説明

通信ケーブルおよび該通信ケーブルの製造方法

【課題】既存の設備を用いて低コストで製造することができる伝送波形の歪み緩和機能を備えた通信ケーブルを提供する。
【解決手段】絶縁被覆電線からなるコア線14と、前記コア線14を包囲する絶縁樹脂製のシース17(外層)と、少なくとも端子が接続される前記コア線14の端末側において、該コア線14と前記外層17との間に充填されて封止されている粘性を有する磁性流体20と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信ケーブルおよび該通信ケーブルの製造方法に関し、詳しくは、車載LAN等の通信ネットワークに使用され、伝送波形の歪みを緩和する機能を備えた通信ケーブルおよび該通信ケーブルを容易かつ低コストで製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載LAN等の通信ネットワークにおいて、1つの通信機器から別の通信機器へ信号を伝送する際に、電気的または磁気的ノイズや分岐部で生じる反射によって伝送波形に歪みが発生して通信が正常に行われない場合がある。そのため、伝送波形の歪みを改善するために種々の技術が提供されている。
【0003】
例えば、特開2004−158328号公報(特許文献1)で提供されているノイズ抑制ケーブル1は、図6に示すように、絶縁電線2の外周を金属編組線からなる導電性シールド3とシース層4で順に被覆しており、該シース層4を樹脂に磁性粉を混合した磁性粉混合シース層5と、該磁性粉混合シース層5の外周を被覆する樹脂からなる保護シース層6との二層構造としている。前記磁性粉混合シース層5と保護シース層6は、両層を導電性シールド3の外周に同時に押出し被覆している。
【0004】
前記特許文献1で提供されているノイズ抑制ケーブル1によれば、磁性粉混合シース層5により伝送波形の歪みを緩和することができる。
しかし、絶縁電線2を被覆するシース層4を磁性粉混合シース層5と保護シース層6からなる二層構造とし、これら磁性粉混合シース層5と保護シース層6の両層を導電性シールド3の外周に同時に押出し被覆しているため、ノイズ抑制ケーブル1を製造するために新たな設備が必要となり、コスト高になる問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−158328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、既存の設備を用いて低コストで製造することができる伝送波形の歪み緩和機能を備えた通信ケーブルを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、第1の発明として、絶縁被覆電線からなるコア線と、
前記コア線を包囲する絶縁樹脂製の外層と、
少なくとも端子が接続される前記コア線の端末側において、該コア線と前記外層との間に充填されて封止されている粘性を有する磁性流体と、
を備えていることを特徴とする通信ケーブルを提供している。
【0008】
前記構成からなる本発明の通信ケーブルによれば、磁性流体をコア線と該コア線を包囲する外層との間に充填しているため、該磁性流体によって伝送波形の歪みを緩和することができる。
また、コア線と外層との間に磁性流体を充填するだけであるため、通信ケーブルが大幅に大径化することがなく、かつ、既存の設備により製造した通信ケーブルを用いることができ、低コスト化を図ることができる。
【0009】
本発明の通信ケーブルがシールド線からなる場合には、前記コア線はツイストペア電線またはツイストされていない複数本の電線からなり、
前記コア線とシースからなる前記外層との間に金属箔テープを巻き付けたシールド層が介在し、該シールド層と前記コア線との隙間およびコア線同士の隙間に前記磁性流体が充填されている。
【0010】
前記構成によれば、複数本のコア線に金属箔テープを巻き付けると、シースを押しだし成形で形成しても、前記金属箔テープからなるシールド層の間およびコア線同士の間に隙間が形成されるため、この隙間に前記磁性流体を充填することができる。
【0011】
前記磁性流体は、高粘度の分散媒質に磁性粉末を分散させたものからなる。
詳細には、前記磁性粉末は、Mn−Zn系複合フェライト、マグネタイトからなるナノ単位の微粒粉末からなり、該磁性粉末をオイルからなる前記分散媒質に分散させ、20〜50℃における粘度が100〜20000mPaであることが好ましい。
前記磁性流体中の磁性粉末の濃度を30〜80%としていることが好ましい。
【0012】
