説明

透明面状発熱体

【課題】
本発明は、透明性及び視認性に優れ、モアレ現象が発生しにくく、均一な発熱が可能な高品位の面発熱特性を有する、フレキシブルな透明面状発熱体を提供する。
【解決手段】
本発明の透明面状発熱体は、導電性基板の導電層に、1対以上の電極を備えている透明面状発熱体であって、該導電性基板は、透明基板と導電層を積層してなり、該導電層が、不規則なネットワーク状であることを特徴とする透明面状発熱体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性に優れ、均一な発熱が可能な高品位な面状発熱特性を有する透明面状発熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍、冷凍ショーケースは、その窓部を構成するガラス表面への結露防止をする必要があり、このためガラス表面に透明導電膜を形成し、これに所定の電力を印可して窓面を加温することが行われている。自動車の窓ガラスにおいても、曇りや結露防止として、同様に透明導電膜を利用したデフロスターが使用されている。また、寒冷地では、道路標識や信号機への積雪、凍結などによる道路標識等の視認性低下防止のため、融雪や凍結防止として透明面状発熱体を利用することや、寒冷地の低温環境下で使用される液晶表示素子の液晶動作不良防止、起動補助のため、温度制御用の透明面状発熱体を備える必要性が高まってきている。
【0003】
寒冷地などの低温環境下で使用される液晶表示素子としては、例えば、特許文献1に提案されるように、メッシュ状の発熱抵抗体を配置して加熱するものや、特許文献2のように、透明基板上に設けられた銀、銅、インジウムスズオキシド(ITO)等の透明導電膜を発熱面として使用し、該透明導電膜に通電するための一対の金属電極を備えた透明面状発熱体が報告されている。しかし、特許文献1の方法では、液晶素子全体を均一に加熱することは困難であり、また、不透明な金属からなる発熱抵抗体が液晶表示を見る際の邪魔になり易い。また、特許文献2の方法においても、液晶素子全体を均一に加熱することは必ずしも容易ではなく、厚みが増すとヘイズや反射も増えてしまう透明導電膜からなる発熱体を用いた場合には、液晶表示を見る際の邪魔になったりする。また、透明性を確保できる薄い厚みでは、導電性が劣るため、流れる電流量が少なくなり発熱の立ち上がりが遅い場合がある。さらに、スパッタリング法、蒸着法等を用いた場合には、製造コストが高く、また、ITO透明導電膜は、耐屈曲性に乏しく、割れやすいという問題がある。
【0004】
また、特許文献3 には、有機銀化合物等の溶液を基板状に噴霧塗布して微細網目構造膜を形成し、これに放射線照射することにより還元して銀を析出させて銀の微細網目構造を有する透明導電膜が得られ、これが透明面状発熱体として用い得ることが記載されている。この方法では、微細網目構造を有する透明導電膜を用いているため、モアレ干渉模様が生じないが、該導電膜を得るために、紫外線等の照射で銀を還元する方法が取られており、安定再現性に問題がある。
【0005】
特許文献4は、フォトリソグラフィ法によって、導電性ペーストからなる網目状の導電層を形成する方法が提案されているが、この方法は、網目状の導電層を得るために、煩雑な工程を必要とし、過剰な導電性ペーストを除去するため、素材リサイクル、製造コストの点でも課題が多い。
【0006】
従って、透明性及び視認性が高く、導電部の抵抗値が低く、モアレ現象が発生しにくく、かつ均一な発熱が可能である、フレキシブル性を有した高品位の透明面状発熱体が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】:特開昭58−126517号公報
【特許文献2】:特開平9−306647号公報
【特許文献3】:特開平10−312715号公報
【特許文献4】:特開2006−49006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、透明性及び視認性が高く、モアレ現象が発生しにくく、導電部の抵抗値が低く、かつ均一な発熱が可能な高品位の面発熱特性を有する、フレキシブルな透明面状発熱体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、以下である。
1)導電性基板の導電層に、1対以上の電極を備えている透明面状発熱体であって、
該導電性基板は、透明基板と導電層の積層体であり、
該導電層が、不規則なネットワーク状であることを特徴とする、透明面状発熱体。
2)前記導電性基板の導電層側の面に、透明保護層を有することを特徴とする、前記1)記載の透明面状発熱体。
3)前記導電層の表面比抵抗値が1〜100Ω/□であることを特徴とする、前記1)又は前記2)に記載の透明面状発熱体。
4)全光線透過率が50%以上であることを特徴とする、前記1)〜3)のいずれかに記載の透明面状発熱体。
