説明

通信システム、通信装置、及び通信方法

【課題】大幅なコストの上昇を招かずに複数の親局の時刻を高精度に同期させることが可能な通信システム、通信装置、及び通信方法を提供する。
【解決手段】通信システム1は、子局11a〜11cとの間で同期無線通信が可能な無線通信ネットワークN1を形成する親局12a,12bと、親局12a,12bとバックボーンネットワークN2を介して接続される制御局13とを備えており、制御局13は、親局12a,12bの時刻を同期させる時刻情報T1を、バックボーンネットワークN2を介して親局12a,12bの各々に送信し、親局12a,12bの何れか一方は、制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせを行い、親局12a,12bの何れか他方は、親局12a,12bの何れか一方から無線通信ネットワークN1を介して送信されてくる報知情報(報知情報T2又はT3)を用いて時刻合わせを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、通信装置、及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラントや工場等においては、高度な自動操業を実現すべく、フィールド機器と呼ばれる現場機器(測定器、操作器)と、これらを制御する制御装置とが通信手段を介して接続された分散制御システム(DCS:Distributed Control System)が構築されている。このような分散制御システムの基礎をなす通信システムは、有線によって通信を行うものが殆どであったが、近年においては、ISA100.11a等の無線通信規格に準拠した無線によって通信を行うものも実現されている。ここで、上記のISA100.11aは、国際計測制御学会(ISA:International Society of Automation)で策定されたインダストリアル・オートメーション用無線通信規格である。
【0003】
上記の無線通信規格ISA100.11aに準拠した通信システムは、大別すると、制御装置としてのシステムマネージャ(制御局)、システムマネージャに接続されたバックボーンルータ(親局)、及びバックボーンルータとの間で無線通信を行う無線フィールド機器(子局)から構成される。システムマネージャ及びバックボーンルータは、例えばバックボーンネットワークと呼ばれる非同期通信ネットワークに接続され、バックボーンルータ及び無線フィールド機器は、同期無線通信ネットワークに接続される。尚、バックボーンネットワークは、有線通信ネットワークで実現されることもあれば、無線通信ネットワークで実現されることもある。
【0004】
以下の非特許文献1には、親局と子局との間の通信方式として時分割多重通信方式を用いるとともに、複数の親局を互いに離間した状態に設置(冗長化)して子局から送信された信号を複数の親局で同時に受信することにより、信頼性が高く遅延時間を保証し得る通信システムが開示されている。また、以下の非特許文献2には、遅延時間が大きく変動するイーサネット(登録商標)等のネットワーク上で機器間の時刻を高精度に同期させる方法が開示されている。以下の特許文献1,2には、IEEE802.11等の無線LAN(Local Area Network)規格において、無線LANに固有の伝送遅延の揺らぎを回避する技術が開示されている。更に、以下の特許文献3には、時分割多重通信方式によって通信を行う複数の親局が共存する場合に、親局同士が直接時間同期を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−50761号公報
【特許文献2】特開2009−111654号公報
【特許文献3】特開2007−6079号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“ISA-100.11a-2009 Wireless systems for industrial automation: Process control and related applications”,9.1.9.4.7 Duocast transaction
【非特許文献2】“IEEE Std 1588-2008 IEEE Standard for a Precision Clock Synchronization Protocol for Networked Measurement and Control Systems”,IEEE Instrumentation and Measurement Society,6.5 PTP device types - 6.6 Synchronization overview
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した非特許文献1に開示された通信システムのように複数の親局を備える通信システムでは、親局の時刻を高精度に同期させる必要がある。上述した非特許文献1に開示された通信システムは、制御局がバックボーンネットワークを介して時刻情報を複数の親局に送信し、この時刻情報に基づいた時刻合わせを親局の各々が行うことによって親局の時刻を同期させている。
