説明

透明成形体

【課題】少なくとも一方の面に周期が可視光の波長以下である微細凹凸構造を有する透明成形体において、指紋拭き取り性に優れるとともに、耐擦傷性にも優れた透明成形体を提供できる。
【解決手段】少なくとも一方の面に周期が可視光の波長以下である微細凹凸構造を有する透明成形体であって、この微細凹凸構造の表面に動摩擦係数が0.2以下のシランカップリング剤の加水分解縮合体からなる被覆層を有する反射防止物品等に適した透明成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面に微細な凹凸構造を有する透明成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光の波長以下の周期の微細なモスアイ構造と呼ばれる凹凸構造を材料表面に設けると、材料と空気の界面で屈折率が空気の屈折率から材料の屈折率に連続的に増大していくため有効な反射防止の手段となることが知られている。
【0003】
また、微細凹凸構造が外部に露出して人や物が直接触れることで指紋などの汚れがつくまたは汚れが除去できないことが懸念されているが、これについてもモスアイ構造上にフッ素系のシランカップリング剤から成る層を形成して撥油性材料とすることで解決しようと試みられている(例えば、特許文献1)。また、類似の構造としてモスアイ構造の表面に低表面エネルギー材料を成膜した超撥水材料なども知られている(例えば、特許文献2、3)。
【特許文献1】特開2000−71290号公報
【特許文献2】特開2003−172808号公報
【特許文献3】特開2007−187868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば特許文献1では、CF3(CF27CH2CH2−SiCl3、CF3(CF27CH2CH2−SiCH3Cl2、CF3(CF2)CH2CH2−Si−(OCH33等の各種フルオロアルキルシラン、フルオロアルコキシシランの層を形成することが具体例として挙げられているが、実施例ではオレイン酸の接触角が高く撥油性が高いことが述べられているだけである。特許文献1に例示されたようなシランカップリング剤層では指紋付着量は低減するものの、付着した指紋を拭き取ることは難しい。
【0005】
また、特許文献2や3では表面に低表面エネルギー材料となる樹脂が積層されているだけであるため密着性に乏しく耐久性に欠けるという問題点があった。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、微細凹凸構造があっても指紋拭き取り性に優れ、また同時に耐擦傷性も向上した透明成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、周期が可視光の波長以下である微細凹凸構造の表面に、特定の動摩擦係数を有する被覆層を形成することで、微細凹凸構造があっても指紋拭き取り性に優れ、また同時に耐擦傷性も向上する透明成形体になることを見出した。すなわち、本発明の透明成形体は、少なくとも一方の面に周期が可視光の波長以下である微細凹凸構造を有し、該微細凹凸構造の表面に動摩擦係数が0.2以下のシランカップリング剤の加水分解縮合体からなる被覆層を有するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、少なくとも一方の面に周期が可視光の波長以下である微細凹凸構造を有する透明成形体において、特定の動摩擦係数を有する被覆層を微細凹凸構造の表面に形成することによって、指紋拭き取り性に優れるとともに、耐擦傷性にも優れた透明成形体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。また、活性エネルギー線は、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等を意味する。
【0009】
本発明の透明成形体は、図1に示すように、少なくとも一方の面に周期が可視光の波長以下である微細凹凸構造を有し、微細凹凸構造の表面に被覆層が形成されている。被覆層は、動摩擦係数が0.2以下のシランカップリング剤の加水分解縮合体から構成される。ここで、被覆層の動摩擦係数とは、平滑面上に被覆膜を成膜した状態で測定した動摩擦係数をいう。
【0010】
<微細凹凸構造>
本発明の微細凹凸構造とは、可視光の波長以下の周期を有する。この「可視光の波長以下」とは400nm以下を指す。400nmより大きいと可視光の散乱がおこるため反射防止膜などの光学用途の使用には適さない。微細凹凸構造の高さ(深さ)は50nm以上、更には100nm以上であることが好ましい。50nm以上で反射率が低下する。また、アスペクト比(=高さ/周期)は0.5以上が好ましく、1以上が更に好ましく、1.4以上が最も好ましい。0.5以上で転写品の反射率が低く、入射角依存性も小さくなるため、高いほうが好ましい。微細凹凸構造の形状は特に限定されないが、例えば空気から材料表面まで連続的に屈折率を増大させて低反射率と低波長依存性を両立させた反射防止機能を得るためには、円錐状、角錐状、釣鐘状、など膜面で切断した時の断面積の占有率が連続的に増大するような構造が好ましい。また、より微細な突起が合一して上記の微細凹凸構造を形成していてもよい。
【0011】