5)前記導電層が、透明基板上に金属分散液を塗布することによって、金属が不規則なネットワーク状に透明基板上に積層された導電層であることを特徴とする、前記1)〜4)のいずれかに記載の透明面状発熱体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透明性及び視認性が高く、モアレ現象が発生しにくく、導電部の抵抗値が低く、かつ均一な発熱が可能な高品位の面発熱特性を有する、フレキシブルな透明面状発熱体を提供することが出来る。本発明における透明面状発熱体は、透明性及び視認性が高く、高いレベルの導電性を有しているため、例えば、寒冷地などの低温環境下における液晶表示素子の起動補助、道路標識や信号機等の融雪や凍結防止、冷凍、冷蔵ショーケースの窓部や、自動車の窓ガラスのデフロスター、などに好適に用いることができる。また、フレキシブル性を有しているため、曲面を有する部材用途にも利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記課題、つまり、透明性及び視認性が高く、モアレ現象が発生しにくく、導電部の抵抗値が低く、かつ均一な発熱が可能な高品位な面発熱特性を有する、フレキシブルな透明面状発熱体について、鋭意検討し、不規則なネットワーク状に導電性化合物が積層した導電層を有した導電性基板の導電層に1対以上の電極を備えることで、前記課題を一挙に解決することを究明したものである。つまり、導電性基板の導電層に、1対以上の電極を備えている透明面状発熱体であって、該導電性基板は、透明基板と導電層の積層体であり、該導電層が、不規則なネットワーク状であることを特徴とする透明面状発熱体の発明である。
【0012】
本発明の透明面状発熱体に使用される導電性基板は、透明基板と導電層の積層体であることが重要である。そして導電層は、導電性化合物により形成することが好ましい。導電層に好適に使用される導電性化合物は、例えば、金、銀、銅、白金、鉄、アルミニウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、錫、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ビスマス、などの金属、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子やカーボンナノチューブなど、導電性を示す化合物であれば、特に限定されないが、導電性の観点からは、導電性化合物としては金属が好ましく、金属は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、金属は純金属でなくても、後述する公知の導電化処理によって、最終的に所定の導電性が得られるものであれば良く、金属酸化物、有機酸金属塩、脂肪酸金属塩、各種化合物が被覆、結合した金属化合物なども選択できる。
【0013】
金属の形状は、不規則なネットワーク状導電層を形成できれば、特に限定されないが、ネットワーク構造の形成のしやすさの観点から、微粒子、粉末、繊維、ワイヤー等の形状が好ましい。
【0014】
本発明の透明面状発熱体中の導電層は、不規則なネットワーク状であることが重要である。つまり、導電性基板は、透明基板と不規則なネットワーク状の導電層の積層体である。
【0015】
ここで、不規則なネットワーク状導電層のネットワーク状の構造とは、いくつかの点を何本かの線分で結んだ構造のことを示す。つまり、本発明におけるネットワーク状の導電層とは、導電性化合物や後述する各種添加剤などで構成される線分が、複数の点で結ばれた構造を意味する。例えば、カーボンナノチューブのようなワイヤー状の導電性化合物であれば、該ワイヤー状導電性化合物同士が少なくとも1点以上の接点を有した状態で、絡み合ったり、重なり合ったりすることで、導電性を示す線分が形成され、該線分に囲まれた部分が開口部となり、不規則なネットワーク状の導電層となる。ここで、線分に囲まれた開口部は、透明性に寄与する。粒子状の導電性化合物であれば、粒子状導電性化合物同士がいくつも連結、接触、結合することで線分を形成し、これら粒子状導電性化合物で形成された線分がいくつかの点で重なり合い、囲まれた部分が開口部となることで、不規則なネットワーク状の構造を得ることができる。
【0016】
ここで、不規則なネットワーク状の構造における不規則とは、微分干渉顕微鏡等の観察像で特定することができ、線分で囲まれた開口部の構造について、形状、サイズが不揃いである状態、例えば、サイズが不揃いな円形や楕円形、四角形、五角形、六角形のような多角形であったり、これらが複合した形状であったりする状態を示す。例えば、不規則な形状としては、特開平10−312715号公報、特開2008−243547号公報などに記載の形状が挙げられる。
【0017】
