説明

透過性ディスク、その製造方法及びそれを用いる浮上測定装置

【課題】 ヘッドの浮上量測定において、損傷を受けにくく、しかも低浮上量まで高精度に測定することができる透過性ディスク、その製造方法及びそれを用いる浮上測定装置を提供する。
【解決手段】 本発明におけるヘッドの浮上測定に用いる透過性ディスクは、透過性基板の片面にARコーティングを施すと共に、その反対面に潤滑剤コーティングを施してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドの浮上測定に用いる透過性ディスク、その製造方法及びそれを用いる浮上測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透過性ディスクとして例えばガラスディスクを用いる磁気ディスク装置のHeadの浮上測定装置は、低浮上化及び測定精度の向上に伴い干渉光量を用いる方法からPhaseシフト用いる測定方法に移行している。
【0003】
干渉光量による浮上測定では、校正としてガラスディスクに対するヘッドの浮上量が極めて小さい状態(数nm)から引きはがし動作が必要である。この時、ヘッドの浮上が不安定となり、ガラスディスクに接触することでガラスディスク表面に傷ができやすい。そこで潤滑剤をガラスディスクの片面にコーティングするようにした技術が知られている。(例えば特許文献1参照)。
【0004】
その後、技術の進歩により、磁気ディスク装置のHeadの浮上量は低くなる傾向にあり、Headの低浮上化及び測定精度の向上に伴い干渉光量を用いたPhaseシスト測定では、レーザーを使用する必要があるが、この時、ガラスディスク上面での反射によりPhaseシストに影響を及ぼしてしまう。これを避ける目的で、ARコートを設ける一方、干渉光量による測定で用いられた潤滑剤は、むしろ測定精度の向上を妨げるとしてその使用がされていなかった。なお、参考技術として、ガラスディスクやガラス面にARコートを設ける技術としては、下記文献が知られている(例えば特許文献2,3参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のPhaseシフトによる測定では、ガラスディスクの一方の面がARコートされるため、Headの浮上量における測定面はARコートがなされない他方の片面のみとなり、わずかの損傷で使えなくなっていた。また、低い浮上量まで測定しようとすると、ガラスディスクのうねりによりヘッドとガラスディスクが接触し、正確な浮上量を得ることができなかった。
【0006】
一方で、従来のように、この損傷防止のために潤滑剤をコーティングすることは、高精度化を妨げるという認識によりその使用がなされていなかった。
【0007】
ところが、本発明者によれば、Phaseシフトによる測定において、ARコートがなされたディスクの反対面に潤滑剤をコーティングし、その測定を行ったところ、ディスクの損傷が防止できるばかりか、より低い浮上量における領域まで、精度よく浮上量を測定できることが見出された。
【特許文献1】特開昭63−281284号公報
【特許文献2】特開平11−54053号公報
【特許文献3】特開2003−151111号公報
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、ヘッドの浮上量測定において、損傷を受けにくく、しかも低浮上量まで高精度に測定することができる透過性ディスク、その製造方法及びそれを用いる浮上測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明は、ヘッドの浮上測定に用いる透過性ディスクであって、透過性基板の片面にARコーティングを施すと共に、その反対面に潤滑剤コーティングを施してなるものである。
【0010】
また、本発明は、ヘッドの浮上測定に用いる透過性ディスクの製造方法であって、透過性基板の片面にARコーティングを施すと共に、その反対面に潤滑剤コーティングを施すことを特徴とするものである。
【0011】
さらに、本発明は、ヘッドの浮上測定を行う浮上測定装置であって、透過性ディスクと、該透過性ディスクの片面に対向するように設けられ、該透過性ディスクを介して前記透過性ディスクの反対面から浮上するヘッドに対して投光を行う投光器と、前記投光器から投光され、前記透過性ディスクの他の片面から反射された光と前記ヘッドにより反射された光との干渉を用いて前記ヘッドと前記透過性ディスクとの距離をヘッドの浮上量として測定する測定部とを備え、前記透過性ディスクは、透過性基板の片面にARコーティングが施されると共に、その反対面に潤滑剤コーティングが施されているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヘッドの浮上量測定において、損傷を受けにくく、しかも低浮上量まで高精度に測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図を用いて説明する。
【0014】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における透過性ディスクとしてのガラスディスクを示す側面図である。
【0015】
このガラスディスク1は、ディスク(透過性基板であるガラス基板GP)の片面1aにARコーティング1bを施すと共に、その反対面1cに潤滑剤コーティングであるLub(lube)コーティング1dを施したものである。
【0016】
ARコーティング1bは、従来より、レンズやディスプレイ(CRT)などのガラスの表面処理の一つとして知られており、CRTの表示面に照明や窓から外光の映り込みを抑えるために、特殊な表面処理が施されたものである。実施の形態1では、ガラスディスク1の片面1a表面に、屈折率の異なる二種類の薄膜をコーティングすることにより、表示面での外光の反射を防ぐようにしている。ARコーティング1bは、材質の屈折率と透過させる光の波長で決まる膜厚を持ち、その波長だけを透過させる。
【0017】
Lubコーティング1dはフッ素系潤滑剤として知られており、本実施の形態では、例えば1nmの厚さのものを使用している。
【0018】
実施の形態2.
