説明

透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法

【課題】 よりコンパクトな設備で処理できる、透析排水を含む排水の処理方法の提供。
【解決手段】 透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法であって、前記排水の水質指標としてpHを測定する第1段階において、pHが6以下であるときは、中和処理をした後、膜分離処理、活性汚泥処理を行い、pHが6を超えているときは、電気伝導度と塩素濃度を測定する段階に移行し、前記排水の指標として電気伝導度と塩素濃度を測定する第2段階において、電気伝導度が10mS以上で、かつ塩素濃度が10mg/L以下のときには、中和処理をした後、膜分離処理、活性汚泥処理を行い、電気伝導度が10mS未満又は塩素濃度が10mg/Lを超えるときには、中和処理を行う、排水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機関における透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関での透析治療で発生する透析液を含む排水は、下記表1に示すように、前記透析液のほかに、透析装置を水洗浄したときの排水、次亜塩素酸塩水溶液で洗浄したときの排水、酢酸水溶液で洗浄したときの排水が含まれている。このため、透析液を含む排水はBODが1,000mg/L以上と高く、そのまま下水や河川に流すことはできず、中和処理や浄
化槽等の排水処理設備で処理する必要がある。
【0003】
また、異なる水質の排水が順次排出されるため、水質を平準化させるために貯留槽容積を大きくしたり、全排水をBOD処理するために曝気槽を大きくしたりしなければならない問題がある。
【0004】
【表1】

【0005】
患者一人当たりの透析液を含む排水量は1m3/日にもなるため、1つの医療機関当たりの処理量は大きく、全ての排水を処理するためには、処理レベルを落として処理するか、又は大かがりな排水処理設備を導入するしかなった。
【特許文献1】特開平4−341394号公報
【特許文献2】特開平7−299490号公報
【特許文献3】特許第3083991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、よりコンパクトな設備により、BOD除去率を高めることができる、透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、下記の各発明を提供する。
1.透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法であって、
前記排水の水質を1又は2以上の指標にて監視しながら、前記水質に応じて、中和処理、活性汚泥処理及び膜分離処理から選ばれる1の処理を適用して処理するか、或いは2又は3の処理法を組み合わせて適用して処理する、排水の処理方法。
2.前記水質監視の指標がpH、電気伝導度及び塩素濃度から選ばれるものである、請求項1記載の排水の処理方法。
3.前記排水が、患者を透析装置にて治療して生じる透析排水、前記透析装置を洗浄した水、前記透析装置を洗浄した次亜塩素酸塩水溶液及び前記透析装置を洗浄した酢酸水溶液の4種類を含んでいる、請求項1又は2記載の排水の処理方法。
4.透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法であって、
前記排水の水質指標としてpH、電気伝導度及び塩素濃度を測定し、
pHが6以下であるときは、中和処理をした後、活性汚泥処理及び/又は膜分離処理を行い、
pHが6を超えているときは、電気伝導度が10mS以上で、かつ塩素濃度が10mg/L以下のときには、中和処理をした後、活性汚泥処理及び/又は膜分離処理を行い、電気伝導度が10mS未満又は塩素濃度が10mg/Lを超えるときには、中和処理を行う、排水の処理方法。
5.請求項1〜4のいずれか1項記載の透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法において、
処理対象となる排水全量の一部量についてのみ、中和処理と、活性汚泥処理及び膜分離処理から選ばれる1の処理を行い、残部量の排水については中和処理のみを行い、その後、別々に処理した処理水を混合する、排水の処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の排水処理方法を適用すれば、従来よりも小型化された設備により、高い処理能力を発揮できるほか、運転コストの低減化も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1により、本発明の透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法を説明する。図1は、前記処理方法の処理フローを示した図である。
【0010】
透析治療により生じた透析排水を含む排水(以下、単に「排水」と称する)の組成(含有成分の種類と割合)は、医療機関により若干異なり、同じ医療機関であっても、曜日や時間帯等によって若干異なるものであるが、通常は、表1に示すような組成をしている。
【0011】
排水は、排水源(排水が流れるパイプ又は前記排水を一次貯水するタンク)から排水供給ラインにて、各処理部へ送られるが、その前の段階にて、水質監視部1により、所定の指標を監視する。
【0012】
前記所定の指標としては、排水の組成を考慮すると、pH、電気伝導度及び塩素濃度から選ばれる1つ、2つ又は3つが好ましく、3つ全てを監視指標とすることが好ましい。