本発明の微細凹凸構造を形成する材料は平滑面で弾性率0.6GPa以上5.0GPa以下であることが好ましく、1.3GPa以上4.5GPa以下が更に好ましく、2.0GPa以上4.0GPa以下が最も好ましい。0.6GPa以上5.0GPa以下で低荷重の擦傷試験や擦傷回数の少ない擦傷試験で耐擦傷性が得られるため、本発明の動摩擦係数が0.2以下のシランカップリング剤の加水分解縮合体が形成することで更に耐擦傷性が向上する。平滑面の弾性率は例えばフィッシャー・インストルメンツ製の超微小硬さ計等で測定することができる。
【0012】
<活性エネルギー線硬化性樹脂組成物>
本発明の微細凹凸構造を形成する材料としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラス、ゾルゲル性無機材料、活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物など特に限定されないが、生産性、材料設計自由度の点から活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物から成るのが好ましい。
【0013】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、重合性化合物および重合開始剤を含む。重合性化合物としては、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマー等が挙げられる。活性エネルギー線硬化性組成物は、非反応性のポリマー、活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物を含んでいてもよい。
【0014】
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、単官能モノマー、多官能モノマーが挙げられる。単官能モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート誘導体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
多官能モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,4−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等の二官能性モノマー;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート等の三官能モノマー;コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸の縮合反応混合物、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等の四官能以上のモノマー;二官能以上のウレタンアクリレート、二官能以上のポリエステルアクリレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基等を有するモノマーが挙げられ、エポキシ基を有するモノマーが特に好ましい。
オリゴマーまたは反応性ポリマーとしては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールとの縮合物等の不飽和ポリエステル類;ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物、側鎖にラジカル重合性結合を有する上述のモノマーの単独または共重合ポリマー等が挙げられる。
【0017】
非反応性のポリマーとしては、アクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物としては、例えば、アルコキシシラン化合物、アルキルシリケート化合物等が挙げられる。
【0018】
アルコキシシラン化合物としては、下記一般式(1)の化合物が挙げられる。
【化1】

【0019】
(式中、R、R’は、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基を表し、x、yは、x+y=4の関係を満たす整数を表す。)
アルコキシシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン等が挙げられる。
【0020】
アルキルシリケート化合物としては、下記一般式(2)の化合物が挙げられる。
【化2】

【0021】
(式中、R〜Rは、それぞれ炭素数1〜5のアルキル基を表し、zは、3〜20の整数を表す。)
アルキルシリケート化合物としては、メチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、n−ペンチルシリケート、アセチルシリケート等が挙げられる。
【0022】
光硬化反応を利用する場合、光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
電子線硬化反応を利用する場合、重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド;メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
熱硬化反応を利用する場合、熱重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物;前記有機過酸化物にN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等のアミンを組み合わせたレドックス重合開始剤等が挙げられる。
【0025】