【0008】
ここで、近年においては、コスト低減のために、バックボーンネットワークを構成する機器としてイーサネット(登録商標)等で用いられる汎用的な機器(例えば、ルータやハブ)が用いられ、時刻を同期させる手段としてNTP(Network Time Protocol)等の汎用的なプロトコルが用いられる場合がある。このような汎用的な機器等が用いられる場合には、同期精度が悪化するため、例えば上記の非特許文献2に開示された方法を用いて親局の同期精度を高める必要がある。しかしながら、非特許文献2に開示された方法を用いると、汎用的な機器を用いることによるコスト低減のメリットが無くなり、却ってコストが上昇してしまうという問題がある。このコストには、例えば、機器の価格の他、バックボーンネットワークの設計、機器の選定、設置工事、設定、試験、保守にかかわるトータルのコストがある。
【0009】
また、バックボーンネットワークが無線通信ネットワークで実現される場合には、伝送遅延の揺らぎが生ずることが多い。例えば、IEEE802.11等の無線LANでは、通信プロトコルで用いられているCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance)に起因する大きな伝送遅延の揺らぎが主ずる。このような伝送遅延の揺らぎが生ずると、親局の時刻を高精度に同期させることが困難になる。ここで、前述した特許文献1,2に開示された方法を用いれば無線LANに固有の伝送遅延の揺らぎを回避することができると考えられるものの、コスト上昇が避けられないという問題がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、大幅なコストの上昇を招かずに複数の親局の時刻を高精度に同期させることが可能な通信システム、通信装置、及び通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の通信システムは、子局(11a〜11c)との間で同期無線通信が可能な第1ネットワーク(N1)を形成する第1,第2親局(12a、12b、15a、15b)と、該第1,第2親局と第2ネットワーク(N2、N3)を介して接続される制御局(13)とを備える通信システム(1〜3)において、前記制御局は、前記第1,第2親局の時刻を同期させる時刻情報(T1)を、前記第2ネットワークを介して前記第1,第2親局の各々に送信し、前記第1,第2親局の何れか一方は、前記制御局からの時刻情報を用いて時刻合わせを行い、前記第1,第2親局の何れか他方は、前記第1,第2親局の何れか一方から前記第1ネットワークを介して送信されてくる前記時刻情報を報知する情報である報知情報(T2、T3)を用いて時刻合わせを行うことを特徴としている。
この発明によると、制御局からの時刻情報を用いて第1,第2親局の何れか一方の時刻合わせが行われるとともに、第1,第2親局の何れか一方から第1ネットワークを介して送信されてくる報知情報を用いて第1,第2親局の何れか他方の時刻合わせが行われる。
また、本発明の通信システムは、前記第1,第2親局が、前記制御局からの時刻情報を受信した場合に、前記第1ネットワークを介して前記第2,第1親局に向けて前記報知情報を互いに送信するとともに、前記第2,第1親局から前記第1ネットワークを介して送信されてくる前記報知情報を互いに受信することを特徴としている。
また、本発明の通信システムは、前記第1,第2親局が、前記第2,第1親局から前記第1ネットワークを介して送信されてくる前記報知情報の受信品質を示す受信品質情報を、前記第2ネットワークを介して前記制御局にそれぞれ送信し、前記制御局が、前記第1,第2親局からの前記受信品質情報に基づいて、前記第1,第2親局に対し、前記制御局からの時刻情報を用いた時刻合わせを行うマスターになるのか、前記報知情報を用いた時刻合わせを行うスレーブになるのかを指示することを特徴としている。
また、本発明の通信システムは、前記第1,第2親局の何れか他方が、前記第1,第2親局の何れか一方からの前記報知情報が受信できない場合には、前記制御局からの時刻情報を用いて時刻合わせを行うことを特徴としている。
また、本発明の通信システムにおいて、前記第1,第2親局の何れか他方は、前記第1,第2親局の何れか一方からの前記報知情報が、時刻合わせを行わない場合に生ずる時刻の誤差と予め要求されている時刻精度とに応じて定められる時間以上受信できない場合に、前記制御局からの時刻情報を用いて時刻合わせを行うことを特徴としている。
また、本発明の通信システムは、前記第1ネットワークを介して行われる前記第1親局と前記第2親局との間の通信を中継する中継装置(14)を備えることを特徴としている。
本発明の通信装置は、同期無線通信が可能な第1ネットワーク(N1)に接続される第1通信部(21)と、非同期通信が可能な第2ネットワーク(N2、N3)に接続される第2通信部(22)とを備える通信装置(12a、12b、15a、15b)において、自装置の時刻を規定するクロック装置(24)と、前記第2通信部で受信される時刻情報(T1)を用いて前記クロック装置の時刻合わせを行う第1処理と、他の通信装置から前記第1ネットワークを介して報知される情報であって、前記第1通信部で受信される前記時刻情報の報知情報(T2、T3)を用いて前記クロック装置の時刻合わせを行う第2処理との何れか一方の処理を行う同期処理手段(26a)とを備えることを特徴としている。
