説明

透明樹脂シートおよびその製造方法、透明積層シートおよびその製造方法並びに液晶表示素子用シート

【課題】 残留位相差が小さくて優れた光学特性を有する透明樹脂シートおよびその製造方法、このシートを有する透明積層シートおよびその製造方法並びにこの透明積層シートよりなる液晶表示素子用シートを提供すること。
【解決手段】 本発明のシートは、環状オレフィン系熱可塑性樹脂よりなり、少なくとも一面に表面粗さが0.01μm以下の平滑面が形成され、厚みが0.05〜3mmで、残留位相差が20nm以下である。このシートは、押出機に取り付けられたTダイから溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂を垂直方向に押し出し、この環状オレフィン系熱可塑性樹脂を、金属製の冷却用ロールと金属製の冷却用ベルトとによって挟圧することにより、冷却用ロールまたは冷却用ベルトに圧着させ、環状オレフィン系熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度で環状オレフィン系熱可塑性樹脂を冷却用ロールまたは冷却用ベルトから剥離して得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、優れた光学的特性を有し、液晶表示素子における複屈折を制御するために有用であり、容易に透明電極を形成することができる透明樹脂シートおよびその製造方法、この透明樹脂シートを用いた透明積層シートおよびその製造方法並びに液晶表示素子用シートに関する。
【0002】
【従来の技術】液晶表示素子においては、一般に、位相差補償板(以下、「位相差板」という。)が組み込まれており、このような位相差板としては、延伸光学シートが使用されている。かかる延伸光学シートにおいては、通常、原反として高分子シート例えばポリカーボネート(PC)シート、ポリビニルアルコール(PVA)シート、ポリスルホン(PSf)シートなどの未延伸シートを延伸して、分子を配向させることにより、所要の位相差が得られる。
【0003】延伸光学シートの原反として用いられる未延伸シートの製造方法としては、以下のような方法が提案されている。
(1)樹脂を溶剤に溶解することにより樹脂溶液を調製し、この樹脂溶液を無端ベルトまたはベースフィルム上に流延した後、溶剤の除去処理を行うことにより、無端ベルトまたはベースフィルム上に樹脂層を形成し、その後、樹脂層を無端ベルトまたはベースフィルムから剥離する溶剤キャスト法(特開平4−301415号公報参照)。
(2)Tダイを取り付けた押出機を用い、このTダイから溶融状態の樹脂を押し出した後、一対のロールによって挟圧する方法(特開平2−61899号公報参照)。
【0004】しかしながら、上記(1)の方法では、シートの製造設備費およびランニングコストが高く、しかも、作業環境が悪い、という問題がある。また、上記(2)の方法では、得られるシートには、厚みむら、ダイライン、ギヤマークが発生し、また、当該シートの残留位相差が大きいため、光学的用途に供するシートとして十分な特性を有するものが得られない。
【0005】また、最近においては、ポリプロピレン(PP)の鏡面成形方法として、Tダイから溶融状態で押出された膜状の樹脂を、キャストドラムと無端金属ベルトとの間で円弧状に挟圧する方法が提案されている(特開平6−170919号公報)。しかしながら、この方法では、厚みむら、ダイライン、ギヤマークのないシートを製造することは可能であるが、残留位相差の小さいシートを得ることは困難である。
【0006】さらに、残留位相差の小さいシートを製造する方法として、金属製冷却ロールと無端金属ベルトとによって、シートの巻き取り速度が、金属製冷却ロールの回転周速度より遅い速度でかつ剥離後にシートが弛まない速度となるよう制御しながら、Tダイから押し出された溶融状態の樹脂を挟圧する方法が提案されている(特開平9−290427号公報参照)。しかしながら、溶融状態の樹脂が、Tダイから押し出されてから金属製冷却ロールと無端金属ベルトとによって挟圧されるまでに撓むため、残留位相差が十分に小さいシートが得られない。また、Tダイから押し出された溶融状態の樹脂が、金属製冷却ロールおよび無端金属ベルトのいずれか一方に先に接触して冷却されるために、得られるシートの表面特性、特にシート表面の平滑性が低下する、という問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その第1の目的は、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有する透明樹脂シートを提供することにある。本発明の第2の目的は、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有する透明樹脂シートを製造することができる方法を提供することにある。本発明の第3の目的は、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有し、液晶表示素子用シートとして好適な透明積層シートを提供することにある。本発明の第4の目的は、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有し、液晶表示素子用シートとして好適な透明積層シートを製造することができる方法を提供することにある。本発明の第5の目的は、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有する液晶表示素子用シートを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の透明樹脂シートは、環状オレフィン系熱可塑性樹脂よりなり、少なくとも一面に表面粗さが0.01μm以下の平滑面が形成され、厚みが0.05〜3mmで、残留位相差が20nm以下であることを特徴とする。本発明において、「シート」は、一般に「フィルム」と称されるものが含まれるものとする。
【0009】本発明の透明樹脂シートにおいては、これを構成する環状オレフィン系熱可塑性樹脂が、下記一般式(1)で表される構造単位を有する重合体または共重合体であることが好ましい。
【0010】
【化3】


【0011】また、本発明の透明樹脂シートにおいては、これを構成する環状オレフィン系熱可塑性樹脂が、下記一般式(2)で表される構造単位を有する重合体または共重合体であることが好ましい。
【0012】
【化4】