本発明に使用されるネットワーク状の導電層の構造は、不規則であることが重要である。導電層が不規則なネットワーク状の構造であることで、規則正しく分布したものと重ねたときに、モアレ現象が発生しないためである。ここで、モアレ現象とは、「点または線が幾何学的に規則正しく分布したものを重ね合せた時に生ずる縞状の斑紋」であり、また広辞苑によれば、「点または線が幾何学的に規制正しく分布したものを重ね合わせた時に生ずる縞模様の斑紋。網版印刷物を原稿として網版を複製する時などに起こりやすい」との記載されている。そのため、例えば、液晶表示素子のような規則正しく素子が配列した用途のディスプレイ表面部分の凍結防止に、規則性のあるネットワーク状の構造の導電層を有する透明面状発熱体を適用した場合には、モアレ現象が発生しやすいが、本発明の不規則なネットワーク状の導電層を有する透明面状発熱体を適用した場合には、モアレ現象が発生しないため、本発明に使用されるネットワーク状の導電層の構造は、不規則であることが重要である。
【0018】
本発明における不規則なネットワーク状の導電層とは、上記のような導電性化合物によって構成された層であり、不規則なネットワーク状の導電層を形成するために必要であれば、導電層は、導電性化合物以外に、他の各種添加剤、例えば、分散剤、界面活性剤、保護樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、などの無機成分、有機成分を含有することができる。また、不規則なネットワーク状の導電層には、該導電層を形成するために必要でなくても、該導電層を有する導電性基板を、本発明の透明面状発熱体として用いるために必要である場合にも、上述したような各種添加剤を含有しても良い。
【0019】
本発明の透明面状発熱体は、その導電性基板の導電層側の面に、透明保護層を有することが好ましい。透明保護層を形成する樹脂は、特に限定されるものではないが、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等が挙げられ、例えば、紫外線硬化性樹脂としては、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等、熱硬化型樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。透明保護層は、透明面状発熱体の導電層側から前述の紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等を直接積層して形成してもよい。また、導電層に粘着層や接着層を設けた後、熱可塑性樹脂フィルムを透明保護層として積層しても良い。
【0020】
該熱可塑性樹脂フィルムとは、特に限定されるものではないが、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリル系フィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリウレタンフィルム、フッ素系フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムなどを用いることができる。
【0021】
該透明保護層は、本発明における不規則なネットワーク状の導電層の剥離、削れ等が発生しないように、保護することができればよい。また、透明面状発熱体は、発熱させるために通電しているため、透明保護層は絶縁体としての効果もある。そのため、該導電膜の保護、絶縁体としての役割を果たすことができれば、透明保護層の厚みは、導電層の厚みよりも厚ければ、特に限定されない。
【0022】
本発明の透明面状発熱体は、導電性基板の導電層に、1対以上の電極を備えていることが重要である。本発明の透明面状発熱体は、この電極に通電することにより発熱体として機能する。1対以上の電極とは、本発明の透明面状発熱体へ通電するための電極数が1対以上あることを示す。1対以上の電極を備えることで、透明面状発熱体が大型化した場合においても、複数箇所から電気を通電させることができるため、通電ムラが起こりにくくなる。そのため、透明面状発熱体全体の温度ムラが生じにくく、均一に温度を発熱することが可能となる。
【0023】
電極としては、導電性を有するものであれば如何なるものでも使用可能であるが、好ましい電極の例としては、導電性樹脂、金属箔、金属めっき層が挙げられ、これらを単独あるいは積層、多層または混合層とし、電極として使用することができる。接触抵抗の観点からすると、電極としてはより抵抗値が低いものを用いることが好ましい。
【0024】
電極の厚みは、本発明の透明面状発熱体に用いられる、不規則なネットワーク状の導電層が発熱面として機能するために必要な電流の通電が可能な程度の厚みがあれば良いが、通常、0.1μm以上であり、好ましくは0.5μm〜100μm、さらに好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜20μmである。
【0025】
本発明の透明面状発熱体に用いられる導電性基板の導電層の表面比抵抗値は、1〜100Ω/□であることが好ましい。より好ましくは、1〜30Ω/□、さらに好ましくは、1〜10Ω/□、特に好ましくは、1〜5Ω/□である。表面比抵抗値が100Ωより大きい場合でも、発熱することは可能であるが、そのためには高電力の印可を要するため、好ましくない。なお、表面比抵抗値は、低い方が好ましいものの、現実的に達成可能な下限は、1Ω/□程度と考えられ、そのため、1Ω/□程度が下限と考えられる。