また、本発明の通信装置は、前記同期処理手段が、前記第2通信部で受信される指示情報に基づいて前記第1,第2処理の何れか一方を行うことを特徴としている。
また、本発明の通信装置は、前記同期処理手段が、前記第2通信部で受信される指示情報が前記第2処理を指示するものである場合に、前記第1通信部で前記報知情報が受信できないときには、前記第2処理に代えて前記第1処理を行うことを特徴としている。
本発明の通信方法は、子局(11a〜11c)との間で同期無線通信が可能な第1ネットワーク(N1)を形成する第1,第2親局(12a、12b、15a、15b)と、該第1,第2親局と第2ネットワーク(N2、N3)を介して接続される制御局(13)とを備える通信システムにおける通信方法であって、前記第1,第2親局の時刻を同期させる時刻情報(T1)を、前記制御局から前記第2ネットワークを介して前記第1,第2親局の各々に送信する第1ステップ(S11)と、前記制御局からの時刻情報を用いて前記第1,第2親局の何れか一方が時刻合わせを行う第2ステップ(S12)と、前記第1,第2親局の何れか一方から前記第1ネットワークを介して送信されてくる前記時刻情報を報知する情報である報知情報を用いて前記第1,第2親局の何れか他方が時刻合わせを行う第3ステップ(S19)とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、制御局からの時刻情報を用いて第1,第2親局の何れか一方の時刻合わせを行うとともに、第1,第2親局の何れか一方から第1ネットワークを介して送信されてくる報知情報を用いて第1,第2親局の何れか他方の時刻合わせを行っているため、大幅なコストの上昇を招かずに複数の親局の時刻を高精度に同期させることが可能であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態による通信システムの全体構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態による通信装置としての親局の要部構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態による通信装置としての親局の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態による通信システムの全体構成を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態による通信システムの全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による通信システム、通信装置、及び通信方法について詳細に説明する。
【0015】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態による通信システムの全体構成を示す図である。図1に示す通り、本実施形態の通信システム1は、複数の子局11a〜11c、複数の親局12a,12b(通信装置、第1,第2親局)、及び制御局13を備えており、制御局13の制御の下で子局11a〜11cと親局12a,12bとの間で通信を行うシステムである。尚、図1では3つの子局11a〜11cを示しているが、子局の数は任意である。また、親局12a,12bの数は、2つに限られることはなく3つ以上であっても良い。
【0016】
子局11a〜11cは、例えば流量計や温度センサ等のセンサ機器、流量制御弁や開閉弁等のバルブ機器、ファンやモータ等のアクチュエータ機器等のプラントや工場に設置されるフィールド機器(無線フィールド機器)であり、ISA100.11a等の無線通信規格に準拠した無線通信を行う。例えば、時分割多重通信方式による無線通信、周波数ホッピング方式による無線通信等の同期無線通信が可能である。これら子局11a〜11cの動作は、親局12a,12bから送信されてくる制御データに基づいて制御され、子局11a〜11cで得られたデータ(例えば、測定データ)は親局12a,12bに転送される。
【0017】
親局12a,12bは、上述したISA100.11a等の無線通信規格に準拠した無線通信が可能であり、例えば時分割多重通信方式による無線通信が可能な無線通信ネットワークN1(第1ネットワーク)を形成して子局11a〜11cとの間で各種通信を行う。尚、親局12a,12bは、バックボーンネットワークN2(第2ネットワーク)にも接続されており、バックボーンネットワークN2を介して制御局13との間で各種通信を行う。
【0018】
ここで、複数の親局12a,12bを設けるのは、子局11a〜11cの各々から送信される信号を親局12a,12bで同時に受信することによって、無線経路障害やマルチパスフェージングの耐性を改善するためである。また、時分割多重通信方式による無線通信等の同期無線通信が可能な無線通信ネットワークN1を形成するのは、子局11a〜11cと親局12a,12bとの間の通信帯域及び遅延時間を保証するためである。
【0019】