【0013】本発明の透明樹脂シートの製造方法は、上記の透明樹脂シートを製造する方法であって、押出機に取り付けられたTダイから溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂を垂直方向に押し出し、Tダイから押し出された環状オレフィン系熱可塑性樹脂を、金属製の冷却用ロールと金属製の冷却用ベルトとによって挟圧することにより、当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂を当該冷却用ロールまたは当該冷却用ベルトに圧着させ、その後、前記環状オレフィン系熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度で当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂を前記冷却用ロールまたは前記冷却用ベルトから剥離することを特徴とする。
【0014】本発明の透明積層シートは、上記の透明樹脂シートと、この透明樹脂シートの平滑面に一体的に積層された透明電極とを有してなることを特徴とする。本発明の透明積層シートにおいては、前記透明電極が金属酸化物膜よりなるものであることが好ましく、更にこの透明電極を構成する金属酸化物膜がスパッタリングまたは蒸着により形成されたものであることが好ましい。
【0015】本発明の透明積層シートの製造方法は、上記の透明積層シートを製造する方法であって、押出機に取り付けられたTダイから溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂を垂直方向に押し出し、Tダイから押し出された環状オレフィン系熱可塑性樹脂を、金属製の冷却用ロールと金属製の冷却用ベルトとによって挟圧することにより、当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂を当該冷却用ロールまたは当該冷却用ベルトに圧着させ、その後、前記環状オレフィン系熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度で当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂を前記冷却用ロールまたは前記冷却用ベルトから剥離することにより、透明樹脂シートを調製し、この透明樹脂シートにおける前記冷却用ロールまたは前記冷却用ベルトとの剥離面に、透明電極を形成することを特徴とする。
【0016】本発明の液晶表示素子用シートは、上記の透明積層シートよりなることを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
〈透明樹脂シート〉本発明の透明樹脂シートは、環状オレフィン系熱可塑性樹脂よりなるものである。この環状オレフィン系熱可塑性樹脂は、他の熱可塑性透明樹脂例えばポリカーボネートやポリスチレンなどと比較して、分子を配向させたときに、分子の配向による複屈折が生じにくいため、光学分野における種々の用途などに有用である。かかる環状オレフィン系熱可塑性樹脂としては、下記一般式(3)で表される単量体(以下、「特定単量体」ともいう。)から得られる重合体または共重合体(以下、「(共)重合体」と表現する。)を用いることが好ましく、より好ましくは上記一般式(1)で表される構造単位を有する(共)重合体、特に好ましくは、上記一般式(2)で表される構造単位を有する(共)重合体である。
【0018】
【化5】


【0019】具体的には、環状オレフィン系熱可塑性樹脂として下記(a)〜(e)に示す重合体または共重合体を好適に用いることができる。
(a)特定単量体の開環重合体(以下、「特定の開環重合体」ともいう。),(b)特定単量体とこれと共重合可能な環状単量体(以下、「共重合性環状単量体」ともいう。)との開環共重合体(以下、「特定の開環共重合体」ともいう。),(c)特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体(以下、「特定の飽和共重合体」ともいう。),(d)特定の開環重合体または特定の開環共重合体(以下、これらを「特定の開環(共)重合体」ともいう。)の水素添加(共)重合体,(e)特定の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化した後、水素添加して得られる水素添加(共)重合体
【0020】〔特定単量体〕好ましい特定単量体としては、上記一般式(3)中、R1 およびR3 が水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基であり、R2 およびR4 が水素原子または一価の有機基であって、R2 およびR4 の少なくとも一つは水素原子および炭化水素基以外の極性基を示し、mが0〜3の整数、pが0〜3の整数であり、m+pの値が0〜4、更に好ましくは0〜2、特に好ましくは1であるものを挙げることができる。
【0021】また、特定単量体のうち、R2 およびR4 が下記一般式(4)で表される極性基を有する特定単量体は、ガラス転移温度が高く、吸湿性が低い環状オレフィン系熱可塑性樹脂が得られる点で好ましい。
【0022】
【化6】


【0023】上記一般式(4)において、R5 はアルキル基であることが好ましい。また、nの値が小さいものほど、得られる環状オレフィン系熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高くなるので好ましく、特にnが0である特定単量体は、その合成が容易である点で好ましい。
【0024】また、上記一般式(3)において、R1 またはR3 はアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数が1〜4のアルキル基、さらに好ましくは炭素数が1〜2のアルキル基、特に好ましくはメチル基である。更に、このアルキル基が上記一般式(4)で表される極性基が結合した炭素原子と同一の炭素原子に結合されていることが好ましい。また、一般式(3)においてmが1である特定単量体は、ガラス転移温度がより高い熱可塑性樹脂組成物が得られる点で好ましい。
【0025】上記一般式(3)で表わされる特定単量体の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[5.2.1.02,6 ]−8−デセン、テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6 .02,7 .09,13]−4−ペン タデセン、ペンタシクロ[7.4.0.12,5 .199,12.08,13]−3−ペンタデセン、トリシクロ[4.4.0.12,5 ]−3−ウンデセン、5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン、