【0026】
該導電層が金属分散液から形成され、該導電層が金属以外に絶縁性化合物が含まれている場合には、有機溶媒処理、酸処理、加熱処理、通電処理など、導電性を高めるための公知の方法を用いて該導電層の導電性を高め、表面比抵抗値を小さくする処理を行っても良い。
【0027】
前述の導電層の表面比抵抗値の測定は、例えば、常態(23℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下で、JIS-K-7194(1994年制定)に準拠した形で、ロレスタ-EP(三菱化学株式会社製、型番:MCP-T360)を用いて測定することができる。また、本発明の導電性基板が、導電層側の面に透明保護層を有する場合には、導電層の表面比抵抗値は、該透明保護層が除去できる場合には、除去して測定することで得られた値であり、除去できない場合には、該透明保護層を積層する前に測定した値である。
【0028】
本発明の透明面状発熱体の導電性基板の導電層は、透明基板上に金属分散液を塗布することによって、金属分散液中の金属が不規則なネットワーク状に透明基板上に積層された導電層であることが好ましい。金属分散液を塗布する方法は、公知の塗布方法、例えば、ダイコート法、アプリケーター法、マイクログラビア法、コンマコート法、スプレー法、ディッピング法、などを用いることができる。金属分散液を塗布する際に、基板と接触する接触式の塗布方法を用いた場合、基板と接触した部分がキズに発生し、金属分散液を塗布した際に、基板と接触した部分にスジが発生するなどの問題が生じる場合があるため、基板と接触しない非接触式の塗布方法が好ましい。
【0029】
本発明においては、導電層が不規則なネットワーク状の構造であることによって、透明性と視認性が高く、モアレ現象が発生しにくい基板を得ることができる。本発明における透明面状発熱体の全光線透過率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上である。全光線透過率が50%より小さいと、透明面状発熱体の透明性の点で問題が生じる場合がある。なお、透明面状発熱体の全光線透過率は高いほど好ましいが、現実的に95%よりも高くすることは困難と考えるため、上限は95%程度と考えられる。
【0030】
前述の通り、本発明の透明面状発熱体の導電性基板の導電層は、透明基板上に金属分散液を塗布することによって、金属分散液中の金属が不規則なネットワーク状に透明基板上に積層された導電層であることが好ましい。透明基板上に金属分散液を塗布する方法は、前述の通り、特に限定されないが、不規則なネットワーク状の導電層を形成させることができれば、限定されるものではない。例えば、金属分散液として、金属微粒子分散液、または金属酸化物微粒子分散液、または有機金属化合物分散液、またはこれらを2種以上混合した金属分散液などを、ネットワーク状に印刷する方法、不規則なネットワーク状の構造を形成する金属分散液を塗布する方法、前述の金属分散液を基板全面に塗布した後、該導電層がネットワーク状になるように物理的に削ったり、化学的にエッチング処理を行ったりする方法、基板を掘ったり、型押ししたりして、あらかじめ基板の少なくとも片面にネットワーク状の溝を作成しておき、そこに前述の溶液を充填させることで、ネットワーク状の導電層を得るなど、種々の方法を選択できる。
【0031】
この場合、金属分散液としては、ネットワーク状の導電層を形成するために必要であれば、金属以外に各種添加剤、例えば、分散剤、界面活性剤、保護樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、などの無機成分、有機成分を含有することができる。また、本発明の透明面状発熱体として用いるために必要である場合にも、上述したような各種添加剤を金属分散液に含有しても良い。
【0032】
金属分散液の溶媒としては、金属化合物の分散性や、各種添加剤の溶解性等を考慮して、水、各種の有機溶媒を用いることができ、不規則なネットワーク状の構造を形成するために、水と各種の有機溶媒の両方を含有した溶媒を用いることもできる。このような金属分散液としては、例えば、特開2006−127928号公報や特開2006−127929号公報に記載のような金属分散液が挙げられる。
【0033】
また、金属分散液を塗布する前に、不規則なネットワーク状の構造を形成することを目的として、透明基板の表面にコロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、薬品処理等の表面処理を施したり、アンカーコート剤やプライマー等のコーティングを施して、透明基板の表面の疎水性、親水性の度合いを調整しても良い。
【0034】