また、親局12a,12bは、時刻を同期させるための時刻情報T1が制御局13からバックボーンネットワークN2を介して送信されてきた場合には、その時刻情報T1に基づいて時刻を同期させる処理を行う。具体的には、親局12a,12bのうちの何れか一方(例えば、親局12a)が制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせを行い、何れか他方(例えば、親局12b)が何れか一方(例えば、親局12a)から無線通信ネットワークN1を介して送信されてくる報知情報(制御局13からの時刻情報を報知する情報:例えば、報知情報T2)を用いて時刻合わせを行う。尚、親局12a,12bの詳細については後述する。
【0020】
制御局13は、子局11a〜11cと親局12a,12bとの間の通信が正常に行われるように各種の制御を行う。例えば、無線通信ネットワークN1における周波数チャネルの割り当て制御、タイムスロットの割り当て制御、認証制御、暗号鍵の管理等を行う。また、本実施形態の通信システム1は、複数の親局12a,12bを備えているため、これら親局12a,12bの時刻を同期させる時刻同期制御を行う。具体的には、自己が備える高精度のクロック装置(図示省略)で示される時刻情報T1を、ネットワークN2を介して親局12a,12bの各々に送信する制御を行う。
【0021】
尚、親局12a,12bと制御局13とが接続されるバックボーンネットワークN2は、例えばイーサネット(登録商標)等で用いられるルータやハブ等の汎用的な機器を用いて構成された非同期通信を行うネットワークである。ここで、汎用的な機器を用いてバックボーンネットワークN2を構成するのは、主として通信システム1の全体のコストを低減するためである。
【0022】
次に、親局12a,12bの詳細について説明する。図2は、本発明の第1実施形態による通信装置としての親局の要部構成を示すブロック図である。尚、親局12a,12bは同様の構成であるため、ここでは親局12aについて説明し、親局12bについては説明を省略する。図2に示す通り、親局12aは、無線通信装置21(第1通信部)、通信装置22(第2通信部)、クロック装置24、タイマ装置25、及び制御装置26を備える。
【0023】
無線通信装置21は、無線通信ネットワークN1に接続されて、子局11a〜11cとの間で通信(同期無線通信)を行う。通信装置22は、バックボーンネットワークN2に接続されており、バックボーンネットワークN2を介して制御局13と通信(非同期通信)を行う。クロック装置24は、親局12aの時刻を規定する装置であり、制御装置26の制御によって現在時刻の読み出しや時刻合わせが行われる。タイマ装置25は、制御装置26の制御の下で、制御装置26で指定された時間を計時する。
【0024】
制御装置26は、図2に示す無線通信装置21〜タイマ装置25を制御することによって、親局12aの動作を統括して制御する。例えば、無線通信装置21を制御することによって無線通信ネットワークN1を介した子局11a〜11cとの通信を制御し、通信装置22を制御することによってバックボーンネットワークN2を介した制御局13との通信を制御する。
【0025】
この制御装置26は、同期処理部26a(同期処理手段)及び受信品質情報算出部26bを備える。同期処理部26aは、クロック装置24の時刻合わせ(同期処理)を行う。具体的には、通信装置22で受信される時刻情報T1(制御局13からの時刻情報T1)を用いてクロック装置24の時刻合わせを行う処理(第1処理)と、報知情報T3(親局12bから無線通信ネットワークN1を介して報知されてきて無線通信装置21で受信された報知情報T3)を用いてクロック装置24の時刻合わせを行う処理(第2処理)との何れか一方を行う。
【0026】
同期処理部26aは、制御局13からマスターになるべき旨を示す指示情報が送信されてきた場合には、上記の時刻情報T1を用いてクロック装置24の時刻合わせを行う処理を行う。これに対し、制御局13からスレーブになるべき旨を示す指示情報が送信されてきた場合には、上記の報知情報T3を用いてクロック装置24の時刻合わせを行う処理を行う。
【0027】
ここで、「マスター」とは、制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせを行うべき親局をいい、「スレーブ」とは、マスターからの報知情報を用いて時刻合わせを行うべき親局をいう。尚、制御局13からスレーブになるべき旨を示す指示情報が送信されてきた場合であっても、マスターからの報知情報が受信されない場合には、制御局13からの時刻情報T1を用いた時刻合わせが行われることもある。
【0028】
受信品質情報算出部26bは、無線通信装置21で受信される報知情報T3の受信品質を示す受信品質情報を算出する。具体的には、無線通信装置21で報知情報T3が受信されたか否かに応じて値が大きく変化し、報知情報T3が受信された場合には受信電力の大小や誤り率に応じて値が変化する受信品質情報を算出する。例えば、受信品質情報が0〜100%の値を取り得るものである場合には、報知情報T3が受信されなかったときには値を0%とし、報知情報T3が受信されたときは、値70%を基準として受信電力の大小や誤り率に応じて値が±30%の範囲で変動する受信品質情報を算出する。尚、算出された受信品質情報は、制御装置26の制御によって制御局13に向けて送信される。
