説明

通信ノード

【課題】本発明は、各伝送区間の占有帯域が全域または一部で共通である通信経路上で所望の伝送情報の送信や中継を行う通信ノードに関し、構成に大幅な変更を伴うことなく、輻輳および輻輳の加速を確度高く適切に抑えることができることを目的とする。
【解決手段】各伝送区間の占有帯域が全域または一部で共通である通信経路上に配置された通信ノードであって、前記通信経路上に配置された他の通信ノード宛に送信され、または前記他の通信ノードによって中継されるべき伝送情報の優先度を識別する優先度識別手段と、前記伝送情報の送信に先行して待機されるべき時間を前記優先度に基づいて設定する制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各伝送区間の占有帯域が全域または一部で共通である通信経路上で所望の伝送情報の送信や中継を行う通信ノードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の通信端末を含んで構成される無線通信システムには、隣接する端末と連携して自立的に通信経路を決定することにより端末間通信網を構築する無線アドホックネットワーク技術と、隣接する端末を利用して伝送情報を多段中継するマルチホップ通信技術が組み合わせられることにより、小さな送信電力で地理的に広い範囲における無線伝送を可能とする様々な通信方式が適用されている。
【0003】
また、このような通信方式は、例えば、上記通信端末に水位、加速度、雨量、温度、照度等の環境要素を計測するセンサーが搭載されることにより、多くの観測点における環境要素の監視を可能とするセンサーネットワークシステム等の計測制御系にも適用されている。
【0004】
なお、本発明に関連性がある先行技術としては、以下に列記する技術があった。
(1) 「土砂の崩落により発生する位置変動が斜面に設置された複数の端末で監視され、これらの端末は所定の加速度条件を検知した時に異常検知情報を送信し、また、他端末から受信した情報を多段中継すると共に、監視局側に設置した最上位の端末で異常検知情報を収集する」ことにより、「各端末設置の柔軟性や簡便性が確保される」点に特徴がある崩落検知装置および方法…特許文献1
【0005】
(2) 「データの送受信を行う複数の端末装置とこれら端末装置を互いに接続する通信回線とを備えるネットワークシステム内に設けられ、このネットワークシステム内の一つの端末装置が前記通信回線上へデータを送信しようとすると、該通信回線が他の端末装置から送信されたデータを転送中であるか否かを判断し、転送中であれば前記一つの端末装置にデータの送信を所定時間待機させるネットワーク通信制御装置において、一定時間内に前記一つの端末装置にデータの送信を待機させた回数を認識する頻度認識手段と、予め設定された許容待機回数を記憶する許容値記憶手段と、前記頻度認識手段が認識した回数と前記許容値記憶手段が記憶する許容待機回数とを比較し、前記頻度認識手段が認識した回数の方が多ければ、前記通信回線が過負荷状態である判断する過負荷判断手段と、該過負荷判断手段が過負荷状態と判断すると、データ送信の待機時間が長くなるように前記所定時間を変更する時間変更手段とを備える」ことにより、「送信回避頻度、或いは再送試行回数等の回線状況に応じて、バックオフ時間を決定する」点に特徴があるネットワーク通信制御装置…特許文献2
【0006】
(3) 「衛星と、この衛星を介して通信を行う一つの中心局および複数の周辺局とを備えた衛星通信システムにおいて、前記周辺局はタイムスロット上にデータを送出する際にヘッダとしてそのデータの送信試行回数を付加する手段を含み、前記中心局は各タイムスロットにおける正常なデータ受信の有無を監視してデータの受信確認を前記周辺局に通知するとともに、一定時間内に受信したデータ数とその送信試行回数の総和とからトラフィック状態を判断してトラフィック状態を通知する情報を前記周辺局に対して同報する手段を含み、さらに、前記周辺局は前記中心局からの受信確認がなかったデータについては再度送信を行いそのときに乱数を発生して再送信までの待ち時間を決定する手段を含む」ことにより、「送信回避頻度、或いは再送試行回数等の回線状況に応じて、バックオフ時間を決定する」点に特徴がある衛星通信システム…特許文献3
【0007】