【0026】ジメタノオクタヒドロナフタレン、エチルテトラシクロドデセン、6−エチリデン−2−テトラシクロドデセン、トリメタノオクタヒドロナフタレン、ペンタシクロ[8.4.0.12,5 .19,12.08,13]−3−ヘキサデセン、ヘプタシクロ[8.7.0.13,6 .110,17 .112,15 .02,7 .011,16]−4−エイコセン、ヘプタシクロ[8.8.0.14,7 .111,18 .113,16 .03,8 .012,17]−5−ヘンエイコセン、5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
【0027】5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ペンタフルオロエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5,6−トリス(フルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5,6,6−テトラキス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5−ジフルオロ−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジフルオロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5,6−トリフルオロ−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジフルオロ−5−ヘプタフルオロ−iso−プロピル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−クロロ−5,6,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジクロロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5,6−トリフルオロ−6−ヘプタフルオロプロポキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
【0028】8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−ジフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,9−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,8−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,8,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,8,9−トリス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,8,9,9−テトラフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,8,9,9−テトラキス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,8−ジフルオロ−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,9−ジフルオロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,8,9−トリフルオロ−9−ペンタフルオロプロポキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−フルオロ−8−ペンタフルオロエチル−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,9−ジフルオロ−8−ヘプタフルオロiso−プロピル−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−クロロ−8,9,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8,9−ジクロロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、8−メチル−8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセンなどを挙げることができる。
【0029】これらの特定単量体のうち、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ〔4.4.0.12,5 .17,10〕−3−ドデセン、8−エチリデンテトラシクロ〔4.4.0.12,5 .17,10〕−3−ドデセン、8−エチルテトラシクロ〔4.4.0.12,5 .17,10〕−3−ドデセン、ペンタシクロ〔7.4.0.12,5 .19,12.08,13〕−3−ペンタデセンは、優れた耐熱性を有する環状オレフィン系熱可塑性樹脂が得られる点で好ましい。
【0030】〔共重合性環状単量体〕特定の開環共重合体を得るための共重合性環状単量体としては、炭素数が4〜20、特に5〜12のシクロオレフィンを用いることが好ましく、その具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、トリシクロ[5.2.1.02,6 ]−3−デセン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0031】〔不飽和二重結合含有化合物〕特定の飽和共重合体を得るための不飽和二重結合含有化合物としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−非共役ジエン共重合体、ポリノルボルネンなどの主鎖に炭素−炭素間二重結合を含む不飽和炭化水素系ポリマーを用いることができる。