【0029】
次に、上記構成における通信システムの動作について説明する。図3は、本発明の第1実施形態による通信装置としての親局の動作を示すフローチャートである。尚、図3に示すフローチャートは、親局12a,12bの時刻合わせに係る処理を示すフローチャートであり、制御局13から送信されてバックボーンネットワークN2を介した時刻情報T1が受信される度に開始される。
【0030】
まず、制御局13から時刻情報T1が送信されると、この時刻情報T1はバックボーンネットワークN2を介して親局12a,12bに入力され、親局12a,12bが備える通信装置22で受信される(ステップS11:第1ステップ)。ここで、バックボーンネットワークN2は、前述した通り、汎用的な機器を用いて構成されて非同期通信を行うネットワークであるため、制御局13から送信された時刻情報T1は、伝送遅延の揺らぎの影響を受けて、必ずしも親局12a,12bで同時に受信されるとは限らない点に注意されたい。
【0031】
制御局13からの時刻情報T1を受信すると、親局12a,12bの双方で時刻情報T1を用いた時刻合わせが行われる(ステップS12:第2ステップ)。具体的には、親局12a,12bの各々において、通信装置22で受信された時刻情報T1が制御装置26に読み出され、この読み出された時刻情報T1を用いたクロック装置24の時刻合わせが制御装置26に設けられた同期処理部26aによって行われる。尚、上述の通り、制御局13からの時刻情報T1が必ずしも親局12a,12bで同時に受信されるとは限らないため、ここで行われた同期処理によって親局12a,12bの時刻は、必ずしも高精度に同期している訳ではない
【0032】
次に、親局12a,12bの各々で受信された時刻情報T1を、無線通信ネットワークN1を介して他の親局(親局12b,12a)や子局11a,11b,11cに向けて報知情報として互いに送信する処理が行われる(ステップS13)。具体的には、親局12a,12bの各々において、制御装置26によって無線通信装置21が制御され、通信装置22から読み出された時刻情報T1が報知情報T2,T3としてそれぞれ無線通信ネットワークN1に送信される。
【0033】
次いで、他の親局(親局12b,12a)から無線通信ネットワークN1に送信された報知情報を互いに受信する処理が親局12a,12bでそれぞれ行われる(ステップS14)。具体的に、親局12bから送信された報知情報T3が親局12aの無線通信装置21で受信され、親局12aから送信された報知情報T2が親局12bの無線通信装置21で受信される。
【0034】
以上の処理が終了すると、親局12a,12bが受信した報知情報T3,T2の受信品質を示す受信品質情報を算出する処理がそれぞれ行われる。具体的には、親局12a,12bの各々において、制御装置26に設けられた受信品質情報算出部26bによって、報知情報T2,T3が受信されたか否か、或いは、受信電力の大小や誤り率に応じて値が変化する受信品質情報が算出される。親局12a,12bの各々で算出された受信品質情報は、制御装置26によって通信装置22が制御されることにより、制御局13に向けて送信される(ステップS15)。
【0035】
親局12a,12bからの受信品質情報を受信すると、制御局13は、受信品質情報に基づいて親局12a,12bの何れをマスターにするかスレーブにするかを決定し、バックボーンネットワークN2を介してマスターになるべき旨を示す指示情報とスレーブになるべき旨を示す指示情報とを送信する。尚、ここでは、親局12aがマスターとして指示され、親局12bがスレーブとして指示されるとする。
【0036】
制御局13から送信されてバックボーンネットワークN2を介した指示情報は、親局12a,12bが備える通信装置22で受信され(ステップS16)、受信した指示情報がマスターになるべき旨を示す指示情報であるか否かが親局12a,12bが備える制御装置26でそれぞれ判断される(ステップS17)。ここでは、親局12aがマスターとして指示されており、親局12bがスレーブとして指示されている場合を想定しているため、親局12aが備える制御装置26の判断結果は「YES」となり、親局12bが備える制御装置26の判断結果は「NO」になる。
【0037】
親局12aが備える制御装置26の判断結果が「YES」になると、親局12aの時刻合わせに係る処理は終了する。よって、親局12aが備えるクロック装置24は、ステップS12において制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせが行われたものになる。
【0038】
これに対し、親局12bが備える制御装置26の判断結果が「NO」になると、他の親局である親局12aからの報知情報が受信できているか否かが、親局12bが備える制御装置26によって判断される(ステップS18)。親局12aからの報知情報が受信できていると判断した場合(判断結果が「YES」の場合)には、親局12bにおいて、親局12aから送信された報知情報T2を用いたクロック装置24の時刻合わせが制御装置26に設けられた同期処理部26aによって行われ(ステップS19:第3ステップ)、親局12bの時刻合わせに係る処理は終了する。よって、親局12bが備えるクロック装置24は、親局12aから送信された報知情報T2を用いて時刻合わせが行われたものになる。