(4) 「親機と子機との間の通信を無線電波で行うものにあって、前記子機には、送信手段と、受信手段と、親機からの返送を確認する返送確認手段と、再送タイマーと、前記送信手段による送信後、前記返送確認手段により親機からの返事が確認できなかった場合、前記再送タイマーにより決められた時間後に再度送信する再送手段と、何度目かの再送かをカウントする再送カウンタとを具備し、前記再送タイマーは、前記再送カウンタの値により設定する値を変化させる再送時間設定手段を有する」ことにより、「端末数に応じてバックオフ時間の最大値を設定する」点に特徴がある無線通信装置…特許文献4
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−98128号公報
【特許文献2】特開平10−56470号公報
【特許文献3】特開平6−252917号公報
【特許文献4】特開2005−94429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記崩落検知装置および方法は、異常が検知された時にシステム管理者が迅速な対応を実施するためには、異常検知情報が最上位端末に到達するまでの情報到達時間が短いことが求められ、かつ電源が施設されていない場所に端末が設置されるためには、電池、或いは自然エネルギー発電による駆動が可能であって、端末の省電力化が厳しく求められる。
【0010】
しかし、例えば、ビーコン信号に応じた同期通信方式が端末間に適用された場合には、情報到達時間の短縮のために、そのビーコン信号が短い周期のインターバルで送信されなければならず、かつ平常時であっても送信の頻繁な繰り返しが必要となって上記省電力化が難しくなるために、同期通信方式に代えて非同期通信方式が採用されなければならない場合があった。
【0011】
しかし、端末間に非同期通信方式が適用された場合には、複数の端末が非同期に送信したときにこれらの端末の送信信号の輻輳による伝送情報の消失の回避のために、例えば、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple
Access/Collision Avoidance)方式が併せて採用される場合があった。
【0012】
ところが、このようなCSMA/CA方式では、送信に先行して行われたキャリアセンスの下で該当する無線チャネルが空いていることが確認された場合における上記送信信号の輻輳の回避のために送信に先行して待機されるべきバックオフ時間は、長く設定されるほど、伝送情報の伝送速度が実効的に遅くなる要因となる。
【0013】
なお、このような伝送速度の遅れについては、既述のネットワーク通信制御装置や衛星通信システムおよび無線通信装置では、改善が図られている。
しかし、これらのネットワーク通信制御装置や衛星通信システムにおいて行われるバックオフ時間の設定は、以下に列記する制約により即時的な効果が期待できないことや、簡単な処理では実現し難いことがあった。
【0014】
(1) 適切なバックオフ時間が得られるためには、再送が複数回に亘って繰り返されなければならない。
(2) 災害監視システムのように、平常時と災害発生時、或いは小規模災害時と大規模災害時におけるトラフィックの差が大きいシステムにおいては、過去の送信待機頻度や、再送回数等からトラフィックが予測されるためにはトラフィックの推移が統計的に把握される必要がある。
【0015】
また、既述の無線通信装置では、端末数に応じてバックオフ時間の最大値が長く設定されるために、端末数が多くても送信頻度が低い場合には、平均的には、バックオフ時間が無駄に長く設定され、上記伝送速度の遅れを実行的かつ的確に短縮することはできなかった。
【0016】
しかし、特に、河川の増水や土砂崩れなどの災害監視システムでは、環境要素が連続的に変化し、かつ地理的に広域に設置された端末が一斉に観測結果等の送信を反復して試みる可能性が高く、多くの通信経路にトラフィックが短期間に集中して増加するために、災害監視の実時間性や信頼性が安定に確度高く維持される技術が強く要望されていた。
【0017】
本発明は、構成の大幅な変更を伴うことなく、輻輳および輻輳の加速を確度高く適切に抑えることができる通信ノードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に記載の発明では、各伝送区間の占有帯域が全域または一部で共通である通信経路上に配置された通信ノードにおいて、優先度識別手段は、前記通信経路上に配置された他の通信ノード宛に送信され、または前記他の通信ノードによって中継されるべき伝送情報の優先度を識別する。制御手段は、前記伝送情報の送信に先行して待機されるべき時間を前記優先度に基づいて設定する。