【0032】特定単量体と共重合性環状単量体または不飽和二重結合含有化合物との使用割合は、特定単量体:共重合性環状単量体または不飽和二重結合含有化合物が、重量比で100:0〜50:50であることが好ましく、更に好ましくは100:0〜60:40である。共重合性環状単量体または不飽和二重結合含有化合物の使用割合が過大である場合には、得られる共重合体のガラス転移温度が低下し、その結果、樹脂の耐熱性が低下するため、目的とする耐熱性の高いシートを得ることが困難となる。
【0033】〔開環重合触媒〕特定単量体の開環重合反応はメタセシス触媒の存在下に行われる。このメタセシス触媒は、タングステン化合物、モリブデン化合物およびレニウム化合物から選ばれた少なくとも1種の金属化合物(以下、「(a)成分」という。)と、デミングの周期律表IA族元素(例えばLi、Na、Kなど)、IIA族元素(例えばMg、Caなど)、IIB族元素(例えばZn、Cd、Hgなど)、III B族元素(例えばB、Alなど)、IVA族元素(例えばTi、Zrなど)あるいはIVB族元素(例えばSi、Sn、Pbなど)の化合物であって、少なくとも1つの当該元素−炭素結合あるいは当該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種の化合物(以下、「(b)成分」という。)との組み合わせからなるものであり、触媒活性を高めるために添加剤(以下、「(c)成分」という。)が含有されていてもよい。
【0034】上記(a)成分を構成する好適な金属化合物の具体例としては、WCl6 、MoCl5 、ReOCl3 などの特開平1−240517号公報に記載の金属化合物を挙げることができる。上記(b)成分を構成する化合物の具体例としては、n−C4 9 Li、(C2 5 3 Al 、(C2 5 2 AlCl、(C2 5 1.5 AlCl1.5 、(C2 5 )AlCl2 、メチルアルモキサン、LiHなどの特開平1−240517号公報に記載の化合物を挙げることができる。上記(c)成分としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類などを好適に用いることができるが、その他に特開平1−240517号公報に示される化合物を用いることができる。
【0035】〔水素添加〕本発明の透明樹脂シートを構成する環状レフィン系熱可塑性樹脂としては、上記の特定の(共)開環重合体および特定の飽和共重合体の他に、特定の(共)開環重合体に水素添加して得られる水素添加(共)重合体、および特定の(共)開環重合体をフリーデルクラフト反応により環化した後、これに水素添加して得られる水素添加(共)重合体を用いることができる。このような水素添加(共)重合体は、優れた熱安定性を有するものであるため、成形加工を行う際や製品として使用する際に、加熱によってその特性が劣化することを防止することができる。ここに、水素添加(共)重合体における水素添加率は、通常50%以上、好ましく70%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。
【0036】本発明の透明樹脂シートを構成する環状オレフィン系熱可塑性樹脂は、30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度(ηinh )が0.2〜5.0dl/gであることが好ましい。また、環状オレフィン系熱可塑性樹脂の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が8,000〜100,000、重量平均分子量(Mw)が20,000〜300,000の範囲のものが好適である。更に、環状オレフィン系熱可塑性樹脂のビカット軟化点は、160℃以上であることが好ましい。
【0037】本発明の透明樹脂シートは、少なくとも一面が平滑面であり、その表面粗さRaは0.01μm以下とされ、好ましくは0.008μm以下である。表面粗さが0.01μmを超える場合には、表面の平滑性が低いため、液晶ディスプレイに組み込んだときに、その表示画面にむらが発生しやすくなる。
【0038】また、本発明の透明樹脂シートは、その厚みが0.05〜3mmであり、好ましくは0.1〜2mmであり、特に好ましくは0.2〜1mmである。厚みが0.05mm未満である場合には、厚みや残量位相差の均一性が高い透明樹脂シートを得ることが困難となり、また、後述する製造方法において、冷却用ベルトが消耗しやすくなる。一方、厚みが3mmを超える場合には、残留位相差の小さい透明樹脂シートを得ることが困難となる。
【0039】また、本発明の透明樹脂シートは、その残留位相差は20nm以下であり、好ましくは15nm以下、特に好ましくは10nm以下である。残留位相差が20nmを超える場合には、液晶表示素子に組み込んだときに、高いコントラストを得ることが困難となり、また、コントラストむらなどが発生しやすくなるため、好ましくない。
【0040】更に、本発明の透明樹脂シートは、その全光線透過率が85%以上、特に90%以上のものであることが好ましい。
【0041】本発明の透明樹脂シートは、その厚み、表面粗さおよひ残留位相差が特定の範囲にあるため、優れた光学特性を有するものであり、しかも、環状オレフィン系熱可塑性樹脂よりなるため、他の透明樹脂例えば、ポリスチレンやポリメチルメタクリレートなどと比較して、透明電極を容易に形成することができる。このような透明樹脂シートを用いることにより、コントラストが大きくて鮮明な画像を表示することができる液晶表示素子が得られる。
【0042】上記の透明樹脂シートは、以下のようにして製造することができる。図1は、本発明の透明樹脂シートの製造方法に用いられる製造装置の一例における概略を示す説明図である。この図において、10は押出機、11は、押出機10の先端に取り付けられたTダイであり、このTダイ11は、その吐出口12が下方を向くよう配置されている。Tダイ11としては、マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイなどを用いることができ、これらの中では、コートハンガーダイが好ましい。Tダイ11の材質としては、SCM系の鋼鉄、SUSなどのステンレス材などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、Tダイ11としては、その表面にクロム、ニッケル、チタンなどのメッキが施されたもの、PVD(Physical Vapor Deposition)法などにより、TiN、TiAlN、TiC、CrN、DLC(ダイアモンド状カーボン)などの被膜が形成されたもの、その他のセラミックスが溶射されたもの、表面が窒化処理されたものなどを用いることができる。このようなTダイは、表面硬度が高く、樹脂との摩擦が小さいため、得られる透明樹脂シートに、焼けゴミなどが混入することを防止することができると共に、ダイラインが発生することを防止するができる点で、好ましい。