【0013】
まず、開閉バルブ21を閉じた状態にて、水質監視部1において、排水ライン11aを通過する排水の水質のpH、電気伝導度及び塩素濃度を測定し、各指標に応じた処理をする。
【0014】
<排水のpHが6以下であるとき>
表1に示す排水組成から明らかなとおり、pHが6以下であるときは、酢酸含有排水の濃度が高いことになるため、中和処理と活性汚泥処理部及び/又は膜分離処理部による処理が必須となる。
【0015】
このため、排水のpHが6以下であるときは、開閉バルブ21を開けた状態にて、中和処理部2に送液して中和処理する。
【0016】
中和処理後の排水は、開閉バルブ23を閉じ、開閉バルブ24を開けた状態にて、送液ライン12から活性汚泥処理部及び/又は膜分離処理部3に送液して、処理する。その後、放流ライン13aから下水道乃至は河川(法律上の放流基準を満たしている場合)に放流する。
【0017】
活性汚泥処理部3は、活性汚泥槽と散気装置を備えたもの、膜分離部3は、中空糸膜、管状膜、平膜等の公知の各種分離膜を用いた処理装置を用いることができ、活性汚泥処理と膜分離処理を1つの槽内でできるようにしたものでもよい。活性汚泥処理部及び/又は膜分離処理部3としては、例えば、特開平11−156360号公報、特開平8−299979号公報、特開平9−294996号公報、特開2006−167550号公報に記載のものを用いることができる。
【0018】
膜分離処理部3と活性汚泥処理部3は、いずれか一方のみでもよいし、両方の併用してもよいし、1つの槽にて、膜分離処理と活性汚泥処理の両方ができるようにしたものでもよい。
【0019】
<排水のpHが6を超えているとき>
(1)排水の電気伝導度が10mS以上で、かつ塩素濃度が10mg/L以下のとき
表1に示す排水組成から明らかなとおり、
pHが6を超えているときは、酢酸含有排水量の割合が少なく、
電気伝導度が10mS以上(即ち、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のイオン量又は塩濃度が大きく、BODが高い)であるときは、透析液排水の割合が多く、
塩素濃度が10mg/L以下のときは、次亜塩素酸Na含有排水の割合が少ないことになる。
【0020】
よって、開閉バルブ21を開き、中和処理をした後、送液ライン12から活性汚泥処理部及び/又は膜分離処理3に送液して、処理する。その後、放流ライン13aから下水道乃至は河川(法律上の放流基準を満たしている場合)に放流する。
【0021】
(2)排水の電気伝導度が10mS未満又は塩素濃度が10mg/Lを超えるとき
表1に示す排水組成から明らかなとおり、
pHが6を超えているときは、酢酸含有排水量の割合が少なく、
電気伝導度が10mS未満(即ち、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のイオン量又は塩濃度が小さく、BODが低い)であるときは、透析液排水の割合が少なく、水洗浄排水の割合が多く、
塩素濃度が10mg/Lを超えるときは、次亜塩素酸Na含有排水の割合が多いことになる。
【0022】
よって、開閉バルブ21を開け、中和処理部2に送液して中和処理する。その後、開閉バルブ24を閉じ、開閉バルブ23を開けた状態にて、放流ライン13b、13aから下水道乃至は河川(法律上の放流基準を満たしている場合)に放流する。
【0023】
本発明の排水の処理方法としては、上記した方法により透析治療により生じた透析排水を含む排水を処理するとき、処理対象となる排水全量の一部量に対して、中和処理と、活性汚泥処理及び膜分離処理から選ばれる1の処理を行い、残部量の排水については中和処理のみを行い、その後、別々に処理した処理水を混合する方法を適用することもできる。
【0024】
下水道が未整備で、河川等に放流される地域では、BOD等を充分に低下させる必要がある。しかし、下水道が整備され、排水が下水処理場で処理される地域では、下水道に流すBODは650mg/L以下であればよい。
【0025】
このため、処理対象となる排水全量の一部量についてのみ中和処理と、活性汚泥処理及び膜分離処理から選ばれる1の処理を行うことでBODを低下させて処理水を得る(この処理水を「完全処理水」という)。
【0026】
そして、残部量の排水に対しては、中和処理のみを行い、BODはそのままの処理水を得る(この処理水を「部分処理水」という)。
【0027】
その後、完全処理水と部分処理水を混合して、pHが中性付近で、BODが下水道への放流基準を満たした処理水を得る。完全処理水を得るための排水全量に対する処理対象となる排水の割合は、BODが下水道への放流基準を満たした処理水が得られるような範囲で選択することができるが、約50%容量に相当する量を処理する方法が適用できる。
【0028】
このような完全処理水と部分処理水を得たのち、混合する方法を適用することで、活性汚泥処理及び膜分離処理に要する設備を小型化することができ、更に処理に要するエネルギー量も減少できるほか、環境にも悪影響を及ぼすことがない。
【実施例】
【0029】
実施例1
図1に示す処理フローにより、図2に示す手順で表1に示す排水を処理した。各処理部の詳細は、次のとおりである。なお、処理対象となった排水の全量は30m3であった。
【0030】
〔水質監視部1〕
処理装置の前後にインライン型の下記3種類の水質測定器を設置して、水質をモニタリングした。
pH測定:pHセンサーIS-I型(イワキ製)を用いて測定した。