前記磁性流体の粘度が100mPaより低いと磁性流体がコア線とシールド層の間の隙間を流れて、所定位置に磁性流体を充填しておくことができないからであり、20000mPaより高いとコア線のシールド層との間に注入しにくくなる。
【0013】
前記分散媒質としては、炭化水素系オイルであるイソパラフィン、アルキルナフタレン、フッ素系オイルであるパーフルオロポリエーテル等が挙げられる。
フェライト等の磁性粉末の表面に脂肪酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルカルボキシベタイン等からなる界面活性剤を吸着させており、該界面活性剤により磁性粉末を凝集させることなく分散媒質に分散させていることが好ましい。
前記分散媒質に分散させる磁性粉末としては、フェライト、マグネタイトの他にコバルト基アモルファス、パーマロイ、鉄基アモルファス、ケイ素鋼等が挙げられる。
【0014】
前記磁性流体は、前記外層の先端に近接する位置に、通信ケーブルの長さ方向に5〜10cmの範囲にかけて充填していることが好ましい。
前記磁性流体を充填する範囲が、5cm未満の範囲であると十分に伝送波形の歪みを緩和することができないおそれがあり、10cmの範囲より広い範囲とすると通信ケーブルの端末部における柔軟性が低下するからである。
【0015】
前記磁性流体の充填領域の前記コア線は、その絶縁被覆層を中間皮剥ぎして芯線を露出させ、該芯線の露出部に前記磁性流体が浸透されて該コア線の止水処理がされていることが好ましい。
前記構成によれば、磁性流体によって伝送波形の歪みを緩和するだけでなく、磁性流体をコア線の素線間に浸透させることによりコア線内に浸透した水を磁性流体により止水し、コネクタへの浸水を防止することができる。
【0016】
また、本発明は、第2の発明として、前記通信ケーブルの製造方法を提供している。
該方法は、前記複数本のコア線に、金属箔テープを巻き付けてシールド層を設け、
ついで、前記シールド層の外周に絶縁樹脂を押しだし成形して前記シースを設け、
ついで、前記シースを先端から所要寸法で剥離して、端末に端子が圧着されるコア線を所要寸法引き出し、
ついで、前記剥離されたシースの先端から、前記シールド層と前記コア線との隙間に前記粘性を有する磁性流体を注入し、
前記磁性流体を所要量注入した後に、前記シースの先端を粘着テープを巻き付け、または接着樹脂を塗布して硬化させ、注入した磁性流体を封止している。
【0017】
前記方法によれば、既存の通信ケーブルのコア線とシールド層の間の隙間に磁性流体を充填するだけで伝送波形の歪み緩和機能を有する通信ケーブルを容易かつ低コストで製造することができる。
また、シースの先端を粘着テープを巻き付け、または接着樹脂を塗布して硬化させ、注入した磁性流体を封止しているため、シースの先端から磁性流体が流れ出るのを防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
前述したように、第1の本発明の通信ケーブルによれば、磁性流体をコア線と外層との間に充填しているため、該磁性流体によって伝送波形の歪みを緩和することができる。
また、第2の発明の通信ケーブルの製造方法によれば、コア線とシールド層との間の隙間に磁性流体を充填しているだけであるため、通信ケーブルが大幅に大径化することがなく、かつ、既存の設備により製造した通信ケーブルを用いることができ、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1及び図2に、本発明の第1実施形態を示す。
本実施形態の通信ケーブル10は、自動車に搭載された電子制御ユニット間のCAN通信回路を構成するシールド線である。
【0020】
前記通信ケーブル10は、1組のツイストペア電線からなるコア線14と絶縁被覆されていない1本のドレン線15を備えている。コア線14は、芯線11を絶縁被覆層12で被覆した2本の絶縁被覆電線13A、13Bを撚り合わせてツイストペア電線としている。これらコア線14、ドレン線15にアルミ箔を接着したポリエステルテープからなる金属箔テープを巻回してシールド層16を設け、該シールド層16の外周面に押出し成形により絶縁樹脂製のシース17(外層)を設けて、コア線14およびドレン線15をシールド層16とシース17で順に被覆している。
前記シールド層16の内面とコア線14の外面の間およびコア線同士の間の隙間Sに、粘性を有する磁性流体20を充填している。
【0021】