図2は、本発明の実施の形態2における透過性ディスクとしてのガラスディスクを示す側面図である。
実施の形態2に示されるガラスディスク1Aでは、実施の形態1に示したガラスディスク1の片面1aのARコーティング1bが施された上面に、さらに実施の形態1で示したものと同じLubコーティング1dを施すようにしたものである。
【0019】
この実施の形態2におけるガラスディスク1Aは、実施の形態1と同様に、ディスク(ガラス基板GP)の片面1aにARコーティング1bを施した後、ディスク全体をLub剤である潤滑剤に浸漬して製造するようにしており、このような製造方法によれば、Lub剤のコーティングが極めて容易に行われると共に、ガラスディスク1の両面における損傷を防止できる。
【0020】
実施の形態3.
実施の形態3は、実施の形態1,2で説明したガラスディスクを用いるヘッド(例えば磁気ヘッド)の浮上測定装置について説明する。
図3は、磁気ヘッドの浮上量測定装置の全体構成を示したブロック図であり、図4は測定原理を示した一部拡大図である。
【0021】
この浮上測定装置は、実施の形態1(又は2)で説明した透過性ディスクであるガラスディスク1(1A)と、該ガラスディスク1の片面1aに対向するように設けられ、該ガラスディスク1を介してガラスディスク1の他の片面1c表面から浮上する磁気ヘッド2(スライダー)に対して投光を行うレーザ光源3a及び光学系3bを含む投光器3と、投光器3から投光され、ガラスディスク1の他の片面1cから反射された光と磁気ヘッド2により反射された光との干渉を検出する検出部4を有し、干渉を撮像するCCDカメラ5と、該CCDカメラ5の出力に基づいてPhaseシフト法による浮上量演算を行う演算部(PC)6とを備える。
【0022】
ここで、検出部4を有するCCDカメラ5と演算部6は本発明の測定部を構成している。
【0023】
なお、CCDカメラ5は光学ユニットを駆動するための光学ユニットXYステージ7に載置され、ガラスディスク1はスピンドルXYステージ8に取り付けられたスピンドルモータ9により回転駆動される。また磁気ヘッド(スライダー)2は、図示しない回転ステージにより回転されるヘッド支持部10に支持される。
【0024】
図5はガラスディスクの周速とヘッドの浮上量との測定結果を、従来のLubコーティングを行わなかったガラスディスク(通常ディスク)と本実施の形態1のガラスディスクとの比較において示している。横軸は、周速を示す。左側の縦軸は、浮上量を示し、測定結果のうち「通常ディスク」及び「LUB−ディスク」に対応する。右側の縦軸は、浮上量の標準偏差を示し、測定結果のうち「通常STD」及び「LUB−STD」に対応する。浮上量は、収束に対して単調増加であることが望ましい。浮上量の標準偏差は、収束に対して一定であることが望ましい。この測定結果に示されるように本実施の形態によれば、ガラスディスク1と磁気ヘッド2との距離が通常ディスクを使用した場合よりも、より短い距離(低浮上量領域)まで、その他の領域(高浮上領域)における通常ディスクにおける精度を維持したまま測定できることが明らかである。
【0025】
図6は、図5に示された測定における本実施の形態のガラスディスク1のN値(反射率)及びK値(減衰率)を通常ディスクと比較して示したテーブルである。
【0026】
このテーブルによれば、本実施の形態におけるガラスディスク1はLubコーティングしたにも拘わらず、そのコーティングをしない通常ディスクとN,K値が変わらず、光学的な検出精度が低下しないことも理解できる。
【0027】
なお、図5、図6は実施の形態1のガラスディスクについて示したが、実施の形態2のガラスディスクについてもほぼ同じ測定結果が得られている。これは、図6の測定値からも容易に想定できるものである。
【0028】
(付記1) ヘッドの浮上測定に用いる透過性ディスクであって、
透過性基板の片面にARコーティングを施すと共に、その反対面に潤滑剤コーティングを施してなる透過性ディスク。
(付記2) 付記1に記載の透過性ディスクにおいて、
前記片面のARコーティングが施された上面に、さらに前記潤滑剤コーティングを施してなる透過性ディスク。
(付記3) 付記1又は付記2に記載の透過性ディスクにおいて、
前記潤滑剤は、フッ素系潤滑剤である透過性ディスク。
(付記4) 付記1乃至付記3のいずれかに記載の透過性ディスクにおいて、
前記透過性基板はガラス基板により構成されている透過性ディスク。
(付記5) ヘッドの浮上測定に用いる透過性ディスクの製造方法であって、
透過性基板の片面にARコーティングを施すと共に、その反対面に潤滑剤コーティングを施すことを特徴とする透過性ディスクの製造方法。