本発明の透明面状発熱体に用いる導電性基板の透明基板としては、熱可塑性樹脂フィルムを用いることが出来る。導電性基板を構成する透明基板が熱可塑性樹脂フィルムである場合、透明性、柔軟性、加工性などの点で好ましい。本発明でいう熱可塑性樹脂フィルムとは、熱によって溶融もしくは軟化するフィルムの総称であって、特に限定されるものではないが、代表的なものとして、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムやポリエチレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム、ポリ乳酸フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルムやポリスチレンフィルムなどのアクリル系フィルム、ナイロンなどのポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリウレタンフィルム、フッ素系フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムなどを用いることができる。
【0035】
これらは、ホモポリマーでも共重合ポリマーであってもよい。これらのうち、機械的特性、寸法安定性、透明性などの点で、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルムなどが好ましく、更に、機械的強度、汎用性などの点で、ポリエステルフィルムが特に好ましい。
【0036】
ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルとは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレン−2,6−ナフタレート、エチレン−α,β−ビス(2-クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートなどから選ばれた少なくとも1種の構成成分を主要構成成分とするものを好ましく用いることができる。これら構成成分は、1種のみ用いても、2種以上併用してもよいが、中でも品質、経済性などを総合的に判断すると、エチレンテレフタレートを主要構成成分とするポリエステル、すなわち、ポリエチレンテレフタレートを用いることが特に好ましい。また、基材に熱や収縮応力などが作用する場合には、耐熱性や剛性に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレートが更に好ましい。これらポリエステルには、更に他のジカルボン酸成分やジオール成分が一部、好ましくは20モル%以下共重合されていてもよい。
【0037】
また、このポリエステル中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0038】
上述したポリエステルの極限粘度(25℃のo−クロロフェノール中で測定)は、0.4〜1.2dl/gが好ましく、より好ましくは0.5〜0.8dl/gの範囲にあるものが本発明を実施する上で好適である。
【0039】
上記ポリエステルを使用したポリエステルフィルムは、二軸配向されたものであるのが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、一般に、未延伸状態のポリエステルシートまたはフィルムを長手方向および幅方向に各々2.5〜5倍程度延伸され、その後、熱処理が施されて、結晶配向が完了されたものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。
【0040】
ポリエステルフィルムの厚みは、特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは10〜500μm、より好ましくは38〜250μm、最も好ましくは75〜150μmである。また、ポリエステルフィルム基材は、共押出による複合フィルムであってもよい。一方、得られたフィルムを各種の方法で貼り合わせて用いることもできる。
【0041】
本発明の透明面状発熱体に用いる透明基板の導電層が積層されていない面、および透明保護層の上には、各種機能性層、例えば、粘着層、離型層、接着性付与層や、耐候性層などが設けられていてもよい。
【0042】
本発明の透明面状発熱体を構成する導電性基板の製造方法をより具体的に例示して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。二軸延伸ポリエステルフィルムに銀微粒子の溶液を公知の方法で塗布し、絶縁性化合物を含む導電層を不規則なネットワーク構造に形成する。その後、該導電層を有機溶媒で処理するために、二軸延伸ポリエステルフィルムごと有機溶媒に浸漬させ、0.1秒〜60分程度放置する。その後、二軸延伸ポリエステルフィルムを取り出してから、有機溶媒を30℃で乾燥させ、100℃以上で加熱処理を行う。これにより、不規則なネットワーク状の導電層が積層された導電性基板を得ることができる。
【0043】
次に、本発明の透明面状発熱体の製造方法をより具体的に例示して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。導電性基板の両端部に均一な幅の銅箔を平行に貼付することで、1対の電極を取り、ハードコート剤を公知の方法にて積層することで、透明保護層を備えた透明面状発熱体を得ることができる。