【0043】Tダイ11の下方には、金属製の冷却用ロール20および金属製無端ベルトよりなる冷却用ベルト30が、互いに圧接された状態で、かつ、両者の接触端EがTダイ11の吐出口12の直下に位置された状態で配置されている。
【0044】冷却用ロール20は、内部に加熱手段および冷却手段を有するものであり、その表面粗さは0.5μm以下、特に、0.3μm以下であることが好ましい。冷却用ロール20としては、金属ロールにメッキが施されたものを用いることが好ましく、クロムメッキ、無電解ニッケルメッキなどが施されたものが特に好ましい。
【0045】冷却用ベルト30としては、継ぎ目のないものを用いことが好ましい。継ぎ目を有する冷却用ベルトを用いる場合には、得られる透明樹脂シートに継ぎ目の跡が形成されるため好ましくない。また、冷却用ベルト30は、その表面粗さが0.3μm以下の鏡面仕上げを施したものを用いることが好ましい。また、冷却用ベルト30の厚さは0.6 〜1.2mmが好ましい。この厚みが0.6mm未満である場合には、当該ベルトが変形しやすくなるため好ましくない。一方、この厚みが1.2mmを超える場合には、当該ベルトは可撓性が小さいものとなるため好ましくない。冷却用ベルト30を構成する材料としては、ステンレスなどを用いることができる。
【0046】この冷却用ベルト30は、その内面に接するよう設けられた第1の保持ロール31、第2の保持ロール32および第3の保持ロール33によって、冷却用ロール20に圧接された状態で、かつ、張力が作用された状態で保持されている。
【0047】第1の保持ロール31は、冷却用ロール20と実質的に同一の高さレベルにおいて、当該冷却用ロール20に僅かに離間して平行に並ぶよう配置されている。この第1の保持ロール31は、その表面がシリコンゴムまたその他の耐熱性を有するエラストマーなどによって被覆されていることが好ましく、その被覆層の厚みは5〜15mmであることがさらに好ましい。このような被覆層を設けることにより、冷却用ロール20と冷却用ベルト30とによって環状オレフィン系熱可塑性樹脂を挟圧したときに、当該樹脂に作用する圧縮応力が緩和されるため、得られる透明樹脂シートにおける残留歪みによる位相差の増加を防止することができる。また、第1の保持ロールは、内部に加熱手段および冷却手段を有するものであることが好ましい。
【0048】第2の保持ロール32は、冷却用ロール20の下方において当該冷却用ロール20に平行に並ぶよう配置されている。この第2の保持ロールは、冷却用ロール20と冷却用ベルト30との接触距離を調整するための接触距離調整用ロールであり、例えば冷却用ロール20の中心軸を基準として円弧状に移動可能に設けられている。
【0049】第3の保持ロール33は、第1の保持ロール31の下方において冷却用ロール20に平行に並ぶよう配置されている。この第3の保持ロール33は、冷却用ベルト30の張力を調整するための張力調整用ロールであり、例えば冷却用ロール20の中心軸を基準として円弧状に移動可能に設けられている。
【0050】40は、冷却用ベルト30に圧着された環状オレフィン系熱可塑性樹脂を当該冷却用ベルト30から剥離するための剥離用ロールであって、冷却用ロール20と第2の保持ロール32との間において当該冷却用ロール20に平行に並ぶよう配置されている。
【0051】以上において、冷却用ロール20および冷却用ベルト30は、Tダイ11に可能な限り近接して配置されていることが好ましく、例えばTダイ11の吐出口12から、冷却用ロール20と冷却用ベルト30との接触端Eまでを結ぶ垂線の距離Dが300mm以下、特に、250mm以下であることが好ましい。この距離Dが300mmを超える場合には、Tダイ11の吐出口12から吐出した溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂が、冷却用ロール20と冷却用ベルト30とによって挟圧されるまでに著しく冷却されるため、残留歪みによる位相差が生じやすくなる。また、冷却用ロール20と冷却用ベルト30との接触距離は、好ましくは20cm以上であり、特に好ましくは25cm以上である。この接触距離が20cm未満である場合には、冷却用ロール20と冷却用ベルト30とによって樹脂を十分に冷却することができない場合がある。
【0052】そして、本発明においては、上記の装置により、次のようにして透明樹脂シートが製造される。図2R>2に示すように、押出機10により溶融された環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rが、Tダイ11の吐出口12から垂直方向である下方に向かってシート状に押し出される。その後、図3に示すように、押し出された環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rが、冷却用ロール20と冷却用ベルト30とによって挟圧され、これにより、当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rが冷却用ベルト30の表面に圧着されて冷却される。そして、図4に示すように、冷却用ベルト30の表面に圧着された環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rが、剥離用ロール40によって冷却用ベルト30の表面から剥離されることにより、透明樹脂シートSが製造される。
【0053】本発明においては、冷却用ベルト30の表面に圧着された環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rを、そのガラス転移温度以下の温度となるまで冷却した後、当該冷却ベルト30からから剥離することが必要とされる。環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rをそのガラス転移温度を超える温度で剥離した場合には、剥離する際にあるいは剥離した後に、残留歪みによる位相差が生じるため、目的とする透明樹脂シートSが得られない。