【0019】
すなわち、送信に先行して待機されるべき時間は、上記通信経路を介して伝送されるべき伝送情報の優先度に基づいて設定されるため、その設定のために要する処理量と、優先度が高い伝送情報の送信が無用に遅れて行われる可能性との何れもが低く抑えられる。
【0020】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の通信ノードにおいて、前記制御手段は、前記伝送情報を得た時点または前記伝送情報の内容に応じて生成された乱数による重み付けにより前記時間を得る。
【0021】
すなわち、上記時間の経過後に送信が行われる時点は、上記通信経路を介して伝送されるべき伝送情報の優先度に基づいて設定されるが、その優先度が同じであっても上記乱数による重み付けにより時間軸上に分散される。
【0022】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の通信ノードにおいて、前記制御手段は、前記通信経路上で前記通信ノードに隣接する通信ノードの数が少ないほど、前記時間を短く設定する。
【0023】
すなわち、通信経路上で隣接する通信ノードとの間で発生する輻輳の可能性が少ないほど、その衝突に起因する伝送遅延が短く抑えられ、その伝送遅延の回復に必要な時間が短く確保される。
【0024】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の通信ノードにおいて、前記制御手段は、前記通信経路上において前記伝送情報の中継をすべき通信ノードの数が大きいほど、前記時間を短く設定する。
【0025】
すなわち、通信経路上で伝送情報が所望の宛先に伝達されるために行われる中継の回数(ホップ数)が多いほど、その通信経路上の伝送区間毎に発生し得る衝突による伝送遅延が短く抑えられ、かつその伝送遅延の回復に必要な時間が長く確保される。
【0026】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の通信ノードにおいて、前記優先度識別手段は、前記優先度を、前記伝送情報に先行して前記他の通信ノード宛に送信された伝送情報と、前記他の通信ノードによって中継された伝送情報との双方もしくは何れか一方の優先度の平滑値として識別する。
【0027】
すなわち、時系列の順に送信や中継の対象となる伝送情報には、これらの伝送情報の優先度が高くなる事象の頻度が急速に減少しあるいは増減しながら減少する場合であっても、伝送容量が平均的に高く配分される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、構成が大幅に複雑化することなく、通信経路上の各伝送区間の伝送容量が送信や中継の対象となる広範な優先度の伝送情報に適切に配分される。
また、本発明によれば、通信経路上における通信ノードの多様な配置に対する柔軟な適応が図られる。
【0029】
さらに、本発明によれば、確実性を要する伝送情報が送信や中継の対象となる頻度や形態に対する柔軟な適応が可能となる。
したがって、本発明が適用された通信系や伝送系では、安価に総合的な伝送品質や信頼性が高められ、かつ安定に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】本実施形態におけるプロセッサの動作フローチャートである。
【図3】本実施形態の動作を補足する図である。
【図4】本実施形態に適用可能なバックオフ時間の算出方法を補足する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明の一実施形態を示す図である。
図において、本実施形態は河川水位監視システムとして構成され、端末10-1〜10-6は河川11に沿って設けられた6つのサイトにそれぞれ設置され、端末10-7は上記河川11の下流または河口に近いサイトに位置する監視局舎12内に配置される。
【0033】
端末10-1は、以下の要素で構成される。
(1) 所定の項目の検知や計測に供されるセンサー10S-1
(2) 上記センサー10S-1の出力に接続された入力ポートを有するプロセッサ10P-1
(3) 上記プロセッサ10P-1が有する特定の入出力ポートに接続された無線送受信部10RF-1
(4) その無線送受信部10RF-1のアンテナ端子に給電点が接続されたアンテナ10A-1
【0034】