(付記6) 付記5に記載の透過性ディスクの製造方法において、
透過性基板の片面にARコーティングを施した後、前記透過性基板全体を潤滑剤に浸漬してなる透過性ディスクの製造方法。
(付記7) ヘッドの浮上測定を行う浮上測定装置であって、
透過性ディスクと、
該透過性ディスクの片面に対向するように設けられ、該透過性ディスクを介して前記透過性ディスクの反対面から浮上するヘッドに対して投光を行う投光器と、
前記投光器から投光され、前記透過性ディスクの他の片面から反射された光と前記ヘッドにより反射された光との干渉を用いて前記ヘッドと前記透過性ディスクとの距離をヘッドの浮上量として測定する測定部とを備え、
前記透過性ディスクは、透過性基板の片面にARコーティングが施されると共に、その反対面に潤滑剤コーティングが施されている浮上測定装置。
(付記8) 付記7に記載の浮上測定装置において、
前記透過性基板の前記片面のARコーティングが施された上面に、さらに前記潤滑剤コーティングを施してなる浮上測定装置。
(付記9) 付記7又は付記8に記載の浮上測定装置において、
前記潤滑剤は、フッ素系潤滑剤である浮上測定装置。
(付記10) 付記7乃至付記9のいずれかに記載の浮上測定装置において、
前記透過性基板はガラス基板により構成されている浮上測定装置。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1における透過性ディスクとしてのガラスディスクを示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態2における透過性ディスクとしてのガラスディスクを示す側面図である。
【図3】磁気ヘッドの浮上量測定装置の全体構成を示したブロック図である。
【図4】本実施の形態の測定原理を示した一部拡大図である。
【図5】ガラスディスクの周速とヘッドの浮上量との測定結果を、従来のLubコーティングを行わなかったガラスディスク(通常ディスク)と本実施の形態1のガラスディスクとの比較において示したグラフである。
【図6】本実施の形態のガラスディスク1のN値(反射率)及びK値(消衰係数)を通常ディスクと比較して示したテーブルである。
【符号の説明】
【0030】
1、1A ガラスディスク(透過性ディスク)、1a ディスク(ガラス基板)片面、1b ARコーティング、1c ディスク(ガラス基板)の他の面(反対面)、1d Lub(フッ素系潤滑剤)コーティング、2 磁気ヘッド(ヘッド)、3 投光器、4 検出部、5 CCDカメラ、6 演算部、GP ガラス基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドの浮上測定に用いる透過性ディスクであって、
透過性基板の片面にARコーティングを施すと共に、その反対面に潤滑剤コーティングを施してなる透過性ディスク。
【請求項2】
請求項1に記載の透過性ディスクにおいて、
前記片面のARコーティングが施された上面に、さらに前記潤滑剤コーティングを施してなる透過性ディスク。
【請求項3】
ヘッドの浮上測定に用いる透過性ディスクの製造方法であって、
透過性基板の片面にARコーティングを施すと共に、その反対面に潤滑剤コーティングを施すことを特徴とする透過性ディスクの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の透過性ディスクの製造方法において、
透過性基板の片面にARコーティングを施した後、前記透過性基板全体を潤滑剤に浸漬してなる透過性ディスクの製造方法。
【請求項5】
ヘッドの浮上測定を行う浮上測定装置であって、
透過性ディスクと、
該透過性ディスクの片面に対向するように設けられ、該透過性ディスクを介して前記透過性ディスクの反対面から浮上するヘッドに対して投光を行う投光器と、
前記投光器から投光され、前記透過性ディスクの他の片面から反射された光と前記ヘッドにより反射された光との干渉を用いて前記ヘッドと前記透過性ディスクとの距離をヘッドの浮上量として測定する測定部とを備え、
前記透過性ディスクは、透過性基板の片面にARコーティングが施されると共に、その反対面に潤滑剤コーティングが施されている浮上測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−140426(P2008−140426A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322821(P2006−322821)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】