電気伝導度の測定:電導度センサーCS150TC-Y型(イワキ製)を用いて測定した。
塩素濃度の測定:残留遊離塩素計FCL-80型(トーケミ製)を用いて測定した。
【0031】
〔中和処理部2〕
排水貯留部(容積6m3)を3つに仕切り、第2槽にpHセンサーIS-I型(イワキ製)と酸/アルカリ投入部を設置した。
【0032】
〔活性汚泥処理部及び膜分離部3〕
活性汚泥処理部及び膜分離部として、容積12m3の槽を用意した。この槽には、液入口と液出口が設けられ、内部には活性汚泥液が満たされている。槽の下流の底部には散気装置が設置され、更に槽の下流には浸漬型の膜分離装置(膜面積140m3)が設置されている。液入口から流入した液を活性汚泥処理した後、膜分離装置を用いて吸引濾過して(フラックス0.3m/日の一定流量)、処理液を得た。なお、処理中は、散気装置で曝気した。
【0033】
その結果、図2に示す
(I)の処理ラインの処理量は1.5m3(全処理量の5%)であり、pH6.8〜7.4、BOD2mg/L以下、塩素濃度0.5mg/L以下、
(II)→(III)の処理ラインの処理量は12m3(全処理量の40%)であり、pH6.9〜7.5、BOD2mg/L以下、塩素濃度0.5mg/L以下、
(II)→(IV)の処理ラインの処理量は16.5m3(全処理量の55%)であり、pH6.8〜7.4、BOD3mg/L以下、塩素濃度5mg/L以下であり、
全ての処理ラインの処理が完了するまでに要した時間は約14時間であった。この処理水は、河川にそのまま放流することができるものであった。
【0034】
比較例1
図1に示す処理フローにおいて、水質監視部1による水質監視をせず、全量を中和処理部2で処理し、更に全量を膜分離部/活性汚泥処理部3で処理した。その結果、処理が完了するまでに要した時間は約24時間であった。
【0035】
実施例1と比較例1との対比から明らかなとおり、本願発明の処理方法では、排水の水質を特定の指標をもとに監視して、水質に応じた処理を組み合わせて適用するため、同じ処理設備を使用した場合には、処理時間を短くできる。比較例1にて実施例1と同じ処理時間で処理しようとする場合には、処理設備を大型化して処理時間を短縮する必要があることになるから、本願発明の処理方法を適用することにより、従来よりも処理設備を小型化できるようになる。また、運転に要するエネルギー量も低減できることが考えられるため、運転コストの低減化も期待できる。
【0036】
実施例2
実施例1において、排水全量30m3の15m3量の排水についてのみ、実施例1と同様の処理を行い、完全処理水を得た。そして、残部量の15m3量の排水については、pH調整のみを行い、部分処理水を得た。その後、完全処理水と部分処理水を混合して、pH6.8〜7.6、BOD550mg/L以下、塩素濃度5mg/L以下の混合処理水を得た。この混合処理水は、下水道にそのまま放流することができるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の排水の処理方法の処理フローを示す図。
【図2】実施例1の処理フローの手順を示す図。
【符号の説明】
【0038】
1 水質モニター部
2 中和処理部
3 膜処理及び/又は活性汚泥処理部
11a、11b 排水供給ライン
12 中和処理後の排水の送液ライン
13a、13b 処理水の放流ライン
21−24 開閉バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法であって、
前記排水の水質を1又は2以上の指標にて監視しながら、前記水質に応じて、中和処理、活性汚泥処理及び膜分離処理から選ばれる1の処理を適用して処理するか、或いは2又は3の処理法を組み合わせて適用して処理する、排水の処理方法。
【請求項2】
前記水質監視の指標がpH、電気伝導度及び塩素濃度から選ばれるものである、請求項1記載の排水の処理方法。
【請求項3】
前記排水が、患者を透析装置にて治療して生じる透析排水、前記透析装置を洗浄した水、前記透析装置を洗浄した次亜塩素酸塩水溶液及び前記透析装置を洗浄した酢酸水溶液の4種類を含んでいる、請求項1又は2記載の排水の処理方法。
【請求項4】
透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法であって、
前記排水の水質指標としてpH、電気伝導度及び塩素濃度を測定し、
pHが6以下であるときは、中和処理をした後、活性汚泥処理及び/又は膜分離処理を行い、
pHが6を超えているときは、電気伝導度が10mS以上で、かつ塩素濃度が10mg/L以下のときには、中和処理をした後、活性汚泥処理及び/又は膜分離処理を行い、電気伝導度が10mS未満又は塩素濃度が10mg/Lを超えるときには、中和処理を行う、排水の処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の透析治療により生じた透析排水を含む排水の処理方法において、
処理対象となる排水全量の一部量についてのみ、中和処理と、活性汚泥処理及び膜分離処理から選ばれる1の処理を行い、残部量の排水については中和処理のみを行い、その後、別々に処理した処理水を混合する、排水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−269014(P2009−269014A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263672(P2008−263672)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】