ここに、端末10-2〜10-7の構成については、端末10-1の構成と同じであるので、ここでは、その説明を省略し、以下では、対応する構成要素に添え番号「1」に代わる添え番号「2」〜「7」が付加された同じ符号を付与して示す。
【0035】
さらに、以下では、端末10-1〜10-6の全てに共通の事項については、添え番号「1」〜「6」に代えて、これらの添え番号「1」〜「6」の何れにも該当し得ることを示す添え文字「c」を該当する構成要素の符号に付加して記述する。
なお、端末10-7については、既述のセンサー10S-1に相当するセンサーが備えられない点で端末10-1〜10-6とは構成が異なる。
【0036】
図2は、本実施形態におけるプロセッサの動作フローチャートである。
図3は、本実施形態の動作を補足する図である。
以下、図1〜図3を参照して本実施形態の動作を説明する。
【0037】
〔各部の連係による基本的な動作〕
本実施形態では、端末10-1〜10-7には、図1に点線で示すように、以下の3つの通信経路から構成されるマルチホップ通信系が形成される。
【0038】
(1) 端末10-1から端末10-3および端末10-5を介して端末10-6に至る区間に形成された第一の通信経路
(2) 端末10-2から端末10-4を介して端末10-6に至る区間に形成された第二の通信経路
(3) 端末10-6と端末10−7との間に形成された第三の通信経路
【0039】
また、上記第一ないし第三の通信経路の各伝送区間には、無線周波数および占有帯域が同じである無線チャネルが共用され、かつ所定の形式のパケットに含まれて伝送情報の宛先に該当する端末(該当する通信経路上で隣接する。)を示すユニークなアドレスに基づくアドレス通信方式が適用される。なお、このようにして共用される無線チャネルには、必ずしも共通の変調方式や多元接続方式が適用されなくてもよい。
【0040】
端末10-cでは、プロセッサ10P-cは、センサー10s-cによって計測された河川18の水位もしくはその水位の増加分を所定の頻度で監視し、これらの水位または増加分が既定の閾値を超えると、その旨を示す「異常検知情報」を生成する。なお、このような異常検知情報には、例えば、水位、水位変化値、発生時刻等が含まれる。
【0041】
さらに、プロセッサ10P-cは、端末10-cが通信ノードとして組み込まれている通信経路上において端末10-7もしくはその端末10-7に近い方向に隣接する端末(以下、「上位端末」という。)に、無線送受信部10RF-cおよびアンテナ10A-cを介してこの異常検知情報を送信する。
【0042】
また、端末10-cでは、プロセッサ10P-cは、端末10-cが通信ノードとして組み込まれている通信経路上において端末10-7から隔たる方向に隣接する端末(以下、「下位端末」という。)と、既述の上位端末との何れかから引き渡された異常検知情報等の伝送情報をアンテナ10A-cおよび無線送受信部10RF-cを介して取得する。
【0043】
さらに、プロセッサ10P-cは、上記通信経路の後続する伝送区間を介して隣接する端末(以下、「下流端末」という。)に、無線送受信部10RF-cおよびアンテナ10A-cを介してこの異常検知情報を送信することによって、該当する伝送情報の中継を行う。
【0044】
端末10-7は、このようにして端末10-1〜10-6の何れから送信された異常検知情報を収集して集約を図り、その集約の結果に適した処理(例えば、該当する異常検知情報の表示、並びに図示されない上位の観測局あるいはシステム管理者に対する通知)を行う。
【0045】
なお、本実施形態では、例えば、図1に点線枠で示すように、端末10-4が隣接する端末10-6宛に送信した無線信号が共通の無線周波数および占有帯域が適用された端末10-5にも既定のレベルで到来し、その無線信号とほぼ同時に端末10-5も同様に隣接する端末10-6宛に対する何らかの無線信号の送信を試行する場合には、これらの端末10-4、10-5、10-6は、図3に示すように、下記の連係を行うことにより、物理的な無線チャネル上の輻輳を回避しつつ順次送信権を得る。
【0046】
(1) 端末10-4(プロセッサ10P-4)は、該当する無線チャネルにキャリア信号が検出されないことをキャリアセンスCSに基づいて識別する(図3(1))と、送信要求RTS(Request to Send)を送出する(図3(2))ことにより、所定の無線パケットを送信する。