【0054】環状オレフィン系熱可塑性樹脂の加工温度すなわち押出機10およびTダイ11の設定温度は、流動性が均一な溶融状態の樹脂をTダイ11から吐出させることができ、樹脂の劣化を抑制することができる観点から、当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、Tg+100℃以上でTg+200℃以下であることが好ましい。加工温度がTg+100℃未満である場合には、環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rの流動性が不均一なため、Tダイ11から安定的に吐出せず、得られる透明樹脂シートSに厚みムラなどが生じやすくなり好ましくない。一方、加工温度がTg+200℃を超える場合には、環状オレフィン系熱可塑性樹脂の分子鎖が切断したり、Tダイ11から吐出された際に酸化したりすることにより、当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂が劣化しやすくなる。
【0055】冷却用ロール20の表面温度は、用いられる環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rのガラス転移点をTgとしたとき、Tg−30℃以上であることが好ましい。冷却用ロール20の表面温度が、Tg−30℃未満である場合には、環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rが当該冷却用ロール20によって急冷されてしまうため、残留歪みによる位相差が生じやすくなる。また、同様の理由から、第1の保持ロール31の表面温度はTg−30℃以上であることが好ましい。
【0056】透明樹脂シートSの引き取り速度は、冷却用ロール20の回転周速度より低いことが好ましく、具体的には、冷却用ロール20の回転周速度をV1、透明樹脂シートSの引き取り速度をV2としたとき、比V2/V1が0.7〜0.99であることが好ましく、より好ましくは0.75〜0.9、、特に好ましくは0.8〜0.85である。この比V2/V1が0.7未満である場合には、シートに垂れなどが生じやすく、一方、この比V2/V1が0.99を超える場合には、シートに過大な張力が作用し、当該シートが破断したりすることがある。
【0057】このような方法によれば、溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂RをTダイ11から垂直方向である下方に向かって押し出すことにより、押し出された環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rが重力によって撓むことが防止され、しかも、冷却用ベルト30に圧着された環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rをそのガラス転移温度以下となる温度で剥離するため、残留位相差が小さい透明樹脂シートを製造することができる。しかも、Tダイ11から押し出された溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rが、冷却用ロール20および冷却用ベルトのいずれか一方に先に接触することがないため、表面粗さの小さい所期の表面特性を有する透明樹脂シートを製造することができる。
【0058】これに対して、溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂RをTダイ11から例えば水平方向に押し出す場合には、押し出された環状オレフィン系熱可塑性樹脂Rが重力によって撓むため、残留歪みによる位相差が生じやすく、しかも、Tダイから押し出された溶融状態の樹脂が、冷却用ロールおよび冷却用ベルトのいずれか一方に先に接触して冷却されるために、所期の透明樹脂シートが得られない。
【0059】以上の方法は、溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂をTダイから下方に向かって押し出す例であるが、本発明においては、溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂の押し出し方向は上方であってもよい。また、環状オレフィン系熱可塑性樹脂を冷却用ロールと冷却用ベルトとによって挟圧することにより、当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂を冷却用ロールに圧着してもよい。
【0060】〈透明積層シート〉本発明の透明積層シートは、上記の透明樹脂シートの平滑面に透明電極が一体的に積層されてなるものである。透明電極は金属酸化物膜であることが好ましく、その具体例としては、ITO(インジウム−酸化スズ)膜、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)膜などが挙げられ、好ましくはITO膜である。ITO膜を構成するインジウム、スズの構成比率は、特に限定されないが、後工程におけるエッチング処理などが容易である点で、インジウムが70〜98重量%、特に、80〜95重量%のものが好ましい。
【0061】このような透明積層シートは、以下のようにして製造することができる。先ず、前述の方法により、透明樹脂シートを調製し、次いで、この透明樹脂シートにおける冷却用ベルトとの剥離面に、金属酸化物膜よりなる透明電極を形成する。この金属酸化物膜を形成する方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法などが挙げられる。この中では、スパッタリング法が、金属酸化物膜を形成する際に透明樹脂シートの温度上昇が小さい点で、好ましい。また、スパッタリング法を利用する場合には、金属酸化物膜を形成する際に、冷却水などによって透明樹脂シートをTg−50℃以下となる温度に冷却しながら行うことがより好ましい。なお、真空蒸着法を利用する場合には、金属酸化物膜を形成する際に、透明樹脂シートの温度がガラス転移温度以上に上昇しやすく、これにより、当該透明樹脂シートの変形などが生じることがあるため、注意が必要である。
【0062】上記の透明積層シートによれば、残留位相差が小さいため、コントラストが大きくて鮮明な画像を表示することができる液晶表示素子が得られる。また、ガラス製の積層シートと比較して比重が小さいものであるため、この透明積層シートを液晶表示素子用シートとして用いることにより、当該液晶表示素子が搭載される機器の軽量化を図ることができる。従って、本発明の透明積層シートは、携帯機器やモバイル機器と称される小型機器などに使用する材料として好適なものである。