重合開始剤の量は、重合性化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。重合開始剤の量が0.1質量部未満では、重合が進行しにくい。重合開始剤の量が10質量部を超えると、硬化膜が着色したり、機械強度が低下したりすることがある。
【0026】
活性エネルギー線硬化性組成物は、必要に応じて、透明性を損なわず着色しない範囲で帯電防止剤、離型剤等の添加剤;微粒子、少量の溶剤を含んでいてもよい。
【0027】
<シランカップリング剤>
本発明のシランカップリング剤の加水分解縮合体からなる被覆層に用いるシランカップリング剤は動摩擦係数が0.2以下であることが好ましく、0.18以下が更に好ましく、0.15以下が最も好ましい。0.2以下で指紋拭き取り性と耐擦傷性が発現するため低いほど好ましい。例えばパーフルオロポリエーテルシランCFCFCF(OCFCFCF0CFCFCHCH−Si(OR)(Rはメチル、エチルなどの炭素数4以下のアルキル基)が好ましい。nは1〜50までの整数で、3〜40が更に好ましく、10〜40が最も好ましい。1より小さいと指紋拭き取り性や耐擦傷性が低くなったり、50より大きいと高密度に微細凹凸構造表面と結合することが出来ずに指紋拭き取り性や耐擦傷性が低くなったりすることがある。また、市販で購入できるものとしては、ダイキン社製オプツールDSX、HD1100、HD2100、ハーベス社製デュラサーフDS5100、HD4100、フロロテクノロジー社製FG−5010などが挙げられる。
【0028】
シランカップリング剤の加水分解縮合体からなる被覆層の厚さは微細凹凸構造が維持されるよう0.01〜20nmが好ましく、0.1〜10nmが更に好ましく、0.1〜5nmが最も好ましい。0.01nm未満では均一に被覆されにくい。また、20nm以上では元の微細凹凸構造が維持されず本来の反射防止性能などに影響を及ぼすことがある。
【0029】
<透明基材>
微細凹凸構造は透明基材上に形成されていても良い。透明基材としては、例えば、ポリカーボネート、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、アクリル系樹脂、ガラス等が挙げられる。透明基材の形状としては、フィルム、シート、射出成形品、プレス成形品等の溶融成形品等が挙げられる。
【0030】
<製造方法>
本発明の透明成形体の製造方法は、微細凹凸構造を有する透明成形体上に上述のシランカップリング剤を成膜できれば特に限定されない。シランカップリング剤の加水分解縮合体からなる被覆層と微細凹凸構造との密着性を高くするために微細凹凸構造を形成する材料に水酸基やカルボン酸基を有するものを用いたり、微細凹凸構造をコロナ処理したりプラズマ処理して表面に水酸基やカルボン酸基を形成しても良い。または二酸化珪素等の透明な薄膜をスパッタリングや真空蒸着その等の方法により積層する方法も挙げられる。
【0031】
シランカップリング剤を塗布する方法としては、特に限定されないがマイクログラビヤコート、マイヤーバーコート、スピンコート、スプレーコート、ディップコート等の方法が好ましい。
【0032】
シランカップリング剤の濃度としては0.01〜1.0質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%が更に好ましく、0.05〜0.3質量%が最も好ましい。0.01質量%未満では均一に被覆されにくく、また、0.5質量%以上では形成される膜が厚くなりすぎて微細凹凸構造が維持されず反射防止性能など本来の性能が低下することがある。
【0033】
微細凹凸構造の製造方法としては、特に限定されないが、可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を有する鋳型を用いて熱可塑性樹脂に熱インプリントする方法や可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を有する鋳型を用いて透明基材上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物の微細凹凸構造を形成する方法などが挙げられる。可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を有する鋳型として、電子ビームリソグラフィー法やレーザー光干渉法などが挙げられるが、鋳型の大面積化やロール形状の鋳型を簡便に作製できるという点から陽極酸化ポーラスアルミナを鋳型として用いるのが好ましい。また、電子ビームリソグラフィー法やレーザー光干渉法などで作製した鋳型は規則性が高すぎて得られる反射防止物品の凹凸構造も規則性が高く青や紫などの干渉色が見られるが陽極酸化ポーラスアルミナは他の光学性能に悪影響を与えない程度に規則性が低いため干渉色が無いという利点もある。
【0034】
<透明成形体>
本発明の透明成形体は水の接触角が120°以上であることが好ましく130°以上であることが更に好ましく、150°以上であることが最も好ましい。120°以上であれば反射防止膜以外に超撥水材料として自動車用窓などの自動車外装材、鉄道車両用窓、ヘルメット等の用途に用いることができ、着氷防止材料としてヘッドランプカバーなどの自動車外装材等の用途に用いることができる。
【0035】
<反射防止物品>
(反射率)
前記微細凹凸構造は透明基材の一方の面のみに形成されていてもよく、両面に形成されていても良い。一方の面にのみ微細凹凸構造が形成された時の反射率の評価では、もう一方の面は反射率の値に影響を与えずに光を吸収できるようにサンドペーパーで粗面化した後、艶消しブラックコートを施して相対反射率測定を行なう。波長380〜780nmの反射率は0.3%以下が好ましく、0.25%以下が更に好ましい。0.3%以上では映り込みが十分低減できない。