(2) 一方、端末10-5(プロセッサ10P-5)は、同様にキャリアセンスCSに基づいて該当する無線チャネルに対する送信が可能か(キャリア信号が検出されるか)否かの判定を行う(図3(3))が、その無線チャネルには、既に端末10-4によって上記無線パケット(あるいは何らかのキャリア信号)が送出されているので、送信を見合わせる(図3(4))。
【0047】
(3) 端末10-6(プロセッサ10P-6)は、上記端末10-4によって送信された無線パケットを受信すると、受信準備完了CTS(Clear to Send)を示す無線パケットを送出する(図3(5))。
(4) 端末10-4(プロセッサ10P-4)は、このようにして端末10-6(プロセッサ10P-6)によって送信された無線パケットに応じて、その端末10-6(プロセッサ10P-6)が受信の準備を完了したことを識別し(図3(6))、該当する無線チャネルを介して端末10-6宛に所望の伝送情報を無線パケットとして送出する(図3(7))。
【0048】
(5) 一方、端末10-5(プロセッサ10P-5)は、上記無線パケットの全ての送信が完了することによって該当する無線チャネルに対して、如何なる端末によっても送信が行われていない状態となるまで待機し、このような状態を識別すると、端末10-4(プロセッサ10P-4)に代わって端末10-6(プロセッサ10P-6)と同様に連係する(図3(2)′、(5)′、(6)′、(7)′)ことにより、所望の伝送情報をその端末10-1宛に送信する。
【0049】
本発明の特徴は、本実施形態では、端末10-cに備えられたプロセッサ10P-cが既述の上位端末に対する伝送情報の送信(既述の中継に伴う送信を含む。)に先行して待機すべき時間を示すバックオフ時間Wを下記の通りに求める点にある。
【0050】
(1) センサー10S-cによって計測された水位Lの変化量ΔLと、既定の閾値thとの差分V(=ΔL−th)を「異常評価値」として求める(図2ステップS1)。
(2) 乱数Rnd(0<Rnd≦1)を生成する(図2ステップS2)。
【0051】
(3) 該当する通信経路の後続する伝送区間が異常検知情報の伝送のために占有される時間T(ここでは、一定であると仮定する。)と、既定の計数αと、上記乱数Rndと、少数点以下の切り下げ演算を示す関数ceil()と対して下式で示されるバックオフ時間W(上記時間Tの整数倍となる。)を算出する(図2ステップS3)。
W=T・ceil(α・V・Rnd) ・・・(a)
【0052】
プロセッサ10P-cは、このようにして算出されたバックオフ時間Wを以下の通りに適用することにより、上位端末に対する送信(中継のための送信を含む。)の対象となる伝送情報が該当する経路の後続する区間で衝突する可能性を低く抑える。
【0053】
(1) キャリアセンス、あるいは下流端末と対向した既述の連係の下で、端末10-cの周囲に位置する他の端末による送信が行われてなく、かつ上位端末が受信可能な状況であることを確認すると、該当する異常検知情報の送信を試行する(図2ステップS4)。
【0054】
(2) その送信ができない場合には、送信を見合わせ、かつバックオフ時間Wに亘って待機した後、見合わせた送信を再試行する(図2ステップS5)。
【0055】
(3) 異常検知情報を送信した後に上位端末によって返される「ACK応答」を受領できない場合は、上記送信が見合わされた場合と同様に、バックオフ時間Wに亘って待機した後に、該当する送信を再試行する(図2ステップS6)。
【0056】
なお、通信経路上の各伝送区間における上位端末宛の送信が非同期に行われる場合には、正常に完結しなかった送信の再試行のみに先行して、バックオフ時間Wに亘る待機が行われてもよい。
【0057】
ところで、バックオフ時間Wについては、以下に列記するように、異常評価値Vの単位、係数αの値その他が用途に適した値に設定される。
【0058】
(1) T=100ms,α=1,V=5cmである場合には、バックオフ時間Wは、その最大値および最小値がそれぞれ500ms、100msとなり、100ms単位でランダムに5段階に変化する時間となる。
【0059】
(2) 自端末を含む送信先の端末に隣接する端末の数Nを含む下式(b) が既述の式(a) に代えて適用されることにより、その数Nが多いほどバックオフ時間Wが長く設定される。
W=T・ceil(α・V・N・Rnd) ・・・(b)
【0060】
(3) 該当する通信経路上に配置された端末(最も上位の端末が含まれなくてもよい。)の数Bを含む下式(c) が既述の式(a) に代えて適用されることにより、その数Bが多いほどバックオフ時間Wが長く設定され、通信経路上の上流側の輻輳の解消の促進が図られる