【0044】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
各実施例・比較例で作成した導電性基板の特性の測定方法及び効果の評価方法は次の通りである。
(1)導電性
導電性基板の導電層の導電性は、表面比抵抗値により評価した。表面比抵抗値の測定は、常態(23℃、相対湿度65%)において24時間放置後、その雰囲気下で、JIS−K−7194(1994年制定)に準拠した形で、ロレスタ-EP(三菱化学株式会社製、型番:MCP−T360)を用いて実施した。単位は、Ω/□である。なお、本測定器は1×10Ω/□以下が測定可能である。
(2)全光線透過率
全光線透過率は、常態(23℃、相対湿度65%)において、導電性基板を2時間放置した後、JIS−K―7375(2008年制定)に準拠した形で、スガ試験機(株)製全自動直読ヘイズコンピューター「HGM−2DP」を用いて測定した。3回測定した平均値を該透明面状発熱体の全光線透過率とした。全光線透過率が50%以上であれば透明性は良好である。なお、透明基板の片面のみに導電層を積層している透明面状発熱体の場合、導電層を積層した面側より光が入るように透明面状発熱体を設置した。
(3)表面観察(形状観察)
導電性基板の導電層の表面を微分干渉顕微鏡(LEICA DMLM ライカマイクロシステムズ(株)製)、または、走査型電子顕微鏡(S−2100A形日立走査電子顕微鏡、(株)日立製作所))を用いて観察し、不規則なネットワーク状の導電層が形成されているか否かを確認した。なお、表面観察は、任意で選択した3箇所の表面にて実施し、いずれの場所においても不規則なネットワーク構造が確認された場合、観察した導電層を有する透明面状発熱体は、不規則なネットワーク状の導電層を有すると判断した。
(4)発熱性評価
透明面状発熱体の発熱性評価としては、15cm×15cmの導電性基板(ネットワーク状金属微粒子積層基板)の導電層側の両端部5mm部分に銅テープを貼り電極を取り、所定の電流を通電した。
【0045】
電流を通電してから、5分後の中心表面温度(発熱温度)を放射型温度センサー(KEYENCE製、型番FT−H20)で測定した。測定した導電性基板上温度が、通電前の温度以上であれば、透明面状発熱体として使用することができ「○」とし、通電前の温度未満は「×」とした。
【実施例】
【0046】
次に、実施例に基づいて本発明を説明する。
(金属分散液)
金属分散液として、銀微粒子溶液である藤倉化成株式会社製XA―9053を用いた。
(透明樹脂層溶液)
透明保護層として市販のハードコート剤(JSR(株)製“オプスター”(登録商標)Z7534)をメチルイソブチルケトンで固形分濃度を40重量%になるように希釈した樹脂溶液を用いた。
(実施例1)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製 ルミラー(登録商標)U46)に、金属分散液をwet厚み30μmになるように基板にワイヤーバーで塗布し、150℃の熱風オーブン(タバイエスペック(株)製 PHH−200)で2分間、加熱処理を行い、透明基板の片面に導電層(銀微粒子層)を形成した。この積層基板の導電層(銀微粒子層)面にフォトレジストを積層し、露光した後、不規則なネットワーク状になるようにレジストを現像した。次いで、エッチングを行い、レジストの残っていない部分の銀微粒子を除去、水洗い、乾燥した。最後に、フォトレジストを除去し、不規則なネットワーク状の導電層を有する導電性基板を得た。
【0047】
該積層基板を25℃のアセトン(佐々木化学薬品(株)製)に2秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥後、該積層基板を150℃の熱風オーブン(タバイエスペック(株)製 PHH−200)で60秒間加熱処理を行った。得られた不規則なネットワーク状の導電層を有する導電性基板(ネットワーク状導電層積層基板)の表面比抵抗値は8.0Ω/□であり、全光線透過率は75%であった。
【0048】
次に、得られた不規則なネットワーク状の導電層を有する導電性基板を、15cm×15cmのサイズにカットし、該導電性基板の導電層側の面の両端部5mm部分に銅テープを貼付して、1対の電極を設けた。その後、透明樹脂層溶液をワイヤーバーで塗布し、該導電層状に積層して、透明保護層を有した透明面状発熱体を得た。この透明面状発熱体に、1Aの電流印可時の発熱性評価を行ったところ、発熱温度は30℃であり、通電前の温度が20℃であったため、発熱性は「○」であった。
(実施例2)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製 ルミラー(登録商標)U46)に、金属分散液をスクリーン印刷によって不規則なネットワーク状になるように印刷し、150℃の熱風オーブン(タバイエスペック(株)製 PHH−200)で2分間、加熱処理を行うことで、透明基板の片面に不規則なネットワーク状の導電層(銀微粒子層)を形成した。
【0049】