【0039】
他方、親局12aからの報知情報が受信できていないと判断した場合(ステップS18の判断結果が「NO」の場合)には、ステップS19の処理は行われずに、親局12bの時刻合わせに係る処理は終了する。よって、かかる場合には、親局12bが備えるクロック装置24は、ステップS12において制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせが行われたものになる。
【0040】
以上説明した一連の処理が完了すると、マスターとして指示された親局12aが制御局13からの時刻情報T1に同期し、スレーブとして指示された親局12bが親局12aからの報知情報T2に同期して動作する。尚、時刻合わせの処理が完了した後に、例えば通信環境の変動によって、スレーブとして指示された親局12bがマスターとして指示された親局12aからの報知情報T2を受信できなくなる場合が考えられる。かかる場合には、スレーブとして指示された親局12bが制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせを行うようにするのが望ましい。
【0041】
但し、制御局13からの時刻情報T1は伝送遅延の揺らぎの影響を受けているため、時刻情報T1を用いて親局12bの時刻合わせを行っても、親局12bを親局12aに高い精度で同期させることができるとは限らない。また、マスターとして指示された親局12aからの報知情報T2が受信できなくなっても、短時間で再び受信可能な状況になることも考えられる。このため、報知情報T2が受信できなくなった場合に直ちに制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせを行うのではなく、報知情報T2が一定期間の間受信できなくなった場合に制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせを行うのが望ましい。
【0042】
具体的に、スレーブとして指示された親局12bは、自局が備えるクロック装置24で生ずる時刻の誤差(時刻合わせを行わないことによって生ずる時刻の誤差)と予め要求されている時刻精度とに応じて定められる時間以上親局12aからの報知情報T2を受信できないときに、制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせを行うようにするのが望ましい。例えば、クロック装置24で生ずる時刻の誤差が毎秒当り0.1msecであり、予め要求されている時刻精度が1msecである場合には、時刻合わせを行ってから10秒が経過してしまうとクロック装置24で生ずる時刻の誤差が予め要求されている時刻精度よりも大きくなってしまう。このため、親局12aからの報知情報T2が受信できなくなった時点からタイマ装置25で10秒が計時された場合に、同期処理部26aが制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせを行うようにするのが望ましい。
【0043】
以上の通り、本実施形態では、制御局13から時刻情報T1が送信されて来た場合に、親局12a,12bの双方が予め時刻情報T1を用いて時刻合わせを行っておき、制御局13によってスレーブと指示された親局(親局12b)が、マスターと指示された親局(親局12a)から無線通信ネットワークN1を介して送信される報知情報(報知情報T2)を用いて時刻合わせを行うようにしている。このため、制御局13と親局12a,12bとを接続するバックボーンネットワークN2において制御局13から送信された時刻情報T1が伝送遅延の揺らぎの影響を受けたとしても、無線通信ネットワークN1に要求される精度で親局12a,12bを同期させることができる。このように、本実施形態の通信システム1は、大幅なコストの上昇を招かずに複数の親局12a,12bの時刻を高精度に同期させることが可能である。
【0044】
尚、以上の実施形態では、親局12a,12bの双方が、制御局13からの時刻情報T1を用いて予め時刻合わせを行っておき(ステップS12)、マスターとなる親局(親局12a)からの報知情報(報知情報T2)が受信できたときにスレーブとなる親局(親局12b)がマスターとなる親局(親局12a)からの報知情報(報知情報T2)を用いて時刻合わせを行う例について説明した。しかしながら、親局12a,12bの双方が予め制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせを行う処理(ステップS12の処理)は必ずしも必要はない。例えば、制御局13からの指示情報が送信された後で初めて、マスターとなる親局(親局12a)が制御局13からの時刻情報T1を用いて時刻合わせを行い、スレーブとなる親局(親局12b)がマスターとなる親局(親局12a)からの報知情報(報知情報T2)を用いて時刻合わせを行っても良い。
【0045】
〔第2実施形態〕