【0063】
【実施例】以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例において、環状オレフィン系熱可塑性樹脂として、下記式(i)で表される繰り返し単位を有する特定の開環重合体を用いた。この特定の開環重合体は、ガラス転移温度が165℃、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が25000、重量平均分子量(Mw)が102000、クロロホルム中で測定した固有粘度(ηinh )が0.49dl/g、260℃におけるメルトフローレートが5.0g/10minのものである。
【0064】
【化7】


【0065】〈実施例1〉図1に示す構成の装置を用い、下記の条件により厚みが0.4mmの透明樹脂シートを製造した。
Tダイの吐出口から冷却用ロールと冷却用ベルトとの接触端までを結ぶ垂線の距離D:240mm,冷却用ロールと冷却用ベルトとの接触距離:24cm,押出機:シリンダー内径;40mm,スクリューのL/D;32、シリンダー設定温度;300℃,押し出し量18kg/hr,Tダイ:コートハンガーマニーホールド型であって、表面にクロムメッキが施されているもの,吐出口の幅500mm,吐出口のリップ間隔;0.8mm,設定温度;300℃,冷却用ロール:表面粗さ;0.1μm,表面温度;160℃,冷却用ベルト:厚み;1mm,表面粗さ;0.1μm,第1の保持ロール:厚みが10mmのシリコーンゴムよりなる被覆層が形成されてなるもの,表面温度;160℃,冷却用ロールの周速度:2.0m/min,シートの引き取り速度:1.7m/min,剥離時のシートの温度:145℃
【0066】得られた透明樹脂シートについて、その残留位相差を王子計測(株)製「KOBRA−21ADH」により測定すると共に、当該透明樹脂シートにおける冷却ベルトとの剥離面の表面粗さを小坂研究所製「ET−30」により測定した。結果を表1に示す。
【0067】上記の透明樹脂シートにおける冷却ベルトとの剥離面に、スパッタリング法によって厚みが0.5μmのITO膜よりなる透明電極を形成することにより、透明積層シートを製造した。透明電極の抵抗値は10-3Ω・cmであり、透明積層シートの光線透過率は85%であった。この透明積層シートを、常法によりSTN液晶表示素子に取付け、白黒画像を表示し、そのコントラストむらを目視により判定した。結果を表1に示す。
【0068】〈実施例2〉冷却用ロールの周速度を5.5m/min,シートの引き取り速度を5m/minに変更したこと以外は、実施例1と同様の条件により、厚み0.13mmの透明樹脂シートを製造し、その残留位相差および冷却ベルトとの剥離面の表面粗さを測定した。結果を表1に示す。得られた透明樹脂シートに、実施例1と同様にして透明電極を形成することにより透明積層シートを製造し、STN液晶表示素子に取付けたときの評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】〈比較例1〉図5に示す構成の装置を用いたこと以外は実施例1と同様の条件により、厚み0.4mmの透明樹脂シートを製造し、その残留位相差および冷却ベルトとの剥離面の表面粗さを測定した。結果を表1に示す。
【0070】上記の装置を具体的に説明すると、図5において、80は押出機、81は押出機80の先端に取り付けられたTダイである。90は、Tダイの前方に設けられた金属製の冷却用ロール、91は、冷却用ロール90の上側に圧接するよう設けられた金属製無端ベルトよりなる冷却用ベルト、92、93および94は、それぞれ冷却用ベルトを保持するための第1の保持ロール、第2の保持ロールおよび第3の保持ロールである。95は一対のシート引き取り用ロールである。Tダイ81は、その吐出口82が水平方向(図において右方)を向くよう配置されている。冷却用ロール90および冷却用ベルト91は、その接触部FがTダイ81の吐出口82と同一の高さレベルに位置するよう配置されている。押出機80、Tダイ81、冷却用ロール90、冷却用ベルト91、第1の保持ロール92、第2の保持ロール83およひ第3の保持ロールの具体的な構成は、実施例1で使用した製造装置と同様である。この装置においては、図6に示すように、溶融状態のオレフィン系熱可塑性樹脂Rが、Tダイ81から水平方向(図において右方)に押し出され、冷却用ロール90と冷却用ベルト91とによって挟圧されることにより、当該冷却用ベルト91に圧着され、引き取り用ローラにより引き取られることにより、冷却用ベルト91から剥離されて透明樹脂シートSが得られる。
【0071】得られた透明樹脂シートに、実施例1と同様にして透明電極を形成することにより透明積層シートを製造し、STN液晶表示素子に取付けたときの評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】〈比較例2〉図5に示す構成の装置を用いたこと以外は実施例2と同様の条件により、厚み0.13mmの透明樹脂シートを製造し、その残留位相差および冷却ベルトとの剥離面の表面粗さを測定した。結果を表1に示す。得られた透明樹脂シートに、実施例1と同様にして透明電極を形成することにより透明積層シートを製造し、STN液晶表示素子に取付けたときの評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】


【0074】上記の表1から明らかなように、実施例1および実施例2によれば、表面粗さが小さい平滑面を有し、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有する透明樹脂シートが得られた。また、当該透明樹脂シートから得られた透明積層シートを液晶表示素子用シートとして用いることにより、コントラストむらのない画像を表示することができる。これに対し、比較例1および比較例2においては、押し出された樹脂が重力によって撓み、しかも、Tダイから押し出された溶融状態の樹脂が、冷却用ロールに先に接触して冷却されるために、得られたシートは残留位相差が大きく、表面粗さが大きいものであり、光学用のシートとしては不適当なものであった。また、当該透明樹脂シートから得られた透明積層シートを液晶表示素子用シートとして用いると、得られる画像はコントラストむらを有するものであった。
【0075】
【発明の効果】本発明の透明樹脂シートは、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有するものである。本発明の透明樹脂シートの製造方法によれば、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有する透明樹脂シートを確実に製造することができる。