該積層基板を25℃のアセトン(佐々木化学薬品(株)製)に2秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥後、該積層基板を150℃の熱風オーブン(タバイエスペック(株)製 PHH−200)で60秒間加熱処理を行った。得られた不規則なネットワーク状の導電層を有する導電性基板(ネットワーク状導電層積層基板)の表面比抵抗値は7.4Ω/□であり、全光線透過率は70%であった。
【0050】
次に、得られた不規則なネットワーク状の導電層を有する導電性基板を15cm×15cmのサイズにカットし、該導電性基板の導電層側の面の両端部5mm部分に銅テープを貼付して、1対の電極を設けた。その後、透明樹脂層溶液をワイヤーバーで塗布し、該導電層状に積層して、透明保護層を有した透明面状発熱体を得た。この透明面状発熱体に、1Aの電流印可時の発熱性評価を行ったところ、発熱温度は30℃であり、通電前の温度が20℃であったため、発熱性は「○」であった。
(実施例3)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製 ルミラー(登録商標)U46)の金属分散液を塗布する面に、プライマー溶液をwet厚み12μmになるようにワイヤーバーで塗布し、親水性処理層を形成した。界面活性剤を溶解した30wt%の水溶液を含有した金属分散液を、wet厚み30μmになるように基板にワイヤーバーで塗布し、150℃の熱風オーブン(タバイエスペック(株)製 PHH−200)で2分間、加熱処理を行い、透明基板の片面に導電層(銀微粒子層)を形成した。この積層基板の導電層(銀微粒子層)は、不規則なネットワーク状であり、全光線透過率は80%であり、表面比抵抗値は30.4Ω/□であった。
【0051】
次に、該積層基板を25℃のアセトン(佐々木化学薬品(株)製)に2秒間浸漬させ、積層基板を取り出し、25℃で3分間乾燥させた。次に、この積層基板を150℃の熱風オーブン(タバイエスペック(株)製 PHH−200)で60秒間加熱処理を行った。得られた不規則なネットワーク状の導電層を有する導電性基板(ネットワーク状導電層積層基板)の表面比抵抗値は7.1Ω/□であり、全光線透過率は80%であった。
【0052】
次に、得られた不規則なネットワーク状の導電層を有する導電性基板を15cm×15cmのサイズにカットし、該導電性基板の導電層側の面の両端部5mm部分に銅テープを貼付して、1対の電極を設けた。その後、透明樹脂層溶液をワイヤーバーで塗布し、該導電層状に積層して、透明保護層を有した透明面状発熱体を得た。この透明面状発熱体に、1Aの電流印可時の発熱性評価を行ったところ、発熱温度は30℃であり、通電前の温度が20℃であったため、発熱性は「○」であった。
(実施例4)
実施例3と同様の手法にて得られた透明面状発熱体に、2Aの電流印可時したときの発熱性評価を行ったところ、発熱温度は45℃であり、通電前の温度が20℃であったため、発熱性は「○」であった。
(実施例5)
実施例3と同様の手法にて得られた透明面状発熱体に、2.5Aの電流印可時したときの発熱性評価を行ったところ、発熱温度は55℃であり、通電前の温度が20℃であったため、発熱性は「○」であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、均一に発熱することができる透明な面状発熱体に関し、特に、液晶表示素子、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、自動車用デフロスターなどに使用される透明面状発熱体に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板の導電層に、1対以上の電極を備えている透明面状発熱体であって、
該導電性基板は、透明基板と導電層の積層体であり、
該導電層が、不規則なネットワーク状であることを特徴とする、透明面状発熱体。
【請求項2】
前記導電性基板の導電層側の面に、透明保護層を有することを特徴とする、請求項1記載の透明面状発熱体。
【請求項3】
前記導電層の表面比抵抗値が1〜100Ω/□であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の透明面状発熱体。
【請求項4】
全光線透過率が50%以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の透明面状発熱体。
【請求項5】
前記導電層が、透明基板上に金属分散液を塗布することによって、金属が不規則なネットワーク状に透明基板上に積層された導電層であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の透明面状発熱体。

【公開番号】特開2011−154854(P2011−154854A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15010(P2010−15010)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】