【0036】
本発明の反射防止物品の反射率の波長380〜780nmの波長依存性は最大反射率と最小反射率の差が0.3以下が好ましく、0.2以下が更に好ましく、0.15以下が最も好ましい。0.3を超えると特定波長の反射が相対的に大きくなるため僅かにのこる反射光が強く色づいて見える。
【0037】
(用途)
本発明の方法で製造された微細凹凸構造を有する反射防止物品は、反射防止フィルム、反射防止膜、例えば液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、陰極管表示装置のような画像表示装置、1/2波長板、ローパスフィルター、水晶デバイスレンズ、ショーウィンドー、メーターパネル、眼鏡等の表面で使用される反射防止膜、反射防止フィルムや反射防止シート等が挙げられる。画像表示装置に用いる場合は、最表面上にフィルムを貼り付けたり直接最表面を形成する材料上に形成しても良く、また、前面板にフィルム貼りつけたり、基板に直接形成しても良い。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を示す。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中における物性は、以下の方法に従って評価した。
【0039】
(1)細孔形状、樹脂微細凹凸形状
鋳型は断面にプラチナを1分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−7400F)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて、断面を観察し、細孔の周期、細孔の深さを測定した。樹脂は破断面にプラチナを5分間蒸着し、同様に観察して周期、凸部高さを測定した。
【0040】
(2)反射率測定
裏面反射の影響をなくすためサンドペーパーで粗面化した透明基材の裏面をつや消し黒色に塗った成形体について、分光光度計(日立製作所社製、U−4000)を用い、入射角5°、波長380〜780nmの範囲で相対反射率を測定した。視感度反射率はJIS R3106に準拠して算出した。
【0041】
(3)接触角
接触角測定装置(Kruss社製、「DSA10−Mk2」を用いて11.6μlの水をサンプル表面に滴下した後、10秒後の接触角を1秒間隔で10点測定し、それらの平均値を算出した。同一の操作を、水を滴下する位置を変えて3回行い、それらの平均値を産出することにより水接触角を決定した。
【0042】
(4)動摩擦係数
99.99%のアルミニウムを電解研磨して鏡面化し、0.05Mの五ホウ酸アンモニウム水溶液中で、温度20℃の条件で直流40Vで60秒、80Vで90秒、120Vで90秒、160Vで90秒、200Vで3分間陽極酸化を行って平滑な陽極酸化アルミナ層を表面に形成した。得られた陽極酸化アルミナ層を脱イオン水で洗浄した後、表面の水分をエアーブローで除去し、以下のシランカップリング剤溶液で処理してサンプルを得た。
【0043】
新東科学工業(株)製のHEIDON−14Sの表面性試験機により平面圧子、垂直荷重200g、すべり速度100mm/minの条件により上記サンプルの摩擦抵抗試験を行い、ASTM D 1894に準拠して動摩擦係数を求めた。
【0044】
〔シランカップリング剤A〕
オプツールDSX(ダイキン社製)を固形分0.1質量%になるように希釈剤HD−ZV(ハーベス社製)で希釈した溶液に10分間浸漬し、80℃で5時間風乾してサンプルを得た。上述の方法で求めた動摩擦係数は0.13であった。
【0045】
〔シランカップリング剤B〕
KBM−7803(信越化学工業社製)CF(CFCHCH−Si(OCHを固形分0.5質量%になるようにメタノールで希釈した溶液に浸漬し、風乾した後、120℃で2時間熱処理することによりサンプルを得た。上述の方法で求めた動摩擦係数は0.34であった。
【0046】
(5)指紋ふき取り性試験
各サンプルに指紋を付着させた後、東レ社製トレシーに水道水を十分染込ませたものを水滴が滴り落ちなくなる程度まで絞ったもので、拭き取った際の外観を評価した。
○:汚れが目視ではわからない。
△:目視で若干の指紋が確認される。
×:指紋がのび広がるだけで、ほとんど拭き取られない。
【0047】
(6)耐擦傷性試験
直径2cmの圧子にネル布をとりつけ荷重750gで600回転擦傷試験を行い、裏面を黒色に塗って表面の傷つき具合評価した。
○:傷3本まで。
△:傷3本〜10本まで。
×:傷10本以上または、線状ではなく面状の傷がある。
【0048】
(7)平滑硬化膜の弾性率
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をアルミニウム鏡面板とフィルムの間に充填してフィルム側から微細凹凸構造を作製するときと同等の積算光量の紫外線を照射することによって得られた、表面に凸部を有さない硬化膜について、超微小硬さ計(フィッシャー・インストルメンツ社製、フィッシャースコープHM2000)を用い、下記条件にて測定した。照射する紫外線の積算光量は鋳型転写時の紫外線の積算光量と同様にした。
荷重速度 1mN/10秒
保持時間 10秒
荷重除荷速度 1mN/10秒
圧子 ビッカース。
【0049】
〔製造例1〕
純度99.99%のアルミニウムを、羽布研磨および過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨し鏡面化した。次いで、次の(a)〜(e)工程により、周期100nm、深さ180nmの略円錐形状の細孔を有する陽極酸化ポーラスアルミナを得た。
