼成し、黒色石英ガラス部分を作成する黒色石英ガラス作成工程と、
前記黒色石英ガラス部分に、透明層材料を塗布し、加熱処理する透明層作成工程と、
を含み、
前記透明層作成工程が、シリカスラリーを前記黒色石英ガラスに塗布し、酸化雰囲気中にて300℃〜1200℃の温度域で加熱処理し、その後、1300℃〜2000℃の温度範囲において、0.001〜1.0MPaの圧力範囲に保持し焼結する工程を含み、
前記シリカスラリーが、粒径0.1μm〜100μmのシリカ粒子を用い、シリカ濃度が50〜95%、セルロース誘導体濃度が0.05〜10%であることを特徴とする透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記セルロース誘導体が、メチルセルロースであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
黒色石英ガラス部分と透明層石英ガラス部分を含む透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法であって、
水酸基を含むシリカ多孔質ガラス体を、揮発性有機珪素化合物雰囲気中、100℃以上1200℃以下の温度で気相反応させ、その反応後、1200℃以上2000℃以下の温度にて焼成し、黒色石英ガラス部分を作成する黒色石英ガラス作成工程と、
前記黒色石英ガラス部分に、透明層材料を塗布し、加熱処理する透明層作成工程と、
を含み、
前記透明層作成工程が、シリカスラリーを、前記黒色石英ガラスに塗布し、酸化雰囲気中にて300℃〜1200℃の温度域で加熱処理し、その後、800℃以上1500℃以下の温度範囲において、0.001〜1.0MPaの圧力範囲に保持し焼結する工程を含み、
前記シリカスラリーが、粒径1nm〜100nmのシリカ粒子を用い、シリカ濃度が1〜50%、有機系バインダーの濃度が0.05〜10%、であることを特徴とする透明層付き黒色合成石英ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記有機系バインダーが、ポリビニルアルコールまたはメチルセルロースであることを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記揮発性有機珪素化合物が、オルガノシラザンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
前記オルガノシラザンが、ヘキサメチルジシラザンであることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法により製造される黒色石英ガラス部分と透明層石英ガラス部分からなる透明層付き黒色合成石英ガラスであって、
前記黒色石英ガラス部分は、200〜10000nmの光透過率が厚さ1mmで50%以下、金属不純物濃度の総和が1ppm以下、含有される炭素の濃度が30ppmを超え50000ppm以下、1280℃での粘度が1011.7ポアズ以上である黒色合成石英ガラスからなり、
前記透明石英ガラス部分は、金属不純物濃度の総和が70ppm以下、含有される炭素の濃度が30ppm以下、の特性を有することを特徴とする、透明層付き黒色合成石英ガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2013−1628(P2013−1628A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137472(P2011−137472)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】