【0076】本発明の透明積層シートは、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有し、液晶表示素子用シートとして好適なものである。本発明の透明積層シートの製造方法によれば、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有し、液晶表示素子用シートとして好適な透明積層シートを製造することができる。本発明の液晶表示素子用シートは、残留位相差が小さくて優れた光学特性を有するものであるため、コントラストむらのない画像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の透明樹脂シートの製造方法に用いられる製造装置の一例における概略を示す説明図である。
【図2】図1に示す装置において、Tダイから溶融状態の樹脂が押し出された状態を示す説明図である。
【図3】図1に示す装置において、Tダイから押し出された溶融状態の樹脂が、冷却用ロールと冷却用ベルトとによって挟圧された状態を示す説明図である。
【図4】図1に示す装置において、冷却用ベルトから透明樹脂シートが剥離された状態を示す説明図である。
【図5】比較例において使用した製造装置の概略を示す説明図である。
【図6】図5に示す製造装置により、透明樹脂シートが製造される状態を示す説明図である。
【符号の説明】
10 押出機 11 Tダイ
12 吐出口 20 冷却用ロール
30 冷却用ベルト 31 第1の保持ロール
32 第2の保持ロール 33 第3の保持ロール
40 剥離用ロール E 接触端
R 環状オレフィン系熱可塑性樹脂
S 透明樹脂シート 80 押出機
81 Tダイ 82 吐出口
90 冷却用ロール 91 冷却用ベルト
92 第1の保持ロール 93 第2の保持ロール
94 第3の保持ロール 95 引き取り用ロール
F 接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 環状オレフィン系熱可塑性樹脂よりなり、少なくとも一面に表面粗さが0.01μm以下の平滑面が形成され、厚みが0.05〜3mmで、残留位相差が20nm以下であることを特徴とする透明樹脂シート。
【請求項2】 環状オレフィン系熱可塑性樹脂が、下記一般式(1)で表される構造単位を有する重合体または共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の透明樹脂シート。
【化1】


【請求項3】 環状オレフィン系熱可塑性樹脂が、下記一般式(2)で表される構造単位を有する重合体または共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の透明樹脂シート。
【化2】


【請求項4】 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の透明樹脂シートを製造する方法であって、押出機に取り付けられたTダイから溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂を垂直方向に押し出し、Tダイから押し出された環状オレフィン系熱可塑性樹脂を、金属製の冷却用ロールと金属製の冷却用ベルトとによって挟圧することにより、当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂を当該冷却用ロールまたは当該冷却用ベルトに圧着させ、その後、前記環状オレフィン系熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度で当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂を前記冷却用ロールまたは前記冷却用ベルトから剥離することを特徴とする透明樹脂シートの製造方法。
【請求項5】 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の透明樹脂シートと、この透明樹脂シートの平滑面に一体的に積層された透明電極とを有してなることを特徴とする透明積層シート。
【請求項6】 透明電極が金属酸化物膜よりなることを特徴とする請求項5に記載の透明積層シート。
【請求項7】 透明電極を構成する金属酸化物膜がスパッタリングまたは蒸着により形成されたものであることを特徴とする請求項6に記載の透明積層シート。
【請求項8】 請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の透明積層シートを製造する方法であって、押出機に取り付けられたTダイから溶融状態の環状オレフィン系熱可塑性樹脂を垂直方向に押し出し、Tダイから押し出された環状オレフィン系熱可塑性樹脂を、金属製の冷却用ロールと金属製の冷却用ベルトとによって挟圧することにより、当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂を当該冷却用ロールまたは当該冷却用ベルトに圧着させ、その後、前記環状オレフィン系熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度で当該環状オレフィン系熱可塑性樹脂を前記冷却用ロールまたは前記冷却用ベルトから剥離することにより、透明樹脂シートを調製し、この透明樹脂シートにおける前記冷却用ロールまたは前記冷却用ベルトとの剥離面に、透明電極を形成することを特徴とする透明積層シートの製造方法。
【請求項9】 請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の透明積層シートよりなることを特徴とする液晶表示素子用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2000−219752(P2000−219752A)
【公開日】平成12年8月8日(2000.8.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−24715
【出願日】平成11年2月2日(1999.2.2)
【出願人】(000004178)ジェイエスアール株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】