【0050】
(a)工程:該アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流40V、温度16℃の条件で30分間陽極酸化を行った。
(b)工程:酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に6時間浸漬して、酸化皮膜を除去した。
(c)工程:該アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒陽極酸化を行った。
(d)工程:酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸に8分間浸漬して、細孔径拡大処理を行った。
(e)工程:前記(c)工程および(d)工程を合計で5回繰り返した。
【0051】
得られた陽極酸化ポーラスアルミナは脱イオン水で洗浄した後、表面の水分をエアーブローで除去し、オプツールDSX(ダイキン社製)を固形分0.1質量%になるように希釈剤HD−ZV(ハーベス社製)で希釈した溶液に10分間浸漬し、20時間風乾してスタンパを得た。
【0052】
〔活性エネルギー線硬化性樹脂組成物A〕
トリメチロールエタンアクリル酸・無水コハク酸縮合エステル 50質量部
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート 30質量部
ラジカル重合性シリコーンオイル(信越化学工業社製、X−22−1602)
20質量部
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア184)
3.0質量部
フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア819)
0.18質量部。
【0053】
<実施例1>
製造例1で作製した陽極酸化ポーラスアルミナの表面に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物Aを数滴垂らし、透明基材としてポリエステルフィルム(東洋紡社製、A4300厚み188μm)を被せ陽極酸化ポーラスアルミナ全面に行き渡るようローラーで押し広げた。
【0054】
ポリエステルフィルム側から、積算光量3000mJ/cmの紫外線を照射し、硬化性樹脂組成物Aの硬化を行った後、室温まで冷却して陽極酸化ポーラスアルミナから分離し、表面に微細凹凸構造を有するフィルムを得た。凸部間の周期は100nm、凸部の高さは170nmであった。
【0055】
次に上記微細凹凸構造を有するフィルムにナビタス株式会社製コロナ処理装置ポリダイン1を用いて印加電圧11kv、電極と処理ワーク距離3mm、処理速度1.7m/minでコロナ処理を行った。同じ処理を合計3回行い、表面の接触角が10°になることを確認した。
【0056】
次にシランカップリング剤(A)オプツールDSX(ダイキン社製)を固形分0.1質量%になるように希釈剤HD−ZV(ハーベス社製)で希釈した溶液を用いてスピンコーティングを行い、80℃で5時間熱処理してシランカップリング剤の縮合物による層を形成した透明成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、動摩擦係数、微細凹凸構造表面の接触角、耐擦傷試験結果、視感度反射率を表1に示す。
【0057】
<比較例1>
シランカップリング剤(B)を用いてスピンコーティングを行い、120℃で2時間熱処理した以外は実施例1と同様にして透明成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、動摩擦係数、微細凹凸構造表面の接触角、耐擦傷試験結果、視感度反射率を表1に示す。
【0058】
<比較例2>
シランカップリング剤の加水分解縮合体層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして透明成形体を得た。平滑硬化膜の弾性率、動摩擦係数、微細凹凸構造表面の接触角、耐擦傷試験結果、視感度反射率を表1に示す。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】微細凹凸構造の最表面にシランカップリング剤の加水分解縮合体からなる被覆層が形成されている図である。
【図2】鋳型の細孔形状を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
1 被覆層
2 微細凹凸構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に周期が可視光の波長以下である微細凹凸構造を有し、該微細凹凸構造の表面に動摩擦係数が0.2以下のシランカップリング剤の加水分解縮合体からなる被覆層を有する透明成形体。
【請求項2】
水の接触角が120°以上であることを特徴とする請求項1記載の透明成形体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の透明成形体からなる反射防止物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−44184(P2010−44184A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207713(P2008−207713)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】