図4は、本発明の第2実施形態による通信システムの全体構成を示す図である。図4に示す通り、本実施形態の通信システム2は、図1に示す通信システム1が備える複数の子局11a〜11c、複数の親局12a,12b、及び制御局13に加えて、中継局14(中継装置)を備える構成である。中継局14は、無線通信ネットワークN1を介して行われる親局12a,12b間の通信を中継する装置である。
【0046】
親局12a,12b間に存在する障害物B1によって親局12aと親局12bとが直接通信を行うことができなくとも、この中継局14を設けることにより、中継局14を介した親局12aと親局12bとの間の通信が可能になる。このため、親局12a,12b間に障害物B1が存在する場合であっても、親局12a,12bの何れか一方(例えば、親局12b)を、親局12a,12bの何れか他方(例えば、親局12a)に同期させることが可能になる。
【0047】
尚、中継局14は、親局12a,12b間の通信を中継する機能を備える専用の装置であっても良いが、親局12a,12b間の通信を中継する機能を他の機能と共に兼ね備える装置であってもよい。例えば、流量計等の計測機能と親局12a,12b間の通信を中継する機能とを兼ね備える無線フィールド機器としての子局であっても良い。
【0048】
本実施形態の通信システム2は、親局12a,12b間の通信が中継局14を介して行われる点を除いて、第1実施形態の通信システム1と同様である。このため、第1実施形態による通信システム1と同様に、制御局13と親局12a,12bとを接続するバックボーンネットワークN2において制御局13から送信された時刻情報T1が伝送遅延の揺らぎの影響を受けたとしても、無線通信ネットワークN1に要求される精度で親局12a,12bを同期させることができる。このように、本実施形態の通信システム2においても、大幅なコストの上昇を招かずに複数の親局12a,12bの時刻を高精度に同期させることが可能である。
【0049】
〔第3実施形態〕
図5は、本発明の第3実施形態による通信システムの全体構成を示す図である。図5に示す通り、本実施形態の通信システム3は、図1に示す通信システム1が備える複数の親局12a,12bに代えて親局15a,15bを設けるとともに、無線アクセスポイント装置16を追加した構成であり、バックボーンネットワークN2を無線通信バックボーンネットワークN3(第2ネットワーク)で実現した通信システムである。
【0050】
親局15a,15bは、前述したISA100.11a等の無線通信規格に準拠した無線通信に加えて、IEEE802.11等の無線LAN規格に準拠した無線通信が可能である。つまり、親局15a,15bは、図2に示す通信装置22に代えて、IEEE802.11等の無線LAN規格に準拠した無線通信を行う無線通信部(図示省略:第2通信部)を備える構成である。かかる構成の親局15a,15bは、例えば時分割多重通信方式による無線通信が可能な無線通信ネットワークN1を形成して子局11a〜11cとの間で各種通信を行うとともに、無線通信バックボーンネットワークN3及び無線アクセスポイント装置16を介して制御局13との間で各種通信を行う。
【0051】
無線アクセスポイント装置16は、制御局13に接続されるとともに、親局15a,15bとの間で無線通信バックボーンネットワークN3を形成して、制御局13と親局15a,15bとの間で送受信される各種データの中継を行う装置である。尚、無線アクセスポイント装置16も、上述したIEEE802.11等の無線LAN規格に準拠した無線通信を行う。
【0052】
本実施形態の通信システム3は、制御局13と親局15a,15bとの間の通信が無線通信バックボーンネットワークN3及び無線アクセスポイント装置16を介して行われる点を除いて、第1実施形態の通信システム1と同様である。このため、第1実施形態による通信システム1と同様に、制御局13と親局15a,15bとを接続する無線通信バックボーンネットワークN3において制御局13から送信された時刻情報T1が伝送遅延の揺らぎの影響を受けたとしても、無線通信ネットワークN1に要求される精度で親局15a,15bを同期させることができる。このように、本実施形態の通信システム3においても、大幅なコストの上昇を招かずに複数の親局15a,15bの時刻を高精度に同期させることが可能である。
【0053】
以上、本発明の実施形態による通信システム、通信装置、及び通信方法について説明したが、本発明は上述した実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記第1〜第3実施形態では、2つの親局(親局12a,12b、或いは、親局15a,15b)を備える例について説明したが、本発明は3つ以上の親局を備える場合にも適用可能である。かかる場合には、複数設けられた親局の何れか1つをマスターとして指示し、残りの親局をスレーブとして指示すれば、スレーブに指示された複数の親局が、マスターに指示された1つの親局に同期することになる。
【符号の説明】
【0054】
1〜3 通信システム
11a〜11c 子局
12a,12b 親局
13 制御局
14 中継局
15a,15b 親局
21 無線通信装置
22 通信装置
24 クロック装置
25 タイマ装置
26a 同期処理部