W=T・ceil(α・V・(B+1)・Rnd) ・・・(c)
【0061】
(4) 異常評価値Vに代えて、その異常評価値Vの最大値の平滑化(積分)によって得られた「異常評価ピークホールド値」が既述の式(a)〜(c)に適用されることにより、例えば、異常評価値Vが急激に減少した場合であっても、バックオフ時間Wが急激に短くなることが回避され、しかも、例えば、河川の増水等のように緩やかに沈静化する自然災害など、トラフィックが穏やかに推移する事象を検知する様々な用途においても、このようなバックオフ時間Wの柔軟な適応が可能となる。
【0062】
(5) 異常評価値Vに代えて、その異常評価値Vの最大値の平滑化(積分)によって得られた「異常評価ピークホールド値」が既述の式(a)〜(c)に適用されるが、図4に示すように、その最大値は、更新された時点からバックオフ時間W以上の所定時間が経過する時点、あるいは先行して設定されている異常評価値Vの最大値を超える時点まで更新が保留されることにより、所望の自然災害の発生および経過の実績に対する柔軟な適応性が確保される。
【0063】
すなわち、水位の上昇率のように、災害が発生する可能性や発生した災害の規模を示す異常評価値Vが大きいほど、システム全体の情報伝送量が既に多いか、近々多くなることが予想される可能性が高い状況では、バックオフ時間wが時間の経過と共に緩やかに減ずるように設定される。
【0064】
したがって、本実施形態によれば、プロセッサ10P-cによって行われる処理が大幅に変更されたり複雑化することなく、以下の事項の何れもが回避され、輻輳の回避と伝送効率のバランスが取られると共に、柔軟かつ最適な伝送容量が広範に分配される。
(1) 無用に長いバックオフ時間が設定されること
(2) 最適なバックオフ時間が設定されるに至るまでの無用な再送信および輻輳の発生
(3) 検知事象の急な変化が発生した場合の無用な再送信および輻輳の発生
【0065】
なお、本発明は、既述の河川水位監視システムに限定されず、例えば、水位、加速度、雨量、温度、照度等の所望の環境要素を計測するセンサーと各端末が連係する多様な計測制御系にも、同様に適用可能である。
【0066】
また、本発明は、上記環境要素の組み合わせの下で、例えば、土砂崩れ等の自然災害の発生を予測して警報を発する監視システムにも、同様に適用可能である。
【0067】
さらに、本発明は、自然現象の監視のみならず、例えば、道路の交通量やガスあるいは水道の使用量など、特定箇所の監視状況からシステム全体の伝送量の増減傾向を推測し得るシステムであれば、同様に適用可能である。
【0068】
また、本発明では、バックオフ時間Wの算出には,既述の異常評価値V、計数α、乱数Rnd、隣接する端末の数N、中継処理を行う端末の数B、ピーク値の平均値だけではなく、伝送情報として伝送される計測値の本質や実際の変化の形態に適し、かつその伝送情報の送信および中継に伴う無用な輻輳や伝送容量の増大を緩和できるならば、如何なる物理量や属性が適用されてもよい。
【0069】
さらに、本実施形態では、既述の第一ないし第三の通信経路の構成は如何なるものであってもよい。
【0070】
また、本実施形態では、このような第一ないし第三の通信経路には、バックオフ時間Wの下で既述の作用効果を奏するならば、如何なる周波数配置、変調方式、多元接続方式およびチャネル制御の方式が適用されてもよい。
【0071】
さらに、本発明は、無線伝送が行われるマルチホップ通信系に限定されず、例えば、スター状に形成された伝送系と、アドホックマルチホップ通信系との何れにも適用可能である。
【0072】
また、本発明は、所望の端末が通信ノードとして介在する通信経路がこれらの端末の間におけるアドレス通信により形成されるならば、メタリック伝送路や光伝送路上に形成された通信系にも同様に適用可能である。
【0073】
さらに、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0074】
以下、本願に開示された発明の内、「特許請求の範囲」に記載しなかった発明の構成、作用および効果を「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段」の欄の記載に準じた様式により記載する。
【0075】
[請求項6] 請求項1または請求項2に記載の通信ノードにおいて、
前記制御手段は、
前記通信経路上で前記通信ノードに隣接する通信ノードの数が大きいほど、前記時間を短く設定する