前記磁性流体20は、イソパラフィンからなる分散媒質にMn−Zn系複合フェライトからなるナノ単位の磁性微粒粉末を分散させたものからなる。フェライトの表面にアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムからなる界面活性剤を吸着させ、該界面活性剤によりフェライトを凝集させることなく分散媒質に分散させている。
また、磁性流体の粘度は100〜20000mPa、磁性流体中の磁性粉末の濃度は30〜80%であり、本実施形態では、磁性流体の粘度を1000mPa、磁性流体中の磁性粉末の濃度を40%としている。
【0022】
前記通信ケーブル10のシールド層16とシース17の先端10aの開口より磁性流体20を注入して、充填している。該磁性流体20を充填する範囲は、先端10aから5〜10cmの範囲としている。本実施形態では、通信ケーブル10の長さ方向に8cmの範囲に磁性流体20を充填している。
【0023】
また、前記先端10aよりコア線14とドレン線15を引き出し、先端10aと該先端10aから引き出したコア線14及びドレン線15に粘着テープTを巻きつけて、先端10aの開口を閉鎖して磁性流体20を封止している。
【0024】
前記コア線14の絶縁被覆電線13AがCAN−H回路を構成する一方、絶縁被覆電線13BがCAN−L回路を構成し、その端末に端子30を接続し、該端子30をコネクタ31に収容している。該コネクタ31は自動車に搭載された電子制御ユニット(図示せず)に実装している。また、ドレン線15の端末にはアース端子(図示せず)を接続し、該アース端子を車体パネルにボルト締めされて接地し、あるいは前記コネクタ31内のアース端子と接続している。
【0025】
次に、前記通信ケーブル10の製造方法について説明する。
前記コア線14とドレン線15に、図2(A)に示すように、金属箔テープを巻き付けてシールド層16を設ける。
ついで、前記シールド層16の外周に絶縁樹脂を押しだし成形してシース17を設ける。
ついで、図2(B)に示すように、前記シールド層16とシース17を先端から所要寸法で剥離して、コア線14とドレン線15を所要寸法引き出す。
ついで、図2(C)に示すように、前記剥離されたシールド層16とシース17の先端10aの開口から、シールド層16とコア線14との隙間Sに磁性流体20を注入する。
ついで、磁性流体20を所要量注入した後に、図1(A)に示すように、シース17の先端10aに粘着テープTを巻き付け、注入した磁性流体20を封止する。
最後に、コア線14の端末を皮剥ぎして端子30を接続し、ドレン線15の端末にアース端子を接続する。
なお、コア線14およびドレン線15に端子を接続した後にコア線14とシールド層16の間の隙間Sに磁性流体を充填してもよい。
【0026】
前記構成によれば、磁性流体20をコア線14とシールド層16との間の隙間Sに充填しているため、該磁性流体20によって伝送波形の歪みを緩和することができる。
また、コア線14とシールド層16との間の隙間Sに磁性流体20を充填しているだけであるため、通信ケーブル10が大幅に大径化することがなく、かつ、既存の設備により製造したシールド線を用いることができ、低コスト化を図ることができる。
【0027】
なお、通信ケーブル10はシールド線に限らず、シールド層を備えていないケーブルであってもよい。この場合には、コア線14と外層の間に磁性流体を充填することができる隙間を設ける必要がある。よって、例えば、外層を押出し成形とせずに予め作成された樹脂チューブにコア線14を通し、該コア線14と外層となる樹脂チューブとの間に隙間を設け、この隙間に粘性を有する磁性流体を所定量注入している。
また、通信ケーブル10のコア線14はツイストペア電線に限らず、ツイストしていない電線からなるコア線であってもよい。
【0028】
図3に、第1実施形態の変形例を示す。
本変形例では、シース17の先端10aの先端にテープ巻きするのではなく、接着樹脂18を塗布して硬化させ、コア線14とシールド層16の隙間Sに注入した磁性流体20を封止している。
【0029】
図4に、本発明の第2実施形態を示す。
本実施形態では、1本の通信ケーブル10に、2本の絶縁被覆電線13A、13Bを撚り合わせた2組のツイストペア電線14A、14Bを備え、これら2組のツイストペア電線14Aと14Bをまとめてシールド層16とシース17で被覆している。
前記ツイストペア電線14A、14Bとシールド層16との間の隙間Sおよびツイストペア電線14Aと14Bとの間の隙間S’に磁性流体20を充填している。
【0030】
前記構成によれば、複数組のツイストペア電線14A、14Bを備えた通信ケーブル10であっても、磁性流体20により伝送波形の歪みを緩和することができる。
なお、通信ケーブル10のコア線14は、2組に限らず3組以上であってもよい。