26b 受信品質情報算出部
N1 無線通信ネットワーク
N2 バックボーンネットワーク
N3 無線通信バックボーンネットワーク
T1 時刻情報
T2,T3 報知情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
子局との間で同期無線通信が可能な第1ネットワークを形成する第1,第2親局と、該第1,第2親局と第2ネットワークを介して接続される制御局とを備える通信システムにおいて、
前記制御局は、前記第1,第2親局の時刻を同期させる時刻情報を、前記第2ネットワークを介して前記第1,第2親局の各々に送信し、
前記第1,第2親局の何れか一方は、前記制御局からの時刻情報を用いて時刻合わせを行い、
前記第1,第2親局の何れか他方は、前記第1,第2親局の何れか一方から前記第1ネットワークを介して送信されてくる前記時刻情報を報知する情報である報知情報を用いて時刻合わせを行う
ことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記第1,第2親局は、前記制御局からの時刻情報を受信した場合に、前記第1ネットワークを介して前記第2,第1親局に向けて前記報知情報を互いに送信するとともに、前記第2,第1親局から前記第1ネットワークを介して送信されてくる前記報知情報を互いに受信することを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項3】
前記第1,第2親局は、前記第2,第1親局から前記第1ネットワークを介して送信されてくる前記報知情報の受信品質を示す受信品質情報を、前記第2ネットワークを介して前記制御局にそれぞれ送信し、
前記制御局は、前記第1,第2親局からの前記受信品質情報に基づいて、前記第1,第2親局に対し、前記制御局からの時刻情報を用いた時刻合わせを行うマスターになるのか、前記報知情報を用いた時刻合わせを行うスレーブになるのかを指示する
ことを特徴とする請求項2記載の通信システム。
【請求項4】
前記第1,第2親局の何れか他方は、前記第1,第2親局の何れか一方からの前記報知情報が受信できない場合には、前記制御局からの時刻情報を用いて時刻合わせを行うことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の通信システム。
【請求項5】
前記第1,第2親局の何れか他方は、前記第1,第2親局の何れか一方からの前記報知情報が、時刻合わせを行わない場合に生ずる時刻の誤差と予め要求されている時刻精度とに応じて定められる時間以上受信できない場合に、前記制御局からの時刻情報を用いて時刻合わせを行うことを特徴とする請求項4記載の通信システム。
【請求項6】
前記第1ネットワークを介して行われる前記第1親局と前記第2親局との間の通信を中継する中継装置を備えることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の通信システム。
【請求項7】
同期無線通信が可能な第1ネットワークに接続される第1通信部と、非同期通信が可能な第2ネットワークに接続される第2通信部とを備える通信装置において、
自装置の時刻を規定するクロック装置と、
前記第2通信部で受信される時刻情報を用いて前記クロック装置の時刻合わせを行う第1処理と、他の通信装置から前記第1ネットワークを介して報知される情報であって、前記第1通信部で受信される前記時刻情報の報知情報を用いて前記クロック装置の時刻合わせを行う第2処理との何れか一方の処理を行う同期処理手段と
を備えることを特徴とする通信装置。
【請求項8】
前記同期処理手段は、前記第2通信部で受信される指示情報に基づいて前記第1,第2処理の何れか一方を行うことを特徴とする請求項7記載の通信装置。
【請求項9】
前記同期処理手段は、前記第2通信部で受信される指示情報が前記第2処理を指示するものである場合に、前記第1通信部で前記報知情報が受信できないときには、前記第2処理に代えて前記第1処理を行うことを特徴とする請求項8記載の通信装置。
【請求項10】
子局との間で同期無線通信が可能な第1ネットワークを形成する第1,第2親局と、該第1,第2親局と第2ネットワークを介して接続される制御局とを備える通信システムにおける通信方法であって、
前記第1,第2親局の時刻を同期させる時刻情報を、前記制御局から前記第2ネットワークを介して前記第1,第2親局の各々に送信する第1ステップと、
前記制御局からの時刻情報を用いて前記第1,第2親局の何れか一方が時刻合わせを行う第2ステップと、
前記第1,第2親局の何れか一方から前記第1ネットワークを介して送信されてくる前記時刻情報を報知する情報である報知情報を用いて前記第1,第2親局の何れか他方が時刻合わせを行う第3ステップと
を有することを特徴とする通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−3000(P2013−3000A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135236(P2011−135236)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】