ことを特徴とする通信ノード。
【0076】
このような構成の通信ノードでは、請求項3に記載の通信ノードよりも、送信に先行して待機する時間が平均的に短くなり、他のノードよりも優先して送信できる。
【0077】
したがって、本発明は、迅速な情報の収集が要求される通信ノードに対する適用に好適である。
【0078】
[請求項7] 請求項1ないし請求項3、及び請求項6の何れか1項に記載の通信ノードにおいて、
前記制御手段は、
前記通信経路上において前記伝送情報の中継をすべき通信ノードの数が小さいほど、前記時間を短く設定する
ことを特徴とする通信ノード。
【0079】
このような構成の通信ノードでは、請求項4に記載の通信ノードよりも、送信に先行して待機する時間が平均的に短くなり、他のノードよりも優先して送信できる。
【0080】
したがって、本発明は、迅速な情報の収集が要求される通信ノードに対する適用に好適である。
【0081】
なお、本願発明にかかわる通信ノードは、例えば、優先度に応じて上記請求項6と請求項3との何れか一方に係る発明が選択されて適用され、あるいは同様に優先度に応じて請求項7と請求項4との何れか一方に係る発明が選択されて適用されることにより、優先度が高い伝送情報の迅速かつ優先的な伝送を図ることができる。
【0082】
[請求項8] 請求項5に記載の通信ノードにおいて、
前記優先度識別手段は、
前記平滑値を指数平滑法または移動平均法に基づいて得る
ことを特徴とする通信ノード。
【0083】
このような構成の通信ノードでは、請求項5に記載の通信ノードにおいて、前記優先度識別手段は、前記平滑値を指数平滑法または移動平均法に基づいて得る。
【0084】
すなわち、時系列の順に送信や中継の対象となる伝送情報には、これらの伝送情報の優先度が高くなる事象の頻度が急速に低下しあるいは増減しながら減少する場合であっても、比較的新しい伝送情報の優先度の大きな重み付けの下で、伝送容量が平均的に高く配分される。
【0085】
したがって、急を要する伝送情報が送信や中継の対象となる頻度や形態に対する柔軟な適応が可能となる。
【符号の説明】
【0086】
10 端末
10P プロセッサ
10RF 無線送受信部
10S センサー
11 河川
12 監視局舎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各伝送区間の占有帯域が全域または一部で共通である通信経路上に配置された通信ノードであって、
前記通信経路上に配置された他の通信ノード宛に送信され、または前記他の通信ノードによって中継されるべき伝送情報の優先度を識別する優先度識別手段と、
前記伝送情報の送信に先行して待機されるべき時間を前記優先度に基づいて設定する制御手段と
を備えたことを特徴とする通信ノード。
【請求項2】
請求項1に記載の通信ノードにおいて、
前記制御手段は、
前記伝送情報を得た時点または前記伝送情報の内容に応じて生成された乱数による重み付けにより前記時間を得る
ことを特徴とする通信ノード。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の通信ノードにおいて、
前記制御手段は、
前記通信経路上で前記通信ノードに隣接する通信ノードの数が少ないほど、前記時間を短く設定する
ことを特徴とする通信ノード。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の通信ノードにおいて、
前記制御手段は、
前記通信経路上において前記伝送情報の中継をすべき通信ノードの数が大きいほど、前記時間を短く設定する
ことを特徴とする通信ノード。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の通信ノードにおいて、
前記優先度識別手段は、
前記優先度を、前記伝送情報に先行して前記他の通信ノード宛に送信された伝送情報と、前記他の通信ノードによって中継された伝送情報との双方もしくは何れか一方の優先度の平滑値として識別する
ことを特徴とする通信ノード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−227864(P2012−227864A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95955(P2011−95955)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】