他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0031】
図5に、本発明の第3実施形態を示す。
本実施形態では、コア線14’がツイストされていない複数本の絶縁被覆電線からなり、磁性流体20の充填領域のコア線14’は、その絶縁被覆層12を中間皮剥ぎして芯線11を露出させ、該芯線11の露出部11aに磁性流体20を浸透させて該コア線14’の止水処理がされている。
【0032】
前記構成によれば、前記実施形態と同様、磁性流体20により伝送波形の歪みを緩和することができると共に、磁性流体20をコア線14’の芯線11の素線間に浸透させているため、コア線14’内に浸水した水を磁性流体20により止水することができる。
なお、本実施形態においても、コア線は前記実施形態と同様のツイストペア電線としてもよい。
他の構成及び作用効果は第1実施形態と同様のため、同一の符号を付して説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態の通信ケーブルを示し、(A)は長さ方向の概略断面図、(B)はA−A線断面図である。
【図2】(A)〜(C)は通信ケーブルの製造方法を示す図面である。
【図3】第1実施形態の変形例を示す図面である。
【図4】本発明の第2実施形態の通信ケーブルを示し、(A)は長さ方向の概略断面図、(B)はB−B線断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態の通信ケーブルを示し、(A)は長さ方向の概略断面図、(B)はC−C線断面図である。
【図6】従来例を示す図面である。
【符号の説明】
【0034】
10 通信ケーブル
11 芯線
11a 露出部
14 コア線
14A、14B ツイストペア電線
16 シールド層
17 シース
20 磁性流体
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被覆電線からなるコア線と、
前記コア線を包囲する絶縁樹脂製の外層と、
少なくとも端子が接続される前記コア線の端末側において、該コア線と前記外層との間に充填されて封止されている粘性を有する磁性流体と、
を備えていることを特徴とする通信ケーブル。
【請求項2】
前記コア線はツイストペア電線またはツイストされていない複数本の電線からなり、
前記コア線とシースからなる前記外層との間に金属箔テープを巻き付けたシールド層が介在し、該シールド層と前記コア線との隙間およびコア線同士の隙間に前記磁性流体が充填されている請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項3】
前記磁性流体は、高粘度の分散媒質に磁性粉末を分散させたものからなる請求項1または請求項2に記載の通信ケーブル。
【請求項4】
前記磁性粉末は、Mn−Zn系複合フェライト、マグネタイトからなるナノ単位の微粒粉末からなり、該磁性粉末をオイルからなる前記分散媒質に分散させ、20〜50℃における粘度が100〜20000mPaである請求項3に記載の通信ケーブル。
【請求項5】
前記磁性流体の充填領域の前記コア線は、その絶縁被覆層を中間皮剥ぎして芯線を露出させ、該芯線の露出部に前記磁性流体が浸透されて該コア線の止水処理がされている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の通信ケーブル。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載の通信ケーブルの製造方法であって、
前記複数本のコア線に、金属箔テープを巻き付けてシールド層を設け、
ついで、前記シールド層の外周に絶縁樹脂を押しだし成形して前記シースを設け、
ついで、前記シースを先端から所要寸法で剥離して、端末に端子が圧着されるコア線を所要寸法引き出し、
ついで、前記剥離されたシースの先端から、前記シールド層と前記コア線との隙間に前記粘性を有する磁性流体を注入し、
前記磁性流体を所要量注入した後に、前記シースの先端を粘着テープを巻き付け、または接着樹脂を塗布して硬化させ、注入した磁性流体を封止している通信ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−224075(P2009−224075A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64946(P2008−64946)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】